妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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リオレウスにしようかと思ったけど、火竜被りになっちゃうからやめました。
ちなみにこの作品でのティガレックスは、翼と腕がくっついてないです。それぞれ独立してます。ちゃんと飛びます。




VS ティガレックス

さっき『モード天音竜』を使用したせいで大分魔力が減っていたが、大きな音はそこらじゅうで鳴っていたのでそれを食べて何とか回復できた。

目の前のドラゴンと戦う分には少々心許ないが、それは戦闘中に補給すればいい。

 

「~♪『攻撃力強歌(アリア)』『防御力強歌(アンサンブル)』『速度上昇歌(スケルツォ)』!!ついでに『治癒歌(コラール)』!!」

 

まずは付与術(エンチャント)と先ほどの怪我の治療は欠かせない。最初から強化状態でいく。

 

 

付与術(エンチャント)か…!」

 

ティガレックスが意外そうに目を見開いた。ドラゴンにとって付与術(エンチャント)を使う人間は珍しいのだろうか。

 

まずは小手調べ。

 

「『音竜の旋律』!!」

 

素早くティガレックスの顔面に近付き、右足で思いっきり蹴りを放つ。

 

「おっ」

 

ガン!とティガレックスの頭が横にブレる。中々の衝撃だったようだ。

 

「小癪なのだ!!」

 

ティガレックスはその頭を戻して、口を開けて首を伸ばしてきた。衝撃波を放って反動で後ろに跳ぶと、アミクが居た空間にガチン!と牙が合わさる。

もう少し避けるのが遅れたらアミクの柔肌が無惨に噛み千切られていただろう。

 

ちょっと冷や汗を流してアミクは再度ティガレックスに特攻する。

 

「『音竜の譚詩曲(バラード)』!!」

 

渾身の体当たりをティガレックスの脇腹に喰らわせてやった。硬い肉質の感触が振動を伴って伝わってくる。

 

「ふん!」

 

反動で跳ね返ったアミクに向かってその剛腕を振り下ろすティガレックス。咄嗟に横に避けるが、鋭い爪の付いた手が地面を抉った衝撃が強すぎて吹っ飛んでしまう。

 

「うわっ…と」

 

なんとか受け身を取って着地した。

 

流石ドラゴン。威力が半端ない。それに体も硬い。

 

 

 

しかし────。

 

 

 

 

どんなに攻撃を加えても遊びにしかならなかったあの黒いドラゴン────アクノロギアとは違う。大したダメージを与えているようには見えないが、ドラゴンと渡り合えている。

やはり、あれ程の脅威は感じない。…依然、強大すぎる敵であるには違いないが。

 

 

(力の差は歴然だけど…勝機がないわけじゃない!)

 

 

耐えて攻め続ければ、活路が開けるはず。アミクは自分に活を入れるように音を両手に纏わせた。それから、地面を蹴って真っ直ぐにティガレックスに向かう。

当然、真正面から攻撃を受ける彼ではない。今度は横薙ぎに腕を振るって迎え撃ってきた。

 

「『音竜の────』」

 

アミクも勢いよく横に跳び、建物の壁に足を付けた。そして、壁を蹴ってティガレックスに急接近する。

 

「『交声曲(カンタータ)』!!」

 

両手から極大の衝撃波を打ち込み、続けて手刀を叩き付ける。

 

「からの『音竜の斬響(スタッカート)』!!」

 

「ぬぅっ」

 

ティガレックスが少し声を漏らす。効いているのだろうか。痛い、というよりかは鬱陶しいという感じみたいだが…。

 

アミクはティガレックスに乗ったまま両手を振り上げた。

 

「もう一度…『音竜の交声曲(カンタータ)』!!」

 

「チッ…離れるのだ!!」

 

途切れない攻撃に苛立ったのかティガレックスが体を激しく動かす。振り落とされそうになったアミクは慌てて背中の出っ張りにしがみ付いて耐えた。

 

「我輩の背に乗るでない!!」

 

暴れてアミクを振り落とそうとするティガレックス。建物にぶつかり、道を抉る。

 

「どう!どうどうどうどう!!」

 

ロデオも真っ青な命がけの騎乗────馬ではないが。

 

 

「落ちるのだぁ!!」

 

「うおっと!!」

 

背中を建物に擦りつけてきた。磨り潰されないように縮こまってやり過ごす。

 

しかし、なんて頑丈な体だ。頭を建物にぶつけても平気な顔して崩壊させるばかり。

 

「オオオオオオオオ…おおっ!?」

 

しばらく耐えていたアミクだったが、ティガレックスが何かに躓いたのか、転倒したのを見て行動に移す。

 

「チャンス!!」

 

背中を蹴って跳び上がり、立とうとするティガレックスの頭部に急降下!

 

「そーれっ!!」

 

音を纏わせて、脳天に全力の踵落としを決める!

 

流石に無視できないダメージだったのか「グオッ!?」とティガレックスは声を上げた。

 

 

「くぅ、痛いではないか!!」

 

フルフルと頭を振ったティガレックスが剣呑な目つきでアミクを睨む。小娘に痛みを与えられたのが許せないらしい。

 

とにかく、一旦距離を取ろうと後退すれば。

 

「逃がすかワレェエエエ!!」

 

急に四足歩行になって猛ダッシュしてきたのだ。その筋力を活かして、両腕を振り下ろしながら物凄いスピードで迫ってくる。ブルドーザーのように突っ込んでくるその様はとても圧巻だ。

 

「ひゃあっ!!」

 

倒れ込むように緊急回避してギリギリ猛ダッシュを躱した。しかし、避けられたと見るや器用に方向転換して再び突っ込んでくる。

 

「グハハハハハッ!!無様に踊ってみろ、小娘!!」

 

建物なども巻き込んで破壊していくティガレックスは愉快気だ。避けるので精いっぱいのアミクを見るのが面白いらしい。

 

しばらく猛ダッシュしていたティガレックスはアミクの近くに来た途端、右腕を軸にして急旋回。広範囲に及んで攻撃が繰り広げられる。

 

「うがっ」

 

突然の事で反応できず、尻尾が諸に当たってしまったアミクは建物の壁に叩きつけられてしまった。建物が崩れ、アミクは瓦礫に巻き込まれてしまう。

 

「ああっ…うぅっ…!!」

 

途方もない激痛が走り、うめき声を上げるアミク。やはり、超威力。一撃喰らっただけでこの大怪我だ。防御力を上げてなかったら危なかったかもしれない。

 

「他愛もないのだ!!」

 

フン、と鼻で笑って身を屈めるティガレックス。直後、アミクに向かって跳躍してきた。

 

「う…あああああああ!!!」

 

 

痛みを我慢しながら全力で転がってその場から離れると、一寸先にティガレックスが音を立てて着地していた。危ない危ない。

ただ、やっぱり衝撃で遠くまで転がされてしまった。

 

「チッ」

 

何とか止まると、酔いそうになる脳みそを宥めて立ち上がる。砂利が体中について気持ち悪い。それに、さっきから素足だから傷だらけで滅茶苦茶痛い。

 

「やっぱ…強いよ…凄いなあ、ドラゴンは」

 

 

アミクの育ての親であるオーディオンもこのぐらい強かったのだろうか。いや、オーディオンだからこれ以上かも。

彼女は様々な知識や戦い方、魔法を教えてくれたが、アミクの前で戦う姿を見せたことはなかった。戦うような敵が現れなかったのもある。

だから、オーディオンの強さをはっきりと見たわけではないが…自分の育て親もこれ以上の強さだろう、と何となく感じた。

 

そうなると、ドラゴンが力を振るって戦っているのを直接見るのはアクノロギアを除けば初めての事になる。何とも凄まじい。

 

 

────だからと言って、怖気づいたりはしない。

 

「よし…後でオーディオンに「オーディオンが教えてくれた魔法が役に立った」って報告できるように頑張らないとね」

 

痛みは酷いが、まだ動ける。ならば戦える。

 

アミクは口を開いて歌を歌った。優しい光がアミクを包む。

 

「『持続回復歌(ヒム)』!!」

 

「…歌で付与術(エンチャント)を掛けるのか。オーディオンみたいな事をするのだな」

 

それを見てつい口にしてしまったらしいティガレックスの言葉。その中に凄く気になる名前があってアミクは思わず聞いた。

 

「オーディオンと知り合い!?」

 

「知り合い?そんな単純な関係ではないのだ!」

 

ティガレックスは腹立たしい事を思い出したかのように鼻を鳴らした。

 

「奴は我輩が人間を喰おうとしたのを邪魔した忌々しいドラゴンなのだ!!ドラゴンの癖に人間の味方をするなど、ドラゴンの風上にも置けんのだ!!」

 

昔からオーディオンは人間を食料として見てはいなかったらしい。思わぬオーディオンの過去を聞いて、アミクはこんな時ではあるがほっこりしてしまった。少し厳しい時もあったが、いつも優しく愛情を注いでくれたオーディオン。その優しさは昔から引き継いでいたようで、ちょっと嬉しい。

 

過去と言えば、ジルコニスからもオーディオンのちょっとしたエピソードを聞いていた。アレはアレで衝撃的だったのだが…。

しかし、ジルコニスもこのドラゴンもオーディオンとささやかな関わりがあったとは。意外と世間は狭いようである。

 

「思い出したらムカついてきたのだ!!さぁ、無駄話はお終いするのだ!!」

 

確かに、呑気に昔話をしている場合ではなかった。

 

「ちょうどいい!!なんかキサマはオーディオンと似た感じがするからキサマで憂さ晴らししてやるのだ!!」

 

「えーーーー!!?」

 

そういうの、「八つ当たり」と言うのではないのだろうか。

 

納得いかないものを感じていると、ティガレックスは腕を振って瓦礫を吹っ飛ばして遠距離攻撃を仕掛けてきた。

 

「美味そうな小娘め!痛めつけてからじっくり味わって食ってやるのだ!!」

 

食料にされる!?と驚いている暇もなく前転して避ける。瓦礫が地面や壁に当たって砕けた。

 

「グアアアア!!」

 

ティガレックスはそこで追撃をやめずに再び飛びかかってきた。巨体が迫ってくる迫力には息を飲むが、怯まずに体を動かしてその攻撃を避けた。

ティガレックスは地面を抉りながら着地して、頭だけをこっちに向ける。

 

「ちょこまかとすばしっこい奴のなのだ!いい加減観念して食われるのだ!」

 

「溜まるもんですか!『音竜の遁走曲(フーガ)』!!」

 

ただ避けただけではない。地面に音を仕込んでいたのだ。地面から衝撃波が起こってティガレックスの足元を巻き込む。しかし…

 

「ぬっ、小細工など効かないのだ!!」

 

けろっとして構わずに体をこちらに向けてきた。これだけ滅竜魔法を喰らわせてもピンピンしているとは。多少のダメージは与えられているようだが…。

自分が力不足なのか、このドラゴンが頑丈すぎるのか。

 

ティガレックスがまたもや「グハハハハハッ!!!」と高笑いしながら猛ダッシュしてきた。

こうなれば、仕方ない。こっちも奥の手を使わざるを得ない。

 

凶悪な顔が迫ってくるのを見据えながら、アミクは全身の魔力を昂ぶらせた。

 

「…モード天音竜!!」

 

魔力を解放する。体から風が吹き荒れた。

 

「…なんだと?」

 

ティガレックスはその様子を見て少しだけ驚いたが、大したことはあるまいと考え、猛ダッシュを止めずにそのまま突っ込む。

 

「『天音竜の…』」

 

アミクは口の中に音と風を溜め込んだ。

 

「『咆哮ォォォ』!!!」

 

向かってくるティガレックスを迎え撃つようにブレスを放つ。見事、ブレスはティガレックスの顔面に直撃した。

 

 

「グアアアアアアア!!!?」

 

流石に今までよりも大きなダメージを喰らわせたようで、ティガレックスは叫び声をあげながら猛ダッシュが中断され、踏鞴を踏む。その拍子に、ティガレックスは転倒した。

 

「やった!?」

 

さっき頭部を攻撃した時にも感じたのだが、あの痛がり具合から察するにティガレックスの頭部は肉質が他に比べて柔らかいようだ。ということは、あそこがそのまま弱点になり得る。

 

 

未来ローグの時も使ってしまったので長く「モード天音竜」でいるわけにはいかず、すぐに解除する。一瞬だけでも十分だったようだ。

これでやっとまともにダメージを与えられたのではないだろうか。この調子で…。

 

アミクが希望と闘志で顔を明るくさせる…が、目の前のドラゴンから只ならぬ雰囲気を感じて冷や汗がドッと流れ出した。

 

「────調子に、乗りおってからにぃ!!!」

 

ガバッと身を起こしたティガレックスはさっきとは様子が違っていた。

目が赤くなり、さらに頭部と両腕に赤い模様が浮かび上がっている。そこから感じ取れる彼の感情は────憤怒。

 

「人間如きが我輩をここまでコケにするとは!!もう許さんのだ!!」

 

激おこプンプン丸である。彼は血走った目でアミクを睨み、いきなり突撃してきた。

 

「グオオアアア!!!」

 

空気が唸るような音を出しながら、腕が横薙ぎに振るわれた。飛び上がって回避すると、腕は建物に直撃。崩壊させるだけでなく、バットに打たれたボールのように勢いよくぶっ飛んで行った。

攻撃力が上がっている。アレを喰らえば今のアミクでも一溜まりもないだろう。

 

今度は全身を使って襲ってくる。強力な顎の力でアミクを噛み砕こうと首を伸ばしてきた。

 

「きゃあっ!!」

 

間一髪、尻餅をつきながらもティガレックスの牙の餌食になることは防げた。

 

しかし次の瞬間、ティガレックスが口を大きく開けた。

 

「ガアアアアアアアアア!!!」

 

「いただきま…うわっ!!?」

 

衝撃波を起こすほどの大音量の咆哮。アミクにはそのような大きな音は通用しないので逆に食べてやろうとしたが、強烈な衝撃波のせいでアミクの軽い体は吹っ飛んでしまう。

 

「ぐっ…!!」

 

壁に強かに打ち付けてしまい、痛みで体が動かない。

 

 

それを隙と見たのかティガレックスは荒ぶりながら四足歩行で猛ダッシュしてきた。

 

 

「グハハハハハッ!!!これで終わりなのだぁ!!!」

 

彼は怒りながら笑うという器用なことをしながら突っ込んでくる。それを目にしてアミクは慌ててその場から離れようとした。

 

「いっ…!!」

 

しかし、足がズキンと痛み、体を動かすことができなかった。見ると、素足に窓ガラスの破片が突き刺さっている。さっき吹っ飛ばされた時に刺さってしまったらしい。

 

「さらばだ、小娘!!」

 

「あ…」

 

その隙にもあっという間に近づいてきたティガレックス。アミクが見上げた時には、ティガレックスが右腕を大きく振り上げていた所だった。

 

 

 

 

その屈強な腕に付いた鋭い爪のある手が、アミクの身体を無残に抉る────かと思われた。

 

 

 

 

 

ティガレックスの頭部の真横に現れた一つの人影。

 

「え────」

 

アミクが目を瞬いた瞬間。

 

 

「ガボォッ!!?」

 

その人物の腕が動いた、と認識した時にはティガレックスが真横にぶっ飛ばされていた。そう、あのドラゴンをぶっ飛ばしたのだ。

そして、顔面を殴られたティガレックスが「ぐおおおお…!!?」と痛みで悶えている。

 

 

「す、すご…ていうか誰!?」

 

アミクは呆然とその人影を見る。フードを被っていて顔が良く見えない。

 

「えっと…誰かは知らないけど…助けてくれてありがとうございます」

 

とりあえず、助けてくれたみたいなのでお礼を言っておく。しかし、ドラゴンを殴りとばせるとは物凄い実力者だ。もしかして滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だったり…。

 

フードの人物はジッとこちらを見ていたが、コクリと頷いた。

 

「…うん。無事でよかった」

 

「…あれ?」

 

フードの中から聴こえてきた女性の声に非常に聞き覚えがあるよーな。そういえば漂ってくるこの匂いも滅茶苦茶嗅いだことあるよーな。

というか、いつも聴いてる声で、嗅いでいる匂いでは?

 

そんな気がするのだが。

 

 

「…何だか変な感じ」

 

 

アミクが見知った感覚に目を白黒させていると、フードの女性は苦笑したようだった。

 

 

「過去の自分とこうして話してるなんて」

 

「…過去?」

 

過去の自分、と言ったか。それを聞いて思い浮かぶのは一つ────いやいや、まさか。

 

 

そんなことがあるのか?いや、2人もいたのなら3人目が居たっておかしくはないだろうが、それがよりにもよって────。

 

 

「キ、キサマァァァ!!何者なのだ!!!」

 

よろよろと起き上がったティガレックスが怒りと焦りを滲ませた声で吠えた。空気が震え、衝撃が走り抜ける。

 

その衝撃でフードの女性のフードが取れた。

 

 

「…マジ?」

 

 

フードで隠されていた顔が露わになり、目が点になる。

 

 

サファイアのように青い瞳。

 

地面に付くほど長いエメラルドグリーンのツインテール。

 

少し、女性的にはなったがいつも鏡で見ていたその顔。

 

 

 

その人物は間違いなく──────

 

 

 

「…やっほー。未来のアミク(キミ)だよ」

 

 

「────はいぃぃぃぃぃぃ!!!?」

 

 

 

未来の自分がタイムトラベラーだった件。

 

 

もし、小説にするならそういうタイトルにしよう、と頭の片隅で考えたアミクであった。

 

 




ティガレックスの動きはゲームを参考にしました。見覚えのある動きもあったのではないでしょうか。

このティガレックス、クソでかいですよ。めっちゃ強いです。

ってか未来のアミク、必要あるかな…。

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