妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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今回から閑話が1,2,3話くらい続きます。それが終わったらいよいよ六魔将軍ですよ・・・。


大人が奏でる小即興曲
LOVE&LUCKY


収穫祭が終わり一週間。

 

 

街の修復も終え、やっと落ち着きを取り戻した。

 

 

が、やはりラクサスが破門になったことはみんなそれなりにショックを受けていて・・・。

 

 

 

「納得いかねーぞじっちゃん!!何でラクサスを追い出したんだ!!あいつだって仲間だろ!!ケンカしたって仲間だろ!?」

 

 

「ナツ・・・」

 

「オレはアイツともう一度勝負するんだっ!!」

 

ナツがマカロフに不満をぶちまけていた。だが、マカロフは黙ったまま。

 

 

「今度は一対一(サシ)で勝てるくれーに強くなって・・・」

 

「ナツ、もうやめようよ」

 

アミクはやんわりとナツを宥める。

 

 

「おじいちゃんだって好きで破門にしたわけじゃないんだから・・・」

 

「だけど・・・」

 

 

アミクが悲しげに言えば、ナツは気まずげに俯いた。

 

 

 

 

ナツのようにラクサスの破門に納得のいかない人もいる。あんな事をしでかしたとはいえ、なんだかんだ仲間として認めていたという事だろう。

 

 

 

また、マカロフが孫の責任をとってマスターの座をおりるとか言い出したのでみんなで説得するのに苦労した。

 

 

結局フリードがボーズになるという色々空回ってそうな方法で反省を示したことで、マカロフも思いとどまってくれた。

 

フリードといえば雷神衆もギルドのみんなと少しずつ打ち解けてきているみたいだ。

 

「あら、アミク。あなた化粧もロクにできないの?しょうがないから私が教えてあげる」

 

「結構です・・・」

 

エバーグリーンのアミクに対する態度も多少は軟化した・・・と思う。

 

 

「なあなあ、グーレーイーそのネックレスちょっと貸してくれよー」

 

「てめぇもしつけえな・・・」

 

『ち、近付くな・・・!』

 

ビックスローはグレイに(ネックレス目当てで)よく絡んでいるところが見られた。魂が見えるビックスローにとってウルの存在は非常に興味深いのだろう。

 

一応アミクも口止めしてあるが大丈夫だろうか。

 

「つーかおまえは知ってたのかよ!秘密の一人占めはよくねーぞ」

 

「私は当事者でもあるから・・・というかあの魂手に入れてどうするつもり?」

 

「そりゃ、オレのベイビーに加え」

 

「はい、だめー」

 

そんなことできるかどうか分からないので恐らく冗談だろうが、どちらにしろウルを渡してしまうと面倒なことになりそうだ。

 

 

ビックスローにはある程度ぼかしながらも事情を伝えていた。しかし、それ以降ビックスローがやたら絡んでくるようにもなったが。

 

 

 

 

エルザも最近は一人でいるところをよく見かけた。何か考え込んでいるようだったが、やはりミストガンの事だろう。ジェラールと瓜二つの顔をした彼。正体も何も分からぬまま消えてしまったのでエルザとしては気が気でないはずだ。

 

 

ちなみにマカロフにも聞いてみたが彼も何も知らないらしい。

 

 

 

 

まぁ、色々とあったが今はともかく目の前の問題をどうにかしよう。

 

 

 

「うわあああああん一位になれなかったよぉ~!!」

 

 

この自分を揺さぶってくるルーシィを宥めなければ。

 

 

 

 

アミクは忘れていたがミス・フェアリーテイルコンテストの結果が出たのだ。

 

 

ルーシィは3位。

 

 

 

アミクとエルザがなんと同着一位。

 

 

ルーシィは賞金ゲットならず・・・。

 

 

アミクとエルザは賞金を仲良く半分こすることにした。

金なら有り余ってるので。

 

 

 

「・・・いや、私が慰めたら逆効果では?」

 

「それは癒しパワーでなんとかする、の」

 

マーチが無茶振りしてきた。

 

 

「どうしよう、今月の家賃」

 

「仕事行くか」

 

隣にいたナツが即答する。

 

「そうだね、久しぶりにみんなで行こうよ」

 

なんだかんだ一緒に行く機会がなかったがちょうどいいだろう。

 

 

 

突然、ルーシィが泣き出す。

 

「やっとナツとアミクが働く気になったぁ~、うわーんありがとぉ!」

 

「働かない人みたいに言わないでくれる!?」

 

「なの」

 

「つーかいつも仕事してるけど、ちょくちょく」

 

「あい」

 

アミクもいろいろ忙しかったのだ。街の修復とか怪我人の治療とか。

 

 

「!」

 

急にルーシィが何かに気付いたかのように後ろを向いた。

 

 

「どーしたの?ルーシィ」

 

「気のせいかな?最近誰かに見られてるような気がするんだよね」

 

「それは・・・」

 

ルーシィの言う感覚ならアミクにも腐るほど憶えがある。粘りつくように胸とか見てくるのだ。

 

 

「最近ルーシィも知名度あがってきたし、そーゆー人たちがいてもおかしくないと思うけど・・・」

 

この前、週ソラにも載ったばっかりだ。それにファンタジアでもルーシィの姿を見た者は多いだろう。そしてこの美少女ルックス。変な輩に狙われる可能性は十分にある。単純にファンかもしれないが。

 

 

「どーせアレだろ。なんて言うんだっけ」

 

「自意識過剰ってやつだよコレー!」

 

「そんなこと言って、明日ルーシィが無惨な死体になって発見されたらどうする、の?」

 

「怖いこと言わないでよ!?とにかく、気のせいならそれでいいんだから」

 

「ん、まぁ、なにかあっても私がルーシィを守るから」

 

「やだ、頼もしい・・・!」

 

 

自信満々に胸を張るアミクだが、ルーシィ以上に狙われそうなのが自分だとはわからないのだろうか。

 

 

「ま!いっか。帰って仕事の支度しよっ」

 

 

「明日の昼集合なー」

 

 

「はいはいー!」

 

 

三人と二匹は待ち合わせの約束をして帰路に就いた。

 

 

 

 

 

「明日は楽しいお仕事の日~♪」

 

「ルーシィってそんなに仕事好きだっけ、なの」

 

「久々に腕が鳴るね」

 

 

 

またもや、道の端っこを歩くアミクとルーシィ。マーチはルーシィの隣で飛んでいる。

 

「アミクちゃんにルーシィちゃん、危ねーぞ」

 

「へーキヘーキ」

 

「プーン」

 

「気をつけて帰れよー」

 

「ありがとうございまーす」

 

あの船を漕ぐおじさんたちとは顔なじみだ。アミクとマーチだけが住んでいた時はそんなでもなかったが、ルーシィと行動を共にするようになってからよく顔を合わせるようになった。

 

 

「・・・!」

 

 

何か物音が聞こえた気がしてアミクは思わず振り返った。

 

「どうしたの?・・・」

 

ルーシィもそんなアミクにつられてか後ろを見る。

 

 

 

そこには壁からに隠れ、フードを被った怪しい男がこちらをじと――――っと見ていた。

 

 

(なんかいる―――――!!)

 

 

(やっぱり誰かに見られてるじゃないっ!!)

 

ルーシィはアミクの手を掴むとつかつかと早歩きした。マーチも飛んで付いてくる。

 

途中で振り返ると思いっきり男が付いてきていた。

 

 

(ついてきてる!!)

 

「ル、ルーシィ・・・ここはいっそご対面しちゃった方が・・・」

 

アミクが直接ケリを付けようと提案するが・・・。

 

「いやよ、何か怖いもん!」

 

恐怖の方が勝ってしまい、顔合わせするのすら嫌らしい。

 

 

(ストーカーかしら

 変質者かしら

 人さらいかしらー!!)

 

ルーシィに手を引かれるアミクは男から嗅ぎ覚えのある匂いがすることに気付く。

 

 

「ねぇ、ルーシィ。これって・・・」

 

 

「あれ・・・いない」

 

いつの間にか男が消えていた。諦めたのだろうか。

 

ルーシィがホッとしていると。

 

 

 

「ルーシィ」

 

 

「「きゃあああああっ!!!?」」

 

後ろから急にこえが聞こえてきたので二人は飛びあがった。

 

 

「やめてえええええええええええ!!!」

 

「ル、ルーシィには指一本触れさせにゃい!」

 

「噛んでる、の」

 

アミクがルーシィを庇うように前にでた。すると・・・。

 

 

「私だ。パパだよ」

 

男がフードを外す。そこにはルーシィにとって忘れられない顔があった。

 

 

「パパ、なの・・・!?」

 

「や、やっぱり・・・!」

 

道理でルーシィと匂いが似ていると思った。

 

「うそ・・・!え?ええ!!?」

 

ルーシィは驚きすぎて開いた口が塞がらないようだ。それも当然だろう。あのとき、彼と決別してもう会うことはないと思っていたのに。

 

 

 

「君たちは・・・ルーシィの友達かな?」

 

ルーシィの父親・・・ジュードはアミクたちに目を向けた。マーチが喋っている事は特に気にしないようだ。

 

 

「あ、はい・・・アミク・ミュージオンです」

 

「マーチ、なの」

 

アミクたちはつい挨拶したが、内心は複雑だ。

 

彼は妖精の尻尾(フェアリーテイル)が攻撃される原因を作り、ルーシィを傷つけた人物。こうして対面してしまったが、どんな風に接すればいいかわからなかった。

 

 

「何でこんなトコに・・・てか・・・その格好・・・どうしたんですか?」

 

 

ジュードは以前とは見違えるほどみすぼらしくなっていた。ヒゲも髪も伸び放題。あの冷たくとも傲然と構えていた面影はどこにもない。

 

 

「ハートフィリア鉄道は買収されてね・・・私は会社も家も・・・金も全て失った」

 

 

「そんな・・・!」

 

 

アミクは前にルーシィの実家に行った時のことを思い出していた。物凄く広大な土地で、町かと思いきや向こうの山までが家だと言われて目が点になったものだ。

 

まさか、それ全部買収されたのだろうか。

 

 

 

「私財を全て担保にしていたからね。まったく・・・本気で経営をする者はバカを見る」

 

 

「ちょ・・・ちょっと家は!?あそこにはママのお墓が!」

 

 

そういえばルーシィの母のお墓も土地の中にあったのだ。家を買収されたのならば墓まで奪われてもおかしくはない。

 

ジュードは懐から一枚の紙切れを取り出した。

 

「ここに移したよ」

 

墓の所在が書かれた紙らしい。とりあえず墓が無事でよかった。

アミクは自分のことのように安心した。

 

 

「悲しいと言うより・・・笑えてしまうよ」

 

 

ジュードがポツリと語り出す。

 

「あれだけの富が一瞬にして消えた。私の長年の功績が一夜にして無になった。家庭を犠牲にしてまで働いた私の金がだ!!笑える!!笑えるぞっ!!あはははっ!!!」

 

自棄になったように笑い出すジュード。

 

これはルーシィを泣かした報いだと思うべきだろうか。しかし、乾いた笑いを聞いていると無性に悲しくなってそんな気にはなれなかった。

 

 

「な・・・何しにきたの?」

 

 

ルーシィの疑問にジュードは俯いていた顔を上げ、にこりと笑みを浮かべる。しかし、目が笑っていないように見えた。

 

 

「娘の顔を見に・・・だよ。ルーシィ」

 

どうも胡散臭い。

 

 

 

 

「何よ、今更・・・!!それに妖精の尻尾には手を出さないでって言ったでしょ」

 

「今の私にそんな力はないよ。ただ、娘の顔を見にきただけなんだ」

 

 

ジュードが同じことを繰り返して言ってもルーシィは疑念の表情を浮かべたままだ。

 

 

「そんな顔をしないでくれ。今までの事は私が悪かった」

 

 

流石のジュードも傷ついたのか、素直に謝った。

 

 

「ここに居座るつもりはない。私はこれからアカリファの商業ギルドで仕事をするんだ。一から出直すんだよ」

 

アカリファ。確か、ここから西に行けばそんな街があったはずだ。

 

 

「そう・・・」

 

これでもジュードは個人で巨大な会社を切り盛りしてきたやり手だ。彼なら十分やっていけるだろう。

 

「それでな・・・ルーシィ」

 

そこでジュードは歯切れ悪そうに言う。

 

 

「その為に金が必要なんだ」

 

 

その言葉を聞いたルーシィは固まった。何を言っているのだろうかこの人は。

 

 

「10万Jでいい。私に貸してくれないか?」

 

「そ、そんな大金・・・あるわけないじゃない」

 

「大金!?たかが10万だぞ!!私の娘だ!!それくらいはすぐに出せるだろっ!!」

 

「何・・・言ってるの?」

 

10万など家賃2ヶ月分だ。そんなお金があったらとっくに家賃に消えている。

 

 

「金だよ!!恥を忍んで頼んでいるんだ!!!この私がっ!!!いいから金を渡すんだっ!!!」

 

とうとうジュードは逆ギレして脅すように叫んだ。ルーシィの脳裏に幼かった頃の自分が思い浮かぶ。同じようにジュードに怒鳴られ、恐怖するしかなかった自分が。

 

アミクも見ていられなくなって口を出した。自然と視線も険しくなる。

 

「娘に対する態度じゃないと思うんですけど」

 

「ただの恐喝、なの」

 

マーチもそれに便乗する。それを聞いてジュードは怒りの矛先をアミクたちに変えた。

 

「なんだお前たちは!!これは家族の問題だ、部外者が余計な口を挟むんじゃない!!!」

 

「部外者じゃありません。友達であり、仲間でもあり・・・大切な、家族です」

 

負けじと言い返すアミクに冷たくなった心が溶かされるルーシィ。やはり、この友人は最高だ。

 

 

「だったらお前が貸してくれるとでも!?そうだそれがいい!!ルーシィの友達なら10万ぐらい持ってるだろ!!あとで返すからさっさとお金を貸すんだっ!!!」

 

「ひっ」

 

恥も外聞もなくジュードはアミクに詰め寄る。そのあまりの形相に思わず竦み上がった、その時。

 

 

 

 

パァン!!

 

 

 

強烈な破裂音が響いた。

 

 

その音源は赤くなったジュードの頬。ジュードは何されたかわからない、といった表情をしている。

 

 

「あたしの友達に手を出さないで・・・!!」

 

ルーシィがジュードの頬を引っ叩いたのだ。

 

 

「ルーシィ・・・」

 

「おまえ・・・自分が何したかわかって・・・!!」

 

再起動したジュードがルーシィに再び怒りをぶつけようとした、が。

 

 

「みっともないよ・・・」

 

ルーシィの失望したような眼差しに返す言葉がなくなった。

 

情けなくも娘の友人に金をせがむ親。あまりにも恥ずかしい醜態だった。

 

「帰って!!もうあたしたちの前に現れないで!!!」

 

 

娘が父親を拒絶する。

 

その光景は酷く悲しいものだった。血を分けた家族なのに歩み寄れず、溝は深まるばかり。

 

 

「チッ!」

 

 

震えていたジュードは舌打ちすると背を向けどこかに去っていった。

 

 

「アミク、マーチ。ごめんね・・・みっともないとこ見せて・・・」

 

「ううん、私よりもルーシィの方が・・・」

 

「気にすることない、の」

 

ルーシィが悪いわけではない。なのに申し訳なさそうにしているところがつらかった。

 

 

ふ、とルーシィが顔をアミクの胸に押し付ける。

 

 

すぐに、濡れる感触がした。

 

 

 

「サイテー、サイテーだよ」

 

ルーシィが涙を流す。アミクは彼女を優しく抱きしめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

次の日。

 

 

「ルーシィ、アミク!仕事行くぞーっ!!」

 

「マーチも行くぞーっ!!」

 

楽しそうにアミクたちに話しかけるナツ。その能天気さが羨ましい。

 

「あ・・・うん・・・」

 

ルーシィはいまだに元気がない。アミクはそんな彼女を心配そうに見つめた。

 

「で・・・なんの仕事行くの?」

 

「決めてねぇ」

 

「なんて無計画、なの」

 

 

その時、グレイがある依頼書を持ってやってくる。

 

 

「これだ。脱獄囚ベルベノの捕獲」

 

「ベルベノってあのギルド狩りのベルベノ!?居場所見つかったんだ」

 

「うおおおおっ!!スゲェ魔法使うって奴だ、燃えるぜーーーっ!!」

 

「報酬は一人約30万か。家賃が払えるなルーシィ」

 

「うん。約六ヶ月分!!がんばるよ」

 

ルーシィはやっと笑顔を見せた。

 

いよいよ仕事に行こうとしたその時、アミクの耳に男たちの会話が聞こえてきた。

 

「オイ!アカリファの話、聞いたか?」

 

「商業ギルドが武装集団に占拠されたって話だろ?おっかないね〜」

 

「いや・・・その武装集団って裸の包帯男(ネイキッドマミー)、闇ギルドだってよ」

 

「マジかよ!?じゃあ軍隊じゃ手におえねーじゃねーか」

 

(アカリファ・・・商業ギルド!?)

 

昨日ジュードがそこで仕事をするつもりだと言ってなかったか。ルーシィも聞いていたのか互いに顔を見合わせる。

 

「どーしたおまえら!!早くベルベノ退治行こーぜ!!」

 

「退治じゃなくて殲滅、なの」

 

「あれ?より酷くなってない?」

 

「どーせ暴れんだ。凍らせて、ぶっ飛ばす!」

 

『脳筋だね。単純でいいけど』

 

「グレイ、服はどうした」

 

仲間たちが催促してきた。

 

アミクはルーシィに視線で問いかける。助けに行くのか、と。

 

ーーーーーあんな人、どうなっても・・・あたしには関係なーーーー。

 

 

あんなひどい父親なんてどうなろうと知ったことではない。

 

 

 

そのはずなのに・・・。

 

 

「ーーーーーアミク!!アカリファってどこ!?」

 

「よしきた!行くよマーチ!!」

 

 

「・・・よくわかんないけどわかった、の」

 

ルーシィたちはギルドの出口に向かって駆け出した。

 

「お、おいおまえら!仕事は!?」

 

「ごめん!用事ができた!!」

 

ルーシィはそう答えながらアミクを見る。

 

 

「・・・ってアミクも一緒に来るの!?場所だけ教えてくれればいいのに・・・」

 

「昨日の聞いちゃったらほっとけないし、友達を助けるのは当たり前でしょ!」

 

「あーしもいるんだけど、なの」

 

ルーシィはそれを聞いて嬉しくなった。アミクはどんな時でも自分を助けてくれる。感謝しかない。

 

(あんな人だけど、それでもあたしが・・・助けに行かなきゃ!!)

 

 

 

 

 

 

 

アカリファの街

 

商業ギルド

 

ラブ&ラッキー

 

ギルドの前では人々が騒ぎ立てており、それを評議員が必死に抑えていた。

 

「入口から正面突破ってわけにはいかないよね・・・」

 

アミクたちは近くの建物の陰からそれを伺っていた。

 

中に人質がいることを考えると正攻法で行くのは危険だろう。

 

「あーしで飛んで窓から忍び込むのはどう?なの」

 

「窓からだと壊して入らなきゃダメだし・・・破片で怪我人が出るかもしれない。かと言ってゆっくり壊してたら気付かれる可能性もあるし・・・」

 

アミクとマーチがギルドの中に入る方法を模索し合っていると。

 

 

「姫」

 

「わお!?」

 

突然ルーシィの足元の地面からバルゴが出てきた。

 

「バルゴに頼んで地面から入れないか試してたの。で、どうだった?」

 

「なんとか建物の中まで開通できそうですよ」

 

「さすがバルゴ!」

 

「おしおきですか?」

 

「褒めてんのっ!」

 

なるほど、床下からなら奇襲にもなるし安全に攻め込める。

 

「しかし、中には大勢の魔導士がいます。我々だけで大丈夫でしょうか?」

 

ルーシィとアミクは顔を見合わせて笑った。

 

「私たちなら余裕だよ!」

 

「どっちにしろやるしかないの!」

 

「あーしも戦える、の」

 

 

 

 

今回商業ギルドを襲った主犯格、裸の包帯男(ネイキッドマミー)の男は非常にイライラしていた。

 

 

上の命令で金を集めるため手っ取り早く商業ギルドを襲ったが・・・。

 

 

思ったより金がない。商業ギルドだというからたんまりあるかと思いきや拍子抜けだ。

 

それにもたついたせいで自分たちが逃げ出す時間を確保できるか怪しい。ああ、イライラする。今回はうまくいかない。これも無能な部下と無茶振りしてきた上司のせいだ。

 

「最初から銀行狙えばよかったんだよ!!」

 

「黙れ!!時間がねえ、とっとと金を詰めろ」

 

文句を言いたいのはこっちだ。男が怒鳴るとそれが怖かったのか一人の少年が泣き始めた。声を出さないように口を塞いであるが、どうしても声が漏れる。

 

頭に響いて不快だ。

 

「うるせえっ!!殺すぞコノヤロウ!!」

 

威嚇のため天井に向けて銃を撃つが、子供は泣き止まない。

 

「ア?死にてぇのか?」

 

正気じゃない目つきでウーウー唸る子供を見る。

 

「死にてぇんだなこのコノヤロウ!!」

 

もう我慢の限界だ。ストレスの原因はさっさと排除するに限る。

 

 

「よせってアニキ!!」

 

部下が止めてくるが知ったこっちゃない。

 

 

「こっちにはヨユーがねーんだヨ!!」

 

男は少年を殺すために発砲した。

 

銃弾が少年を貫通し小さい命が失われる・・・・と思われたが。

 

 

「タウロス!!」

 

「MOー!!」

 

それは一匹の牛によって阻止された。タウロスは斧を回して銃弾を全て叩き落とす。

 

「な、なんだ!?どこから入ってきやがった!!?」

 

(おおっ!!)

 

突然の闖入者に闇ギルドは焦り、人質は喜んだ。

 

「そこまでよ!!」

 

「もう大丈夫!!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)参上、なの」

 

見ると床に開いた穴の近くに二人の美少女と一匹の猫がいたのだ。

 

「何!?」

 

「女!?」

 

「猫!?」

 

男は更に焦る。まさか正規ギルドの魔導士がもうきたのか。

 

「くそっ!!」

 

「お、おい!あの女って・・・!」

 

「間違いねえ!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『音竜(うたひめ)』だ!!」

 

「マ、マジかよ・・・」

 

闇ギルドの中にアミクを知っている者がいたらしい。闇ギルドの士気が下がる。逆に人質は希望に目を輝かせた。

 

(あの『聖女』が!!?)

 

(『女神』が来たなら怖いものなんてない!!)

 

(『闇照改光(ダークブレイカー)』ならなんとかしてくれる!!)

 

呼び方がめっちゃバラバラだった。

 

「大人しくしないと痛い目見るよ!!」

 

「怪我する前に降伏お願いしまーす!」

 

アミクとルーシィの呼びかけに意にも介さぬ男たち。

 

「怯むなぁ!!たかが小娘二人と変な猫だけじゃねえか!!やっちまえ!!」

 

「変な猫、なの!?」

 

 

 

冷静に考えてみれば妖精の尻尾(フェアリーテイル)だろうがなんだろうがか弱そうな少女二人だけで(マーチはそもそも戦力に数えてなかった)どうにかできるとは思えない。

 

 

しかも二人とも極上の美少女。さっさと無力化して戦利品としてお持ち帰りしちゃって・・・。いろいろ楽しめばいいし、奴隷として高値で売ることもできる。そうすればお金の問題も解決だ。まさに一石二鳥。

 

 

(こりゃあ、とんだ黒字だ!!)

 

男はそんな下劣なことを考えていた。

 

 

 

だが、物事はそう簡単にはいかない。

 

 

「キャンサー!!」

 

ルーシィの呼び出したキャンサーが闇ギルドをツルパゲにして、

 

「サジタリウス!!」

 

次に呼び出したサジタリウスで敵を射抜いていく。

 

 

「うーん、正直私いらなかったかも・・・ま、いっか。『音竜の響拳』!!」

 

『うぎゃああああ!!!』

 

アミクも襲ってくる敵を蹴散らしていた。大体はルーシィが片付けてくれるので楽なもんだが。

 

「ちょ、この猫強っ!!?」

 

「ぎゃあああ!!!痛ぇよおおお!!」

 

「誰が変な猫、なの!!」

 

マーチは爪を伸ばして振り回し、敵を切り裂いていた。というかさっきの発言が地味にショックだったらしい。

 

「ヤロウ・・・!!」

 

そこでリーダー格の男がルーシィに銃を向ける。ここまで強いとは想定外だ。もうこの際なりふり構ってはいられない。

 

 

「んー!んー!」

 

(危ない!!)

 

先程の少年がルーシィが狙われていることに気づいて声をあげるが、言葉にはならない。だが、その声を聞いてしっかり意を汲み取った人物がいた。

 

 

「ぷっ!」

 

アミクはすぐさま拳ほどの音の塊を男の方に向けて口から放った。

 

 

「ぐあっ!!」

 

それは男の持っていた銃に当たると衝撃波を起こして銃を弾き飛ばす。

 

「ありがと、アミク!!」

 

それを好機と見たルーシィが男に向かって走り出した。

 

 

「とどめっ!!」

 

(次はどんな魔法が出てくるんだーっ!!)

 

人々は期待いっぱいでルーシィを見守る。

 

 

 

 

「ルーシィキィーック!!」

 

「ぐぼァ!!」

 

普通に顔面に蹴りを入れて倒した。

 

「魔法使わんのかい!!」

 

 

アミクが全ての人々の心を代弁してくれた。

 

 

最後は拍子抜けだったがなんとか闇ギルドを打ち破ることができた。

 

 

 

 

 

 

「やったね!」

 

「イェーイ!」

 

「お疲れ、なの」

 

二人と一匹はハイタッチを交わす。

 

 

「そうだ、お父さん!!」

 

 

ルーシィははっとしてジュードを探し始めた。辺りを見まわしてみるが、それらしき人物は見当たらない。

 

 

「ありがとう、君たち――――っ!!」

 

「助かったよ―――っ!!」

 

「私たちからも礼を言わせてもらいます」

 

それどころがアミクたちの周りに人が集まって来て身動きがとりづらい。しかも評議員までやってきた。

 

 

「ルーシィ!私たちが相手するからお父さん探して!」

 

 

「・・ごめん!」

 

 

ルーシィはアミクとマーチが対応している隙に人ごみから抜け出した。

 

 

「アミクさんですよね!?サインください!!」

 

「本物だ――――!!」

 

 

「どんな魔法使ってたの!?」

 

 

「はぁはぁ、握手して・・・」

 

 

「何この猫」

 

 

「可愛い――――!!」

 

 

「ど、どうも・・・」

 

 

そうやっていると向こう側に怪我をしている人が見えた。

 

 

「・・・すみません!通してください!!」

 

アミクは群衆を掻きわけ、その人物に近寄った。どうやら足を捻ったようで痛そうに擦っている。

 

 

「痛みますよね。~♪『治癒歌(コラール)』」

 

アミクが治癒魔法を使い怪我を治すと周囲が驚いたように盛り上がった。

 

「なんと!!」

 

「治癒魔法の使い手だとは・・・」

 

とりあえず周りの反応は無視して次々と怪我をしている人を癒した。ついでに既に捕縛完了の闇ギルドも治す。

 

 

「これに懲りたらもう悪いことはよしてね」

 

「おお・・何と清らかな心の持ち主だ・・・!!」

 

 

「オ、オレ!改心します!!」

 

 

「闇ギルドなんかやめて正規ギルドに入れるように頑張ります!!」

 

 

こういう光景ももう見慣れたものなので特に気にせずにいた。

 

途中で逃げ出した連中もいたようだがそこまでは手が回らなかった。

 

 

 

全員たいした傷ではなくてよかった。そろそろ大丈夫そうなのでアミクはマーチと共に追いすがってくる群衆から抜け出す。

 

 

「ぷはぁっ!後処理の方が疲れた気がする・・・」

 

 

ルーシィは無事にジュードと会えたのだろうか。というか商業ギルドの中にはいなかったようだが・・・。

 

 

 

「・・・私はこれから変わる」

 

 

そこで、聞き覚えのある声が。ジュードだ。ルーシィも一緒にいる。

 

 

「よかった、無事会えたんだね」

 

「というかもしかして今来た・・・?なの」

 

 

確かに、どう見ても今のジュードの格好は仕事にありつけた、といった服装じゃない。ということは自分達は・・・。

 

 

「骨折り損のくたびれ儲け・・・ってわけでもないか」

 

商業ギルドの危機を救えたのだから無駄ではないだろうが。

 

 

「お金がなくてもここに辿り着けたんだ。きっと・・・何でもできる」

 

ジュードの表情は昨日見た時とは違って憑きものが落ちたように晴れやかだった。それに、希望と自信に満ち溢れている。

 

 

「このギルドはね・・・パパとママが出会った場所なんだ」

 

 

そうか。だから再発の場としてここを選んだのか。

 

 

「私が独立を考えてる時に丁度、ママのお腹に君がいてね・・・」

 

 

既にデキてたんですね!?お熱い事で・・・。

 

 

「二人でギルドをやめることにしたんだけど、その時ギルドの看板が壊れててLUCKYがLUCYになっていたんだ。それがおかしくてね・・・二人でもし娘が生まれたらルーシィって名前にしようと・・・」

 

 

そう聞いてアミクは後ろを振り返って看板を見てみた。流石に直っているが、前はこのLUCKYのKの部分が壊れていたのだろう。

 

 

「なにそれ、ノリで娘の名前決めないでよ」

 

ルーシィはちょっと笑みを見せてジュードに言った。まだぎこちないが少しはジュードに心を開いてくれたのだろうか。

 

 

「そうだな、本当にすまない・・・」

 

 

「・・・ってアミク!?いつからいたの!?」

 

「あーしもいる、の」

 

振り返ったせいでジュードの後ろにいたアミクたちに気付いてしまったようだ。

 

「おや、君たちもいたのか・・・」

 

ジュードはアミクたちを見て気まずげに視線を逸らした。

 

「その・・・君たちには恥ずかしい姿を見せてしまったね・・・。謝罪しよう。本当に申し訳ない」

 

ジュードは深々と頭を下げた。心が籠っている綺麗なフォームだった。

 

 

「・・・私はお父さんがルーシィのことをちゃんと見てくれればそれで十分です」

 

「・・・そうか。ありがとう」

 

 

今まで自分はルーシィのことをよく見ていなかった。ただ自分の利益のための駒としか見ていなかった。彼女の心を見ようとしていなかった。

だが、ルーシィが決別を告げに来たあの日以来、ルーシィのことを度々省みるようになった。

 

更に没落した後では、雑誌やファンタジアで明るい笑顔を浮かべるルーシィを見ることもあった。

 

そして、今回ここまで来る間に色々考えてやっと気付いた。やっと今まで見えていなかったものが見えた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)で輝いている少女こそ、自分の娘であること。レイラが遺した自分のただ一人の家族なのだと。

そして、自分の根本にある―――――ルーシィへの愛情。

 

 

気付けなかったことに気付けた。

 

 

 

 

「アミクさんにマーチさん・・・だったかな。君たちには感謝もしている・・・。君が、君たちが娘を支えてきてくれたのだろう?」

 

 

ファントムの時もルーシィ一人のために妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみんなが戦ってくれたことは聞いている。そこまでしてくれるとは、本当に家族のようだった。

 

特にこの少女はルーシィと一際仲がいいように見える。

 

「本当に、ありがとう・・・」

 

再びジュードは頭を下げた。今度は謝罪ではなくお礼のためだ。

 

 

「それは当たり前のことしただけですから!支え合うのがうちのギルドなので!」

 

「その通り、なの」

 

アミクは胸を張って応える。本当に自分のギルドを誇りに思っているのが分かった。

 

 

 

 

「あたし・・・」

 

 

ルーシィが何か言いかけた時。

 

 

ドドドドドド

 

 

「ルーシィ、アミク!!無事か―――――っ!!!」

 

 

「マーチィ!!」

 

 

「どうした一体!!」

 

 

置いてかれていたナツたちが走ってやってきたのだ。

 

「み、みんな――――!!?」

 

 

「まさかこれをお前たちだけで解決したのか?やるな・・・!」

 

「いや、その・・・」

 

 

ルーシィはチラ、とジュードをみる。彼はコクッと頷いた。娘を見送るかのように。

 

 

「元気でね。お父さん」

 

 

ルーシィは手を上げてジュードに別れを告げた。今度は前とも昨日とも違う、拒絶でもない、温かな別れだった。

 

 

それを見届けてアミクもルーシィたちの輪に混ざろうとすると。

 

 

「アミクさん・・・ちょっといいかな」

 

 

ジュードに呼び止められた。

 

「?はい」

 

「・・・これからも、娘を頼む」

 

 

真摯な表情で言うジュードは完全にルーシィの『父親』だった。

 

 

「当然です!次会うときは今以上に明るい娘さんを見ることになると思いますよ」

 

優しい笑みを浮かべてそう言うとジュードも柔らかく笑った。

 

 

「・・・楽しみにしているよ」

 

 

そうして、アミクもルーシィたちの方に向かった。

 

 

「どーしたんだよ急に――――!!」

 

「仕事キャンセルしちゃったんだよ」

 

「あ、それはゴメン・・・」

 

 

「つーかアミク、なんでお前まで行ったんだよ」

 

「ちょっとねー」

 

『ふむ、気になるな・・・こっそり教えてくれないか?』

 

「マーチ、何やってたの~?」

 

「秘密、なの」

 

「ふふ、まあ二人共無事でよかった」

 

 

 

楽しそうに談笑するルーシィたちを見るジュード。

 

 

本当にルーシィはたくさんの人々から大切にされているのだと分かる。今も、彼女の周りには人が集まっている。その中で彼女はいつも笑顔だ。

 

自分と一緒にいた時にはついぞほとんど見なくなってしまったのに、こうして笑っていてくれている事が何かの奇跡に思えた。

 

「レイラ・・・私は本当に愚かだったよ」

 

 

今は亡き妻の名を呟く。ルーシィと瓜二つの最愛の彼女の名を。

 

 

「いい友達を持ったな・・・ルーシィ」

 

 

口から出てきた愛する娘の名前は、いつまでも耳に残った。

 

 




ジュードって他人呼ぶ時はどんな風に呼んでるか分からなかったのでこう落ち着きました。

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