妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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さぁ、がっつりやっちゃいますよ!ちょっとグロ注意。


冥府の門、開門

彼女が私に魔法を教えた。魔法の魅力を自分の体で味わった。

 

同時に音楽の魅力も教えてくれた。音楽で世界を変えることもできると豪語された。

 

音楽を奏でる時に誰かを愛する心を忘れないで、と諭された。音楽は心の表現でもあると。

 

憎しみを持って音楽を奏でても、誰も幸せにならない。私には綺麗な音色を保って欲しいと望まれた。

 

魔法も同じ。魔法も音楽も、人の心によって闇にも光にも染まる。心って大事なんだなぁ、って子供ながらに思ってた。

 

 

「いつか…貴方が心から大切だと思う人と出会えたら…その『音』を聞かせてあげて?」

 

 

頭を撫でながら彼女は私にそう言った。すっと心に入ってくる言葉だった。もしかしたらそれは元々の私の願いだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

彼女は優しかった。変な所もあったけどそこも含めて大好きだった。

 

 

ずっと一緒に居られると思ってた。

 

この生活が続くと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は走った。

 

走って。走って。走って。

 

 

遠くまで。

 

 

遠くまで。

 

 

恐怖と悲しみを振り払うように。

 

 

 

 

 

そして私は────

 

 

 

 

 

新たな出会いと大切な居場所を見つけた。

 

 

 

 

 

魔法評議会院『ERA』。そこでは9人の議員による会議が行われていて様々な意見が飛び交っていた。

 

 

「大魔闘演武、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が優勝か…」

 

「やれやれ」

 

「天狼組が帰ってきたらさっそくコレですよ」

 

「やはり目立つギルドだのう」

 

「そもそも大魔闘演武なる大会の是非について論じる必要がありそうですな」

 

「しかし一国が主催してるとなると、扱いが難しいわい」

 

 

どうも彼らは妖精の尻尾(フェアリーテイル)を好ましく思っていない様子。大会で優勝したという輝かしい功績をまるで問題でも起こしたかのように言っている。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)が目立つ事そのものが気に食わないのだろう。

 

議員達が会議をしている部屋の扉の前でドランバルトとラハールは互いに顔を見合わせ、呆れたような苦笑を浮かべる。

そして目の前にいる少女に気遣うような視線を向けた。

 

「…むー」

 

案の定少女────アミクは怒ったように頰を膨らませていた。

 

 

何故彼女がここにいるのか。

 

なんと久々の評議院からの要請と言う名の呼び出しである。

 

7年前までアミクは評議院ととある契約をしていた。

 

「アミクが評議院からの依頼をこなす代わりに妖精の尻尾(フェアリーテイル)が起こす問題にある程度目を瞑ってもらう」というものだ。

アミクの魔法に目を付けた評議院と妖精の尻尾(フェアリーテイル)を嫌う評議院からギルドを守りたいアミクとの利害が一致したための契約だ。

 

評議院からの依頼というのは例として議員の治療や遺跡の探索などのこと。呼び出される頻度もそんなに多くなく、ギルドの仕事とも両立できていた。

そういう契約があったお陰で妖精の尻尾(フェアリーテイル)が問題を起こしてもアミクの存在が防波堤となってくれていたのだ。

 

だが、アミクが天狼島で消えて7年も経ったせいでその契約も自然消滅したかに思われたが…。

 

今になってその契約のことを持ち出されて呼び出しを喰らったのである。

 

 

「…なんなの、なんなのさ。優勝したのがそんなに悪い事なの?」

 

プリプリしている彼女はトントントンと床を足で突いた。自分のギルドがあんな風に言われていたら良い気分になるわけがない。

なのでドランバルト達も複雑そうな表情で黙っていた。

 

「大体呼ばれてきたのに待たされるってどうなのかな?会議のない日じゃダメだったの?もしかして嫌がらせ?」

 

温厚な彼女にしては珍しくイライラしながら不平不満を口にしている。仕事が終わった直後に呼び出されて余計にご機嫌斜めのようだ。

 

「帰ってきた夜に急に来いって言われてマーチに無理して送ってもらったのに!仮眠もちょっとしか取れなかったよ!なのに何時間も待たされてやっと来たと思ったら今度は会議ぃ!?舐めんな!!」

 

口調まで荒っぽくなっているアミク。彼女が不機嫌な理由は寝不足も入っているようだった。そこでやっとドランバルトが口を開いた。

 

「気持ちはわかるが…そう言うな。評議院も色々忙しいんだよ」

 

「…本当に?」

 

まぁ確かに犯罪者達の確保や魔導士達の問題解決などやることは多そうではあるが。今話してる内容が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の愚痴ばかりというのは納得がいかないのだが。アンチどもめ。

 

「ってか私この会議聞いちゃっていいの?」

 

「…一応極秘でお願いします」

 

まず扉越しでも、アミクの耳でなくとも普通に話が聞こえるってセキュリティ上問題があるのでは…無用心すぎる。

それとも聞かれて困る話はしてないということか?それはそれで「大事な話しないで何やってんねん」となるが。

 

なんか自分が粗探ししているみたいで嫌になってきた。

 

「はぁ…妖精の尻尾(フェアリーテイル)のこと嫌いなのは7年前と変わんないんだね」

 

壁に背中を付けて座り込むアミク。ドランバルトはなんともない風を装ってアミクに聞く。

 

「ウェンディは元気か?」

 

「元気だけど…なんかメストってやけにウェンディに入れ込んでない?」

 

ジトーッと横目でドランバルトを見上げるアミクにメストは言葉が詰まった。しかしすぐに「天狼島では一応パートナーだったからな、気に掛けてるだけだ」と誤魔化す。

 

「ふーん…」

 

アミクのセンサーによればこの男にはロリコンの容疑が掛けられているのだ。ウェンディの事を大切に思っているのは事実だろうが、果たしてどのような感情か。

…この前アミクも幼女になったがあの姿のままでドランバルトの前に姿を現したらどんな反応をしただろうか。怖いもの見たさで気になる。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)と言えば、今『音竜(うたひめ)』が来ているそうではないか。せっかくだ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)など辞めて評議院に所属するよう打診してみてはどうだ?」

 

来てるも何もすぐそこの扉の前で会話を丸々聞いてますが。アミクのツインテールがユラユラ揺れる。

 

「それは良いですな!あの娘もあんなギルドで魔法を燻らせるより常に評議院で使ってあげた方がよっぽど有意義というものです」

 

「馬鹿な子だねぇ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)なんかのためにあんな契約までして」

 

アミクは我慢できずにガバッと立ち上がる。彼女の目は笑っていなかった。

 

「帰ってもいい?いいよね?帰るわ」

 

「待て待て頼むから堪えてくれ…本当にすまん…」

 

「私からもお願いします」

 

帰ろうとするアミクをなんとか引き留めるラハール達。アミクは溜息をついて再び座り込んだ。

 

「それはあなた方が決めることではなかろう。我々があの子の意思を捻じ曲げるようなことがあってはならん」

 

思わぬ言葉に目をパチクリさせた。今の声は…7年前の評議院にもいたような?

 

「オーグ老師!ですが『音竜(うたひめ)』をあのギルドに置いておくのは勿体ないのも事実!」

 

「それはあくまで評議院の都合。それに彼女との協力関係はすでに築いております。それで十分でしょう。まぁ…その関係も真っ当なものかは疑問ではありますがな」

 

「ワシが言えたことでないですが」とオーグ老師と呼ばれた人物が溜息をつくと、他の議員達も押し黙った。

アミクも少し驚く。ヤジマのいない評議院の中でもそのように言ってくれる人がいるとは。

 

「皆…静粛に。本日の議題は冥府の門(タルタロス)に関してだ」

 

議長らしき人物がそう言ったその途端、議員たちに緊張が走るのが感じられた。アミクも静かに聞き耳を立ててしまう。

 

「知っての通り、冥府の門(タルタロス)傘下と思われる闇ギルドがここ数日で7つも消滅している。何者の仕業かは知らんが、我々にとってはありがた迷惑というもの。正規ギルドの仕業だとしたら、報復の可能性もあるからな」

 

それは初耳だ。いつの間にかそんなことになっていたとは。もしかして夢魔の眼(サキュバス・アイ)もその中に含まれていたりするだろうか。

 

「あれではないのかね? ホラ…独立ギルドを名乗っている…」

 

魔女の罪 (クリムソルシエール)か!?ウム…可能性はあるな」

 

「どうせまた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仕業ではないのかね」

 

「強い力は誇示したくなるのが心理」

 

また自分のギルドの悪口を言われてアミクの表情は不機嫌になる。彼女を見てドランバルト達があたふたする。

 

「そうやって何でもかんでも妖精の尻尾(フェアリーテイル)と関係付けるのはどうかと思いますぞ」

 

「オーグ老師はやけに妖精の肩を持ちますな」

 

またオーグが咎めるように発言してくれた。現金なものでそれで少し機嫌を直すアミク。

 

「いや…可能性…という話でしたら、親ギルドである冥府の門(タルタロス)が子ギルドを接収しているとも考えられませんかな」

  

「何の為に?」

 

「さあ。しかし軍備増強、末端人員切り捨てなど、いくらか考える余地がある」

 

最もである。それこそ、なんの根拠もなく妖精の尻尾(フェアリーテイル)のせいにするよりよっぽど現実的だと思う。

 

だが、他の議員達はそうは思わなかったようで。弾けたように大笑いをし始めた。

 

「闇ギルド同士の共食いですと?」

 

「それこそありえませんな」

 

冥府の門(タルタロス)はすでに十分な軍備が整っていると推測すべきじゃ」

 

「オーグ老師もお年ですかな」

 

別に笑い飛ばすほどおかしな話でもあるまいに。ちょっと視野が狭いのではないかね?

 

「まあ待て、オーグ老師の意見も一理ある」

 

「議長!」

 

議長…名前は忘れたが…グラグラ…なんとか?…議長は冷静に客観的視点で物事を考えられる人物のようだ。

 

「今まで棚上げにしてきた冥府の門(タルタロス)問題に今こそ取り組む時じゃ」

 

静まり返った会議室に議長の声が響く。

 

「敵の正体は不明。だがここを崩せばバラム同盟は全崩壊する。今こそ我々、魔法評議院最大の力をもって戦う時なのだ」

 

議長の言葉に平和ボケしていた議員達も事態の深刻さを悟ったようだ。

議長がしっかりした人物でよかった。楽観的すぎた事態を動かす決心をしてくれたのだ。

 

「ようやく重てぇケツを上げたってか」

 

「時間は掛かったが、待った甲斐があったな。これでバラム同盟の闇ギルドを掃討できる」

 

「思うんだけどさ、ギルド一つしか残ってないんだから『同盟』は成り立たないんじゃない?」

 

「俺たちも便宜上そう呼んでいる面もあるけどな。それにまだ六魔とグリモアの傘下のギルドや残党が残ってる」

 

とにかく議長の言う通り冥府の門(タルタロス)さえ潰せば、ようやく世間を騒がせ苦しめたバラム同盟は完全にその機能を失うことになる。

 

おそらくこれからは冥府の門(タルタロス)の本拠点を徹底的に調査し、場所を特定したら評議院が直接乗り込むなり前回の六魔将軍(オラシオンセイス)のように魔導士ギルドに討伐を依頼するなりするのだろう。

そうなったら多分…と妖精の尻尾(フェアリーテイル)にも依頼が来る可能性が高い。

 

(ギルドのみんなにも伝えて、一応準備しておかなきゃ)

 

アミクはドランバルトに気になっていたことを尋ねた。

 

「あの…オーガさんって、7年前は私たちのギルド嫌ってた気がするんだけど…」

 

「オーグ老師だ、失礼だろ!」

 

今回やたらと妖精の尻尾(フェアリーテイル)の肩を持ってくれたオーグ老師。アミクの記憶では7年前では他の議員と同じように妖精の尻尾(フェアリーテイル)に非友好的な態度を取っていた気がするのだが。

一体どのような心境の変化があったのだろうか。

 

「7年もありゃ考え方も変わるだろうさ」

 

ドランバルトは肩を竦める。

 

「そういうもんかな」

 

あの妖精の尻尾(フェアリーテイル)アンチが多い中で庇うような発言をしてくれたのは嬉しい。後でお礼言おうかな、と思っていると。

 

 

 

 

背中に怖気が走った。

 

 

 

予感。   危険。   音。    声。

 

 

 

扉が慌ただしく開かれる音がする。

 

 

「大変です皆さん!!」

 

 

部下の一人だろうか。嫌な予感が止まない。危険信号が脳みそを刺激してる。

 

脳内で警告音が鳴り響く。

 

 

「何事だ」

 

 

「バカモノ!!議会中だぞ!!」

 

 

「そ…それどころじゃ…侵入…者…」

 

 

 

 

光。そして音。

 

 

 

 

「伏せてええええええええ!!!!」

 

 

 

 

アミクは無我夢中で近くの人を突き飛ばした。

 

 

 

 

 

音。

 

 

 

 

音。

 

 

 

 

爆音。

 

 

 

光。

 

 

 

闇────

 

 

 

 

 

 

意識が覚醒した。

 

 

「…うっ…な…にが…」

 

「アミク!よかった、生きていたか…」

 

ドランバルトが目の前でホッとした表情を浮かべている。

 

 

何だ。何が起こった?何で自分は倒れている?何でこんなに全身が痛む?なぜ頭から血が流れている?

 

思考能力が低下してまともな思考ができていないようだ。

 

「メス…ト…他の…人は…」

 

「他の人より、まずは自分を治せ!」

 

そう言ってドランバルトはアミクから離れていった。そこでようやく周囲の状況を把握できた。

 

「なに…これ…」

 

血の匂いがあちこちからする。壁も天井も何もかもが崩れて瓦礫と化していた。

 

そして────

 

 

倒れ伏す人々。血溜まり。誰かの腕。誰かの足。誰かの頭────。

 

死臭。死体。無音。

 

 

死んでいる音。

 

 

 

「嘘…ぅあ…あ…あ…」

 

 

酔ってもないのに吐き気が込み上げて来た。

 

 

何だこれ。

 

 

死んでる?

 

 

全部死体?

 

 

何でみんな死んでる?

 

 

 

 

違う。

 

 

死んでない。

 

 

怪我してるだけだ。大怪我だ。

 

 

早くみんな治さないと…死んでないから…治せるから…。

 

 

 

アミクはボロボロの床を這って近くに倒れていたカエル頭の人物に近付いていった。

 

血まみれで息をしてないことはすぐに分かった。

 

 

大丈夫。息してないくらい大丈夫。

 

 

心臓も動いてないけど大丈夫。

 

 

私なら治せる。

 

 

治せる。治せる。治せる。治せる。治せる。

 

 

「…『治癒歌(コラール)』」

 

優しい光が彼を包んで…傷も治って…。

 

 

治らない?

 

 

魔法が失敗してしまったのか。

 

 

もう一度。

 

 

 

治らない。

 

 

 

死体。

 

 

ずっと死体。

 

 

どうしようもなく死体。

 

 

 

現実を認めろ。治癒魔法でも死者は生き返らない。

 

 

死んだら無意味。

 

 

 

死んだら…。

 

 

 

 

「ラハール…!しっかりしろ…!」

 

「う…く…ドランバルト…」

 

 

ドランバルトの声でラハールの苦しそうな声が聞こえる。なぜかそれが遠く感じた。

 

生きてる?彼は生きてるの?

 

 

「…!おい!自分を治せと言っただろ!」

 

 

いつの間にかラハール達の近くにいた。無意識にラハールに魔法をかける。

 

「『治癒歌(コラール)』」

 

傷が治っていく。

 

ラハールの顔色が良くなってきた。

 

 

生きてる。間違いなく生きてる。

 

 

これは現実?それとも自分の都合のいい妄想?

 

 

「…ありが、とうございます…あなたがさっき突き飛ばしてくれなかったら…」

 

 

そこまで言ってラハールは気を失った。そうか、さっきのはラハールだったのか。

 

 

その感謝の「声」を聞いて。

 

 

ようやくアミクは上の空だった心がようやく現実へと戻ってきた。

 

 

「…よかった…よかったよぉ…」

 

 

涙が零れそうになる。だが、ドランバルトの怒声が涙を引っ込める。

 

 

「しっかりしろ!まだ終わってねえ!他に無事な人がいるか探すぞ!お前は早く自分を治療だ!分かったな!」

 

「…どうしよう。メストが頼もしく見える。ロリコン野郎なのに」

 

「うるせえ、ふざけてる場合か!!」

 

軽口を叩いたお陰で…少しだけ気持ちが落ち着いた。現状なにが起こったのかは分からないが、のっぴきならない事態になっているのは分かる。

今は生存者を探さなければ…。

 

アミク達は議員達が会議を行っていた部屋…の残骸を見た。

 

「そん…な…」

 

 

 

死んでいた。

 

 

 

誰も彼も死んでいた。

 

 

瓦礫に押し潰され。

 

 

腕が千切れ。

 

 

頭部が破裂し。

 

 

鮮血が飛び散って。

 

 

 

悲惨な現場が脳裏に焼き付いていく。

 

 

 

「うぅ…!!」

 

 

また吐きそうになった。

 

 

「…治さなきゃ」

 

 

アミクが近づこうとすると、ドランバルトがアミクの腕を掴む。

 

 

「分かってんだろ…もう、手遅れだ」

 

 

「でも…!!」

 

 

ドランバルトの顔を見たアミクは言葉を失う。

 

 

真っ白な顔になって瞳の焦点も合っていない。そう、ショックなのは彼も一緒だ。でも、冷静にアミクを諌めている。

 

冷静じゃないアミクを必死に引き止めている。

 

 

「まずは、自分を大事にしろ…!」

 

彼は自分のショックを抑えてアミクを気遣ってくれていた。その想いが伝わって何も言えなくなる。そしてやっと冷静になれた。

 

 

「…うん…」

 

アミクは軽く自分の怪我を応急措置する。魔力はあまり使いたくないのでこれくらいでいいだろう。

 

そして目の前に広がる惨状を見た。

 

「ごめんなさい…助けられなくて」

 

罪悪感を抑えきれずに言葉で出すことで少しだけ解消する。

 

 

その時。

 

 

「ドランバルト…『音竜(うたひめ)』もいるのか…」

 

声が聞こえた。声のする方を見てアミク達は喜色を浮かべる。

 

「オーグ老師!!」

 

老人が一人、瓦礫に埋まっている。でも確かに無事だ。生きている。

 

 

「無事だったか…」

 

「それはこっちのセリフですよ…!今助け────」

 

 

アミクが向かおうとした途端。

 

 

オーグの頭を鷲掴みにして床に叩きつけた人物がいた。

 

 

「え…?」

 

 

その人物はニヤリと悪意しか感じられない笑みをしていた。

 

 

「アカンアカン、あんたは生きてたらアカンわ。狙いは9人の議員全員やからな」

 

酷薄そうな男。首にスカーフをしており、特徴的なのが獣の耳と毛深い尻尾。まるでマーチが人間形態になった姿のようだ。

だが、彼から感じるのは底知れない邪気だ。

 

「誰!?」

 

「オレの名はジャッカル。冥府の門(タルタロス)、九鬼門の1人」

 

冥府の門(タルタロス)!!なぜここに冥府の門(タルタロス)が!?

 

「────地獄で思い出せや、評議院を皆殺しにした男の名をな」

 

「よ、よせ!!」

 

男────ジャッカルが何かをしようとする。

 

 

そう…抑えている老人を殺そうとしているのだろう。

 

 

「ドランバルト…その子とラハールを連れて、逃げろ…!!」

 

「できません!!」

 

「お前たちまで死んでどうする」

 

 

死ぬ…死ぬ…殺される?

 

 

あの人が?

 

 

 

まだお礼も言えてないのに?

 

 

「逃げられへんわ、オレの爆発からはな」

 

「行け!!ドランバルト!!」

 

 

そんなこと。

 

 

 

 

 

「させるかああああああああああ!!!!」

 

 

 

ゴッ!!

 

 

「があっ!!?」

 

アミクの拳がジャッカルの頰を捉えた。ぶっ飛ばす。

 

 

「…お主…」

 

オーグが目を見開いている。急いで彼を埋めている瓦礫を退かした。

 

「オーグ老師!!」

 

ドランバルトが駆け寄ってきてオーグに肩を貸した。アミクはドランバルトに手短に言う。

 

「その人とラハールさん連れて離れて」

 

「…お前は」

 

「言わなくても分かってるでしょ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だよ、私は」

 

「無茶だ!!あの冥府の門(タルタロス)だぞ!?死ぬぞ!!」

 

「ここで私が止めなきゃ!誰が止めるの!!」

 

ドランバルトは逡巡する。このままアミクを置いて行けない。しかし、誰かが倒せなければ被害はもっと大きくなるかもしれない。関係のない一般人が巻き込まれる可能性も…。

 

「お主のような若者が、そこまで身を張る必要はない…まだお主には未来がある…」

 

オーグも息も絶え絶えにアミクを説得しようとする。だがアミクは首を振った。

 

「死ぬ気はありません。それにこれは私の意思です。私の意思は貴方が捻じ曲げることはできませんよ」

 

言葉を失うオーグ。さっき自分が似たようなこと言ってなかったか。彼女はオーグの顔を見て少しだけ表情を和らげた。

 

「…オーグさん。さっきはありがとうございました。あのような事を言ってくれて嬉しかったです」

 

「…聞いてたのか」

 

オーグは溜息をついて目を閉じた。これ以上は何も言うまい、というかのように。

 

「ほら、早く行って!!」

 

「オレは…」

 

「もうこれ以上…誰も死なせたくない…」

 

迷っていたドランバルトはアミクが拳を強く握るのを見て、彼女の覚悟と怒りを悟った。そして決心する。

 

「…お前ら妖精の尻尾(フェアリーテイル)は相変わらずだ…」

 

悔しそうにそう言ってオーグ老師を連れてラハールの方に向かっていく。

 

「いっつ…やりやがったなワレ」

 

土煙の中から頰を摩っているジャッカルが現れた。そして離れていくドランバルト達を目にする。

 

「逃すわけあらへんやろ。全員殺す」

 

彼らを追いかけようとしたジャッカルだったが。

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

音のブレスが行く手を阻んだ。

 

「…邪魔しやがって…!」

 

ジャッカルがアミクを睨む。アミクも睨み返した。ナツの炎のようにメラメラと燃える何かが彼女の瞳に宿っていた。

優しい彼女が怒りで心を燃やし、目の前の敵を全力で叩きのめそうとしていた。

 

 

「…私はアミク・ミュージオン。貴方を倒す者の名前だよ」

 

さっきジャッカルが名乗っていたので、それを踏襲してやる。

魔力が昂ぶる。それに連動するかのようにツインテールもユラユラと揺れた。

その魔力の圧を受けてジャッカルが面白そうにニヤァと顔を歪める。

 

「おもろいやんけ。評議院殺す前にちょっと遊ぶか。付き合ってやるわ」

 

強い。すごく強い。それだけじゃない。何か得体の知れない不気味なものも感じる。

さらに悪いことに今のアミクは万全ではない。さっきの爆発のせいで怪我もしてるし魔力も使ってしまった。

 

 

けど、退くわけにはいかない。

 

 

「今の私、すごーく怒ってるから」

 

 

 

 

 

 

妖精と冥府の門。

 

 

 

 

その最初の戦いが、この場で始まった。

 

 

 




ラハールとオーグ生存。

ラハールは原作じゃ不憫すぎたので…。


確かに評議院って妖精の尻尾(フェアリーテイル)アンチの集まりでもありますよね。
今回アミクが呼ばれたのは契約について多少の変更と続行についての話をするためでした。
急に呼び出して人を待たせるほどのものじゃありませんね、怒っていいです。




関西弁ってこんな感じでいいのかな?
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