妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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本当は金曜日あたりに出したかったけど遅れちゃいました。


亡霊の復活

「ジェラールって・・・!」

 

「何でこんなこんな所に、なの」

 

「ウェンディ、知り合い?」

 

 

アミクが聞くとウェンディはこくりと頷いた。

 

「エーテルナノを浴びてこのような姿になってしまったのだ。元に戻せるのはうぬらだけだ」

 

特に、とウェンディの方を見る。

 

 

「この男は・・・うぬの恩人なのだろう?」

 

実際はアミクにとっても、だが。

 

とにかく、ブレインの言いたいことは分かった。自分たちにジェラールを治させて利用するつもりなのだろう。

 

 

「ジェラールって、あのジェラール?」

 

「マーチ、知ってるの?」

 

「知ってるも何もエルザとアミクを殺そうとしたし、評議院を使ってエーテリオンを落とした、の!」

 

 

確かにそうだが・・・。アミクもジェラールの全てを割り切ったわけではない。シモンを殺したことはまだ引きずっている。

 

 

それでも、あの時自分を助けてくれたことには変わりないのだ。

 

 

「そうみたいだね・・・」

 

ウェンディはちょっと寂しそうに答える。そういえばウェンディにとっても恩人らしいが何があったのだろうか。

 

「生きてたのかコイツ~」

 

ハッピーは忌々しそうにジェラールを見た。何も知らないハッピーやマーチにとっては憎い相手ではあるだろう。

 

「この男は亡霊に取りつかれた亡霊・・・哀れな理想論者。しかし、うぬにとっては恩人だ」

 

「ダメだよ!!絶対こんな奴復活させちゃダメだ!!」

 

「そう、なの!復活させたら最後、食い物にされる、の!」

 

 

ハッピーたちが説得するもウェンディは俯いたままだ。

 

 

「そうだよね、アミク!アミクならジェラールがどんなに恐ろしい奴か知ってるよね!?」

 

ハッピーが助けを求めるようにこちらを見る。

 

 

「・・・私は――――」

 

「早くこの男を復活させぬか」

 

アミクが何かを言う前にブレインがナイフを取り出す。そしてそれをジェラールの腕に突き立てた。鮮血が迸る。

 

「やめてぇ―――――!!!」

 

ウェンディが泣き叫ぶがブレインがそんなウェンディに杖を振り上げた。そのままそれを振り下ろす。

 

 

ガッ

 

 

 

しかし、殴られたのはウェンディではなく咄嗟に庇ったアミクだった。

 

 

「いっ!!」

 

 

「アミクさん!」

 

 

アミクは背中を擦りながらブレインを睨む。

 

「女の子に手を上げるなんてサイテーだよ」

 

「どうでもいい。そんなことより早く治せ。うぬなら簡単だろう」

 

「ジェラールは悪い奴なんだよ!!ニルヴァーナだって奪われちゃうよ!!」

 

ウェンディは昔、ジェラールと共に少した日々を思い出していた。

 

 

「それでも私、この人に助けられた。私も大好きだった・・・」

 

大粒の涙を流すウェンディの目にはジェラールが大好きだったお兄ちゃんのように映っているのかもしれない。

 

 

「なんか・・・悪い事したのは噂で聞いたけど、私は信じない」

 

「何言ってんだ、現にオイラたちは・・・」

 

「きっと誰かに操られていたのよ!!私の知ってるジェラールが、あんな事をするハズがない!!お願いです!!!少し考える時間をください!!」

 

過去の思い出に囚われ、認めようとしないウェンディ。その気持ちが痛いほど分かったアミクはそっとウェンディの頭を撫でた。

 

「ウェンディ!」

 

「よかろう、5分だ」

 

「・・・ちょっと。私の意見は聞いてないじゃん」

 

アミクがそこに待ったを掛けた。

 

 

「なんだ?うぬが治すとでも言うのか?」

 

「そうだと言ったら?」

 

「ちょっとアミク!」

 

「アミク・・・さん?」

 

ウェンディたちは驚いたように目を見開き、ブレインはニヤッとする。

 

 

「何考えてる、の!?ジェラールに何をされたか、それこそアミクは忘れてないでしょ!」

 

「・・・確かに、酷い事されたのは本当だよ」

 

アミクが言うとウェンディが俯いた。

 

 

「でも・・・私もウェンディと同じように助けられたから」

 

「「「え・・・?」」」

 

ハッピーたちがポカンとなった。

 

 

「お願い。私を信じて。私はジェラールが本当は悪い人じゃないって思ってる。それに、私の命の恩人でもあるから絶対に治してあげたいの」

 

アミクは真摯に頼み込んだ。本当にジェラールが悪人でない保証はない。だけど、自分が感じたジェラールの優しさを信じたい。

 

「アミクさんは、ジェラールを信じているんですか・・・?」

 

「――――信じたい、と思ってる、かな」

 

それを聞いたウェンディはポロポロと涙を流す。世間は悪党だ、大罪人だ、とジェラールを非難するものばかりだった。

 

 

でもこうして自分以外に信じてくれる者がいて救われるような気がした。

 

 

「で、でも・・・」

 

ハッピーがなおも言葉を募ろうとすると。

 

「―――ウェンディはどうしたい?」

 

 

アミクはウェンディに矛先を向けた。これは自分だけの問題じゃない。ウェンディの気持ちも掛っている。

 

 

エルザやナツたちに対しては誠に勝手だとは思うが、アミクはジェラールを助けたい。

 

だから、後はウェンディの意思だ。この様子から答えは決まっているようなものだが、それでもウェンディの正直な気持ちを、アミクは確かめたかった。

 

 

「私は・・・私は・・・!」

 

 

ウェンディは逡巡する。一体どうしたら正しいのか。

 

 

一般的に見たら大悪人であるジェラールを復活させるなど言語道断だろう。

 

 

だけど、やっぱりウェンディにとっては優しいお兄ちゃんで。ずっと会いたくて。やっと会えた・・・!

 

そうだ、これは何が正しいかではない。自分はどうしたいのか、だ。

 

 

「私は―――――!」

 

 

(ナツ~まずいよ・・・早く来てよ~・・・)

 

アミクを信じていないわけではないが、ジェラールの方は信用できない。

 

だから、ハッピーは一刻も早く助けが来る事を願った。

 

その時。

 

「・・・!これは!」

 

「誰か来たな・・・」

 

耳のいいアミクとコブラがすぐに聞きつけた、ナツたちの自分たちを呼ぶ声。

 

「ナツだ!」

 

「レーサー、奴を近づかせるな」

 

「OK」

 

ブレインはレーサーにそう指示を出すと忌々しそうに呟いた。

 

「チッ・・・ゴミどもが・・・」

 

 

 

 

「アミク――――!!ハッピー、マーチ!!ウェンディ!どこだ――――!!」

 

 

「ちょっと!!敵がいるのかもしれないのよ!?」

 

 

 

洞窟の前で大声を上げるナツをシャルルが諌めた。

 

 

先程、グレイたちと一緒にアミクたちがいるらしきところまで来たところで、レーサーが現れ邪魔してきた。それを止めるためにグレイが残り、自分達はグレイに任せて洞窟の方に来たわけだ。

 

 

 

『ナ―――――ツ―――――!』

 

「ハッピーの声だ!」

 

洞窟の奥の方から相棒の声が聞こえてきてナツは顔に喜色を浮かべた。シャルルも同様だ。

 

 

「奥からだわ!行くわよ!!」

 

 

そうしてナツとシャルルが急いで向かった先で見たものは―――――。

 

 

涙を流すウェンディと彼女に寄り添うアミク。その隣にいるハッピーとマーチ。そして――――――

 

 

「お前ら!!」

 

「ナツゥ!!」

 

「ウェンディ!!」

 

ハッピーがナツに抱きつき、シャルルもウェンディたちに近づく。そして、その近くには・・・

 

 

端正な顔つきをした青髪の青年。

 

 

「ジェラール・・・!」

 

 

ジェラールが目を開けてその場に立っていた。

 

 

「ジェラール・・・おかえり」

 

 

ナツが険しい目つきでジェラールを見る中、アミクがこっそり呟いた。

 

 

 

 

「なんでお前がこんな所に・・・!!!」

 

色々混乱しているが、なぜかジェラールが目の前にいることだけは分かる。

 

エルザを生贄にしようとして、シモンを殺した。それは許せることじゃない。

 

 

ナツはすぐにでも殴りかかる意気込みで身構えた。

 

 

「アミクさん・・・」

 

 

「大丈夫。ジェラールを信じて・・・」

 

 

一方、ウェンディはアミクを不安そうに見上げ、アミクはじっとジェラールを見据えた。

 

 

結局ウェンディが選択したのはジェラールを治すことだった。よく言ったとばかりに治癒魔法を使い、ジェラールを治したアミク。

 

 

ちょっと意味合いは違うが――――アミクに手を汚させたようでちょっと後ろめたい気持ちになるウェンディだが、当のアミクはそれほど気にしていなかった。

 

するとジェラールは目を覚ましたが、なぜか無反応。というところでナツたちが来たのだ。

 

 

さて、ジェラールは今の所こちらに危害を加えようという感じではないが・・・まだ復活したばかりだから現状を把握できていないだけかもしれない。

 

 

(とにかく、今は様子見――――なんてしてる場合じゃないかも)

 

 

そうだ、ここには自分たちだけではない。六魔将軍(オラシオンセイス)もいるのだ。

 

 

「ジェラアアアアアアアアル!!!」

 

「ま、待ってナツ!!」

 

 

ナツが雄叫びを上げながら飛びかかって行った時。

 

 

コブラがナツの前に現れる。

 

 

「感動の再会ってところで悪ぃがコイツはちょっと必要なんでね・・・手出しはしないでもらおうか」

 

「うるせえ!!おまえごと倒してやる!!」

 

 

そうしてナツが拳を振り上げ――――――ジェラールから放たれた魔力がコブラとナツを吹き飛ばした。

 

 

「しまっ!!」

 

 

「ぐあああっ!!」

 

「ナツ!!」

 

 

不意打ちだったためかコブラも避けられずナツともども壁に激突。コブラはすぐに脱出したが、ナツは天井から崩れた瓦礫に埋もれてしまった。

 

 

「そんな!ジェラール・・・!」

 

 

まさか、楽園の塔の時のジェラールのままなのか・・・。

 

 

「相変わらずすさまじい魔力だな、ジェラール」

 

ブレインがジェラールの背後から話しかけると――――

 

「! なにっ!!? ぐぉああああっ!!」

 

ブレインの足元に大穴が開き、ブレインはそこに落ちてしまった。ジェラールによるものだ。味方ではないのだろうか?ならば一体どういうことだろう。

 

 

「ジェラール・・・」

 

アミクが声をかけてもジェラールは黙ったままアミクを見つめ続けるだけだ。

 

 

「わ、私だよ!アミク!」

 

「ア、ミク・・・?」

 

 

なおも必死に言い募ると、急にジェラールが頭を抑えて苦しみ出した。

 

 

「アミク・・・!グゥうううっ!!」

 

「ちょ、ちょっと!大丈夫!?」

 

アミクが心配して駆け寄ろうとしたが、ジェラールはそれを拒むように手を前に出した。

 

「くる・・・な!」

 

そしてそのままアミクの側を通って出口へと駆け出してしまった。

 

 

「ジェラール・・・」

 

 

どうも様子がおかしい。彼には敵味方の判断がついていないように見えた。あるいはそう認識していないだけか・・・。

 

何はともあれーーーーー

 

 

「・・・生きてて、よかった」

 

思わず鼻が詰まり瞳に涙が浮かぶ。慌てて目元を拭ってウェンディの方を見た。彼女は嬉しいような悲しいような複雑そうな顔をしていた。

 

「あの人は大丈夫でしょうか・・・?」

 

「どうかな。今のところ敵か味方かはわからないけど・・・信じてあげよ?」

 

「・・・はい」

 

アミクがウェンディを慰めているとナツが吹っ飛ばされた方向から物音が聞こえてきた。

 

 

「いってぇ・・・」

 

ナツが瓦礫をどかしながら起き上がったのだ。

 

 

「ジェラール!!どこだ!!」

 

「もう行っちゃたよ・・・」

 

 

アミクが答えるとナツが悔しそうに歯噛みする。

 

 

「あんにゃろォーー!!」

 

「あいつが何者か知らないけどね。今はウェンディたちを連れて帰ることが優先でしょ!」

 

シャルルがそう言うがナツは出口を睨んだままだ。

 

「エルザを助けたいんでしょ!!」

 

「エルザを・・・?」

 

エルザに何かあったのだろうか。

 

「エルザが毒にやられちゃったのよ!」

 

「そんな!?」

 

エルザも自分と同じく毒に侵されていたのか。だとすれば早くしなければ死んでしまうかもしれない。

 

「ナツ!色々思うところはあるだろうけど今は急ぐよ!」

 

「わかってんよ!!行くぞハッピー!!!」

 

「あいさー!」

 

「ウェンディ、行くわよ!」

 

「う、うん!」

 

「マーチ、お願い!」

 

「なの!」

 

 

アミクたちはさっさと洞窟から脱出した。

 

 

 

一方、穴に落とされたブレインはブツブツと呟いていた。

 

「計算外だ・・・いや、拘束具を外した私のミスか・・・しかし、以前の奴は私にここまでの敵対心は持っていなかったハズ。眠っている状態で、ニルヴァーナの話を聞いていたとでも言うのか?」

 

そこまで考えてハッと思い至った。

 

 

「ジェラールめ!!まさかニルヴァーナを独占する気か!! させぬ!!あれは我々のもの!!誰にも渡すものか!!!」

 

ブレインは怒りの表情のままコブラに顔を向ける。彼はすでに復活しており大したダメージもなさそうだ。

 

 

「奴を追え!!!奴の行く先に・・・ニルヴァーナがある!!!」

 

「了解。足音を辿っていく」

 

コブラは急いでジェラールの後を追いかけた。

 

 

 

 

「ちくしょう、やっぱ速えな」

 

「オレのコードネームは『レーサー』。誰よりも速く、何よりも速く、ただ走る」

 

グレイがレーサーのスピードに翻弄されている頭上で、ナツたちが飛んできた。

 

それに気づいたグレイたちがそれぞれの反応をする。

 

 

「助け出したか!!」

 

「バカな!!中にはブレインとコブラがいたハズだろ!?どうやって!!?」

 

「ナツかアミクがそいつらを倒したからじゃねえか?」

 

「くそっ!!行かせるか!!」

 

レーサーはアミクたちに向かって飛び上がる。

 

「・・・!何か来る!回避して!」

 

その音を耳聡く聞きつけたアミクがハッピーたちに警告すると、みんな慌てて散らばった。

 

 

「クソ!」

 

おかげで間一髪でレーサーの放った蹴りは空振り。もう一瞬だけでも遅かったら命中していた。

 

 

「ニワトリモヒカンの人じゃん!」

 

「せめてトサカと言えよ!」

 

名前をど忘れしてしまったので見たままの印象を言ったら怒られた。解せぬ。

 

「よし!ハッピー!このままエルザのところまで一直線だ!」

 

「あいさー!」

 

「私たちも続くよ!」

 

「はい!」

 

「行かせねえって言ってんだろ!!」

 

レーサーが追いかけてくるが、そこにグレイが立ちはだかる。

 

「アイスメイク・・・『城壁(ランパード)』!!」

 

「ぐほっ!!」

 

グレイの造り出した氷の壁に激突するレーサー。

 

 

「グレイ!!」

 

『さて、ここはグレイに任せな』

 

ウルがアミクに聞こえるように話した。自分が戦うわけでもないのになぜか自信ありげだ。

 

 

「で、でも一人で大丈夫なの!?魔力だって・・・!」

 

「いいから行きやがれ・・・ここは死んでも通さねえ!!早く行け!!エルザの所に!!!」

 

グレイの催促にアミクたちは渋々その場から離れた。付与術(エンチャント)をかけていきたかったが、どうもその余裕はなさそうだった。

 

「うおおお~~~っ!! 必ずエルザを助けるからな!!!」

 

「当たり前だ」

 

レーサーは怒りに染まった顔をグレイに向ける。

 

「貴様、二度ならず三度までも・・・」

 

「何度だって止めてやんよ。氷は命の時だって止められる。二度と追いつけねえ。妖精の尻尾でも眺めてな」

 

『そうだな。その通りだ』

 

それはウルが昔何回か言ったことのある言葉。凍りつかせる、というのはそのものの時間を止めるものだと、二人の弟子に教えていた記憶が蘇る。

 

(氷は時さえも操る。それでアイツの速さを凍らせろ!)

 

ウルの心の中で力強く言った。

 

 

 




5分、時間をくれるって言われてたのにさっさと決断させるアミク。ブレインより鬼畜かもしれない。

(本人はそんなつもりはありませんでした)
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