妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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今回でガルナ島編はおわりー。

疲れた・・・。


島の呪いとウルの雫、そして仲直り

「ほら!零ちゃんも治療するから!」

 

「・・・もうその呼び方はやめてくれ・・・」

 

アミクはグレイの治療した後、リオンの方もついでに治療した。

 

「・・・いいのか?俺は敵だったんだぞ」

 

「もう終わったでしょ、敵だった時間は」

 

元々、敵だろうと治療するお人よしだ。

色々終わった今、そんなことは関係ないのだ。

 

「みんなー!無事だったのねー!」

 

「アミクー!心配した、のー!」

 

「なんか久しぶりにマーチ見た気がする」

 

実はデリオラが崩れた時に洞窟も崩れてしまった。だから外からアミク達は丸見えなのである。

 

 

「ルーシィこそ!よかったよほんとに」

 

「アミクー!アンタが一番心配だったんだからね!」

 

「ええー」

 

とりあえず、アミク達は再会を喜び合った。

 

「いやー終わった終わったー!!」

 

ナツが両手を上げて喜ぶ。

 

「これで俺達もS級クエスト達成だー!!」

 

「だー!!」

 

ナツの叫ぶ姿を真似て、ハッピーも飛び上がり、一緒に喜ぶ。

 

「もしかしてあたし達2階に行けちゃうのかな!?」

 

ルーシィも嬉しそうに言い

 

「はは・・・」

 

グレイもすっきりしたような顔をしている。

 

「うーんと、誰か忘れてるような・・・」

 

アミクは二人ほど記憶から抜けている気がして思案する。

 

「・・・」

 

そこに、緋色の髪を持つ女性、エルザが現れた!

 

 

「ああああ――――!!」

 

そうだった、とばかりにエルザを指差し大声を上げるアミク。

 

他の人達もエルザを見て、青ざめる。

 

「げぇー!?エルザいたのかー!?」

 

「あ、そういや言うの忘れてた」

 

「そ、そうだぁ、お仕置きが待ってたんだぁ・・・」

 

「ひぃ・・・」

 

ルーシィ達はブルブルと震えた。

 

エルザとアミクの目が合う。

互いに気まずいのか目を逸らしあった。

 

「そ、その前にやるべきことがあるだろう」

 

「え・・?」

 

皆キョトンとなる。他に何かあっただろうか。

 

「今回の依頼は・・・『悪魔にされた村人を救うこと』だろう?」

 

「でもデリオラも倒したし呪いも解けるんじゃない?」

 

ルーシィが言うとアミクが思い出したように言った。

 

「・・・いや、リラは『月の雫(ムーンドリップ)』の魔力で汚染されたからとか言ってなかったっけ」

 

「あ、そうだった」

 

「どっちにしろもう『月の雫(ムーンドリップ)』は集まることもねぇし、ほっとけば元に戻るんじゃないか?」

 

グレイの疑問にエルザが答えた。

 

「例えそうだとしても元に戻るまでどれくらいの時間がかかるか分からん。

 今すぐ解決したほうが村人達も安心するだろう」

 

「ん、そうだけど・・・そんな方法あるかな?」

 

アミクは問う様にリオンを見た。ここで『月の雫(ムーンドリップ)』を集めていた彼ならば何か知っているのではないかと思ったからだ。

だが返ってきた言葉は簡潔なものだった。

 

「俺は知らんぞ」

 

「ほんとかよ?」

 

グレイが疑う様にリオンを見る。

 

「三年前、この島に俺達が来た時、俺達は村が存在するのは知っていたが・・・村の人たちには干渉しなかった。

 逆にあっちから会いに来ることもなかったしな」

 

「・・・え?三年間一度も?」

 

なんだかおかしな話になってきた。普通、なにかしら気付いて調査ぐらいしに来ると思うが。

 

「・・・っていうか三年間月の光浴び続けてたんでしょ?なんでリオン達はなんともないの?」

 

『あ!』

 

「なんだ?なにがだ?」

 

ナツだけ分かっていなかった。

 

「・・・気をつけろ、奴らは何かを隠している」

 

リオンが忠告してくれた。

 

「・・・零ちゃん。いや、リオン。強さを求めるのは悪いとは言わないけど、周りのものもちゃんと見てみなよ」

 

アミクはリオンから去る前に一つアドバイスしていった。

 

 

リオンはすでにウルを超えることには執着していない。

だが、今まで身につけてきた力も無駄にしたくない。

そこで、この力を有効的に使いつつ、楽しく過ごせそうな所を考える。

 

あと、気になったことを一つ。

 

「さっき、普通に名前で呼んでただろ・・・やっと本名言った、みたいな雰囲気出しやがって・・・

 名前で呼ぶかあだ名で呼ぶか統一しろよ・・・」

 

意外とみみっちい事を気にする奴だった。

 

 

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

「なぁ、アミクとエルザどうしたんだ?なんかギクシャクしてね?」

 

「あの二人ちょっとケンカしたのよ・・・」

 

「ケンカ!?エルザとか!?昔のミラじゃあるめぇし・・・」

 

「アンタらのケンカとは違うわよ・・・」

 

隣り合って歩いているのになんだかぎこちなく歩いて、会話をするときも必要最低限。

それすら、固い。

 

そして、事情を知らぬナツがルーシィから話を聞いていた。

 

 

 

二人共仲直りしたいのだが、互いにビビってなかなか切り出せていないだけなのだ。

 

 

そんな二人を呆れたようにマーチが見ていた。

 

そうして村に着いた一行。

 

そこで、目にしたのは。

 

 

「あ、れ・・・!?村が直ってる!?」

 

ルーシィが驚いて叫んだ。

毒毒ゼリーのせいでほぼ壊滅状態になっていた村だが、それが時間を捲き戻した(・・・・・・・・)かのように直っていた。

 

アミク達にはこれをやった人物に心当たりがあった。ザルティとか名乗る老人だ。

「・・・そういえばそっちも忘れてたな・・・」

 

一回ぶっとばしてからどこに行ったか分からなかったが・・・

この様子を見る限り無事だろう。

 

「どういう心境の変化だろう・・・?」

 

もしかしてサービスのつもりだろうか。

よく分からない人だ。

 

それにその老人だけはデリオラを復活させる意図が違ったように感じる。一人だけ異質だったのだ。

 

 

 

ちなみにリオンにシェリー達が協力していたのは彼女らがデリオラによる戦災遺族であり、

デリオラに恨みを持っていたからだ。

そこで、リオンが打倒デリオラを掲げていたので、それに協力していたというわけだ。

 

 

 

「ほが、魔導士さんがた、ご無事ですかな。なにやら轟音が聞こえましたが・・・」

 

「あ、はい大丈夫です」

 

「それならよかった。それより!いつになったら月を破壊してくれるのですかな!?」

 

この村長、月を嫌いすぎである。そうなった経緯を考えると仕方ないのかもしれないが。

 

アミクが苦笑しているとエルザがモカに話しかけた。

 

「はい、大変お待たせした。これから、月を破壊します」

 

 

・・・・・・

 

 

 

『はぁっ!!!?』

 

アミク達はびっくり仰天して飛びあがった。

 

「おお!本当ですか!?」

 

「やっと、やっと呪いから解放される・・・」

 

「ああ、ボボよ・・・ついにお前の仇が取れるぞ・・・」

 

村人たちは大喜びした。互いに抱き合う程だ。

 

 

「ええ・・・流石のエルザでも無理でしょ」

 

「アタシもそう思う」

 

「なんであんなこと言ったんだエルザ・・・?」

 

呆然としながら言葉を紡ぐアミク達。

 

だが、ナツは面白くなさそうな顔をしている。

 

「なんだよ、俺が壊したかったのに」

 

「いや、ナツにも手伝ってもらうぞ」

 

「本当かー!?」

 

「あと、あ、アミクにも、な」

 

エルザがこっちを見て(微妙に目を逸らしているが)言った。

 

「あ、うんわかった」

 

月を破壊するのに自分も必要なのだろうか?

あるいは『月を壊す』というのは比喩表現なのか?

 

 

 

 

エルザ達は高い櫓の様なところに登っていた。

 

「方法としてはこうだ。

 私は投擲力を上げる『巨人の鎧』と闇を退ける力を持つ『破邪の槍』に換装する。

 次にアミクが私とナツの攻撃力を強化。

 最後にナツが、私が槍を投げるのと同時に後ろから殴れ。

 これだけの火力が合わされば月までも届くだろう」

 

「おお――!!おもしろそうだなー!!」

 

「えぇ、ほんとにやるの・・・それでも届かないでしょ絶対」

 

ぶつぶつ言ってる間にもエルザは換装し、すでに槍を構えている。

 

「ええいままよ!『攻撃力強歌(アリア)』!」

 

アミクが二人に付加(エンチャント)した直後。

 

「今だ!ナツ!」

 

エルザが振りかぶり、ナツが思いっきり槍の石突を殴った。

 

「火竜の鉄拳!!」

 

同時にエルザが槍を投げた。

 

投げられた槍はぐんぐん空に飛んでいき――――

 

 

ピシッ

 

 

月に刺さった。

 

 

『うそおおおおおおおおお!!?』

 

アミク達は口をあんぐりと開けてどんどんひび割れていく月を見る。

 

 

(わ、割れる音が随分近い様な!?)

 

アミクはそこに違和感を持ったが村人たちは喜色満面だ。

 

罅は広がりそして――――

 

パリイイインン!!!

 

 

割れた。ガラスが割れるような音だった。

 

とりあえず食った。

 

 

 

 

しかし。

割れたにもかかわらず、月は健在だ。いや―――

 

 

「色が元に戻ってる!?」

 

そう、もう紫色ではなくなったのだ。

 

「空が、割れた?」

 

そうとも言える割れ方だった。なんかここを覆っていた膜を割るような・・・。いや、実際膜みたいのを割っていた。

 

「・・・あれが、呪いの正体だ」

 

櫓から降りたアミク達はエルザの説明に耳を傾ける。

 

 

あの膜は『月の雫(ムーンドリップ)』の影響でできた膜らしい。

あの膜は島だけを覆っていたため、島の中でしか紫色に見えない。

だから、別の場所から見ても普通の月だったわけである。

 

 

「・・・で、呪いは解けた筈だよね?

 じゃあ、なんで村長さん達は元の姿に戻ってないんですか?」

 

「それに、リオン達はここに三年前から居たって言うぜ。

 あんな目立つ遺跡、これまでなんで調査しに行ったりしなかったんだよ?」

 

アミクとグレイが村人たちに問うた。

 

 

「そ、それが・・・あの遺跡には行ってはいけないしきたりがあって・・・」

 

「そんなこと言っている場合ではなかっただろう」

 

エルザがすかさず反論する。

 

「・・・実は我々も何度も調査に出向こうとしました。

しかし、なぜか門を出てあの遺跡に向かおうとすると村に戻ってしまうのです」

 

ある村人の口から語られる真実。

 

「・・・なぜ、呪いは解けたのに姿が戻っていないのか。

 なぜ村人たちは遺跡に行けないのか。

 その答えが、目の前にある」

 

そこで、エルザは言葉を区切った。

 

「貴方達の姿そのものだ」

 

『え?』

 

「えーと、つまりどういうこと、なの?」

 

マーチが代表して聞いた。

 

「・・・ここの住人達は元々悪魔だったんだ」

 

『なにぃぃぃ!!?』

 

アミク達は今日何回目か分からない驚きの声を上げた。

 

「そーなのか!?」

 

「い、言われてみれば・・・」

 

「そ、そうだ、俺達は悪魔だったんだ!」

 

「なぜ忘れて・・・」

 

村人たちが急に自覚し始めた。

 

「・・・もしかして、これが呪い?」

 

「気付いたか。そうだ、あの『月の雫(ムーンドリップ)』は人間ではなく悪魔だけを汚染したのだ」

 

察したアミクに頷くエルザ。

 

「それも、記憶を汚染したのだろう。

 それで『自分は人間だ』『呪いによって悪魔になる』という認識に変わってしまったのだ」

 

「・・・やっと、全ての謎が解けたよ・・・」

 

 

アミクが何度も頷いて納得した。

 

 

そこに

 

 

「やっと皆正気に戻ってくれたな」

 

一人の男がやってきた。村人たちとナツ達は唖然とする。

 

何となく予想していたアミクは「やっぱりね」と頷いていた。

 

村長であるモカは彼を見て膝を突いた。

 

「おお・・おお・・・ボボ!!」

 

そう彼は死んだと思われていた船乗りの男だったのだ。

 

「な、なんで生きて・・・」

 

「ゆ、幽霊~~~!!」

 

ルーシィとハッピーがめっちゃビビってた。

 

「悪魔が胸を刺されたくらいで死ぬわけないだろ」

 

ボボはそう言って笑った。

 

 

「お、お前!あんときどうやって消えたんだよ!?」

 

ナツがボボを指差しながら聞く。

 

 

「あ、飛んだんでしょ?」

 

『え?』

 

アミクがあっさり言うとナツ達が彼女を見た。

 

 

「あのとき、変な音したから上見たら飛んでたんだよね。何かが」

 

「・・・嬢ちゃんにはバレてそうな気がしたんだ。思いっきり目合ってたしな」

 

(合ってたんだ・・・)

 

それはアミクも知らなかった。

 

「お、おい!じゃあおめぇ、呪いの正体とか最初から知ってたのか!?」

 

「ちゃうねん!後でモカさんから話聞いた時は、

 ボボさんは呪いで悪魔化したけど翼が生えて飛べるほど順応したのかな、って思ったんだよ。

 なんかあの時点ではボボさんが生きてることを伝えるのもやめた方がよさそうだったし。

 ・・・まさか元々悪魔だったなんて思わなかっきゃっ!」

 

歩きながら説明するアミクだが、彼女が急に落ちた。

 

そう、ルーシィが作った落とし穴まで復活してしまったのだ。

 

「きゃっ、って・・・」

 

「かわいい声でたな」

 

「・・・なの」

 

「あ、あたしのせいじゃないわ!」

 

ナツ達は苦笑いだ。

 

「と、とにかく!呪いの正体には気付いてなかったよ!」

 

アミクは穴から這い上がり、頰を赤らめて告げた。

 

結局アミクはボボが幽霊ではないことは知っていたわけである。

ぶっちゃけビビリ損だ。

 

「じゃあ、なんであたし達には言わなかったのよ。話す機会はあったでしょ?」

 

「・・・単純に忘れてた」

 

『おい』

 

全員がアミクにジト目を向けた。

 

 

バサッ

 

 

また、あの音がした。

 

見ると翼の生えたボボが空を飛んでいた。

 

 

 

「とにかく、俺はなぜか記憶が戻っちまってな。自分のことを人間だと思い込んでるアンタ達が怖くて

 島を出たんだ!」

 

「うう・・・うううう、ボボォォォ!!!わしを許しておくれえええ!!!」

 

モカが泣きながら翼を広げ、ボボの元に飛んでいき抱きついた。

 

他の悪魔たちも翼を生やして次々と飛んでいく。

 

 

嬉しそうな顔をしながら飛んでいるその姿は―――

 

「悪魔というよりは天使みたいだな」

 

グレイがそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

その後、村全体で宴会を開きアミク達は功労者ということで一緒に参加させられた。

それはもう猛烈に感謝され、食べて、飲んで、騒いだ。

 

途中でユウカ達が謝罪のために村まで出向いてくれたが―――

 

 

「ほらほら、極ま―――――ユウカとケバ――――シェリーも一緒に楽しもうよ!」

 

「おまえまだそのあだ名引きずってたのか・・・」

 

「ちょっと!なんて呼ぼうとしましたの!?

 返答によってはアンジェリカの餌にしますわよ!?」

 

「俺は呼んですらくれねーのかよっ!」

 

トビーが珍しく正当にキレていた。

 

 

「リオンは?」

 

「リオン様は―――少し一人になりたいそうです」

 

 

色々と心の整理も付けなければならないのだろう。アミクも無理に誘おうとはしなかった。

 

 

 

 

皆騒ぎ疲れて寝静まった頃。

 

アミクは一人海岸付近に来ていた。

 

「・・・ウル――――」

 

アミクは海を見て名前を呼ぶ。

 

グレイの師匠だという彼女とは直接会ってはいないが、心を通わせ、会話した関係である。

 

思いやりが深く、弟子たちを大切に思っていた心の綺麗な人だった。

 

「せめて、グレイ達と話しさせてあげたかったな・・・」

 

あの声を聴けたのは自分だけだ。それを他人にも共有できなかったのか・・・・。

 

アミクはポケットから綺麗に丸くなった氷を取り出し、それを見て嘆いた。

 

「はぁ、グレイに変な脱ぎ癖付けさせたこと、文句言いたかったのに・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――そんなのあたしに言われても困るね』

 

 

「うっひゃああおおおう!!!」

 

 

びっくりした。めっちゃびっくりした。

 

 

心臓止まるかと思った。

 

 

思わず氷を放り投げる。

 

 

『ちょっと!そのまま海に落とすなよ!』

 

やはりだ。氷から声が聴こえる。落とした氷を拾う。

 

 

「・・・・もしかして、ウルさん・・・?」

 

『ウルでいいよ。全くそこまで驚く必要あるか?

 私と会話するのは初めてじゃないだろう』

 

「いやいや、もう貴方は溶けて氷には残ってないと思ってたんですよ!」

 

『・・・まぁ間違っちゃいない』

 

「え・・・?」

 

 

 

ところでこの図、傍から見たら氷と話している危ない女である。

 

 

『あんたの言う通り、私のほとんど、つまり本体は海に流された。

 今の私は残留思念みたいなものさ』

 

「・・・んーと、ちょっとだけ残ったウルってこと?」

 

『そういう認識でいいよ。

 あの時、アンタの手のひらに水となった私が残ってただろ。

 そのまま、グレイが使おうとしていた『絶対氷結(アイスドシェル)』の魔力に突っ込んだ。

 私は元々『絶対氷結(アイスドシェル)』の氷だったんだ。その魔力に当たったことにより、

 水の中に残っていた魔力が反応して再び凍りついた、という訳さ』

 

「なるほど、だから溶けないんだ・・・」

 

『これも、色々な奇跡が重なって起きたことなんだ。

 私も予想外だよ』

 

「・・・」

 

 

アミクはそっと氷を見た。何の変哲もない氷のように見えるがこれはウルなのだ。

 

「・・・話せるのは私だけ?」

 

『こんな風にいつも会話できるのはアンタぐらいだろうね。

 後は頑張れば他の人達とも少しは話せると思う』

 

「・・・だったらずっと私が持ってる方がいい?

 できればグレイにあげたかったんだけど」

 

『なんだ。これ、お前の師匠、って渡すのか?

 私は嫌だね。気まずくてしょうがない』

 

「ウルはどうしたいの?」

 

『・・・できれば一緒にいてあげたいさ。だが、あの子達は私がいなくとも

 生きていけるし十分強い。それに、ずっとくっ付いていたら私が子離れ出来てないみたいだろ?』

 

「そうかな、親は子が何歳になっても心配するもんだと思うけど」

 

『良い親ってのは子の自立も見守るものなんだよ』

 

 

ウルはそう言うと優しげに微笑んだ、ように見えた。

 

 

「・・・だったら、さ。ずっと見守ってればいいじゃん」

 

『・・・?』

 

「この氷をウルとは言わずにグレイに渡すから、グレイの傍でずっと見守り続けてよ。

 自分の弟子の成長を特等席で見れるんだよ?

 そうやっていつかはグレイと話してよ。

 つーか私がそうさせる。グレイに譲るのは決定事項ね」

 

 

『・・・はぁ・・・』

 

 

「あ、ごめん。もしかしてリオンの方が良かった?」

 

 

『私はどっちも好きだけどね。そこに優劣はないよ。

 ただまぁアンタもいるし、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』には興味があるしね』

 

「分かった。・・・あと、言いたかったけど」

 

アミクは嬉しそうに微笑んで伝える。

 

 

「―――生きててよかった、ウル」

 

 

『――――ふー、これが人たらしってヤツ?

 グレイが惚れそうで怖いな。いや、もう手遅れか・・・?』

 

あ、そうそう、とウルは続けた。

 

 

『こっちこそ私を生かしてくれて感謝するよ。

 いや、ほぼ死んでるようなもんだが・・・。

 でも、アンタがいなかったら私はこうしていられなかったはずだ』

 

「―――私はアミク!アンタじゃないよ」

 

 

『は、そうだったね。とにかくありがとうアミク。

 これから私はこの目で弟子を見守っていられる―――――海からも、ね』

 

 

そう、この氷だけではなく、海と一つになったウルもグレイとリオンを見守っていくのだろう。

 

 

 

『・・・で、どうやって渡すんだ?』

 

「それにはいい考えがあってね・・・」

 

 

 

 

 

 

「ううぅん・・・」

 

 

グレイは目を覚ました。どうやら外で寝ていたらしい。

 

あの宴会で騒ぎまくってそのまま寝落ちしてしまったのだろう。

 

「・・・うおっ」

 

目をこすって顔を上げるとじーっと顔を見ていたアミクと目が合った。

 

「アミクかよ。どうしたんだ?」

 

「・・・いや、傷残っちゃったなぁって」

 

アミクがグレイの瞼の上にある傷を触りながら言った。

 

「・・・こうなったら治癒魔法でも消えないんじゃないかな」

 

「いいんだよ。男にとって外の傷は勲章なんだろ?ちょうどいいじゃねぇか」

 

「ふふ、グレイ、クサいよ」

 

「う、うるせぇな!良いだろ別に!」

 

グレイはちょっと恥ずかしかったのか顔を赤くする。

 

しかし、目を真っ直ぐに見てくるアミクに思わずドキッとした。

 

「・・・うん。これは因縁に決着がついた証。そういうことだよね?」

 

「・・・ああ」

 

グレイはこの傷に意味をくれたことを嬉しく思った。

 

 

「ね、グレイが首にかけてるそのアクセサリー。ちょっと見せてくれる?」

 

「ん、いいぞ」

 

 

グレイはネックレスをアミクに手渡した。

 

そのネックレスは十字型の剣で交差している所にちょっとした窪みがある。

 

アミクはこっそり手に持っていた(ウル)をその窪みに押し当てた。

大きさぴったり。

 

 

そのまましばらく押し当てると―――

 

「・・・よし!」

 

「な、なにしたんだ?」

 

窪みの所には氷がしっかりとくっ付いていた。

 

完全接着の魔法アイテムを持っていたのでそれを使って氷とネックレスをくっ付けたのだ。

実はこの魔法アイテムはほぼ同化するほど接着力がすごいので使うには細心の注意が必要である。

 

 

「なんだこれ?これは・・・氷?」

 

「お守りみたいなものだよ。ウルの氷がちょっとだけ残ってたんだ・・・嫌だった?」

 

アミクが不安そうに聞くとグレイは嬉しそうに笑って答えた。

 

「嫌なわけないだろ。すげー嬉しいわ」

 

「お、おう。珍しいね、グレイがそこまで喜ぶなんて」

 

「・・・まぁ、ウルの形見みたいなもんだからな」

 

それに、とアミクを見た。

 

「俺のためにプレゼントしてくれたんだからな。喜ぶしかないだろ」

 

「・・・まぁ、なんにせよ気にいってもらえてよかった」

 

「ああ」

 

グレイは頷いてネックレスを首にかけたーーーーーいつの間にか上半身裸になっていた。

 

 

『・・・な、なぁこれ、弟子の裸体に身を預けてるみたいで無性に恥ずかしいんだが・・・』

 

ウルがそんな初々しい事を言ってきたのでアミクは親指を立てて応えた。

 

 

「お?似合ってるか?」

 

「うん、バッチリ!」

 

『おい、待てこれは、なんか違う!』

 

ウルの講義を聴かずにアミクはその場を離れた。

 

『ったく、この馬鹿弟子が・・・』

 

どこか楽しそうなウルの声を聴きながら。

 

 

(二人が、また会えてよかった・・・)

 

 

 

 

 

「そんな・・・報酬は受け取れぬ、と・・・?」

 

「この依頼は不当に受けて来たものです。なので報酬を貰うわけにはいきません」

 

「そ、それでも私たちは感謝しているのです!」

 

「・・・では報酬は鍵だけを貰います。お金はいりません」

 

「「えーーーー!!」」

 

「あたし、欲しい!」

 

というわけで結局報酬は鍵だけになった。

 

 

「ありがとう!本当にありがとう!」

 

悪魔達に感謝されながらもアミク達は船に乗る。

 

この船はエルザがここに来るときに海賊をボコって乗せてもらったものらしいのだ。

エルザの方が海賊っぽい。

 

「はぁ・・・」

 

エルザがため息をついているのを見てアミクはそっと近付いた。

 

「エルザ」

 

「!・・・なんだ?」

 

エルザがちょっと動揺して聞いてくる。

 

こっちもウルと話して勇気をもらった。

 

「その・・・昨日はごめん。ひどいこと言っちゃった。

 悪いのは私の方だったのに・・・」

 

「い、いや気にするな。私の方こそ言い過ぎた。すまない」

 

「っていうより元から手伝うつもりだったでしょ?」

 

アミク達のやり取りを固唾を呑んで見守っていたルーシィ達が驚く。

 

 

「えええーーー!?そうだったの!?」

 

「なんだよ、じゃああんなに怒る必要なかったじゃねぇか!」

 

「怒ってたのは本当だぞ?ただ、私はお前達の心意気も聞きたかった」

 

「心意気?」

 

「ああ、たとえ不当で受けた依頼だとしてもやり遂げようとしたこと。

 困っている者を助けるのを優先したこと。

 お前達からはその意気が感じられた。

 私があんなに怒りを顕にしたのも本音を見るためだったのだ」

 

アミクは途中からそうなのではないか、という気がしていた。

あのセリフはあまりエルザにそぐわなかったからだ。

 

「中途半端に手を出しておいて途中で投げ出すようなら、

 それこそ許しはしなかっただろう」

 

『ヒィ!?』

 

ナツ達がビビった。

 

「ま、まぁだから私があそこまで言ったのは本意ではないのだ・・・」

 

ションボリと項垂れるエルザ。そこまで大嫌い発言は効いたらしい。

 

「ほ、本当にごめんなさい・・・」

 

アミクはペコリ、と頭を下げた。

 

「・・・ほら!二人とも握手!」

 

ルーシィがアミクとエルザの手を取って近づかせた。

 

「・・・うん」

 

「すまなかったな」

 

 

二人は仲直りの握手をした。

 

っていうかエルザ痛い。強く握り過ぎ。

 

 

「うんうん、よかった、の」

 

「あい」

 

『若い子達のケンカは青いね』

 

ウルの声はアミクにだけ聞こえた。

 

 

 

一行を乗せた船はハルジオンを目指して進んで行く。

 

 

 

 

 

 

こうしてアミク達は無事にS級クエストを達成できたのだった。

報酬は鍵だけだったが、アミクにとってはウルの氷もそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

「行ったな」

 

「不思議な方々でしたね」

 

「べ、別に泣いてなんかねーよっ!」

 

島の崖の上では三人と1匹の影。

 

アミク達の乗った船が離れて行くのを見ながらリオンは仲間に聞く。

 

「なぁ・・・ギルドって楽しいか?」

 

 

 

 

「あと、あのアミクって娘かわいい。彼氏とかいるのか?」

 

『え”』

 

リオン。改心したからってキャラまで変わりすぎである。

 

 

 

 

 

「・・・それで、デリオラは回収できなかったか」

 

「ごめんなさいね、ジークレイン様。まさか、あの女の力がこれほどまでとは」

 

「そういうことを言うもんじゃないぞ。ウルの()――ウルティアよ。

オレはオマエの母を尊敬している。生きていれば間違いなく聖十魔道の一人となっていただろう」

 

「かいかぶりすぎよ。母は魔の道にとりつかれすぎて、父に捨てられた惨めな女」

 

「失うものが大きければ大きいほど、得られる力は強くなるものだ。お前の母のようにな」

 

「私は(ウル)の中でも小さな存在よ」

 

「どうかな。幼い弟子を育てたのも、お前への未練にもーーー」

 

それ以上はダメ。というばかりに、ウルティアがジークレインの口元を指で抑える。

 

 

ザルティの正体はアミクが前に会った美女、ウルティアだったのだ。

彼女は変装して、デリオラの氷を溶かし、デリオラの力を手に入れようと画策していた。

しかし、デリオラが崩壊したため、その目論見は崩れた。

 

 

「でもまさかあの『歌姫』が来るとは思わなかったわ。

 危うくバレるところだった」

 

「声を変えておいてよかったな。あの娘は声の記憶力がいい。

 今回はそれが仇になった形になったが・・・」

 

「それよりもあの子、(ウル)と会話していたわ。

 『声』を聴いたんでしょうけど」

 

「ほう、無機物となった人の声まで聴けるとは。

 『音竜』の名も伊達ではないな・・・ん?」

 

ジークレインがウルティアの顔を見るとーーーー

 

プクーとアミクに殴られたところが餅みたいに膨れ上がった。

 

 

「きゃあああ! 何よコレぇ!」

 

「あっははははっ! 今頃はれてきやがったのか!」

 

ウルティアは涙目で頰を抑える。ジークレインはそれを見て大笑いをしていた。

 

 

「それで、どうだった?」

「あの子たち、強くなるわよ。半分も力を出してなかったとはいえ、一瞬だったもの。

 特にあの連携は目を見張るものがあるわ」

 

「『双竜』。その真骨頂、というわけか。二人の息の合った連携で相手を追い詰める」

 

「よっぽど互いを信頼してなきゃできない芸当ね」

 

ジークレインは薄く笑った。

 

「どちらもあの本物の(ドラゴン)の子だ・・・・

 

 俺の理想(ユメ)のために、燃え続け、奏でろ」

 

 

物語は加速していく。

 

アミクを待ち受けるのはなんなのか。

 

彼女の終曲(フィナーレ)はどんなものになるのか。

 

 

・・・今はまだ前奏。

 

演奏は続いているのだ。

 

 

 




はい終わりー。
やっと終わった・・・。
はい次回からいよいよファントム!とりあえずジョゼは股間潰す。


で、この作品ではウルは氷として(一応)生かすことにしました。

今はまだグレイは知らないけど多分いつかは知る、はず。

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