妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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長い長い。予想以上に長くなった。


星霊合戦

「私、君が持ってる鍵が欲しいの。君を始末して星霊を頂くゾ」

 

「そうはさせない!〜♩」

 

アミクは急いで歌い出した。向こうだけ付与術(エンチャント)なのは不利なので、こっちも同じもので対抗しようと思ったのだ。

 

「開け、彫刻具座の扉、カエルム」

 

しかし、そうはさせじとばかりにエンジェルがもう一体の星霊を召喚する。ジェミニも含めて二体同時開門だ。やはり六魔将軍(オラシオンセイス)なだけに魔力量も尋常じゃない。

 

現れたもう一体の星霊、カエルムは機械然とした容姿をしており、目にあたる部分がチカチカと光っている。

 

「撃て」

 

「『攻撃力(アリ)ーーーー』うわっ!!?」

 

いきなりカエルムの目からビームが放たれた。咄嗟にしゃがんで避けたが、おかげで付与術(エンチャント)は中断されてしまった。

 

「無作法だよ!『音竜の譚詩曲(バラード)』!!」

 

まずはカエルムから無力化するべきだと考えたアミクはカエルムに向かって突進していった。だが、そこで。

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

「また!?」

 

アミクに変身したジェミニがブレスでアミクを牽制した。

 

「!今なら・・・!」

 

ルーシィに変身していない今なら、星霊を操られることもない。ルーシィは鍵を取り出して星霊を召喚する。

 

「タウロス!!」

 

「MOOOOOOOーーーー!!!」

 

雄叫びを上げながらタウロスが現れた。

 

「ルーシィさんに、アミクさん!相変わらずナイスバディ!!」

 

「いいからアイツを倒して!!」

 

「わかりましたーーーー!!」

 

 

タウロスは「MOOOOOーーーー!!!」と叫びながら斧を振り上げ、エンジェルに突っ込んでいった。

 

だが、エンジェルは不敵に笑っている。すると。

 

「ハァーイ 」

 

「MOOOOOーーーーーー !!!」

 

ジェミニがエンジェルを庇うように立ち、ルーシィに変身する。しかも謎の扇情的なポーズで。案の定、タウロスはメロメロになった。

 

「ちょっとこの牛ーーーー!!真面目にやりなさーい!!」

 

「で、でもぅ・・・このナイスバディを傷つけることなんて」

 

その時、躊躇しているタウロスの胸をカエルムのビームが貫いた。

 

「MOOO!!!?」

 

「タウロス!!」

 

タウロスは光に包まれ消えていく。

 

「君の相手は私でしょ!?」

 

アミクはそんなジェミニをエンジェルごと攻撃しようと息を吸い込んだ。

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

「『音竜の咆哮』」

 

アミクに変身したジェミニも同じ技で相殺してきた。思考まで同じになるというので次に攻撃も読みやすいのだろうか。

 

「けど!所詮はニセモノ!!絶対綻びが出るはず!」

 

「川・・・ってことは、水!!水があれば・・・」

 

それでも悲観せずにいると、今度はルーシィが別の星霊を呼び出そうとした。川に近付き、鍵を水に浸ける。

 

「アクエリアス!!」

 

(そっか!敵味方関係なく攻撃しちゃうアクエリアスなら操られても問題ない!)

 

味方まで巻き込んでしまう攻撃ならば、相手にもダメージを与えられるはずだ。

 

「ってこの位置だと私も巻き込まれるーーーー!?」

 

アミクは慌ててその場から脱出した。

 

長い青髪を持ち、綺麗な尾ひれを揺らす美女、アクエリアス。ルーシィはそんな彼女に頼み込んだ。

 

 

「やっちゃって!!アタシも一緒で構わないから!!!」

 

「最初からそのつもりだ」

 

「ちょっとぉっ!!」

 

「全員まとめて吹っ飛びなぁっ!!!」

 

「相変わらず容赦ないね!?」

 

アクエリアスの持つ水瓶に水が集まってきた。それを見てもエンジェルは余裕ありげな笑みを崩さないまま。それどころか。

 

「ジェミニ閉門」

 

ジェミニを星霊界に帰してしまった。どういうつもりだろうか。

 

「開け、天蠍宮の扉・・・」

 

「え・・・」

 

そこで、エンジェルがジェミニとは違う金の鍵を取り出した。

 

「もう一つの黄道十二門!?」

 

ルーシィも驚いて思わず声を上げる。

 

 

「スコーピオン!」

 

「ウィーアー!!イェーイ!!!」

 

なんかめっちゃテンション高い奴が出てきた。サソリのような尻尾を持ち、髪の色が紅白に別れている、結構イケメンな星霊だ。

 

しかし、ここで彼を出してどうするのだろうか。アクエリアスに有効な手段でも持っているのか。

 

スコーピオンを見たアクエリアスはゆっくりと水瓶を下ろした。

 

 

「アクエリアス?」

 

「スコーピォぉぉん♡」

 

「はいいっ!!?」

 

「アクエリアスがデレデレだぁーーー!?」

 

あの不良みたいでいつもツンツンしているアクエリアスが、乙女のようにメロメロになっている。こんなアクエリアスはルーシィでさえ見たことがない。

 

「ウィーアー、元気かい? アクエリアス」

 

「私・・・さみしかったわ。ぐすぐす」

 

いつもはドスの利いた声なのに急に猫撫で声になってスコーピオンに寄りかかる。それを聞いたアミクに鳥肌が立った。ワタシ、コノヒト、シラナイ。

 

 

「って、この人がアクエリアスの彼氏さん!?」

 

「そうだよ♡」

 

二人の様子からもしかして、とは思ったが。

 

「ウィーアー、初めましてアクエリアスのオーナー。そしてそのご友人」

 

「キターーーー!!!」

 

「マジですか!?」

 

よくアクエリアスが口にしていた彼氏とのご対面である。

 

「スコーピオンの前で余計な事言ってみろテメェら・・・お? 水死体にしてやるからな・・・」

 

「ひぃ!マ、マジの目だ・・・!」

 

「はい・・・」

 

アミクたちはビビって何も言えなくなってしまった。それほど、アクエリアスの表情が恐ろしかったのだ。

 

 

「ねぇん♪お食事に行かない?」

 

「オーロラの見えるレストランがあるんだ。ウィーアー、そう言うわけで帰ってもいいかい? エンジェル」

 

「どうぞ」

 

「ちょ、ちょっと!!!アクエリアス!! 待って!!! いやーーー!!!」

 

(帰っちゃった!お持ち帰りされちゃった!!)

 

スコーピオンとアクエリアスは仲良さげに星霊界に帰っていった。

 

 

「星霊同士の相関図も知らない小娘は、私には勝てないゾ」

 

つまり、エンジェルはスコーピオンとアクエリアスが付き合っていることを知っていて彼を呼び出したわけだ。

 

その時、エンジェルがルーシィに攻撃しようとしていたのでアミクはエンジェルに両腕を振るった。

 

「『音竜の輪舞曲(ロンド)』!!

 

「くっ!!」

 

突然のことだったのかエンジェルの反応が遅れ、彼女の腕に直撃した。その勢いを利用してエンジェルは後退する。『防御力強歌(アンサンブル)』のお陰か、大怪我には至ってないが、それなりのダメージは与えられたようだ。

 

「カエルム!!」

 

エンジェルの声にカエルムからビームが放たれるがそれを冷静に衝撃波で防ぎ、畳み掛ける。

 

「――――――!カエルムぅ!!防げ!!」

 

「『響刻(レガート)』!!」

 

アミクのなぎ払いは盾に変形したカエルムによって防がれた。だが、まだ終わりではない。

 

「からの『斬響(スタッカート)』!!」

 

続けて音の斬撃を叩き込んだ。今度はカエルムが剣に変形して受け止められる。持ち手をエンジェルが握っているのを見ると彼女が扱っているようだ。

 

 

(押し通す!)

 

今までの戦いから見てエンジェルは搦め手を使ってくることが多かった。つまり真正面からの攻撃には弱いということなのでは、と推測する。だから、このまま打ち破る!

 

「『音竜の響威(フォルツァンド)』!!」

 

「ぐ、あぅ!!!」

 

広範囲に発生させる衝撃波でカエルムとエンジェルを弾き飛ばした。周囲に放つ技なのでダメージは大きくないが、吹っ飛ばすことはできる。その拍子にカエルムを手放してくれたのでそのままエンジェルに接近する。

 

「もう一度『音竜の斬響(スタッカート)』!!」

 

「きゃああ!!!?」

 

エンジェルの肩を切り裂くことに成功した。軽く出血する。

 

「くそっ!!さっきからお前鬱陶しいんだゾ!!」

 

肩を押えたエンジェルが後ろに下がった途端、弾き飛ばされたカエルムからビームがとんできた。

 

「あぐっ!!?」

 

不意を突かれ、脇腹を軽く抉られてしまった。痛み分けのままアミクはルーシィの所まで下がった。

 

「アミク、大丈夫!?」

 

「これくらいならすぐに治るよ・・・でも、星霊が厄介だね。ルーシィも星霊は出せる?何か強い人!!」

 

「え、で、でもアクエリアスは封じられちゃったし・・・いや、もう一人いるじゃない!!最強の星霊!!」

 

ルーシィはすぐに金の鍵を取り出すと星霊を呼んだ。

 

「開け!! 獅子宮の扉!! ロキ!!!」

 

「王子様参上!!!」

 

「ロキ!久しぶり!!」

 

眼鏡を掛けたイケメン星霊、レオことロキが参上した。

 

 

「レ・・・レオ・・・」

 

今まで忘れ去られていたヒビキが掠れた声を出す。ロキのことを知っているのを見ると、面識があるようだ。

 

「お願い!! あいつを倒さないとギルドが!!!」

  

「お安い御用さ」

 

「頼もしい!!」

 

「惚れてもいいんだよ?」

 

「やかましい!」

 

すぐ調子にのる。だが、強力な味方なのは間違いない。

 

 

レオを見ても動じないエンジェル。しつこいくらいの笑みを湛えている。

 

 

「言わなかったかしら? 大切なのは相関図」

 

そう言って取り出したのはまたもや金の鍵。ジェミニともスコーピオンとも違うものだ。

 

「ルーシィみたいに複数の黄道十二門を持ってるなんて・・・」

 

この認識も何度目かはわからないが、やっぱり伊達に六魔将軍(オラシオンセイス)を名乗ってはいなかった。

 

「開け、白羊宮の扉。アリエス!!」

 

現れたのは、モコモコした綿のような服を着て、頭から角を生やしたピンク色の髪の美女だ。

 

しかし、アリエス、という名は聞き覚えがあるような・・・。

 

「ごめんなさい、レオ」

 

「アリエス・・・」

 

「カレンの星霊」

 

ヒビキがボソッと呟いた言葉にアミクも思い出す。

 

ロキは以前、カレンという星霊魔導士に仕えていたが、そのカレンがアリエスを不当に扱っているのを見兼ねて、反省を促すためにロキはカレンの魔法を封じていた。だが、それが原因でカレンは死んでしまったという。

ある意味アリエスがきっかけのようなものだ。もちろん非があるのはカレンだが。とにかく、そういうこともあってアリエスとロキは只ならぬ関係なのだ。

ヒビキがロキを知っているのもカレン絡みだろう。

 

「そ、そんな・・・これじゃロキまで戦えないじゃない」

 

ロキにとっては戦いづらい相手のはずだ。だが、それはアリエスにとっても同様のようで悲しそうに俯いている。

 

「何でアンタがカレンの星霊を!?」

 

「私が殺したんだもの。これはその時の戦利品だゾ」

 

「あう」

 

自慢するようにアリエスの頭を叩くエンジェル。物でも扱うかのような行いにアミクは思わず顔を歪めた。

 

カレンの死因がエンジェルだとは、思わぬ因縁があったものである。もはや運命的だ。

 

(カレンを殺した・・・? この女が、僕の、恋人を・・・殺した? 星霊魔導士が、カレンの命を・・・)

 

ヒビキの脳裏には過去の情景が映される。キツイ性格ながらもサバサバとしたカレンに惹かれていた。自信に満ち溢れ我が道を突き進む女性。あまり自分とは馴染みのないタイプだった。

 

(自分が好きになった人だったから、あんなことはやめさせたかった)

 

星霊を不当に扱っていたことも知っていた。自分がいくら苦言しようとも彼女は聞き入れず、次第に自分も諦めてしまっていた。「彼女はそういうものだ」と。

だから、ロキが強硬手段に出たときも、自分が口を出す権利はない、と静観していた。あわよくば、彼女が反省することも願いながら。

 

しかし、彼女は死んでしまった。人がいいとは言えなかったが、それでも自分はそんなカレンが好きだったしカレンと共に居られる未来を夢見てた。

 

それが一生叶わなくなってしまったのだ。諦観と共に眺めていたカレンの姿はもう、ギルドにはない。

 

自分が匙を投げたりしなければ。カレンを変えていれば。あるいはロキを止めていれば。彼女は死ぬことはなかったのだろうか。

 

自分を恨めばいいのか、ロキを恨めばいいのか、分からない。いや、ロキを責める資格はない。何もしなかった自分にはそんな、権利はない。

 

変わらない事実はただ一つ。様々な可能性のあった愛する女性が命を落としてしまった事だ。

 

 

 

 

そして、その原因が星霊魔導士にある。

 

 

そこで、ヒビキはハッとして頭を振った。

 

(いけない!!何を考えているんだ!!こんなことを考えたらニルヴァーナに心を奪われてしまう!ダメだ、考えちゃ・・・)

 

考えないようにしてもどんどん溢れてくる心の闇。大きくなる星霊魔導士への恨み。誰か、自分を止めて欲しかった。

 

 

 

「せっかく会えたのに・・・こんなことって・・・!」

 

アミクはオロオロとアリエスとロキを見た。久しぶりの再会が敵同士だなんて笑えない冗談だ。

 

ルーシィも心配そうな声をロキに掛けた。

 

「ロキ・・・」

 

「見くびらないでくれ、ルーシィ。アミク。たとえかつての友だとしても・・・所有者が違えば敵同士、主の為に戦うのが星霊」

 

「たとえ恩のある相手だとしても、主の為なら敵を討つ」

 

二人は覚悟の決めた目付きで互いを見た。

 

「それが僕たちの・・・」「私たちの・・・」

 

「誇りだ!!」「誇りなの!!」

 

互いの誇りのために。それがたとえ親しい者だろうと戦う。

 

 

「あっれ~? やるんだぁ? ま、これはこれで面白いからよしとするゾ」

 

(違う・・・こんなの違うよ・・・!!)

 

アミクが隣のルーシィを見ると彼女も辛そうな表情を浮かべていた。星霊を愛する彼女にとってはあまり見たくない光景だろう。

 

(とにかく、今の内に・・・!)

 

「〜♩『治癒歌(コラール)』」

 

治癒魔法で自分の脇腹を癒す。さっさと治したらエンジェルに突撃だ。

 

そうしている間に、争っている二人の星霊にも変化が表れた。ロキの方が優勢になってきたのだ。

 

「う~ん・・・さすがに戦闘用星霊のレオじゃ分が悪いか。よーし」

 

エンジェルは舌舐めずりすると、カエルムの名を軽く呼んだ。

 

「カエルム」

 

カエルムからビームが放たれ、アリエスごとロキを貫こうとするが・・・・。

 

 

「『音竜壁(おんりゅうへき)』!!」

 

それを音でできた壁が防いだ。グレイの造形魔法から発想を得たもので最近形になってきてたが、成功してよかった。

 

「あの女、また邪魔を・・・!!」

 

エンジェルは忌々しそうにアミクを睨む。

 

「味方の星霊ごとやろうとするなんて・・・!」

 

ルーシィは呆然としている。そんなことするなんて彼女には信じられないことだろう。

 

「チッ、役立たず!アリエス閉門」

 

「あ・・・」

 

「アリエス!」

 

消えていくアリエスに必死に手を伸ばすロキ。アリエスはそんなロキを見て儚げに微笑んだ。

 

「ロキ・・・いい所有者(オーナー)に出会えたんだね。よかった・・・」

 

その言葉を最後にアリエスは星霊界に帰って行った。

 

「なんてことを・・・!!星霊をなんだと思ってるの!!?」

 

アミクが憤って叫ぶが、エンジェルはどこ吹く風だ。

 

「なにが~? どうせ星霊なんて死なないんだし、いーじゃない」

 

それを聞いたルーシィがポツリと語り出した。

 

 

「でも痛みはあるんだ・・・感情だってあるんだ。あんた、それでも星霊魔導士なのっ!!?」

 

星霊は道具ではない。所有者(オーナー)とそれに仕えるもの、という関係ではあるがお互いに信頼しあい、尊重し、愛をもって接することこそが、星霊魔導士にとって大事なことだと思っている。

だから、それを踏みにじるようなエンジェルは許せないし、同時に悲しくもある。思わず、涙が溢れた。

 

「あっそ。カエルム。撃ちまくっちゃって」

 

エンジェルにルーシィの言葉が届いた様子はない。ただ、淡々とカエルムに指示を出すだけだった。

 

「くっ・・・!『音竜壁』!!ーーーーきゃああっ!!」

 

咄嗟に音の壁を張るが、まだ未熟な為、ビームが当たったところが崩れてしまった。そこからビームがアミクに向かってくる。

 

「あ・・・」

 

「危ない!!」

 

アミクに直撃しそうなところをロキが庇って守ってくれる。代わりにビームはロキの体を貫いた。

 

「ロキ!!」

 

「がふっ!・・・すまない、二人とも・・・」

 

ロキは謝罪とともに光の粒子となって消えていった。

 

その時、ルーシィがふらつき、地面に膝をついた。

 

「ルーシィ!?」

 

「あ、あれ・・・?体に力が・・・」

 

「たいした魔力もないくせに星霊を召喚しまくるからだゾ。ジェミニ」

 

魔力切れを起こしてしまったのか。確かに黄道十二門を何体も召喚していたからそれも道理。

 

「「ピーリ、ピーリ」」

 

呼ばれて出てきたジェミニはアミクに変身。そして、剣に変形したカエルムを持つ。

 

 

「これが鬼に金棒ってヤツ?丸腰のお前と武器を持ったお前の強化コピー。どっちがより強いか分かる?」

 

「・・・」

 

アミク同士をぶつけても、アミクには音は効かないし、そのコピーであるジェミニも同様、よって決め手がない。だが、カエルムという武器を持たせたことで戦闘力は増加する。

 

さらに言えば、まだジェミニが掛けた付与術(エンチャント)も効果を発揮している。おまけにエンジェル自身はまだピンピンしているのだ。

 

対してこっちは魔力切れを起こしているルーシィ、俯いていて表情がよく見えないヒビキ。ついでに氷漬けになっているハッピー。

 

まともに戦えるのがアミクしかいない現状、こちらの不利でしかない。

 

 

「でも・・・やるしかない・・・・!」

 

アミクはゆっくり身構えた。直後。

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

ジェミニがブレスで先制攻撃を仕掛けてきた。

 

「えいっ・・・・!!」

 

どうせ効かないのなら突っ込んでいくべき。アミクはブレスに飛び込み、そのまま突き進んだ。ここから抜け出て瞬間、ジェミニは無視してエンジェルを狙った方が良さそうだ。

 

そう思っていたが・・・・何か声が聞こえてくる。

 

(いや・・・これは、歌?)

 

ということは。ブレスから抜け出したアミクが見たのは、ジェミニが自分に付与術(エンチャント)を掛けている光景だった。

 

「『速度上昇歌(スケルツォ)』!!」

 

移動速度を上げる付与術(エンチャント)。気付いた時にはジェミニがあっという間に自分に接近していた。

 

「ーーーーがっ!!」

 

そして、カエルムを腹に叩きつけられる。腹を抑え、少し後ろに吹き飛ぶアミク。しかし、痛みに怯んでいる場合ではなかった。

 

「うっ!!!」

 

頭部をカエルムで薙ぎ払われ、川に打ち付けられた。水に顔が沈んで息ができない。

 

慌てて起き上がろうとすると背中にカエルムを突き立てられた。思ったより鋭利ではなかったので貫通することはなかったが、抉るような痛みが走る。

 

「いったぁ・・・」

 

「自分に殺される気分ってどう?」

 

今度は倒れているアミクの腹を蹴り付けた。そのまま転がって体全体を濡らしてしまう。

 

「がはっ・・・ゲホッ、ゲホッ」

 

アミクの口から血が漏れた。肺かどこかを傷つけられたらしい。

 

「あははは!!!いい気味!!」

 

エンジェルが可笑しくてたまらない、といった風に笑っている中、ルーシィが力の入らない体に鞭打ちながらヨロヨロと近付いてきた。そして、アミクを庇うように前に立つ。

 

「もう、やめて・・・アミクを傷つけないで・・・」

 

「ルーシィ・・・ダメ、離れて・・・」

 

アミクが咳き込みながら言うが、ルーシィも退かない。

 

「あと・・・アリエスを解放して」

 

「は?」

 

エンジェルの目付きが剣呑になった。

 

「あのコ・・・前の所有者(オーナー)にいじめられてて・・・」

 

ジェミニはルーシィの言葉をぶった切って彼女の腕を切り裂いた。

 

 

「きゃあああああああああっ!!!」

 

「ルーシィ!!この・・・『音竜の咆哮』!!」

 

アミクが咄嗟にブレスを放つ。それが目くらましになっている間に、ルーシィをジェミニから引き離そうとした。

 

「聞こえてるよ」

 

「きゃああ!!」

 

耳がいいのは相手も同じ。ルーシィに近づいてきた瞬間を狙ってカエルムを振る。見事、それはアミクの胸元を切り裂いた。

 

「うっ・・・『音竜の旋律』!!」

 

一方的にやられるアミクではない。音が効かなくとも物理攻撃ならある程度効くはず。首に入ったアミクの蹴りによって流石にジェミニの顔が痛みで歪んだ。だが、それまで。

 

「くっ・・・やあっ!!!」

 

「うぐっ!」

 

お返しに顔面を殴られ、ぶっ飛ばされた。川で跳ねて、地面を転がる。

 

「アミク!!」

 

ルーシィが悲痛な声を上げるも、動けない。ジェミニはルーシィにカエルムを添えた。

 

「人にものを頼む時は何て言うのかな?」

 

「お、お願い・・・します・・・レオ、ロキと一緒にいさせてあげたいの・・・それができるのは、あたしたち星霊魔導士だけなんだ・・・・」

 

こんな時にまで星霊のことを想ってエンジェルに頼み込むルーシィ。なんて優しい心を持っているのだろうか。ジェミニの持つカエルムが震えた。

 

「ただで?」

 

「何でもあげる・・・鍵以外なら、あたしの何でもあげる!!!」

 

「じゃあ命ね」

 

元々、ルーシィの頼みなど聞くつもりもなかったのだ。エンジェルは無慈悲に切り捨てる。

 

ゆっくりとカエルムを振り上げるジェミニ。

 

「やめてぇ!!お願い!!」

 

それを見て、必死に止めようとするアミク。フラつきながらも立ち上がろうとしているが、それでは間に合いそうもない。かといってここでブレスを放てば、ルーシィも巻き込まれる。

 

「ジェミニ、やりなさい!」

 

 

ルーシィの命を奪う命令を発した。しかし・・・

 

「ジェミニ!?」

 

ジェミニはカエルムを振り下ろしたりはせず、プルプルと震えていた。

 

「きれいな声が・・・頭の中に響くんだ」

 

ジェミニの表情はまるで迷子の子供のようだった。脳裏に映し出されるアミクの記憶の中のルーシィ。

 

『星霊魔導士は契約・・・つまり約束ごとに重要視するの。だから私は約束は絶対破らない・・・てね!』

 

『星霊は盾じゃない!!』

 

『目の前で消えていく仲間を放っておける訳ないでしょ!』

 

星霊を本当に大切に想っている言葉の数々・・・。アミクの記憶の中には、星霊のために傷つき、涙を流し、一喜一憂するルーシィの姿があった。

 

ジェミニは勝手にルーシィに変身する。これで直接ルーシィの記憶と思考が読める。

 

「ああ・・・あああ・・・!!」

 

ルーシィのあの姿は嘘ではなかった。星霊に対する愛情、感謝、尊敬が次々と流れ込んでくる。星霊を愛している少女の生き様を直接見せつけられ、ジェミニの顔が辛そうに歪んだ。

 

 

「できないよ・・・ルーシィは心から愛してるんだ・・・ぼくたちを」

 

 

涙を流し、言い放つ。星霊を愛してくれる人物を殺すことなどできるはずがなかった。

 

「ジェミニ・・・」

 

「消えろォ!!この役立たずがっ!!!」

 

憤怒の表情に変わったエンジェルがジェミニを強制送還。ジェミニの姿が消えていく。

 

その時、ヒビキがゆっくり立ち上がってルーシィに近づいた。

 

「ヒビキ・・・」

 

それを見たアミクがポツリ、と呟く。忘れていたわけではない。マジでマジで。

 

そのヒビキは・・・ルーシィの首を絞めるように両手でルーシィの首を掴んだ。

 

 

「え・・・?」

 

「ヒビキ!!?何してるの!!?」

 

アミクが警戒した声をあげた。しかし、ヒビキは不気味な笑みを浮かべているだけ。

 

「まさか・・・!! 闇に落ちたのかこの男!!!あは、あははは!!!」

 

エンジェルは動揺した心を奮い立たせるように笑う。これであの女を殺させ、自分はゆっくりとアミクをいたぶって殺す。そうしてから金の鍵を奪うのだ。

 

「ヒビ・・・キ・・・」

 

一体なぜ。

 

「じっとして」

 

 

しかし、エンジェルの思い通りにはならなさそうだ。ヒビキの声は闇に囚われたものではなく、しっかりした芯のある声だった。

 

ヒビキの手が首から離れ、頭に置かれる。

 

「『古文書(アーカイブ)』が君に、一度だけ超魔法の知識を与える」

 

そういった直後、ルーシィの頭の中に色々なものが流れ始めた。

 

 

「うぁっ!」

 

「な・・・」

 

困惑するルーシィと驚くエンジェル。

 

「こ、これ・・・なに・・・!? 頭の中に知らない図形が・・・」

 

「危ない所だった・・・僕はもう少しで、闇に堕ちていた。だけど君と星霊との絆が、僕を光で包んだ・・・君なら、この魔法が・・・!」

 

星霊への愛が人間にも影響するとは。ルーシィも聖女の素質があるのではなかろうか(笑)。

 

「させるかァ!!!カエルムゥゥゥゥ!!!」

 

狂ったようにエンジェルが叫ぶとカエルムからビームがいくつも放たれる。しかし。

 

「それはこっちのセリフ!!」

 

アミクが音竜壁を張って防いでくれた。

 

「おまえぇ・・・・!!!またしてもぉ・・・・!!!」

 

 

怨嗟の籠った声を放ちながらアミクを睨んできた。

 

「・・・ありがとう、アミクちゃん・・・」

 

ヒビキは優しく微笑むと力尽きて川の中に倒れた。直後、瞳が虚ろになったルーシィの口が開いた。

 

「天を測り、天を開き、あまねく全ての星々。その輝きをもって我に姿を示せ・・・テトラビブロスよ・・・我は星々の支配者・・・アスペクトは完全なり。荒ぶる門を開放せよ」

 

「闇に堕ちた!!?」

 

ルーシィの豹変にビビったアミクがそんなことを言ってしまうがそれに構うことなく、ルーシィの魔力が高ぶっていく。

 

エンジェルの周囲には光る球体が現れ、エンジェルを恐怖と焦燥に陥れた。まるで星のようだ。

 

 

「全天88星」

 

「な、何よこれぇ! ちょっ・・・」

 

 

これが超魔法。

 

「光る・・・ウラノ・メトリア!!!」

 

「きゃあああああああ!!!」

 

ルーシィから眩い光が放たれ、エンジェルを包み込んだ。次の瞬間、エンジェルはボロボロになって吹き飛んで行く。

 

「きゃふん!!」

 

「ひっ!」

 

そして、ルーシィは彼女が川に落下した音で正気に戻った。

 

「!?あれ? あたし・・・何が起こったの?」

 

先ほどのことは覚えていないのか。傷だらけのエンジェルを見てビビっている。

 

ルーシィからしてみれば、気が付いたらいつの間にか敵がボロボロになって落ちていたからびっくりするだろう。

 

 

(すごい・・・!!)

 

六魔将軍(オラシオンセイス)ほどの魔導士を一撃で倒す超魔法。それに魔法の内容からしてルーシィにはぴったりそうだ。自覚がないとはいえこの魔法を使えるルーシィは只者ではない。なんだか最強チームに染まってきている気がしてきた。

 

(さすが、ルーシィ!!)

 

魔導士として成長していくルーシィを嬉しく思う。

 

「やったね、ルーシィ!!」

 

「え?う、うん・・・アミクは大丈夫?」

 

ちょっと困惑しながらもアミクを心配する。傷だらけで服があちこち破けているし、せっかくのツインテールも片方が解けてしまっている。特に胸元には痛々しい切り傷が刻まれており多少出血していた。

 

「このぐらい平気だよ。それより、君もヒビキたちも手当しないと・・・」

 

「そうね・・・お願い」

 

そこまで深いダメージではないようで割と元気だ。アミクたちはヒビキやハッピーのところに向かって彼らを川から引き摺り出す。ヒビキが声を振り絞って二人に伝えた。

 

「二人とも・・・僕は大丈夫だからナツくんを・・・」

 

「そうだね。降ろしてあげないと可哀想だし・・・」

 

アミクたちが酔って目を回しているナツに近付いた瞬間。

 

「負け・・・な・・・い・・・ゾ・・・六魔将軍は・・・負け・・・ない・・・」

 

エンジェルがボロボロになって尚、立ち上がったのだ。

 

「ま、まだ動けるの!!?」

 

意外としぶといエンジェルに舌を巻く。

 

「か、体が・・・力が・・・!!」

 

ルーシィは先ほどの魔法の負担もあり、動けなさそうだ。

 

「ルーシィは私が守る!」

 

こうなれば彼女を守れるのは自分だけだ。

 

「一人一殺・・・朽ち果てろォ!!!」

 

(もう一度『音竜壁』で・・・!)

 

カエルムからビームが放たれ、アミクが壁を張ろうとした魔力を練った瞬間。

 

 

「うっ・・・そ、そんな・・・!!」

 

さっきから魔法を連発しすぎたのか魔力が足りず、不発に終わってしまう。音を食べている暇もない。

 

「アミク、逃げて!!」

 

その隙が命取りとなる。ビームはどんどん突き進んでアミクの胸を貫ーーーーー

 

 

「え?」

 

ーーーーかずに逸れてナツが乗っている筏を止めていた木に当たり、粉砕した。

 

「は、外した・・・!?カエルム!!お前もか・・・・!!」

 

つい「ブルータス、おまえもか・・・!!」というセリフを思い浮かべちゃったアミクは悪くないと思う。

 

カエルムも星霊。星霊を愛するルーシィに心打たれ、攻撃を外してくれたのだ。カエルムはチカチカ、と目を光らせると消えていった。

 

 

「そんな・・・」

 

「今度こそ、トドメを刺す!」

 

音を食べ、僅かに魔力を回復させたアミクがエンジェルに走っていく。

 

「あ・・・」

 

さすがに動けないエンジェルは呆然とそれを見ることしかできない。

 

アミクは両手を構えた。

 

「『音竜・・・」

 

「や、やめ・・・」

 

そして、エンジェルの目の前で打ち鳴らす!

 

「騙し』!!」

 

パァン!!!

 

アミクがやったのは一般的に言う猫騙し。しかし、その時の音を増幅させることによって小規模の衝撃波を発生させる。

 

「がっ!!!」

 

衝撃波が顔に命中し、ぶっ飛ぶエンジェル。星霊に見放された哀れな星霊魔導士は願う。

 

(ああ・・・天使になって、空に消えたい・・・)

 

しかし、今倒れ込んでいるのは川の中。

 

「って水の中なんだゾ!!」

 

納得のいかないエンジェルはそのまま気絶した。

 

 

 

「ふぅ、やっと倒した・・・」

 

『音竜騙し』は相手にダメージを与えると言うより、無力化するために気絶させることを目的としている。だから、威力は低い。脳を揺らすことで動きを麻痺させる役割もある。

 

アミクが感慨に耽っていると。

 

「ナツーーーーー!!?」

 

ルーシィの叫び声が聞こえたので慌ててそちらを向くと、ナツの乗った筏が流されているところだった。ルーシィはそれを必死に追いかけている。

 

「ナツ、ルーシィ!!」

 

アミクも急いで追いかける。ルーシィを追い越し、ナツがいる所に跳んだ。

 

「ナツ!!今助けるから!!」

 

そうして筏に飛び乗りーーーーーー酔った。

 

「うえぶっ!!?」

 

「何やってんのーーーーー!!!?」

 

「ア、アホぉ・・・」

 

失念していた。自分も乗り物に弱いんだった。ナツの言葉にも言い返せない。

 

「二人とも!!掴まって!!」

 

ルーシィが必死に手を伸ばす。二人は弱々しく手を伸ばし返してきた。

 

 

「ちょっと待って、よっ!!」

 

二人の手を掴み、筏に飛び乗るルーシィ。同時に川は急流に差し掛かってしまった。

 

「ひぃ〜〜〜〜っ!!!?」

 

ウォーターコースターの如くすごい勢いで流されていく筏。揺れる揺れる。ルーシィはナツとアミクに必死にしがみついて振り落とされないようにしていた。

 

(つ、辛い・・・・!!)

 

アミクとナツにとっては地獄以外の何物でもなかった。揺れがひどくて辛い。

 

 

そうしている内に、急流も終わりに差し掛かる。目の前に大きな滝が見えてきたのだ。

 

 

「嘘!?滝!!?」

 

どう足掻いてもアレからは逃れられそうにない。慌てている間に筏は滝に落ち、3人は振り落とされる。

 

「きゃああああああーーーー!!!」

 

ルーシィは二人を離すまい、とギュッと抱きしめ、一緒に滝に落ちていった。

 

 

こうして3人の姿は滝に呑まれ、見えなくなった。

 

 

 

 

 




滅竜魔導士が自分同士で戦ったらどうなるんだろうと思ったけど。食えんのかな?
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