妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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アミクの音の扱いについて悩むこの頃です。


六魔将軍現る!

最後に現れた藍色の髪を持つ華奢な少女、ウェンディ。彼女は珍しいものを見るかのように周りをキョロキョロと見回した。

 

他の人たちはまだ、衝撃から立ち直れないでいる。

 

 

そんな中でジュラが口を開いた。

 

「これで全てのギルドがそろった」

 

「話進めるのかよっ!!」

 

グレイのツッコミがその場に響く。

 

急に幼い少女が来て困惑しているのに、気にせず話を進めようとするジュラは別の意味で大物だ。

 

 

「この大掛かりな討伐作戦にお子様一人をよこすなんて・・・化猫の宿(ケット・シェルター)はどういうおつもりですの?」

 

シェリーが不満そうに言えば、その場にまた新たな声が響いた。

 

「あら、一人じゃないわよ。ケバいお姉さん」

 

それはウェンディよりもさらに小さい影だった。もっと言えばハッピーやマーチぐらいの大きさの。

 

「ブフッ!ケバ・・・!!」

 

ちなみにツボったのかアミクが口を押えて震えていた。そんなアミクをシェリーが睨みつける。

 

「シャルル、ついてきたの!?」

 

どうやらウェンディの知ってる人物のようだ。

 

その小さい影ーーーーーマーチやハッピーと同族だと思われる白いネコが偉そうに胸を張った。

 

「当然よ。あなた一人じゃ不安でしょうがないもの」

 

「もう一匹増えた!?」

 

トライメンズが驚いて言う。

 

ハッピーはそのネコーーーーシャルルを見た瞬間、全身に衝撃が走り抜けた。そう、それはマーチを始めて見たときの感覚と同じーーーーー。

 

 

妙に胸がドキドキしてシャルルがこっちを見ただけで顔がにやつきそうな・・・。まあ、シャルルはこっちをチラッと見てすぐにプイッとそっぽを向いたが。

 

 

「ねえ、マーチ。オイラあのコと仲良くなりたい。ちょっとマーチが話してきてみてよ」

 

「・・・むぅ、勝手にやれば、なの」

 

マーチは頬を膨らませてハッピーを突き放すとそっぽを向く。ハッピーは慌ててマーチの顔を窺った。

 

「え、えっとマーチなんかご機嫌斜めだね・・・?」

 

(・・・お?)

 

なんだかハッピーにやきもちを焼いているように見える。アプローチされてたときは相手にしていないように見えたが、案外満更でもなかったのだろうか。

 

「まさかオイラが生きてる中でこんな美人に二人も会えるなんて・・・!」

 

ハッピーの脳裏には自分の両隣にマーチとシャルルを侍らせている光景が浮かんでいた。俗物め。

 

 

「あ、あの・・・私・・・戦闘は全然できませんけど・・・みなさんの役に立つサポートの魔法いっぱい使えます。だから仲間はずれにしないでください〜!」

 

ウェンディは随分気弱な性格のようでここまで言うのにもう泣きそうになっていた。

 

「そんな弱気だからなめられるの!アンタは!」

 

なんとなくウェンディとシャルルの関係性が見えてきた。

 

「あ、ごめんね。ちょっとびっくりしたけどそんなつもりはないよ。よろしくね、ウェンディ、シャルル」

 

アミクが気さくに話しかけるとウェンディは目を輝かせた。

 

「うわわ・・・アミクさんだよね?本物だよシャルル」

 

「噂どおりいい女ね」

 

そこにハッピーとマーチが近づく。

 

「オ、オイラのこと知ってる?ネコマンダーのハッピー!」

 

「だからネコマンダーって何なの、なの・・・あーしはマーチ。とりあえずよろしく、なの」

 

マーチは表情の読めない顔のままシャルルを見た。

 

「・・・何よ」

 

「・・・別に、なの」

 

 

そう言うと互いにプイッとそっぽを向いた。

 

珍しい。敵以外でマーチが初対面から誰かと仲が悪いなんて。これが三角形の修羅場、だろうか。

 

「照れてる・・・かわいい〜」

 

「恋は盲目ってこう言うことかー」

 

アミクがさらっと酷いこと言っていると。

 

 

「あの娘、将来美人になるぞ」

 

「いまでも十分かわいいよ」

 

「さあ、お嬢さん。こちらへ・・・」

 

「えっ、あの・・・」

 

早速ウェンディがトライメンズの毒牙(?)に掛かっていた。

 

 

「あの娘・・・なんて香り(パルファム)だ。ただ者ではないな・・・」

 

「一夜殿も気づいたか・・・あれはワシらとは違う魔力だ。エルザ殿も気づいているようだが」

 

「さ、さすが」

 

『確かに・・・なんというか、アミクに似ているような・・・』

 

強者は(ついでにウルも)ウェンディのほかとは違う魔力に気付き、普通の魔導士ではない、と判断する。

 

「オレンジジュースでいいかな」

 

「おしぼりをどうぞ」

 

「あの、えーと・・・」

 

「何なのこのオスども!」

 

ソファに座らされもてなされるウェンディ。

 

彼女は相変わらずオドオドして、シャルルは威嚇するようにトライメンズを睥睨していた。

 

 

(それにしても・・・ウェンディって・・・どこかで・・・)

 

なぜかウェンディの名前がアミクの記憶に引っかかった。どこかで彼女の名を聞いていたのだろうか。

 

「ウェンディ・・・」

 

「どうした、ナツ」

 

「どこかで聞いたことあるようなないような・・・」

 

そしてそれはナツも同様ようだ。

 

 

「奇遇だね。私もそんな気がするよ」

 

「う~む、思いだしてくれねーか?」

 

「えぇ・・・ナツも頑張ってよぉ」

 

 

そう言い合っているとウェンディがこちらを見る。そして何を思ったかにっこりと笑いかけてきた。

 

(あ、かわいい)

 

ウェンディはかなりの美少女なので笑顔が魅力的である。思わずキュンときてしまった。

 

「・・・と、ほらいつまでやってるの?ウェンディが困っちゃうでしょ。はい、もう終わり!」

 

我に返ったアミクがウェンディに近寄り、トライメンズを追い払った。

 

「「「えー・・・」」」

 

残念そうな声を上げるトライメンズ。そしてアミクに対し、ウェンディはすまなそうな顔でぺこりとおじぎする。

 

「そうだな。もう全員そろったようなので、私の方から作戦の説明をしよう」

 

一夜の言葉にいよいよか、と皆身構えた。―――が。

 

 

「―――――と、その前にトイレの香り(パルファム)を」

 

「そこには香り(パルファム)ってつけるな・・・」

 

 

 

 

「ここから北に行くとワース樹海が広がっている。古代人たちはその樹海にある強大な魔法を封印した。その名は、『ニルヴァーナ』」

 

トイレから戻ってきた一夜の説明に皆、聞き入っていた。

 

「ニルヴァーナ?」

 

「聞かぬ魔法だ」

 

「ジュラ様は?」

 

「いや、知らんな」

 

ジュラほどの魔導士でも聞いたことがないとすれば存在すら珍しい魔法なのかもしれない。

 

「知ってる?てか、魚いる?」

 

「結構」

 

「・・・じゃ、マーチいる?」

 

「いらない、の」

 

ハッピーは両方のメスネコに相手にされていなかった。

 

 

『・・・ちなみに、ウルは知ってる?』

 

『悪いけど私も聞いたことないよ』

 

ウルならば、と思ったが彼女も知らないらしい。

 

 

「古代人たちが封印するほどの破壊魔法という事だけはわかっているが・・・」

 

 

「どんな魔法かはわかってないんだ」

 

 

六魔将軍(オラシオンセイス)が樹海に集結したのは、きっとニルヴァーナを手に入れる為なんだ」

 

青い天馬(ブルーペガサス)の面子が言う通り、六魔将軍(オラシオンセイス)がニルヴァーナなる魔法を手に入れ、何かを企んでいる事は確かだろう。

 

それならば勿論。

 

「我々はそれを阻止するため、六魔将軍(オラシオンセイス)を討つ!!」

 

彼らを止めるまでだ。

 

 

「こっちは13人、敵は6人。だけどあなどっちゃいけない。この6人がまたとんでもなく強いんだ」

 

ヒビキが魔法を使って空中にある6人の写真を映しだした。

 

 

 

「毒蛇を使う魔導士コブラ

 

一人目は目つきが鋭く、褐色肌で赤茶色の逆立った髪を持つ残忍そうな笑みを浮かべる男性。

 

「その名からしてスピード系の魔法を使うと思われるレーサー

 

次に、ゴーグルを掛け、ニワトリのようなトサカモヒカンの髪型をした鼻の長い男。

 

 

「天眼のホットアイ

 

顔つきが彫刻めいている男。

 

 

「心を覗けるという女エンジェル

 

六魔将軍(オラシオンセイス)の紅一点、銀髪の美女である。

 

 

「この男は情報は少ないのだがミッドナイトと呼ばれている」

 

綺麗な顔立ちと黒い唇を持っているどこかミステリアスな少年。

 

 

「そして奴等の司令塔、ブレイン

 

最後に、褐色肌に白髪のオールバックヘアが特徴の大柄な男。

 

 

「それぞれがたった一人でギルド一つくらいは潰せるほどの魔力を持つ。我々は数的有利を利用するんだ」

 

たった6人で闇ギルドの最大勢力の一角を担っているのだからその強さは当たり前だろう。だからこそ『質』を供えた『数』で叩く、というわけなのだ。

 

 

「あ、あの・・・あたしは頭数に入れないでほしいんだけど・・・」

 

「私も戦うのは苦手です」

 

「ウェンディ!弱音をはかないの!!」

 

確かにルーシィやウェンディでは彼らの相手をするには荷が重そうに見えるが・・・。

 

 

「安心したまえ、我々の作戦は戦闘だけにあらず。奴等の拠点を見つけてくれればいい」 

 

「拠点?」

 

一夜の言葉にリオンが聞き返す。

 

 

「今はまだ奴等を捕捉していないが、樹海には奴等の仮設拠点があると推測される」

 

 

「もし可能なら、奴等全員をその拠点に集めて欲しい」

 

 

「どうやって?」

 

 

「殴ってに決まってんだろ!」

 

 

「結局戦うじゃん」

 

アミクはガクッと脱力した。

 

 

「集めてどうするのだ?」

 

エルザのもっともな疑問に一夜が天井を指差した。

 

 

「我がギルドが大陸に誇る天馬、クリスティーナで拠点もろとも葬り去る!!」

 

 

自信満々に言われたその言葉に皆盛り上がった。

 

 

「おおっ!!」

 

「魔導爆撃艇!?」

 

『爆撃艇を持ち出すとはね・・・』

 

クリスティーナは空を飛んで攻撃する爆撃艇。いくら六魔将軍(オラシオンセイス)と言えどもそんな砲撃を喰らえば一溜まりもないだろう。ルーシィが引き気味に言った。

 

 

「てか・・・人間相手にそこまでやる?」

 

「・・・下手したらその人たち死んじゃうよ、ね?」

 

気の進まなさそうな表情で聞くアミク。

 

アミクとしてはできるならば敵であろうとも殺したくはないのだが・・・。そんなアミクの心境を察したのかジュラが語りかけてくる。

 

 

「アミク殿。気持ちはわからないでもないが、情け容赦なしでかからねばこちらがやられてしまう。そういう相手なのだ」

 

「それは・・・そうかもしれませんけど・・・」

 

割り切るしかないのだろうか。

 

 

「それに死ぬとは限らん。奴等ほどの魔導士ならば気絶で済むかもしれぬ。だからあまり気に病む事はない」

 

これはジュラなりの励ましなのだろうか。だとしたら少し気が楽になる。

 

「ともかく、戦闘になっても決して一人で戦ってはいかん。敵一人に対して、必ず二人以上でやるんだ」

 

こっちの人数は相手の倍以上いる。うまく連携すれば各個撃破することも可能なはずだ。主な目的は拠点に誘導する事だが。

 

 

 

それにしても青い天馬(ブルーペガサス)は見た目によらず頼りになる。六魔将軍(オラシオンセイス)の情報も彼らからもたらされ、作戦も主導は青い天馬(ブルーペガサス)だ。

 

こういう情報に強いところも青い天馬(ブルーペガサス)が有力な魔導士ギルドである所以だろう。

 

 

「おしっ!!燃えてきたぞ」

 

ナツがいつもの口癖を言う。なんだか嫌な予感がするが・・・。

 

 

「6人まとめてオレが相手してやるァ―――!!」

 

 

「ナツ!!」

 

「作戦聞いてねーだろ!!」

 

 

せっかちにも彼は一人で先に飛び出して行った。

 

 

「あーやっぱり。ナツってば戦う事しか頭にないんだから」

 

まぁ、ナツのバトルジャンキーは今に始まったことではない。

 

 

「仕方ない。行くぞ」

 

「うえ~」

 

「ったく、あのバカ!」

 

『やれやれ』

 

 

「あ、ちょっと!」

 

 

エルザたちもナツを追いかけて出ていってしまった。アミクが引きとめようとするも彼らはそのまま行ってしまう。

 

 

「あいつらには負けられんな。行くぞシェリー」

 

「はい!!」

 

「リオン!シェリー!」

 

リオンとシェリーも後に続く。途中でリオンはアミクに流し目を、シェリーは怖い目を向けてきたが。

 

 

 

 

「オレたちも行くぞ!!」

 

「うん!!」

 

「エンジェルかぁ♡」

 

「一人だけ目的違わない!!?」

 

 

トライメンズまでもが外に向かって駆けだして行った。

 

 

「あわわわ・・・」

 

残ったウェンディが怯えて震えていると。

 

 

「大丈夫・・・!!オイラがついてるよ」

 

 

ハッピーがぐっと拳を握って勇ましく告げた。

 

「ウェンディ、行くわよっ!!」

 

「わっ、わっ」

 

 

 

それを無視してシャルルはウェンディの手を引き連れ出そうとする。マーチもアミクを急かした。

 

「アミク、行く、の」

 

「・・・はぁ・・・えーと、ウェンディ?一緒に行く?」

 

「・・・!はい!お願いします!」

 

 

アミクの提案にウェンディが満面の笑みで頷いた。良い笑顔だ。

 

「確かに貴方たちだけじゃ心配、なの」

 

「大きなお世話よ!・・・来るんだったらさっさと来なさいよ!」

 

ツンデレなのだろうか。

 

「わ、わかったよ。そう急かさないで・・・あの、一夜さん」

 

 

行く前に、とアミクは一夜に声を掛ける。

 

 

「なんだね」

 

「さっきトイレで転んだりしたんですか?すごい音が鳴ってたみたいですけど。怪我してたら戦う前に治したいんですけど・・・」

 

 

さっき一夜がトイレに行っている間に、一夜が向かった方向から何かがぶつかるような音が聞こえたのだ。

 

心配になって見に行こうかとも思ったが、男性トイレに行くのも気が引けるのでしばらく待ってみた。すぐにピンピンした一夜が戻ってきたので杞憂だと思ったが・・・。

 

 

「ちょっとした怪我でも戦闘になったら響いてくるかもしれませんから。だから・・・」

 

 

「いや、それには及ばないよ。確かに君の言う通りちょっと足を滑らせ、尻もちをついただけだからね。怪我と言うほどでもないよ」

 

 

「・・・なら、いいですけど。無理はしないでくださいね。じゃ、ウェンディ。行こ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

アミクも確認のつもりで声を掛けたので、すんなり引き下がった。そしてシャルルが痺れを切らす前に、今度こそウェンディとマーチと共に外に向かった。

 

 

「あ!待ってよ〜!!」

 

「早く来て、なの」

 

置いて行かれそうになったハッピーも慌てて付いて行った。

 

 

 

 

 

(ふ、不覚・・・!!)

 

数十秒後。ジュラは腹から吹き出す血を必死に押えていた。

 

「こ、これは・・・」

 

先ほど一夜が、ジュラはマカロフほど強いのか聞いてきたので否定したところ、急に様子がおかしくなったのだ。

 

それに気付いた時にはもう遅かった。相手の戦意を消失させる香り(パルファム)を嗅がされ、怯んでる隙にナイフで刺されてしまった。

 

そして、一夜の姿が変わり・・・。

 

「ふう」

 

「戻ったー」

 

双子の小人のようなものが現れたのだ。どうやら彼らが一夜に変身していたらしい。

 

そして次に現れたのが銀髪の女性。先ほどの写真に写っていた人物、エンジェルだ。

 

「あー、あのキタナイ男ねぇ・・・コピーさせてもらったゾ。おかげでアナタたちの作戦は全部分かったゾ」

 

「僕たち、コピーした人の」

 

「考えまで分かるんだー」

 

それが心を覗ける、と言われるからくりか。しかし、今分かったところでどうしようもない。

 

「でもさっきはバレちゃったかと思ったゾ。まさかあの距離で聞こえるなんてあの女、コブラみたいな奴なんだゾ」

 

「ほんとびっくりしたよー」

 

「僕たちの正体に気付かなくてよかったねー」

 

がふっ、と吐血しジュラは膝をついた。

 

 

「は~い♡まずは2人しとめたゾ」

 

「無念・・・」

 

とうとう力尽きてジュラは前のめりに倒れてしまった。聖十大魔道と言われた岩鉄のジュラのあっけない敗北だった。一夜もさっきトイレで襲われ、やられてしまったのだろう。

 

「邪魔はさせないゾ、光の子たち。邪魔する子は天使(エンジェル)が裁くゾ」

 

エンジェルは冷たい笑顔で言い放つ。そして双子の方に振り返った。

 

「ところで、さっきの女は音竜(うたひめ)で間違いないのか?」

 

「そうだよー」

 

「強烈に記憶に残ってたもん」

 

それを聞いてエンジェルは笑みを深めた。

 

「そいつはいい事を聞いたゾ」

 

 

こうしてアミクたちは先手を打たれたことにも気付かず、六魔将軍(オラシオンセイス)との戦いが密かに始まってしまった。

 

 

 

 

 

一方。樹海に向かっていたナツたち。

 

「見えてきた!!樹海だ!!」

 

目の前に多くの木が並んでいる場所に辿り着く。この中にニルヴァーナと六魔将軍(オラシオンセイス)の拠点があるらしいのだ。

 

 

「待てよナツ」

 

「やーだねーっ」

 

「一人で先走るんじゃない」

 

「ちょっと・・・!!みんな、足速すぎ・・・」

 

 

ルーシィが息も絶え絶えに言うとトライメンズがわざわざやって来てキラン、と顔を光らせる。

 

「お姫様抱っこしてあげようか?」

 

「僕は手をつないであげる」

 

「オレから離れんじゃねーよ」

 

「うざい!!」

 

いちいち付き纏われるとそろそろうっとうしい。

 

 

その更に後方ではアミクたちがウェンディのペースに合わせて走っていた。

 

「急がなくていいから転ばないようにね」

 

「何言ってるのよ!!もたもたしてたら置いて行かれるわ!!」

 

「戦う前から消耗してたら話にならない、の。そこら辺よく考えて、なの」

 

「鼻に付く言い方ね!」

 

「二人ともケンカしないでよ~」

 

どうもマーチはシャルルの事が気に食わないようだ。やはりハッピー絡みだろうか。この分だと仲裁役になるハッピーの苦労が偲ばれる。

 

「・・・それにしても一夜さんたち遅いなぁ・・・」

 

さっきから付いてきている感じがしない。またトイレにでも行っているのだろうか。

 

そのとき、急に辺りが暗くなった。

 

「え?なに?」

 

 

慌てて空を見上げてみると。

 

 

 

「おお!!」

 

 

天馬の姿を象った巨大な船が浮かんでいた。間違いなくあれが―――――

 

 

「魔導爆撃艇クリスティーナ!!」

 

 

「すげえ!!」

 

「あれが噂の・・・天馬!!」

 

 

アミクも思わず感嘆の声を上げる。

 

「かっこいい!!でもお金すごいかかってそう・・・」

 

 

そう言った瞬間。

 

 

ボン!!ボボン!!!

 

 

クリスティーナが砲撃された。

 

 

「え?」

 

アミクが呆けた声を出す。

 

 

「え!?」

 

「そんな・・・!!」

 

「クリスティーナが・・・」

 

とうとうクリスティーナは大爆発を起こし、地面に墜落してしまった。

 

「落とされたァ!!!」

 

轟々と燃えあがるクリスティーナ。これでは使い物にならない。

 

 

「どうなっている!?」

 

作戦の要であるクリスティーナが使えなければ手の打ちようがない。

 

 

その時、舞い上がる土煙の中から数人の人影が浮かんできた。

 

 

 

 

「誰か出てくる・・・!!」

 

『まさか・・・!!』

 

「ひえーっ!」

 

「ウェンディ!」

 

ウェンディは怖気づいて岩の陰に隠れてしまう。

 

土煙から出てきたのは―――――6人。

 

 

コブラ。レーサー。ホットアイ。エンジェル。なぜか寝ているミッドナイト。

 

そしてブレイン。

 

 

六魔将軍(オラシオンセイス)勢揃いだった。

 

「う、うそ・・・六魔将軍(オラシオンセイス)!!?」

 

アミクが悲鳴を上げるように叫ぶとブレインが地を這う声で言い放つ。

 

 

「うじどもが、群がりおって」

 

「君たちの考えはお見通しだゾ」

 

「ジュラと一夜もやっつけたぞ」

 

「どーだ」

 

ブレインに続くようにしてエンジェルたちも話しだした。

 

「そんな・・・!!」

 

「何!!?」

 

「バカな!!」

 

既にやられていたとは。まさかの強力な二人の脱落に全員に動揺が走った。

 

「動揺しているな?聞こえるぞ」

 

「仕事は速ェ方がいい。それにはアンタら・・・邪魔なんだよ」

 

「お金は人を強くするデスネ。いい事を教えましょう、〝世の中は金が全「お前は黙ってろ、ホットアイ」

 

コブラ、レーサー、ホットアイも余裕そうな態度でこちらを見据えてきた。

 

「あ、あの人眠ってるんだけど・・・大丈夫なの?」

 

「敵の心配している場合じゃないでしょ!!」

 

ミッドナイトはこんな状況でも眠っている。それより、ミッドナイトが乗っている空飛ぶ絨毯の方が気になるのだが。

 

 

「まさかそっちから現れるとはな」

 

エルザが静かに彼らを睨んだ。堂々と現れたことから実力に裏付けされた自信が垣間見える。

 

 

「探す手間がはぶけたぜ――――っ!!!」

 

睨みあいの状況に痺れを切らしたのか、ナツとグレイが真っ先に飛び出して行った。

 

「ナツ!!グレイ!!あーもう!!」

 

仕方なく二人と自分に付与術(エンチャント)を掛けるためにこっそり歌い始める。

 

 

「やれ」

 

「レーサー、あの緑髪の女からやれ」

 

「わかった」

 

ブレインとコブラの指示にレーサーが目にも止まらぬ速さで飛びだした。

 

 

「~♪『速度(スケ)―――――』きゃあああっ!!」

 

 

アミクが魔法を使う前にレーサーの蹴りがアミクの肩に当たる。まるで自分がこれからすることを知って、阻止するかのように狙ってきた。

 

そのままレーサーは跳ねてナツとグレイも蹴り飛ばした。

 

「ぐあぁっ!!」

 

「うあっ!!」

 

「「アミク!ナツ!グレイ!」」

 

「ん?」

 

「え?」

 

ルーシィは自分の声がダブっている事に気付いて隣を見る。そこにはもう一人のルーシィが。

 

「ばーか!!」

 

「な、何コレェ!?あたしが・・・え?ええ!!?」

 

そして偽物の方のルーシィが鞭で本物を滅多打ちにしてきた。

 

 

 

「あ、あの人、速い・・・!!」

 

アミクは蹴られた部分を押さえながら俊敏に動きまわるレーサーを見た。あんなに素早くては動きを捉えられない。

 

(一瞬!一瞬だけでいいから止まって!!)

 

そんなアミクの願いが通じたのかレーサーが地面に降り立ち、動きが止まる。

 

 

(・・・今!!)

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

「なっ!!?」

 

レーサーが自分に高速で向かってくるブレスに焦り、慌てて体を反らした。全てはかわしきれずに肩に直撃する。

 

「ぐうっ!!」

 

「レーサーのスピードに追い付くだと!!?」

 

アミクのブレスは声。つまり、ほぼ音速でブレスを放つこともできるのだ。

 

(でも、アレを避けるなんて・・・流石の反応速度・・・!!)

 

改めて六魔将軍(オラシオンセイス)の強さを実感する。

 

 

ホットアイは地面を柔らかくしてそれを操り攻撃して、コブラも相手の動きを読めているかのように攻撃を避け、大きな蛇と連携しながら戦っている。

 

 

ただブレインとミッドナイトは戦いに参加しておらず、実質4人だけで圧倒されていた。

 

 

「っていうかずっと眠ってるんですけど!!起きて――――!!」

 

 

どう見ても隙だらけなミッドナイト。そんな相手に攻撃するのはちょっとアレだが、思いっきり『音竜の咆哮』をかました。

 

 

そして。

 

 

ミッドナイトに直撃した。彼は絨毯から落ちて地面を転がる。

 

「だーはっはっはっは!!調子乗ってっからだ!!」

 

自分が攻撃を当てたわけでもないのになぜか得意げのナツ。

 

「は・・・?」

 

ブレインは今見たものが信じられないような表情になる。何をそんなに驚いているのだろうか。いや、確かにあっさり攻撃が通ったので拍子抜けな点はあったが。

 

 

「痛、い・・・誰・・・ボクの眠りを邪魔したのは・・・!」

 

ここでやっとミッドナイトの声が聞けた。まるで、気持ちよく眠っていたところを叩き起こされたかのような不機嫌な声。――――そのまんまだった。

 

その声に多少の怒りと憎悪も混じっている。

 

「ミッドナイトを起こしちまった!」

 

「な、なぜだ!なぜ魔法が・・・!!」

 

六魔将軍(オラシオンセイス)側も困惑しているようだ。そこで、コブラが何か分かったのか声を上げる、

 

 

「―――しまった!この女の魔法、『音』だ!!」

 

「・・・そうか!ミッドナイトは普段、『音』や『声』を曲げて(・・・)おらんからな」

 

「まさか、そんな弱点を突いてくるなんて・・・盲点デスネ!」

 

「・・・アイツなの?僕の安眠を妨げるヤツは・・・」

 

ミッドナイトが剣呑な目つきでアミクを睨む。異様な魔力がその場に漂い始めた。

 

 

・・・強い。

 

アミクは肌で彼の強さをビリビリ感じていた。おそらくブレインを除き六魔将軍(オラシオンセイス)の中でも特に強い。

 

 

ミッドナイトの目がカッと開いた瞬間。

 

 

ブレインが彼を止めた。

 

 

「やめろミッドナイト。あの娘は我々に必要なのだ。殺してはならん」

 

「・・・はい、父上」

 

ミッドナイトは不承不承頷いたが、それよりも気になることがある。

 

(私が、必要?)

 

「そうだ、俺たちの狙いはおまえなんだよ」

 

コブラがアミクの思考に答えるかのように言う。そして、蛇と共にアミクの前に立った。

 

「コイツは俺が相手する」

 

「いいか。殺すなよ」

 

「分かってる」

 

一体なんなのだ。いや、それは今は置いておく。まずは目の前の敵を倒すことに集中せねば。

 

 

「さっきから私をどうのこうの言ってたけど・・・そう簡単に貴方たちの思い通りにはならないから!!」

 

「へぇ、ブロッコリーで釣られて落とし穴に落ちたくせに?劣化版(・・・)

 

「ちょ!!なんでそれ知って――――え?」

 

その瞬間。蛇が口を開けて突っ込んできたので慌てて避けた。と、また避けた先に蛇が突進してくる。そうして避けても動きを先読みして攻撃を仕掛けていた。

 

 

「てめえの動きは聞こえている」

 

 

(厄介な人!ここは一旦離れて――――)

 

「逃がすと思うか?」

 

アミクが後ろに跳んで逃げようとした途端、一気に距離を詰めてきた。

 

 

(やば!このまま攻撃っ)

 

 

「『音竜の旋律』!!」

 

アミクの回し蹴りをコブラは軽やかに避けた。しかし、アミクもこれで終わるつもりはない。

 

 

「『音竜の輪舞曲(ロンド)』!!」

 

すかさず両腕を振り下ろすが空振り。やっぱり、攻撃が当たらない。

 

 

「にしてもさっきからキンキンうるせえな。おまえの魔法、音大きすぎなんだよ。耳に悪いぜ」

 

コブラが耳をほじりながら揶揄するように言う。アミクはその言葉に違和感を覚えながらも次の攻撃を繰り出そうと身構えた――――その時。

 

 

「うわっ!!?」

 

急にアミクの足元の地面がぬかるみ、足を滑らせた。それはあまりにも致命的な隙だった。

 

 

「キュベリオス」

 

コブラが軽く蛇――――キュベリオスに声を掛けると素早くアミクに近づき、彼女の脹脛に噛みついた。牙が深々と突き刺さる。

 

 

「あぅっ」

 

噛みつかれた部分が焼き鏝を押しつけたかのように熱くなる。その熱が痛みと共に広がっていくのを感じた。力が抜け、地面に倒れ込む。

 

「余計なことしやがって」

 

「中々埒が明かなかったので」

 

今のはホットアイの魔法だったようだ。

 

「アミク―――――!!!」

 

「てめえ!!よくも!!」

 

「貴様!!」

 

どこからかマーチが呼ぶ声が聞こえる。ナツやエルザたちの怒声も頭に響いてきた。

 

(な、に・・・?これ・・・?)

 

「毒さ。すぐには死なねえ。後で治す時間はやるから今は寝てな・・・ちょっと毒を流し込みすぎたか?」

 

治さなきゃ・・・毒なら、治せる。・・・けど、痛みと痺れで歌えない。魔法が、使えない。

 

 

「・・・おい、ブレイン。コイツ、歌わなきゃ治療ができねえみたいだぞ」

 

「・・・だからどうした?」

 

「毒のせいで歌えないってよ・・・どうするんだよ」

 

「なに・・・?」

 

―――――何か、問題でもあった?私が治療魔法使えなきゃ不都合でもあるの?

 

「クソッ!解毒剤はないのか!!」

 

「あるにはあるが、使っても毒を少し和らげるだけだぞ!・・・チッ、まずはこいつらを片づけてからだ!」

 

胸は苦しいし、吐き気もする。だんだん、頭が働かなくなって目の前が暗くなり――――

 

 

そこでアミクの意識は途絶えた。

 

 

 

 

そこからはほぼ一方的だった。

 

 

起きたにも関わらずミッドナイトは静観。だからまた4人を相手することになったが・・・。

 

 

レーサーのスピードに蹂躙され、変身する謎の双子に翻弄される。ホットアイが柔らかくした土に呑まれ、コブラが相手の思考を読んで対処する間もなく攻撃される。

 

 

しばらく後には連合軍が死屍累々と横たわっていた。エルザは善戦してたが多勢に無勢でキュベリオスに腕を噛まれ、彼女も毒に侵されてしまった。

 

「つ、強すぎる・・・の!!」

 

それをウェンディやハッピーたちと共に岩の陰から見ていたマーチは戦慄する。

 

「あ、アミク・・・!!」

 

アミクはホットアイに抱えられていた。顔が青ざめ、苦しそうに呼吸している。

 

「アミクさんが・・・!!」

 

「そんな!!」

 

「アンタたち!!落ち着きなさい!特にメスネコ!闇雲に飛び出しちゃだめよ!!」

 

冷静なシャルルが今にも飛び出しそうなマーチを抑える。

 

 

 

「この娘以外に用はない。ゴミどもめ、まとめて消え去るがよい」

 

 

ブレインの持っていた杖に禍々しい魔力が集まり始めた。

 

 

「な、なんですの?この魔力・・・」

 

「大気が震えてる」

 

「まずい!」

 

『あんな魔法喰らったら消し飛んでしまう!!』

 

魔力が集まり、ブレインが杖を掲げた。

 

 

「『常闇回旋曲(ダークロンド)』」

 

 

魔法を放とうとした瞬間。ブレインは岩陰に隠れているウェンディに気付いた。

 

 

それから、覇気が無くなったように魔力が弱まり完全に消え去った。

 

 

「どうしたブレイン!なぜ魔法を止める!!?」

 

「・・・ウェンディ」

 

ブレインは、ウェンディを見て彼女の名を口にした。

 

 

「え?え?」

 

 

ウェンディは急に怖いおっさんが自分の名を呼んだもんだから恐怖と困惑で頭の中がいっぱいだ。

 

「何だ、知り合いか?」

 

「父上?」

 

「間違いない。ウェンディ・・・天空の巫女」

 

ブレインはたちまち顔を喜色満面にした。

 

 

「こんな所で音竜(うたひめ)に続いて天空の巫女にも会えるとはな。丁度いい!!来い!!」

 

ブレインの杖から緑色の魔力が出て手を形作り、ウェンディの方に伸びる。

 

 

「え?きゃああ!!」

 

「ウェンディ!!」

 

その手はウェンディを掴むとブレインの方に引き寄せた。そうはさせまいとナツたちが向かおうとするが・・・。

 

「金に上下の隔てなし、デスネ!」

 

「うわああああ!!?」

 

ホットアイに邪魔されてしまった。

 

必死にシャルルがウェンディに手を伸ばし、ウェンディも手を伸ばすが・・・。

 

 

「え?」

 

「あれ?」

 

「ちょ、ちょっとアンタ!」

 

ウェンディが掴んだのはハッピーの手だった。

 

「待て―!!なの!!」

 

「うぎゃ――――!!そこ掴む―――!?」

 

そこにマーチが飛び込んでハッピーの尻尾を掴む。

 

 

「アンタまで!!」

 

シャルルが叫んだ途端、魔力の手は1人と2匹を連れ謎の空間の中に消えていった。

 

 

「「きゃあああ!!」」

 

「ナツ――――!!」

 

「ウェンディ!!マーチ!!ハッピー!!」

 

ナツが3人の名を呼んだときは既に空間は消えていた。

 

ついでにブレインはまた魔力の手を出して、ホットアイに抱かれていたアミクを掴んでウェンディたちと同じように謎の空間に引きずり込んでしまった。

 

 

「アミクがっ!!」

 

「チクショウ!!テメエら!!」

 

 

「これで問題を一気に解決することができる。今度こそ消えよ!!『常闇回旋曲(ダークロンド)』!」

 

 

再び巨大な禍々しい魔力が集まり、今度は放たれた。

 

 

 

連合軍の命運やいかに?

 

 

 

 




アミクがすぐに気絶してしまったのは取りこんでしまった毒が多かったためです。

コブラもどーせ治せんだろ、と、つい加減を誤ってしまいました。

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