妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

28 / 202
今回でファントム編は終了です。




あたしの居場所

今回の騒動はあのまま終わったりはしなかった。

 

当然のように評議員がやってきてその場の全員を拘束。

 

「やっべぇ!逃げろ!」

 

「あいさー!」

 

「ナツ、諦めなよ。評議員からは逃げられないよ・・・」

 

逃げようとしたナツ達もあっさり評議員に捕まった。

 

 

それから事情聴取されるアミク達。

 

アミクの場合は評議員の顔見知りというのもあってそんなに長くはかからなかった。

 

今回の件は街の人達も目撃していたので幽鬼の支配者(ファントムロード)が悪い、という判決になるのは確実だろう。

とりあえず、一安心である。

 

 

 

で、少し早めに終わったアミクはどうしていたか、というと。

 

 

「肋骨折れて肺に突き刺さっていたのに魔法で治療して放置!?

 アンタなに考えてんだい!!大きな怪我をしたら治療しても一旦私の方に来いって言い聞かせた筈だろう!?

 治癒魔法が万能だと思ってるのかい!?

 もし、骨が突き刺さったまま回復してたらどうする!?」

 

「ひぇっ!!ごめんなさい・・・」

 

「自分から危険に飛びこむなんざ、馬鹿なことしてるんじゃないよ!!早死にしたければ別だけどね!!全く、人間は過信するから嫌いなんだよ」

 

「に、人間にはいい人だっているし、そう言うおばあちゃんだって人間・・・」

 

「口答えするんじゃないよ!!」

 

「そ、そう怒んないでよおばあちゃん・・・」

 

 

人間なのに人間嫌いである妖精の尻尾(フェアリーテイル)の顧問薬剤師、ポーリュシカ。

 

なにかと人間を毛嫌いし、やたら人間を罵倒する。

 

しかし、マカロフの古い友人で治癒魔導士としては優秀である。

 

が、とにかく人を罵倒する。大事なことなので二回言った。

 

 

まぁ、なんだかんだ言って治療してくれるが。

 

「結局人間なんて争うことしか能がないんだ。自分勝手な欲望ゆえにね」

 

はっきり言ってアミクはポーリュシカのことは嫌いではない。ただ、いっつも怒って罵倒するのに圧倒されているだけだ。

 

少しの間、ポーリュシカに師事して治療について学んだ過去もある。つまり師匠ということだが、本人は師匠、と呼ぶと「気安く呼ぶんじゃないよ」とキレる。

 

解せぬ。

 

「・・・今回の戦いで、互いに傷ついてなにか得るものなんてあったのかい?」

 

「得るものならあったよ」

 

ポーリュシカの問いにアミクは断言する。

 

少なくとも、ルーシィの心は救えたと思う。

 

「・・・争いが正しいとは言えないかもしれないけど・・・

 誰かを守るためならば、何度でも戦うよ。私は――――妖精の尻尾(フェアリーテイル)は」

 

 

毅然とそう言ったアミクに対してポーリュシカは何も言わない。

 

アミクの答えに不満なのだろうか。

 

 

「―――いつまでいるんだい!!とっとと帰りな!!」

 

「え!?なんかリアクションしろって雰囲気じゃなかったの!?」

 

「うるさい!人間臭いんだよ!!」

 

「人間ですからね!!」

 

 

ポーリュシカが箒を振り回して追い出そうとしてきた。

 

あんな元気な婆さん、老人じゃなくて猛獣じゃないだろうか。

 

「ひぃ!!またね、おばあちゃん!!」

 

 

「いつ!私が!あんたのおばあちゃんになったんだい!!」

 

アミクは這いながらポーリュシカの攻撃を掻い潜り、ドアを開けて外に逃げた。

 

 

 

 

「全く・・・いつになっても変わんないね、あの子は・・・」

 

後で残されたポーリュシカがボソッと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

騒動が収束して一週間後。やっと普通の生活が再起動した。

 

しかし、まだギルドが壊れたままだ。よって、ギルドの皆で再建することにする。

 

 

「うおおおおおらああああああ!!!」

 

ナツが何本もの木材を持って運ぼうとしている。だが、無理してるのかプルプル震えていた。

 

「ナツ、そんなに持たなくていいのに・・・」

 

 

「なにバカやってんだか・・・」

 

アミクとグレイが呆れていると

 

「へ、へ!グレイ!おめぇは軟弱モノだからこんなに運べねぇだろ!!」

 

「なにぃ!?余裕で行けるわ!!」

 

グレイがまんまと挑発に乗りナツと同じぐらいの数の木材を運び始めた。

 

「んぐぐぐぐ」

 

「いぎぎぎぎ」

 

 

「はぁ、なにやってんの二人共・・・」

 

「まぁ、これでこそ二人の通常運転って感じがする、の」

 

「だねー」

 

ハッピーとマーチがうんうん、と頷いた。

 

 

「怪我したら危ないから、はい『攻撃力強歌(アリア)』」

 

二人の筋力を上げて楽にさせてあげる。

 

「うひょー!軽ぃ―――!」

 

「サンキュー!」

 

 

ナツとグレイは意気揚々と運んでいった。

 

 

「よし、私も三本くらい・・・」

 

「あれ?アミクって安静にしてろって言われてなかったっけ?」

 

「それ昨日までだよ。よーしやるぞー!」

 

ハッピーに答えて木材を三本ぐらい持ちあげた――――とき。

 

 

「さっきよりも多く持ってやる!」

 

「だったら俺はそれよりも多く!」

 

戻ってきたバカ二人の頭を木材でぶん殴った。

 

 

「「ぐえ!?」」

 

「ちょっと!何のために強化したと思ってんの!?怪我しないようにっていう私の配慮が伝わらなかったのかな!?」

 

「「ごめんなさい・・・」」

 

『さすがだね、仲介者』

 

「なりたくてなったわけじゃないけどね・・・」

 

「誰に言ってんだ?」

 

ナツにそう言われて「今度からはウルと話すときは『声送(レチタティーヴォ)』使おうかな」と考えていると。

 

「そこぉ!貴様ら!何を遊んでいる!」

 

「「げぇ!!エルザ!」」

 

「大丈夫だよ、二人共しっかりやってるから」

 

「そうか、ならばいいが・・・」

 

アミクが咄嗟に弁護してあげると、二人が神を見るような目でこっちを見てきた。どんだけエルザ怖いんだ。

 

「―――にしてもやる気満々だね、その格好」

 

エルザの服は完全に工事の人が着る土木作業の服装だった。

 

「この服を着てると精が出るのだ」

 

ドヤ顔で胸を張るエルザ。楽しんでるならいいが・・・。

 

「―――やる気出してるのはマスターもね」

 

いつの間にか近くにいたミラが上を見上げると

 

巨人になったマカロフが土木作業の服を着て、木材を高い所に打ちつけていた。

 

「おじいちゃんがいると捗っていいねー」

 

「「ノリノリじゃねぇか!!」」

 

ジェットとドロイが仲良くツッコむ。

 

「監督!この角材はどちらに?」

 

「「監督!?」」

 

「監督って・・・」

 

エルザはアレだ。劇やると役にはまり込むタイプだ。

 

「っていうか、なんかでかくね?」

 

「それに、この完成予想図でやれって・・・」

 

アミクがまるで子供の落書きのような完成予想図を見て頬を引き攣らせる。

 

「うふふ、せっかくだから、改築しちゃうのよ!」

 

「改築ね・・・私の魔法で修築出来ればよかったんだけど・・・」

 

アミクの音楽魔法で建物などを修復できるものがある。だが、あそこまでボロボロに壊れてしまえば、さすがに無理だ。

 

「鉄柱打ちつけれられた時点で使っとけば・・・」

 

後で直しておくつもりだったのだが、その前にシャドウギア襲撃があったのだ。

 

「いいのよ。それに、新しくなったギルドも楽しそうでしょ?」

 

屈託のない笑顔で言うミラにアミクも思わず笑みになる。

 

「・・・さぁ、サボってないでお前たちも現場に戻れ!」

 

「「あいさー!!」」

 

「よし、私も」

 

そう言って木材を持とうとすると、エルザに心配そうに言われた。

 

「もう大丈夫なのか?安静にしてなくても平気か?」

 

「もうみんな心配症だなー。最初っから大丈夫だって言ってるのに」

 

アミクは手を振ると木材を持ってナツ達の方へ駆けだしていった。

 

 

 

向かっている途中青髪の少女とすれ違った。妖精の尻尾(フェアリーテイル)で見かけたことのない顔だが、加入希望者だろうか。

 

 

しばらく行くとグレイとナツが寄っているのを見つける。

 

 

「おーい、ナツーグレイー!どうしたの・・・」

 

 

不自然に言葉を途切れさせたアミクの視線は、グレイの足の上にある弁当に釘づけになった。

 

(ハ、ハートだと!?)

 

お弁当にはハート型にデコられているご飯と、おいしそうなおかずがあった。

 

 

「お、おいアミク。なんかこんな愛情弁当っぽいやつが出てきたんだがお前じゃないよな?」

 

「うーんそういえばさっき女の子見かけたけどその子じゃない?」

 

「うへぇ、得体が知れねぇな・・・」

 

「俺が食っていいか!?いただきまーす!」

 

グレイの返事も聞かずにバクバク食べ始めるナツ。

 

ちなみに弁当を渡した女の子がそれを見てショックを受けてたとかなんとか。

 

 

 

「つーかアミク、おめぇもうちょっと休んでた方がいいんじゃねぇのか」

 

「あのジョゼにボッコボコにされたんだろ?」

 

「言い方ムカつくけど・・・もう平気だって言ってんのに」

 

皆やたらと休め休め言ってくる。心配してくれてるのは分かるが・・・。

 

「はぁ、仕方ない。ルーシィの様子でも見てくるよ」

 

そう言って角材をナツ達に渡し、家に帰ろうとすると。

 

「あぁ・・・アミク、ちょうどよかった」

 

やつれた顔のロキがアミクの前に現れた。

 

 

「ロ、ロキ!?そんなにやつれちゃって・・・」

 

「ははは・・・ルーシィにこれを渡しておいてくれるかい?」

 

そう言って手渡してきたのはルーシィの星霊の鍵だった。

 

「え!?ずっと姿が見えないと思ってたらこれを探してたの!?」

 

ロキは弱々しく笑みを作り、「まぁね・・・」と答えた。

 

 

「・・・うん、わかった。ルーシィに伝えとくよ」

 

「それには及ばないよ・・・」

 

ロキは手を力なく振ると歩いて去っていった。

 

 

「あいつ、大丈夫か?」

 

「休ませた方がいいかもね・・・」

 

アミクは心配そうにフラフラと歩くロキを見た。

 

その後、家の方向に歩き出す。

 

 

「あ!待てよ、俺も行く!!」

 

「ちょ!ずりーぞおめぇら!!」

 

「あいー!」「なのー!」

 

「お前たち!どこに行こうとしている!」

 

「やべぇ、エルザだ!!逃げろー!!」

 

「ちょっと!先行かないでよ!」

 

ナツを皮切りにグレイもエルザも猫二匹もついてくることに。

 

 

 

 

 

「ってかお前もついてきてんじゃねーかヨ」

 

「私もルーシィのことは気になるからな」

 

エルザとグレイの会話を聞きながらアミクは家のドアの鍵を開ける。

 

「普通は、こうやって入るんだよ。人の家には勝手に入るもんじゃないよ・・・」

 

「今更だろ」

 

そう、話しながら家の中に入るアミク達。

 

「おーいルーシィ!帰ったよー!」

 

アミクは真っ先にルーシィの部屋に向かい、ドアを開けた。

 

 

 

「誰も、いない・・・?」

 

 

しかし、中は蛻の殻だった。

 

 

「ま、まさか風呂場にいるってパターンか!?お約束の展開で申し訳ないがっ」

 

「って風呂に直行すんなしこの露出魔スケベ!!」

 

『・・・まぁ、そんな年頃だよな・・・』

 

ウルが最近いろいろありすぎて諦めている!!

 

グレイに引っ張られながら風呂場に向かうと――――ナツがひょっこり出てきた。

 

「いねぇ」

 

「確認早ぇよ!!」

 

「この変態共!!」

 

アミクがナツとグレイに拳骨を喰らわす。

 

「いてぇ!」

 

「うげぇ!」

 

プンプン怒りながらルーシィの部屋に戻ると。

 

 

「ルーシィー、どこー?」

 

「いや、さすがにここには・・・」

 

ハッピーとマーチが天井近くの壁に付いてる箱を開けたところだった。

 

その直後。

 

「うわわわわ!なの!」

 

大量の手紙が流れ落ちてきた。

 

「これ全部手紙?」

 

「いっぱいあるな~」

 

「・・・そういえば毎日カリカリ何か書いてるなーとは思ってたけど・・・。小説以外にも書いてたんだ・・・」

 

耳がいいので書いてる音まで聞こえちゃうのだ。

 

とにかく、マーチは手紙を一枚拾って読んでみた。人の勝手に読むのは良くないけど・・・。

 

「『ママ!今日ね、憧れの妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入ったの!そこでね、すごく綺麗な子と会ったんだ!』・・・これ、アミクのことじゃない、の?」

 

「・・・え、えへへ」

 

アミクは頬を赤らめて照れた。

 

「『それにね、そこの人達も個性的でマスターもいい人そう!しかも強い!』・・・表現だいぶ抑えた、の」

 

「個性的、ね・・・」

 

それからもナツのことやエルザのこと、グレイのこと、日常のこと、仕事のこと、鉄の森(アイゼンヴァルト)のこと、いろいろ日記のように書かれていた。

母に報告するような書き方ではあるが、独り言のようにも見える、不思議な手紙だった。

 

 

「・・・全部母ちゃん宛てか」

 

「おいおい、送らずに貯めてたのかよ・・・」

 

「家出中、だからだと思う、の」

 

ナツとグレイとマーチが話していると。

 

 

 

 

 

 

 

 

「びぇえええええええええん!!!」

 

 

「おぉう!!!?」

 

「なんなんだてめぇ!!?」

 

アミクが急に猛獣みたいに泣き始めた。鼻水も涙も垂れまくってて見るに堪えない。

 

ナツとグレイもびっくりして引いていた。

 

「るーしぃがあああああ、る”-じぃーがああああああ”あ”あ”!!!」

 

「落ち着け。ルーシィがどうした」

 

エルザがアミクの肩に手を置くと、アミクは小さな紙切れを見せてきた。

 

ルーシィが残した書き置きのようだ。

 

 

「い”え”に”がえる”っでえええええええええ!!!」

 

『実家に帰ります』

 

紙にはそう書かれていた。

 

 

『はあぁぁぁぁぁぁ!!!?』

 

「何考えてんだアイツはぁぁぁぁぁ!!?」

 

「やっぱり・・・責任感じちゃってるのかな・・・」

 

「うえぇぇぇぇぇん!!!家賃五万じゃまだ高かったのかも!!うああああああああん!!!」

 

「つーかおめぇはまず泣き止め!!」

 

「ともかく、直接ルーシィに話を聞きにいくぞ」

 

「なの」

 

『全く・・・とんだじゃじゃ馬お嬢様だね』

 

 

 

 

 

 

実家に帰ったルーシィ。

 

 

そのルーシィは今、自分の父親、ジュード・ハートフィリアと対峙していた。

 

豪奢なドレスを着て。

 

 

「何も告げず家を出て申し訳ありませんでした。それについては深く反省しております」

 

まず、ルーシィはジュードに謝罪を述べた。

仮にも、自分の父親だ。それぐらいの筋は通すべきだろう。

 

 

「賢明な判断だ」

 

ルーシィに背を向けたまま話すジュードの声は冷えきっていた。久しぶりに聞いても何も変わらない、アミクとは違う、身をすくませるような声色。

 

それからルーシィはジュードの話を聞いた。

 

ジュードはルーシィの縁談が決まったから、と『幽鬼の支配者(ファントムロード)』に依頼してルーシィを連れ戻そうとしていた。

そして、もしルーシィが戻ってこなかったら金と権力の全てを使い、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を潰していた、と語る。

 

ルーシィは傷だらけのナツやアミク、レビィ達を思い出し、思わず俯く。

 

「これでお前も分かっただろう。身勝手な行動一つが、周りにどれだけの迷惑を被らせるか」

 

ジュードは愛情も何も感じられない声色で淡々と言葉を紡ぐ。

 

「お前と彼らでは住む世界が違うのだ。それを知ることが出来たのは幸運だったなルーシィ」

 

確かに、自分はハートフィリア家の娘。それは覆せない。だけど、本当に違う世界でしか住めないのだろうか。

 

「それで、今回の結婚相手というのが以前からお前に興味を抱いていたサワルー公爵。覚えているだろう?」

 

「言っていましたね」

 

脂汗がひどくて手付きが厭らしく、下品な声で「ルーシィ様~♡」と鳴く小太りの男性。

客観的に見たら、サワルー公爵はそういう人物だった。

 

「ジュレネール家との婚姻によりハートフィリア鉄道は南方進出の地盤を築ける。これは我々ハートフィリア家にとって莫大な利益をもたらす結婚となるのだ。

 そしてお前には男子を産んでもらわねばならん。ハートフィリアの後継を、な」

 

 

ルーシィはジュードが自分のことを娘ではなく、利益のための駒としてしか見ていないことに胸が痛んだ。

 

幼いころ、ジュードに作ってあげたおにぎりをゴミのように捨てられたことを思い出す。

以前はそうではなかった。母親が死んでからジュードは人が変わったように仕事に打ち込み、ルーシィのことを顧みなくなってしまったのだ。

 

 

そんな父親がルーシィは嫌いだった。その父親に言われるがままになる自分が嫌だった。

 

だから―――――

 

 

「話は以上だ。部屋に戻りなさい」

 

 

もう逃げない。

 

 

「お父様、勘違いしないでください」

 

 

 

ここで決着をつける。

 

 

「私がここに戻ってきたのは、自分の決意をしっかりと、私の口から貴方にお伝えするためです」

 

 

 

ジュードはルーシィの言葉に驚いて目を見開いていた。

 

 

「確かに何も告げずに家を出たのは間違ってました。それは逃げ出したのと変わらないから」

 

 

ジュードは娘の目を見た。

決意で固まった、美しく輝いている瞳だった。

 

「だから今回はきちんと自分の気持ちを貴方に伝えて、ここを出ていきます!」

 

昔の自分との決別のためにも。自分の想いを父親にぶつける。

 

「人に決められる幸運なんて無い。自分で掴んでこその幸運よ! あたしの道はあたしが決める!

 結婚なんて勝手に決めないで! そして妖精の尻尾(フェアリーテイル)には二度と手を出さないで!」

 

そこまで言うとルーシィはドレスに手をかけ

 

 

ビリビリビリィ!!

 

 

と破いた。

 

 

「今度!妖精の尻尾(フェアリーテイル)に手を出したら、あたしが・・・ギルド全員(あたしの家族)が貴方を敵とみなすから!!!!」

 

 

破茶滅茶で問題児だが、自分のために燃えてくれたナツ。

 

自分のために泣いてくれた同居人で敵のことさえ想える、優しくて皆に愛されるアミク。

 

露出魔だが、自分の信念に従って戦ってくれたグレイ。

 

気高く誇り高く、騎士のような精神を持つ美しい女性、エルザ。

 

魚が大好きで自分なりに助けてくれたハッピー。

 

マイペースで何を考えているか分からないけど、皆を和ませてくれるマーチ。

 

ミラ。レビィ。ロキ。カナ。エルフマン。マカオ・・・ギルドの皆。

 

そして、マスターマカロフ。

 

 

 

これらの人々が、ルーシィのために傷つきながらも戦ってくれたのだ。

 

 

その、自分も含めた人たちが、ジュードと対立すると、ある意味宣戦布告をしたのである。

 

「自分が、自分が何を言っているのかわかっているのかルーシィ!! 実の父親に向かってお前は」

 

もはや先ほどの冷徹さは薄れ、急な娘の反抗に狼狽え、呆然とする男がいた。

 

「実の娘である私に、貴方は何もしてくれませんでしたね・・・」

 

「ふざけるな! 欲しい物なら何でも買い揃えたはずだ。服も玩具も金も!! お前が」

 

そういうことではないのだ。

 

「私が欲しかったのはそんなものじゃない!私はただ・・・」

 

ありきたりだが、とても単純で温かいもの。

 

「『愛してる』。その言葉が貰えれば十分だったのに・・・」

 

ルーシィの顔が悲しげに歪んだ。

 

 

ジュードは意味が分かってるのか分かってないのか、こちらを見たまま呆けている。

 

「それはあたしにとって、お金よりも高価な服よりも、ずっとずっと価値があるものだったのよ・・・」

 

 

ルーシィは右手の甲をジュードに見せた。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)はあたしをお嬢様とかじゃなくてただのルーシィだと認めてくれた、温かい所!もう一つの家族!あたしの居場所なのよ!」

 

ジュードの視線は甲にあるギルドマークに釘付けだ。

 

「ママと一緒に暮らしたこの場所を離れるのは寂しいし、皆と別れるのも辛いけど・・・」

 

使用人たちはルーシィを愛してくれた。ジュードとうまくいかないルーシィを励ましてくれた。

 

「ママが生きていたらきっと、私が思うようにしなさいって言ってくれると思うから」

 

 

ジュードはさらに戸惑う。娘が、誰かと重なる。

 

そうだ、その力強い瞳。

 

見覚えがあると思ったら――――

 

自分が愛してやまなかった、ただ一人の妻―――――

 

 

(レイラ―――――)

 

 

「ルーシィ・・・」

 

ジュードはルーシィに手を伸ばす。

 

「さようなら、パパ」

 

 

 

ルーシィは振り返って扉に向けて歩き出した。

 

 

もう過去には囚われない。ここから出て新しい一歩を踏み出すのだ。

 

 

 

ハートフィリア家の令嬢、ルーシィ・ハートフィリアは父親と自分の過去に答えを出し、決着をつけた。

 

これからはただのルーシィとして―――――妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士、ルーシィとしての日々が待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママ・・・」

 

ルーシィの前にあるのは墓石。自分の母親、レイラ・ハートフィリアの墓だ。

 

「――――あたしは、あたしの道を進むよ」

 

改めて誓うように拳を握りしめる。

 

 

心なしかレイラも「がんばりなさい」と励ましてくれたような気がした。

 

 

 

 

その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――~~~ああああああああああああああん、ル―――――――シィ―――――――――!!!」

 

 

 

誰かの絶叫が聞こえる。

 

 

ルーシィはそちらを向いた。すると―――――

 

 

 

「ル”ゥゥゥゥゥゥゥジィィィィィィ!!!!」

 

「ぎゃああああああああああ!!!!?」

 

 

ものすっごいスピードで泣きながら向かってくるアミクと

 

 

「アイツ、はっや!めっちゃ速っ!!」

 

「臭い嗅いだ瞬間ロケットダッシュしたぞ!!」

 

「これが、友情ゆえに、か!!」

 

「友情でアレなら、恋だとどうなるのか、見物、なの」

 

『拗らせてるな、いろいろと』

 

「待ってよ~!」

 

 

それを必死に追いかけているナツ達だった。

 

 

「うわあああああああああああああああああん!!!」

 

アミクは、なんか、もうヤバい。速すぎて涙と鼻水が後ろに流れている程だ。

 

っていうか形相がすごい。

 

軽くホラーである。

 

 

 

「ルゥゥゥゥゥゥゥシィィィィィィ!!!!」

 

「わっ」

 

そのアミクがルーシィに抱きついてきた。スピードを直前で抑えて。器用である。

 

「い”な”ぐな”ら”な”い”でぇぇぇぇぇ」

 

 

「ちょっとぉぉお!!まずは顔を拭きなさい鼻水つけるなぁ!!女の子がしちゃダメな顔になってるから!!」

 

ルーシィは持っていたハンカチでアミクの顔を拭いた。

 

「ルーシィー!」

 

そこにハッピーも泣きながら飛びこんでくる。他の皆も追いついた。

 

「ていうか皆も・・・なんで?」

 

「だって・・・おまえ・・・」

 

 

それから、ナツ達による必死な説明により、皆がここにいる理由を知った。アミクはずっとルーシィの胸でぐずってた。

 

どうやら自分がギルドをやめて家に戻ったと思っていたらしい。

 

 

ルーシィは苦笑しながらケジメをつけに来ただけだと誤解を解く。

 

 

その時のアミクの輝かんばかりの表情ときたら。

 

 

それから皆で笑い合った。

 

 

 

 

 

 

屋敷の窓からジュードは楽しそうに笑うルーシィを見る。

 

家にいた頃は見たことのない心からの笑顔だ。

 

 

(あの笑顔を引きだしたのが、あの者たちか・・・)

 

 

ジュードはぼんやりと今までの人生を振り返る。

 

自分のしてきたことは正しかったのか。レイラに顔向けできるような人生だったか。

 

もう一度、ルーシィを見た。今までで一番輝いている。

 

 

自分は娘の何を見てきたのだろうか。

 

ほんのちょっと、後悔が湧きおこり、ジュードは胸に手を置いた。

 

娘を幸せにするのは自分ではない。

 

あの妖精の尻尾(フェアリーテイル)なのだ。

 

 

 

 

 

「・・・ルーシィのお母さん?」

 

 

アミクがレイラの墓を見て聞く。

 

「うん・・・見ての通りずっと前に死んじゃったけど・・・」

 

「え?でもルーシィのお母さんって・・・」

 

「余計なことは言わない、の」

 

マーチがハッピーの口を塞いだ。

 

 

アミクは墓をよく観察する。

 

X748年からX777年。享年僅か29歳。

 

 

(・・・X777年?)

 

どこかで。

 

どこかで同じワードを聞いたような。

 

 

『俺たちの(ドラゴン)がX777年7月7日に消えた・・・』

 

 

そうだ、この前ガジルが言っていた。

 

 

自分とナツ、そしてガジルの(ドラゴン)がX777年にいなくなった。

 

ルーシィの母親、レイラが亡くなったのもX777年。

 

 

 

偶然、だろうか。

 

 

(偶然だよね・・・)

 

 

他にもX777年に亡くなった人も多いだろう。

 

だから、この人と(ドラゴン)を繋げるのは荒唐無稽すぎる。

 

 

アミクはそれ以上考えるのをやめた。

 

 

ただ、引っかかりとしてその疑問は残った。

 

 

 

 

 

 

 

「も~ルーシィったら紛らわしいんだから。泣き損したよ」

 

「ごめんごめんっ」

 

「ほんとおまえルーシィの家からここまでずっと泣いてたもんな。脱水症状で死ぬんじゃねぇかって冷や冷やしたぜ」

 

「あはは・・・ってか服」

 

 

帰る途中。歩きながら他愛もない会話をする。

 

 

 

「にしても広い町だね」

 

「のどかでいい、の」

 

飛びながらハッピーとマーチが言うと、ルーシィはそれにかぶりを振る。

 

 

「ううん、ここは庭よ。あの山の向こうまでがあたしの家!」

 

ルーシィは遠くにありすぎて小さく見える山を指差した。

 

 

瞬間。アミク達の時間が止まった。

 

 

みんな目が点になり、ぼーぜんとなる。

 

「あれ?どーしたのみんな?」

 

ルーシィが無邪気に聞いてくる。

 

これは・・・これは・・・。

 

 

 

 

「お嬢様キタ―――!」

 

「さりげ自慢キタ―――!」

 

「たまご¥・・・ぶろっこりー☆・・・ブルジョワキタ―――!」

 

なぜか敬礼をしながら言うナツ、グレイ、アミク。

 

「エルザ隊長!ナツとアミクとグレイがやられました!一言お願いします!」

 

ハッピーも敬礼でエルザに問いかける。

 

「空は・・・青いな・・・」

 

「エルザ隊長が故障したぞー!!!」

 

「やはり、世の中全ては金なのだ・・・・なの」

 

「マーチ軍曹が悪堕ちしかけてます!」

 

『・・・あいすど、しぇる?』

 

ウルも壊れた。

 

 

ルーシィはそんなアミク達を見て楽しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

ママ・・・あたし、あたしの居場所を見つけたよ。

 

 

 

 

 




次回からは閑話が始まります。といっても、劇とかロキのやつとか、あとオリジナルストーリーをちょこっと。

それが終われば楽園の塔です。


個人的にジェラールのゲス顔が草です。

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