入って来たナツとハッピー、そして金髪美少女。
(うわぁ、綺麗だなぁ)
アミクは思わず感嘆した。顔面偏差値が高い美少女達が多く集まる
彼女とどっこいどっこいの大きさを持つアミクが自分の事を棚に上げて少女の胸を凝視していると。
「ははっ! ナツ! また派手にやらかしたなぁ・・・。ハルジオンの一件新聞に載って―――」
「てめぇ!
「グホッ!」
新聞を読んでいた男が怒ったナツによってひざ蹴りされた。ひざ蹴りされた男は吹っ飛んでテーブルを巻き込みながら落下する。
「てめぇ、コラ!」
「あ、痛!ちょっと!」
ついでに巻き込まれた人たちも怒りで火が付いたのか周りの者達と喧嘩をし始める。
(凄い!私、本当に
金髪の美少女――――ルーシィは人々が騒がしく、しかし楽しげに乱闘するのを見て感動していた。ようやく憧れていたギルドに来たのだ。たとえ喧嘩でもなんだが貴重なものに感じる。
「ハッピー、おかえりなの」
「あ、マーチ!ただいま~!」
フワフワと浮いていたハッピーがこれまたフワフワと浮いている猫にデレデレしながら近づいて行った。
「え?メスのハッピー?」
「マーチって言うの。よろしくなの」
「よ、よろしく」
まさかハッピーのような生き物にまた遭遇することになるとは思わなかったルーシィは意外と珍しくないのかしら、と首を傾けた。そこに
「おかえり、ハッピー。やっぱりデタラメだったでしょ、噂は」
「あい。置いていっちゃってごめんね、アミク」
「別に私に謝る必要はないよ」
緑髪で長いツインテールをした美少女がハッピーに話しかける。そうしてハッピーと会話していると、アミクがルーシィに気付いた。
「ん、と加入希望者、かな?私はアミク。とりあえず、よろしく」
(わぁ、綺麗な子だな・・・)
アミクがルーシィに対して握手を求めるが、奇しくも彼女はさっきアミクが思ってたのと同じような思考に陥っていた。
「あの・・・?」
「あっ、ごめんね。私はルーシィ!よろしく!」
ルーシィは握手をしながらアミクを見る。
大体自分と同じくらいの背丈だろうか。自分が映る瞳の色はマリンブルー。眉毛も綺麗に整っていて服越しからも分かる巨乳。20人中20人が美少女だと言うだろう。
「ちょっと変なギルドだけど慣れれば凄く楽しいから、ね?だから、気楽にしててだいじょ・・・」
「ナツが帰って来ただと!?」
アミクの声を遮るように大声が聞こえて来た。そちらに視線を向けると、半裸、どころかパンツ一丁の男性が居た。
「おい、ナツ!この前のケリつけんぞ!」
「グレイ、服」
「うおっ!いつの間に!」
そう言って慌てる、ちょっと脱ぎ癖の強い男ーーーグレイ・フルバスター。
「全く・・・これだから品のない此処の男共は嫌だよ」
そう言いながらも大樽を持ち上げて酒を飲む黒髮ウェーブの女性ーーーーーカナ。
「くだらん」
「わっ」
「あ、エルフマン」
アミクとルーシィの後ろに立つ、巨漢の男ーーーーエルフマンが傲然と言い放つ。
「昼間っからピーピーギャーギャーガキじゃあるまいし。漢なら・・・拳で語れぇぇ!!」
「結局喧嘩なのね」
雄叫びをあげながら騒ぎの中に突っ込むエルフマン。だが。
「「邪魔だ!」」
「しかも玉砕!?」
ナツとグレイによってあっさりぶっ飛ばされてしまった。被害は増える一方だ。
「全く騒がしいね」
爽やかな声で言いながら現れたのは2人の女性を侍らせている美男ーーーーロキ。実はこの男、彼氏にしたい魔導士ランキング上位者である、が。
「混ざってくるね〜!」
「「頑張って〜!」」
「はい、まともな人1人消えた!」
こんな感じで女にだらしない。アミクも何回もデートに誘われたことがある。
「なによこれ・・・まともな人がほとんど居ないじゃない・・・」
「あはは、それが
「あい!」
「その通りなの」
アミクの言葉にハッピーとマーチが相槌を打つ。それを聞いてルーシィはハッとなる。
「じゃあもしかしてあなたにも致命的な何かが!?」
「答えにくい質問はやめて下さい」
自分としてはあの連中よりはまともだという自負があるが、あくまで主観的なので断言はしない。
「あら?新人さん?」
そこに銀髪の美女であるミラジェーンがやって来た。
「あ、ミラさん。この人ルーシィさんって言うんだって」
「ど、どうも・・・ってミ、ミラジェーン!?ほ、本物だ〜!」
ルーシィが歓声をあげる。ミラジェーンはルーシィが愛読している『週刊ソーサラー』のグラビアを飾る魔導士で有名なので、ルーシィもよく知っているのだ。というより、憧れの人である。
「ふふ、ナツが帰って来たから早速ギルドが壊れそうね」
「すでに壊れてるけどね」
アミクがボロボロになったギルドを見てツッコむ。
「あ・・・これ止めなくてもいいんですか?」
「いつもの事だからほっとけばいいのよ。それにーー」
「あ」
何か言いかけたミラの頭に飛んで来たビンが命中した。
「た、楽しいでしょ・・・?ガクッ」
「ミ、ミラジェーンさああああぁぁん!!!怖いいいいいい!!!」
血まみれになりながら気絶するミラを見て悲鳴をあげるルーシィ。アミクは顔を両手で押さえてため息をついていた。
「おら!」
その時、ナツにぶっ飛ばされたグレイがルーシィの近くに倒れて来た。
「ぐっ! あ、俺のパンツが!?」
「ヘッヘッヘ!」
いつの間にかパンツがなくなっていたのでナツを見ると、ナツがグレイのパンツを手で回していたところである。つまり、今のグレイは全裸、まごうことなき変態である。流石にやばいのでグレイはルーシィの方を向くと。
「お嬢さん、よければパンツを貸してくれないか?」
「貸すか!!」
ルーシィに断られたグレイは今度はアミクの方を向く。
「じゃあ、代わりにアミク、お前の貸せよ」
「アホっ!!」
グレイの顔面にアミクの綺麗な蹴りが入った。惚れ惚れする脚線美だ。
そのままぶっ飛ばされたグレイはナツを巻き込んで転がって行った。
「もう、ナツが帰って来た途端これだよ・・・」
呆れたように言うアミクであったが、ルーシィにはその顔が楽しげに笑っているようにも見えた。
とはいえ、喧嘩はまだ終わらず、それどころか激化してゆく。
「ったく……落ち着いて酒も飲めやしない。あんたらいい加減にしなさいよ?」
するとテーブルに座っていたカナがカードを取り出す。
「くそっ! 頭にきた!」
グレイは左手の掌に右手の拳を乗せる。
「うおぉぉぉぉ!!」
エルフマンは魔法で右腕を変化させる。
「全く……困った奴らだ」
ロキの指にはまっている指輪が強く光り出す。
「どっからでもかかってこい!!」
ナツは両手に炎を宿す。
「ま、魔法は流石にまずいよ・・・!」
「え、嘘!?」
少し焦り出したアミクを見てルーシィも不安に襲われる。するとーーー
「やめんかぁぁぁ!!バカたれ共!!」
巨人が現れた。そうとしか言いようのない人物が一喝する。すると、先程の騒ぎが嘘のように皆動きを止めた。
「でかーーーーーーっ!!!」
「あ、おじいちゃん、居たんだ」
「え、アンタのおじいちゃんなの!!?」
ルーシィは驚愕する。こんな可憐な少女と進撃しそうな巨人との繋がりが全く見えない。
「違う違う。私がそう呼んでるだけであの人はこのギルドのマスターだよ。それにあの人の孫は別に居るし・・・」
「ま、マスター!!?」
後半の言葉は聞こえなかったが、慌てて言うアミクの言葉にまたしても驚く。ただでさえ濃いメンバーなのにそれをまとめる人がこんなとんでもない人物だったなんて・・・。
静まり返る空気の中、その空気の読めない
「だっはっはっ! 皆してビビりやがって! この勝負俺の勝ーーぴっ」
案の定、あっさり踏み潰されるナツ。それを見てルーシィはめっちゃビビった。その巨人がルーシィの方を向く。思わずヒッとなる。
「む!? 新入りかな!?」
「は、はいぃ……」
完全に怯えた様子で答えるルーシィ。
「ふんぬぅぅぅぅ!!」
巨人は雄叫びをあげるとその身体がどんどん小さくなりーー。
「よろしくネ!」
「ちっさ!」
子供くらいの大きさになってしまった。この男が
「とうっ!」
マカロフは2階に向かってジャンプし、空中でくるくる回転する。しかしーー。
「あイタっ!?」
体制を崩し、2階の手すりに頭をゴチン、とぶつけた。頭を抱えてうずくまるマカロフを見てキルド中が微妙な空気になる。アミクは笑いを堪えている。
「ゴホンっ! ま〜たやってくれたの貴様等、見よこの評議員から送られた文書の量を!」
気を取り直してマカロフは手に持っていた文書を読み上げる。
「まず・・・グレイ!」
「あ?」
「密輸組織を叩いたのはいいが・・・その後素っ裸で街を歩き、挙句の果てに洗濯中の下着を盗み逃走」
「いや、だって裸で居るのはまずいだろ」
「じゃあまず脱ぐなよ」
グレイの返答に冷静にツッコむカナ。マカロフはため息をひとつ吐くと再び読み始めた。
「エルフマン、貴様は要人護衛の任務中、要人に暴行」
「だって『男は学歴よ!』なんて言い出すから、つい・・・」
マカロフは頭に手を当て首を横に振る。だんだん読むごとにシワが増えてる気がする。
「カナ・アルベローナ。経費と偽り酒場で飲むこと樽15個。さらにその酒の請求先が評議員」
「バレたか・・・」
「ロキ。評議員レイジ老師の孫娘に手を出す。タレント事務所から損害賠償が来とる」
「はは・・・参ったなぁ」
「ナツ・ドラグニル。デボン盗賊一家を壊滅するが民家7件も壊滅。チェーリ村の歴史ある時計台倒壊。フリージア教会全焼。ハルジオン港半壊・・・」
「なっはっはっは!」
「いや、笑い事じゃないから」
アミクがジト目でツッコんだ。
マカロフは次の文書を開く。
「そしてーーーアミク」
ビクッと思わず硬直した。
「ーーーは、特に大きな問題は起こしとらん」
「ちょっと!ビックリさせないでよ!」
つい、思わせぶりな態度に反応してしまった。
「むしろ感謝状が来とる。この前行った孤児院の子供達から送られてきた手紙もあるぞい」
「い、いやー、照れるなー?」
「お前さんは唯一の癒しじゃ・・・。皿を何枚か割ってたとか、ブロッコリーや卵が根こそぎなくなったとかいうのもあったが・・・他と比べるとほんとに些細なことじゃ」
「あ・・あはは・・・」
アミクの笑みが引き攣った。
「まぁ、ともかくじゃ。ほとんどが問題行為ばかりで・・・儂は評議員に怒られてばっかじゃぞ・・・」
皆は気まずそうに床を見る。
「だがーー」
マカロフは突然笑い、文書を燃やす。
「ーー評議員などクソくらえじゃ」
文書を空中に投げると、それをナツが食べた。
「よいか! 理を超える力は全て理の中から生まれる。魔法は奇跡の力なんかじゃねぇ。我々の内にある気の流れと自然界に流れる気の波長が合わさり初めて具現化されるのじゃ。それは精神力、集中力を使う。いや、己の魂を全て注ぎ込む事が魔法なのじゃ。上から覗いている目ん玉気にしてたら魔道など進まん。評議員のバカ共などに恐れるな」
そこまで言うとマカロフは人差し指を上に向ける。
「己が信じた道を行けぇ! それが
『おおおおお!!』
ギルドメンバーはマカロフと同じ様に指を立てて雄叫びをあげる。もちろんアミクやマーチもだ。
アミクはチラリとルーシィを見る。ルーシィの顔はこれからのことを思ってか、期待でキラキラと輝いていた。