妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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えーっと、またまた遅くなりました…こほん。

もうすぐ学校が始まりました。


勉強したくねーけどやらなきゃいけない

そう、むしろ勉強すれば投稿頻度も上がる!…かもしれないこともないかもしれない

というわけで(?)今回はテンポが早いかもしれません。これ以上引っ張るわけにもいかないので…


王族は大変です 後

お偉いさん方が外国からやってきました。ついでにお土産(テロリスト)も付いてくるそうです。そんな中、国同士で親交を深めたいとのこと。場合によってはテロリスト達ともドンパチするかもしれない、と。

ヤバい匂いがプンプン。

 

(国際交流も簡単じゃないってことかー)

 

アミクは引き攣りそうになる口を必死に留めていた。当初はちょっと友人の頼みごと聞きに行くくらいの感覚だったのに、こんな大事になるとは。改めて考えても眉がピクピクしそうだ。

せめて今この場にエルザやナツ達がいれば気分的にももう少し楽だったかもしれない。

 

ここまで考えてそれを否定する。あの面子が大人しくしているとは思えなかった。

特にナツ。絶対目立つ。今回の潜伏(・・)とは相性が悪い。

 

(でもマーチくらいは連れてくるべきだったかも…)

 

空から偵察できる者がいれば良かったなーと無い物ねだりしていると、エギスから声が発せられた。

 

「やはり、噂に違わぬ美しさですな。その帽子から覗くエメラルドのように輝く髪。確固たる意志を持つ瞳。どれも心惹かれます」

 

そんな歯の浮くようなセリフがよく出てくるものだ。人の上に立つ者は詩を学ぶ義務があるのかもしれない。

ヒスイはただニコリと微笑んで「ありがとうございます」と告げただけだった。こちらも動じない。王女たる者、世辞にも慣れているだろう。

 

しかし、改めてエギスを見て感じたが最初の認識を改めるべきだろう。危機感のないボンボン貴族だと思っていたが、常に周りに気を配って油断なく身構えているのを感じた。

 

「それでは私達が泊まっている宿に案内します。いつまでもここにいると目立ちますからね」

 

「ええ、お願いします」

 

ヒスイ達はテロリスト対策としてなるべく目立たないように細々とエギス達の出迎えをしていた。当然軽く変装もして互いの護衛も少なめに。大勢の人々に紛れるようにしている。だが、長く留まっていれば怪しまれるだろう。続きは別の場所でやった方がいい。

ヒスイが歩き出すとエギス達も付いてきた。それを見たアミクは遠くで建物の陰に隠れているルーシィを視界に入れる。そしてパクパクと「声」を飛ばして言葉を伝えた。

 

『ルーシィ、周りの警戒をお願い!ちょっと怪しそうな人がいたら教えるから様子を見て。黒だったらヤっちゃっていいから!』

 

それを聞いたであろうルーシィが指を曲げて丸を作った。OKという意味だ。

 

『後ろからスニークキルして、死体は海に捨てちゃえ!』

 

今度は激しく首を横に振られた。「そこまでする!?あたしは暗殺者か!」という意味だ、多分。

冗談だ。敵を発見したら殺さずとも気絶させて捕縛するだけでいい。ヒスイ達からもそう指示されている。

 

アミクから指示を受けたルーシィは密かに動き出した。なるべく目立たないように人混みの中に混じる。遠くで緑髪の少女も動き出すのが見えた。

 

(頼んだわよ!)

 

心でそうエールを送った。

 

 

 

「この前の大魔闘演武、残念ながら直接観戦することはできませんでしたが話はボスコにまで伝わっています。過去最大の盛況ぶりだったとか」

 

「ええ、凄まじいものでしたよ」

 

「優秀で実力の高い魔導士が多いのでしょうな。実に羨ましいです。私の国にも魔導士ギルドはありますが、どうも実力に不安がある者ばかりで」

 

若干大げさにも思える手振りで自分の国の現状を話すエギス。ヒスイはそんな彼を油断なく見据えた。

 

彼を迎えた後、何事もなく宿に着いた。大きめの部屋を借りてそこで話し合いをする。もちろん防音も大丈夫だし、さっきのようなことがないように壁の中まで徹底的に調査済みだ。

全部フィオーレ側が行った。訪問してくれたお客さんの手を煩わすわけにはいかない。

 

そうして落ち着いてから、まずは世間話から始めた。それで出てきた話題が大魔闘演武なのだ。

 

「きっと魔法による技術も素晴らしいのでしょうね。どんなに離れている国民でも大魔闘演武の様子を見せることができる魔水晶(ラクリマ)。競技によって姿形を変える競技場。興味深いです」

 

「…よく知っているのですね」

 

「ああ誤解しないでください、直接見てないのは本当なので。情報だけですよ私は、ぜひこの目で見てみたかった!」

 

やけに詳細な情報ではあるが、彼ほどの立場ならばその情報を手に入れるのは難しくないだろう。ヒスイは「疑っているわけではありません」とすぐに引き下がった。

 

「…それで、ご用件は何でしょう?今の話と関係があったりするのですか?」

 

少し言葉が途切れたところで頃合いだろうと判断して、本題を突き出した。

 

「その通りです。多くの分野で豊かな国であるフィオーレ王国を見込んで取引をお願いしようかと」

 

「取引…それが一番の目的ですか?」

 

「そこも誤解していただきたくないですな。これも親善の一部です。そちらにとっても悪い話ではないと思いますが」

 

少し棘のあるヒスイの言葉にもエギスはにこやかに微笑んで話を進めた。

 

「貴方がたの魔法技術は私達にも非常に有用なものです。恥ずかしながら、私達の国はお世辞にも文化的に治安的にも優れているわけではありません」

 

エギスは「つまり、未だ発展途上国なのです」と嘆かわしげに溜息をついた。彼なりにもボスコに悪い話が多いのを気に揉んでいるようだ。

 

「その技術があれば、我々はもっと発展できるでしょう。設備が整い流通が栄える。治安も改善され国民達も犯罪者に怯えることはありません」

 

そこまで劇的に良くなるほどフィオーレ王国の文明は優れているだろうか?自分の国ながら少し疑問を持ってしまう。

フィオーレも主な移動手段が馬車だったり、闇ギルドやお尋ね者が潜んでいたりするのだが。

 

「私の私達は隣国同士でありながらも、あまり交流がありませんでした。それではいけないと私は思ったのです。もっと互いに秀でた部分を吸収し合いながら共に成長していくべきだ」

 

熱が入ったのかエギスは拳を握って力説した。

 

「これを機に親交を深めましょう。手を取り合ってどこの国よりも強大になりましょう。私達ならばあのアルバレス帝国だって恐るに足りません!」

 

「────失礼ですが」

 

熱く語っている男にヒスイの冷静な言葉が刺さり、エギスは冷水を掛けられたように止まった。

 

「具体的に貴方達はフィオーレ王国に何を差し出してくれるのですか?取引というのならばそれ相応の対価があると思いますが」

 

「…ええ、それはもちろん」

 

エギスはニヤリと口を歪めた。

 

 

 

 

一方その頃。

 

ルーシィとアミクは案の定潜んでいたテロリスト達を成敗していた。宿の周りで怪しい動きをする人を職質するだけで簡単にボロを出してくれた。こっちが女子二人しかいないから簡単に御せると舐めていたのだろう。

 

「ぐわーっ!!まさかこんなに強力な魔導士がいたとは…」

 

情けない声を上げて崩れ落ちるテロリスト。それを複雑な目で見るアミク。

 

「『ぐわー』なんてアヒルみたいな断末魔、久々に聞いたよ。『どっひゃー』じゃあるまいし」

 

「よーし、これでこっちは粗方片付いたわね!結構いるものね…」

 

「きっと送り込んできた諜報人が帰ってこないからだろうね。こっちに情報が知られたことを警戒して戦力を増やしたんだと思うけど…」

 

それにしても、とアミクは何か違和感を感じた。敵側ではなく味方側に、だ。

宿の周りには一般人に変装したフィオーレ王国の兵士とボスコの兵士がいて警戒しているのだが、妙にボスコ側の動きが目に付く。

 

 

特に何か妙な動きをしているわけではない。むしろ動かなすぎる(・・・・・・)のだ。怪しい人物が目に見えても何もせず見て見ぬふり。最初は見落としただけかと思っていたが、そういうのが何回も続くと不審感が募る。

その上、あちこち巡回するフィオーレの兵士と比べたらずーっとその場にとどまり続けている。国の価値観の違いと言われたらそれまでだが…。いや、どんな価値観だ。

ボスコ側にアミク達の存在は知られていないので、彼らもまさか少女達から観察されているとは思わなかったのだろう。不審な点を曝け出してしまっていた。

 

ここで、一つ思いついた事がる。もしやと思ったが…。

 

「…ルーシィ、ちょっと調べたい所があるんだけどいいかな?」

 

 

「ん?今物音しなかったか?」

 

「いや、聞いてねぇぞ」

 

「…念のために確認しておくか…よし、気のせいだったみたいだ」

 

ガタイのいい男がそう言って樽から離れていく。その近くの樽からコソコソと二人の少女が出てきた。アミクとルーシィである。

 

「セーフ!セーフ!」

 

「ごめん、転びそうになっちゃった…」

 

ただいま、潜入中。現在地、ボスコの使節団の船内なり。

 

「ダンボールがあればよかったのになぁ…ワンチャンこの樽でもいけないかな?」

 

「何に拘ってるのよアンタは…」

 

「潜入と言えばダンボールじゃない?」

 

「知らんわ!」

 

ボスコの兵士達を怪しんだアミクはルーシィに提案してボスコの船を調べることにした。宿の警護を兵士達に任せっきりになってしまうが、まぁ大丈夫だろう。

わざわざハイドミッションしている理由はボスコ側が黒だという確信がないので大ごとにしない方がいいと判断したのと、戦力がまだ未知数だからである。

 

そうしてコソコソと中にいる人達にバレないように進んでいたアミク達だったが、ある部屋の扉の前で止まる。

 

「…ここ、臭うよ」

 

「ここに何かあるの?」

 

「トイレだね、ここ」

 

「あ、単純に臭かったのね!?」

 

怪しい的な意味ではなく。

 

というわけでスルー。

 

 

「今度こそここが怪しい、マジで。なんか変な音聞こえてくるし」

 

アミク達はそこそこ大きな扉の前で止まった。見た感じ倉庫だろうか。

音を立てずにドアを開けて中に忍び込む。

 

「…こうしていると初めてアミク達と仕事をしたのを思い出すな」

 

「ああー…エビルー屋敷のことね。そういえばあの時も潜入みたいなことしてたね。忍者みたいとか言ってたなー」

 

「一応言うけどエバルーよ」

 

こんな時だが、ついつい懐かしんでしまった。その時がルーシィとの初めての仕事だったという記憶がある。

 

「せっかくメイド服着たのにブサイクだなんて言われて…激しく傷付いたわ!今思い出したら腹が立ってきた!」

 

「シー!静かに!」

 

アミクは軽く注意してそっと耳を澄ます。中は食料や武器など様々のものが乱雑に置いてあった。倉庫というよりは物置部屋のようだ。

 

その奥。モゾモゾと動いている白い布があった。

 

「ひぃぃ、何あれ!?」

 

ビビるルーシィを尻目にアミクはどんどん近づいていくと、躊躇なく白い布を取り払った。

 

「んー!んー!」

 

そこに居たのは口を布で塞がれ、手足をロープで縛られた男。

 

「あれ、この人…」

 

アミクには見覚えがあった。ルーシィも「あ…!」と驚いたような声を上げる。

アミクは彼から口を塞いでいる布を取ってあげると、男は安心したような表情を浮かべた。

 

「はぁ…た、助けに来てくれたんですね!良かった…不安で不安で仕方なかったですよー!」

 

「ちょっと安心する前に一つ。貴方は誰ですか?」

 

アミク達の記憶が確かなら彼は。

 

 

 

 

 

 

 

「エギス・トリオードです。フィオーレとの交流のため、ボスコから使節団として来ました」

 

 

 

「フィオーレのような国と取引するのに生半可なものを差し出すわけにはいきませんよ。きっと気に入ってくれるはずです」

 

「それは気になりますね…ちなみに、ボスコに珍しいブロッコリーなどはありますか?」

 

「へ?ブロッコリー?」

 

「い、いえ忘れてください。知人が好物なので…」

 

おほん、と可愛らしく咳をするヒスイ。エギスはゆっくりとヒスイに近づいていく。

 

「この国に相応しいもの…この国と同等のもの…この国そのもの…」

 

不気味な笑みを浮かべるエギス。彼はいつの間にかヒスイの至近距離にいた。兵士達が慌ててヒスイとエギスの間に入ろうとするが。

 

「この国の象徴…つまり、貴方ですよ!!ヒスイ姫ぇ!!」

 

唐突だった。

 

懐からナイフを取り出し、ヒスイに突き刺そうとする。兵士達はボスコ側の兵士達に邪魔されて助けにいけない。

あまりに突然なことに反応が追いつかないのか、呆然としたままのヒスイ。ナイフは彼女の胸にまっすぐに伸びていった。

 

 

 

 

「えええ!?僕がもう一人!?」

 

「シー!静かにしてよ!」

 

「変身魔法かな。なりすまされたんだね」

 

アミク達が救出した男の名はエギス。なんと先ほどヒスイが出迎えた男と同じ名である。容姿までそっくり。

状況的にこの男が本物(・・)のエギスだろう。

 

「フィオーレに向かっている途中で襲われて…その後ここに閉じ込められて…まさか、僕の姿で好き勝手しているなんて」

 

「途中で襲うことはないって思ってたけど…見通しが甘かったか」

 

「でもなんで船がバレたの?カモフラージュしているはずなのに」

 

「おそらく僕たちの方で情報が漏れたのかもしれません。クソッ、兵士の中にまだスパイが残ってたのか?また徹底的に調査しないと…」

 

ブツブツと思案していたエギスだが、ハッと顔を上げて焦ったように告げる。

 

「こうしてる場合じゃない!聞けばその僕の偽物はヒスイ姫と一緒にいるんでしょう!?彼女が危険です!」

 

「うん、そうなんだけど…そう簡単にはいかないみたい」

 

外が騒がしい。

アミクが扉に視線を向けると、バン!と荒々しく扉を開けて武装した男達が入ってきた。

 

「こんな所にいやがったのか!」「逃がさねぇぞコラァ!!」

 

「気付かれた!?」

 

「倒した見張りが見つかっちゃったみたいだね…」

 

この船に潜入するには船の入り口を見張っていた兵士を眠らせておく必要があった。仕方なく気絶させて近くにあった樽に隠しておいたのだが、それが見つかったらしい。

 

ドヤドヤと結構広い倉庫に入ってきた男たちだが、そのうちの一人がエギスに気付いた。

 

「おっとそいつを助け出されたら困るなぁ。後々必要なんだよ」

 

「ってことはみんなあの偽物さんとグルなんだね?じゃあ遠慮なくやっちゃっていいよね」

 

万が一知らずに加担させられていた可能性もあったが、その物言いから言質が取れた。

 

「クソッ、やっぱり魔導士を雇ってやがったか!しかも偽物の件もバレてるぜ」

 

「だから言ったじゃねえか!リーダーの言う通りここも見張ってろって!」「俺に言うなよ!」

 

「まだ遅くねえ、こいつらをぶっ倒しちまえば問題ねえ!」「やっば美少女二人組じゃん」「いいねいいね、捕まえようぜ!」

 

纏まりがない。所詮烏合の衆か。

 

アミクはエギスを後ろに下がらせる。

 

「下がっててください、すぐに片付けます」

 

「う、うん…早くしないとヒスイ姫が…」

 

「あ、そっちはあまり心配しなくてもいいです」

 

「え?」

 

 

「グハァ!!?」

 

エギス─────の偽物が体をくの字に折って吹っ飛び壁に激突した。その手からナイフがカランと音を立てて落ちる。

 

「急にくるからびっくりしました。思わずグーが出てしまいましたよ」

 

彼に反射的に腹パンしたのは─────ヒスイご本人。

 

「まさかの事態になっちゃったな。ボスコ側から襲ってくるなんてね」

 

「く…クククク」

 

何がおかしいのか、偽物エギスはお腹を抑えながら不気味に笑った。ダサい。

 

「こちらこそ、まさか王女がここまで武闘派だとは思いませんでしたよ。ですが…この人数差でなんとかなると思いますか?」

 

直後、宿の扉が開かれて何人もの兵士が入ってきた。みんなボスコの兵士服を着ている。外にいた兵士達か。

対してこちらは三人くらいしか兵士がいない。だが彼らはヒスイを背に庇って自分の仕事を全うしようとしていた。

 

「冥土の土産に教えてあげますよ。私は本物のエギスではありませんよ。入れ替わった偽物です。

 そして、今回の襲撃の指揮者…つまりリーダーです」

 

「出たよメイドの土産…ってマジで!?」

 

ヒスイがあんぐり口を開いて驚く。

なんかさっきとキャラが全然違うような…。偽物エギス─────テロリストのリーダーは違和感を覚えたが構わず話を続ける。

 

「呑気に航海などしていましたからこれは是非とも襲ってあげなくてはと。ああ、安心してください。本物は無事ですよ。後々役に立ってもらうのでね」

 

「罪を被せる気?」

 

「それもありますけど、金を毟れるだけ毟り取ろうかと」

 

「うーわ、普通に最低だ…」

 

ヒスイは蜘蛛を見つけたかのような顔した。

 

 

 

「さて、では覚悟はいいですか?いいえ、してもらいます」

 

リーダーが「やりなさい」と命じると兵士達────テロリスト達が雄叫びを上げて飛び掛かってきた。

兵士達は焦るが、ヒスイは俯いている。そしてポツリと呟く。

 

「…そっちも(・・・・)入れ替わってたなんて…」

 

拳をギュッと握る。するとそこに魔力が集まっていった。

そして顔を上げ、拳を引き絞って前に突き出す。

 

「すごい偶然!!」

 

衝撃波で敵を一掃した。

 

「…は?」

 

「残念。私も本物のヒスイ姫じゃないんだ」

 

ヒスイ─────の偽物は長い緑髪を左右のサイドで結ぶ。

 

「やっぱこっちの方が落ち着くわー」

 

ツインテールとなったヒスイ。

 

いや。

 

 

 

アミク・ミュージオン。

 

そう彼女はヒスイではなくアミクだったのだ。

 

 

「は?は?…偽物…?そうか影武者か!!」

 

「うーん、ちょっと違うけどそれでいいや」

 

 

昨日のことだ。

 

ヒスイから自分とアミクを入れ替えるという提案をされたのは。

 

『相手はテロリスト、どんな手を使ってくるか分かりません。もしものことがあるかもしれない』

 

ヒスイは申し訳なさそうにして言った。

 

『なので、最初から彼らの目を欺いてしまいましょう。アミクさん、私の替え玉になってくださいませんか?』

 

ヒスイとしてもこの手はあまり使いたくなかった、と顔に書いてあった。

 

『私とアミクさんは髪色が似ている…それにあなたは声を他人のもので発することができると聞いています。多少私の情報を知っていても誤魔化せるでしょう』

 

『で、でもそうしたらアミクに危険が…』

 

『承知でお願いしています。貴方なら対処できると思ってのことです。…無茶なことを頼んでいるのは理解しています。断ってくれても構いません』

 

また王族が頭を下げた。アルカディオスの眉がピクッと動いたが何も言わない。止めるべきではないと判断したのだろう。

 

『はーい、分かりましたー。あ、じゃあツインテールにしちゃダメなのか…』

 

『即決!?』

 

ルーシィが目を剥いた。ヒスイ達も驚いたように目を丸くしていたが、ヒスイはすぐに笑みを浮かべた。

 

『…そうでしたね…貴方はそういう方でした…』

 

『これくらいの危険がなんだって話ですよ。それに友達の頼みだしね』

 

『友達…』

 

『やばっ、友達って不敬だったかな…?』

 

『ビビるとこそこ?』

 

アミクとルーシィが言い合っている中、ヒスイが嬉しそうな顔をしていたのを覚えている。

 

そんな経緯でアミクはヒスイとなったのだ。

 

しかしこのことを知っているのはアミクとルーシィ、それにアルカディオスとヒスイのみ。これだとフィオーレ側の兵士達もボスコ側も騙すことになってしまうが、「敵を騙すには味方から」ということで敢えてボスコ側にも入れ替わりを伏せていた。それは万が一ボスコ側も敵だった可能性も懸念してのことでもあった。

その万が一が的中し結果的に良い方向に転んだわけだが…。流石に相手も入れ替わっていたのは想定外だった。

 

「そういうわけで、貴方達の企みは失敗だよ。大人しくしてくださいねー、じゃないとお眠りになってもらいますよー」

 

「あ、あの…姫様は…?」

 

「あ、置いてけぼりにしちゃった!無事ですよ。安全な所にいますので…」

 

何も知らないフィオーレの兵士達が困惑していたのでそう告げると。

 

「本当にそうかな?」

 

急にリーダーが割り込んできた。なんか腹立つ笑みを浮かべている。

 

「うん?」

 

「「入れ替わってる」と言ったな。つまりお前がヒスイになっているということは、逆にヒスイがお前になっているということだ」

 

アミクはその言葉に黙ったままだ。リーダーはそれを図星と判断して続ける。

 

「たった今、お前と似た姿の奴が船に侵入していると報告があった!!」

 

「え?あ、念話かな?」

 

「クハハハハ、気付いたところでもう遅い!姫を敵の拠点に突っ込ませるなど愚かなことをするからだ!」

 

「なんかキャラ変わってない?」

 

「ええい、お前に言われたくないわ!」

 

リーダーは頭に指を置く。念話のポーズだ。頭の中で船の中にいる兵士達全員に怒鳴る。

 

『その緑髪の小娘を殺せ!そいつがヒスイ姫だ!!』

 

『マジかよ、よっしゃああ姫様死ねえええ!!』

 

『あ、危ない!!』

 

『討ち取ったり─────へ?』

 

威勢のいい男の声が聞こえたかと思うと、困惑したような声に変わった。

 

 

 

船内。

 

一人の兵士がアミク(偽物)に向かって飛び掛かり剣を突きつける。

エギスが焦った声を上げ、兵士がニヤリと笑う。

 

 

しかし。

 

「「ピーリ、ピーリ♪」」

 

「なぁ…!?なんだこいつは!?」

 

今、まさにアミクの胸に刃物が刺さりそうになったその瞬間。

 

アミクの姿が消え、そこにいたのは小さい人型の生物が二人。

 

「残念でしたー」「こっちも偽物だよー」

 

ルーシィの星霊、双子宮のジェミニである。

 

「本当にお姫様をこんな所に連れてくるわけないじゃない!」

 

ルーシィは呆れたように首を振った。

 

「でも、保険があってよかったわ」

 

そう、保険である。ヒスイがルーシィに頼んだのはジェミニをアミクに変身させること。そうすることで万が一アミクとルーシィの存在がバレたとしても入れ替わりの件までバレることはないと思ったのだ。

…ジェミニをヒスイに変身させる、という手もあったのだが一国の王女なので機密事項もいくつか知っているだろう。ジェミニは相手の思考も読み取れちゃうのでそういうのも知れてしまう。

そうなると…最悪消されるかもしれない。怖い。

 

そんな諸々の懸念があったのでアミクがヒスイになり、ジェミニがアミクになり。

 

そしてヒスイは別の場所でアルカディオスが守っている。

 

つまり、今までテロリスト達は一度も「本物のヒスイ」と対峙していないことになるのだ。

 

 

『ぎゃあああああ!!!』

 

『おい、こいつまさか大魔闘演武で優勝したギルドの星霊魔導士なんじゃ…おげえ!!』

 

「クソがっ!!」

 

リーダーが毒吐く。

 

「一体何が…」

 

「あとで説明しますね…」

 

やっぱり困惑しているフィオーレの兵士達。彼らには悪いが一旦放っておいてアミクはリーダーを見据えた。

 

「さて、さっきと逆の立場になっちゃったね。お覚悟はよろしくて?」

 

「黙れ!まだ終わってない!」

 

「…まあ、これくらいで諦めるわけないか」

 

リーダーは汗を拭うともう一度念話で叫んだ。

 

「船を出せ!ハルジオンを一斉攻撃する!」

 

途端、外で騒がしい音が聞こえ始めた。

 

「少し予定が狂ったが、結果は変わらん!全てを消せばいいだけのこと!」

 

アミク達が慌てて窓から外を覗くと、海が盛り上がっているのが見えた。そして何隻もの船がそこから飛び出してきたではないか。

ハルジオンを闊歩していた人々はパニックだ。

 

「海中に潜ませていたのか!?」

 

「頂上戦争で見たことあるやつ!」

 

「クハハハ!!お前らも王女も全て終わりだ!!流石にどうしようもあるまい!!」

 

リーダーが勝ちを確信して高笑いした。

船が大砲の砲口をハルジオンの港に向ける。一斉射撃でハルジオンを火の海にするつもりか。

それを見て恐怖に震え上がる人々。ますますパニックになる。

 

「えーと、困ったなぁ…」

 

確かに海に浮かんでいる船を短時間で全部どうにかするのはアミクでも厳しいだろう。アミクは「仕方ないか…」とため息をついた。

 

「なんだ、諦めたか?」

 

「まぁ…色んな意味でね」

 

この状況なのに妙に冷静なアミク。しかしリーダーは気にせずに勝ち誇る。

 

「今すぐ投降するなら命だけは助けてやっても…」

 

「私には難しいけど…『他の人』ならできるんだよね」

 

アミクの言葉にリーダーの表情が固まった。

 

「…嘘つけ!」

 

「そう、できなくはないんだよ…その後が問題なのであって…でもヒスイ姫もOK言ってたし…」

 

何かブツブツ言うアミクに痺れを切らしたのかリーダーが大声を放つ。

 

「もういい!!撃てええ!!」

 

対してアミクはもう一度ため息をついて小声で言った。

 

「ルーシィ…お願い」

 

 

 

「あたしの出番ってわけ!?できれば使わずに済めば良かったんだけど…」

 

振動を感じて急いで船の外に出たルーシィ達。彼女達も海で主砲を構えている多くの船を見て冷や汗をかいた。ちなみに一旦ジェミニは帰している。

 

「な、何か方法があるんですか!?」

 

エギスがルーシィに詰め寄る。このままでは自分だけでなくハルジオンの人々にも被害が及ぶ。だからなんとしても止めねばならない。

ルーシィは苦笑いして黄金の鍵を取り出した。そして海に鍵を浸けて叫ぶ。

 

「多少の被害は覚悟しなきゃね…開け、宝瓶宮の扉!アクエリアス!!」

 

「また黄道十二門!?」

 

エギスが驚いていると、光と共にアクエリアスが現れた。すっごく不機嫌そうな表情で。

アクエリアスはクワッとルーシィに顔を近づける。

 

「あ”あ”ん!?小娘、今スコーピオンとデート中だったっていうのに、何呼び出しとんじゃコラぁ!!タイミングってもんを考えろ!!しばくぞ!!」

 

「ひいい、ごめんなさい!!でも今は助けて!」

 

ルーシィが海に浮かぶ船を指差す。それでアクエリアスも察しがついたようだ。

 

「チッ、しょうがねえな」

 

「後、なるべく港に被害がないようにね…」

 

「ああっ!!?指図してんじゃねえよ!!お前だけは巻き込んでやるからな!!」

 

「あたしだけでいいのね!?もうそれでいいわ!!」

 

態度というか素行全体が悪いアクエリアスだがルーシィの頼みは聞いてくれるようだ。保証はできなそうだが…。

 

 

「あの…何を…」

 

「おっしゃ行くぜえええ!!!」

 

アクエリアスの持つ瓶が光る。すると…。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

海が揺れる。地震でも起きたかのように波がいくつも生じて船を揺らす。そのせいで大砲の照準が定まらないようだ。

そして、海の沖の方から津波のような大波が襲ってきた。

 

 

「うわああああああ!!?」

 

エギスが驚いた拍子に尻餅を着く。しかし、もっと驚いているのは船にいるテロリスト達だった。

 

「なんだありゃあああああ!!?」

 

「やべええ、巻き込まれるぞおおお!!!」

 

彼らが急いで逃げようとするも、波が大きすぎる上に速くて逃げられない。

全ての船が大波に呑み込まれてしまった。

 

 

「やった!ありがとうアクエリアス!!」

 

「くたばれええええ!!」

 

「ちょ!!?こっち来てるーーーー!!」

 

それだけに留まらずルーシィ達のいる場所まで波が襲いかかってくる始末。

 

「きゃーーーー逃げてーーーー!!」

 

「え、ええええーーーー!!?」

 

ルーシィとついでに巻き込まれたエギス。哀れ、二人も波に呑み込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「は…?」

 

「あちゃー、やっぱこうなったか…」

 

今の光景を見てリーダーが呆然とし、アミクが頭を抱えた。外では凄惨な状況になっていた。

砂浜には大量の船の残骸が積み重なっており、その近くではテロリスト達が泡を吹いて気絶している。港が少し抉れて水浸しだ。

幸い、ハルジオンの人々はすぐに逃げたおかげで誰一人被害はないようだったが…

 

あっとよく見ると港でルーシィともう一人の男性が目を回している。あれはノーカン。

 

 

「な、なんなんだあれは…」

 

「初めてナツとルーシィが出会った時もこうやって船を移動させたって聞いたけど…こりゃヤバイね。人為的に津波起こせるんじゃ堪ったもんじゃないね」

 

海から襲撃が来る可能性も考えてあったのでその対策としてルーシィの星霊、アクエリアスに力を貸して貰うということになっていたが…。もはや災害レベルだ。いや、これくらいの被害ならまだマシか…?

昔のハルジオンの被害の大部分はナツがやりすぎたせいだし。

 

「今回はルーシィがいて本当に助かったよ」

 

「こ、こんなはずじゃ…なぜだ…なんでなんでぇ!?」

 

「あー…なんかすみません…」

 

衝撃的すぎたのかまたキャラが崩壊してるリーダー。泣き喚いて駄駄を捏ねるなんて幼稚な行動を取り出した。

こう言うタイプは完璧だと思っていた自分の計画が崩れると脆くなるのだ。かわいそうになってきたので魔法で眠らせておく。

 

「『子守歌(ララバイ)』…おやすみ」

 

「嫌だ嫌だ…すぴー」

 

ついでに倒した他のテロリスト達の軽い治療もしておいた。もちろん拘束も忘れずに。

 

「さて…今度こそ終わったかな。はぁ、後始末の方が大変そう…」

 

アミクはげんなりした顔でそう言うと部屋を出て行ったのだった。

 

「あ、隣の部屋にヒスイ姫いますよ。後は彼女に話を聞いてください…」

 

出て行く前に説明が欲しそうな兵士たちにそう声をかけるのも忘れずに。

 

 

 

 

「お疲れ様でした」

 

「今回はルーシィのおかげで色々噛み合ったね。入れ替わりといい海の対処といい」

 

「あたしじゃなくて星霊のおかげだけど…結局港にも被害出ちゃったし。でも二人だけでもなんとかなってよかった」

 

しばらくした後、無事にルーシィ達とも合流してルーシィと本物のエギスを連れて本物のヒスイのいる部屋にまでやってきた。アルカディオスは事件の後始末で忙しいので不在だ。

ヒスイとアルカディオスはアミクとテロリスト達が話をしていた部屋の隣の部屋で待機していて、そこの壁だけ防音はしていなかったのでヒスイ達にも状況は伝わっていた。

 

「初めましてヒスイ姫。私が本物(・・)のエギスです」

 

「こちらこそ。本物(・・)のヒスイ・E・フィオーレです」

 

ややこしいが、さっきは互いに偽物だったためやっと二人は面会に成功したというわけである。

 

「怪我はありませんか?」

 

「少し濡れたくらいでなんともありませんよ」

 

「ほんとすみません…」

 

ルーシィが縮こまった。というか何気に偉い人を巻き込んでしまったのだが良いのだろうか。本人はあまり気にしてなさそうだし大丈夫そうだが…。

 

「しかし…全てヒスイ姫の作戦だったのですね。あらゆる場合を想定していたとは…」

 

「すべてが私の案ではありません」

 

ヒスイはアミク達の方を見る。

 

「彼女達のおかげで対応の幅が広がりました」

 

アクエリアスの力を使うことを提案したのはルーシィだ。ちなみにヒスイ達に隣の部屋待機させたのはアミクの案である。

 

「テロリスト達も全員捕縛しました。住民達も無事。多少の被害も許容範囲です」

 

「…本当に申し訳ありません。私の国での問題を持ち込み巻き込んでしまうなんて…」

 

エギスは申し訳なさそうに頭を下げる。確かに元々はテロリストはボスコの闇ギルドだったわけだが…。

 

「…貸し一つですよ?」

 

ヒスイが少し悪戯っぽく笑って告げると、エギスは彼女の気遣いに気付いて黙って顔を伏せた。

 

「あなた方との会談も行います。ボスコと良い関係を築きたいのは私も同じですからね」

 

「…感謝いたします」

 

なんだかエクリプスの一件からヒスイは一段と成長したように感じる。あの件は彼女にとっても自分を省みる大きなきっかけになったのかもしれない。

とりあえず彼らのことはこれで良さそうだ。

 

 

「アミクさん達も本当にありがとうございました。あなた方が居なかったらこうも上手くいかなかったでしょう」

 

ヒスイはアミク達にも感謝を述べた。

 

「助けになれてよかったですよ。珍しく大きな問題も起こらなかったし…」

 

「そうね…変などんでん返しもなかったし」

 

アミク達が遠い目になった。アミク達にとって何事もなく事件が終わるのはちょっと珍しい。

まぁ、アクノロギアに襲われたり評議員と敵対しそうになったりするのもそうそうないだろうが。

 

 

 

「今回で発生したハルジオンの被害は国が補填します」

 

「「ありがたき幸せ!!」」

 

アミクとルーシィが同時に土下座した。頭が上がらない。それを見てヒスイが顔を綻ばせた。

 

「あなた方にまた会えて良かった」

 

本心の言葉だとすぐわかった。もしかしたらアミク達に仕事を依頼したのは彼女達に会うための口実でもあったのかもしれない。

 

「次は仕事ではなく『友』として会いたいですね。ナツさん達も一緒に」

 

そう言われたアミク達は揃って顔を上げ、喜色を浮かべた。

 

「ずっと『王女』でいるのも大変ですから」

 

ヒスイも照れ臭そうに笑った。

 

ヒスイに「友」だと呼ばれたことと、彼女の笑顔が見れた事が今回の最大の報酬だと言っても良いかもしれない。

 

 

後日。

 

フィオーレ王国とボスコとの貿易が決まったとのニュースが新聞で大々的に報道された。

 

どうやら会談はうまく行ったようだ。これがボスコとフィオーレとの関係の向上に繋がると信じたいものだ。

 




今回の話、とっ散らかっててちょっと分かりづらかったかもしれませんが、つまりエギスと会っている時からアミク=ヒスイになっていたわけです。
三人称で「ヒスイ」と「アミク」がごっちゃになっていましたが敢えてそう表記しました。これが叙述トリック…いや、ミスリード?

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