妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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もう少しでフェアリーテイルのゲーム出ますね!
結構面白そうですね。


今日を全力で生きるために

────赤い。

 

 

視界が赤い。

 

 

 

世界が赤い。

 

 

 

全てが赤い。

 

 

 

血に染まったように赤い。

 

 

 

 

────赤い空には幾千もの巨体が羽ばたいている。

 

 

 

(ドラゴン)の群れ。

 

 

この惨状を作りだした集団だ。

 

 

 

 

────赤い。

 

 

建物も。地面も。自分の肌でさえ。

 

 

 

 

世界が終ったかのよう。

 

 

 

 

「…ぅあ」

 

 

 

私はゆっくりと周りを見渡した。

 

 

 

自分の他に生きている者は…見える限りは、居ない。

 

 

 

自分の腕の中に居るマーチも動かない。

 

 

 

「…」

 

 

ゆっくりとマーチの骸を地面に横たえる。涙が枯れてしまった目を背中にある痛々しい生傷へと向ける。

 

 

「マーチ…」

 

 

ずっと自分を支えてくれていた相棒は、目を閉じて、もう何も言わない。

 

 

 

 

 

────これが、ただの残酷で惨い夢だったら良かったのに…。

 

 

 

叶わない願望。

 

 

 

これが現実だと、鋭い聴覚と嗅覚が否応なく教えてくれているのに。

 

 

 

意味のない現実逃避。

 

 

 

目を逸らしたくとも惨劇の形は視界に飛び込んでくる。

 

 

 

 

 

 

1人────1人だ。

 

 

 

孤独が心を襲う。

 

 

身体が震える。

 

 

 

────皆、居なくなった。

 

 

マーチもグレイもエルザもウェンディもシャルルもガジルもジュビアもリリーもマカロフも。

 

 

他のギルドの人達も。

 

 

皆…居なくなった。

 

 

 

 

皆────

 

 

 

「1人に…しないで…!!」

 

 

 

とうとう、心が崩壊しそうになったその時。

 

 

 

「アミク…」

 

 

 

声が1つ、響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「『咆哮』ォ!!」

 

アミクの口から放たれたブレスはジルコニスの胸に直撃して押し込んでいく。

 

 

「ぶはっ!」

 

回復が十分じゃなかったのか、よろめいて尻餅を付いてしまった。

 

「あたた、まだ本調子じゃないね…」

 

「アミクさん、まだ無理はしないでください!」

 

心配したウェンディが近寄って来る。

 

ラクサスはジルコニスを見据えたままチラリ、と視線だけをこちらに寄こした。警戒を解かずにいてくれて助かる。

 

「やっぱタフだなぁ…滅竜奥義連発すればワンチャンある?」

 

「またそんな無茶な事言うんですか…」

 

「嘘、嘘。さすがに魔力もヤバいし」

 

半分本気だったが、ウェンディの顔が怒り顔になりそうだったので誤魔化した。

 

 

しかし、実際問題ジルコニスには攻撃はあまり通らないし、かと言ってさっきのような大技を出しまくっても身が持たない。

 

 

それに、問題はこちらだけではない。ルーシィ達の方の(エクリプス)の破壊も難航してる様子だった。

 

 

「一体何でできてるのこの扉―――!!固すぎなの!」

 

「くっ、これでは剣の方が折れてしまいそうだ」

 

 

ドラゴンも扉もビクともしない。どちらも有効な手立てが思い浮かばず、焦燥感が募ってきている。

 

「もうこれ以上は…限界…!!」

 

ルーシィ達の強大な星霊魔法でも罅一つ付かない扉を前に、ルーシィ達もほとんど限界だった。

 

「なんて頑丈な扉なの…」

 

「もうこの扉にドラゴンぶつけた方が良い気がしてきたの!」

 

ままならない現状にマーチが冗談交じりに不満を零す。

 

このまま、皆力尽きてしまうのも時間の問題────かと思われたが。

 

 

 

まず、アミクが気付いた。

 

 

空の方から聞こえる、何かが近付いてくる音。

 

 

「…なーんか、いやーな予感がビンビンする…」

 

直感というか、経験上というか。アミクが引き攣った笑みを浮かべながら、恐る恐る音がする方を向くと。

 

 

 

 

そこには、太陽のようにらんらんと燃える巨大な炎があった。

 

 

 

 

 

少し前。

 

 

「お前の希望は過去を絶望に変える事なのかァ!!」

 

ナツと未来ローグの激しい攻撃が続いていた。そこで、ナツの言葉が大きく響く。

 

 

「全ての人々が平等に幸せになどなれんのだ!!大人になれ、ナツ・ドラグニル!!」

 

未来ローグも負けじと言い返す。それぞれの信念と野望がぶつかり合う。

 

「あの女のように、消さねばならない輩も居る!!望む未来を作るためには犠牲は避けられない!!」

 

アミクの事を言っているとすぐに分かった。だが、ナツはそんなものに耳を貸さない。

雄叫びを上げながら、未来ローグに向かって突撃していく。

 

 

「マザーグレア!!」

 

「うおっ!?」

 

 

だが、足場にしていたマザーグレアが急に傾いたため、ナツはバランスを崩して落下した。

すかさずアトラスフレイムがナツを受け止める。

 

 

しかし、その隙を狙ったのか、マザーグレアの顔がこちらを向き、口に光が収束していく。さっき放ったブレスを撃つつもりだ。

 

さすがにまずい、とアトラスフレイムは急いで態勢を整えるが、その時にはブレスが放たれる直前だった。

 

「やべ、避けろオッチャン!!」

 

「地に堕ちろ、ナツ・ドラグニルゥ!!」

 

未来ローグの口が大きく歪んだ。

 

 

その直後。

 

 

「グオオオ!!?」

 

マザーグレアの口から出たのはブレスではなく苦悶の声だった。ブレスは暴発したのか口許で爆発している。

 

マザーグレアがお腹に衝撃を受けたように体を丸める。未来ローグは突然の出来事に困惑し、痛みに震えるマザーグレアから振り落とされないよう、踏ん張っていた。

 

「な、なんだ!!何が起こった!?」

 

焦る未来ローグが下の方を見ると、ちょうどマザーグレアのお腹があった空間に誰かが居るのが見えた。あの人物が、マザーグレアの腹部に攻撃を与えたようだ。それも、ドラゴンが悶絶するほどの威力を。

 

あの緑髪のツインテールの女性は…。まさか。

 

 

「アミク!!…未来の方の!」

 

「アミク・ミュージオン…!!」

 

ナツは嬉しげに、未来ローグは歯軋りをしながら乱入者────未来アミクを見た。

 

 

「どーもー、久しぶり。ちょっとそのドラゴン、沈めさせてもらうね?」

 

にこやかに笑っていた未来アミクが次の瞬間、消えた。

 

「!?」

 

慌てて未来アミクを探す未来ローグ。

 

「『音竜の───』」

 

しかし、声は頭上から聞こえてきた。

 

 

「『交声曲(カンタータ)』!!」

 

気付いた時には既に遅く。

 

上から降ってきた未来アミクの両手がマザーグレアの背中に叩きつけられ、尋常じゃない衝撃波を生む。

 

「ギャアアアアアアアアア!!!」

 

悲鳴を上げて落下するマザーグレア。そして、未来ローグは堕ちていくドラゴンから振り落とされ、宙に投げ出された。

 

「バカな!?ドラゴンを一撃で…」

 

呆然と目を見開く未来ローグ。それを確認して、未来アミクはナツに呼びかけた。

 

 

「ナツ!後は思いっきりやっちゃえ!!」

 

まさかの未来アミクの援護で未来ローグに大きな隙ができた。つまり、好機!

 

「サンキュ!任せろ!」

 

こんな風に自分を助けてくれるところは今も未来も変わらない。ナツはそれが無性に嬉しかった。

 

「助かったぞ娘よ…ナツ!!」

 

アトラスフレイムがナツを掴んだ。そして、思いっきり振りかぶる。

 

 

「オレ達は自分で選んだ未来を進んで行く!!お前の選んだ未来じゃねえ!!」

 

誰かに敷かれたレールをただ突っ走るなんてごめんだ。自分達のレールは自分達で作る。

 

「明日なんて分からなくていい!!」

 

分かり切っている明日なんて面白くないだろう?

 

 

アトラスフレイムの腕が振り下ろされ、ナツが思いっきり投げられる。

 

 

アトラスフレイムの獄炎がナツを包み込む。轟々と燃え盛る、竜の炎。

 

 

ナツは炎と一体化し、まさに火の玉となる。

 

 

空中にいる未来ローグに向かって一直線。彼は宙に居るため、影に潜って逃げることもできない。

 

 

 

 

直撃。

 

 

炎の塊が、未来ローグを燃やす。

 

 

 

「今日を全力で生きる為に!!」

 

未来が未知だからこそ、自分達は「今」を精一杯生きていく。

悔いの残らないように、一瞬一瞬を大事に生きるのだ。

 

それが、自分達の望んだ未来へと繋いでくれると信じている。

 

 

 

その想いが燃料になったのか、纏う炎が更に大きく、熱くなっていく。

 

未来ローグの野望をも燃やし尽くすように。

 

 

「ぐ、ううううぅぅぅ!!!」

 

あまりの熱さと激痛に今まで大したダメージを負って来なかった未来ローグも、苦悶の声を漏らした。

 

「うおおおおおっ!!!」

 

勢いは止まらず。

 

大きな推進力を得たナツは1つの隕石のように未来ローグを遠くへ遠くへと運んでいった。

 

その向かう先は────

 

 

 

 

「離れて!! 皆、扉から離れて!!」

 

「緊急退避なの―――!!」

 

アミク達が居る、(エクリプス)の前の広場。

 

「なんか火炎ボールみたいなの来た――――!!」

 

アミクは唖然としながらでっかい炎の塊が降って来るのを見つめる。

なんだあの尋常じゃない炎。本当に隕石が降ってきているみたいだ。

 

 

呑気に見ている間にも、炎の塊はどんどん近づいてきて、広場にいるルーシィやマーチ達は大急ぎで退避。

幸いアミクは離れているので大丈夫だとは思うが…念のため少し下がる。

 

着地点…広場の(エクリプス)手前辺りと予想。

 

 

 

ゆっくりと流れる時間の中。それは着弾する。

 

 

 

ドゴオオオオオオオオオオン!!!

 

 

 

 

「わああ!!?」

 

「きゃああ!!?」

 

 

類稀なる大爆発。衝撃がアミク達の方まで押し寄せ、吹き飛ばされないように耐えるので精いっぱいだ。

あ、『音』いただきまーす。

 

 

ウェンディやラクサス、果てはジルコニスまでも「何事か」と一時休戦して爆発のあった場所を見る。

 

衝撃はしばらく続いた。本当に隕石が落下したみたいな威力。あんなもの間近で喰らったら…。

 

 

「ルーシィ!!皆!!」

 

 

なんとか衝撃も収まった頃、アミクは近くに居たであろうルーシィ達を心配して呼び掛けた。

 

 

「ぐっ…」

 

「ううん…」

 

 

吹き飛ばされたり床にしがみついたりしてボロボロなようだが、何とか無事なようだ。

 

 

しかし、一体誰がこんなことを…。

 

 

まぁ、予想は付くが。こんな無茶苦茶な事やる人物なんて、アミクが知ってる中じゃ限られる。

 

というか真っ先に思い付くのは1人しか居ない。

 

つまり────

 

 

 

「ナツ!!」

 

 

土煙が晴れると、広場にはドでかいクレーターが現れ、その中心に居るのはナツと白目を剥いている未来ローグ。

 

これの意味することは…

 

 

「ナツ!勝ったんだね!」

 

こんなとんでないことを仕出かして勝つとは、ナツらしい。

アミクが喜ぶが、ナツは荒い息を吐いて未来ローグを見据えたままだ。さすがに疲労が溜まっているらしい。

 

 

ともかく、黒幕は倒した。周りの人達の間にも安堵と喜びの空気が流れる。

 

だが。

 

 

「まだ終わっていないぞ!!扉はまだ破壊されてない!!」

 

 

アルカディオスの一喝に皆ハッと緊張を取り戻した。

 

そうだ。黒幕を倒しても、根本をどうにかしなければ意味がない。

 

 

しかし、あらゆる手は尽くしたはず。このやたら頑丈な扉をどうやって壊すか…。

 

 

 

「────この扉を、壊せばいいんだね?」

 

 

足音も立てずにその場に現れ、声を発した人物。

 

 

妙に響くその声に、皆がそちらを向く。

 

 

声の正体は未来アミクだった。

 

 

「え…!?アミク…!?」

 

「どいうことなの!?」

 

 

混乱するルーシィ達。アミクと瓜二つの顔をした女性が現れたのだ。一瞬理解が追いつかなくなるのも仕方ない。

 

しかし、そこは王女。ヒスイがすぐに気付いた。

 

 

「まさか…また別の未来人!?」

 

 

さっき自分で言ったばかりではないか。未来人が3人目4人目が居たとしても驚かないと。目の前の女性はそれに当たる人物だと、ヒスイは思い至った。

 

「当たりー。皆久しぶりだね」

 

「アンタ…未来のアミク…?」

 

あっけからんと言う未来アミクをルーシィがマジマジと見つめる。そして、現在のアミクの方を見て2人を見比べ、納得したように「確かにちょっと成長してる…」と言った。

 

おい、特に胸の部分見てなかったか?

 

 

「なぜ、アミク様まで…アミク様も未来を救いに来たのですか?」

 

「んーそんなところ?この時間に来るとは思わなかったけど」

 

未来アミクは曖昧に話を濁す。

 

…そういえば、彼女。他のドラゴンを倒しにいくとか言ってなかったか。それはどうなったのだろうか。

 

そんなアミクの疑問を余所に、話は進んでいく。

 

「それよりも、話は分かったよ。この扉────エクリプスを壊せば、未来の改変が行われてこのローグもドラゴン達も居なくなるんだよね?」

 

「そ、そのはずだけど…」

 

「よし!分かった、任せて!!」

 

未来アミクは腕まくりをしてそう告げた。ルーシィは驚いて思わず聞く。

 

「壊せるの?」

 

「壊せると思うよ。無駄に頑丈みたいだけど今の私の前じゃ…」

 

「ま、待て…」

 

その時、倒れている未来ローグが声を発した。

 

ナツもルーシィ達も身構えて警戒する。

カッと血走った目を見開いて荒く息を吐くその姿は執念を感じさせる。

 

「まだ意識あったのかよ」

 

未来ローグはナツの言葉は無視して未来アミクに呼びかけた。

 

「貴様も…未来を変える為に過去に来たのだろう…!!ならば、その扉を壊してもいいのか!?消えるのは貴様もなんだぞ…!!」

 

一応、話は聞いていたらしい。扉を壊されれば、自分達は消えるということも理解している。

だから、なんとしても壊させないように必死に未来アミクを説得する。

 

「このままでは貴様の望む未来にはなり得ん!!オレの力がなければ、世界はまた支配される!!未来は救われないのだ!!」

 

「…」

 

未来ローグの言葉に何か思うところがあるのか、黙ってしまう未来アミク。それを付け入る隙があると見たのか、未来アミクを引き込もうと更に言葉を畳みかけた。

 

「オレと手を組めば、貴様にも支配者の恩恵を与えてやる。それが貴様の望みだろう!?だから馬鹿な真似は…」

 

「何か勘違いしてるみたいだけど」

 

くどくどと話し続ける未来ローグの話を未来アミクは一蹴した。

 

「私が望んでるのはそんな未来じゃない。私の思い描いている未来は────」

 

 

 

 

「…とんでもねぇ奴だな」

 

ガジルが苦い顔をしている。彼はつい先ほどまでドラゴンと激しい戦いを繰り広げていたが…勝敗は決したようだ。

 

「まさかこんなあっさりやっちまうとはな」

 

しかし、ガジルの顔に浮かんでいるのは喜びではなかった。

 

 

 

 

一方で別の場所では元・六魔将軍(オラシオンセイス)のコブラ────もとい、エリックも面白くなさそうな表情で岩の上に座っている。

彼はこの事態を打破するために、評議員であるドランバルトによって連れて来られた助っ人だ。彼も滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)だからだ。

 

 

だが、ドラゴンとの戦いを終えたらしい彼も気分がよろしくないらしい。

 

「気にくわねぇ。逆に助けられちまった」

 

その言葉は先ほど加勢してくれた人物に向けられているようだった。

 

 

 

 

 

そして、スティングとローグも悔しそうに拳を握っていた。

 

「オレ達…あの人にはまだまだ及ばないな」

 

「ああ…追い抜くには気が遠くなりそうだ」

 

自分達の力不足を嘆くスティング達。

 

 

 

 

それぞれドラゴンと戦っていた彼ら。

 

そんな彼らの目の前には巨体を地に沈めたボロボロのドラゴンがいた。

 

 

 

さらに、別の場所には未来ローグが乗っていたマザーグレアが横たわっている。

 

 

つまり、アトラスフレイムとジルコニス以外のドラゴン達が倒されたということだ。

 

 

それを成したのは────

 

 

 

 

 

「────私が思い描いている未来は、昔みたいに皆と一緒に居られる未来。そんな単純なこと、だよ」

 

たった1人の女性だった。

 

 




この話が終わったらまたオリジナルの話も考えてるんだけど…書けるかな?

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