妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

182 / 202
今回と次回はオリジナルです…

一つにまとめきれんかった


祭り後の嬉遊曲
王族は大変です 前


アミク達がマグノリアに帰ってきた時の事。

 

大騒ぎするアミク達を少し遠くの屋根の上から見下ろす二つの影があった。

 

一つはメイビス。喜ぶアミクたちの顔を微笑ましげに見つめている。もう一つは────

 

「ようやく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドが返ってきたみたいですね。私がいた時と様相は変わってしまいましたが、あのギルドは私の家だと言ってもいいですからね。感無量です」

 

「そう思いません?」とメイビスは顔も向けずにそばにいる人物に声を掛ける。どこか、哀愁を滲ませた声だった。

 

「…本当にいいのですか?あなたあなたが望むのなら、ずっと彼らの傍にいることもできるでしょうに。

 あの場に混ざる事だってできるはずです」

 

「…そうですか。あなたは敢えて彼らから離れることを選ぶのですね」

 

「もちろん、「あの件」について動いてくれるのは助かりますが…」

 

「でも、アミクには伝えておいても良かったのではないでしょうか」

 

「不要だと?…なかなか意地悪ですね、貴方も」

 

「ええ、止めはしません。それもあなたなりの考えなのでしょうから」

 

「しかし一つだけ」

 

 

 

「────必ず、また会いましょう」

 

 

「約束ですよ?」と寂しい笑顔を浮かべたメイビスに背を向け、その者はゆっくりと去っていった。

 

 

 

だが、何を思ったか拳を天に突き上げる。そして、メイビスの見ている前でゆっくりと人差し指を立てた。

メイビスが驚いたように目を見張った。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)で生まれたメッセージ。どこにいても、あなたを見守っているという激励のサインだ。

それがメイビスに向けたものだったのか、あるいは────

 

メイビスは「彼女」がそれを使ってくれたことが嬉しくてクスッと微笑んだ。

 

 

背中が遠ざかっていく。久しぶりに自分の足で歩いているようだが、足取りはしっかりしていた。

 

メイビスも「彼女」もこれを別れだとは感じていない。寂しけれど、悲しくはなかった。

 

この別れも、まだ見ぬ明るい未来に繋がっているだろうから。

 

 

「…さて…近くにいるのですね、ゼレフ…」

 

 

この後、メイビスと黒魔導士が対話する。

 

彼らの憎悪と愛による言葉の応酬。

 

 

事態は大きく動こうとしていた。

 

 

 

 

「ま、まさか…マグノリアに帰ってきてすぐこんなに働くとは…」

 

 

数日後。

 

ギルドのテーブルにぐったりと倒れ伏すアミクの姿があった。

 

 

ギルドを取り戻したアミク達はそのまま宴会に突入。街の人たちも巻き込んで飲めや歌えや騒げやの好き放題。

ギルドはおろか街の中まで滅茶苦茶になるほど騒ぎまくった。

 

その翌日には後始末に駆け回ったのが主にアミクだった。クロッカスでも散々やったのに帰ってきてまでやる羽目になるとは思わなかった。

昨日まで疲労困憊で爆睡してたほどだ。今も少し怠さが残っている。

 

 

「お疲れ様ー」

 

「大変だったの」

 

ルーシィが水の入ったグラスを持ってきて、マーチがふわりと舞い降りてくる。

 

「うん、ありがと…何回も思うんだけど、もうちょっとみんなは後先考えて行動したほうがいいと思うんだ」

 

グイ、と水を一気飲みしたアミクは愚痴るように不満をこぼす。そういう気の良い性格の人達は嫌いではないが、後始末する人のことも考えてほしいものだ。

 

 

「だったら他の人に任せれば良かったじゃない」

 

「う…それは、そうかもしれないけど…」

 

確かに、頼まれたわけでもないのに率先して行ったのはアミクだが。

アミクの魔法が有用なのは確かだが、彼女が人一倍働かずともみんなで何とかしてであろう。

つまり、ただのアミクの性分だ。

 

 

「それより、今日は仕事行けそう?」

 

「…まぁ、大丈夫。大分調子も良くなったし」

 

「ナツやエルザ達は昨日、とっくに仕事行っちゃったの。出遅れちゃったけどあーし達も行くの」

 

大魔闘演武が終わってから依頼が以前とは比べ物にならないくらい舞い込んできた。

過去に大人気ギルドであった妖精の尻尾(フェアリーテイル)。長年ドベだったそのギルドが栄華を取り戻したのだ。

 

話題と評判がじゃんじゃん広がって、相乗効果で依頼の数が激増。なんと新メンバーまで少しずつ増えてきているのだ。

 

アミクは思い出した。大魔闘演武が開催される前、「『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』をもう一度フィオーレ1にする」と言っていたナツの言葉を。

あのボロギルドでの彼の豪語から始まり、本当にナツの言った通りになった。

 

感慨深い。とても。

 

 

「よし、久々の仕事、行ってきますか!」

 

 

勢いよく立ち上がったアミク。今回はルーシィとマーチ達と仕事だ。

 

 

「…あ」

 

と、思ったら。マーチが何かを思い出したかのように固まった。

 

「しまったの。今日、大事な用事があったの」

 

「用事?」

 

「なの。そういうことだから仕事は二人で行ってこいなの」

 

「あ、ちょっと」

 

そういうや否や、マーチは急いでギルドの外に飛んで行った。

 

「…仕方ないか。私たちだけでやろう」

 

「そうね。でも、これもちょうど良いかも!アミクと二人きりなんて久しぶりだし!」

 

「だねー。さーて、良い依頼ないかなー」

 

依頼が増えたおかげで以前とは違って選り取り見取りだ。閑古鳥が鳴いていた頃だと依頼があるだけありがたい状況だったのに。

 

今や懐かしさえ感じながらクエストボードに向かっていると、カウンターに座っていたマカロフがちょいちょいと手招きしているのが見えた。

 

「アミク、ちょっと来い」

 

「んー?どしたのー?」

 

方向転換してマカロフに近付くと、そっとアミクの目の前に紙を差し出した。見ただけで超上等そうな代物だと分かる。

 

「お前宛の指名の依頼じゃ」

 

「私を?もしかして評議院?」

 

7年前まではアミクの魔法に目を付けた評議院が『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の起こす問題にある程度目をつぶってもらう代わりに、彼女に評議院からの依頼をこなしてもらっていた。

天狼島から帰ってきた後はまだそのようなことはないが、いよいよ再開させるつもりなのだろうか。

 

「いや、評議院ではない────」

 

マカロフは言葉を途切らせると、少し声を潜めて告げる。

 

 

「王家じゃ」

 

 

「おうっ!!?」

 

 

 

無意識に大きく逆立つツインテールだった。

 

 

 

 

 

「あー良かった、帰ってきたばかりでクロッカスに出戻りになるのかと思った」

 

汽車に揺られながら、アミクはホッと息をつく。もちろん酔い止めはバッチリだ。

前の席に座るルーシィが困惑した表情で言う。

 

「でもこの間の今日でまた関わることになるなんて」

 

「早い再会だよね。何かエクリプスの件で問題が起こったのかな…?」

 

アミクを指名した依頼を出したきた人物はなんとヒスイ姫だ。なんでも、アミクに頼みたいことがあるそうだが詳しい内容は会ってからというもので…。王都、つまりクロッカスではなく、ハルジオンで会うことになったのだ。

しかも内密に。マカロフが声を潜めてしまったのも納得だ。

先日の出来事に関係することだろうかと心配してしまう。

 

「だとしてもアミクだけってのはおかしいわよ。関わった人は他にもいるはずなのに」

 

そう、指名したのはアミクだけでルーシィやナツの名はなかった。

後は信頼している仲間を連れてきてもOK、とそれだけだ。

 

ということは純粋に依頼か?だとしても普通の依頼とは思えない。

 

「…きな臭いなー」

 

ヒスイ姫に会えるのは嬉しいが、王族からの依頼というのはどうも嫌な予感がする。また、何か大変な事態に巻き込まれそうな気がするのだ。

 

とはいえ。

 

「ま、なんとかなるっしょ」

 

「そうね…ヒスイ姫だから大丈夫だよね、きっと」

 

巻き込まれるのはいつものことである。今更どうってことはないだろう。

それにルーシィの言う通り、ヒスイ姫は信頼に足る人物だ。そうそうアミク達をひどい目に合わせたりはしないだろうし。

 

…一番助かってるのは大体のトラブルの大元であるナツやグレイなどがいないことかもしれない。

なんせ、常識人枠のルーシィだ。問題は起こさないだろう、多分。

 

 

「それにヒスイ姫が困ってるんだったら助けてあげたいしね」

 

「うん!」

 

アミクの言葉にルーシィが元気よく肯定した。前の一件でヒスイ姫とは身分こそ天地の差があるが、「友達」になれたと思っているのだ。

「友達」なら力になってあげたい。

 

 

(…でも、用心はしておこっか)

 

 

ただし、王族が持ち込む案件が穏やかなものではないことが多いのも忘れてはならない。

 

 

 

 

「テロが起こるかもしれません」

 

「「大案件!!」」

 

ヒスイの口から飛び出た物騒な単語にアミクとルーシィは目を剥いた。互いに抱き合って恐ろしげに震える。

 

「あくまで可能性だ。現状、それらしい動きは見当たらない」

 

ヒスイの護衛で側にいるアルカディオスが厳かに言う。

 

アミク達がハルジオンに着き、指定された宿に行くと、一人の男が近づいてきて、ある部屋まで案内してくれた。おそらく、ヒスイの配下の者だろう。

そしてその部屋にいたのはヒスイとアルカディオスだった。

 

笑顔で出迎えてくれたヒスイ。再会の喜びを少しだけ分かち合ってさっそく本題に入ることにした。

 

曰く、近々隣国のボスコから使節団がやってくるという。ボスコの中でも偉い立場にある高位の貴族がフィオーレ王国に興味を持ったらしい。

ボスコとは多少問題もあって、何よりフィオーレの隣に位置する国ではあるが、特に仲が良いわけでも悪いわけでもなかった。交流もないわけではないが少し警戒の必要な国、という認識。そんな国から唐突な訪問。

突然のことに困惑はしたが、相手の身分が身分なのでこちらも王族が対応することにした。

 

そこまで聞いてからの先ほどのヒスイの言葉である。

 

「えっと、なんでテロの話になったのか聞かせてもらっても?」

 

「…ボスコにあまり良い話を聞かないのは、知っていますよね?」

 

奴隷が横行している。治安が悪い。

などと、ボスコに関して印象の悪い噂が多い。

実際に行ったことはないが、おそらく一部は真実だろう。実際に奴隷売買がされていた節がある。

フィオーレ王国も被害を被っており、以前もこのハルジオンで女性達をボスコに奴隷として売り渡そうとしていた…ボルだかボロだか、そんな悪党がいたというのだ。

 

 

アミク達が頷くとヒスイは表情を引き締めたまま続ける。

 

「最近ではテロ活動も頻発していて危険な状況だと聞きます。そんな中、ボスコの高位貴族に動きがあればテロリストに目を付けらるかもしれません」

 

「そ、そのテロがフィオーレまで及ぶと?」

 

「はい、目的のためならばこちらを平気で巻き込む恐れがあります。むしろこの状況こそ、彼らの狙い目である可能性も高いです」

 

フィオーレの王族とボスコの使節団が共にいる時にテロが起こったら。国際問題にまで発展する危険性がある。

 

「そのようなことが起こらないに越したことはありませんが…僅かにでも可能性がある以上、警戒すべきなのです」

 

「そもそもの話、なんでこのような時期にボスコの貴族さんは訪問なんかをしようとしてるんです?」

 

「大魔闘演武の噂を聞いて興味を持ったのでぜひフィオーレ王国を拝見したい、と」

 

「確かに大魔闘演武は大きな催しだから、隣国にまでその話が届いていてもおかしくないわね」

 

毎年最下位だったギルドが優勝した、なんて盛り上がり要素てんこ盛りなのだ。話を聞いてフィオーレのことが気になっても不思議ではない。

 

まだ質問はある。

 

「その貴族さんが狙われる理由は?」

 

「この方は国の中でも中枢の一角を担っているだそうです。国家を揺るがすにはちょうど良い相手でしょう。おまけに財産も持っているでしょうから」

 

「国家転覆目当てにしろ、身代金目当てにしろもってこいと」

 

そんな偉い立場の人が遊びに来る感覚で訪問しようとしているのは些か不用心な気がするのだが。

 

その貴族の危機感がイマイチ足りない気がしてアミクは複雑な気持ちになった。

とりあえず、基本的な情報は得られたのでいよいよ本題に入ることにする。

 

「それでは、私たちに依頼したのは護衛のためですか?わざわざ私を指名した理由も聞きたいですけど…」

 

今回一番気になっているのがそこだ。ルーシィも同じ気持ちだったのかコクコクと頷いている。

 

「疑問に思うのも当然です。理由はいくつかあります。先日の戦いで見た貴方の実力を考慮しても護衛として十分以上。大事の際には貴方の治癒魔法が助けになる」

 

「え、でも私とルーシィの二人だけってちょっと戦力としては心許ないのでは」

 

「緊急を要する依頼でしたので人数を集める時間がなかったのは仕方ありません。ですが貴方がた二人だけでも十分だと私は思っています。それに、相手に貴方がたの存在を気取られるのを防ぎたいので少人数の方が好ましいのです」

 

「私としてはもう少し万全にしておきたかったのですが」

 

アルカディオスが苦い表情で苦言を申し上げた。ヒスイに仕える身としてはやはり心配なのだろう。

だがヒスイの言い分も理解できる。ヒスイ達に魔導士ギルドが付いてることを知らせてテロリスト達を変に警戒させるより、潜伏していた方が油断させやすいということだろう。

危険なことには変わりないが。

 

 

「アミクさんを指名したのは先ほど言った事もそうですが、主な理由としては────」

 

「し、失礼…は、は、は…」

 

突如、アミクが話を止めさせて鼻をムズムズさせた。

 

「は…ハックション!!

 

部屋の壁の方を向いて盛大なくしゃみをする。大げさなほどに、大きな声で。

 

 

ドゴォン!!

 

 

アミクがくしゃみを放った方向から何かが破壊された音がする。全員がそちらを向くと、部屋の壁に大穴が空いていた。

そして、その穴からはピクピクと倒れている一人の男の姿が覗いていた。

 

 

「な、何事だ!?」

 

やっと事態を理解したアルカディオスが剣を抜く。ヒスイも倒れている男を見て「あの男性は…!?」と動揺する。

 

「あーごめん。今の私がやったの」

 

アミクが鼻をすすりながら彼を落ち着かせる。ルーシィが目を丸くした。

 

「もしかしてさっきのくしゃみで!?なんて危険なくしゃみよ…」

 

「なんか壁の中からモゾモゾって音が聞こえてたから。当たりだったみたいだね」

 

話が漏れるのを防ぐためヒスイ達が借りているこの部屋の周りは人払いしてある。当然、隣の部屋にも人はいないはずだった。なのにアミクの優秀な聴覚が物音を拾った。

おかしい、と思っていたらちょうどくしゃみが出そうだったので利用させてもらった。

自然にくしゃみをして、その音を増幅させて攻撃する。全く警戒されない攻撃方法だ。

 

 

アルカディオスが最初に男に近づき、アミク達もそれに続く。ヒスイは念のため一番後ろだ。

 

「いつの間にここにいたのでしょうか…?」

 

「多分、壁に潜り込む魔法を使っていたね。昔同じ魔法使う人に会ったことがあるんだ」

 

「あ、確かにいた気がする…」

 

 

アルカディオスは気絶している男をジッと観察した。見覚えのある顔ではないが、フィオーレの国民とは少し顔立ちが違う気がする。腹には見慣れない紋章もあった。

 

「おそらく、この国のものではないな」

 

「…まさか、ボスコの人?」

 

タイミングがタイミングなだけにそう推測するが、ヒスイが「この紋章…!」と声を上げて続けた言葉でそれが裏付けされた。

 

「ボスコで活発にテロ活動している闇ギルドの一つです!注意すべき闇ギルドとして教えられたことがあるので間違いありません」

 

「マジですかー…懸念が的中しちゃいましたね…」

 

 

アミクは困ったようにツインテールを掻く。

なんだか大きな事に巻き込まれてしまった気がして、結局こうなるのね、と苦笑するのだった。

 

 




ボスコに関してはあくまで自己解釈です。とりあえず、貴族はいることにしました。王様みたいな支配者存在する設定にするかもしれません。
てか、ボスコとフィオーレって仲良かったっけ?

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