妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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しっかし、ジャッカルを先に倒しちゃったから展開を変えねばならんね

いっそミケロ狙う奴無しでもいいかもしれん


傷心の音竜

ギルドは暗い空気に包まれていた。

 

ナツ達はギルドの医務室で黙ってベッドで眠っているアミクを見つめている。そのアミクの側では妖精の尻尾(フェアリーテイル)の顧問薬剤師であるポーリュシカが彼女の状態を診ていた。

やがてルーシィが耐えきれなくなったように口を開く。

 

「アミクは…大丈夫ですか?」

 

「怪我もほとんど治ってるから心配ないよ。今は疲労が溜まりすぎて寝てるだけだ。しばらく寝かせれば完全に回復するだろうね」

 

それを聞いたルーシィ達の空気が緩んだ。ポーリュシカは呆れたような怒ったような視線でアミクを見下ろす。

 

「無茶をするなとあれほど言っているのに…言うことを聞かない子だね」

 

厳しい言い方ではあるが、心配そうな視線が混じっているのはナツ達も気付いていた。

 

 

 

 

ERAの跡地で泣いて自分を責めていたアミクはふっと意識を失って倒れた。元々体が限界だったからだろう。

ナツ達は慌てて気絶したアミクを運んでギルドに帰った。

 

ナツ達がぐったりしているアミクを連れてギルドに入った時、メンバー達はまずアミクが無事だったことに安堵し、憔悴したアミクの姿を見て言葉を失った。

そしてすぐにポーリュシカに診せたのだ。治癒魔法で傷は治ったが、念のためだ。

 

「でも、アミクが冥府の門(タルタロス)を倒すなんて!大金星よね!」

 

暗い空気を飛ばすようにルーシィがわざと明るく言った。

 

「それも『九鬼門』とかの一人だって言ってたな」

 

グレイもそれに乗る。実際アミクが成したことは快挙だ。

『九鬼門』とかいうのも冥府の門(タルタロス)内での幹部的な立ち位置なのだろう。それを倒した功績は大きいはずだ。

 

「情報こそそこまで得られませんでしたが、敵の戦力を減らすことができたのは僥倖ですね」

 

ジュビアも同意する。

しかし心配そうにアミクをチラッと見た。いつもは恋敵、と敵視しているが仲間として心配なのだろう。

 

「…早く元気になるといいですね」

 

そんな彼女の言葉に誰も言葉を返さなかったが、気持ちでは皆同意していた。

 

 

 

 

マカロフは新聞を開き、最新のニュースを読んでいた。少し時間が経ってさらに詳しい情報が載っている。

 

「議員が8名死亡。死傷者は97名…こんなにも多くの人間が犠牲になってしまったのか…」

 

「これでもアミクが尽力してくれたお陰で死傷者は減ったはずです」

 

そう言うエルザの顔も晴れない。犠牲者の数が多い事には変わりないし、この話をアミクにしても決して慰めにはならないだろうと思ったからだ。むしろもっと自分を責めかねない。

 

「それで…冥府の門(タルタロス)が評議院を狙った理由は?」

 

「議員で唯一生き残ったオーグ老師によりますと、エーテリオンを使えなくするためではないかと推測しています」

 

アミクが救ったオーグ老師。彼は現在は別の場所に避難している。彼の居場所は極一部の者にしか知られていないため、しばらくは安全だろう。

 

「なるほどのう…確かに議員がほぼ皆殺しにされてしまった今、エーテリオンは発動できん」

 

「エーテリオンは奴らにとっても脅威だったのでしょう。ありえる話です」

 

エーテリオンは評議院が保有する兵器の一つで、現評議員9名の承認と上級職員10名の解除コードで発射することができる。

だから評議院を襲撃して議員を皆殺しにしようとしたのだろう。シンプルで思い切った行動だが、非常に合理的だ。

 

「それと…『音竜(うたひめ)がいながら襲撃を防ぐことができなかった』と今回の件でアミクに責任を問う声もあるそうです」

 

「どこのバカタレじゃ!!そんなアホぬかしとる奴は!!」

 

新聞をグシャッと握り潰しながら「ぶっ潰してやるわ!!」と怒るマカロフ。

本当に馬鹿げている。そもそも彼女は巻き込まれただけで冥府の門(タルタロス)の一人を倒し、その後も負傷者を治療して回ったのだ。

賛辞どころか的外れな中傷を送ってくるなど、仏の顔を3度もぶっ壊すくらいの所業である。

 

マカロフは新聞を破り捨てると、怒りの矛先を別な存在に向けた。そもそもの元凶へと。

 

冥府の門(タルタロス)…我が子に手を出した罪は重いぞ…!」

 

マカロフの静かな怒りに同調するように、エルザの目が鋭く光った。

 

 

「マーチ、魚食べる?ほら、マヨネーズ付けて食べると美味しいんだよ!」

 

浮かない顔のマーチをハッピーがあれこれ慰めようとしていた。が、どれも上手くいっていない。

 

「…ハッピー、そっとしてあげなさい」

 

「時間を置くのも大事だぞ」

 

見かねたシャルルとリリーが窘めるとハッピーは「でも…」と心配そうにマーチを見る。

 

ギルドの中で特にアミクの事を心配している内の一人がこのマーチだろう。アミクがこのようになった今、彼女の心情は想像しているよりも荒れているのかもしれなかった。

 

 

「…むしゃ」

 

「あ、食べるんだ…」

 

でも食べる時はしっかり食べるらしい。

ハッピーがくれた魚を無心で貪っていた。

 

そしてゴクンと飲み込むと急に立ち上がる。ビクッと驚くエクシード達。

マーチは強い光を宿した視線でハッピー達を見た。

 

「いつまでも腐ったバルカンみたいな顔してんじゃないの!!」

 

「え!?どういう顔!?」

 

「シケた面なんてあーしには似合わないの!!」

 

彼女は爛々と瞳を輝かせた。

 

「相手が冥府の門(タルタロス)だろうがなんだろうが、アミクをあんなに傷つけて黙ってるあーしじゃない!!この借りは一万倍返しにしてやる!!」

 

いつもの口調をかなぐり捨てて強く言い放つマーチ。それは彼女なりの覚悟の表れだった。

 

 

「特訓なの!あいつらをメッタッメタのギッタギタのフニャンフニャンにするために、猛特訓なのー!!」

 

普段はマイペースな姿を見せるマーチがいつになく燃えている様子を見てハッピー達は顔を見合わせる。

 

けど安心したように笑った。

 

「そういうことならば俺も付き合おう」

 

「オイラ、応援してるよ!」

 

「応援するだけ?まったく…」

 

落ち込んでいたマーチは目的を定めたことで元気が出たようだ。そんなマーチにハッピー達も元気を分けてもらったような気分になったのだった。

 

 

 

 

 

ナツは医務室に残ってアミクを見下ろしていた。大分顔色は血気が戻ってきている。だが彼女の顔は安らかなものではなかった。

 

 

アミクは心身共に傷付いている。

 

ポーリュシカも言っていた。

 

「この子の精神も大分参っている。よっぽど辛いことを経験したんだろう。あんた達が支えてやりな」

 

眠ってはいるが辛そうな表情だ。夢で魘されているのだろうか。睡眠でも彼女にとっては休息にはならないようだ。

そっとアミクの寝顔を手で触る。彼女は大切な物のようにその手を握ってようやく表情を和らげた。

 

冥府の門(タルタロス)…!!」

 

ナツは痛いほどに拳を握りしめた。彼の目は灼熱の怒りに染まっている。

 

「許さねえ…!!」

 

奴らはアミクの体も心も傷付けた。彼女を悲しませた。彼女を泣かした。

冥府の門(タルタロス)を許さない理由には十分すぎる。

 

 

彼女は自分を責め、自分の無力さを嘆いていた。

いつもは朗らかな笑顔を浮かべるアミクの、あんなに悲しそうな涙は見たくなかった。

 

「───戦争だ…っ!!」

 

 

 

 

それぞれが冥府の門(タルタロス)に対しての怒りと敵意、そして闘志を抱く。

みんながかの闇ギルドと戦う決意を固める。ギルドの気持ちが一つになった。

 

 

一人の少女がきっかけで生まれたそれはどんどん膨れ上がっていく。

 

 

この後、さらに爆発する燃料が投下されることは知る由もなかった。

 

 

 

夜。アミクは薄っすらと目を開けた。

 

「…ここは?」

 

見覚えのな…くはない場所だ。おそらくギルドの医務室だろう。

 

「…あ、やっと起きたんだ!」

 

隣から安堵したような声が聞こえる。ルーシィだ。

 

「丸一日起きなかったから心配してたの!よかった…」

 

「結構寝てたんだね…」

 

寝すぎたせいか少し体が重い。でも痛みや苦しさは感じなかった。ほとんど回復したようだ。

 

「あらら…」

 

アミクはベッドを見下ろして重く感じていた理由が分かった。マーチとウェンディがベッドに突っ伏していたからだ。

 

「その二人も遅くまで看病してくれていたのよ」

 

「ついでに私もね」

 

優雅に紅茶を飲んでいるシャルルも近くにいた。ツンとしているがこの時間まで起きてくれていたのを見るとかなり心配してくれたようだ。

 

「みんなありがとう…」

 

「こんなの当たり前よ。ほんと気が気じゃなかったんだから」

 

ルーシィは涙目になった。我慢してたものが出てしまったみたいだった。

 

「本当に…心配したんだから…!」

 

慌てて涙を拭うルーシィを見てアミクは申し訳なく思った。ここまで心配をかけてしまった。自分なんかのために。

 

「ごめんね…」

 

「謝らないで!謝らなくていいの!」

 

涙を流しながら抱きしめてくるルーシィ。アミクの無事を心から喜んでくれている。それだけで心が満たされる気分だった。

アミクはそっとマーチとウェンディの頭を撫でた。彼女達も夜遅くまで付き合ってくれて疲れているのだろう。可愛らしい寝息が聞こえてくる。

 

こんなにも自分を愛してくれている人々がいる。

それに改めて気付かされて淀んでいた心が少しだけ晴れた気がした。

 

 

 

その心が深く突き落とされたのは翌日のことだった。

 

 

 

 

ラクサス達が凄惨な姿となって帰ってきた。

 

 

 

 

「ポーリュシカ!!ラクサスたちはどうなんだ!? 無事なのか!? おいい!!」

 

「生きてはいる…が、かなり魔障粒子に侵されている。元々少量の摂取でも命が危険な毒物だ。完全に回復するかどうかは…とくにラクサスは体内汚染がひどい…生きてるのが不思議なくらいだよ」

 

アミクが回復して空いたベッド。そこには顔色の悪いラクサスが寝ている。

 

他のベッドにもフリード、ビックロー、エバーグリーンの雷神衆と元評議院のヤジマが寝かされていた。

彼らは全員苦しそうな顔だった。

 

 

魔障粒子。空気中のエーテルナノを破壊して汚染していく危険な粒子だ。アンチエーテルナノ領域というものを作り出す。これは魔導士にとっては致命的な毒のようなもので、吸い込んでしまえば死に至らしめる病気を超高確率で引き起こしてしまう。

つまり、摂取した時点で手遅れだと思ったほうがいい代物なのだ。

 

 

そして、これはアミクやウェンディの治癒魔法でもどうにもできない。

 

 

 

心が苦しかった。

 

 

 

「ラクサスは…」

 

フリードが掠れた声を出す。必死に何かを伝えようとする。

 

「ラクサスは…町を…救った…んだ……ラクサスが…いなければ…町は……」

 

「わかっておる。お前も、よく皆を連れ帰ってきてくれた」

 

 

事の顛末はこうだ。

 

 

ラクサス達はヤジマが経営するレストラン「(エイト)アイランド」を手伝いに来ていた。

そこに襲ってきたのはまた冥府の門(タルタロス)

 

変わった風貌の男がヤジマと雷神衆を痛めつけた。

 

幸い、ラクサスがすぐに駆けつけて倒してくれたが…問題はその後だ。

 

敵が自爆し、魔障粒子を周囲に撒き散らしたというのだ。冥府の門(タルタロス)というのは随分と自爆が好きらしい。

 

その結果。

 

 

ヤジマやフリード達は魔障粒子を吸って倒れてしまい、ラクサスは…町に被害が行かないようにあえて魔障粒子を吸い込んだという。

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の肺は特殊なのだから、と。

 

 

「町は…ラクサスのおかげで…助か…った」

 

アミクは崩れ落ちそうになるのを必死に耐えた。心が軋む音がする。

ラクサスが必死に吸い込んだ魔障粒子。

 

 

 

それはほんの一部(・・)に過ぎなかった。

 

 

魔障粒子は想像していたより大きく広がり、町中に充満してしまっていた。ラクサスでも全てを吸い込むことはできなかった。

 

 

汚染された町は死の町と化した。そこに住んでいた無辜の住人達は次々と命を落としていった。

 

 

老若男女関係なく。

 

 

ラクサス達が生きているだけでも奇跡。普通の人が耐えられるはずもなかった。

 

 

犠牲者は100人を超える。

 

 

 

ラクサスは町を救えなかったのだ。

 

 

「町…は…無事…ですか…?」

 

 

ラクサスが自分の身を犠牲にしてまでやったことは無駄だった。人々は無様に、無意味に散っていった。

 

誰も、救えなかった。

 

「────ああ」

 

マカロフはそう答えるしかなかった。

 

 

みんな悲痛な表情で黙認する。

 

 

 

「よかった…」

 

フリードが安堵したように、涙を流す。

 

嘘。

 

嘘を吐くしかなかった。

 

町が死んだことを知ったら、絶望で彼らの心は押しつぶされてしまうだろうから。

 

 

アミクのように。

 

 

 

せめて今くらいは、彼らには真実を知らないままでいて欲しかった。

 

 

 

溢れる涙を堪えきれない。

 

 

 

 

 

(冥府の門…タルタロス…元評議員も標的なら、ジェラールとウルティアも標的か)

 

エルザは冷静に…「元評議員も狙われた」ということからごく冷静にそう推測した。

魔女の罪(クリムソルシエール)にいるジェラールとウルティア。

 

彼らは世間からすれば犯罪者ではあるが、評議員をやっていたという過去も実在のものだ。

つまり、彼らも例外ではない。狙われる可能性がある。

 

 

「ひどい…」

 

ルーシィが涙を堪えながら呟く。

 

アミクは全力で同意したかった。でも心が痛くてそんな余裕はなかった。

 

 

(こんなのって…こんなのって、ないよ!!)

 

床に拳を叩きつけたくなった。

 

なぜラクサスの献身の結果がこんな非情なものでなければならないのか。

 

恨んだ。たくさんの罪のない人々の命を奪った冥府の門(タルタロス)を。

 

恨んだ。ラクサス達やヤジマをここまで傷つけ、苦しめた冥府の門(タルタロス)を。

 

恨んだ。冥府の門(タルタロス)を。

 

 

 

 

何より一番許せないのは。

 

(私はこんな時でも…仲間が苦しんでる時でも…役に立たない…!!救えない…!!)

 

何もできない自分だ。

 

 

彼らの苦しみを取り除くことも、町を救うこともできない。

 

 

 

人をあんなに死なせてしまった自分にはラクサス達を救うことさえできない。

 

彼らの心なんて以ての外だ。

 

 

 

 

私は…

 

 

 

私には、もう誰も救えない。

 

 

 

 

冥府の門(タルタロス)本部。

 

「迷惑をかける、キョウカ」

 

「案ずるなテンペスター」

 

不気味な雰囲気の場所で、不気味な雰囲気をした円柱の水槽がいくつか並んでいた。その中の一つに所々肉体が欠けているテンペスターと呼ばれた男────見た目が完全な人間とは言い難い────が液体に浸っている。

その前ではキョウカと呼ばれた女性がテンペスターの様子を見ていた。彼女もまた、鳥のような髪型や尻尾が生えていたりと人間とは少々異なる容姿をしていた。

 

「テンペスター、それがオレの名?しかし新たな体を手にすれば、その名は忘れる。我に名の意味はない。我の再生にはどれくらいかかるのか?」

 

「うむ…本来なら1日もあれば再生できるのであるが、今は別ロットも稼働中でな。少し時間がかかる」

  

「別ロット? 我の他にも負傷者が」

 

「ああ、ジャッカルもやられてしまってな」

 

キョウカが別の水槽に視線を移した。そこには別の男────ジャッカルが入れられていた。

 

「あー!!悔しいわ、思い出しただけでも腹立つわ!」

 

アミクが倒したはずのジャッカル。彼は水槽の中で不機嫌そうに目を釣り上げていた。

 

「ジャッカルを倒したものがいるのか。我々の想定を超える人間がいくつもいるようだな」

 

「テンペスター!なにお前もやられとんねん。悪魔がそう簡単に負けてええんか?」

 

「お前に言われる筋合いはないと思うが」

 

口論に発展しそうなジャッカルとテンペスターを宥めるようにキョウカは話を逸らす。

 

「それと、再生とは別にもう一つロットを稼働している。我が子だ。新生の悪魔」

 

また別の水槽。その中には一人の女性がいた。

 

「ミネルバ────冥府の素質がある」

 

ミネルバだ。目を閉じている裸体のミネルバが木の枝のようなものに巻きつかれ、泡立つ液体の中を漂っている。

 

「ドリアーテさんのような失敗作にはならなければよいですなァ」

 

「フランマルス」

 

そこに現れたのは明らかに外見が人間のそれではないフランマルスと呼ばれた生物だ。一つ目で恰幅の良い球体のような体型で鎧を着ている。

テンペスターもキョウカも、フランマルスも全員ジャッカルと同じ悪魔である。

 

「あれにかかった費用はおいくらかおいくらか。ゲヘヘ」

 

不快感を与える笑い声と共にフランマルスはテンペスターの水槽の前で止まる。

 

「テンペスターさん、再生もタダではありません。むやみに魔障粒子を使ってはいけませんぞ」

 

「ムゥ…」

 

「ジャッカルさんもですよ。まさかいきなり二人分も再生する羽目になるなんて痛い出費ですぞ」

 

「チッ…うっさいわ」

 

ジャッカルにも目を向けたフランマルスは相変わらず気持ち悪い喋り方で小言を言う。同じ悪魔からしてもあまりいい気分のしない声だ。

苛立ったジャッカルはフランマルスに毒づくがフランマルスはどこ吹く風だ。

 

テンペスターは少し忌々しそうに言う。

 

「…妖精の尻尾(フェアリーテイル)。奴等の邪魔がなければこんな事には」

 

「オレもそこんとこの女にやられたわ!お陰で評議員も一人始末できへんかったし!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)…同じギルドに同胞が二人も敗れるとは」

 

聞き覚えのある名前を反芻する。少し前にジャッカルが再生のために戻ってきたばかりの時にその名を口にしていたはずだ。

それ以前に、そのギルドの名をキョウカ達は耳にしていた。

 

ジャッカルはその時のことを思い出していたのかますます不機嫌そうになる。

 

「道連れしようとしたんやけど、思わぬ邪魔が入ってしもうてできへんかったんや。ほんま無駄に生命力の高い女やな」

 

 

ジャッカルが自爆しようとした直前。

 

「いやああああああああああ!!!」

 

アミクが悲鳴を上げた直後。

 

「悪いがコイツは殺させねえ!!」

 

光るジャッカルの側に現れたのは…ドランバルト。

 

 

「メ、メスト!!?」

 

「なんやお前!?」

 

いきなり現れた彼に驚くアミクとジャッカル。しかしアミクはすぐに警告する。

 

「危ない!!その人自爆するつもりだよ!!早く逃げて!!」

 

だがアミクの言葉を無視してメストはジャッカルに近付いた。

 

「オレはもう逃げねえ!今度こそ助けてやる!!」

 

メストはジャッカルのスカーフを掴むと魔法を発動する。

 

瞬間移動(ダイレクトライン)』。触れているものも一緒に瞬間移動できる魔法だ。

 

 

「なっ…!!?」

 

彼はジャッカルを連れてどこに移動したのか。

 

 

上空。

 

 

ERAのあった高所よりも遥か上空だ。ここならば誰も巻き込む心配はない。

 

 

「あばよ、一人で死ね!!」

 

 

メストがジャッカルから手を離して再び魔法を使い、自分だけ離脱。

 

 

「チクショオオオオオオオオ!!!」

 

 

直後、それがジャッカルの断末魔になったのだった。

 

 

 

「メスト…ありがとう…もうダメかと思った」

 

「…これで天狼島での借りは返せたとは思わねえ。親友の命を救ってもらった恩も新しくできちまった…でも、助けられたよかった」

 

 

「あいつさえいなけりゃあの女を殺せたんや!いや、そもそもあの妖精の尻尾(フェアリーテイル)の女さえいなければ…」

 

ジャッカルが未だに恨み辛みを言っていると、突如ミネルバの入った水槽に異変が起こる。

意識がないと思われたミネルバが暴れ出したのだ。

 

「おや…このお嬢さんも反応しているようで」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)という単語に劇的な反応を示している。無意識の行動だろう。発作みたいなものかもしれない。

 

「あの六魔とグリモアを破ったギルドか。くくく…面白い、我々に盾つくか」

 

キョウカは面白そうに笑みを浮かべた。次の獲物を見つけたというように。

 

「次会ったらタダじゃおかへんで、あのアミクとかいう女…!!」

 

ジャッカルは歯ぎしりをして憎き少女を思い浮かべていた。

キョウカは一応「アミク」という名前を記憶に留めることにした。もし実際に会って気に入ったら玩具にしたいと思ったからだ。

 

 

 

冥府も妖精を認識した。

 

同じバラム同盟の闇ギルドを壊滅に追い込み、仲間も倒したギルドとあって少なくない興味と敵意を抱いたのだ。

 

 

 

妖精と冥府が正面衝突する時もそう遠くはないだろう。

 




アミクがやたら鬱モードに入ります。

余談ですがテンペスターを倒す時のラクサス、アミクのことを聞いていたからか余計に力入ってたとか。


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