妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

54 / 202
今回でBOF編は終わりです。


幻想曲

結局ファンタジアは明日の夜に延期になった。

 

怪我人も多く、色々バタバタしていたため今日は落ち着ける気がしないからだ。

 

その中で朗報があった。

 

「ポーリュシカさんのおかげで一命は取り留めたそうだ。安心してくれ。マスターは無事だ」

 

エルザの言葉にギルドの空気が弛緩した。

 

 

「よかったぁ、一時はどうなるかと思ったケド」

 

「あのじーさんがそう簡単にくたばる訳ねーんだ」

 

 

 

「しかし、マスターもお歳だ。これ以上心労を重ねればまたお体を悪くする。皆もその事を忘れるな」

 

今回は無事だったとはいえまた再発する可能性もある。そのことを懸念したエルザは皆にそう伝えた。

 

 

「こんな状況で本当にファンタジアやるつもりなのか!?」

 

「マスターの意向だし・・・こんな状況だから・・・って考え方もあるわよ」

 

 

みんなで騒いで嫌な事は忘れよう、ということだろう。

 

 

「ジュビアもファンタジア観るの楽しみです!」

 

「アンタは参加する側よ」

 

「ええ!?」

 

 

自分が参加するとは思っていなかったのかジュビアが驚く。

 

「だってジュビア、入ったばかりだし」

 

「ケガ人多いからね。ほとんどアミクが治してくれたけど安静にしなきゃいけない人達も居るし。まともに動ける人は全員参加だって」

 

「プーン」

 

「あーし達ネコも参加、なの」

 

「じゃあ、あたしも!?」

 

 

ピンピンしているルーシィも参加しなければならないということだ。

 

 

「見ろよ、あんなの参加できねーだろ」

 

 

グレイが指差した方には、包帯でぐるぐるにされた男2人、ナツとガジル。そして、2人よりは巻かれている包帯が少ないアミクが居た。

 

 

「だね」

 

「ふぁがふんごが! あげがあんぐぐ!」

 

「何言ってるか分かんないし」

 

ナツに至っては顔まで包帯で巻かれてしまっているので上手く喋れないのだ。

 

『ミイラみたいだな』

 

ウルが呑気に感想を言った。

 

「無理だね、参加できるわけねーだろクズが」

 

「おがえガベおごおご・・・」

 

「それは関係ねーだろ」

 

「なんで通じてるのかしら・・・」

 

アミクは慌てて立ち上がった。

 

「わ、私は大丈夫だよ!見た目よりひどくないし・・・」

 

「嘘ばっか。ラクサスにボコボコにされたって聞いたわよ?」

 

「もう治しちゃったもんね」

 

自分は平気だとでも言いたげにアミクは腕をグルグルと回した。

 

「治癒魔法は怪我は治せても負担はある程度残るから安静にしておかないと危険だって言ってたじゃん」

 

「う・・・」

 

アミクは気まずそうに腕を下ろした。

 

そのことはナツ達にも言い含めていた。治癒魔法は即行で怪我が治せるが、応急処置みたいなものでダメージが完全に消えるわけではない。なので治療してすぐ無茶ばっかりしていると体が脆くなり、より大きな怪我に繋がることもある。だから、ある程度休息も必要なのだ。

 

 

「でも、今日休めば明日の夜までには私もナツ達も復活すると思うよ」

 

 

「まぁ、ともかく明日まで様子を見てからにしよう・・・これでギルド内のごたごたも、一旦片付いた訳だ」

 

エルザがしみじみと言った。今のギルドはバトル・オブ・フェアリーテイル中の剣呑さはなく、敵として戦ったもの同士で仲良くしていたりもして穏やかな空気が流れていた。

 

その時。

 

 

顔と胸に包帯を巻いた男、ラクサスがやってくる。

 

 

ラクサスを見てギルド中がざわめいた。

 

「ラクサス!!」

 

「おまえ・・・!!」

 

メンバー達がいきり立って立ち上がる。

 

「ジジィは?」

 

ラクサスが聞いてきたがみんなそれには答えず、ラクサスを罵る。

 

 

「てめぇ・・・どのツラ下げてマスターに会いに来やがった!!!」

 

「そーだそーだ!!」

 

そこに、アミクが割って入った。

 

 

「やめて」

 

「!!」

 

アミクとラクサスの視線が交差する。ラクサスは仏頂面だが、アミクは穏やかな笑みを浮かべてラクサスを見ていた。

 

「・・・大事ないようで良かったよ」

 

「・・・フン」

 

ラクサス鼻を鳴らす。だが、アミクにはラクサスがちょっと笑ったような気がした。

 

「おじいちゃんは奥の医務室に居るよ」

 

「オイ、アミク!!」

 

メンバーがアミクを咎めるように見るがアミクは取り合わなかった。

 

ラクサスはアミクの横を通り過ぎる。横ぎる時、ラクサスがこっそり耳打ちしてきた。

 

 

「・・・すまなかったな」

 

 

アミクははっと振り返るがラクサスは何事もなかったかのように医務室に向かっていた。

 

 

その時、ナツがラクサスの前に滑り込み、立ちはだかった。そして、ラクサスに指を差す。

 

 

「ナツ?」

 

「ぎがんどけふぁjんっdfっそふぉfs3%&$えじゃkも!!」

 

ナツが何事か喚くが、全く何を言ってるのか分からない。ギルドの皆もポカーンとしている。

 

「三対一でこんなんじゃ話にならねえ、次こそはぜってー負けねえ。いつかもう一度勝負しろラクサス!!だとよ」

 

なぜ、ガジルには分かるのか。

 

いや、実はなぜかアミクも意味が理解できているのだが・・・。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)補正?

 

「次こそは負けないって・・・勝ったんでしょ?一応」

 

「オレもアレを勝ちとは言いたくねぇ。音竜(うたひめ)付与術(エンチャント)があってもこのザマだ。

 あいつはバケモンだ。ファントム戦に参加してたらと思うとゾッとするぜ・・・」

 

ナツ達がラクサスに勝てたのも奇跡みたいなものだ。ラクサスが妖精の法律(フェアリーロウ)などを使って多く魔力を消費したためそこを突いただけであって、実際に一対一で戦えば瞬殺だろう。

 

『ふむ。身体があった時に一戦交えてみたかったものだな』

 

ウルが興味深げに言う。

 

ラクサスはナツを無視したように彼の横を通り過ぎた。

 

ふぁぐぁぐ(ラクサス)!!」

 

無視されたと思って怒り出したナツに、ラクサスは片手を上げて応えた。

 

それを見てナツは嬉しそうだ。

 

(歩み寄ろうとしてくれてるのかな・・・)

 

そしてそれはアミクも同じだった。

 

「さぁ皆、ファンタジアの準備をするぞ」

 

「オイ!!いいのかよ!!ラクサスを行かせちまって」

 

「大丈夫よ。きっと」

 

「ナツ・・・お前ラクサスよりひでー怪我ってどういうことだよ」

 

「んがごがー!!!」

 

「こんなのなんともねーよ、だとよ」

 

「安静にしてなさーい!!」

 

ラクサスが去った後、ギルドには騒がしさが戻ったのだった。

 

 

 

 

「おまえを破門とする」

 

マカロフはラクサスにそう告げた。

 

 

今回しでかした事は一歩間違えれば死人が出ていたかもしれないものだ。なので、この処罰は妥当なものだろう。

 

「ああ・・・世話になったな」

 

 

ラクサスは静かに出口へと歩いていった。破門を言い渡された自分は去るのみ。

 

じーじ(・・・)

 

昔、呼んでいた愛称でマカロフに呼びかける。

 

 

ーーーー微笑みを浮かべながら。

 

 

 

「体には気をつけてな」

 

 

最後にそれだけ口にしてラクサスは出て行った。

 

 

ーーーーー残されたマカロフは。

 

 

 

「出てい゛げ・・・」

 

涙をボロボロ流していた。実の孫を追い出さなければならないのはマカロフも非常に悲しい。しかし、辛い気持ちを押し込み、決して振り返らずラクサスを送り出したのだった。

 

 

それがマスターとしての責務だから。

 

 

 

 

 

そうして、こっそりギルドから出て行くラクサス。それを1人の人物が見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の夜。いよいよファンタジアの開始だ。

 

 

綺麗な星空に花火が咲く。その真下にある大通りで妖精の尻尾(フェアリーテイル)によるパレードが行われていた。

 

ルーシィ達のダンス。エルフマンやミラジェーンの変身。グレイとジュビアの造形パフォーマンス。エルザの剣舞。ナツの炎による文字。マカロフの摩訶不思議な踊り。マーチとハッピーも飛び回ったりして観客の目を引いていた。

 

彼ら彼女らの妖精が舞うような動きに観客達が盛り上がる。遠くの街から来た人々も通りがかりの旅人も明るく魅せる妖精の尻尾(フェアリーテイル)に大興奮だ。

 

 

アミクも当然パフォーマンスに参加していた。

 

 

(き、緊張する〜!)

 

いよいよ自分の番だが、たくさんの人々が自分を見ているというだけで心臓が縮みそうだ。

 

しかし、楽しそうな妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面子や観客達を見ていると自分もとことん楽しんで、楽しませよう、という気持ちが湧いて来た。

 

 

(よし、女は度胸!!)

 

修羅場なら潜ってきているのに今更ここで怖気づく必要があろうか。アミクは身を引き締めると息を軽く吸い込んだ。

 

 

 

アミクは妖精の尻尾(フェアリーテイル)が作った長い台車に乗っている。もちろん乗り物酔い対策もバッチリである。その台車には高い台座があり、アミクはそこで観客の注目を集めていた。

 

 

「キター!!!」

 

「『音竜(うたひめ)』だ!!」

 

「あの娘見るためにクロッカスから来たんだ!!」

 

観客も大盛り上がり。アミクの知名度は遠くまで行き届いているのでかなり人気なのだ。

 

 

その時、アミクの口から綺麗な声色が流れ出した。

 

 

 

それを聴いた客達はうっとりとする。聴いてるだけで身も心も溶かされてしまいそうだ。嫌な心も悪い心も全て流され、新しく生まれ変わった気分。それに声だけじゃない。コロコロ変わる豊かな表情。華麗で見るものを釘付けにする動き。声、姿、動き全部が自分たちの心に刻み込まれる。アミクの全てを感じている。今ならなんでもできそう・・・。

 

 

 

観客はそんな夢心地の中に居た。これが『歌姫』と呼ばれる所以、その一端だ。

 

 

 

 

 

そしてその姿を少し離れた場所でラクサスも見ていた。

 

 

(・・・大きくなったな)

 

急にそんなことを思った。

 

 

自分とアミクが初めて会った時はまだ子供だったはずだ。それが今ではこんなに成長している。そのことに今気が付いたような気持ちだった。

 

 

(今まで俺はアイツをちゃんと見てなかったってことか・・・)

 

アミクはラクサスと向き合おうとしていたのに、自分はそれをずっと突き放して来た。

 

自分を自分だと認めてくれて、一緒に居てくれたというのに。

 

 

(今更そんなこと考えても、な)

 

ラクサスはそう思ってその場から去ろうとした時だ。

 

急にマカロフが右手を上げ人差し指を上空に向けて立てた。

 

 

 

グレイ、ジュビア、エルザにルーシィ達。そしてナツとアミクもマカロフと同じ動きをする。

 

 

それを見てラクサスは衝撃を受けた。これは昔、自分がマカロフに対して提案したポーズだ。

 

 

『何じゃそりゃ』

 

『メッセージ!!じーじのトコ見つけられなくても、オレはいつもじーじを見てるって証』

 

自分の祖父はそれを覚えていたのだ。そしてラクサスは気付く。これは自分に対してのメッセージだと。

 

 

思わず涙が漏れた。こんな自分でも祖父は愛してくれた。ギルドの皆も認めてくれた。

 

 

そうだ。自分は大好きな祖父のギルドを、胸を張って誇りたかっただけなのだ。

だから自分は力に固執し、最強のギルドを立ち上げようとした。

 

だが、そんな必要はどこにもなかった。仲間と笑い合い、助け合い、何より愛し合える、そんな温かいギルドを変える必要などなかったのだ。今のままでも十分誇れるギルドだった。

 

そのことに、今更気付くとは。

 

 

 

「じーじ・・・」

 

 

たとえ姿が見えなくても

 

たとえ遠く離れていようと

 

自分はいつでもラクサスを見ている

 

 

ずっとずっと

 

 

見守っている。

 

 

「ああ、ありがとな」

 

メッセージを受け取ったラクサスはひっそりと泣きながらその場を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

それからしばらく。喧騒も遠くなり、これからどこに行こうか、と考え始めた頃。

 

 

「ラクサスーーーーー!!」

 

後方から自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

雷神衆だろうか。彼らには自分が破門になったと伝えてあるので、街から出ていくことも知っている。自分を引き止めに来たか見送りにきたか。

 

 

そう推測していると声の主がだんだんと近づいてきた。その人物は、緑のツインテールを揺らしながらやってくる。

 

 

つまり。

 

「アミク・・・!?」

 

 

「よ、よかった〜追いついた・・・」

 

ファンタジアに参加していたはずのアミクだった。

 

「てめぇ、何で此処に・・・ファンタジアは!?」

 

「ルーシィに代わってもらったよ。どーしても外せない用事があるって頼み込んでね」

 

ラクサスはアミクの格好を見る。ファンタジアで着ていたドレス姿のままだ。つまり、ルーシィと代わってすぐに追いかけてきたのだろう。

 

「・・・ラクサス、此処を出て行っちゃうんでしょ?」

 

「・・・聞いてたのか」

 

「ギルドでおじいちゃんとラクサスが話している時ね。ごめんね、勝手に聞いちゃって」

 

気になって医務室の近くに居たところ、会話を聞いてしまったのだ。

 

「・・・破門されたからな。此処には居られねえ。せいぜい放浪でもして見るさ」

 

「そっか・・・本気なの?」

 

寂しそうにするアミクに対してラクサスは軽く頷いた。自分がここに居ても居心地悪いだけで、気まずくなると思ったのだ。

 

「・・・ほんとは妖精の尻尾(フェアリーテイル)に残って欲しいけど。おじいちゃんもラクサスも考えを変えるつもりはないみたいだし・・・。だからせめて見送りさせて」

 

アミクは気丈に振る舞っているが、よく見ると少し震えている。自分が居なくなることを惜しんでくれるのだろうか。

 

 

「ほんと、お前には敵わねえな・・・」

 

昔から今まで自分のことを1人の友達として接してくれた。自分の態度が変わろうとも、それは変わらず。

 

 

「そういえば最初から最後まで敵意を向けてこなかったのはお前だけだったかもな・・・」

 

「え、そう?」

 

自分と戦っている時でさえ、彼女は敵としてではなくあくまで仲間として自分を止めようとしていた。死にかけてまでして。

 

 

ますますアミクには敵わない気がする。

 

 

「ま、私がラクサスにマジギレしたのって、前にブロッコリー雷で焼かれた時ぐらいだし」

 

「アレは流石にビビっちまったな・・・」

 

いつの間にか、昔のように本音で話し合えるようになっていた。此処を離れる前に昔みたいに会話できてよかったかもしれない。

 

「あ、そうだ。ラクサスにこれ渡しに来たんだった」

 

アミクは胸の谷間から何かを取り出す。

 

「どこに入れてんだおめえ」

 

「しょ、しょうがないじゃん!このドレスにポケットなんてなかったし!ルーシィがいざって時は此処に入れればいいって!」

 

アミクが赤くなりながら反論する。

 

 

「ほら!どうぞ!!」

 

アミクは強引にラクサスの手にある物を握らせた。そっと開いてみると・・・。

 

 

「お・・・」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマークを形作ったネックレスだった。

 

「遠くに行っちゃってもいつでも妖精の尻尾(うち)のこと思い出してほしいな、って。あと、これでラクサスに声が届けられたらな、って願いもこもってるから」

 

マックスの店で買った。アミクとしては餞別かつ絆の証としてラクサスにプレゼントしたかったのだ。

 

 

 

「・・・オレにか?」

 

「うん!」

 

「・・・ありがとな」

 

ラクサスは素直にお礼を言った。無性に嬉しい。贈り物を貰っただけでこんなにも高鳴り、ポカポカするなど、久しぶりだ。やはり、自分はアミクをーーーーー。

 

 

「・・・でも私、諦めるつもりはないから!」

 

「は?」

 

「ずっと破門のままになんかさせないから!!絶対に妖精の尻尾(フェアリーテイル)に戻らせるよ!だから・・・」

 

そこでアミクは涙を一筋流した。

 

 

「か、かな゛らず、がなら゛ず帰って来でよね゛!!やぐそぐ、だよ!!」

 

決壊したように次から次へと涙を零すアミク。

 

ラクサスは不覚にも綺麗だと思ってしまった。真珠のような涙を落とす少女。幻想的だった。それを誤魔化すように優しくアミクの涙を拭う。

 

 

「そうだな。約束してやるよ。その時はお土産でも持ってくるぜ」

 

「ブロッコリーか卵で」

 

「ブレねえな」

 

ラクサスはこんなにも自分のために泣いてくれる少女を見て嬉しいような悲しいような気持ちになった。

 

 

 

 

そういえばもう一つ、自分の気持ちについて気づいたことがある。

 

 

「アミク・・・オレはおまえのことをーーーーー」

 

 

アミクは急に雰囲気が変わったラクサスに戸惑った。

 

 

何だ。そんな真剣な顔して何を言おうというのだ。

 

 

妙にドキマギして緊張する。

 

 

 

だが、ラクサスはそれ以降は言わずに「いや、何でもない」と続けた。

 

 

「え、あ、そう・・・」

 

アミクは何だったのだろう、と首を傾げる。

ラクサスはガシガシと頭を掻きむしった。頭痒いのだろうか。

 

 

「これ以上此処に居たら気が変わりそうだ。もう行くぜ」

 

「あ・・・」

 

ラクサスは振り返るとさっさと歩いて行った。せっかちな人だ。

 

 

「ラクサス!!」

 

 

アミクが大声で呼びかけると顔だけ振り返ってくれた。その時、胸で何かが光る。どうやら早速ネックレスを付けてくれたらしい。

 

 

「バイバイ、またね!」

 

アミクの言葉に対し、ラクサスは片手を上げて応えた。そして今度こそ去って行く。

 

 

これからラクサスがどんな経験をするのかは分からない。だが、それは決して無駄にはならないはずだ。そして、その経験とともにいつか妖精の尻尾(フェアリーテイル)に帰ってくる。アミクはそう信じている。

 

 

(待ってるから・・・!)

 

 

そして、帰って来た時は皆で盛大に歓迎するのだ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員として。

 

 

 

 

 

しかし、次に再会した時は歓迎どころの状況ではなくなっていることをまだ知らない。

 

 

 

 

ともかく、こうして収穫祭も無事に終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アミクがギルドに戻ると、すでにファンタジアの打ち上げが始まっていた。

 

「アミクどこ行ってたんだよ!」

 

「急に“代わって”なんて言われてびっくりしたわよ!」

 

「何かあった、の?」

 

「ごめんごめん。急にトイレ行きたくなって」

 

追求してくるナツ達に適当に誤魔化しながらアミクは上を見る。上の階ではガジルが騒ぐギルドメンバー達を見下ろしていた。

 

アミクはナツたちを宥めながらこっそり上へ向かう。少し聞きたいことがあるのだ。

 

と、上に上がったところでガジルがマカロフと会話しているのが聞こえてきた。

 

「ガジル。ファンタジアの打ち上げには参加せんのか?」

 

「ガラじゃないんでね」

 

「そうか」

 

マカロフは着ていた着ぐるみを脱ぐ。暑かったのだろう。汗が滲んでいる。

 

「ふいー、収穫祭も無事終了か。明日からは町の修復も手伝わんとな、やれやれ」

 

ということは修復の魔法を使えるアミクが多く駆り出されることだろう。特にほぼ半壊したカルディア大聖堂はアミク達にも原因があり、騒ぎにもなってしまったので気合いを入れて直さなければなるまい。

 

「マスター」

 

その時、ガジルが紙切れをマカロフに渡した。

 

「マスターイワンの・・・アンタの息子の居場所をつきとめた」

 

マスター・・・イワン?おじいちゃんの、息子・・・?確か、あまりにも目に余る行いをしてきたためマカロフが危険分子と見なし、追放したと聞いたことがある気がする。

 

なぜ、ここでその息子が出てくるのか。それにガジルがマカロフにイワンの居場所を探し出すように頼まれていたのだろうか。

 

「よくやってくれた。スマンな・・・危険な仕事を任せて」

 

「オレが二重スパイだってのはバレてねえ。それより奴はラクサスの魔水晶(ラクリマ)を狙っている」

 

「居場所さえ分かればどうとでもなる。奴の好きにはさせん」

 

 

二重スパイ・・・!つまりあの会話はフリ(・・)だったわけだ。

 

あの時、ガジルが会話していたのはおそらくマスターイワン。そのイワンが何を企んでいるのかわからないが、きっとロクでもないことだろう。

ともかく、そんなイワンを動向を監視しようとガジルを使ったのだろう。

ガジルはマカロフからの頼みでイワンと接触。そして、イワンはガジルを仲間に加え、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にスパイとして潜入するように命令する。

 

だが、これが罠なのだ。ガジルは逆にイワン側の情報を流す二重スパイの役割を担っていたということだ。こっちのスパイをするフリをして実際はあっちのスパイだった。これが二重スパイである。

 

 

 

(やっぱり、ガジルを信じてよかった・・・!)

 

 

やはりガジルは素直になれない良い子ちゃんだった。アミクの心配は杞憂だったわけである。

 

 

 

「・・・おい、そこにいることはわかってるんだヨ、音竜(うたひめ)

 

「なにっ!?」

 

どうやら、匂いで気づかれていたようだ。アミクは観念して気まずそうに出てきた。

 

「い、今の聞いたのか・・・?」

 

マカロフが焦ったように聞いてきた。

 

「ご、ごめんね?偶然聞こえちゃって・・・。でも、安心して。誰にも言うつもりはないから。それに今ので気になってたことも解消できたし」

 

「気になっていたこと?」

 

「バトル・オブ・フェアリーテイルの時、ガジルとイワちゃんの会話聞いちゃって・・・」

 

「アレ、聞かれてたのかよ!!」

 

「ほんとどこにおまえの耳があったもんか分からんわ!!」

 

ただでさえ優れている滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の聴力がさらに鋭敏になったのだ。地獄耳を遺憾無く発揮しすぎて「壁にアミクの耳あり」なんてことになってしまっている。ほんと都合のいい耳をしている。

 

「会話している時に聞いてしまう」なんてアミクのタイミングの良さもあると思うが。

 

 

「とにかく、大体の事情は分かったよ」

 

アミクが先ほどの推測を話すと、マカロフは渋い顔になって認めた。

 

「うぬぅ、そうじゃ。イワンの奴が妖精の尻尾(フェアリーテイル)に不利益になることをするかもしれんからの」

 

「・・・ふーん。そうだ、イワークがラクサスの魔水晶(ラクリマ)を狙ってるってどういうこと?」

 

「・・・ラクサスが滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であることは知っておるな?」

 

そういえばすっかり忘れていた。ラクサスに色々聞き損ねた。

 

「じゃが、奴はお前達のようにドラゴンに育てられたのではない」

 

「え?じゃあなんで滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)になれたの?」

 

「それ以外の方法でなったってことだ」

 

ガジルが代わりに説明する。

 

 

「イワン・・・ラクサスの親父は昔、ラクサスに滅竜魔法が使える魔水晶(ラクリマ)を埋め込んだらしい」

 

 

魔水晶(ラクリマ)で滅竜魔法が使えるようになるの!?」

 

 

何年もかけてドラゴンに教えてもらって覚えた滅竜魔法が魔水晶(ラクリマ)1つで身につくなど、とんだアイテムだ。

 

 

「だからだろうな。その上、珍しい。この魔水晶(ラクリマ)は高値で売れるんだとよ」

 

まさか、ラクサスから魔水晶(ラクリマ)を取り出して売るつもりなのか。

 

「ひどい人だね!そんな人にラクサスは会わせられないよ!!」

 

「もちろんそうなる前に手を打つつもりじゃ」

 

マカロフはアミクを見ると改めて告げた。

 

 

「アミク、くどいようじゃがこのことは今のところは他言無用じゃぞ」

 

「はーい!」

 

 

 

 

アミクとガジルは1階に下りていた。

 

 

「・・・私、ガジルに謝らなくちゃいけないことがあるんだ」

 

ガジルが横目でアミクを見てくる。

 

 

「ガジルとイワンテのやり取り聞いたとき、ガジルのことちょっと疑っちゃって・・・」

 

 

アミクは気まずそうに目を逸らす。仲間として迎え入れたのにその仲間を疑ってかかったのが申し訳ないのだろう。

 

ガジルは呆れたようにため息を吐くと――――――でこピンした。

 

 

「痛―――――っ!!」

 

「アホか。テメェはもうちょっと疑えよ」

 

 

ガジルはいつものように悪い笑みを浮かべて「ギヒッ」と笑った。

 

 

「第一、おまえの疑念も当たってるかもしれねえぞ。オレが本当にてめぇらを裏切ってるかもな」

 

「ふーん、もう騙されないもんねー」

 

 

 

よく考えてみれば分かることだった。

 

 

ガジルはどうしようもなく不器用で―――――でも本当は体を張ってでも人を守れる強くて優しい人物なのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 




書いててちょっとキモかった。

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