妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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ヤベェ、ノッテくると小説書くの楽しい。今回オリ主の初戦闘です。うまくかけてりゃいいが・・・。


双竜と猿と牛

ルーシィがいつの間に復活してたミラに妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドマークを入れに行っている間、アミクはナツに話しかけた。

 

「ナツ。遅くなったけどおかえり」

 

「ああ!ただいま!」

 

ナツがニカッと笑って答えた。

 

「ごめんねマーチ。時間とお金がなくてお土産のお魚買えなかったよー」

 

「それでよく帰って来れた、の。あとお魚以外の発想はない、の?」

 

ハッピーとマーチが会話する傍らでナツもアミクに質問する。

 

「アミクはどうしてたんだ?」

 

「どうも何もマーチと一緒に仕事したりしてたよ」

 

「ふーん、お前の方には何もなかったのか?」

 

「・・・ドラゴンの噂すら聞かなかったよ」

 

ナツが行ったのを除いてね、と付け加えた。

 

「・・・にしてもあんな綺麗な女の子引っ掛けて来ちゃって。とうとう春が来た?来ちゃった?ナツ(夏)なのに春が来ちゃった?」

 

「お前もたまに変なこと言うよな」

 

ナツが憮然として言うがハッピーがツボにハマったのか「ナツなのに春が来た・・・ぷぷっ」と口を押さえていた。

 

「アイツ、うちに入りたそうだったし家族が増えるのはいいことじゃねぇか」

 

「ナツらしいね。まぁ確かに楽しそうな人ではありそうだけど」

 

特にリアクションが。という言葉は胸の内にしまった。

 

「はい!これであなたもギルドの一員よ」

 

「わぁ、やったー!」

 

その時ちょうど終えたのかルーシィが満面の笑みでこっちにやって来て右手の甲を見せた。その無邪気な笑顔を見てアミクもナツも心が温まった。

 

「ナツ、アミク!見て見て!ギルドマーク付けて貰っちゃった!」

 

「おめでとう!歓迎します」

 

「ふーん、良かったなルイージ」

 

「ルーシィよ!?」

 

ルーシィが目をクワッと見開いて叫んだ。

 

「まぁまぁ、ルーシィさん。せっかくだから早速仕事に行ってみる?私達でチーム組んであげるから」

 

「ルーシィでいいわよ。そうね、じゃあお願いしちゃおうかな」

 

そういえば、とルーシィはさっきから聞きたかったことを聞いてみることにした。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に双竜って呼ばれてる人達が居るでしょ?1人は火竜のナツ。で、もう1人は?」

 

「ああ、それはーーーーー」

 

そこにハッピーとマーチが1つの依頼書を持って来る。そのせいでさっきの答えは聞けずじまいだった。

 

「ねぇねぇ、これなんてどう?」

 

「あーし達にはちょうどいいと思う、の」

 

「盗賊退治で20万J?お得じゃん!」

 

「よし、これにすっか!」

 

そうしていざ、仕事に行かん、としたところで。

 

 

「ーーーーねぇ、父ちゃんまだ帰って来ないの?」

 

泣きそうな声に思わずアミクとナツはその発声元を見た。そこには黒髮の小さな少年ーーーロメオがマカロフに詰めよっている光景が見られた。

 

「くどいぞ、ロメオ。貴様も魔導士の息子なら親父を信じて大人しく家で待っておれ」

 

「でも3日で帰って来るって言ったのに・・・もう1週間も帰ってきてないんだよ!?」

 

「マカオの仕事は確かハコベ山じゃったな」

 

「そんなに遠くないじゃないか! 父ちゃんを探しに行ってくれよ!」

 

「貴様の親父は魔導士じゃろ! 自分のケツのふけねぇ様な魔導士はうちのギルドにはおらん! 帰ってミルクでも飲んでおれ!」

 

「くっ・・・」

 

ロメオは涙目になりながら俯く。

 

「バカーー!!」

 

「ぐおっ!?」

 

かと思ったら思いっきりマカロフの顔面に一発お見舞いして泣きながらギルドから走って出て行った。

 

「厳しいのね・・・」

 

「あんな風に言っててもマスターも心配してるのよ」

 

「・・・」

 

それを見て気の毒そうに言うルーシィに皿を拭きながら応えるミラ。

一方アミクはデジャブを感じていた、というより幼き日の自分を見ているかのようだった。ずっと一緒に居ると信じてた人が突然居なくなった喪失感。1人で居る孤独感。ずっと会えない寂しさ・・・。

 

ドゴォン!!

 

深い感傷に囚われていると突然の轟音。音がした所を見るとナツが依頼板(リクエストボード)を思いっきり殴りつけたところだった。

 

「ナツ・・・」

 

自分だけじゃない。ナツも同じ気持ちなのだ。

 

「お、おい、依頼板壊すなよ」

 

その言葉を無視してナツは無言でギルドを出て行く。

 

「マスター。ナツの奴ちょっとやべぇんじゃねえの?」

 

いつも「自分に合う仕事がない」などとほざいて仕事に行かないナブがマカロフに言った。

 

「アイツ、マカオを助けに行く気だぜ」

 

「これだからガキはよぉ」

 

「んなことしたってマカオの自尊心が傷つくだけなのに」

 

それを皮切りに他の人も次々と喋り出す。これはマカオのことを思っての発言でもある。魔導士には魔導士なりのプライドが存在するためである。

 

だが、マカロフはそれらを切って捨てた。

 

「進むべき道は誰が決めることでもねえ。放っておけ」

 

ちょっと腫れた頰をさすりながらマカロフは酒を飲み始める。

 

「どうしちゃったの、ナツ・・・?」

 

「ナツもロメオ君と同じだから……多分つい自分と被ったのかもね」

 

「え?」

 

ルーシィの疑問にミラが答えた。

 

「ナツのお父さんも出て行ったきり帰ってこないのよ。お父さん・・・とは言っても育て親なんだけどね。しかもドラゴン」

 

「ど、ドラゴン!? ナツってドラゴンに育てられたの!?」

 

ルーシィが驚くとアミクが続ける。

 

「小さい時そのドラゴンに拾われて・・・言葉や文化、魔法を教えてもらったんだって。でもある日、ナツの前からそのドラゴンが突然と姿を消した」

 

「!そっか、それがイグニール・・・」

 

ルーシィは納得した。初めてナツとあった時もイグニールを探していると言っていたのだ。そのイグニールが育ての親というわけだ。

 

(そして、それは私も同じく・・・)

 

顔を伏せるアミクを悲しげに見るミラ。

 

その意味をルーシィは後で知ることとなる。

 

「・・・じゃ、私も行くよ」

 

「え?」

 

「ナツとハッピーだけだと心配、なの」

 

ふっと笑みを浮かべるとアミクはマーチと一緒にナツの後を追いかけていった。残されたルーシィは呆然とそれを見ていた。

 

 

 

 

「・・ぅつ、うっ」

 

外ではロメオが涙を流していた。父親が戻って来るか不安で仕方ないはずだ。ロメオはまだ10歳にもいっていないのだ。この年齢で父親が居なくなったらあまりにも酷だろう。

 

そのロメオの頭をナツがポン、と一撫でするとそのまま去って行った。

 

「ナツ兄・・・」

 

「大丈夫だよ、ロメオ」

 

ナツの背を見ていたロメオにアミクが声を掛ける。アミクは座り込んでロメオと目線の高さを合わせた。

 

「お父さんはきっと無事だよ。今はちょっとトラブルで遅れてるだけなんだから。だから私達が迎えに行ってさっさと連れて来るよ」

 

「アミク姉・・・違う、違うんだよ・・・!」

 

ロメオが首を振りながら叫んだ。

 

「父ちゃんがあの仕事に行ったのは、俺のせいなんだ・・・!アイツらに父ちゃんをバカにされて・・・だから父ちゃんに・・・」

 

話の途中でアミクはロメオの頭に手を置く。

 

「それはロメオのせいじゃないよ。キミのお父さんはただ、魔導士として仕事に行っただけなんだから。それにキミのお父さんはその仕事をこなせない程弱くはないでしょ?」

 

そう言っても浮かない顔をしているロメオにさらに言う。

 

「うーんそうだなぁ、お父さんが信じられないんだったら一旦私達を信じてみてよ。私達はかならずマカオを連れ帰って来る、ってね」

 

そして優しく頭を撫でると立ち上がってハッピーとマーチと共に急いでナツの後を追いかけた。その後ろ姿を見るロメオの顔にはもう不安はなかった。

 

 

 

 

 

 

「それでさー、あたし今度ミラさんの家に遊びに行くことになったんだー!」

 

「下着とか盗んじゃ駄目だよ」

 

「盗むかっ!」

 

「じゃあ、盗むのは上着、なの?」

 

「何も盗まないわよ!?」

 

ハコベ山に向かう馬車の中でルーシィが猫2匹にツッコミまくっていた。ナツとアミクはぐったりしている。

 

「う、うっぷ・・」

 

「な、なんでルーシィが、う、居るの・・・?」

 

2人共激しい乗り物酔いに苦しめられていた。そんな2人を見てルーシィは話し出す。

 

「だってー、せっかくだから何か妖精の尻尾(フェアリーテイル)の役に立てないかなーって。それに仕事の話も流されちゃったし」

 

と、彼女は言っているが後半はともかく、本音としては新人のルーシィは何か手柄を立てて自分の株をあ上げたいのだろう。しかし、ルーシィの思惑がなんであれ軽い気持ちで来るような場所ではない。

 

「っていうか!ナツはともかくアミクも酔いやすい体質なの!?」

 

「その通り、なの。だから今みたいにナツと2人で酔ってる時は大変、なの」

 

「た、対処法はあるんだけど、今回は、忘れちゃって・・・」

 

アミクが口を抑えて言った。

 

「それはそうとしてマカオさんを探すの終わったら住む所探さないとな~」

 

「オイラとナツの家に住んでもいいよ」

 

「本気で言ってるとしたらヒゲ抜くわよ猫ちゃん」

 

ルーシィが目を据わらせて言うので、今度はマーチが提案する。

 

「じゃあ、あーし達の家に来ない?なの」

 

「え、アミクとマーチの家ってこと?でも世話になっちゃうのもアレだし、迷惑じゃない?」

 

「べ、別に私はいいけど・・・むしろ2人だけだったからちょっと寂しかったし、1人くらい・・・うぇぷ。そ、れに私達もう友達でしょ?」

 

息も絶え絶えに話すアミクに嬉しくなるルーシィ。ついさっき会ったばっかりなのに、すでに友達だと認めてくれた事が嬉しかったのだ。ルーシィもこの短時間で彼女と接するうちにアミクに心を開いていた。

 

「うーん、でも悪いよ。私も自立した方が・・・」

 

「き、来てくれたら、家賃半額で済むよ・・・?」

 

「行きます!よろしく!」

 

まさかの即決。やっぱり世の中は友情より金だったようだ・・・。

 

「そういえばアミク?さっきから聞こうと思ってたけどアミクって過呼吸持ち?」

 

「・・?な、なんで・・?」

 

「ギルドで皆が騒いでいる時、頻繁に深呼吸してたから過呼吸でも起こしたのかなって」

 

「そ、それは過呼吸じゃないよ、実はーーーー」

 

 

その時、ガタン、と音を立てて馬車が止まった。

 

「うおお、止まったー!」

 

「あー、生き返る!」

 

馬車が止まったことにより一瞬で復活したナツとアミクは喜んだ。

 

「すみません・・・此処から先は進めないです・・・」

 

申し訳なさそうに言う御者に礼を言うとアミク達は馬車から降りた。なんだか今日は遮られることが多いなーと思いながらルーシィも降りようとする。

 

「え?」

 

ルーシィは開け放たれたドアから見たのは一面雪が積もった銀世界だった。呆然となる。

 

「ルーシィ?来ないの?」

 

アミクが怪訝そうに呼ぶがそれよりも冷たい風が入って来て

 

「へ、ヘックチ!」

 

寒さに耐えることに必死だった。もう帰りたくなってきた。

 

 

 

 

「さ、寒ーーーっ!!な、何よこれ!? 山とはいえ今は夏季でしょ!? なのに何よこの吹雪・・・くしょん!」

 

「さむっ、薄着で来るんじゃなかったな・・・我慢できないほどじゃないけど」

 

「なんだよお前らー、だらしねぇな」

 

「あい」

 

「なの」

 

「なんでアンタは平気なのよ!?」

 

ナツも結構薄着のはずなのにケロッとしている。毛皮があるハッピーとマーチはともかく。

 

「ねぇマーチ、此処にもお魚居るかなー?」

 

「居るとしても氷の下だから獲れないと思う、の」

 

当の2匹は全然関係ないこと喋っていたが。

 

「火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だから寒さにも強いんだよ、アレは」

 

「うう〜いいなぁ、あ、そうだ!」

 

ルーシィは何か思いついたのか、腰についているホルダーから銀の鍵を取り出した。

 

(あ、そっか。星霊魔導士だっけ)

 

本人から簡単に聞いていたが、ルーシィは星霊を呼び出す星霊魔導士なのだ。しかし、今此処で使うとは何をするつもりなのだろうか。

 

「開け! 時計座の扉、ホロロギウム!」

 

ルーシィがそう唱えるとアミク達の目の前に古時計のような星霊が出現した。

 

「凄い・・・これが星霊・・・」

 

「うお、時計だ!」

 

「かっこいい〜!」

 

「この時計は何年代のもの、なの?」

 

1匹だけ斜め上の反応をしているが放っておく。それよりルーシィが見当たらない。と、思ったら。

 

「・・・」

 

ホロロギウムの中に毛布に包まったルーシィがいた。

 

「え、と何してるのルーシィ?」

 

「・・・」

 

ルーシィに聞くが何も聞こえない。口を動かしてはいるがどうやら声がこちらに届いていないようだ。

 

「何言ってんだお前?」

 

「『あたし、ここにいる』・・・と申しております」

 

突然ホロロギウムが喋った。どうやら中にいるルーシィの言葉を喋ってくれるようだ。

 

「何しに来たんだよ・・・」

 

さすがのナツも呆れたようだ。だが、ルーシィはそれを無視して話す。

 

「『マカオさんはこんな場所になんの仕事をしに来たのよ?』と申しております」

 

「知らねぇでついて来たのか? マカオは凶悪モンスター『バルカン』の討伐の為に此処に来てんだぞ」

 

ナツが依頼の内容を話すと中に入っているルーシィの顔がさーっと青くなった。

 

「『私帰りたい!』と申しております」

 

「はいどうぞと申しております」

 

「あい」

 

「なの」

 

「いや、ほんとに何しに来たの!?」

 

アミクはホロロギウムの中でブルブル震えているルーシィを見て思わずツッコむ。

 

「にしてもその中あったかいの?どうなってるんだろ・・・」

 

「『アミクも入ってみる?』と申しております」

 

「ほんと?じゃ、遠慮なく」

 

早速入ってみるアミク。

 

「『おおおー!あったかい!それに何か不思議な感じ!』と申しております」

 

「『ホロロギウムの中は絶対安全なんだから!此処に居れば大丈夫よ!』と申しております」

 

「お前ら遊んでんじゃねぇよ・・・」

 

珍しくナツがため息をついていた。

 

その時、

 

「『あ、何か近づいて来るよ!』と申しております」

 

「『え、嘘!』と申しております」

 

「同じ声だからどっちがどっち言ってんのか分かんねぇ・・・」

 

ともかく、と辺りを警戒するナツ。そのナツの頭上に影が差す。

ナツが見上げると大きな猿が襲いかかって来ていたところだった。とっさに避ける。

 

「バルカンだ!」

 

ハッピーが叫ぶ。だが、バルカンはナツ達を無視するとーーー。

 

「人間の女、見っけ!しかも2人!」

 

「「ひっ!」」

 

ホロロギウムの中に居るアミクとルーシィを狙った。アミク達は急に近づいて来た猿顔にビビって互いに抱きついた。だが、それは狭い空間で美少女2人が抱き締め合う図になりバルカンを余計に興奮させる。

鼻息を荒くしたバルカンはホロロギウムをヒョイと担ぎ上げるとどこかに持ち去ってしまった。

 

「アイツ、喋れるんだな」

 

「アイツに聞けばマカオの居場所も分かるかも、なの」

 

「あい!」

 

「『てか助けなさいよおおおおおお!!』『いやーーーー!!バルカンの子供産んじゃうーーー!!』と申しております・・・」

 

「「「あ」」」

 

呑気に話すナツ達の耳には美少女2人の叫びが響いていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

ハコベ山、バルカンの住処である洞窟の真ん中でバルカンがホロロギウムの周りで踊っている。

 

「『なんでこんな事になってるわけ!? てか、この猿テンション高いし!』 と申されましても・・・」

「『絶対安全なんじゃなかったの?より窮地に陥ってる気がする・・・』と申しております・・・」

 

そう2人で嘆いていると、バルカンが中に入っている2人に顔を寄せてきた。

 

「人間の女〜!」

 

「ひっ!」

 

「うわ」

 

完全にエロ猿だった。

 

「『で、でも本当にこの中だけは大丈夫!篭ってれば安心・・・』すみません、時間です」

 

「「え?」」

 

ホロロギウムが消えてアミクとルーシィは外に出された。恐らく星霊界に帰ったのだろう。だが、タイミングが悪い。

 

「延長よ! 延長ー! ねぇちょっとー!?」

 

「ルーシィ。やるしかないみたいだよ」

 

消えてしまった星霊に縋り付くルーシィにアミクは冷静に告げる。

 

「うほ!うほ! 女!」

 

「そのようね・・・」

 

ルーシィも覚悟を決めたのか今度は金の鍵を取り出した。

 

「こうなったら・・・開け! 金牛宮の扉、タウロス!」

 

そう唱えた直後。

 

「MOooooooooo!」

 

雄叫びと共に現れたのは背中に斧を背負った大きな牛だった。

 

「なるほど、牡牛座、だからか」

 

アミクが納得していると、

 

「タウロスは私の持つ星霊の中で一番の怪力なんだから!」

 

「MO! ルーシィさん、今日もナイスバディですなぁ」

 

「しまった、こいつもエロかった・・・」

 

なんて会話を聞いてこの星霊大丈夫か?と心配になった。ルーシィを見てメロメロになっていたタウロスの目にアミクが映る。見た瞬間目が大きなハートになった。

 

「MOoooo!!!こっちの子もナイスバディィィィ!!!お名前はなんですかぁぁぁぁ!!!!」

 

「ひぃっ!!?」

 

「アミクに何してんのよおおぉぉぉぉ!!!」

 

鼻息を荒くしてにじり寄って来たタウロスをルーシィが思いっきり蹴飛ばす。

 

「ブモウ!!?」

 

「ごめんねアミク怖かったよね、よしよし」

 

「何あれ、中身バルカンじゃないの?」

 

震えるアミクを抱き締めて撫でるルーシィ。そもそもアンタが召喚したんだろうがと言いたい。

 

「俺の女、奪うな!」

 

「俺の女? それは聞き捨てなりませんな!どっちです?それとも両方ですか?」

 

バルカンとタウロスが睨み合う。怪獣決戦のようにも見えるが、アミク達からは淫獣が2匹並んでるようにしか見えなかった。そこに

 

「うおおおおおお!!火竜の鉄拳!!」

 

ナツが拳に炎を纏わせながら迫る!そして思いっきりぶっ飛ばした!ーーーータウロスを。

 

「MOoooo!!?」

 

「そっち!?」

 

タウロスは吹っ飛び、ルーシィが悲鳴をあげた。

 

「怪物が増えてる、の?」

 

「それ、味方!あたしの星霊!」

 

マーチとハッピーも飛びながらやってきた。

 

「MO〜ダメみたいですなぁ・・・」

 

「よっわ!」

 

あっさりダウンしたタウロスを見てアミクがツッコみを入れる。

 

「アミクもルーシィも無事みたいだね」

 

ハッピーが呑気に言うが、今の状況が分かっているのだろうか。

 

「ま、いっか。ナツも私も居るし」

 

アミクがそう言うからには彼女も戦うようだ。しかし、彼女の魔法は何なのだろう?ルーシィは疑問に思った。

 

アミクがバルカンの前に対峙するとナツもその隣に立つ。

 

「よしっ、やるかアミク!」

 

「うん。帰還直後の相手としては申し分ないね」

 

まるで何年も連れ添った相棒のようにやりとりする2人を見て違和感を覚える。ルーシィがその違和感の正体にたどり着けなないままいると、バルカンはさすがに2対1だと分が悪いと思ったのか洞窟内でも一際高い足場に上がる。

 

「うほっ、俺をただのバルカンだと、思うな」

 

そう言うとバルカンは大きく息を吸い込んだ。何だか既視感あるその行動に嫌な予感がした2人は咄嗟に左右に分かれて避ける。直後。

 

うほおおおおおおおおおおお!!!!

 

轟音。そう呼んでもいい大声がバルカンの口から飛び出る。その轟音はさっきまで2人が居た氷の床に当たり、亀裂を走らせた。ルーシィもあまりの騒音に耳を抑える。

 

「何アレ!?バルカンはあんなこともできるの!?」

 

「普通はしないよ!!」

 

「多分、変異種、なの」

 

同じように耳を抑えたハッピーとマーチが言う。

 

あのように結構攻撃力もある咆哮をくらえばただでは済むまい。たとえ無事であっても怯んで隙を晒すことになるだろう。

 

 

ーーーーそれが普通の魔導士だった場合は、だが。

 

 

「でも、相手が悪かった、の」

 

マーチが珍しくニヤリ、と笑う。

 

「そ、そうよね。ナツが居ればきっと勝てるわよねーーーー」

 

「そっちもあるけど、本当の意味(・・・・・)で相手が悪い、の」

 

マーチがそう言った後、ふと前を見るとバルカンがこちらに体を向けて息を吸い込んでいたところだった。

 

「え!?まさか!?」

 

こちらを攻撃するつもりか。と驚愕したところで、ルーシィ達の前にアミクが立つ。

 

「アミク!?ダメっ、避けて!」

 

「地味に高い知能も持ってるのか。これはもしかしたら・・・」

 

ルーシィが悲鳴をあげるも、アミクは自分の推測を呟く。そして、咆哮が放たれた。

 

うほおおおおおおおおおおお!!!

 

空気のうねりがまっすぐアミクに向かって来る。アミクに当たる直前にルーシィは思わず目を瞑った。ああ、花のように細いアミクが理不尽な暴力によって無残に手折れーーーー。

 

 

「ーーー?」

 

しかし、いつまで待ってもアミクの悲鳴も聞こえず、何の衝撃も起きなかった。というより、さっきの咆哮にしては静かすぎる。ルーシィはパチリ、と目を開けた。

 

ルーシィの目に映ったのは目に見えるほどだった轟音、つまり空気のうねりがアミクの口の中に吸い込まれていく光景だった。それはまるで、轟音を喰べている(・・・・・)かのように。

 

「アミクーーー!?」

 

思わず叫んだが、何故か自分の声が聞き取りづらいことに気付く。これは一体・・・。それにあの光景は見覚えがある。ついこの前、ハルジオンでナツがボラの放った炎を喰べていた時と一緒ーーーー。

 

(まさかーーー!?)

 

ルーシィはやっと悟る。そもそも伏線は多くあったのだ。ナツとハッピーのように一緒にいるアミクとマーチ。ギルドでの何かを吸っているような行動。酔いやすい体質。これ程までにナツとの共通点があって気付かなかったとは。

 

「ーーーーんっ、ぷはぁ、ご馳走さまでした」

 

少し色っぽく息を吐き出したアミクは満足そうにバルカンを見る。流石のバルカンも鼻水を垂らして驚いている。

 

「アミクーーーあなたはーーー」

 

「そういうこと。改めて、『双竜』の片割れ、『音竜』のアミク、です」

 

音竜。つまりは『音』の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)。ナツが火を食べたようにアミクも「音」や「声」といったものを食べれる。周りの音がアミクに吸い込まれていくのでその音が他の人の耳に届かず、聴こえにくい、ということも多々ある。

それに音竜だけあって聴覚がずば抜けて優れている。ナツ達が来たことが分かったり、バルカンが近づいていることに気付いたのもこの聴覚のおかげだ。

 

「さて、じゃあこっちの番だね」

 

アミクは手を握りしめるとそれに魔力を纏わせる。

 

「マーチ!あのバルカンまでお願い!」

 

「お任せあれ!なの!」

 

マーチがすぐさまアミクの襟首を掴み、まだ動揺から抜け出せていないバルカンに向かって高速で飛んで行く。

 

「うほっ!?」

 

「さっきはご飯くれてありがとう!」

 

やっと正気に戻ったバルカンだがもう遅い。すでにアミクは腕を振り絞っていた。そしてーーーー。

 

「音竜の響拳(きょうけん)!!」

 

拳を振り抜いた。

 

その拳がバルカンの顔面に当たった瞬間、ガァアアン!!と音が炸裂した。同時に衝撃波が放たれる。

 

「うほおおおおおおっ!!!!!?」

 

衝撃波を伴ったパンチを喰らったバルカンはそのまま吹っ飛ばされた。そして壁に激突するかと思われたがーーーー。

 

「俺にもやらせろ!火竜の鉤爪!」

 

ハッピーに掴まれて飛んでいたナツが上からバルカンを蹴り落とした。床に激突し、亀裂が走る。

 

「一つだけ教えてあげる。本当の咆哮っていうのはーーーー」

 

それを見たアミクが大きく息を吸い込む。先程バルカンがやった時のように。

 

「こうやるんだよ!」

 

そしてその声とともに。

 

「音竜の咆哮!!」

 

先ほどのバルカン以上の轟音と空気のうねりが放出された。ゴオオオオオオと音を立てながら突き進むブレス。それはまるで本物の(ドラゴン)の咆哮のようであった。

ブレスはバルカンを巻き込み、洞窟の壁をも破壊して吹雪になっている外まで届いた。もはや壁は無く、大きな穴があるだけだった。

 

「・・・・もしかして、やりすぎた?」

 

キョトン、と冷や汗を流しながら首を傾けるアミクを見て、やっぱり妖精の尻尾(フェアリーテイル)の立派な一員だな、と思ったという。

 

 

 

 

外まで飛ばしてしまったバルカンを連れて来て、というアミクのお願いにより気絶してるバルカンを苦労して運んで来たハッピーとマーチ。

 

「何でこいつ連れて来たんだよ」

 

「マカオさんの居場所聞くんじゃなかったの?」

 

「あ、忘れてた!」

 

「ううん、それはもういいかもしれない」

 

話をしていたナツとルーシィにアミクが言うと、突如、バルカンが光に包まれた。

 

「な、何ぃ!?」

 

「眩しいぃ!」

 

「やっぱり!」

 

それぞれそう口にすると、現れたのは傷だらけの中年の男性だった。

 

「「マカオ!」」

 

「え、この人がマカオさん!? さっきまでエロザルでしたけど!?」

 

「バルカンに接取(テイクオーバー)されたんだ!」

 

「?」

 

聞きなれない魔法にルーシィは首を傾げる。

 

「身体を乗っ取る魔法だよ。バルカンはそうやって生き繋ぐモンスターだったんだ!」

 

とりあえずマカオを持って来た毛布の上に寝かせた。

 

「長い間、バルカンと戦っていたんだね・・・」

 

「おい、マカオ! 死ぬんじゃねぇぞ! ロメオだって待ってんだ!」

 

「私に任せて!」

 

アミクがそう言って一息吸うとーーーー歌い出した。

 

「え・・・?一体何を・・?」

 

「まぁ、見てろ」

 

ナツがルーシィに短く言う。マカオを見るとーーー。

 

「!?傷が塞がっていく!?」

 

マカオの全身が光に包まれていて見る見るうちに傷が治っていくのだ。

 

「ーーー治癒歌(コラール)

 

アミクがそう言った直後、マカオの傷が全部癒された。

 

「凄い!アミクは治癒魔法まで使えるの!?」

 

「ーーーー治癒魔法は治癒魔法でも音楽魔法に属する治癒魔法。歌わなきゃ効果は発揮しない」

 

これも音色を操る音竜の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だからこそできる芸当だ。音楽によって味方を鼓舞したり、リラックス効果を与えることできるのと同じようなものだ。

 

「ふぅ、ちょっと魔力を使い過ぎたかな・・・」

 

そう言って疲れたようにフラッとするアミクをナツが支える。

 

「お疲れ、アミク」

 

「ありがとう、ナツ」

 

「さっきのブレスはやりすぎだと思う、の」

 

「あはは、ちょっと見栄張っちゃった」

 

ナツとアミクがそんな風に会話しているのを見ると、2人の間には誰にも割り込めない絆があるようにルーシィは感じた。

 

その時、マカオの瞳がゆっくり開く。

 

「マカオ!」

 

「気がついたか!」

 

「よぅナツ、アミク・・・。クソ、情けねぇ・・・19匹は倒したんだ・・・」

 

「え!?」

 

「20匹目が変異種で勝てなくて接取(テイクオーバー)れちまった・・・情けねぇ。これじゃロメオに合わせる顔がねぇ・・・」

 

「そんなことない!19匹も倒せたら英雄モノだよ!ロメオにも伝えてあげなよ。自分は英雄だって!ほら、帰ろう?」

 

「へっ・・・おう」

 

マカオはアミクの手を掴んで起き上がった。アミクが癒したお陰か動ける程度には回復したようだ。

 

(あの猿、1匹だけじゃなかったの・・・? あの猿よりは弱いだろうけど、それを19匹も倒すなんて・・・)

 

改めて自分の所属しているギルドの強さを実感するルーシィ。

 

(凄いなぁ・・・敵わないや)

 

「ルーシィ、にやついてどうしたの? 怖いよ?」

 

「いやらしい、の」

 

「ヒゲ抜くわよ、猫ちゃん達!?」

 

 

 

夕日が沈みかける、オレンジ色のマグノリア。そこに、ロメオが1人で立っていた。此処からずっと動いていない。ロメオは信じているのだ。自分の父を、連れて帰ると言ったアミク達を。

そしてその想いは報われる。

 

「ロメオー!」

 

自分を呼ぶナツの声。見るとそこにはアミクの隣で、ナツに肩を借りながらもしっかりと自分の足で歩いている、申し訳なさそうな顔のマカオが居た。

 

「父ちゃーーーーん!!!」

 

「おおっ!!?」

 

ロメオがマカオに抱きつき、マカオは後ろに倒れた。

 

「父ちゃん・・・ごめんっ!・・・俺・・・」

 

「心配かけてすまなかったな。ロメオ」

 

「いいんだ。俺は魔導士の息子なんだから。それに待つのなんて当たり前だろ?俺は父ちゃんの息子なんだから」

 

「そうか。今度クソガキ達にからまれたらこう言ってやれ。俺の親父は化け物19匹倒せる英雄だ! ってよ」

 

「うん・・・うん!」

 

ロメオは嬉し涙をこぼす。そしてアミク達の方を向いた。

 

「アミク姉、その・・・励ましてくれて、ありがとう・・・」

 

そして頰を赤く染めながらアミクに礼を言う。それに対してアミクは優しげな笑みを浮かべて頷いただけだった。

そして、そのままナツ達はギルドに向かった。ロメオはその背に向けて声をあげる。

 

「ナツ兄ーー!アミク姉ーー!ハッピーー!マーチ!それにルーシィ姉もーー!本当にありがとう!!」

 

ルーシィはロメオの言葉に小さく手を振り返した。ナツもアミクもハッピーもマーチも互いに顔を見合わせて心地良さげに笑うのだった。

 

 




つ、疲れた・・・。まさかの一万字超え・・・。
ちなみにコラールは賛美歌って意味です。
感想よろしくお願いします!ちなみにロメオの前でしゃがんでいた時、アミクはスカートでした。

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