妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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備考:音竜の譚詩曲 = 音竜の劍角

決着つきます。たぶん。


ドラゴンフォース

「うおおおおおおおお!!!」

 

ナツを激しく、真っ赤な炎が包む。その炎は今までと一味違った。先ほどよりも熱く、離れていても焼けそうな程の炎だ。

 

更に、ナツの顔や腕にドラゴンのような鱗が浮き出ている。

 

 

「あああああああああああ!!!!」

 

アミクの方にも変化が訪れた。ナツのように音がアミクの周りを激しく漂い始める。

 

 

顕著な変化は額だ。額ーーーーーそれぞれの眉の上辺りから、白く輝く、鋭いものが生えてくる。それはーーーーーー

 

 

「角・・・・?」

 

 

ジェラールの言う通り、二本の角が生えたのだ。

 

 

また、アミクの首には楽譜のような線が何本もできている。そして、青かった瞳が金色になっていた。

 

 

 

 

しかし、ナツ達の変化もそうだが何より――――――アミクもナツもとんでもなくパワーアップしているように見えた。

 

 

 

(こいつら・・・エーテリオンを取り込んだのか・・・!!?)

 

 

二人の今の魔力はジェラールでさえ脅威的に感じる程だ。それに、ジェラールは本気を出せない。二人で攻められれば負けてしまう可能性も・・・。

 

なんて考えいているうちに、二人は動いた。

 

 

「お前がいるからぁ!!」

 

ナツが全身に炎を纏ってものすごい勢いで膝蹴りをしてきた。

 

 

「エルザは涙を流すんだァァァァァァ!!!」

 

そのままジェラールを床に叩きつけ、床を壊した。ナツとジェラールはその場から落下する。

 

 

「約束!したんだ!」

 

 

ジェラールが痛みに悶えながら落下していると、アミクが自分目掛けて突っ込んできていた。

 

慌てて魔法を放つ。正面からだけではなく、彼女の後ろ、横、上、下からも。

 

 

「エルザを守るって!」

 

先程、シモンと別れた直後、彼が小さく「エルザを、頼む」と呟いていた。シモンは独り言のつもりだったかもしれないが、アミクの耳にはバッチリ聴こえていた。

 

 

 

 

アミクは四方八方から迫り来る光弾を見えているかのように――――――否、聴こえているかのように壁を蹴ったりして軽やかに避けた。そして、自分に急接近する。

 

顔を覗き込まれた。

 

「心拍が速くなったね。息遣いも荒いし、筋肉が収縮する音も『聴こえ』るよ。焦ってるの?」

 

「――――――!!?」

 

ジェラールは得も言われぬ恐怖に襲われた。

 

 

 

この小娘――――――心臓の鼓動や筋肉の収縮音まで聴こえてるのか!?

 

 

アミクに生えた二本の角。このツノはあらゆる音を集め、解析する役割も担っている。つまり、性能のいい耳が二つできたようなものなのだ。

 

よって、彼女は今までより遥かに聴覚が鋭敏になっている。

 

 

 

「えいやぁっ!!!」

 

「がっ!!!」

 

アミクは呆けているジェラールの顔面に裏拳を叩き込んだ。

 

 

ぶっ飛び、その下の床に叩きつけられる直前。

 

「おらあああああああ!!!!」

 

ナツが下から飛び上がってジェラールの腹に拳をめり込ませた。

 

「ぐ、ふぉぉ!!?」

 

 

そのままジェラールごと突き進み、今度は下から床を破壊した。

 

 

「・・・小賢しい!『流星(ミーティア)』!!」

 

ジェラールはナツを突き飛ばすとすごい速さで上へと上がって行った。

 

「この速さには付いてこれまい!!」

 

確かに先程までのアミク達ならば動きを捉えるのも難しかっただろう。だが・・・

 

タンタンタン!

 

「なっ!!?」

 

 

アミクが壁を蹴りながら、ジェラールを超える速さで彼を追いかけた。

 

「『音竜の響拳』!!」

 

アミクの拳がジェラールの顔面を捉えた。強烈な一撃を喰らい、彼は空高く打ち上げられる。

 

 

「バカな・・・!!オレは負けられない!!」

 

ジェラールはがむしゃらにナツ達を攻撃する。

 

「自由の国を、造るのだ! 痛みと恐怖の中でゼレフはオレに囁いた! 真の自由が欲しいかと! オレは選ばれしものだ!ゼレフと共に真の自由国家を作るのだァァァ!!!」

 

「それは、人の自由を奪って作るものなのかァァァァァァ!!!」

 

ナツはジェラールを睨みながら叫ぶ。

 

「世界を変えようとする意志だけが歴史を動かすことができる!!何故それが分からんのだぁ!!」

 

ジェラールは吼え、その場で魔法陣を描いた。

 

「アレは――――――――『煉獄砕波(アビスブレイク)』!?」

 

エルザがその魔法陣を見て驚愕する。

 

 

煉獄砕波(アビスブレイク)』は前にファントムが使おうとしていた禁忌魔法だ。

 

この魔法を単独で使えるとは流石は聖十大魔道というところだろう。

 

「この塔ごと破壊する気か!?」

 

エルザが叫ぶが、ジェラールはそれに意を介さず魔法を放とうとする。

 

「また八年――いや、今度は五年で完成させてみせる。ゼレフ、待っていろ」

 

しかし―――――――――そこに突っ込む一人の影。

 

 

「・・・!またお前か、小娘ェェェェェ!!!」

 

「『音竜の』・・・」

 

アミクは両手に音を纏わせて魔法陣に飛び込んでいく。

 

 

「そのまま消えてしまええええええええ!!!」

 

「アミク、よせええええええええええ!!!」

 

ジェラールの哄笑とエルザの悲鳴と同時に『煉獄砕波(アビスブレイク)』が発動しようとした。

 

 

 

そして――――――――

 

 

 

 

僅かにアミクが早かった。

 

 

「『交声曲(カンタータ)』!!!」

 

両手を前方に突き出して魔法陣にゼロ距離で衝撃波を当てた。

 

 

 

 

 

パリィィィン!!!

 

 

魔法陣が、割れる。

 

 

「バ・・・カ、な・・・!!『煉獄砕波(アビスブレイク)』を壊した、だと!!?」

 

「・・・今の貴方じゃ、自由になんかなれないよ」

 

驚愕するジェラールを見るアミクの顔はとても悲しそうで、哀れむようだった。

 

「亡霊に囚われてる、貴方じゃ・・・」

 

「黙れえええええええええ!!!そんな目でオレを見るなァァァァァァァァ!!!」

 

そんなアミクに魔法を放とうとすると・・・・ナツが飛び上がって向かってくる。

 

 

 

「自分を解放しろォォ!!ジェラァァァァァァァァァル!!!!!」

 

「・・・ごめんね」

 

アミクも空中で衝撃波を使って飛ぶ。そして、二人揃ってジェラールに向かって突き進んでいった。

 

 

炎を纏って飛んでくるナツと、綺麗な音色を響かせながら飛んでくるアミク。

 

ジェラールには二匹の(ドラゴン)が自分に飛翔してきているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「「『火炎音響滅竜拳』!!!」」

 

二つ分の拳がジェラールの両頬にめり込む。

 

「――――――――あああああああああああああああ!!!!!」

 

 

ジェラールは大絶叫をあげる。それはジェラールを縛っていた亡霊の断末魔でもあった。

 

 

 

二人は拳を同時に振り抜いてジェラールを下に叩き落とした。そのまま楽園の塔に直撃し、上部を半壊する。

 

 

ジェラールは魔水晶(ラクリマ)をぶち壊しながら落下し、魔水晶(ラクリマ)の床に埋もれた。

 

白目を剥き、完全に気絶しているジェラール。

 

 

 

 

そして、大きな音を立ててナツが着地した。

 

 

続いてアミクも着地―――――――――――しようとしたが足を滑らしてお尻を床に打ち付けた。

 

 

「いったぁ〜い!」

 

涙目でお尻をさするアミク。

 

 

傲然に立っていたナツもそんなアミクを呆れたように見ていた。

 

 

(これが・・・アミクとナツの真の力・・・!)

 

 

二人を見ながらエルザは胸の中が震える感覚に襲われる。

 

 

 

(これが・・・滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)・・・!!)

 

 

ドラゴンの力にも匹敵すると言われる滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の力を目の当たりにしたエルザ。

 

それは、エルザにとっても未知数で、畏怖し、そして感動した。

 

 

「・・・も、もう無理・・・体が、動かないよ・・・」

 

アミクが座り込んだまま言った。ナツも力尽きたのか膝から崩れ落ちて気絶する。

 

「ナツ・・・お疲れ・・・」

 

アミクは気絶こそしていないものの、疲労困憊かつダメージのせいで身動きが取れないようだ。

 

「エルザは大丈夫――?」

 

アミクが普段通りの口調でエルザに問いかける。無性にそれが嬉しかった。

 

「ああ・・・アミク、ナツ」

 

エルザは二人の名を呼ぶ。(ナツは聞いちゃいないが)

 

「お前たちはすごい奴らだよ本当に・・・ありがとう・・・お前たちのお陰で、私の8年も続いた悪夢は終わった。感謝してもしきれない」

 

やっと、終わった、という気持ちが胸の中で膨らむ。自分を8年も苛んだ後悔、恐怖、悲しみ。全てに決着がついたのだ。

 

 

「・・・家族だったら、当たり前、でしょ?」

 

ニッコリ笑って告げるアミクにエルザも思わず笑顔になった。

 

だが、アミクの顔がすぐに曇る。

 

 

「・・・シモン、助けられなかった」

 

アミクはそっとシモンの骸に視線を移した。

 

「私には、救える力があったのに――――」

 

 

「一人で背負うな」

 

エルザが芯の通った口調で言う。

 

 

「気に病むな―――――と言っても無駄だろうからな。私にもシモンを死なせてしまった責任がある。お前一人のものじゃない。だから――――一緒に背負っていこう」

 

アミクのせいじゃない、というのは簡単だ。だが、この優しい少女はいつまでも自分を責めるだろう。

だったら、少しでもその負担を減らしてあげることが、アミクに対してできることだろう。

 

 

「・・・エルザは、優しいね」

 

 

少しすっきりしたように笑うアミクだが、お前が言うな、と言いたい。

 

 

「さて、ジェラールと・・・シモンも一緒に連れて戻ろう」

 

アミクはジェラールに対して違和感があった。その違和感の正体が分かれば、もしかしたらエルザとジェラールも昔のように――――。

 

 

と思考していると、急に塔が揺れ始めた。

 

 

 

 

 

一方。

 

 

楽園の塔の外で待機していたグレイ達。

 

 

彼らは最初は船の上に乗っていたのだがエ―テリオンのせいで転覆。そこでジュビアが水で周りを覆ってくれたため、海で溺れずに済んでいた。そのままアミク達を心配しながら待つことしばらく。

 

 

「お、おい!なんだよあれ!!?」

 

ショウの言葉で塔の激しい戦闘音を聞いていた全員が楽園の塔を見て、目を見開く。

 

楽園の塔のいたる部分が大きく膨れたり、湾曲したりと歪な形をしだした。

 

 

「何が起こってる、の・・・?」

 

 

マーチが呆然とした表情で呟くと次の瞬間、膨れ上がったところから破裂したように魔力が飛び出る。

 

 

「魔力が暴走してるのか!?」

 

 

「そもそもあんな巨大な魔力を一箇所に留めておくことが無茶だったんだ」

 

 

全員が楽園の塔の現状に戦慄してしまう。

 

 

 

「行き場をなくした魔力の渦が・・・弾けて大爆発を起こす・・・」

 

 

 

ジュビアが震えながらそう呟くとみんなが慌て出す。

 

 

「ちょっ・・・!こんな所にいたらオレたちまで・・・!」

 

 

「中にいる姉さんたちは!!?」

 

 

「誰が助かるとか助からねえとか以前の話だ・・・オレたちを含めて・・・全滅だ」

 

「そんな・・・なの」

 

マーチは塔を見上げると声の限り叫んだ。

 

「アミク――――――――!!!」

 

ウルも内心焦りでいっぱいだ。

 

 

(クソ!エ―テリオンを溜めこむなんてバカなことしたもんだ!!どうすればいい!!今ある魔力で何かできるか・・・?)

 

必死にこの状況を打開しようと考えた。

 

 

 

―――――だが結局今のウルにできることはなかった。

 

 

 

 

 

「ヤバいヤバい!なんかヤバいのだけは分かる!エルザはナツ背負って先行って!!私はジェラールとシモンを―――――」

 

「やめろ!!二人を運んでいる暇はない!今はここを出ることだけ考えるんだ!!」

 

「でも・・・!!」

 

アミクは二人共連れて行きたかった。シモンの骸は故郷とかに埋めてあげたいし、ジェラールだってやってきたことを考えれば許せないかもしれないが、アミクの考えでは彼も被害者かもしれないのだ。

 

だから―――――。

 

「アミク!!」

 

「!」

 

「頼む・・・言うことを、聞いてくれ・・・!」

 

涙目で懇願するエルザにアミクは何も言えなくなってしまった。エルザだって本当はどっちも救いたいのだ。

 

でも、今はナツとアミクという大切な家族がいる。だから、二人を見捨てる苦渋の決断をしたのだ。

 

 

「・・・行こう」

 

「ああ・・・」

 

アミクがエルザを促したその時、シモンが倒れていた床が崩れた。

 

 

「あ・・・・」

 

エルザとアミクはそれを見ている事しかできない。

 

 

シモンは穏やかな笑みを浮かべながら落ちていった。暗く、深い、海へと。

 

 

(・・・さようなら、シモン)

 

 

エルザは歯を噛み締めるとアミクと共にナツを運びながら下へと降りていった。

 

 

 

ジェラールはそもそも見当たらなくて捜索を断念した。

 

 

 

先ほどの力はないのか、アミクは既にへとへとだ。よく見ると、角も線も無くなっている。ナツの肌に浮かんでいた鱗も消えていた。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・これ・・・!間に合うの・・・!?」

 

「・・・間に合わせる・・・!」

 

アミク達は必死に塔の中を駆ける。

 

 

「うわわ!すごいうねってる!写メ撮れないかな!?」

 

「しゃめ・・・?ともかくそんな場合ではないだろう!」

 

 

うねる床に驚いたアミクがツインテールをピン、と逆立たせる。

 

そんな床を踏みしめながら足を進めるが、正直に言って間に合う気がしない。

 

 

(このままでは・・・アミクもナツも、全員死んでしまう・・・)

 

それだけは避けなければならない。

 

ふ、とエルザは横にあった巨大な魔水晶(ラクリマ)を見た。

 

 

(――――もしかすれば・・・)

 

「エルザ・・・?」

 

エルザの様子に不穏なものを感じたのかアミクがエルザの手を掴む。

 

 

「・・・すまない、アミク・・・」

 

「え・・・?」

 

エルザはそっとアミクの手を外すとナツを預けた。そして――――

 

 

ドプン

 

 

腕を魔水晶(ラクリマ)に突っ込んだ。

 

腕は何の抵抗もなく魔水晶(ラクリマ)に沈む。ビリビリ、とした痛みが走ったがエルザは安堵した。

 

 

(よかった、魔水晶(ラクリマ)はまだ私を受け付けている)

 

「エルザ!?何を・・・!?」

 

「・・・こうするしか、ないんだ・・・」

 

「やめて・・・やめてよエルザ!!」

 

アミクはナツを投げ捨てると魔水晶(ラクリマ)に沈み込んでいるエルザの腕を掴んだ。

 

「・・・これの暴発を防ぐためには私がエーテリオンと融合し、塔の魔力を制御しなければならない・・・」

 

「そんなことしたら!エルザが!!」

 

死んでしまう、と続けようとしたが嗚咽のせいでできなかった。

 

さっきから力が出ない。そもそも歩くことさえやっとだったのだ。音を食べて体力を回復できるとはいえ、ダメージはまだ残ってるし、さっきの戦いの後では疲労の回復も追いつかない。

 

だから、さっきみたいに魔水晶(ラクリマ)からエルザを引っ張りだすことができなかった。

 

「助けるって!約束したのに!!決めてたのに!!」

 

アミクが血反吐を吐くように叫ぶ。

 

 

「・・・う・・・エ、エルザ・・・?おまえ、何してんだよ・・・?」

 

さっきの落とされた衝撃で起きたのかナツがエルザの惨状を目にした。

 

そして、アミクのようにエルザの手を掴む。

 

 

「二人共・・・私は妖精の尻尾(フェアリーテイル)無しでは―――――仲間がいなければ、生きていけない・・・」

 

「エルザ!他にも方法があるって!!」

 

泣きじゃくるアミクとナツの頬を残っている手で触れた。

 

 

「私がそんな皆を救えるのなら」

 

 

最期の接触、とばかりに触った後、とうとうエルザは自分の身体全部を魔水晶(ラクリマ)に沈めてしまった。

 

 

 

 

「この命、くれてやる!!」

 

 

 

「エルザあああああああ!!!」

 

アミクは絶叫して離れていくエルザを見た。

 

ナツは魔水晶(ラクリマ)に阻まれて、エルザの方に向かうことができない。

 

「やめろエルザ!!」

 

必死の形相で魔水晶(ラクリマ)を叩くナツ。

 

 

呆然と自分を見つめるアミク。

 

 

「皆のことは頼んだぞ。私はいつでもそばにいるから」

 

 

 

そんな二人にエルザは最期の言葉を告げた。

 

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいた時間は至高の一時だった。とても幸せだった。

 

自分のような者を受け入れ、愛してくれたあのギルドが大好きだ。

 

ショウやミリアーナ達とも再会できた。シモンのことは悲しいし、ショウ達とももっと話をしたかったのだが、今は贅沢を言っても仕方ない。

 

 

 

(今までありがとう、アミク・・・ナツ・・・ハッピー、マーチ、グレイ、ルーシィ・・・妖精の尻尾(フェアリーテイル)・・・)

 

 

エルザは最期にみんなへ感謝を告げた。

 

 

 

そして、いよいよエルザの身体は楽園の塔と融合――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

エルザは閉じかけていた目を見開いた。

 

 

ドプン!

 

 

アミクが魔水晶(ラクリマ)に潜り、すごい勢いで自分の方に向かってきていたのだ。

 

 

「なぜだ!!?」

 

そう叫んでから思い出した。

 

 

 

――――そうか・・・!予備(・・)!!アミクにも生贄の資格があった・・・!!

 

 

失念していた。アミクも同じように生贄と認められた存在。だから、塔もアミクを受け入れたのだ。

 

 

「アミク!!今すぐ戻るんだ!!お前まで巻き込まれるぞ!!」

 

「そんなの知ったこっちゃないよ!!私は!!エルザを連れて帰る!!」

 

アミクはあっという間にエルザに追いつくと彼女の腕を掴んだ。

 

「勝手に死のうとしないでよ!!私達だって・・・!説教は後!抜け出すよ!!」

 

エルザは納得いかなかった。自分が犠牲にならなければ全員死ぬというのに。

 

「どうやって暴発を止める・・・!?他に方法があるのか・・・!!?」

 

エルザの疑問に答える時間も惜しいのかアミクは一生懸命にエルザを引っ張り、外へと向かっていった。

 

 

「アミク!!頑張れ!!」

 

外ではナツが応援してくれている。

 

 

だが――――――

 

 

「うっ・・・!」

 

 

全身の痛みが増した。体もよく動かない。いよいよ融合しようとしているらしい。

 

 

(―――――嫌だ・・・!!)

 

 

アミクの脳裏にシモンの姿が浮かぶ。

 

 

―――――もう、誰も死なせたくない!!

 

 

だから、アミクは――――――残された力を全部振り絞ってエルザを外に押し出した。

 

 

「なっ・・・・!」

 

 

さっきとは逆だ。

 

 

今度はエルザが呆然と離れていくアミクを見る。

 

 

エルザは慣性に従って外まで辿りつき――――そのまま魔水晶(ラクリマ)の外に飛び出した。

 

 

「プハァ!!」

 

「エルザ!!」

 

ナツがエルザを抱きかかえる。

 

 

―――――が、再び魔水晶(ラクリマ)を叩き始めた。

 

 

「おい!アミク!!戻ってこい!!あともう少しだ!!」

 

ナツの呼びかけに―――――――アミクは悔しそうな顔をした。

 

 

「ごめん、ナツ、エルザ・・・。もう、身体が動かないや・・・」

 

 

すでにアミクの体は限界だった。今のも火事場の馬鹿力に過ぎないのだ。それに、アミクとエ―テリオンが融合し始めているせいで、身体の自由も利かなくなっている。

 

 

「アミク―――――!!」

 

エルザがアミクを助けようと魔水晶(ラクリマ)に手を伸ばすが――――ガッと音がして弾かれた。

 

 

「そんな・・・!もう受け入れてくれないのか!!」

 

 

エルザは涙を流して悔しがる。

 

 

「あ、はは・・・ごめんね、間に合わなくて・・・」

 

 

アミクもポロポロと雫を零しながら、儚げな笑みを浮かべた。

 

 

「なんで、だよ・・・!!なんで・・・!!!」

 

 

ナツが額を魔水晶(ラクリマ)に打ちつける。強く打ったのか額に血が滲んでいた。

 

 

 

――――ああ、治さなきゃ―――――

 

 

アミクは無意識に手を伸ばす―――――が、その手が届くことはない。

 

 

 

 

魔水晶(ラクリマ)が発光し始めた。魔力の渦があちこちで荒れている。

 

 

 

エルザは泣きながらアミクの名を呼び、ナツも未だに魔水晶(ラクリマ)を壊そうとして血だらけだ。

 

塔全体が光る。うねりがひどくなり、大量の魔力が漏れた。

 

 

――――これは、ヤバい、かも?

 

 

アミクはぼんやりとそんなことを思っていた。

 

 

 

 

そして―――――――

 

 

 

「アミクゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

「いや、ああああああああああああ、あああああ!!!」

 

涙を流しながら絶叫するナツとエルザを見た。

 

 

―――――泣かせちゃったな―――――

 

 

それが、アミクの最期の思考だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽園の塔が閃光とともに弾けた。

 

魔力の塊は渦を巻き、青白い光の柱となって天高く昇る。

 

 

「暴発した―――――!!!」

 

 

「きゃあああああ!!!!」

 

 

「い、いや!!違うぞ!!!エーテリオンが空へ、空中に流れてる!!!」

 

 

『アレは・・・・まさか、誰かが制御しているのか・・・!!?』

 

 

外にいたルーシィ達もその光景を間近で目撃していた。

 

 

皆驚いている中、マーチはポツリ、と漏らした。

 

 

「アミク・・・?」

 

――――――どこにも、行かないよね?―――――――

 

 

昔から心の中で問いかけていた不安がなぜか、浮かんできた。

 

 

 

 

 

 




次か、その次辺りで終わりですね、楽園の塔。


次回はちょっと作者的に言えばキツイ場面です。



今回のハイライト

アミクはナツを投げ捨てると魔水晶(ラクリマ)に沈み込んでいるエルザの腕を掴んだ。


投げ捨ててるんだよねぇ・・・この子。気が急いてただけなんだよ・・・。

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