妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

27 / 202
もう少しで、ファントム編終わりです。


前回、アミクをボコりすぎた気がする。

まぁ今後もこういうのいっぱいあると思うから慣らしですね慣らし。


妖精の法律(フェアリーロウ)

だんだんと意識がはっきりしてきた。ボヤけていた視界が鮮明になってくる。

 

目の前には心配そうな顔をしたエルザやグレイ、ミラ達がいた。胸にはマーチが縋り付いている。

 

「大丈夫か?音、もっと食べるか?」

 

 

「いーよ、もう十分」

 

 

瀕死の状態だったアミク。

 

ギルドの皆が頑張って騒ぎ立てることで、騒音を生み出し、それを食わせて魔力と体力を回復させた。

 

その魔力で自己治癒である程度回復。全快ではないが、これくらいでいいだろう。

 

なんとか死ぬことは免れたみたいだ。ありがたい。

 

 

「アミク・・・また無茶した、の・・・」

 

「うん・・・心配かけてごめんね」

 

「ううん、生きてただけで、よかった、の・・・」

 

 

マーチが泣きじゃくりながら言葉を紡いだ。

 

アミクもそんな様子を見て罪悪感が沸き起こる。ぎゅっとマーチを抱きしめた。

 

 

「・・・おじいちゃんは?」

 

「今、ジョゼと戦っている。マスターなら勝てる。案ずるな」

 

 

「・・・うん」

 

せめて付加術(エンチャント)を掛けてあげたかったが・・・エルザが言うなら大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)、審判のしきたりにより貴様に三つ数えるまでの猶予を与える。跪けい」

 

マカロフの両手に光が集まった。膨大な魔力がそこに収束していく。

 

 

マカロフとジョゼ、ほぼ互角の魔力を持つ聖十大魔道同士。

 

互いに肩から血を流していた。それだけでも二人の力が拮抗していることが分かる。

 

そんな二人の決着があっさり付こうとしていた。

 

 

「はぁ?」

 

「一つ」

 

ジョゼは目の前の老人が理解できなかった。

 

「何を言い出すかと思えば・・・跪け、だぁ・・・!?」

 

「二つ」

 

魔力が高まってくる。ジョゼはそれを感じながらも、自分も対抗するべく魔力を高めた。

 

「王国一のギルドが貴様に跪けだと!? 冗談じゃない、私は貴様と互角に戦える。いや、非情になれる分、私の方が強い!」

 

「三つ」

 

ジョゼは絶対なる自信を持っていた。ここでマカロフを倒し、自分は成り上がって、ゆくゆくは全ての頂点に君臨できる、と。

 

「跪くのは貴様らの方だ! 消えろ! 塵となって消滅しろぉ!」

 

「そこまで」

 

マカロフは胸の中でため息を吐いた。三つの猶予を与えたが、結局ジョゼは改めなかった。傲慢に、マカロフを、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を見下していた。

 

ならば、もう容赦はすまい。

 

 

「消え去れぇ!フェアリィィィテェェェェェェェェルゥゥゥゥゥ!!!!」

 

エサを欲しがる鯉のように口を大きく開けて叫び散らすジョゼ。

 

 

全てを終わらすために、マカロフは『妖精三大魔法』の一つを解き放った。

 

 

 

 

 

 

「『妖精の法律(フェアリーロウ)』、発動」

 

 

 

眩いほどの光が、全てを包んだ。

 

 

アミクが感じるのは温かく、心の内から湧き上がってくる安心感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まった後、真っ白になって固まっているジョゼがいた。髪は老人のように白くなり、顔も皺くちゃだ。

 

 

マカロフはそんなジョゼに背を向けると、外に向かって歩き出す。

 

「二度と妖精の尻尾(フェアリーテイル)に近づくな。

 ここまで派手にやらかしちゃ評議員も黙っちゃおらんだろう。

 これからはひとまずてめぇの身を心配することだ」

 

そんなマカロフの背後で、空気が揺らいだ。

 

と、思うとアリアがにやつきながら両手をマカロフに伸ばそうとしている。

 

(悲しい・・・!あの時と同じ隙だらけ・・・!)

 

アリアの両手がマカロフに届く、寸前。

 

 

「ふん!」

 

「ガフフォ!!」

 

マカロフが腕を伸ばし、アリアを殴り飛ばした。

 

「もう終わったんじゃ。ギルド同士のケジメは付けた。

 これ以上を望むなら、それは掃滅、跡形もなく消すぞ。

 

 今すぐジョゼを連れて帰れ」

 

マカロフは静かに言うと今度こそ振り返らずに去っていった。

 

 

 

少し前、ハッピーに連れられ、ルーシィが気まずそうにギルドから降りてくる。

 

そこに飛びつく影が一つ。

 

 

「ルゥゥゥゥシィィィィィィ!!!」

 

 

「キャァ!?アミク!?どうしたのよその怪我!!」

 

「よかったよかったよぉぉうわああああああああん!!!」

 

アミクはめっちゃ号泣してルーシィに抱きついていた。

 

アミクはアミクでめっちゃ心配していたらしい。

 

「あの変質者に変なことされてない!?ってかルーシィも怪我してんじゃん!?よぉし私が直々に出向いて股間ぶっ潰してやらぁ、あ、その前に『治癒歌(コラール)』。さてじゃあ行ってきま」

 

「落ち着きなさいよ!!?」

 

「ぺふっ」

 

ルーシィにチョップされて正気に戻るアミク。

 

「ほら、あたしは無事だから、ね?」

 

「うん・・・うん・・・!」

 

「こっちだってアミク達が無事でよかった・・・けどギルドが・・・」

 

 

そうなのだ。結局幽兵(シェイド)たちから守りきれず、破壊されてしまったギルド。そこはアミクも未だにショックだ。だが。

 

 

「・・・大事なのは見かけじゃない。そこに仲間とギルドを愛する心があれば、そこがギルドだから・・・」

 

「・・・うん」

 

アミクは静かに黙祷を捧げた。しかし、妖精の尻尾(フェアリーテイル)はなくなった訳ではないのだ。

 

 

「・・・ちょっと私行く所あるから」

 

「アミク・・・?」

 

アミクはマーチにお願いする。

 

「ナツ達の所に連れて行ってもらえる?」

 

 

 

 

 

「レビィ!ジェット!ドロイ!じっちゃん!!ルーシィ!アミク!ギルドの皆!!この拳にはみんなの想いが詰まってんだぁぁぁぁぁ!!!

 

 『紅蓮火竜拳』!!」

 

 

見事、ガジルを倒したナツ。 

 

 

それから、見知った魔力の光に包まれたりしたが、あっちも決着がついたとみて良いだろう。

 

 

 

「おーいナツー!」

 

そこによく知る人物の声が響いた。

 

アミクがマーチに運ばれて飛んできたのだ。

 

「ヨォ、アミク。終わったみたいだな」

 

「ナツもお疲れ。ガジル強かったでしょ?」

 

アミクはナツの隣に跪くと手をかざして治療をした。

 

「いーや圧勝だったね!」

 

「何言ってんだテメェ。ギリギリだったじゃねぇか」

 

そこで響いた声でやっとガジルがいることに気付いたアミクは大げさに驚いた。

 

「うわお!居たんだてっちゃん!!」

 

「てっちゃん、だと・・・!?」

 

ガジルがショックを受けた顔をした。

 

「やっはろー。とりあえず、

 てっちゃんも治しちゃいまーす。お疲れー」

 

ガジルを優しげな光が包んだ。

 

 

「んだテメェ、聖女気取りかよ、クソが」

 

「もう、そんな意地悪言わないの。ほら、じっとしてて」

 

「・・・ちっ・・・」

 

なんだかんだ言いながらも素直に言うことを聞いてくれた。

 

「なぁ、おまえ、なんて(ドラゴン)に育てられたんだ?」

 

ナツがガジルに近づきながら聞いた。

 

「俺さ、自分以外の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)に会うの二度目だからよ」

 

「私もガジルの(ドラゴン)について知りたいな」

 

アミクも身を乗り出す。

 

「ほらほら、もう吐いちゃいなよ〜ゲロった方が楽になるよ〜悪いようにはしないからぁ〜」

 

「なんだこの女」

 

ガジルは一つため息をつくと語り出した。

 

「俺はメタリカーナって(ドラゴン)に育てられたんだ・・・いつの間に消えちまったけどな。ったく、アイツどこ行きやがったんだ・・・」

 

その言葉を聞いてナツとアミクは顔を見合わせた。

 

「な、なぁ!そいつの居なくなった年ってX777年の7月7日か!?」

 

「あ?んだよメタリカーナのこと知ってんのか?」

 

ガジルが図星なのか驚いたように聞いてきた。

 

「そうじゃないけど、私たちの(ドラゴン)も同じ年、同じ日に消えたんだよ」

 

「!?・・・おまえらどっちも、か?」

 

「うん・・・君を合わせたら、三体とも、だね」

 

ガジルはそれを聞いて考え込んだ。

 

 

「俺たちの(ドラゴン)がX777年7月7日に消えた・・・」

 

「なんで7ばっかりなんだよ!?」

 

「知るか!」

 

ナツがどうでも良いところで突っかかっていった。

 

アミクは7という数字を聞いて閃く。

 

「あー!わかった!!」

 

「「なにぃ!?」」

 

驚く二人にアミクはいい笑顔で告げた。

 

「7が揃ってラッキーセブン!すごくめでたいから記念にどっか行ったんじゃない?」

 

「「なんだその理由!?」」

 

アミクが滅茶苦茶なこと言っていた。

 

「7が並ぶもんだからテンション上がっちゃったんだねきっと」

 

「メタリカーナがいなくなったのがそんなしょーもない理由だったら

 流石の俺も泣くぞ」

 

冗談はともかく、とアミクはガジルに手を伸ばした。

 

ガジルは訳が分からず首をかしげる。

 

「握手だよ握手!仲直り!」

 

「仲直り・・・って」

 

「聞いたところによるとルーシィ怪我させたり、レビィたちをあんな風にしたりしたらしいけど!

 とりあえず、もうケジメはついたから!」

 

アミクがさらに手を伸ばすとガジルは面食らった顔をした。

 

 

「・・・頭の中がおめでたい甘ちゃんだな」

 

「どーせ卵ケーキ大好きの甘ちゃんですよーだ」

 

ガジルはムスッとした顔ながら渋々アミクと握手した。

 

「ほら、あとはナツとガジルも!」

 

今度はナツとガジルにも促す。ナツはニカッと笑いながらガジルに言った。

 

「まぁ、謝ってくれるんなら、許してやらねぇこともねぇぞ!」

 

「チッ、誰が謝るかバーカ、こっちはギルドを壊されたんだ」

 

「なにおう!?あー!お前らだってギルド壊したじゃねーか!!やっぱ許すのやーめた!!」

 

ガジルとナツが急に喧嘩を始めた。ナツとグレイを見ている気分だ。

 

・・・ナツは誰かと喧嘩しないと気が済まないのだろうか。

 

「もう!喧嘩はおしまい!二人とも血の気が多いんだから・・・せっかくの同胞だし、仲良くしなきゃ!」

 

「んだよ、なんでこんな奴と仲良くしなきゃいけねぇんだよ!」

 

「あぁ?こっちから願い下げだコラ。あとテメェはオカンか」

 

「こーら!良い加減にしないと海に突き落とすよ?」

 

「「・・・」」

 

流石にこの高さから落とされるのは嫌だったのか二人ともブスッとして黙る。

 

「・・・ふふっ」

 

アミクはなぜか懐かしい感じがした。昔も、こうやって喧嘩を止めてたような。

 

「・・・はぁ、ったく散々だぜ。『双竜』には喧嘩売られるし、ギルドは壊されるし」

 

ガジルは不平を言いながら立ち上がる。

 

そもそも、売ってきたのはそっちで、ギルド壊したのはそっちも同じだと言いたい。

 

「あばよ、『双竜』。もう会うこともねぇかもしれねぇがな」

 

ガジルは立ち上がって数歩進むと止まった。

 

 

・・・・・・

 

 

「・・・行かないの?」

 

 

「出て行くのはテメェらだろ!!ここは俺たちのギルドだぞ!!」

 

 

それもそうかとアミクは苦笑いした。

 

 

 

 

 

 

 

ボロボロに崩れ落ちてしまった妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドの前に、マカロフはいた。

 

「こりゃあまた・・・派手にやられたのぉ・・・」

 

マカロフが呟く。その姿は少し寂しげではあったが、悲壮感が漂うものではなかった。

 

そこに暗い顔で近づく少女、ルーシィ。

 

「あ、あの・・・マスター・・・」

 

顔を俯かせて謝罪の言葉を言おうとするルーシィだったが・・・。

 

 

「おおぉ、ルーシィ、お前さんもずいぶん大変な目に遭ったのぉ・・・」

 

その顔はとても優しげだ。ルーシィのことを責めている表情では決してなかった。

 

「え・・・」

 

ルーシィは震えた。自分の責任で今回の戦争が起こったようなものなのに、なぜそんな顔でいれるのか、と。

 

「で、でも、あたしのせいで・・・」

 

「そんな顔しないの!ルーちゃん!」

 

その時、ルーシィの後ろから声が聞こえてきた。

 

聞き覚えのある、少女の声。

 

「レビィちゃん・・・」

 

レビィだけではない。ジェットやドロイ、さらにはリーダスまで。

アミクのお陰でほぼ完治したが、それでも、まだ安静のため包帯を巻いていた。

 

「みんなで力を合わせた大勝利なんだよ!」

 

 

「ギルドは壊れちまったけどな・・・」

 

 

「ンなもん、また建て直せばいいんだよ!」

 

 ジェットとドロイも励ましてくれた。

 

「ウィ・・・俺、役に立てなくて、ごめん・・・」

 

「う、ううん!そんなの・・・!」

 

リーダスが謝ろうとしたが、慌てて遮る。

 

リーダスは自分のことを守ろうとしたのだ。

 

「心配かけてごめんね、ルーちゃん・・・」

 

みんな、みんな優しすぎる。

 

ルーシィの目には涙が溜まっていた。

 

マカロフそんなルーシィを諭す。

 

「ルーシィ。楽しい事も、悲しい事も、全てーーーとまではいかないがある程度までは共有できる・・・それが、ギルドじゃ。

 

一人の幸せは皆の幸せ、一人の怒りは皆の怒り・・・そして、一人の涙はーーーー皆の、涙。ルーシィ、自責の念にかられる必要は無い。君には、皆の心が届いている筈じゃ・・・」

 

ルーシィは涙をポロポロと流し始めた。

 

認められた気がした。ここにいていい、と。

 

こんな自分でも、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいていいのだと。

 

戻ってきたアミクがルーシィに近づいて手を握った。

 

 

 

「顔をあげてルーシィ・・・君はもう妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員なんだから!」

 

アミクのその言葉にルーシィの涙腺はとうとう決壊した。

 

アミクを抱きしめながら、うわーん、と泣く。

 

さっきとは逆の構図だ。

 

アミクもルーシィの背中をトントンと叩いた。

 

 

 

 

これで一件落着ーーーーーーかと思われたが。

 

 

 

(それにしても・・・ちょっと派手にやり過ぎたかのう・・・ここまでことを大きくすれば、評議員だって黙っちゃおれん。またこっぴどく叱られるんじゃろうなぁ)

 

 

そこまで考えてマカロフは、先行きが物凄く不安になり、

うわーんと泣いてしまったのだった。

 

その姿は先程ルーシィに言い聞かせていた人物とは到底思えなかった。

 

 




原作の漫画が欲しい!



次がファントム編の終わりです。

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