これが、スランプってやつか!!?(言い訳)
「はぁ・・・まさかこんな形で出鼻を挫かれるなんてね・・・」
アミクはギルドの隅っこで体育座りになって沈んでいた。
先ほど、「ラクサスを止めてみせる!(ドヤ)」と言っておいてそもそも外に出られなかった、なんてオチによってもの凄く恥ずかしい思いをしたのだ。
「アミク、もう元気出せよ。レビィが術式何とかしてくれるって言ったじゃねえか」
ナツの言う通り、レビィがこの術式を解析してくれるというのだ。
術式は文字魔法の一種なので文字魔法が使える自分ならなんとかできるかも、という考えらしい。
『私・・・あなたたちならラクサスを止められるって信じてるから』
レビィの言葉が思い出される。アミクたちを信じてくれるレビィのためにもアミクはできる限りの事をするつもりだ。
だからこっちもレビィを信じて待つだけである。
「そうだね・・・落ち込んでる場合じゃないか」
アミクは立ち上がるとレビィの方を向いた。レビィのすぐ近くにはガジルが座り込んでいる。当のレビィはというと。
「う~ん・・・ローグ文字の配列情報を文字マテリアルに分解して・・・ルール構築に使う単語をピックアップ。L・O・S・U。さらにそれをギール文法に変換」
「すげえなお前・・・何言ってるかまったくわからねえ・・・」
「違う!!LとSはブラフだわ!! アルスがキーコードよ!!」
「そ・・・そうか」
「ごめん、全然理解できない」
眼鏡を掛けて紙に必死に何かを書きこんでいた。周りには沢山の本が積み重なっている。
「大丈夫。私がアンタたちをここから出してあげる」
心強い言葉にアミクの頰が緩んだ。ガジルはそっぽを向いて言う。
「オレは別に・・・」
「お願い。ラクサスを止めて」
それを聞いてガジルはレビィをじっと見た。
ナツは術式の壁に額を打ち付けるとイライラしながら口を開く。
「ヨユー」
アミクはそんな二人を見てから頷いた。
「もちろん」
そんなアミクの言葉にレビィは安心したように笑った。
●
カカカカカッ!!
走っていたエルザは急に飛来してきた大量の針を跳んで躱した。
地面に着地した彼女が上を見上げると・・・
「ほんと忌々しいガキよね。私の石化をあっさり解いちゃうなんて」
エバーグリーンが建物の上に立っていた。
「エバーグリーン」
「まあ、あの子もそうだけどアンタもホントムカツク。何が
嘲笑うように言いながらエバーグリーンはエルザを見下ろした。
「私が世界で一番・・・妖精なの!!」
●
「あーし、思うけど街の人を避難させるのはやめた方がいいと思う、の」
一方、ルーシィたちと一緒に行動していたマーチが助言する。
「なんでよ?」
「今、この街は収穫祭でマグノリア以外の人々も集まって、すごくごった返してるんだよ」
ルーシィの疑問にハッピーが答える。
「パニックは危険だよ。必要のないケガ人が大勢出るし」
「でもそれじゃあ・・・どうしよう」
「ねー」
「どうしよっか」
「ねー」
ルーシィの言葉に聞き覚えのない声が続く。
ルーシィが慌てて振り返ると、そこには謎の人形たちが浮かんでいた。
「ルーシィ危ない、の!!」
マーチがルーシィを突き飛ばす。間一髪、人形から放たれた光線を避けることができた。
突き飛ばしたルーシィをハッピーが掴んで空に持ち上げる。
「なっ、なにコレぇ!!」
「ビックスロー、なの!」
上手く建物の屋上に着地したルーシィたち。その建物よりさらに高い建物の上にビックスローが立っていた。
「よォ・・・アンタが噂の新人かい?」
「噂って何よ!!すっごいイヤな予感するんですけど!!」
「コスプレ好き女王様だろ?」
「どんだけ尾ヒレついてんのよ!!!」
なぜかルーシィの噂は尾びれと背びれが付き、足生えて独り歩きするのだ。とんでもない迷惑である。
「ルーシィ!ビックスローはあの人形攻撃が厄介、なの!!あとあのマスクの下でいつも女性の身体を舐めまわすように見ているって噂だから気を付けて、なの」
「うわ、キモイ・・・」
「待て待てぇ!?クソネコ、それどこ情報だ!?」
根も葉もない噂に慌てるビックスロー。このマスクはそういう用途で被っているわけではないのだ。
「その口黙らせてやる!ヘイ、ベイビーやっちまいな!!」
ルーシィたちとビックスローの戦いの火蓋が切られた。
●
「『獅子光耀』!!」
「何!?目くらまし!?」
自由に扉を通れるロキの機転によりビックスローに隙ができた。
「今だ!!」
「やぁ!!」
「ぬおっ!?」
ルーシィが振るった鞭がビックスローの首に巻きつく。
「ロキ!!」
「うん!」
そこにロキが突っ込んでいった。
「おまえがオレに・・・勝てるわけ・・・」
ビックスローは必死に鞭を振り解こうとしていて身動きが取れない。
「あの頃の僕とは違うんだ・・・」
「クソ!ベイビー、止めろォ!!」
そのとき、がむしゃらに暴れさせた人形がロキの方に向かってきたこのままではロキに直撃する。
「!?」
「ロキ!?」
身構える間もなく人形の攻撃がロキに当たる――――――直前。
スパァン、スパァン!!
「邪魔はさせない、の!」
マーチの伸ばした爪が人形を全て斬り裂いた。
「ま、またテメェかマーチ!!」
さっきからもマーチの爪攻撃で何体もの人形をダメにされている。さらにマーチがルーシィに近づく人形を斬ってくれたせいでルーシィの接近を許してしまった。
「今、なの!ロキ!!」
「ありがとうマーチ」
ロキは手に光を集めながらビックスローに接近した。
「ルーシィに会って星霊本来の力が蘇った。いや・・・ルーシィに会って僕は強くなった」
ルーシィがあのとき自分を救ってくれたから、今、こうして生きているのだ。感謝してもしきれない。
だが、そういった恩もある一方で、ルーシィ自身を好ましく想っている。星霊を愛して想いやれる優しい心。その心の温かさに触れ、ロキはいつも満たされた気持ちになる。
そんな主人を守るため、彼女と共にいるためにロキはもっと強くなれるのだ。
ロキは光る手で拳を作り、ビックスローに叩きつけた。
「『
「ぐぉあああああああああっ!!!」
見事、ビックスローを討ちとった!
「やった、なの!!」
「さっきのマーチ、ナイスファインプレーだったよ!!」
マーチとハッピーが手を取り合って喜んだ。
ルーシィもロキの方を見る。
「見て、ルーシィ」
そのロキは壁の方に手を向けた。
「愛の光を」
壁には光で『ILOVE YOU』と書かれていた。
「えーと・・・」
「でぇきてきる”」
「巻き舌風に言わないの!」
「でぇきたぶっ」
「下手!」
●
<バトル・オブ・フェアリーテイル 結果速報>
<エバーグリーン VS エルザ>
<勝者 エルザ>
<ビックスロー VS ルーシィ>
<勝者 ルーシィ>
「やった!エルザもルーシィも勝ったよ!」
アミクは飛びあがって喜んだ。それにしてもエルザはともかくルーシィが雷神衆を倒すとは。
「マジか!!?あのバニーガール戦えたのかよ!!?」
「ルーシィは強えぞ。きっと」
「きっとって・・・」
「ウソだろ!?だってバニーだぞ!!」
まぁ、普通はガジルの様な反応なのだろう・・・。
「さすがルーちゃん!!私も負けてられない!!!」
ルーシィの勝利を知ったレビィも嬉しそうに笑い、術式を解析するのを再開した。
「あとはここさえ解ければ・・・」
そうしている間も、アミクたちがグダグダと話をしている。
「バニーは強えんだよ!」
「そんな話聞いた事ねえヨ!」
「バニー関係ないでしょ」
「術式を書き換えて」
「おまえウサギと亀の競争の話知らねーのか?」
「ウサギ負けてんだろそれっ!」
「なんで例えにそれを出した・・・」
「だけどここが最難関・・・」
「最初の一回はな。この後、何百回競走してもウサギの連勝だ」
「な、なるほど。教訓を活かして・・・」
「納得するんだ!?そーゆー話じゃないでしょ!」
「・・・・それだっ!!」
唐突にレビィが叫んだ。どうやらナツたちの会話から何か閃いたらしい。
「そうだよ!!二つの文法を違う速度で解読していくんだ。一周して同期した文字の整数をギール文法に変換して、さらにローグ言語化」
相変わらず何を言っているのかわからないが、とにかくすごい勢いで紙にカリカリと書き込んで行く。
そして・・・
「解けたっ!!」
「おおっ!!」
レビィが嬉しそうに紙を掲げた。その紙を持って出口へと近づいて行く。
「待ってて。術式を書き換えてくる」
レビィはアミクたちの方を振り返ると不敵に笑う。
「準備はいい?バトル・オブ・フェアリーテイル参戦だよ」
ナツは待ちに待ったとばかりに腕に炎を纏わせた。ガジルもいつもの悪どい笑みを浮かべている。
「おう!!」
「ひと暴れしてやんよ」
アミクは静かに外を見据えながらラクサスの事を想った。
ーーーーラクサス・・・絶対に目を覚まさせてみせる!
「行ってくる!!」
●
『いい?ナツ、アミク、ガジル。街中にはまだフリードの術式の罠が点在している。あんたたちがひっかかったら元の子もないんだから、ここを出たら別行動ね』
『そっちもおじいちゃんたちをお願いね』
そんなやりとりがあったのでアミクは今、単独で行動している。
「うーん、人が多すぎて声も匂いもごっちゃごちゃ。ここからラクサスを見つけ出すのは時間がかかりそうだな・・・」
アミクは慎重に道を歩きながら独り言をいう。万が一にも術式の罠があったらいけないので注意深く移動する必要があるのだ。
「おや、アミクちゃんじゃないか。さっきからおたくのギルドのヤツらが暴れまわってんだ。いつものようにガツンと言ってやってよ」
「す、すみません!ホントすみません!」
途中でいろんな人に声をかけられ謝りながらも足の歩みは止めない。
それにしてもバトル・オブ・フェアリーテイルのせいで住人たちにも迷惑を被ってしまっている。これ以上迷惑かけないためにも、ラクサスを探し出してこの騒動を止めさせなければ。
(とりあえず、この街全体から声を聴き取ってみれば・・・・)
アミクは一旦立ち止まって耳をよくすませた。あらゆる声が不規則に入ってくる。
いろんな声が混ざり合って内容が不鮮明だ。こういうときは一つの声に集中するとその内容がわかりやすい。
(・・・ん?この声はガジル?)
その中で聞き覚えのある声があった。ガジルだ。
「問題は・・・・よな?・・・スターイワン」
『今は・・・得ることが・・・要だ』
思ったより遠くにいるのと、耳に入る声が多すぎて途切れ途切れに聞こえてくる。
そこで、ガジルの他にも別の声がガジルと会話しているのに気付く。
(・・・誰?)
『気づかれるな。
「了解」
ガジルたちの会話を聞いて、アミクは言いようのない不安に襲われた。
ーーーー今のは、なんなの?
不穏な会話だった。まるでガジルが
少なくとも、ガジルが自分たちに何かを隠していることは分かる。
(ガジル・・・・君は何を考えているの・・・?)
ガジルに対してちょっとした疑念が湧き上がる。
自分はこのままガジルを信じてもいいのか、自信がなくなってくる。だが、今までのガジルを否定したくない。
アミクとの会話にも付き合ってくれたし、自作の歌を披露したり、ジェットたちの暴行も甘んじて受けたり不器用ながらも仲間たちに歩み寄ろうとしていた。
そんな彼を疑いたくない。
(私は・・・)
今、ラクサスのことでも大変なのに、ガジルのことでさらに頭を悩ますことになってしまった。
●
「うわ!?」
ラクサス捜索を再開してからしばらく。急に向こうの空で強力な魔力が爆発した気配があった。しかも、覚えのある魔力だ。
「・・・ミラさん?」
まさかミラが魔法を使ったのか。あの事件以来、戦わなくなったミラジェーンが、ずっと封印していた『サタンソウル』を。
「ミラさん・・・一体なにが・・・?」
●
こうしてフリードもミラに倒され、残るはラクサスただ一人!
いよいよ戦況は終盤に向かうのだった。
次はなるべく早く出せるように頑張ります。