いよいよフェアリーテイルのゲームも発売しました!興味のある方はぜひ!
────これは、とある者達の末路。複数ある世界線の一つ。
「ルーシィ!」
アミクは呆然としているルーシィに駆け寄った。
ドラゴンが飛び交い、崩壊の痕が目いっぱいに広がる中でようやく見つけた希望。
生きてた。ルーシィが生きてた。
「ああ、良かった…っ!!?」
しかし、彼女に近付いてその姿を見た時、声を失った。
傷だらけの体に、さらに目を引く怪我。いや、怪我どころでは済まない。
右腕が消失していたのだ。
「ルーシィ…!そんな…!?」
血がぼたぼたと垂れ、痛々しい傷跡を曝け出してしまっている。
だが、今なら失くなった腕を急いで取り付ければ元に戻せるかもしれない。
しかし、周りにはルーシィの腕らしきものは見つからず、目の前の憔悴したルーシィを放っておくことなどできなかった。
「アミク…」
ルーシィは涙を溜めた目でこちらを見る。
「みんなは…みんなは、どうなったの…?」
…その問いに答えられる勇気は、アミクには無かった。いや、答える必要もなかったかもしれない。
ルーシィはすでに答えを知っていたから。
「ギャオオオオオ!!!」
悲観に打ちひしがれるアミク達にドラゴンが牙を剥く。
ドラゴンの口から炎の塊が射出された。
「いけない…!『音竜壁』!!」
アミクはルーシィを守ろうと音の壁を張る。
しかし、防ぎ切れるか…。
その心配はご無用だった。
火球がアミク達を包み込む。
しかし、その炎がある一点に収束していった。
一人の男の口。炎はそこに吸い込まれていっている。彼は炎を全て吸い込むと、口元を拭った。
「待たせたな、ルーシィ、アミク」
ナツだ。彼も生きてた。
「ナツ…!」
「この野郎…オイテメェら!調子に乗ってんじゃねえぞ!」
ナツはドラゴン達に向けて釣りあがった目を向けた。
「オレは
ドラゴン達に向かって「オレならお前達を倒せるぞ」と言うように、自分の名を告げる。
それに反応したのか、あるいはただ虫けらを払うくらいの意識だったのか、ドラゴン達が口を開けて襲ってきた。
「うおおおおおおお!!!」
ナツは単身ドラゴンの群れに突っ込んでいく。ドラゴン達に滅茶苦茶に攻撃するナツ。
滅竜魔法によって多少は効いてるようだが、多勢に無勢。どう見ても、この数のドラゴンにナツが敵うはずもない。
「ナツ!いくらなんでも無茶だよ!」
アミクが叫ぶと、ナツも叫び返した。
「そんなことはねえ!まだだ!!」
「もう…無理だよ!!」
ルーシィは涙を流して、現実に諦めてしまっていた。
この絶望しかない現状。仲間も死んで、どこを見ても『危険』しかない。もう、抗っても意味がない…。
アミクも、ルーシィと同じように絶望に心が囚われそうになっていた。
「ぐあっ!!」
ナツが吹き飛ばされて、地面に叩きつけられた。
「ああっ!!」
アミクが悲痛な声を上げるが、ナツはしぶとく起き上がった。その瞳は、未だらんらんと燃えている。
「ぜってー…諦めねぇ…!」
諦めが悪いのがナツの長所。その長所がいかんなく発揮されていた。
「逃げたりはしねえ。後戻りもしねえ」
ゴオオ!!とナツの腕に炎が宿った。
「まだ!!終わってねええええ!!」
そして、迫りくるドラゴンに全力で向かって行く。死に向かって行くのと同義のようなものなのに。彼は最後の最後まで戦おうとしていた。
「…ナツが諦めないって言うなら…」
アミクは立ち上がってナツの姿を瞳に納める。そして、ビュン!と駆けだした。
「アミクっ…!」
手を伸ばしてくるルーシィに心が痛むが、それを抑えてナツを襲うドラゴンに向かって一直線。
「私も、最後まで付き合うよ!」
どっちにしろ逃げられないのだ。だったら最後まで抗ってやる。
大口を開けるドラゴンの頭上から思いっきり口を蹴ってガチン!と噛み合わせた。
「…ヘヘッ、サンキュー!」
ナツはそんな彼女の姿を見て不敵な笑みを浮かべる。
「これ以上仲間を失ってたまるかあああああ!!」
アミクは昂ぶる感情のまま魔法を連発。ルーシィの方も気にしながらもナツと連携していく。
「『音竜の咆哮』!!」
口からブレスを噴射して飛び上がる。そこから追撃。
「『音竜の
ドラゴンの背中に強烈な一撃をかました。ドラゴンは「グオオ!?」と痛がっているような声を上げる。
このまま諦めずに粘っていれば、きっと活路が見出せるはず…。
その時。
「があっ!!?」
ナツがドラゴンの体当たりをモロに喰らってしまい、大きくぶっ飛ばされてしまった。
「ナツー!!」
慌ててナツの元に向かおうとするが、そのナツにトドメを刺さんとするドラゴンが突っ込んでいくのが見えた。
(…ナツ!!)
全力で地面を蹴る。すぐにナツの元に辿り着き、彼の前に立ち塞がって向かってくるドラゴンを睨みつけた。
「絶対に!!ナツとルーシィを守ってみせる!!」
もう、彼らまで失いたくない。
大量の魔力を纏って拳を振り上げる。
最後まで、彼らを守るのだ。自分にできる限りのことを全力でやる。
「はああああああああああ!!!」
アミクが飛び出すと同時にドラゴンの鋭い爪も誇示するかのように光を放った。
拳が前に突き出される。
しかし、大きな凶器────ドラゴンの爪も、アミクに迫っていた。避けられない。
「やめろおおおおおおおおおおお!!!」
ナツが叫ぶ。
それを視界に収めながらも、アミクには恐怖はなかった。
なぜだろうか。
この状況で恐怖すら麻痺してしまったのか…仲間がいるからか。
────あるいは、すでに死を受け入れていたからかもしれなかった。
走馬灯のようにそんなことを考え────
体に異物が刺さった感触がした。
暗くなる視界。
体から噴き出す何か。
誰かの絶叫。
その誰かにごめん、と言いたかった。でもできなかった。
「終わりだ」という感覚があった。
────あれ…?この感覚、初めてじゃない…?────
ふと、そんな考えが浮かぶ。なぜか、この状況にデジャブのようなものを感じていた。
────前にも…ずっと昔にも、非常に酷似した体験をしたことある気がする…。
────まぁ、今となってはもういいかな…。
最後に仲間たちの姿が浮かんで、アミク・ミュージオンの意識も闇に溶けた。
────そして、ナツもアミクの後を追うように命を落とし、生き残ったルーシィがエクリプスで過去へと飛んだのはもう少し後の話だ。
●
誰もいない城。
その中で寂しく倒れている一人の少女の遺体。
未来から来たルーシィ・ハートフィリアのものだ。
突如、その身体が光を放った。
エクリプスが破壊されたことにより、未来の存在である未来ルーシィの遺体もあるべき時間へと戻ろうとしているのだ。
だんだんと光が未来ルーシィを包み込む。
それは彼女を光の粒子と化し、光の粒子は天に昇るように空中へと溶けていく。
そうして、未来ルーシィの痕跡は文字通り跡形もなくなってしまった。
そして、その場は静寂に包まれた。
ルーシィは目を覚ます。
背中にはふさふさとした感触がある。そして見上げる視界には白い雲と青い空。
何かの花びらのようなものが宙を舞っていて、どこか現実味がなかった。
「ここは…?」
辺りを見回してみると、見えるのは黄金。
金色の草、というべきか。そのような不思議な植物が果てしなく広がっていた。
まさに黄金の草原。
「あ…」
ルーシィは失っていたはずの自分の右腕が戻っていることに気付く。
右手にあるギルドマークを確認すると、安心したように微笑んだ。大事な、思い出のものを取り戻せた喜びの笑みだ。
ここはどこだろう…。
改めてルーシィは立ち上がって少し歩いてみた。
知らない場所のはずなのにどうしてか全く不安に感じない。本当に不思議な場所だ。
「おーい、ルーシィ!!」
ルーシィを呼び止める声。
「こっちだよー!」
とても懐かしく感じる声。
ルーシィはゆっくりと声のする方に振り向いた。
「早く来てよー!」
誰かが手招きしている。
少年と少女。そして宙に浮いているもう2つの生き物。さらに、その後ろにも沢山の影。彼らの姿は光のせいでよく見えない。
でも、誰であるかはすでに分かっていた。
「みんなも一緒だよ!」
「人を待たせるななの!」
そう、彼らは大切な────。
少年と少女がルーシィに走り寄ってきた。
…ナツとアミクだ。
過去に居た彼らではない。未来で死んでしまった2人だ。
涙が溢れる。
「ほら」
アミクが手を差し伸べてくる。傷一つない綺麗な手だ。
ナツは二カッと笑った。
「さぁ、冒険の続きだ!」
「私達の冒険はまだ終わらないんだから!」
「最終回みたいなセリフなの」
「マーチ、余計なことは言わない方がいいよ…」
飛んできたマーチとハッピーもいつものように話している。
そうだ。
これが自分が求めていたもの。
この手を取れば自分は彼らとまた一緒に居れる。
「あ…」
だが、一歩の足を踏み出せなかった。
これは、自分の都合の良い夢なのではないか?
本当は目の前のアミク達なんか存在せず、孤独のままなのではないか?
実際は非情で辛い現実が待ち構えているのではないか?
そのような不安が湧き上がり、恐怖で体を動かせない。
「恐れることはないよ」
心を安らかにさせるような声が背後から聴こえてきて、ポンと背中を押された。
「え…?」
後ろを振り返ると、そこには黒いフードを被った人物が立っていた。
しかし、先ほどの声とフードから覗く緑色のツインテールで、その正体が分かってしまう。
「アミク───?」
「君の居場所はそこ。君の仲間がいる所が、君のいるべき場所だよ」
フードの人物────未来のアミクはフードを取ると優しい瞳でルーシィを見つめた。
「そうだよ。だから…おいで?」
今度は手を差し伸べていたアミクがそう言った。ずっと伸ばしたまま、待ってくれている。
ルーシィは未来アミクをもう一度だけ見て、自分の仲間がいる方を向いた。
自分の居場所を。
「────うん!」
涙が頬を伝って黄金の草原に落ちた。
ルーシィは右手をアミクの手に乗せた。アミクはギュッとその手を掴む。
「行くぞー!」
「わっ、ちょっとナツ!」
そしてナツはアミクのもう片方の手を掴んで走り出した。
釣られてアミクとルーシィも走り出す。
走る3人の周りをマーチとハッピーが飛びまわった。
新しい冒険の門出を祝福するかのように。
彼らの冒険はこれからも、ずっとずっと続いていくのだろう。
「彼らの旅路が、幸せなものでありますように」
1人残された未来アミクは遠くなっていく彼らの後ろ姿を見つめ、願うように呟いた。
そして、ふっとその場から消えた。
彼女は彼女の時間へと、帰るために。
●
「…」
────戻ってきた。
過去から戻ってきたアミクは直感的にそう考えた。
自分は今、城の地下にあるエクリプスの前に立っている。
お城の警備網を抜けてここまできたので周りには人はいない。
「…帰って来ちゃったのか」
アミクはフゥ、とため息を吐いた。
時間はどれくらい経ったのだろう。結構な時間過去に居たが、この世界では時間の流れはどうなっているのだろうか。
少し不安になりながら、こっそりと外に出た。
もうちょっと警備ちゃんとしたほうがいいと思うよ…。
「…1分も経ってない」
なるほど。過去に行ってすぐの時間に戻ってきたようだ。
よかった。変に時間が経っていたらどうなっていたか…。
「ここにいたか」
聞きなれた男の声にビクッと肩を震わせる。
「…やあ」
「どこに行ってた?妙な魔力の反応がしたから来てみたが…」
男の鋭い眼光がアミクの瞳を貫く。
それに対し、アミクは疲れたような笑みを浮かべて答えた。
「ちょっとだけ気になるものがあったから見てきただけだよ。大したことはしてない」
「…そうか」
何もかも、見透かされそうな目。アミクはそっと目を逸らす。
だが、彼はそれ以上は追及してこなかった。代わりに背を向けて歩き出す。
「気はもう済んだか?行くぞ。お前の頼みだからわざわざ人間の首都になぞ寄ったのだ」
「うん、ありがと…『ハーくん』」
アミクは男の愛称を呼んで彼の後を追う。
「次の目的地は霊峰ゾニアだ。そこでドラゴンの目撃情報がある。痕跡が残ってるかもしれん」
歩きながら説明する男。しかし、自分が速く歩きすぎていると気付いたのか速度を緩めてチラリ、とこちらを気遣ってくれた。
…こういう所もあるから、突っぱねきれない。
「分かった…貴方の目的を手伝うのが
アミクの言葉に、彼は少しだけ鋭い目つきを寂しそうに緩めた。そしてすぐに前を向く。
彼に付いて行きながらアミクは遠く────昔、自分がいたギルドの方向を見る。
仲間達は元気にしているだろうか。
自分がいなくてもちゃんとやっていけてるのだろうか…。
その現状は甘んじて受け入れなければならない。
それが私の選択の責任だから。
だけど────
(まだ、私の未来は終わったわけじゃない)
絶望的で取り返しの付かない未来ではない。
過去に行ってきて、改めて考えるとそう思えるようになった。
仲間はまだ生きている。自分も生きている。
それに…あの時の、別れる直前の『彼』の言葉もあったのに。
『
泣きながらも豪語してくれた彼。
何で忘れてたんだろう。
希望は、まだまだあったのに。
勝手に悲観して過去に逃げていた。
────未来なんて、まだ分からない。
これから、どうなるかなんて誰も知らない。
それでも、希望を諦めない限りは────
今日を全力で生きていける。
「…久しぶりに、本当の笑顔を見たな」
「え?」
いつの間にアミクの顔を見ていた男の言葉で、自分が心から笑っていたことに気付く。
過去でならともかく、この未来でそんな笑みをすることができるとは。
「ふふ、ちょっと気分がいいんだ」
「…それはよかった」
男も珍しく頬を緩めた。
────いつか、この男とも再び対峙せねばならないだろう。
少し心が痛む。だが、アミクの望む未来のためには避けては通れない。
…皆が幸せになれる未来にするためには、これからも多大な苦しみが待っているだろう。
だから、願う。
────自分達の未来に幸があらんことを。
●
────そして、現代。
ルーシィが手に持っていた手帳────未来ルーシィの手帳が光の粒子となって消えた。
彼女の目から涙が流れ落ちる。
「涙…?」
彼女は不思議そうに自分の頬を触った。
なぜだろう。訳は分からないが、心が満たされる気がする。
「ルーシィ、どうしたの?」
アミクが聞くと、ルーシィは首を振ってそっとナツに抱きついた。
「…なんとなく」
ぎゅ、と力いっぱい抱きしめる。
自分の気持ちを体全体で伝えるかのように。
「ありがとう」
アミクには、その言葉が目の前のルーシィだけではない…未来ルーシィもそう言っているかのように聞こえた。
彼女が約束を果たしてくれた感謝を、伝えてくれているような。
(…約束、守れた)
アミクも何だか泣きたくなって空を見上げた。
丸い満月。
それがちょうど今、邪気が払われるように赤みが消え、元の綺麗な青が輝いていた。
それでようやく、終わった事を実感したのだった。
ついでに言うと、未来アミクのあの強さは、一緒にいた男に稽古を付けて貰ったという理由だったりします。