はい、どうでもいいですね。
神鳴殿発動まであとわずかしかない。
アミクは嗅覚と聴覚を駆使しながらラクサスを探していた。
そして時折、負傷者、つまり
「けっこう本気でやり合ったんだね、これは・・・」
アミクは怪我の具合を見て額を押えた。
今治しているこの男は路地裏をのぞいた時に倒れているところを発見した。傷だらけで倒れていたので早速治療した。
この男の怪我は一方的にやられたかのような感じだった。この男ほどの者が手も足も出ないとは。フリードの術式にでも嵌ったのだろうか。
「ラクサスと戦う前に魔力が多く消費されそう」
とはいえ、怪我人を見たらほっとけないのがアミクだ。
「大体ラクサスの居場所の目星もついたんだけどな。今はラクサスの方に向かっちゃうべきかな・・・」
アミクが頭を悩ませていると、怪我をしていた男が目を覚ましたのかうめき声が聞こえてきた。
「あ!気が付いたんだね!」
「あ、アミクか・・・すまねえ・・・」
男はフラフラと身を起こした。まだダメージが抜けきっていないようだ。
「・・・ってことは!石になってた奴らは全員に元に戻ったのか!?」
男―――――グレイが必死な顔で聞いてくる。それに対してアミクは頷いて答えた。
「うん、みんな無事――――とは言えないけど生きてるよ」
「そうか・・・よかった」
グレイは安心したようにため息をついた。元々、みんなアミクたちを助けるために戦ったのだ。こうして無事な姿を見せてホッとしたのだろう。
「グレイは大丈夫?」
「ああ、お前が治してくれたおかげでだいぶ楽になった」
「そっか・・・あ、ほらこれ」
アミクは手に持っていたネックレスをグレイに渡した。グレイがビックスローに取られまいと建物の隙間に放り込んだウルだ。
「見つけてくれたのか・・・にしてもよく見つけたな?」
「ま、まあね?たまたまだよ」
『・・・ずっとあそこに置いてかれたままかと思ったぞ』
もちろん違う。グレイを見つけたのはたまたまだが、ウルが助けを求める声が聞こえてきたので助け出したのだ。
「あんな狭い所にあったから取るのに苦労したよ」
『久々にあんなに叫んだよ。アミクが通りかかったのは本当に幸運だった』
「ビックスローの奴がそれを欲しいとか言ってたからよ。くれてやるつもりはなかったから咄嗟に隠したんだ」
『そういや、そのビックスローって奴、私の魂が見えていたみたいだぞ』
(そういえばビックスローは魂が見れるんだった)
失念していた。ビックスローならネックレスに憑いているウルの魂に気付けただろう。そこを狙われたようだ。
「そのビックスローもルーシィが倒したよ」
「マジか!?アイツが!?」
グレイがすごいびっくりしていた。ちょっとルーシィのこと舐めすぎではないだろうか。
「・・・もう大丈夫。あとは任せてよ」
仲間同士で傷つけあったとはいえ、アミクたちを救おうとした心は認めるべきだ。アミクは感謝を胸に秘めながらグレイに告げた。
「私たちが、ラクサスをなんとかする」
それを聞いてグレイの目が驚いたように開かれた。
「お、お前が倒すのかよ!?」
「私だけじゃないよ?ナツやガジルもいるし、エルザやミストガンだって」
「それはそうだけどよ・・・ってナツとガジルもか!?」
思ってもいなかった組み合わせにグレイが思わず聞き返す。
「そうだよ。みんなが協力してくれてる」
「そうか・・・でもお前に勝てるのか?」
『あのラクサスって奴、とんでもない強さだぞ』
グレイやウルの心配も分かる。ラクサスはS級魔導士の中でも屈指の実力を持つ。アミクでは荷が重いように見える。それに同じS級魔導士であるエルザやミストガンに任せた方が勝機があるだろう。
「けど、私だってラクサスを止めたい」
自分だって弱くはない自負がある。それに戦わずにラクサスを止めることもできるかもしれないのだ。もしかしたらアミクの言葉には少しは耳を傾けてくれるのではないか、と思っている。
これも自惚れでなければだが。
(なんかそう考えたら自信無くなってきた・・・)
つい最近ラクサスの誘いを断っているのだ。自分の事を嫌っていてもおかしくない。
(でも・・・)
だが、ファントムの時に助けられていることもある。助けてくれたという事は少なくとも嫌ってはいない、と思いたいが・・・。
「ごちゃごちゃ考えるのはやめた!!」
「うお!?」
『・・・』
アミクは頬をパァンと叩くと立ちあがった。
「とにかく、なんとかしてみせるよ!」
『根拠がないなぁ』
「・・・ま、お前ならなんとかなるだろ」
グレイたちが呆れたように言うが、それでもその目には信頼が浮かんでいる。
そこで、アミクは上を見上げて思い出した。
(・・・あれもなんとかしないと)
それにつられたのかグレイも上を向いた。そして彼は目撃する。宙に浮かぶ球体を。
「な、なんだありゃ・・・」
『雷の・・・
「・・・あれは神鳴殿。ラクサスが起動させた
そうしてアミクは神鳴殿について説明した。時間経過で大量の雷が街に降り注ぐことになることも、壊したらそのダメージが自分にも返ってくることも伝える。
「ラクサスのやつ、本気かよ!?」
「もう時間もないし、早くラクサスを説得するなりして止めさせないと・・・」
だが、ラクサスが聞いてくれるかどうか。
「・・・アミク。神鳴殿は俺たちに任せろ」
「え・・・?」
グレイが覚悟を決めた表情でアミクに告げる。
「だから、お前はラクサスに集中しろ・・・心配すんな。考えがあるんだよ」
グレイが真摯な目で見つめてきた。その目を見て、アミクもグレイを信じることを即決する。
「・・・わかった!無理はしないでね」
「そっちこそラクサスにあっさりやられんなよ」
グレイとアミクは互いに頷きあうとーーーーー背を向けた。そしてそのまま去っていく。
言葉はなくとも、互いに信頼し合っている証であった。
そんな関係をウルはちょっと羨ましく思った。
●
「ここ・・・!カルディア大聖堂!」
アミクは目星を付けていた場所に辿り着いた。どうやら読みが当たっていたらしい。ラクサスの匂いと声がする。
ついでに、多分ミストガン?もいるようだ。
アミクは早速中に乗り込む。
『ラクサス!!』
中に入った途端叫んだが、アミク以外にも二つの声が両側からする。その声の正体は。
「ナツ、エルザ!」
「お前ら!」
「二人とも!出られたのか!」
なんと3人同時に到着したらしい。
「くっ!」
その時、さっきからラクサスと対面していた人物が慌てたように顔を隠した。
「え、もしかして」
「ミストガンか・・・?」
アミクたちが疑問を覚えていると・・・。
「スキあり!!」
とうとう見つけた男、ラクサスが雷を放ち、ミストガンらしき男の覆面に当たった。その覆面がボロボロになって今まで隠れていた顔が現れる。
それを見てアミクたちはとてつもない衝撃に襲われた。
なぜならその顔は・・・・
「ジェラール・・・」
楽園の塔で倒したはずのジェラールの顔そのものだったからだ。
「な・・・ん、でジェラールが・・・?」
「おまえ・・・!!」
「生きて・・・」
アミクたちは呆然となる。エルザに至っては涙を浮かべていた。
「お?知ってる顔だったのか?」
事情を知らないラクサスは呑気にそんなことを言った。
「ど、どうなってんだ!?ミストガンがジェラール!?」
「まさか・・・本当に双子だったり・・・?」
動揺してトンチンカンな推測をするアミクだがそんなアミクとエルザを見て、ミストガンは俯いた。
「アミク、エルザ・・・
「え?」
「私はジェラールではない。その人物は知っているが私ではない」
ということは・・・。
「じゃ、本当に双子ーーーー」
「かと言って双子でもない」
アミクの言葉を遮るようにミストガンが続ける。
それを聞いてもエルザは放心したまま震えていた。
「すまない、後は任せる」
「ちょ!」
無責任にもミストガンはそのまま姿を消してしまった。詳しい説明もないまま逃げるように去られてしこりが残ってしまった。
「だーっ、ややこしい!!後回しだ!!ラクサス勝負しに来たぞ!!アミク、エルザ、いいよな!俺がやる!!」
「ちょっ、早まらないで!ラクサス、話を聞いてよ!」
アミクもナツの言葉にすぐに気持ちを切り替えた。今はラクサスのことが最優先だ。だがーーーー
「エ、エルザ・・・?」
エルザはいまだに放心したままだった。そこに。
「ぐはああああああああっ!!!」
ラクサスの雷が直撃した。
「似合わねえツラしてんじゃねーよ。ホラ!!来な」
獰猛に笑みを浮かべるラクサス。エルザは吹っ飛ばされて床を滑っていった。
「ラクサスーーーっ!!俺が相手するって言ってんだろ!!このやろォ!!」
雄叫びをあげてラクサスの前に立ち塞がるナツを見て、ラクサスは鼻で笑った。
「ん?いたのか、ナツ」
まるで眼中にない、とでも言いたげな言葉にナツはカチーンとなる。
「ラクサス!お願い、神鳴殿を止めてよ!」
そのナツの後ろから出て来てアミクは頼み込んだ。
アミクを見た途端、ラクサスは笑っているような怒っているような複雑な表情になった。
「・・・テメェも来ちまったか」
アミクはいつもラクサスに対するように笑みを浮かべて話しかける。
「もう・・・やめよう。君は、本当にこんなことがしたかったの・・・?君の望みはこうすれば本当に叶うの・・・?」
アミクが必死に言葉を紡ぐ。瞬間、ちょっとだけラクサスの瞳が揺れたーーーーーーが。
「・・・この期に及んでそんなヌルい事言ってんのかよ、アミク。オレは、オレがマスターになるためにこの状況を作り出した!自ら望んで、だ!!だから、オレの邪魔をする奴は容赦無く叩き潰す!!誰であろうとな!!」
そう豪語してラクサスはアミクをキッと睨んだ。
「だからテメェも余計な希望や情は捨てろ!!オレは本気だぞ」
そして、冷たく吐き捨てた。
「オレはお前らの仲間じゃねえ」
「さっきからごちゃごちゃうるせえな!!」
痺れを切らしたナツがラクサスに飛びかかった。
「オレと勝負しろやぁァ!!ラクサス!!」
「ナツ・・・」
「てめえのバカ一直線もいい加減煩わしいんだよ」
ラクサスは手に雷を溜めると・・・。
「うせろザコがっ!!」
ナツに向かって放った。
ナツに当たるかと思われたが、ナツはそれを躱す。そして。
「『火竜の鉤爪』!!」
ラクサスの横っ腹に炎の蹴りを叩きつけた。が、それをラクサスは腕でガードする。その腕を振るってナツを弾き飛ばす。
「おおっ!!」
危うげに着地したナツにラクサスが急接近し、蹴りを入れた。
「んが!!」
吹っ飛ばされそうになるナツの腕をがしっとつかんだラクサス。
「逃がさねえぞコラ」
そのまま、ナツの顔面を何度も殴りつけた。
一方ナツもラクサスの腕を掴み返した。
「逃げるかよ。てっぺんとるチャンスだろ!!」
そこで、思いっきりラクサスの顔に一撃を入れる。初めてまともに攻撃が通った気がした。
(・・・戦うしか、ないか・・・)
そこまで見届けてやっとアミクもラクサスと戦う決意をした。
「〜〜〜♪『
アミクは急いで歌って自分に
「ごめん、ラクサス!痛いかもしれないけど我慢してね!」
拳を構えて、それをラクサスに向けて放った。
「『音竜の響拳』!!」
攻撃力の上がったパンチがラクサスの背中を襲う!!
「ふん」
「うおおっ!!?」
だが、ラクサスは鼻で笑うとナツをぶん回し、アミクにぶち当てた。
「きゃあ!!?」
アミクは少し吹き飛んだが、足で床を踏んでなんとか踏ん張った。
「おい、アミク!ラクサスはオレが倒すんだ!!」
「もう!そんなこと言ってる場合じゃないよ!!」
未だにナツとラクサスが掴みあっている中、急にラクサスがナツの腕を引く。
「フン!」
「うおっ!?」
床に倒れてしまうナツだが、すぐさま横薙ぎに蹴りを放った。
しかし、ラクサスはそれを飛びあがって避けるとナツの頭を踏みつぶそうと落下する。
「ダメ!」
そこにアミクが飛び蹴りをしてきたのでラクサスはやむなくナツの腕を離して後ろに飛んだ。
それを見てエルザもようやく再起動した。
(ミストガンの事はひとまず忘れなければ。今はラクサスだ!)
換装してラクサスに斬りかかる。
ラクサスも流石の反応でそれを避ける。
「エルザ!」
「ナツ!大丈夫?」
一旦ラクサスと距離が取れたのでアミクはナツの方に向かう。思ったより怪我も酷くなさそうだ。
「ラクサス・・・本当に街を攻撃するつもりか!?」
「はははっ!!新しいルールさ!オレも本当は心が痛むよ」
エルザの問いにラクサスはそう答えて「ククク・・・」と笑った。
「貴様!!」
エルザがラクサスに蹴りを放つが難なくラクサスに足を掴まれてしまった。
「フン!」
そしてエルザに雷を放つ。
「ぐっ!」
喰らいながらも急いで飛びのくエルザ。だが、見た感じあまり効いているように見えない。
その理由は。
「雷帝の鎧!?」
エルザが換装しているのは電撃に耐性を持つ雷帝の鎧だったからだ。
「あれならラクサスの雷だって耐えられるはず・・・」
「フン・・・そんなものでオレの雷を防ぎきれるとでも?」
対してラクサスは自分の雷に自身があるのか不敵に笑う。
「あと2分だ」
それに、神鳴殿の時間制限も残り少ない。だが、ラクサスを2分でどうにかできるかと聞かれれば難しい所だ。
そこにナツがプンプン怒りながらエルザに言った。
「なにラクサスとやる気マンマンなってやがる!こいつはオレがやるんだ!」
「まーた始まった・・・」
アミクは呆れたように首を振るが、エルザはそんなナツを見て笑みを浮かべた。
「信じていいんだな?」
「へ?」
そう言うとエルザは外に向かって走り出す。
「ちょ、ちょっとどこ行くの!?」
「まさか、おまえ神鳴殿を止めに・・・」
「ははははっ!!無駄だァ!!一つ壊すだけでも生死にかかわる!!
今、この空には300個の
ラクサスの高笑いを聞きながらエルザは静かに告げた。
「さっきも考えたんだがな。やはりこれしかないようだ」
「え・・・?」
「全て同時に破壊する」
とんでもない事を言われた。
「不可能だ!!できたとしても確実に死ぬ!!」
「だが街は助かる」
自分の命を度外視した様子に流石のラクサスも焦った。
「ラクサスを止めておけ、ナツ、アミク!!」
「てめえ・・・ゲームのルールを壊す気か・・・!!」
神鳴殿が全て壊れてしまえばこの街を人質にとることができなくなりゲームが成立しない。
「エルザ!!そんなことしたら・・・」
「こっちも信じていいんだな、エルザ」
エルザを止めようとしたアミクの言葉を遮るようにナツがエルザに聞く。
それに対してエルザは小さく頷いただけだった。
「可能か不可能かじゃねえぞ!!お前の無事をだぞ!!!」
「・・・もう!!私も信じてるから!!」
アミクも仕方なさそうにエルザに向かって叫んだ。
それらを聞いてエルザは嬉しくなる。
(おまえたちに救われた命だ。粗末にする気はない)
「『
そんなエルザにアミクの
「思いっきり無茶しちゃって!!」
アミクなりの激励らしい。これならば大量の雷撃を喰らっても耐えれるだろう。
「くそっ!!」
エルザを止めようとラクサスが駆けだすが・・・。
「『火竜の・・・咆哮』!!!」
「『音竜の
「ぬっ!!」
ナツとアミクの同時攻撃でやむなく足を止めてしまった。
「オレは、おまえを倒す」
「私たちが相手、だよ!」
「このガキどもが・・・」
ラクサスは怒りに震えながら二人を睨んだ。
「つーかなんでアミクと一緒に戦うことになってんだよ!オレが倒すっつってんだろ!!」
「ナツだけで倒せるほど甘くないよ。それに、私たち二人で――――」
「――――『双竜』、だろ?」
「分かってるじゃん」
ナツは不満そうにしているがここは是が非でも参戦させてもらう。
「『双竜』ならラクサスにも勝てるかもね。それにラクサスとは『お話』したいし」
「・・・しょうがねぇな」
なんだかんだナツはアミクに甘い。
「俺たちでラクサスを倒すぞ!」
「りょーかい!!」
「やれるもんならやってみろ!!『双竜』ゥゥゥゥゥ!!!」
『双竜』とラクサスがここに激突した。
遅れてすみません。
早くエドラス編やりたい・・・。