「えーっと、こっちからだったような…」
アミクは一人で声の主を探して走っていた。仲間達に説明もせずに置いてきてしまったが声が聞こえた途端、体が勝手に飛び出してしまった。彼らには後で謝っておこう。
さっき、『
アミクが氷を通して聞いたときは微かに聞こえる程度だったが、氷が溶けた事によりはっきり聞こえるようになったのだろう。
「…でも、なんとなくどこかで聞いたことある気がする…うーん、覚えてないや」
アミクの記憶を掠める声だった。確かに、聞いたことがあると思う。人の名前の記憶力はほとんどないが、耳の記憶力に関しては自信がある。
「離れたらまた声が分かりづらくなっちゃったし…ん?」
前方から足音が聞こえてきてアミクは足を止めた。前からだれかが歩いてくる。
覆面を被った大柄な男。髪を後ろに纏めて小さなアフロのようになっている。
「…誰ですか?貴方もトレジャーハンター?」
「トレジャーハンターじゃねーんだわ」
男が両腕を広げる。思わず身構えて警戒する。なんだか彼から嫌な感じがする。
「さぁさ、返れや返れ、遠き日の思い出に」
「…え?えええ!?」
するとどうだろう。アミクの体に異変が起きた。どんどん体が縮んでいくではないか。
服のサイズが合わなくなり、上着がブカブカになった。さらにスカートとニーソックスがずり落ちてしまう。
「ち、ちっちゃくなっちゃった!!」
アミクの姿が10歳前後の時のものになってしまったのだ。ロリアミク爆誕である。
ツインテールはそのままだが背が低くなり、大きかった胸も小さくなって可愛らしくなってしまった。彼女の足元にはサイズが合わなくなったスカートとニーソックスが落ちてある。靴もブカブカだ。
「なにこれぇ!ふくがブカブカ!!パ、パンツおちちゃう〜!」
ブカブカの上着を抑え、パンツが落ちないようにするアミク。ブラジャーも落ちかけていてアミクは涙目だ。
「これ、あなたのしわざなの!?」
「そうなんだわ。オレの名はドリアーテ。『
大男────ドリアーテは指をパキ、と鳴らした。
「ガキにすると始末が楽なんだわ」
「さきゅばすあいって…たしか、やみぎるどじゃなかったっけ…?」
「その通りなんだわ」
闇ギルドのリストにそのような名前があったような気がする。でもなぜこんな所に闇ギルドが?
「もしかしてあなたはこのむらがこおってることとかんけいあるの?」
「直接は関係ねーんだわ。ま、お前が知る必要はねーけどな。どうせお前は死ぬんだからな」
ドリアーテは子供になったアミクに向かって突っ込んできた。アミクを殺すつもりだ。
「さっさと片付けちまわねーとな」
「えー!?こんなじょうたいでたたかわないといけないの!?」
アミクは慌ててドリアーテから逃れようとする。しかし、体の動きが鈍い。子供の体になったせいかすごく動きづらい。今の自分には大きすぎる靴が邪魔だ。急いで脱ぎ捨てる。
「うわわわ!?」
すぐに追いついてきたドリアーテがアミクに拳を振るってきた。なんとか必死に転がってそれを避ける。回避行動だけで一苦労だ。
「ようじぎゃくたいだよ!!『音竜の
アミクも反撃しようとするが…。アミクの両腕からは囁き声のような音しか出なかった。これでは全然威力が出ない。
「あ、あれー!?まほうが…!!」
動揺するアミクにドリアーテの蹴りがとんできた。
「がふっ!!」
避けれずにモロに喰らってぶっ飛ばされてしまった。小さな体は軽いせいか長い距離を吹っ飛んで壁に叩きつけられる。
「いいいっ!!?いたい!!いたい!!」
すごく痛い。蹴られただけなのに涙が出るほど痛い。
「いたすぎるでしょ!!?しかもまほうもよわくなってるし!!わたしがこのくらいのとしのときでももっとまほうはつかえたはずなのに…」
「外見は追加効果。『退化ノ法』は人間の能力を下げる魔法なんだわ。だからお前の魔法も弱体化してるし、防御力も下がってるんだわ」
つまり全体的に大幅なデバフ効果を与えるのか。子供の体になってしまうのは副次効果だと。なんて凶悪な魔法だ。
しかもあくまでデバフが主な効果ならばアミクの魔法『
そもそも今の状態じゃ『
「ひとをこどもにするなんて!もしかして
「甚だしい侮辱なんだわ」
覆面のせいで表情はよくわからないが、ドリアーテは少し怒ったようだった。彼は再びアミクに向かってくる。
「その生意気な口を黙らせてやるんだわ」
「ひえええ!!こわいよぉ!!」
アミクは未だに感じる痛みを耐えながら拙い足取りでドリアーテから離れようとする。しかしドリアーテの方が早い。
「ひっ!」
アミクの真上で拳を振り上げるドリアーテ。この体のせいでただでさえ大きい彼の体がもっと大きく感じる。思わず恐怖で怯んでしまった。
「い、いやああ!!」
だが、その体に鞭打って敢えてドリアーテの方向に転がる。
目論見通り、アミクの小さな体はドリアーテの股を潜って後ろへと抜けた。
「こどものしんたいもすてたもんじゃないね!」
そのまま走って逃げようとするアミク。
「逃がさねーんだわ」
「ああああっ!!?」
だがそう簡単にはいかなかった。すぐにドリアーテが追いついてきたアミクの背中に拳を叩き込んできたのだ。
地面に叩きつけられ、激痛が身体を走り抜ける。
「うう…いたい…いたいよう…」
あまりの痛さにポロポロと涙を流す。精神までもが身体に引っ張られて幼くなっているかのようだった。
「おーおー、泣いちまってかわいそうにねぇ」
全くそう思ってなさそうな口調で、ドリアーテはアミクの背中を踏む。
「や、やだぁ…!いたいのやだぁ!」
「安心しな。痛みを感じる前に楽にしてやるよ」
彼は淡々と言って両手を握り頭上に振り上げる。アームハンマーでアミクを叩き潰すつもりか。
「殺す前に1つだけ教えといてやろう。この世には決して踏み込んじゃいけねえ世界がある。冥府の門の向こう側だ。テメェらは今、その入り口に立ってんだわ」
(冥府の…門?)
なんだかそのワードが引っかかる。いや、そんな場合ではない!
「くはははっ!!ガキ相手に何言ってんだか」
ドリアーテは高笑いすると、その腕を振り下ろした。このままアミクの小さな体が潰れてしまう────
「アミクに何すんだコラー!!」
直前、炎の飛び蹴りがドリアーテの背中に直撃する。
「がっ!?仲間か!?」
「ナ、ナツー!!」
そう我らがヒーロー、ナツの仕業だ。ナツは咄嗟にアミクを抱き上げてドリアーテから離れた。
「よーし、無事かアミク…ってのわー!!?なんでお前ちっちゃくなってんだー!!?」
アミクの姿を見たナツが目が飛び出んばかりに驚いていた。今気づいたんかい。
「ふえええん、こわかったよぉ!」
「うへえ!?泣くな泣くな!つーかお前がこうなっちまったのはアイツの仕業か!?」
泣き出すアミクに慌てるナツ。流石のナツもロリに泣かれるのは困るらしい。
「ぐすん…そのひとのまほうだよ!ナツもきをつけて!!」
「く…一人増えても関係ねーんだわ」
ナツの攻撃のダメージで目元を歪めるドリアーテ。
「気を付けたところでこの魔法は防げねーんだわ」
「お?なんだ?」
「ナツ!!」
ナツの体が見る見る縮んでいき…。
「お、オレもガキになっちまった!」
「そんなぁ…!」
あっという間にショタナツの出来上がり。
ガード不能の超デバフなんて強すぎる。
「ぐえ!力が入らねえ!」
「きゃあ!」
しかも力が落ちたせいで抱きかかえていたアミクを落としてしまう。尻打った。
「くははっ!俺の魔法の前じゃどんな奴も無力なんだわ」
「ナツ!このまほうをくらったらすべてののうりょくがおおはばにさがっちゃうの!このままじゃかちめないよ!」
「そんなもんやってみなきゃわかんねーだろ!!」
ナツが口を開けてドリアーテに向かってブレスを吐こうとした。
「『火竜の咆哮』!!…あえっ!?」
当然、ナツの口からは小さな火の玉が出てきただけだった。
「ダメだこりゃー!!」
「だから無駄なんだわ。お前らまとめて始末してやるよ」
その様子を鼻で笑ったドリアーテが駆け出してくる。
「や、やばいよー…」
「まいったなチクショウ」
ナツが来ても全く状況は改善しなかった。あの魔法のせいで2対1なのに圧倒的に不利。どうにかしなければ…。
ナツがチラッとアミクに目配せする。そしてドリアーテの後ろの方に視線を向けた。
「…つーか何だアレェェェ!!?」
ナツがびっくりしたように大声で叫んだ。ドリアーテはナツの視線を見て自分の後ろに何かあるのか、と反射的に振り向く。
しかし、そこには何もなかった。
「何を…」
ドリアーテがアミク達の方に向き直ると。
そこにも何もなかった。アミクとナツもだ。彼らは忽然と消えていた。
「しまった!!逃げられた!!」
ハメられた。まんまと子供騙しにやられたドリアーテは屈辱と怒りに震えたのだった。
●
上手くドリアーテから逃げだせたアミク達。
「なーっはっはっはー!!ガキにはガキの戦法があるんだっ!!」
「たんじゅんなこどもだましの方がひっかかったりするもんだよね。なつかしいなー。むかしもよくこうしてギルダーツのことだましてたよね」
「アイツ毎回引っかかるんだよなー」
ナツが目配せしてくれたお陰でアミクもすぐにナツの思惑を察して行動に移すことができた。昔のよくやる手段だった。
「ひとまずあのひとはほうっておくしかないよ!まずは「こえ」のぬしをさがそう!」
「そーだ!オレも聞こえたんだよそれ!だからお前を追っかけてたんだよ!」
ナツにも聞こえたのか。ならば話が早い。
「たぶん、このむらをすくうじゅうようなてがかりだとおもうんだ!」
「ああ…オレも呼ばれてる気がする。それにこの声、どっかで聞いたことあるんだよなぁ…」
「ナツも?わたしもききおぼえがあるんだよね」
二人して聞き覚えがある声なら、声の主は二人とも知っている人物なのだろうか。未だに思い出せないが…。
とにかく、まずは声の主を探すことを目標にして小さい体を走らせるアミク達だった。
●
「ナツー!」
「アミクー!ブロッコリーが空飛んでるのー!」
「世話が焼けるわね。ホントにどこ行っちゃったのかしら」
一方、ルーシィ達と別れて空からアミク達を探しているエクシード達。
「誰かの声が聞こえるって言ってたよね」
「地面から声…アミクが聞いたのと同じ声ということかしら」
「氷が溶けた途端、アミクだけじゃなくてナツにまで聞こえるようになったみたいなの。一体その声って誰のものなの?」
マーチ達があれこれ話していると、マーチが何かに気付いて「…こっちに来るの!」と小声で言ってハッピー達の手を引いた。
彼らは近くの木の葉っぱに身を隠す。
「な、なんなの?」
「静かになの。なんかいるの」
「え…うわっ!」
ギャアアアアアアアア
直後に上空から耳障りな鳴き声が聞こえてきた。ハッピー達は口を押さえて息を潜める。
マーチ達が隠れている木の上を大きな生き物が飛行した。長い尻尾と翼、巨大な一つ目を持つ鳥のような生き物。不気味な怪鳥だ。
「マーチ、あれ何?」
「知らんなの。でも捕まえればいい見世物になると思うの」
「考え方が悪党だよ!?」
「あと、肉がいっぱい取れそうなの」
「食べれるのかな…不味そうだけど」
「アンタ達、ふざけてる場合じゃないでしょ。あんなのがいたら空も飛べないわ」
どんな生物かは分からないが、見るからに危険そうだ。もし戦うことになったとしたらまともに戦えるのはマーチのみ。あの図体だ、マーチも苦しい戦いを強いられるかもしれない。
だからなるべく戦闘は避けたかった。
「なの。なんとかできないのかな」
「あい…アミクもナツもどこ行っちゃったの…」
しばらく身を潜める三匹だった。
●
崖から飛び降り、木の上を渡り、いくつもの巨人の氷像を通り過ぎ、屋根の上を走る。アミク達は自分達の聴覚を頼りに声の主を探していた。
二人とも氷の上を裸足で走っているため、すごく冷たい。
「てか、この格好いつになったら戻るんだ!?」
「あのひとからはなれてももとにはもどらないね…じかんけいかたいぷか、たおさないともどらないたいぷかな」
「やっぱアイツ倒しとくべきだったかな」
「いまのわたしたちじゃむずかしいよ。ろくにまほうもつかえないし」
それにしても、ドリアーテの目的はなんだったのだろう。トレジャーハンター達みたに永遠の炎でも狙っていたのだろうか。
「ところでアイツ何もんだったんだ?ドロボーの仲間か?」
「やみぎるどのひとだよ」
「そーなのかー!?なんで闇ギルドの奴がこんなトコにいるんだ?」
「わたしがききたいけどね。けど…このむらのじょうきょうとむかんけいとはおもえない」
ドリアーテの言葉や様子を見ると彼は何か知っていた可能性がある。
「クソー!色んな奴がいてよく分かんねーけど、声の奴を見つければなんとかなるだろ!!」
「そうだとねがいたいよ…」
アミク達は「声」に希望があると信じて走り続けるのだった。
誰だ、バイオハザード8怖くないって言った奴。
普通に怖いじゃんかぁ!!