妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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ティガレックスの猛ダッシュは昔、トラウマでした。


未来の音竜(うたひめ)

400年前からやってきたドラゴンの1人であるティガレックスと交戦していたアミク。

 

彼の強大な力の前にピンチに陥っていたが、それを救った人物が未来の自分だった。

 

 

「ギャ――――!!ドッペルゲンガーだ―――!!」

 

「なんでっ!!?」

 

動揺してトンチンカンな事を言ってしまったが、あのツッコミのキレも自分そっくりだ。

 

「ほ、本当に未来の私?」

 

「そうだって言ってるじゃん。あ…怪我してるね、────『治癒歌(コラール)』」

 

自称、未来のアミクはガラスの破片が刺さって血を流しているアミクの足に魔法を掛けた。アミクと同じ魔法。

すると、見る見るうちに傷が塞がっていく。

 

アミクは驚いた。普通、アミクが治癒魔法や付加術(エンチャント)を使おうとすると歌を歌わねばならないので少し時間がかかる。なのにこの女性は僅かに歌っている素振りはあったもの、ほぼノータイムで治癒魔法を使った。なんて魔法の使用スピードの早さ。

 

目を見開いているアミクに、未来アミクは少し大きめの靴を差し出した。

 

「はい城で盗────借りてきた靴」

 

「盗んだって言おうとしたよね!?まぁいいや、ありがとう…」

 

ちょうど靴がなくて大変だったので、助かった。ありがたく貰っておく。

アミクは靴を受け取って履きながら、ふと疑問に思う。

 

「なんで私が裸足だって知ってたの?」

 

「そりゃ、私も過去────つまり今の時間は君と同じ状態で大変な思いをしていたからだよ。同じ轍は踏ませないってね」

 

つまり、彼女は過去の自分も同じ出来事を経験していると予測していたということか。

奇しくも、彼女がアミクの未来の姿だというのが証明できてしまった。

 

「な、なんだ…?キサマら、姉妹なのか!?」

 

そっくりな顔立ちの2人のアミクを見てティガレックスが戸惑っていた。

姉妹というか、同一人物なのだが。

 

「でも、何で未来から…」

 

「それは後。今はあのドラゴンを何とかしないとね」

 

そうだ。色々事情を聞くのは後だ。とにかく、味方だという事は分かったので目の前の強大な敵を倒すことに集中しよう。

 

「自分と共闘するなんて、中々ない経験だよ」

 

「エドラスの私は戦闘力皆無だったしね」

 

未来と現代、二つの時代のアミクが並び立つ。こうして見ると、未来アミクの方が若干背が高い。

 

対するは、過去から来たドラゴン。

 

「人間が1人増えたところで、同じことなのだ!!」

 

ティガレックスが赤い目のままでアミク達を睨んだ。まだ墳怒状態らしい。

 

 

「さて、未来の私の実力がどの程度のものなのか、お手並み拝見といきますか」

 

「過去の人の癖に偉そうに」

 

2人はニヤリ、と笑い合うと同時にティガレックスに突っ込む。

 

それを見たティガレックスは獰猛な唸り声を上げながら大きく腕を振るう。2人纏めて薙ぎ払うつもりだ。

 

「左!」

 

「分かった!右!」

 

彼女達は言葉少なめで意思を伝えると、それぞれ左右に別れてその攻撃を躱す。その後は、言葉もいらずにティガレックスの懐に潜り込んだ。

 

「「『音竜の響拳』!!」」

 

そして、2人揃ってパンチ。ここまで、息ぴったり。流石は本人同士。

 

「ぐ、おおおおおおお!!?」

 

2人分の威力が合わさり、流石のティガレックスも仰け反った。

 

「『音竜の輪舞曲(ロンド)』!!」

 

アミクが両腕を振るって攻撃を仕掛ければ。

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

その直後に未来アミクもブレスを放ってティガレックスが反撃をしないようにする。

 

「それっ」

 

アミクが『音竜弾』でティガレックスを牽制し、その隙に未来アミクが強烈な蹴りを放ってティガレックスを吹っ飛ばした。

 

「ぐぬぅ…!!」

 

息の合った連携にティガレックスが攻撃する暇もない。彼も2人の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、それも片方は凄く強力であるためか苦戦を強いられているようだ。

 

(小娘2匹如きに…!!)

 

 

ティガレックスはギリッと歯を食いしばった。

 

彼にとって人間は食糧に過ぎない矮小な存在であった。未来アミクが来た時も、餌が増えただけだと思っていた。それが、こうも自分を手こずらせるとは思ってもいなかった。いや、あのダメージでは、万が一には自分が遅れを取ることも…。

 

ティガレックスは馬鹿げた考えを捨てるように首を振った。

自分は『轟竜』。衝撃波を起こすほどの咆哮が特徴である誇り高きドラゴン。多少、魔法が使えるくらいの小娘どもに負けるわけがない。負けるわけにはいかないのだ。

 

「ふざけるなぁ!!!」

 

ますます目が真っ赤になって、皮膚も燃えあがるように赤く染まる。

 

「あちゃー、おこだねありゃ」

 

「呑気だねっ!?」

 

怒ってたのはさっきからだったと思うが。それにしても未来アミクのこの余裕、自分よりも齢を重ねた貫禄みたいなのを感じる。

 

「そろそろケリを付けなきゃね」

 

「ケリって…できるの!?」

 

驚いた。ただでさえ強いドラゴンが、更に凶暴状態になっているというのに、それを倒すと言うとは。

 

「まぁ、任せなさいって!さっき、気付いたことがあるの」

 

未来アミクが簡単に説明してくれる。

 

「あんな風に怒っている状態だと、攻撃力は上昇するみたいだけど、逆に肉質が柔らかくなって防御力が下がるみたいなんだよね」

 

「そうなんだ…」

 

言われてみれば、先ほど『天音竜の咆哮』を喰らわせた時も、大分痛がっていたような気がする。

ちょっと交戦しただけでそんなことに気付くとは、未来の自分は今の自分よりも何枚も上手らしい。

 

「だから、倒すなら今がチャンスって事」

 

低くなっている防御力に大きなダメージを与えれば、ティガレックスも倒れるだろうと未来アミクは推測する。

 

「なーるほどね」

 

「でも、君にもちょっと手伝ってもらうよ」

 

「もちろん!何すればいいの?」

 

アミクが快く引き受けると、未来アミクは「少し足止めしてくれればいいだけだから」と言う。

 

「それで確実に倒せる…ハズ」

 

「そこは断定してくれないかな…」

 

ちょっと不安になる物言いだが、勝算はあるのだろう。とりあえず、自分を信じることにする。

 

 

「ちょっとだけでいいから!頑張って!!」

 

同じく、未来アミクも過去の自分を信じているのだろう。ならばそれに応えなければなるまい。

 

「何をくっちゃべっておるのだ!!」

 

ティガレックスが怒ったまま猛ダッシュしてきた。相変わらずの迫力。しかし、恐怖は無い!

 

「こっちだよっ」

 

ピョン、とジャンプして背中に飛び乗り、嫌がらせのように衝撃波を一発叩きこんでからティガレックスの後方へと逃げる。

そして、尻尾にもう一回衝撃波を放った。

 

おちょくるようなアミクの攻撃に馬鹿にされたと感じたのか、墳怒したティガレックスの意識がアミクに向く。怒ってばっかりだと血管切れるよ?

 

「『音竜の響刻(レガート)』!!」

 

ティガレックスが振り向いた瞬間に、彼の目元辺りに爪を振るった。

 

「グギャア!!」

 

目を引っ掻かれてさしものドラゴンも痛がっているようだ。

 

「こ、この…!!」

 

目を抑えながらも腕を振るうティガレックス。それを宙返りしながら躱し、両手をティガレックスの顔面に向けた。そこに、音を凝縮させる。

 

「『音竜の追複曲(カノン)』!!」

 

ティガレックスの頭に凝縮された音の塊が射出され、巨大な衝撃波を起こした。それで、ティガレックスは僅かに怯む。

 

直後。

 

 

「はい、オッケー!」

 

未来アミクの声が響いた。時間稼ぎは成功したようだ。

 

そちらを見ると、未来アミクの頭上に巨大な球状の音の塊が浮いていた。内部で反響を繰り返して増幅した音の集合体。アレは…。

 

「ぬっ!?なんなのだ、それは!?」

 

「それじゃ、ドラゴンさん。もうお寝んねの時間だよ」

 

流石のティガレックスもタダならぬ魔力にうろたえていた。あの凝縮された純度の高い魔力は危険だと本能が告げている。

 

「滅竜奥義!!」

 

そして、未来アミクは躊躇わずに魔法を発動する。

 

「『雷轟幻想曲(ファンタジア)』!!」

 

音の塊から雷のように音が降り注いだ。それはティガレックスに集中して狙い撃ちする。

 

「ギャアアアアアアアアアア!!!」

 

音がティガレックスの柔らかくなった体を貫き、ティガレックスは感電するような痛みに襲われた。久しく感じたことのない、激痛。意識が切れそうなほどのダメージ。

それを、この人間に与えられるなど。屈辱でしかない。

 

「あり得ないのだ!!こんなことがあるはずないのだ!!我輩が、人間如きに敗北するなど、あってはならないのだ!!」

 

絶叫しながらも、ドラゴンならではのタフさで耐えながら、カッと目を見開いた。彼のドラゴンとしての矜持が気絶することも、膝を突くことも許さなかった。

 

「モード天音竜」

 

そして、次に聞こえてきた声に暗くなりそうな意識がそちらを向く。

そこには、さっきみたいに全身から風を放出しているもう一方の小娘が。

 

ティガレックスを見据え、手刀を大きく振り上げている。手刀には暴風の如き風と、轟音が渦巻いていた。

 

「滅竜奥義・改!!」

 

魔力が爆発するように膨れ上がり、集まった魔力がこっちに向けられた。自分は攻撃を受けて動けない。

 

「『天空刃奏鳴曲(てんくうはソナタ)』!!!」

 

超音波振動に暴風の切れ味を増した強力無比な斬撃。巨大な斬撃がティガレックスの体全体を切り裂くように放たれ、血飛沫が舞った。

 

 

ズシャアアッ!!

 

 

 

 

「バ、カな…!!」

 

 

自身に起きた出来事が信じられないかのように、ティガレックスは呆然とした表情をして────

 

 

轟音を立てながら地に伏せた。

 

 

世界でも屈指で伝説の存在であるドラゴンのその体から力が抜ける。

 

 

「…ありゃ?」

 

アミク達はしばらく警戒していたが、ティガレックスがピクリとも動かないのを見て、アミクが首を傾げる。

 

未来アミクが滅竜奥義を放ったのでしばらく様子を見ていたが、それでも耐えきっていたのでダメ押しとばかりにアミクも奥義を使ってしまった。

咄嗟の機転だったと思うが、まさかそれで本当に倒してしまったのだろうか。

 

「えーと…ちょんちょん」

 

木の枝を拾って突っついて見る。反応なし。

 

「倒しちゃったみたいだね」

 

未来アミクも苦笑いしながら告げる。アミクがトドメを刺したのを呆れているようにも見えた。

 

「…マジか」

 

「マジです」

 

「マジでドラゴン討伐しちゃった…?ドラゴンスレイヤーしちゃったよ」

 

2人がかりとはいえ、ドラゴンを倒してしまった、らしい。でも、そんな実感も現実感も薄い。余りに仕出かしたことが壮大なせいで感覚が麻痺してしまったのだろうか。

 

「…や、やったー!!」

 

とりあえず倒した事は本当のようなので喜んだ。フワフワとした感覚のまま未来アミクとハイタッチを交わす。

 

人間でもドラゴンに太刀打ちできるという事が証明されたのだ。

 

「…ドラゴンを倒したのは私も初めてだよ」

 

「へー!武勇伝に付け加えられるじゃん!」

 

しかし、未来のアミクとやらは本当に強くなっているようだ。あのドラゴンを殴りとばしたり、瀕死に追い込んだり。ティガレックスを倒せたのも大体が未来アミクの功績で、アミクは美味しいどこ取りしただけだ。ぶっちゃけ、アミクが居なくとも1人でドラゴンを倒せたのではないかと思える。

 

「さてと、色々事情を聞きたいところだけど…」

 

アミクは周囲を見渡す。先ほど空から降ってきた卵から生まれた小型のドラゴンが好き勝手暴れている。それに他のドラゴンの匂いもあちこちから漂っていた。

 

「そんな場合じゃなさそうだね」

 

「そう…だね。この一件に決着が付いたらにしようか」

 

気にはなるが、それよりも皆と街を救う事が優先だ。

 

「他の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の所に加勢に行こう。行けるよね?」

 

「もちろん。分かれて助けに行こうか」

 

未来アミクが加勢してくれるのなら百人力だろう。ますます希望が見えてきた。

 

倒したティガレックスは一旦放置だ。目を覚ます可能性もあるが、このダメージだ。しばらくは起きないだろう。

 

「…気を付けてね。できれば他のドラゴンも早くやっつけて手伝いに行くから」

 

「うん。でも大丈夫な気がしてきた。ドラゴン倒して自信がついてきたかも!」

 

「そういうの調子乗ってるって言うんだよ」

 

胸を張るアミクに苦笑する未来アミク。その苦笑の仕方も自分とそっくりでやっぱり不思議な気分になった。

 

エドラスにもアミクはいたが、アレはほぼ別人。似て非なる者なり。だから、変な気分にはなりつつも別人として見ることができた。

しかし、目の前の女性は言わば今の自分の延長上の存在。アミクが将来なり得る姿。

 

他人事ではない。せっかくなのでちょっと観察してみた。

 

相変わらずの長さのツインテール。変わりないようで嬉しい。

 

大きな胸。今よりデカくね?

 

青い瞳も変わっておらず…いや、翳っている…?

未来アミクの瞳は、綺麗な青色ではあるが、明るくはなく少し淀んで見えた。今が夜だからだろうか。

 

そういえば、全体的な雰囲気も少し変わった気がする。ちょっと落ち着いたというか、暗いというか。

 

「…なに?」

 

「い、いや、何でもない」

 

ジッと見つめてくるアミクに未来アミクが訝しげに見てくるが、まぁ、成長したのなら色々あるだろう、と思い誤魔化した。

 

 

────貴様はアクノロギアと結託し、世界を支配しよう企んだ!仲間を裏切って自身の野望に走ったのだ!!

 

 

ふと、未来ローグの言葉が蘇る。

 

 

未来の自分がしたという悪行…罪。

 

 

もしかして、それが本当に…?

 

 

その考えを振り払うように頭を振る。そんなことしない。皆を裏切るようなこと、するはずがない…。

 

 

「じゃ、じゃあご武運を!」

 

「うーん、心配だけど…大丈夫かな」

 

未来アミクはやっぱり別行動をするのは些か不安だと感じてきたが、少しでもドラゴンを倒せる戦力は散らばった方がいいと判断する。

 

 

「…本当に気を付けてね」

 

「はいはーい、そっちこそね!」

 

そう言ってアミクはさっさと去っていった。未来の自分についてはこの件が片付いてからだ。だから、さっさと解決せねば。

 

 

 

未来アミクは影のある瞳で走っていくアミクの背を見送り、自分も背を向けた。

 

 

────自分が何でここに来たのか、教えたら彼らは軽蔑するだろうか。

 

 

そんな不安を抱えて。その時が来るのを恐れるように。

 

 

 

 

 

 

「『イエローサイクロン』!!」

 

マーチが爪を伸ばしたまま旋回すると、周りに居た小型の竜を軒並み切り裂いた。

 

 

「一丁上がりなの!!」

 

周囲の敵は一掃した所だ。見渡す限り、もう小型のドラゴンはいない。

 

 

「あーしらでも倒せる奴でよかったの。こいつらまで滅竜魔法じゃなきゃダメだったら詰みだったの」

 

「マーチ!おーい!」

 

爪に付いた破片を払ったマーチは後ろから聞こえてきた声にハッとして後ろを向く。

 

声の主はアミク。彼女が笑みを浮かべながら走ってくるのを見ると、彼女の事を心配していたマーチも無事だった、と安堵して爪を元の長さに戻した。

 

「アミク、もしかしてやっつけたの?」

 

「バッチリ!助っ人も来てくれて何とか」

 

「ドラゴンを倒したの!?それは凄いの!…助っ人?」

 

マーチが驚いた後、可愛らしくコテンと首を傾げるが、アミクは「まぁ、その話は後で」と後回しにする。

 

「マーチ、他のドラゴンを倒しにいこう。…ウェンディ達の所が良いかな」

 

おそらくあそこではウェンディ達とジルコニスが交戦中だろう。

 

アミクの提案にマーチも同意する。

 

「それが良いと思うの。ウェンディはまだ小さいし、心配なの」

 

マーチの言う通り、ウェンディは弱いわけではないが、まだ幼い。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が彼女1人なのは荷が重いはずだ。

 

「そうと決まれば、お願いね」

 

「まったく、ドラゴン倒したばかりなのに、忙しいの」

 

呆れたように言うマーチだったが、手慣れたもので翼を生やしてアミクを掴んだ。

 

「エクシード使いの荒い人なの」

 

「ごめんね、頼りにさせてもらうよ」

 

 

空を飛んでエクリプスがある方に向かうことにする。

 

 

 

(この戦い…勝てる!!)

 

 

ドラゴンを倒したことで、アミクは希望も自信も付いていた。

だから、きっとウェンディ達とも力を合わせれば他のドラゴンも倒せる。

 

 

 

 

────そう、思っていた。

 

 

 




ドラゴンっておいしいのかな…。
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