プロローグ
「オーディオン・・・?ねぇ、おー、でぃお、ん、どこぉ・・?」
少女の泣き声が空しく響き渡る。
「なんで、なにも、いわないの・・?ほんとは、いるんでしょ・・?ねぇもうわがままいったりしないから・・・」
ぐすっ、と鼻をすする音が聞こえる。
「いいこにしてるから・・・おねがいっ、ひとりにしなでぇ!おいてかないでよぉ・・・!」
ポロポロ流れ落ちる雫を拭う者もおらず、そのまま地面に吸い込まれていく。絶望の表情を浮かべた少女は頭を抱えてうずくまった。
親に置いてかれてしまったか弱い少女では、この世界で1人で生きていくには過酷なものになるはずだった。
しかし。
数奇な運命によって導かれ、少女は人生で一番大切だと言える居場所ができた。その名も―――――
後ろから聞こえて来た音に反射的に首を傾ける。間一髪、飛んで来た皿が通り過ぎ壁にぶつかって割れた。
(・・・あっぶなー)
冷や汗をかきながら後ろを向くと、ドヤ顔をした男が投げたモーションのままで固まっていた。
「あー、わりぃ」
「・・・いや、別にいいよ」
素直に謝ってきたので苦笑して許した。ひどい時はなかったことのようにされるので謝るだけマシだ。それよりも一体どんな状況になったらキメ顔で皿を投げることになるのか甚だ疑問である。
(ま、それこそ
そう思い、今は比較的大人しいギルドを見る緑髪を長いツインテールにした青い瞳の美少女――――アミク・ミュージオンは楽しげに頬を緩ませる。
そして何か物足りない感じがして、今は居ない少年の事を思い浮かべた。
(そういえばナツはハルジオンに行ってたっけ)
確か火竜が出たとかで、それがイグニールだと思い込んだナツがハッピーと共に探しに行ったはずだ。後からそれを聞いたアミクは街中にドラゴンが居るわけないじゃん、とズッコけたものである。
だが、そんな怪しい噂一つでも飛び付きたいナツの気持ちも分かる。もし、自分が母―――オーディオンの目撃情報を聞いて冷静でいられる自信がないからだ。
特に前の自分だったら錯乱して飛び出して行ってたかもしれない。
そのような状態で急に居なくなったオーディオンを思い、つい泣いてしまったアミクを同じ境遇であるナツが気丈に慰めてくれたのも懐かしい思い出である。
(って、恥ずかしいの思い出しちゃった!)
勝手に思いだし、勝手に恥ずかしがるアミク。そんな彼女の元に羽の生えた1匹の猫が降りてきた。
「どうしたの?」
可愛らしい声で喋る綺麗な黄色い毛色を持つ、猫の中でも美人(?)な顔立ちのメス。名をマーチと言う。マーチはアミクが
「いや、昔の事を思い出してさ」
「ふーん、もしかしてあーし達が初めて会った時の事なの?」
違うのだが、馬鹿正直に言わなくてもいいか、と黙っていた。マーチも特に何も言わずにアミクの隣に立つ。
「そろそろ、ナツとハッピーも噂がデマだと気づいて帰って来る頃だと思うの」
つぶらな瞳で見られてアミクは思わず視線を逸らす。
「そうかもね。あんまり期待してないけどお土産あったらいいね」
「また魚なの・・・?」
マーチはちょっと呆れた感じで言う。
それを見てアミクは最初にマーチとハッピーが会った頃の事を思い出す。ハッピーが衝撃を受けたかのような顔をしてマーチに近づくとやたらと魚を勧めだしたのは面白かった。今でも暇さえあれば魚を差し出すのを目撃している。そして、当のマーチも満更でもなさそうにしていたのが印象的だった。
「食べ比べはもういいの・・・」
「あはは・・・」
そんな会話をしていると、アミクの耳にある音が集まってきた。
(この足音は・・・知らない足音もあるけどこれは・・・)
直後、大きな音を立てて扉が開かれる。そして
「「ようこそ
「わあっ・・・!」
見知った少年と1匹の空飛ぶネコ。そして初めて見る金髪の美少女が居た。
ありがとうございます!