妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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タイムリープものって好き?


明日までの国

アミク達が奈落宮で彷徨っていた頃。

 

大会に参加しているエルザ達の方では。

 

グレイが見事にルーファスに雪辱を果たすことができた。

ウルもその様子をバッチリ見ていた。自分の教えとこれまでの記憶を糧に勝利を収めたので上機嫌だ。

 

『しかし、メモリーメイク…記憶の造形魔法か。氷だけではなく様々な属性を使えるのは強みだな』

 

正直グレイにはキツイ相手だったはずだ。それでもルーファスを倒せたのだから師匠として誇らしい。

 

『…アミク達の方は大丈夫かしら?』

 

唐突に得も知れぬ不安に襲われたウルはルーシィ達の救出に向かっているであろうアミク達に思いを馳せるのだった。

 

 

 

「あ”ー!もうやんなっちゃうの。どこもかしこも同じような景色ばかりなの」

 

「てか本当にこっちであってるのか?」

 

「『反響マップ』的には間違ってないみたいだけど」

 

「僅かに風の流れも感じますから大丈夫だと思います」

 

結局、中々教えてくれないカマをボコボコにして出口を聞きだしたアミク達は、アミクの『反響マップ』も頼りにして教えられた通りに進んでいた。

 

「そういえばロキってはどうやってここまで来たの?」

 

「飛び降りて」

 

ちなみにいつの間にかロキがいるのは、自力で召喚してきた彼がルーシィ達の鍵を取り戻しピンチだったルーシィ達を救ったからだ。

今は気を失っているアルカディオスを運んでいる最中だ。

 

「もうちょっと後先考えようか…」

 

「考えるよりもまず行動ってね」

 

「たまにはいい事言うじゃねえか!」

 

「たまには、って…」

 

ナツは考えずに行動する者の代表みたいなものだからロキの言葉が気に入ったようだった。

 

「アルカディオス様は大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫といえば大丈夫だけど…」

 

「むしろ溶岩の中で生きてた方が不思議だよ」

 

ルーシィ達の話によると、ウオスケとかあのふざけた容姿の男と交戦した時、ルーシィ達は溶岩に落ちそうになったらしい。

その時、アルカディオスが溶岩に足を踏み入れ、身を呈して彼女達を助けたというのだ。

 

「普通死ぬじゃん」

 

「彼の身に着けてる翡翠の宝石のおかげだろうね。強力な護符の役割をしている」

 

「へー宝石に魔法が掛かってるんだね」

 

アルカディオスの首には翡翠色をした宝石がペンダントの様に掛かっている。その宝石がアルカディオスの身を守ったのだろう。

まるでアルカディオスの守護石みたいだ。

 

(なんか、グレイとウルっぽいかも)

 

グレイのネックレスにもウルが宿っているのである意味守護アイテム?

 

「翡翠と言えば…あのドラゴン!翡翠竜ジルコニス」

 

「ああ、アイツな」「よく喋るドラゴンだったわよね」

 

「まさか、あのドラゴンと宝石、関係あったりしてね」

 

『翡翠』という部分では関連性があるが、それだけだ。実際どうなのかは知る由もない。

 

「確か姫の名前もヒスイ様だったと…」

 

「絶対そっちの方が関係ありそうじゃん!」

 

あれか、アルカディオスと姫は実はデキててその宝石も姫から貰ったもの…考えすぎだね。

 

「アルカンティスさんも言ってたよね。ここを出たらヒスイ姫に会え、とかエクリプスが正しいかどうか自分たちで決めるといい、とか」

 

「アルカディオスだってば」

 

「その姫様にこんな所に落とされたんだけどな!」

 

それはそうだが。

だがアルカディオスの言葉を信じるのなら、ヒスイがアミク達を罠に嵌めたのも何か考えがあってのことかもしれないのだ。

現状、あの姫様が何を考えてるのか分からない。

 

「とりあえず会ってみない事には何も分かんないよ。信号弾を送ったらこっそり姫様に会いに行ってみない?」

 

「そんな余裕があるかしら…」

 

とにかく今は進むしかあるまい。

 

考えるのは一旦外に出てからだ。

 

 

 

 

長い階段を降りて地下深くまで潜って行くことしばらく。

 

「随分下に進んだな」

 

「めっちゃ深いの…」

 

ホントにうんざりするくらい広いし深い。罪人を落とすだけではもったいない使い方だと思う。

どうせなら地下都市でも造ればいいのに。

 

「お、匂いが…」

 

前から別の匂いが漂ってきた。これは出口が近い事を意味しているのか?

 

 

「おい!アレを見ろ!」

 

リリーが前方を指差しアミク達がそちらを見ると、大きくて頑丈そうな扉が鎮座していた。

 

「扉だ!」

 

「やっと出られるー!」

 

「またしてもでっかい扉なの」

 

しかし、やけに頑丈そうだ。普通に開けるには一苦労するだろう。

 

「オレに任せろ!」

 

ナツが雄叫びを上げながら扉に向かって突っ込んでいく。

彼は拳に炎を纏った。

 

 

「ちょっと!!壊すことなくない!?」

 

「『火竜の────』」

 

アミクの制止も聞かずに魔法を放とうとするナツ。

 

扉の破壊まで一直線、と思ったその時。

 

 

 

扉が独りでに開いた。

 

「扉が開いた!?」

 

「まさか、合い言葉形式!?開けゴマとか言ったの!?」

 

あっさり開いた扉を見て拍子抜けしたナツは勢い余って転がった。

 

「待ち伏せ!?」

 

「皆、気を付けて!」

 

アミク達は警戒状態になった。このタイミングで扉が開くという事は待ち伏せされていた可能性もある。

 

扉はゆっくりと開いていき、開いた先に現れたのは───1つの人影。

 

「うわあああ~~~!!?」

 

ゴロゴロゴロと転がっていたナツはその人影の前で止まった。

そして、見上げる。

 

しばらくの間、沈黙が流れた。

 

 

その沈黙に水を差すようにナツが口を開く。

 

 

「───誰だ、お前?」

 

 

 

 

匂いが漂ってくる。

 

 

いつも嗅いでいる、優しくて温かい匂い。

 

 

そう、その匂いが何故か目の前のフードを被った謎の人物から漂ってきているのだ。

 

『彼女』と全く同じ匂いが。

 

 

「…この、匂いは…」

 

 

アミクはゆっくりと謎の人物に近付いて行った。

 

 

「貴方は…」

 

 

アミクがナツの後ろに立つと、ナツもその匂いに気付いたようだ。

ハッと目を見開いている。

 

 

目の前の人物の口から声が紡がれる。

 

 

「ナツ…アミク…」

 

 

『彼女』と完全に同じ声。

 

頬に、一筋の涙。

 

 

「ごめん…」

 

 

嗚咽と共に吐き出される謝罪。

 

 

「お前…」

 

 

何故。何故『彼女』が。

 

 

目の前に?

 

 

「力を…貸して…」

 

 

『彼女』の声が他の皆の耳にも届く。

 

「え…その声は…まさかなの…」

 

「どういうこと…?」

 

「君は…」

 

 

誰もが困惑した。全員の頭の中は疑問だらけだった。

 

ルーシィが前に進み出る。

 

「ちょっとアンタ…」

 

 

そして。

 

徐に謎の人物がフードを取った。

 

 

豊かな金髪がフードから垂れる。

 

 

「え…!?」

 

「な…!!」「嘘…!!?」

 

 

予想はしていても現実として捉えるには些か時間がかかった。

 

 

それは既視感のある感覚。

 

 

六魔将軍(オラシオンセイス)討伐の時、ジェミニを見た時のような。

 

 

エドラスで自分達そっくりの人を見た時のような。

 

 

 

今回はそれ以上の驚愕。

 

 

 

目の前にいる人物は───

 

 

 

 

「ルーシィ…!!?」

 

 

 

ルーシィ・ハートフィリアその人だったから。

 

 

 

「ルーシィが2人!?何、エドラスとか!?」

 

「いや、そんな単純な話ではなさそうだな」

 

「ジェミニ…でもなさそうなの」

 

エドラスともジェミニとも違うルーシィが、そこに居た。

 

彼女は…何者だ?

 

 

「ルーシィ、だよね…?」

 

「…」

 

ルーシィらしき人物は暗い表情で俯いた。

 

 

「貴方は…何なの?」

 

アミクが続けて質問すると、ルーシィらしき人物が口を開く。

 

「時空を超える扉、エクリプスの事はもう知ってるよね」

 

「う、うん…」

 

つい最近聞いたばかりだ。その扉を使って過去に戻り、ゼレフを討つとかなんとか。

 

「え、ってことはまさか───」

 

ここでその単語が出てくるという事は。

 

「アンタは、エクリプスを使って───」

 

「未来から来たの」

 

ルーシィらしき人物は肯定するように答えた。

 

『ええええええ!!?』

 

まさかの言葉に驚くことしかできないアミク達。

 

「時間遡行してきたルーシィってこと!?」

 

「そんな…いきなりすぎてちょっと意味が…」

 

ルーシィと同じ容姿で現れて未来から来たなんて言われても困惑するに決まっている。

実際ルーシィ本人も混乱中だ。

 

 

「お願い…助けて…」

 

 

涙を流すルーシィ───未来ルーシィは切実な声で訴えかけてきた。

 

 

「この国はもうすぐ───」

 

 

そこまで言いかけ。

 

 

未来ルーシィの体が力なく倒れた。

 

 

「ルーシィ!?」

 

「おい!」「大丈夫ですか!?」

 

 

慌てて駆け寄り、容態を見る。

幸い命に別状はなく、息をしているのが分かった。気絶しただけのようだ。

 

「…大丈夫、気を失っただけ。でも、疲労が溜まりすぎてるね」

 

よく観察すると、こっちのルーシィより線が細いように見えた。

顔色も悪く、栄養が足りなさそうだ。

 

今にもどこかに消えてしまいそうな儚さも生じている。

 

あの明るく活発なルーシィがこんなになってしまっている。

 

彼女がやってきた未来が関係しているのだろうか。

 

「どうなっているんだ一体…」

 

「わけが分からん」

 

「未来から何かを伝えに来たの?」

 

呆然と未来ルーシィを見る一行。

 

「ルーシィ…」

 

ミラが心配そうにルーシィを振り向く。

 

「なんか、気味が悪いよ。なんであたしが…」

 

不安そうなルーシィ。いきなり自分と同じ姿をした人物が目の前に現れたら怖くなるのも仕方がない。

 

「とにかく、放っておけないよ。このルーシィも一緒に連れて行こう。

 はい、ナツ運んで」

 

「ったく、わぁーったよ」

 

ナツは未来ルーシィを担ぎあげると、開いた扉に向かった。

 

まずは仲間達にルーシィ救出が成功した事を伝えねば。

そのルーシィが2人になるとは思ってなかったが。

 

 

 

扉の先の道をしばらく進むアミク一行。

 

「うーん…ぜってーおかしい」

 

「何が?」

 

難しい顔をしたナツが突然何かを言いだしたので、仕方なくアミクが対応する。

こういう時って大体ロクな事言わないんだよねぇ。

 

「こっちのルーシィって…あっちのより軽いぞ!」

 

「失礼な人だね!!?」

 

「いらないわよそんなコメント…」

 

確かに、ナツは未来ルーシィを担ぐのには大して苦労はしてなさそうだ。

未来ルーシィはロクに食事もとっていないのかもしれない。

 

「ルーシィが重いのは胸に立派なものを乗せてるからなの」

 

「マーチ、アンタも大概失礼よ!?」

 

「胸…」

 

ウェンディが薄い胸を見てどんよりした。

 

 

 

 

「えーっと…また扉?」

 

「さっきのが出口じゃなかったのかよ」

 

「何か同じ所をグルグル回ってる気がするけど」

 

「あちこちから風が入って、どこが外に繋がってるのか分からないです…」

 

「困ったね。怪我人も居るのに」

 

扉を抜けてしばらく進んだ先にまた扉があった。

ここから先もまた入り組んでそうだ。この城、どんだけ複雑なんだよ。

 

「こういう時はアミクに頼めばいいだろ?ほら頼むな!」

 

「はいはい、『反響マップ』、と…」

 

ただ、アミクのお陰でこの城の構図を把握できるのは大きな利点だった。

だが…。

 

「うえ!複雑すぎ!!えーと、こっちがこうで…あ、違う。じゃあこっちは…」

 

「何ブツブツ言ってんだ?」

 

唸っているアミクにナツが声をかけると、彼女はため息を吐いて頭を掻いた。

 

「道が複雑すぎてどの道を進めばいいのか分かんないよー!!」

 

出口自体は見つかるが、そこに至るまでの道筋が掴めないのだ。脳内で迷路を解いているようなものだから余計難しい。

 

「んだよ、使えねーな」

 

「なにおう!?」

 

「無いよりはマシよ!その脳内地図で行けるとこまで行ってみましょ」

 

「そうだな。早く行くぞ。こっちのルーシィの事も気になるしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「参ったなー」

 

「アミクの脳内地図があるのに迷子になるなんてね」

 

「面目ない…」

 

絶賛迷子中のアミク達。現在は一旦の休息のため安全そうな城の地下の一室に居る。

アルカディオスや未来ルーシィも床におろして休ませている。

 

今に至っても中々出口を見つけ出せずにいた。

いくらアミクの『反響マップ』があると言えど、親切に案内表示がされているわけでもないので道を探すのにも苦労する始末だ。

それに、怪我人もいるので無暗に兵士達と出会わないように安全なルートを選んでいるのも原因である。

 

「私もお城様の構造については詳しくなくて…」

 

「お城様…?」

 

ユキノってたまに天然ボケ入ってるよね、これ。

 

とはいえ。

 

 

「出口までは近いと思うんだけど…」

 

マップを確認してみると、かなり出口に近付いてきている。なんとかアミクの脳内地図を頼りに進んだ結果だった。

 

 

「アミクが居なきゃ、私達今頃もっと奥の方で彷徨っていたんじゃないかしら」

 

「アミクさんのお陰で此処まで来れたんです!」

 

ミラとウェンディがしょんぼりするアミクを励ますと、ナツが思考放棄したような事を言いだした。

 

「めんどくせぇから兵士の中突っ切ろうぜ」

 

「単細胞らしい発言なの」

 

「これだけ居れば何とかなるんじゃないかな?」

 

まぁ、強行突破も1つの手ではあるが…前述した通り怪我人もいる。

 

それに。

 

「私達のギルドは今、大魔闘演武で戦っている。王国主催の大会よ、王国軍に私たちの印象を悪くしちゃいけないと思うの」

 

「既に手遅れ感がビンビンするけどね」

 

餓狼騎士団とかいう色モノ処刑人達やっつけちゃったし。

 

「殺しちゃいないからセーフなの」

 

「普通にアウトでしょ。王国が抱えている処刑人よ?」

 

「それに出口を聞きだすために少し痛めつけたしな」

 

「少し…?」

 

まぁ、彼らも今頃は目を覚ましているだろう。

 

「ルーシィ、大丈夫?」

 

横たわっている未来ルーシィを浮かない表情で見ているルーシィに、アミクは声を掛けた。

 

「うん…」

 

頷きはするが、以前暗い顔。そんな彼女をロキも励ました。

 

「そんなに思い悩む事ないよ。たとえ君が2人になっても、僕は両方愛する事ができるから!」

 

「シャラップなの」

 

マーチがロキの頭にチョップした。空気を和ませようとしてくれているのかもしれないが、もうちょっと空気読もうか。

 

「う…」

 

「ルーシィ!起きた?」

 

「時をかける少女のお目覚めなの」

 

その時、未来ルーシィが目を覚ました。

 

「大丈夫?未来ルーシィ」

 

「此処は…?」

 

「どこかの倉庫かな」

 

荷物が沢山積まれているのを見て、そう推測する。

 

「まだ…城の中なのね…」

 

未来ルーシィは記憶を探るように手を顔に置いた。

 

 

「あたしの記憶だとね…奈落宮を脱出した後、皆王国軍に捕まっちゃうの。だからその前に知らせようとして急いで駆け付けてきたんだけど…」

 

運が悪かったとしか言えない、と言って未来ルーシィは俯いた。

 

「そして、あの時が来るまであたし達は牢の中に居た」

 

「あの時…?」

 

ますます辛そうに表情を歪める未来ルーシィ。『あの時』の内容を口にするのも辛そうな雰囲気だった。

 

「未来のルーシィが体験した事実…と言う訳か」

 

「何言ってんだ、あんな奴等に捕まる訳ねーだろ」

 

「そうね…さすがにやられる気がしないわ」

 

雑兵が何十人掛かってこようとアミク達は負けないだろう。ただ、それでも捕まったとするなら油断か、あるいは。

 

「うーん…また罠に嵌められたとか?」

 

「罠…ではないけど、事故と言うべきかな…」

 

未来ルーシィはため息を付いて「あたし達は逃走中にエクリプスに接近しちゃうの」と原因を説明した。

 

「そのせいで魔法が使えなくなって、全員捕地下牢に入れられるの」

 

「ちょっと待って。私が居るのにエクリプスに近付いちゃったの?」

 

アミクの『反響マップ』ならエクリプスのありそうな場所だってわかるはずなのに。

 

「王国軍に追われている最中だったから確認する暇がなかったみたい」

 

「あちゃードジったね、それ」

 

「あの…ルーシィさんはどうして未来から来たんですか?」

 

それが本題だ。何か理由があって過去に来たのだろうが、さっき言っていた『あの時』と関係があるのだろうか。

 

皆が注目する中、未来ルーシィは声もなく震えていた。悲しみと恐怖で押し潰されそうになっているかのようだった。

数秒後、未来ルーシィが重い口を開く。

 

 

「…最悪の未来を変える為」

 

「最悪の未来だぁ?」

 

最悪と言わしめる未来…。

 

「君の居た未来に、何があったの?」

 

「それは…」

 

絶望と悲嘆に染まった表情。未来ルーシィの心情を映したその顔が、未来での出来事を物語っているのか。

 

 

「この先に待つのは絶望───1万を超えるドラゴンの群れがこの国を襲ってくる」

 

 

突拍子がなく衝撃的で、青天の霹靂。

 

「街は焼かれ、城は崩壊し…多くの命が失われる」

 

未来ルーシィの口から出てきた話はそれに値するものだった。

 

「な」「ん」「じゃ」

 

「そりゃあ――――!!!」

 

「うるさーい!!」

 

「アミクも十分うるさいの」

 

余りに壮大な話にナツ達が叫びたくなるのも分かる。

だが、今は逃走中の身だ。気付かれたらどうする。

 

「1万を超えるドラゴン…」

 

「何でそんなことに…」

 

「大変だ―――!!」

 

 

深刻な顔で話しあうアミク達。

 

「もしかしてドラゴンのお墓と関係あるのかな」

 

「どうかしらね」

 

「どこから来るのかしら」

 

「発見されることもなく潜んでいるなんて可能なのか?」

 

「今までアクノロギア以外ではドラゴンを見てすらいないのに…なんで急に沢山…オーディオン達もその中に居るとか、ないよね?」

 

目撃情報すら滅多になかったのに1万ものドラゴンが現れるなど、一体どこから出没したのか。

ゴキブリじゃあるまいし。

 

「とにかくこうしちゃいられねえ!戦闘準備だ!」

 

「戦うの!?」

 

「無理があるよー!」

 

「1万はさすがに…」

 

慌てて対策を考えるアミク達を目にして、爆弾発言をした本人である未来ルーシィはポカンとしていた。

こうなる事を予想しなかったかのように。

 

 

「皆…信じてくれるの?」

 

「ウソなのか!?」

 

「違う!!けど…こんな話、誰も信じてくれないんじゃないか…って」

 

実際現実味のない話ではある。想像もできないような数のドラゴンが襲ってくるだなんて、普通は信じ難い。

しかし。

 

「何でルーシィの言葉を疑うんだよ」

 

その話を伝えたのは仲間であるルーシィなのだ。

 

「そうだよ!理由もなくこんなウソ吐かないだろうし。とりあえず、ルーシィを信じるのは当たり前だから!」

 

アミクがうんうん、と頷きながら言った。

 

 

いつものルーシィを信頼しているアミク達の目を見て未来ルーシィはやっと表情を和らげ、笑みを浮かべた。

この時代の自分ではなくとも、仲間だと思ってくれているのか、と嬉しくなる。

 

「未来の自分ながら情けない…もっと仲間を信じなさいよ」

 

「自分に説教!?でも…そうだよね」

 

よく考えてみるとジェミニやエドラス以外で2人のルーシィが会話してるのは変な感じだ。

てか、それら全部合わせるとルーシィ4人もいるのか。クローンかよ。

 

そこで何事か考え込んでいたシャルルが質問した。

 

 

「ねえ…ドラゴンが来た時、同じ城の中に居た私達はどうなったの?」

 

それを聞くと未来ルーシィは押し黙ってしまった。

 

(そっか…)

 

それで察しが付いてしまった。

 

「未来の私達は…死んじゃうんだね?」

 

「…」

 

その無言が何よりも大きな肯定だった。

 

 

 

 

今でも脳裏に焼き付いている。

 

『マーチ…マーチィ!!』

 

ピクリともしないマーチを抱きかかえ泣き叫ぶアミク。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツ、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だぁ!!』

 

火の包まれそうだった自分を助け、果敢にもドラゴンの群れに立ち向かって行ったナツ。

 

『ルーシィ…!そんな…!』

 

ルーシィの酷い怪我を見て絶句するアミク。

 

『オレは、絶対に諦めねえぞぉ!!』

 

『これ以上仲間を失ってたまるかあああああ!!』

 

無謀だなんて一目瞭然なのに諦めずに最期まで戦ったアミク達。

 

『絶対に!!ナツとルーシィを守って見せる!!』

 

『やめろおおおおお!!!』

 

ドラゴンに吹っ飛ばされて動けないナツを守るように、轟音を響かせながらドラゴンの前に立ち塞がるアミク。

 

そして───

 

『アミクゥ――――――!!!うああああああああ!!!』

 

目の前でドラゴンの鋭い爪に貫かれる、少女の身体。

その絶叫は自分のものだったのか、ナツのものだったのかは覚えていない。

 

 

次に目を覚ました時には、あっという間に親友も仲間もギルドも───全てを失った現実だけが手元に残ったのだった。

 

 

「何日経ったか覚えてない。目を覚ましたあたしは…エクリプスの事を思い出した。起動方法なんてわからなかったけど、無我夢中で扉を開けた。過去に戻れるかもしれないって信じて」

 

どれほどの想いで扉を開けたのだろう。微かな希望に縋り付いて扉に手をかけたルーシィの切実で必死な感情が目に浮かぶようだった。

 

「そしたらね…本当に過去に戻っちゃったんだ。X791年7月4日に」

 

「え…最近?」

 

今日は7月6日。たった2日前だ。

 

「エクリプスって、そんなちょっとしか過去に行けないの?」

 

「分からない…一部壊れてたからそのせいかもしれないし…」

 

つまりアミク達が初めてエクリプスのことを知った日。その日に未来からルーシィがやって来ていたのだ。

 

「街には大魔闘演武を撮影してる魔水晶(ラクリマ)がそこら中に配置されている。地下を通ってジェラール達と合流してほしいの」

 

「ジェラール?」

 

何故そこでジェラールが?

 

「彼には全部話してある。今…対策を練ってるハズだから」

 

「そうなんだ…」

 

「対策を練るって?」

 

未来ルーシィは合わす顔がないというように俯いた。

 

「ごめんね。あたしは未来から『対策』を持ってきた訳じゃない。あの事態をどうすれば回避できるか分からないの」

 

聞いた限り対策を練る時間もなかっただろうし、それにこんな事態、なんら対策が浮かばないのも仕方ないだろう。

 

しかし、責任を感じたのか未来ルーシィはますます弱気になっていった。

 

「本当…ゴメン。これじゃあたし…何の為に来たのか…今日までどうしていいかもわからずに街をウロウロしてた…」

 

信じてもらえないのではないかという不安。一刻一刻と迫る破滅のタイムリミット。焦りばかりが募り、途方に暮れていた時にジェラールと出会ったのだ。

 

流れる重苦しい沈黙。

 

その沈黙を破ったのはナツの安心するような声。

 

「いや…オレ達がなんとかする」

 

未来ルーシィが顔を上げた。

 

「うん。十分だよ、ルーシィ」

 

アミクも柔らかい笑みを浮かべると、未来ルーシィに近付く。

そして、自分のおでこを未来ルーシィのおでこにくっ付けた。

 

「ありがとう。危機を伝えに来てくれて。ルーシィのお陰で私達の未来を救えるんだ」

 

彼女がいなければ、何も知らずに同じ未来を辿っていただろう。

だが、こうして知った以上同じ未来にはさせない。

 

「ルーシィの心、ちゃんと受け取ったよ」

 

ギュッと未来ルーシィの細くなった体を抱きしめる。

こんな体になっても、アミク達を救おうと彼女はアミク達の前に現れたのだ。感謝しかない。

 

 

アミクの深い感謝の念が伝わったのか、未来ルーシィの涙が溢れ、綺麗な水筋となって流れた。

 

それを見てナツは力強く告げた。

 

「必ず未来を変えてやる」

 

ナツが言うと本当にそれが叶う、という気持ちにさせてくれる。彼の言葉にはそれだけの力があった。

 

 

(ルーシィの気持ち…絶対に無駄にしない!)

 

 

アミクは覚悟と決意と共に、未来ルーシィを抱き締める腕に力を入れたのだった。

 




実際ドラゴン1万って絶望しかないわ…。

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