妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

56 / 202
今回はオリジナルです。

せっかくの設定作ったのに使わないのはもったいないなって。時期的にも丁度好さそうだし。


アミクの特別依頼

「おーい、アミク―――ッ!!仕事行くぞ――――!!」

 

 

ナツがギルドの中を走り回ってアミクを呼んだ。

 

 

「どこだ―――!!アミク――――!!」

 

 

「うるせえぞナツ!!朝から騒々しい奴だな!!」

 

「なんだとコラァ!!てめえこそ朝っぱらかパンツ一丁とかよく通報されなったな!!脱ぎ魔には檻の中がお似合いだぜ!!」

 

「言いてえことはそれだけか!!」

 

 

『こいつら懲りもせずにケンカするなぁ・・・』

 

もはや名物と化しているナツとグレイのケンカ。ウルはそれを眺めながら首を傾げる(首などないが)。

 

『しかし、アミクはいないのか?』

 

 

ルーシィやマーチはいる。だから彼女もいると思ったのだが見当たらない。

 

 

「アミクなら評議会に呼び出されたわよ?」

 

「「何ぃ!!?」」

 

ウルに対してではないだろうがミラの返答にナツとグレイがケンカを止めて驚いた。

 

 

「あいつ何かやらかしたのか!!?」

 

「オレだって評議会に呼ばれたことなんてねえぞ!!」

 

 

二人はアミクがとんでもない事をしでかしたと思っているらしい。

 

 

「そんなわけないでしょ。アレよ、前に言ってたじゃない。評議会から依頼が来るって」

 

「「あ」」

 

すっかり忘れていたらしい。

 

 

「だから、朝一で向かっちゃった、の」

 

「マーチは一緒に行かなかったの?」

 

「お呼びなのはアミクだけ、なの・・・」

 

 

置いてけぼりにされたことが寂しいのかマーチはしょんぼりとした。

 

 

「仕方あるまい。今回は私たちだけで仕事に行こう」

 

 

「ちぇーっ、しょうがねえな」

 

 

結局はアミクを除いた4人と2匹だけで仕事に行くことになった。

 

ただ、やはり一人欠けただけでもどこか物足りなかった。

 

 

 

 

 

 

 

一方。

 

 

アミクは評議会支部のあったフィオーレにいる。

 

 

「崩壊したって聞いてたけど・・・大分建て直されてる」

 

楽園の塔の件で評議員の一人だったウルティアという女性が評議会支部を崩壊させたらしい。

 

 

あれから少し経ったが建物はある程度修復されていた。いつまでも機能不能のままではいられないので早く持ち直す必要があったのだろう。

 

というより、先日アカリファの件で評議会がいたことからすでに再起動しているのかもしれない。

 

 

 

さて、今回のアミクの仕事は「この前ウルティアのせいで骨折れたんだけどこれ今も治んない。マジ痛くてヤバす。早く治して」という、要するに評議会における要人の治療だ。

 

すぐに治ると高をくくっていたら思ったより長引いてしまい、仕事に差し支えるので魔法で治療してしまおう、となったのだろう。

 

 

「早く終わらせて帰ろ」

 

正直ここにはあまり長居したくない。評議会が妖精の尻尾(フェアリーテイル)を目の敵にしているせいか彼らの悪口がよく聞こえるからだ。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のことをよく知りもしない人たちが好き勝手言っているのは聞くに堪えない。ま、仕事だから割り切るしかないが。

 

 

アミクは門兵に話を通し、半開きになっている扉から中に入った。

 

 

 

内装は前と大きく変わっていないようだが、どこかリニューアルされた感じがある。それに、無駄な構造は無くしたようで前より見渡しやすく、道もわかりやすい。

 

 

それにカエルたちが歩き回ってるのも相変わらずでどこか安心感さえ浮かんできた。

 

 

「お待ちしておりました」

 

そこで、扉の近くにいた男性が近付いてきた。まだ若く、それなりに整った顔をしており、ついでに眼鏡だ。

 

 

「私は評議院、第四強行検束部隊隊長『ラハール』と申します。妖精の尻尾(フェアリーテイル)のアミク・ミュージオンさんですね」

 

「あ、はい」

 

隊長が直々に来るとは。とりあえずアミクの脳には「できる眼鏡」とインプットされた。

 

「今回は評議会支部を建て直したこともあり多少構造が変わっています。なので、私が依頼者の元に直接案内します」

 

「お手数掛けます」

 

それなりに偉い立場の人だと思うが、そんな人物がわざわざアミクの案内役をするとは。さっきのカエルとかにでもやらせばよかったのに。

 

 

聞いてもいいことか迷ったが好奇心には勝てず口を開いた。

 

 

「あの、なんでラハールさんが私の案内役を・・・?」

 

ラハールはチラ、と振り返った。

 

 

「実は、この役は私が買って出たのですよ」

 

 

「は、はぁ」

 

押し付けられたとこではなく自主的に、ということか。

 

 

「あの悪名高い妖精の尻尾(フェアリーテイル)。その一員で評議会に一目置かれ、かつ懇意にしている存在。噂は重々窺っていますが、実際にその人物像を把握しておきたいと思いまして」

 

「なるほど・・・」

 

ラハールとしては新しくなる評議会にとってこの少女が害になるかどうかを見極めよう、という目的もある。これまであまり接点がなかったが、今回の件を丁度いい機会だと利用したのだ。

 

 

 

 

ラハールに案内されて着いた所はとある評議員の部屋の前。

 

名をベルノという。

 

 

「ベルノ様。お連れしました」

 

ラハールはドアの前に立つとノックした。

 

「入りな」

 

 

そう言われてラハールはドアを開けた。アミクはラハールの後ろから部屋に入る。

 

 

「やっと来たわな」

 

 

ベルノは評議員の中でも珍しい女性だ。歳は中年だが、その分貫禄もある。だが、今は全身が包帯で覆われていて痛々しい。

 

「うわ!!ひどい怪我!!全身複雑骨折では!?なんですぐに呼ばなかったんですか!!」

 

「いや、いちいちアンタの助けを借りるわけにもいかへんし。それに呼ぼうにも色々バタバタしてたもんでな」

 

「大怪我をしたら即座に相応の対処をする!!時間が経ち過ぎたら治癒魔法でも治せないこともあるんですよ!!後遺症も残るかもしれないし!!」

 

「す、すまへん・・・」

 

プンプン怒りながら説教するアミクに評議員であるベルノが怒られた犬のようにシュン、としている。

初めて見る光景にラハールは目を見開いた。

 

「・・・ほな、そろそろ初めてくれや」

 

「かしこまりましたー」

 

軽い感じで返事するとアミクはベルノの胸に手を当てた。そして、口を開いて歌い出す。

 

〜〜〜♫

 

 

そんなアミクの歌声をラハールは聞いて驚いた。

 

不思議な感じだ。普通の歌とは違って幻想感が漂っている気がする。これが音楽魔法なのか。

 

思わず聞き入っていると。

 

 

「『治癒歌(コラール)』」

 

アミクの声と共にベルノが光に包まれた。

 

 

 

 

 

「おお!治っとる!感謝するで!」

 

ベルノは手をグーパーしながら喜んだ。

 

 

「まだ安静にしてなきゃダメですよ。明日には大丈夫でしょうけど」

 

「わかっとるで。今日はゆっくり休むわ」

 

ベルノは晴れやかな笑顔で言った。今まで窮屈な生活を強いられただけに開放感もあるだろう。

 

(流石だ。あれほどの怪我をこの短時間で・・・)

 

ラハールはアミクの評価を上げた。噂に違わぬ驚異的な魔法を持っている。

 

「あと、糖分を取り過ぎないようにしてくださいね。最近糖尿病も怖いんですから」

 

アミクは机の上に散らかっている飴などを指差しながら忠告する。

 

「うぐっ、い、今だけや!動けなくて暇やからな・・・」

 

「食生活にも本当に気をつけてくださいね」

 

「ってかアンタに言われたかないわ!!」

 

ブロッコリーや卵ばっかり好んで食べる人が言うことか。ベルノは釈然としないながらも渋々頷いた。

 

「ハァ〜アミクは相変わらずいい子やな〜娘に欲しいわ〜」

 

「はいはい」

 

「なんでアンタみたいな子が妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいるのか知らんけど羨ましいわ〜」

 

「私が好きでいるからいいんですっ」

 

見ての通りアミクとベルノの仲は良い方だ。というかベルノに気に入られ、女同士ということもあってこうして会話に付き合わされることもしばしばである。

 

二人が他愛ない会話をしている中、ラハールは冷静にアミクを観察していた。まだ判断するには材料が足りない。何気無い動作からも彼女の人となりを知る必要がある。

 

 

「そうそう、娘で思い出したんだがお宅にガジルっちゅーおっかない兄ちゃんがおるやろ?」

 

アミクの脳裏に「ギヒッ」と笑う悪人面が浮かんだ。知り合いなのだろうか。

 

「それがどうかしたんですか?」

 

「いや、元気でやっとるかなーと思うてな」

 

「それなら全く心配いりませんよ。この間だって自作の曲披露してたりしましたから」

 

この前の騒動のことを話すとベルノは驚いたように目を見開いてブッ、と噴いた。よっぽど意外だったらしい。

 

「あの子そんなことしとるんか・・・元気そうで何よりや」

 

笑いながら言うベルノがまるでガジルの親のように見えてアミクはほっこりした。

 

 

「でも、ガジルと知り合いだったんですね」

 

「まぁね・・・前は問題ばかり起こしてたやろ?それでよく評議会の裁判にも掛けられていたのさ」

 

(問題起こすのは今もだけど)

 

心の中でそう思ったが、言わないでおく。

 

「だからよく見かけるんだが・・・そっくりなんや。アタシの死んだ息子と」

 

ベルノに息子がいたことは知らなかった。アミクはまずいことを聞いてしまったか、と思ったがベルノは特に気にしていないようだった。

 

「いろいろ突っぱねて孤独に走っちゃうとこ、本当に似てるよ。そんなんやからほっとけないんや」

 

「・・・」

 

「ま、だから何が言いたいかっちゅーと、アイツと仲良くしてやってくれ、ってな」

 

「・・・そんなの言われるまでもないことですよ」

 

ガジルはすでにかけがえのない仲間だ。まだ短い間だがいろんなガジルを知って、ガジルの思いも知ってきた。これからもどんどんガジルの知らない所を知っていくつもりだ。

 

「ガジルの方もギルドに溶け込もうとしてます。・・・ガジルも変わろうとしている」

 

それを聞いてベルノも嬉しそうな顔をした。

 

「そうみたいやな。なら安心やね」

 

本当にガジルのことを気にかけていたようだ。彼女は「意味のある生き方を見つけたんやな・・・」としみじみと言って遠い目をした。ガジルのことを考えているのだろうか。

 

 

「ガジルによろしくと伝えておきますよ」

 

「別に言わんでもいいが・・ま、頑張れとでも言っときな」

 

アミクは思わぬガジル情報に胸を踊らせた。ガジルがベルノをどう思っていたかは知らないが、彼女のことを伝えれば喜んでくれるかもしれない。

 

 

「しかし、これから評議院はどうなってしまうんか・・・ヤジマの奴は責任感じて辞めちまうし・・・」

 

「ってヤジマさん評議会辞めちゃったんですか!!?」

 

衝撃の新情報にアミクはベルノに聞き返した。

 

「なんや、知らなかったんか?マカロフあたりから聞いていると思ったんだけど。ま、そうは言っても辞めたのはついこの前だからね。情報が行き渡ってないかもしれん」

 

「そんな・・・」

 

まさかそんなことになっていようとは・・・・。評議会でいつも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の味方をしてくれていたヤジマが・・・。

 

「他にも辞めた奴が何人かいてな。アタシもいつまで評議員をやっていられるか・・・」

 

アミクは評議会で変わったのが建物だけでないことに気付いた。おそらく評議会の内側(・・)も新しくしようとしている。

 

すぐそこにいるラハールも変化のひとつかもしれない。

 

 

この変化が自分たちに吉と出るか凶と出るか。ただ、確かなことはこれからはこれまで通りにはいかないだろうということだった。

 

 

「あ、そうだ。これあげます」

 

アミクはポケットから大きいビー玉くらいの大きさの丸い魔水晶(ラクリマ)を取り出し、ベルノに差し出す。

 

「なんやこれ」

 

「お守りです。綺麗だからつい買っちゃったけど差し入れの代わりにどうかな、と」

 

アミクは評議員にときどきお菓子などの差し入れを持ってくる時がある。今回はうっかり忘れていたためこの魔水晶(ラクリマ)を代わりにしようと思い付いたのだ。

 

そして、これは前にアミクが興味本位で買ったお守りだ。確か、健康と家庭のお守りだった気がする。球状になっているが、キーホルダーみたいに付けられるように紐も付いている。

 

「ふーん、せっかくだから貰っとくわ」

 

「きっと効果ありますよ。この魔水晶(ラクリマ)に願掛けいっぱいしましたから」

 

具体的には無駄に治癒魔法などを掛けまくっただけだ。暇つぶしに。

 

「アンタたまに変な子になるわな」

 

ベルノは苦笑いでそう言ったのだった。

 

 

 

 

「また会おうな」と手を振るベルノと別れ、アミクとラハールは来た道を戻っていた。報酬は受け取り済みだ。

 

 

「評議会は随分貴方を信頼されているみたいですね」

 

「んー、そうだと嬉しいかな。妖精の尻尾(フェアリーテイル)を守るには信頼が大きい方がいいですし」

 

ラハールはすでにある程度の答えは出していた。

 

 

これまでの功績、言動などを見た限り彼女は世間一般で言われている以上の『善人』だろう。ーーーーー底抜けなほどに。

 

闇ギルドにさえ気遣うところを見ると最早阿呆ではないのかとすら感じてくる。

 

だが、高い実力を持つ魔導士でもある。それに治癒魔法や付与術(エンチャント)と言った幅広い魔法も使う。そして彼女は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を大切に思っている。

 

もし評議会と事を構えたら、間違いなく妖精の尻尾(フェアリーテイル)側に付くだろう。

 

だから評議会が妖精の尻尾(フェアリーテイル)と敵対しなければ彼女も敵対しない。

 

 

まとめると。

 

 

(人柄は問題なし。魔法も有用ーーーー彼女との関係は続行ですね)

 

 

彼の中でそう締めくくった。ラハールも認めたのだ。アミクが信頼に値する人物である、と。

 

ーーーーただ、完全に信用はしない。彼女の甘さは評議会の理念に沿わないこともあるからだ。だから、アミクが評議会にとって不利益な事をしでかす可能性も考えなくてはならないのだ。

 

 

 

 

こうして彼女を分析したが、やはりどこか不思議な人物だ。

 

 

ラハールは一個人として彼女のことが気になり始めた。

 

 

 

(さて、貴方がこれからどんな選択をしてどんな結果になるのか・・・)

 

 

ラハールが人として他人に興味を持つことは珍しいことである。彼はその心の赴くまま、これからもアミクを観察していくことにした。

 

 

 

アミクはなんとなく見定められていることに気付きながらも何も言わず、出口に着いた。

 

 

「それでは、これからもよろしくおねがいします」

 

 

「・・・はい」

 

 

色々気になることも、考えなくてはならないものもある。だが、とにかく今は早くギルドに帰りたかった。

 

 

「忙しいのにわざわざありがとうございます」

 

「必要な事をしたまでです」

 

淡々と返すラハールにアミクは苦笑した。

 

「こちらもよろしくです、ランペルさん。ではまた!」

 

 

アミクはそれだけ言い残すとさっさと帰ってしまった。自分の家に帰る子どものように。

 

 

 

「・・・ランぺルとは、誰でしょう?」

 

残されたラハールは呆然と呟いたのだった。

 

 

 

こうして初めての邂逅を果たした二人だが、再会は案外早かったのだ。

 




だめだ、オリジナルだといろいろ雑になる!ベルノってこんなだっけ?


ま、なにはともあれ


次回からニルヴァーナ編が始まりまーす。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。