妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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今回で楽園の塔終わりー。

冥府の門までどれくらいかかるのかしらん・・・。


強く歩け

そこは見ているだけで心が休まるような場所だった。

 

 

川は流れ、実をつけている木が何本も生えている。そよ風が吹き、青空には葉が舞っていた。

 

不思議なのは音源などないのに、旋律(メロディ)が流れていることか。

 

その中で一際目立つものがある。

 

 

 

それは大きな神殿だった。人が何百人も入れそうなほどの大きさである。

 

 

だが、中にいるのは人ではない。

 

 

 

 

その神殿に一つの光が近づいて行った。

 

 

 

『・・・オーディオン、久しぶりね。元気だったかしら?』

 

光から女性の声が響く。

その声に反応したのか神殿の奥からも返答があった。

 

 

「―――――グランディーネ、ですの?」

 

その声もまた女性だった。しかし、グランディーネと呼ばれた者よりも若々しい。

 

『貴方の気配も感じたから、ちょっと寄ってみたのよ。変わりないようで安心したわ』

 

「私の気配も(・・・)?」

 

オーディオンと呼ばれた者は疑問の声を上げた。自分も、ということは他にもいるということだ。予想はつくが。

 

『ええ、ついさっき、イグニールとも会ってきたのよ』

 

「・・・彼は人間に干渉することを禁じていたはずですわ」

 

『その通りよ。見事に怒らせてしまったわ』

 

「でしょうね・・・」

 

『貴方は怒らないのね?』

 

グランディーネは楽しそうな声で言った。

 

「私は別に拒絶するほど神経質にはなってはいないですから・・・彼は元気でしたか?」

 

『怒るほどの元気はあるわよ』

 

「それもそうですわね」

 

オーディオンはクスリ、と笑うと・・・・のっそりとその巨体を神殿から現した。

 

 

一言で言えば綺麗な竜だった。スラリとした身体つき、輝くような鱗。黄緑色と水色で塗られたような竜肌。

 

立派な角。首回りにある何本かの線。瞳は優しそうで、その佇まいは上品さが伺える。

 

『イグニールは貴方に会いたがっているみたいよ。まぁ、本人は認めようとしないけど』

 

「そんな心にもないことを・・・」

 

『貴方も会いに行かないの?すぐ近くにいるのに』

 

「私は嫌われたくありませんから」

 

『私だって別に嫌われたいわけじゃないのよ?』

 

「だったらイグニールをあまり刺激しないことですわ」

 

『・・・私は心配なのよ』

 

それまでの楽しそうな声とは打って変わって、グランディーネは悲しげに言葉を紡いだ。

 

あの子達(・・・・)は無茶ばかりするから・・・』

 

「・・・」

 

『今回は特にあなたの子、一歩間違えれば死んでたわよ?』

 

「・・・だから、なんですの?」

 

『このままじゃ早死にするわよ、あの子。誰よりも』

 

グランディーネの忠告するような口調に思わず黙るオーディオン。

 

『ごめんなさいね。私たちが心配したところで何もできることはない。人間の力を信じるしかない・・・さっきもイグニールの所で言ったはずだったのに、どうしても心配でね』

 

グランディーネも歯痒いのだ。自分の手が届かぬところで我が子たちが危険な目にあうのが。

 

『ウェンディに会ったらきっとまた仲良くなれるわよ。姉妹みたいにね』

 

「・・・私もそう思いますわ」

 

それからグランディーネは真面目な口調で続ける。

 

『・・・もっと話していたかったけどそろそろ行くわ。会えてよかったわ、オーディオン。竜王祭で会いましょう』

 

グランディーネはそう言葉を残すと、フワフワと去っていった。

 

 

「・・・竜王祭。懐かしい響きですわね」

 

オーディオンはそう呟くと神殿の中へと戻る。

 

「イグニール・・・また会ったときは、どんな歌を聞かせてあげようかしら?」

 

楽しげに鼻歌を歌いながら。

 

 

 

 

「んごおおおおお、ぐがああああああ」

 

「スヤスヤ・・・」

 

「ねぇ・・・なんでナツとアミクが一緒に寝てるのかしら・・・?」

 

「アミクがナツを掴んで離さないからだよ・・・」

 

ナツとアミクが一緒のベッドで寝ているのを見てルーシィ達が苦笑する。

 

「でも、流石に3日間も寝っぱなしってのは心配ね・・・」

 

そう、無事にホテルに着いたアミク達だったが、ついた瞬間。ナツとアミクは気絶するように眠ってしまったのだ。

それから3日間経つが、まだ眠り続けている。

 

「アミク!卵とブロッコリーがケンカしてる、の!」

 

「そんなカオスな状況で反応されて起きてもらっても複雑なんだけど・・・」

 

マーチのヘンテコリンな言葉にルーシィがため息をつくと・・・

 

 

「ケンカはメッ!!」

 

「寝ながら仲裁――――!!?」

 

目を瞑ったまま喋るアミクにびっくりする。

 

 

その時、エルザがこちらを見て言った。

 

「もうしばらく休ませてやろう。仕方ない状況だったとはいえ『毒』を食べたに等しい」

 

「エーテリオンを食ったんだっけか?だんだんコイツらも化け物じみてきたな」

 

エーテリオンなどという魔力の塊を体内に摂取したのだ。相応の負担があるのだろう。

 

「こうして見ると普通の女の子なんだけどね・・・」

 

ルーシィはすやすやと気持ちよさそうに寝ているアミクを撫でた。気のせいかツインテールが嬉しそうにピコピコ動いているように見える。

 

 

「まったく・・・説教できる立場か?」

 

エルザが呆れたように言ってルーシィ達に申し訳なさそうに喋る。

 

 

「今回の件では皆にも迷惑をかけたな・・・本当に・・・何と言えばいいのか、その・・・」

 

「もう、そのセリフ何回言ってるのよォ」

 

ルーシィが苦笑いして言うとエルザは何かに気付いたかのようにキョロキョロする。

 

「そういえば、あのエレメント4の娘は?」

 

 

「ああ・・・ジュビアか。もう帰っちまったよ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に一刻も早く入りてぇからマスターに頼みに行くんだって」

 

 

『先に行って帰りを待ってます、グ・レ・イ・さ・ま♡』

 

とにこやかな笑顔で言ってから去ったのは記憶に新しい。ちょっと寒気がしたが。

 

 

「そうか・・・聞けば世話になったようだし私からマスターに稟請してもよかったのだがな」

 

 

そうすれば、ギルドに簡単に加入できただろう。だが、先に行ってしまったものはしょうがない。

 

 

「ホントあの子行動力あるよね―――――て!!何してんの!!?」

 

 

「なの?」

 

「あい?」

 

マーチとハッピーがアミクとナツの顔を互いに近づけようとしていた。キスさせる気か。

 

「つーかエルザ・・・オマエは寝てなくていいんかよ?」

 

「ん・・・見かけほど大した怪我ではない。それより、アミクの方がもっと大変だっただろう」

 

なにせ、エーテリオンの渦の中で体が組織レベルで分解されたはずなのだ。

 

そのことを聞いてグレイは冷や汗を流す。

 

 

「分解・・・て・・・本当にアミクは奇跡の生還だったんだな」

 

(正直、何が起こったかはよくわからない・・・だが、今はアミクが生きている事を喜びたいな・・・)

 

エルザは寝ぼけてナツの顔を鷲掴みにするアミクを見て、そう思った。

 

と、その後思い出す。あの時確か・・・

 

 

「そういえば一瞬『楽園の塔』が凍ったりしなかったか?」

 

あの時、塔が暴発する直前に、魔水晶(ラクリマ)が冷気と共に凍りついたような気がしたのだ。

その現象はすぐに無くなったが、もしかしたらそのおかげでアミクは助かったのではないかと思っている。

 

 

「さあな・・・?・・・魔力の荒れ模様がすごかったから気付かなかっただけかもしれねぇけど」

 

「んー言われてみれば一瞬固まったような気もする。グレイがなんかしたわけじゃないの?」

 

エルザもそう思って彼に聞いてみたのだが、帰ってきたのは「知らない」の一言だった。

 

 

 

 

「なにはともあれ、怪我も大したことないだなんてさすがエルザだな。勝手に毒食ってくたばってるマヌケとはエライ違いだ」

 

グレイが小馬鹿にしたように鼻で笑うと・・・ナツの耳がピクン、と動いた。

 

 

そして―――――

 

 

 

「今なんつったァ!!!グレーイ!!!」

 

「起きたー!!」

 

 

がばぁっと起きた。

 

 

「うぅ~ん、グレ~イ、その言い方だと私までマヌケって言われてるってことなんだけど~」

 

アミクもその拍子に起きたのか目を擦りながら起き上がる。

 

 

「アミクも、起きた!の!」

 

「い、いや、アミクは別だ。別枠だ別枠」

 

「別枠って・・・」

 

意味が分からん。

 

「・・・・くかー」

 

グレイを睨んでいたナツがパタリと倒れて寝始めた。

 

「寝た――!!」

 

「絡む気がねぇなら起きんじゃねえ!!」

 

ナツは寝たが、アミクはのっそりと起きる。

 

「アミク、もう起きてもいいのか?」

 

「もう十分寝たって。そろそろ動かないと筋力衰えちゃう・・・」

 

その時、アミクは妙にウルが静かなのに気付いた。

 

 

(・・・寝てるのかな?)

 

さっきから一言も喋っていない。普通、アミクが起きたら一言ぐらいかけてくると思うのだが。

 

っていうかウルって寝るのだろうか。アレで。

 

 

「・・・ん、よかった。大事無いようで」

 

「ほんと心配したんだから!」

 

「そう、なの!」

 

エルザやマーチ達が次々にそう言うとアミクがマーチを抱きしめて撫でた。

 

「心配かけてごめん、みんな・・・ほら、マーチ。もう大丈夫だから」

 

「・・・なの!」

 

アミクの言葉にマーチもやっと笑顔を浮かべた。

 

「でも今回は本気で死んだかと思った・・・」

 

アミクが苦笑いしながら言う。

 

「だが、こうして生きてる。それだけでも十分な喜ぶべきことだ」

 

エルザがにこりと笑い、アミクも釣られて笑った。

 

その場では和やかな雰囲気で満ちていた。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、エルちゃん」

 

「あ、あのよ・・・すまなかったゼ。エルザ」

 

アミクがちょっと外で散歩しているとたまたまエルザ、ショウ、ミリアーナ、ウォーリーの四人が話しているところに遭遇する。

思わず木の陰に隠れて耳を立ててしまった。

 

「私の方こそ・・・8年も何もできなかった。本当にすまない」

 

「姉さんはジェラールに脅されてたんだ。オレたちを守る為に近づけなかったんじゃないか」

 

ショウが慌てたように言うが、アミクも彼の意見に賛成である。それに何もしなかったわけではないはず。Rシステムについて調べたりしていたと言っていたはずだ。

 

「今となってはそんな言い訳も虚しいな・・・もっと早くになんとかしていればシモンは・・・」

 

その言葉にアミクもつい俯いてしまう。

自分だって彼を救えなかった。今でも悔やまれる。

 

 

 

 

だが、エルザは語った。

 

 

自分たちは進まなければならないのだ。

 

シモンの残してくれた未来を。

 

過去は未来に変えて歩き出せばいい。そして今日の一歩は必ず明日へと繋がる一歩となる。

 

と。

 

それからエルザはショウ達に妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来たらどうかと訪ねていた。

少し浮かない顔のショウが気になるが、概ね賛成だ、と言う意見だった。

 

「さあ・・・戻ろう。ナツにもお前達のことをきちんと紹介せねばな」

 

「・・・オレはアミクに謝るよ。殴ったり蹴ったりして悪かったって」

 

「ああ、そうしておけ。アミクならすぐに許すぞ」

 

「みゃあ、確かにそんな顔してるよねー!あ、私はハッピーちゃんとマーチちゃんとお友達になるー!」

 

そんな顔ってどんな顔だ。自分はそんなチョロい人間ではない。

 

 

「・・・先行ってくれ。私は少し野暮用がある」

 

「ん?オウ、わかったんだゼ」

 

なぜかエルザはその場に残ってミリアーナ達を先に行かせた。

 

 

「・・・アミク、そこにいるんだろう?」

 

「ヒクッ」

 

しゃっくり出た。

 

「あ、あはは〜ごめんね。つい隠れちゃって・・・」

 

アミクは気まずげな顔をしながら出て行く。ツインテールがフヨフヨと動揺するように揺れた。

 

「そんなに身構えなくてもいい。ただ、お前の気配に気付いて声をかけただけだからな」

 

「えーと、いつから気付いてたの?」

 

「ウォーリー達が謝っていた時からだな」

 

「ほぼ最初からじゃん・・・」

 

アミクはエルザに近づくと海の方を見た。

 

 

「・・・ねぇエルザ。ちょうどいい機会だから話しておこうと思うんだけど」

 

アミクはせめてエルザには話そうとしていたことを話す。

 

 

 

「実は・・・私を助けたのはジェラールかもしれないんだ」

 

 

そう言うと、エルザは驚いたように目を見張った。

 

 

アミクの考えでは、ジェラールはゼレフの亡霊から解放されて、昔のジェラールに戻ってアミクの代わりにエーテリオンと融合したのではないかと思っている。

つまり、エーテリオンの暴発はジェラールが防いでくれたわけだ。

 

ただ、そういうことだとジェラールも被害者だということになる。アミクの推測は当たっていたのだ。

 

 

(ジェラール・・・)

 

自分はジェラールもシモンも救えなかった。

 

その事実が重くのしかかった。

 

 

アミクの気分が鬱になったところで、話を聞いていたエルザがアミクの肩をたたく。

 

 

「アミク、お前は神様じゃない、人だ。全てを救えるわけじゃない。むしろそういう考えは傲慢だぞ」

 

厳しくも、慰めてくれるエルザに少し気が楽になった。

 

「・・・そうだね。過去は未来に変えて、だもんね」

 

「ふふ、そうだな」

 

アミクがさっきのエルザの言葉を使って言うと、エルザも同意するように頷いてくれた。

 

 

「・・・なんか慰められちゃったけど私が言いたかったことは、本当のジェラールはエルザ達を想っていたんじゃないか、ってことだよ」

 

それを聞いてエルザは黙った。どういう気持ちでいればいいのか分からないのだろう。喜べばいいのか悲しめばいいのか、はたまた怒ればいいのか。

 

アミクもこの話をすればエルザが困ることも予想していた。だが、どうしてもエルザにだけは知ってもらいたかったのだ。

じゃないと、ジェラールがあまりにも救われなさすぎる。

 

「・・・そうか」

 

エルザはやらかい笑みを浮かべた。

 

エルザとしては自分が信じていたジェラールが存在していたことが嬉しかった。例え、一瞬だとしても。

 

 

 

ーーーー強くなったな、エルザ・・・ーーーーー

 

 

突然、そんな言葉が聞こえた気がしてエルザは海を見る。

 

 

だが、当然誰もいない。

 

「エルザ・・・?」

 

 

アミクの疑問の声にやはり空耳か、と思う。地獄耳のアミクに聞こえなかったのならば自分に聞こえるはずがないからだ。

 

 

いや。念話のように特定の人物の脳裏に直接言葉を伝えるものは聞こえないらしい。

 

 

ならばそういう類の・・・。

 

(いや、まさかな・・・)

 

 

エルザはふ、と笑うとアミクと共にホテルへと帰って行った。

 

 

 

 

 

それから、一緒に食事を楽しんだり、アミクにショウが謝っていたりしてると夜になった。

 

 

現在、アミクはベッドでゴロゴロしている。ちなみにルーシィやマーチ、プルーも一緒にいて、ルーシィは日記を書いているところだった。

 

 

「はぁ、せっかくリゾートに来たのにあんまり遊べなかったね」

 

「そもそも最近、何かしらトラブルに巻き込まれてる気がする、の」

 

「プ、ププーン!」

 

アミクとマーチの会話にプルーが鳴き声を上げるが、相変わらず何を言っているのか分からない。頷いているところからして多分同意しているのだろうが。

 

 

 

その時。

 

 

「アミク、ルーシィ!」

 

 

ドアを開けて焦った顔をしたエルザが入って来るなり聞いてきた。

 

「ショウたちを見なかったか?」

 

「見てないよ?」

 

「あたしも」

 

「なの」

 

「同じホテルに泊まっていたハズなんだが、どこにもいないんだ」

 

それを聞き、ルーシィは怪訝そうに言う。

 

「あたしたち、明日チェックアウトだから一緒にギルド行こーって言ってたのにね」

 

 

「もしかして黙って出て行っちゃったの!?」

 

アミクはベッドから飛び降りるとエルザに詰め寄った。だが、エルザはどこか納得したような表情だ。

 

「そうか・・・」

 

「追わなきゃ!どーしちゃったんだろ!?もう離れる必要なんてないのに!!」

 

ルーシィも日記帳を閉じると立ち上がる。

 

それに対し、エルザはアミクたちに頼み事をしただけですぐに出て行った。

 

「ナツとグレイに『花火』の用意と伝えてくれ」

 

「え・・・ちょ・・・!」

 

「花火ってー!?」

 

出ていく直前。エルザはアミクに振り返ると口を開いた。

 

「それとアミク。お前には別のことを頼みたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、オレたちの自由なんだ」

 

 

ショウたちは浜辺で見つかった。彼らはまさに船で海に出ようとしているところだった。

 

そして、ショウたちは妖精の尻尾(フェアリーテイル)には入らず、自分たちの目で『外』の世界を見てみたい、と語った。

 

さらに、自分自身のために生きて、自分でやりたいことを見つける、と。

 

ショウたちは今まで、誰かの命令に従って生きてきた。だから、誰にも縛られず、自分たちの力で生きていくことが自分たちにとっての自由だと考えたのだろう。

 

エルザは瞑っていた目を開けると告げる。

 

「その強い意志があればお前たちはなんでもできる。安心したよ」

 

そして、換装を使い、鎧とマントをつけた格好になった。手には妖精の尻尾(フェアリーテイル)の旗を持っている。

 

「だが妖精の尻尾(フェアリーテイル)を抜ける者には三つの掟を伝えねばならない。心して聞け」

 

「ちょ・・・!抜けるって・・・入ってもねぇのに」

 

ウォーリーの言葉を無視して、エルザは大声で暗唱し始めた。

 

「一つ、フェアリーテイルの不利益になる情報は生涯他言してはならない!二つ、過去の依頼者に濫りに接触し、個人的な利益を生んではならない!」

 

突然の言葉にショウたちは困惑している。

 

「三つ!!たとえ道は違えど強く・・・力の限り生きなければならない!決して自らの命を小さなものとして見てはならない!!愛した友のことを生涯忘れてはならない!!!」

 

エルザも、ショウたちも涙を流しながら、互いを見ている。

 

これは旅立つショウたちへの激励なのだ。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)式壮行会!!!始めェ!!!」

 

その宣言と共に、ナツが両手を広げながら出てきた。

 

「おまえらー!!また会おーなーっ!!」

 

ナツは口をもごもごさせるといくつかの火の玉を上空に吐き出した。それはどんどん昇っていくと・・・

 

ドオォン!

 

花火になった。

 

「心に咲けよ!!光の華!!!」

 

その近くでグレイも両手を構える。

 

「氷もあるんだぜ」

 

夜空に開く、氷の華。

 

ルーシィも鍵を上に向けた。

 

「じゃあ、あたしは星霊バージョン」

 

星空に煌めく、星の華。

 

「私は歌で見送ります♪」

 

アミクはこの状況に合う、悲しくも、どこか楽しげな歌を歌い出した。

 

 

ショウたちは感動して涙が止まらない。

 

 

「私だって本当はおまえたちとずっといたいと思っている。だが、それがおまえたちの足枷になるのなら・・・この旅立ちを私は祝福したい」

 

エルザが両目から涙を流しながら言うと、ミリアーナたちも涙をドバドバ流しながら告げる。

 

「逆だよぉぉエルちゃぁん」

 

「オレたちがいたらエルザは辛いことばかり思い出しちまう」

 

「どこにいようとおまえたちのことを忘れはしない」

 

大切な、仲間なのだから。

 

「そして、つらい思い出は明日への糧となり私たちを強くする。誰もがそうだ。

 人間にはそうできる力がある」

 

今までの経験は全て無駄じゃない。経験があってこそ、人は成長するのだ。

 

「強く歩け。私も強く歩き続ける」

 

 

エルザだけじゃない。ナツもグレイもルーシィも、そしてアミクも。全員が未来に向かって歩んでいく。

 

「この日を忘れなければまた会える」

 

エルザの言葉に感化するように花火も激しさを増した。

アミクの歌もサビに入る。

 

 

「元気でな」

 

 

「姉さんこそ・・・」

 

「バイバイエルちゃーん」

 

「ゼッタイまた会おうゼ!!約束だゼ!!」

 

「約束だ」

 

エルザたちは再会の約束を交わした。

この約束がある限り、エルザたちの絆は離れていてもずっと変わらない。

 

 

「みんなー!!バイバイー!!食事前にはちゃんと手洗ってねー!歯もきちんと磨くんだよー!それと船酔いになったら・・・」

 

 

「オカンか!?」

 

「みゃあ、世話好きだねー」

 

「・・・また会えるといいな」

 

 

アミクの言葉に苦笑しながら、ショウたちは海へと飛び出していく。

 

 

彼らは彼らの道を。アミクたちはアミクたちの道を。

 

それぞれ明日に向かって突き進んでいくのだ。

 

 

 

 

 

 

しばらく船を漕いで進んでいく一行。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)・・・本当にいい奴らだったなぁ・・・」

 

「みゃあ、いつかはギルドに入ってみたいかも」

 

「それもいいかもね。さて、まずはどこに行こうか?」

 

ショウが二人に問いかけた瞬間。

 

 

『あ!そうだ、言い忘れてた!!』

 

「「おおう!!?」」

 

「ミャー!!?」

 

突然アミクの声が聞こえてきて驚くショウたち。危うく海に落ちそうになった。

 

「な、なに!?私、ハンカチ忘れたの?」

 

『オカンちゃうわ!!?・・・こほん、君たちの荷物に録音用魔水晶(ラクリマ)があるんだけど』

 

「あ、本当だ」

 

ミリアーナが荷物を漁ってみると確かに手の平で持てるサイズの魔水晶(ラクリマ)(結構重い)が見つかった。

 

『そこには私が歌ったいろんな歌が録音されてるから!道中聴いてみて!』

 

「い、いつの間に・・・」

 

『急ピッチでやったから出来はそんなに良くないかもしれないけど。とりあえず、君たちが壮行会に夢中になっている間にマーチに運んでもらったの』

 

これもエルザのプレゼントだ。音楽は心を癒すため、旅の道連れにもちょうどいいと思ったのでエルザがアミクに頼んだのだ。

 

『私のだけじゃなくて、エルザやナツたちが歌ったのもあるからぜひ・・・え?わざわざ言わなくていいって?どーせ聴かれるんだからいいじゃん・・・とにかく!いい旅を!!』

 

途中、エルザか誰かに話しかけられたようだが、アミクはショウたちに祝福を言い残し、その後は聞こえなくなった。

 

「・・・至り尽くせりだよ・・・」

 

一度引っ込んだ涙がまた溢れてきそうなショウたちだった。

 

 

 

そして、これからの旅の間、この録音用魔水晶(ラクリマ)はずっと重宝されることになる。

 

アミクの歌はもちろん、ルーシィの歌、エルザのぎこちない歌、ナツの騒がしい歌かどうかもわからないもの、衣擦れ音がやたらする歌や魚の歌とか意味わからん歌。

歌詞の内容がリアルすぎてある意味虚しくなる歌などがあって、それらは確実にショウたちの大切な心のオアシスとなるのだった。

 

 

 

 

 

一体ここはどこだ。暗いのをみると今は夜か?自分はどうやってここに来た。

 

 

 

自分は、誰だ。

 

 

 

「俺は・・・なにを・・・」

 

 

その男は頭痛を抑えるかのように頭を振る。

 

 

そして、自分の脳裏に残っている唯一の単語を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エルザ・・・」

 

 

 

 




前触れなくオーディオン出てきたけどいいかな?いいよね?

ちょっと閑話を挟んで、BOF編です。


アンケートとってみたけど、結構みんな『音ってどうやって食べてるのか』って気になってるみたいなんだよね・・・。


これに対する答えは一つだけ!

それは・・・・







細かいことは気にするな!!



はい、殴っていいです。

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