妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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だれかフェアリーテイルの漫画全巻貸して~。今回の戦闘はアニメ見ながら書いたからあんまりオリジナリティないかも。


DEAR KABY

アミク達が大きな扉を開けると、そこはたくさんの本が並ぶ大きな書庫がいくつかある場所だった。

 

「おお!本だらけでござる!」

 

「あい!でござる!」

 

「なの、でござる」

 

「マーチ、つられない」

 

一体何冊の本があるのだろうか。こんなにたくさんの本を持っているなんてエバルーは意外と蔵書家である。

 

「よーし探すぞー!」

 

「あいさー!」

 

「あーし達は高い所探す、の」

 

「辺りの警戒は任せて!」

 

それぞれ、素早く自分のやるべきことを分担し、実行に移す一同。チームワーク抜群である。

 

 

 

「ふぅ、こんな中から一冊見つけるのかぁ・・・」

 

「これ・・・は『デイ・ライト』か。あのおじさんこんなのも持ってたんだ」

 

「アミクー、家にあるのと同じ本があった、のー」

 

アミクは耳をすませながらも本の捜索をする。向こうの本棚ではナツ達が騒いでいた。

 

「うほっ!エロいの見っけ!」

 

「魚図鑑だ!」

 

全然関係ないやつで盛り上がっていた。アミクもいろんな本に目移りしそうになるのを抑えながら本を探す。

実はアミクは結構読書家だ。小説が好きでギルドや図書館から本を大量に借りて、仕事をしない日はそれを読んでいた。なので、本がいっぱいある此処では色々気になって仕方がないのだ。

 

 

「金色の本はっけ―――ん!」

 

「ウパ――――!!」

 

「ウパーって・・・」

 

「っていうかあんたら真面目に探しなさいよ―――!!」

 

そこで、マーチがナツが持っている本に注目した。

 

「・・・、『日の出(デイ・ブレイク)』、なの?」

 

「ふーん、『日の出(デイ・ブレイク)』か・・・って、え?」

 

『見つかった―――――!!?』

 

なんと200万をあっさり見つけてしまった。

 

「よーし、じゃあ早速燃やすか!」

 

「簡単だったね!」

 

ナツが手に炎を灯し、燃やそうとした時。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

アミクが止めてナツから本を奪った。

 

「おい、どうした?」

 

「この本の作者、ケム・ザレオンじゃん!」

 

「嘘!?ほんとに!?」

 

アミクが叫んだ名前にルーシィも反応する。

 

「けむ・・・?」

 

「魔導士でありながら小説家だった人だよ!」

 

「実はあたし、大ファンなの!作品全部読んだと思ってたけど、これって未発表作ってこと!?」

 

アミクとルーシィが興奮して捲し立てる。マーチはそういえば家にそういう名前の人の本いっぱいあったな、と思い出した。

だが、ナツは1ミリも興味が湧かなかったようだ。

 

「いいから早く燃やそうぜ」

 

それをルーシィが必死に止める。

 

「だ、ダメよ!これは文化遺産よ!燃やすなんてとんでもない!」

 

「そうだよ!しかも誰も知らない本なんて国宝級だからね!!」

 

「言いすぎ、なの」

 

「職務放棄だ」

 

「うぐっ」

 

「大ファンだって言ってんでしょ!!」

 

「今度は逆ギレ」

 

ハッピーにグサグサと追いつめられるアミクとルーシィ。

 

「はぁ、仕事なら仕方ない、か・・・もったいない・・・」

 

アミクが意気消沈しながらナツに本を渡そうとすると―――

 

「だからダメだって――――!!」

 

ルーシィがすぐさま奪い取った。

 

「じゃ、じゃあ燃やしたってことにしといてよ・・・これはあたしが貰うからぁ」

 

「嘘はやだなぁ」

 

「あい」

 

「ルーシィ、もう諦めよう・・・私だって本当は凄く読みたいんだから・・・」

 

「アミクまで・・・!」

 

唯一の味方まで失くしたルーシィは涙目になった。その時

 

「なるほどなるほど~」

 

『お?』

 

床下から声が聞こえて来た。

 

「しまった・・・!」

 

本に夢中になりすぎて警戒を怠ってしまったアミクは唇を噛む。

案の定、床下からエバルーが飛び出してきた。

 

「貴様らの狙いは『日の出(デイ・ブレイク)』だったのかぁ!」

 

そしてボヨヨヨヨ~と笑いながら着地した。

 

「ほらー、もたもたしてっから来ちまったじゃねぇか」

 

「ご、ごめん・・・」

 

「この屋敷の床ってどうなってんの?」

 

「『聴いた』感じ床下はマンホールみたいに空洞になってるらしいからそこを通って、落とし穴みたいに所々ある薄い床から飛び出してるみたい」

 

「そこまで分かったのか!!?」

 

ハッピーのちょっとした疑問にアミクがマジレスしていたが、正確すぎてエバルー超びっくり!

 

「まあ、いい・・・。魔導士共が何を躍起になって探しているかと思えば・・・」

 

そこでルーシィが持っている本を見る。

 

「そんなくだらん本だったとはな!」

 

「え?」

 

アミクは訝しげに本を見た。依頼主が200万払ってでも破棄したい本、かつその持ち主であるエバルーでさえ「くだらない」と言う・・・。一体この本はなんなのだろうか?

 

「じゃあこの本貰っていいのかしら!?」

 

未だ諦めてなかったルーシィに流石のアミクも呆れる。

 

「ダメーッ!吾輩の物は吾輩の物っ!!」

 

「ケチ」

 

「おじさんが持っても意味ないと思うけど・・・」

 

「うるさいブス共」

 

「「ガハァッ!」」

 

2人に大ダメージ!!

 

ナツは掌に炎を灯した。

 

「燃やしちまえばこっちのもんだろうが」

 

「ダメッ!絶対ダメーッ!!」

 

さっきから駄々をこねるルーシィに流石に痺れを切らしたのかナツは真面目な顔をしてルーシィをキッと睨み、言い放つ。

 

「ルーシィ!仕事だぞ!」

 

「そうだよ!我慢しよ?ルーシィ」

 

アミクもそれに便乗した。

 

「じゃあ、せめて読ませて!」

 

『此処でかい!!?』

 

ルーシィが急に座り込んで本を読み始めたのでその場の全員でツッコんだ。

 

「ルーシィ!後で私にも読ませて!」

 

『お前もかい!!』

 

今度はアミクに全員(ルーシィ除く)のツッコミが決まる。珍しい光景だ。いつもはルーシィかアミクがツッコミ役なのに。

 

「気に食わん!エラーい我輩の本に手を出すとは・・・!バニッシュブラザーズ!!」

 

エバルーがそう叫ぶと書庫の隠し扉が開いてそこから2人の男が現れた。

1人はバンダナをした背の高い男。もう1人は顔に『上』『下』『左』『右』の文字が書かれていて、大きなフライパンのような物を持っている男だった。

 

「グッドアフタヌーン」

 

「こんなガキ共が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士とは、ママも驚くぜ」

 

「・・・!あれは・・・!」

 

マーチが背の高い方の男の腕に付いている紋章を見て言う。

 

「傭兵ギルド、『南の狼』、なの!」

 

「こんな奴ら雇ってたのか」

 

アミクとナツは男達――――バニッシュブラザーズを睨む。

 

「ボヨヨヨヨ・・・『南の狼』は常に空腹なのだ!覚悟しろよ?」

 

エバルーが得意げに笑った。

 

そこで、急に本を読んでいたルーシィが立ち上がり、ナツ達に叫んだ。

 

「ナツ、アミク!少し時間を頂戴。この本にはなにか秘密があるみたいなの・・・!」

 

「おう!」

 

「分かった!」

 

ルーシィはアミク達の返答を背で聞きながら部屋を出て行った。

 

(秘密だと?我輩は気付かなかったが、財宝の地図でも隠されているのか?)

 

エバルーはそう思案すると、床の抜け穴を使い、床下に沈み込んでゆく。その最中、バニッシュブラザーズに命令した。

 

「娘は我輩が捕らえる。小僧と小娘を消しておけ!」

 

「「イェッサー」」

 

エバルーが沈んで行くのを見て、ナツとアミクはそれぞれハッピーとマーチに頼んだ。

 

「ハッピー。ルーシィを頼む」

 

「マーチもお願い!」

 

「オイラ達も加勢するよ!」

 

ハッピーが勇ましく言うがナツはそれを蹴った。

 

「いや、俺とアミクだけで十分だ!」

 

「問題、なしっ!」

 

アミクも拳を握りしめて相手を見据えた。

 

「・・・ほら、ハッピー。あの2人なら余裕、なの」

 

「・・・うん、分かったよ」

 

そう言ってハッピーとマーチは並んでルーシィが向かった方に飛んで行った。

 

「ああっ!?テメェら、ママに言いつけんぞ!」

 

「落ち着け、クールダウンだ」

 

「・・・お母さん、居るんだ」

 

アミクが別なところに反応した。

 

「あ?そりゃあ、俺達には美味しいご飯を作ってくれる優しい優しいママが―――」

 

「おい、ママ語りは後にしろ・・・さて、カモン、火の魔導士と音の魔導士」

 

「ん?」

 

「何で知ってるの?」

 

相手も自分達が来ることなど予想していなかったはずなので事前情報があったとは思えない。それとも、それほどまでにアミク達は有名なのだろうか?

 

「バルゴを倒した時に足にそれぞれ火と、おそらく音を纏ったろ」

 

「バルゴ・・・?ああ、あのゴリラメイドね」

 

「それに、俺はともかくよくアミクの魔法が音だって分かったな」

 

パッと見、アミクの魔法は何の属性なのか分かりづらい。無色ではなく、薄い黄緑色に染まっているが、基本透明だ。また、空気が振動しているような感じで魔法は顕現する。

 

「その段階ではまだ不明だったが、先ほどまでの行動や発言で推測を得た。床下にいた者の動きが聴こえているかの様な反応。さらに『聴いた』ことによって分かったかのような発言もしている。これは『聴く』ことが大事である証拠。そして『聴く』のは『音』・・・と連想し、バルゴを倒した時の轟音を思い出し音に関する魔法なのではと考えるに至った、というわけだ」

 

「洞察力と想像力が優れてるね・・・正直、舐めてた」

 

「つまり、ユー達は能力(アビリティ)系の火の魔導士と音の魔導士と見て間違いない」

 

ちなみに能力(アビリティ)系とはナツやアミクのように魔法を身に付けた力の事。ルーシィのようにアイテムを使う魔法は所有(ホルダー)系と呼ばれる。ハッピーやマーチの翼の魔法も能力(アビリティ)系である。

 

「じゃあ、覚悟はできてるってことだよなぁ!」

 

ナツは獰猛に笑うと全身から炎を噴出させた。

 

「黒焦げになる、覚悟がなぁっ!!」

 

そして腕に炎を纏わせるとアミクの制止も待たずに突っ込んで行く。そのまま拳を叩きつけた。フライパンを持つ男―――便宜上、兄と呼ぶ―――がそのフライパンでナツの拳を受け止めた。すると不思議な事にナツの炎が吸い込まれていった。

 

「残念ながら火の魔導士はミーの最も得意とする」

 

そこで言葉を区切り、ナツを蹴り飛ばす。

 

「相手だ」

 

すると、弟の方は床を蹴って高く跳び、ナツ達を見ていたアミクに向かって蹴りを放つ。

 

「ほあっ!」

 

「うわっと!」

 

アミクはそれを後ろに跳んで避けた。そしてナツと合流したところで―――

 

「はぁっ!」

 

兄にフライパンで二人まとめてぶっ飛ばされた。扉をぶち破り、広間に出た。そこの真ん中に鎮座していた悪趣味な大きい金のエバルー像の舌に二人で降り立つ。

 

「つっても、所詮は魔導士。プロの傭兵にはかなわねぇ」

 

「ハッ」

 

ナツは鼻で笑った。

 

「2人一緒でこの程度か」

 

「思ったより大したことないね」

 

アミクも平然としている。

 

「兄ちゃん!こいつら舐めてるよ!」

 

「ユー達は魔導士の弱点を知っているかね?」

 

兄が2人に問う。

 

「の、乗り物に弱いことかっ!?」

 

「それは個人的なことでしょ!弱点なんて金的狙えば済むと思うけど」

 

『それは男全員、そうだわ!!』

 

兄が疲れたようにため息を吐くとフライパンを構えた。

 

「弱点とは・・・肉体だ!」

 

「なんだ、合ってんじゃん」

 

「そういう意味では、ない!!」

 

兄はアミク達が足場にしていた、エバルーの舌にフライパンを叩きつけた。2人は直前で避けたため無事だったが、エバルー像の舌はポッキリ折れる。

 

「周りの物壊すのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)だけじゃないんだね・・・」

 

「魔法とは、精神力を鍛錬せねば身に付かぬもの」

 

床に着地したアミクに今度は弟が襲いかかった。突き出された拳を横に跳んでかわすと、拳は壁を抉る。

 

「結果、魔法を得るには肉体の鍛錬は不足する」

 

(そうかな・・・?)

 

アミクの脳裏には『漢ー!!』と雄叫びを上げる、筋骨隆々の男が思い浮かんでいた。

 

「特に、お前のような女はな」

 

その言葉にも首を傾けざるを得ない。少なくとも1人、男を赤子を捻るように扱う女性を知っているが・・・。

 

「すなわち、日々肉体を鍛えている我らには・・・」

 

「力もスピードも及ばない」

 

バニッシュブラザーズが並んで床に立った。アミクとナツも合流する。

 

「アミク、大丈夫か?」

 

「うん、平気」

 

ナツが小声で聞いてきた。いつもはデリカシーがないくせに今みたいにふとした時に気遣ってくれる。それがアミクは何気に嬉しかった。普段はほんとにデリカシー皆無だが。

 

「ほ~う、怖ぇなぁ、で?いつになったら本気になんだよ?」

 

ナツがバニッシュブラザーズに向き直って挑発する。

 

「それとも私がか弱い『女』だからって本気出せないの?傭兵がそんなことでいいのかな~」

 

アミクもそれに倣って煽った。

 

「むっ・・・」

 

「女のくせに、舐めやがって!兄ちゃん!合体技だ!」

 

「オーケイ!」

 

兄がフライパンに弟を乗せる。

 

「「『天地消滅殺法』!!」」

 

「来いやぁ!!」

 

「あぁ、フライパンに靴を乗せないで・・・」

 

そのままフライパンを打ち上げ、弟は天井高く飛んで行った。

 

「なっ」

 

「天を向いたら―――」

 

「ナツ!」

 

「地に居る!」

 

跳び上がった弟に気をとられたナツに兄が迫る。しかし、それに気付いたアミクが魔法を纏った蹴りでフライパンを受け止める。同時にガァアアアアアン!!と音も響いた。フライパンは金属なので音が良く響く。

 

(速い・・・だと!?)

 

「くっ・・・」

 

「地を向いたら―――」

 

次は弟の番だった。落下の勢いを利用して蹴りを放とうとする。

 

「天に居る!」

 

「アミク、頭を下げろ!」

 

ナツに言われてすぐに下げるアミク。

 

「おおおお!」

 

上から降ってくる弟に向かって炎を吐きだして迎撃する。轟音を轟かせて、周りが炎と煙に包まれた。様子が良く見えない。

 

「く・・・」

 

「あっつ・・・」

 

バニッシュブラザーズは無事だったようだ。だが、兄の方は腕が痺れていて、弟の方は足の方が少し焦げている。

 

「こ、これぞバニッシュブラザーズ合体技、『天地消滅殺法』」

 

「これを喰らって生きてた奴はいな――――」

 

煙が晴れる。そこにはピンピンしているアミクとナツが居た。

 

「生きてた奴は―――なに?」

 

「ぶっちゃけその技って2対1の時の方が効果的でしょ?今みたいな状況だとさっきみたいに別々に対処されちゃうよ?」

 

「「うっそぉおおおん!!!?」」

 

正直、魔導士だから、とか女だから、とか舐めすぎである。

 

「じゃあ、こっちの番だね」

 

「これで吹っ飛べ!」

 

ナツとアミク、二人同時に息を吸う。

 

「火竜の―――」

 

「音竜の―――」

 

「「咆哮(ほうこう)!!」」

 

火と音の咆哮が同時に口から放たれた。途中で火のブレスと音のブレスが混じり合う。

 

「来た!火の魔法!」

 

「終わったぁ!」

 

音のブレスの方はよく見えなかったのか、あるいは恐れるに足らぬと判断されたのか・・・。とにかく火の魔法にばかり目が行っていた。

 

火の玉料理(フレイム・クッキング)!」

 

炎がフライパンに吸い込まれていく。

 

「全ての炎を吸いつくし、変換させ、吹きだ」

 

ピシッ

 

「「は?」」

 

フライパンに罅が入った。

 

「な・・・!こ、これは・・・!」

 

罅はどんどん広がっていき―――

 

バアアアアアアアアアン!!!

 

轟音と共に爆発した。

 

「「ぐわああああ!!?」」

 

もちろん間近にいたバニッシュブラザーズも爆発に巻き込まれる。彼らは吹き飛ばされ、床を転がった。

 

「な、なぜだ・・・、あのフライパンは300℃の熱にも耐えるんだぞ・・・」

 

兄がふらつきながら立ちあがり信じられないとばかりにフライパンの破片を見た。

 

「それはね、私のブレスのせいかなー」

 

アミクが生徒に教える教師のように指を立てながら説明を始めた。

 

「ナツの炎と混ざった私の音の魔力。あなたはそれも一緒に吸い込んじゃったんだよ。金属も音をよく通すじゃん?フライパンの隅々まで『音』で満たされちゃって限界を超えたせいで内部から破壊された。そこに火の魔力も入ってたから耐えきれず破裂すると同時に一気に噴き出して爆発になっちゃった、と推測します」

 

風船と同じ要領だ。風船に空気を入れすぎると破裂する。つまりはそういうことである。

 

 

「「あ、ありえねぇ・・・!」」

 

互いに抱き合って震えるバニッシュブラザーズ。

 

ナツは炎を腕に、アミクは音を足に纏わせた。

 

「そろそろ、決めるか!」

 

「早くルーシィのところに行かなきゃね!」

 

そして二人で走りだした。

 

「吹っ飛べ!火竜の翼撃!!」

 

ナツが炎の両腕を振り下ろす。

 

「うなれ!音竜の旋律(せんりつ)!!」

 

アミクが轟音の回し蹴りを放つ。

 

 

 

ドバアアアアアアアアアアン!!!

 

 

屋敷内の全ての窓が割れ、壁も崩壊し、エバルー像の頭が胴体からサヨナラした。頭は床に落ちてめり込む。

 

 

「ママ・・・」

 

バニッシュブラザーズは黒焦げになっているだけではなく耳から血が流れていた。恐らく鼓膜が破れたのだろう。

 

「やべ・・・」

 

「絶対にやりすぎだよね・・・?」

 

流石のナツも苦笑いだ。それよりも、とアミクはバニッシュブラザーズに近づく。

 

「止め刺すつもりか!?やっぱ怖ぇ~」

 

「違うから!?さすがに鼓膜破れてるのは可哀想かなって」

 

治癒歌(コラール)を使い、耳だけでも癒そうとする。

 

(それに、あんなにお母さんを呼ばれちゃうとね・・・)

 

アミクは「ママ・・・」と呻いている弟を見た。そこで、つい全身を癒してしまったのかバニッシュブラザーズの全身が優しげな光に包まれる。

 

「ママ・・・?」

 

それを何かと勘違いした弟が目を覚まし、続いて兄の方も目を開けた。

 

「ママ・・・じゃないか・・・。あれ、たしか俺らは負けて・・・」

 

「・・・ユーが治してくれたのか・・・敵であったミー達を・・・」

 

2人の目がこちらを射抜く。しかし、アミクはそれ無視して話し出した。

 

「あなた達だって仕事できただけでしょ?闇ギルドでもないし、任務を全うしようとする姿勢は尊敬できる点だよ」

 

話しながらもええい、このまま全快させちゃえ、と後先考えずに癒す。最近は歌いながらも喋ることができるようになってきたのでこんな芸当も可能である。

 

「それに、お母さんのこと、大好きなんでしょ?元気な姿見せてあげなくちゃダメじゃない」

 

バニッシュブラザーズのアミクを見る目が変わってきた。信じられないものを見る目つきから、まるで天使か女神でも見たかのような目に。

横から見ていたナツには変化がすぐに分かった。

 

「ユーは天使、いや女神か!!?」

 

「へ!?」

 

「いや、お前は第二のママだ!」

 

「えええーーー!!?」

 

実際に口にしやがった。

 

「ど、ど、ど、どうしよーナツー!!子供ってどうやって育てたらいいのーーー!?」

 

「そもそも産んでねーだろ」

 

テンパって目がグルグル回っているアミク。

 

「違うな。ここは妖精の尻尾(フェアリーテイル)にちなんで『妖精(ようせい)』と呼ぼう!」

 

妖精(フェアリー)。なかなかいい響きだ」

 

アミクを抜いて勝手に話を進めるバニッシュブラザーズ。

 

「・・・俺、どうすればいいんだ?」

 

珍しく疲れた様子のナツ。

 

この場は混沌と化していくのだった。

 

・・・一つだけ言っておけば今居る場所はさっきゴリラメイドーーーーバルゴが叩きつけられた所だとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーシィは窮地に陥っていた。

 

風詠みの眼鏡を使って本を読み終え、謎を解いたところまでは良かった。だが、エバルーが現れ、ルーシィの手を掴み、秘密を教えろと脅迫してきたのだ。それでも話すものか、と黙っているルーシィ。

 

「調子に乗るなよ小娘が!本は吾輩の物じゃあ!吾輩がケム・ザレオンに書かせたのじゃからな!本の秘密だって吾輩のものなのじゃ!」

 

「アンタなんて・・・最低よ!文学の敵だわ・・・」

 

「文学の敵だと!?ぐぬぬ・・・小娘が偉そうに!さっさとその本の中に書かれている秘密を話せ!さもなければ貴様の腕をへし折るぞ!」

 

「うっ・・・!」

 

あわや、ルーシィのその細腕が折れる、というところで。

 

「ルーシィ!」

 

「ボヨ?ぐへ!!」

 

ハッピーがエバルーにタックルをかました。その拍子にルーシィの手は自由になった。

 

「ナイスよ!ハッピー!」

 

そこに、マーチが突撃してきてエバルーの顔面を蹴り上げた。

 

「ルーシィ!大丈夫、なの?」

 

「マーチ!うん、なんとか、ね」

 

吹っ飛ばされたエバルーが憤怒の表情をしながら立ち上がる。ハッピーはさっきので頭を打ったのか下水でブクブクして目を回していた。

 

「形勢逆転ね。この本をあたしにくれるなら許してあげるわよ」

 

「観念なさい!なの」

 

「ぶくぶくぶく」

 

ルーシィ達が勇んで言う。だが、それを見てもエバルーは薄気味悪く笑った。

 

「文学少女の割に言葉の意味を間違えておる。形勢逆転とは勢力の優劣状態が逆転することだ。猫が2匹増えたところで吾輩の魔法『土潜(ダイバー)』は破れんぞ!」

 

「地面にはどうやって潜ってるの?って思ってたけど普通に魔法だった、の」

 

あの床の仕組みは魔力消費を抑えるためのエバルーなりの工夫だったのだろう。発想が少々幼稚だが。

 

 エバルーは『土潜』を使って、地面に潜る。エバルーはルーシィ目がけて地面から攻撃し、攻撃しては地面に潜り、ヒット&アウェイでルーシィとマーチを攻撃する。

 

「この本に書いてあったわ。内容はエバルーが主人公の冒険小説。内容は酷いものだったの」

 

「吾輩が主人公なのは素晴らしいことだ。しかし内容はクソだ。ケム・ザレオンのくせにこんな駄作を書きおって。けしからんわ!!」

 

「あんた、無理やり書かせといて何でそんな偉そうなわけ!?」

 

「偉そう?吾輩は偉いのじゃ!書かぬという方が悪いに決まっておる!」

 

「あんたがケム・ザレオンを独房に入れてた間、彼はどんな想いでいたか分かる!?」

 

 エバルーの余りにも傲慢で自分勝手な考えについにルーシィの怒りは爆発し、叫ぶ。しかし、エバルーの考えはどこまでも自分勝手なものであり、変わるものではない。

 

「そんなもの、吾輩の偉さに気づいたに決まっておる!」

 

「違う!自分のプライドとの戦いだった!書かなければ家族の身が危ない!でもあんたみたいな大馬鹿を主人公にした物語を書くなんて作家としての誇りが許さない!」

 

「貴様、なぜそこまで詳しく知っておる」

 

「この本に全部書いてあるわ」

 

 エバルーは自分の予想以上に事を深く知っているルーシィに対して疑問を投げかける。するとルーシィは『日の出(デイ・ブレイク)』を前に突き出し言い放つ。

 

「彼は最後の力を振り絞ってこの本に魔法をかけた」

 

 ルーシィの言葉を聞いたエバルーは、自分の今までの行動、発言が『日の出』に怨み辛みとして描かれているのではと予想するが。

 

「ケム・ザレオンが残したかったのはあんたへの言葉じゃない。本当の秘密は別にあるんだから!」

 

「なに!?」

 

「そう、なの?」

 

だからルーシィはそれに気付いて解き明かそうとしたのだ。マーチは感心する。

 

(よく、本に残っていた魔力の残滓だけで分かった、の。伊達に黄道十二門の鍵を複数持つだけのことはある、の)

 

「ええい、なんとしてでも聞き出してやる!我輩の魔法が1つだけだと思うなよ!」

 

そう言うとエバルーも金の鍵を構えた。

 

「え!?」

 

「まさか、ルーシィと同じ魔法、なの?」

 

「開け!処女宮の扉・・・バルゴ!」

 

鍵から光が溢れると、エバルーの隣に現れたのはーーーーあのゴリラメイドーーーーバルゴだった。

 

「お呼びでしょうか?ご主人様」

 

「こいつ、星霊だった、の?」

 

「ボヨヨヨ!さぁバルゴ、こいつらを・・・ん?」

 

「「あっ!?」」

 

そこに居る者達はバルゴの方を見て驚愕した。

 

なぜならバルゴの肩にはーーーー。

 

「ナツ!」

 

「アミク!?」

 

2人が掴まっていたからだ。

 

「な、なぜ貴様らが・・・?」

 

「あんた達、どうやって・・・?」

 

「このメイドが動き出したからしがみついてたんだよ」

 

「ってなんでルーシィとマーチ、それにハッピーまで居るんだー!?」

 

「それはこっちのセリフよ!ってまさか!」

 

そこでルーシィは何かに気付いたかのように硬直した。

 

「あんた達まさか星霊界を通って来たの!?」

 

「なんだと!あり得ん!」

 

星霊界。星霊達が普段居る此処とは別の世界のことである。

 

「人間が星霊界に入って来るなんて聞いたことない!星霊魔導士にとっては重大な契約違反なんだからね!」

 

「えっと、なんかごめん・・・」

 

そこでアミク達はエバルーに気付いた。

 

「あー!おじさん、まだやられてなかったの?」

 

「しぶとい奴だなー」

 

「我輩の方が優勢だったわ!!?」

 

自分が弱いと思われてたことに憤慨してバルゴに命じた。

 

「バルゴ!あいつらをやっつけて本を取り戻せ!」

 

そう言ってエバルーはバルゴの肩に乗る。

 

「とりあえず、このメイドをもう一回倒そう!」

 

言うや否やアミクが飛び出した。

 

「速っ!?」

 

あまりの速さにルーシィが驚く。

 

「私は音を司る能力(アビリティ)系魔導士!音速とまでは言わないけど、スピードには自信がある!」

 

いつの間にかバルゴの顔面まで来て殴り上げた。

 

「あうああっ!!?」

 

「バルゴぉ!!?」

 

バルゴが吹っ飛び、エバルーが落下する。

 

「よし、あたしもやるわよ!開け、巨蟹宮の扉! キャンサー!」

 

ルーシィも金の鍵を取り出して叫ぶと光に包まれた。そして、出て来たのはーーーーー

 

「「カニ!?」」

 

そう、二足歩行で人間の姿をしつつも背中から6本の蟹の足を生やした美容師風の姿をしている蟹の星霊、その両手には鋏が握られている。

 

「カニだよね!?語尾絶対カニだよね!?」

 

いつの間にか復活していたハッピーが興奮気味に叫ぶ。そして、キャンサーは口を開いたーーーーー。

 

「ルーシィ、今日はどんな髪型にする?エビ」

 

『エビーーーーー!!?』

 

「空気読んでくれるかしら!?」

 

ちょっと斜め上の発言に皆びっくりした。

 

「蟹なのにエビって・・・」

 

「と、に、か、く!キャンサー!あのヒゲ親父やっつけて!」

 

「OKエビ」

 

エバルーは焦っていた。もしかしたら本に書かれている秘密とやらは自分の悪事を書き連ねたものかもしれない。それがもし、評議員などにバレれば自分はお終いだ。しかし、この状況はどう見ても分が悪すぎる。なので一旦態勢を立て直すことにした。

 

「覚えてろよ貴様ら!」

 

そして魔法を使って地面に潜り逃走しようとしたところで、

 

「逃がさないわよ!」

 

ルーシィの振るった鞭がエバルーの首に巻きついた。

 

「ぐえ!?」

 

「あんたなんか、脇役で十分なのよ!!」

 

そしてそのまま持ち上げて壁に叩きつけた。

 

「キャンサー、今よ!」

 

「任せろ!エビ!」

 

キャンサーが目にも止まらぬ速さで鋏を振るう。するとーーー

 

「わ、我輩の髭がぁっ!!」

 

「お客様、こんな感じでいかがでしょう・・・エビ」

 

髪が綺麗に切り落とされスキンヘッドになり、さらに髭が可愛く結ばれていた。

 

「あーい!」

 

「トドメ、なの!」

 

ショックで呆然としてるエバルーに向かってハッピーとマーチが飛び蹴りを決める。顔面を蹴られ吹っ飛ばされたエバルーは気絶してしまった。

 

「ナイス!」

 

「やった、なの!」

 

ハッピーとマーチがハイタッチをする。

 

「で、その本どうするの?」

 

「これは一旦カービィさんの所に持って行くわ」

 

「ふーん、分かった!行こうナツ!」

 

「ん?ああ」

 

ナツ達はエバルー達を放っておいて急いで外に向かう。

 

 

 

「お、兄ちゃん!妖精が戻って来たぜ!」

 

「よくぞご無事で、我が妖精(マイフェアリー)

 

「え!?」

 

「うわ」

 

ルーシィがびっくりし、アミクの顔が引きつった。

 

入り口の近くでバニッシュブラザーズが待ち構えていた。2人は恭しく頭を下げる。さっき外で待機をお願いしていたので此処に居ることは当たり前だった。

 

「あ、ありがとね・・・?もう少しで軍が来るかもしれないから、此処に残って説明してあげて?あと、エバルーの身柄を拘束するようにも言っといて。色々悪どいことしてきたみたいだし」

 

「「イェッサー」」

 

「え、なにこの人たちどうしたの?」

 

「えぇと、後で説明するから・・・」

 

そう言いながら一同はカービィの所に向かう。アミクがチラリと後ろを見ると、ボロボロだった屋敷がとうとう崩れ落ち、それを見たバニッシュブラザーズが「うぉう!?」と驚いてるところだった。

 

 

 

 

 

 

カービィ邸に着いたルーシィは本をカービィに渡す。それを見たカービィは激昂した。

 

「な、これは・・・!依頼は本の破棄、または焼却だったはずです!」

 

「そうですね。破棄するのは簡単です。カービィさんにもできます」

 

「な、なら私がこの本を処分します!こんな本、見たくもない!」

 

ルーシィが依頼主と相対しているのでアミク達は黙ってそれを見ていた。

ルーシィはどこか寂しげに本を見る。

 

「どうしてカービィさんがその本の存在が許せないのか分かりました。父の誇りを守るため――あなたはケム・ザレオンの息子ですね」

 

「嘘!?」

 

「マジか・・・」

 

アミクが口を押さえ、ナツも呆然とする。

 

本を見つめながら握りしめるカービィ、ルーシィは続ける。

 

「この本を読んだことは?」

 

「いえ、父から聞いただけで、読んだことは・・・しかし読むまでもありません。父も言っていた駄作だ、と」

 

「だ、だからって処分しなくても・・・!」

 

「待って、アミク。誇りを守るためって言ってたのよ?カービィさん、ケム・ザレオンはその本を消滅させることを本当に望んでいるのですか?」

 

「そのはずです!父はこの本を書いたことを恥じていた」

 

 問いに答えたカービィは父ケム・ザレオンとの回想を話し始める。31年前のこと、エバルーからの脅迫によって『日の出』を書かされていたケム・ザレオンが3年振りに家に帰って来た。家に帰るなり挨拶もなしにロープで腕を縛ると、「私はもう終わりだ。二度と本は書かん」と言って利き手の右腕を斧で切り落としたそうだ。

 

「うっ、そんな・・・」

 

アミクが青ざめる。

 

そのまま病院に送られ、入院となったケム・ザレオンを若かりし頃のカービィは責め立てた。その後すぐケム・ザレオンは自害した。カービィはその後長らくケム・ザレオンを憎み続けていた。

 

「しかし、私の中の憎しみはいつしか後悔に変わりました・・・。私があんな事を言わなければ父は自殺しなかったんじゃないかと・・・」

 

言い終えるとカービィは懐からマッチ箱を取り出した。そして、マッチに火をつける。

 

「だから、燃やすの?」

 

「そうです・・・。父への償いとしてこの本を・・・父の名誉の為にこの駄作を消し去りたいと思ったんです」

 

カービィは静かにマッチを近付けた。

 

「これで・・・最後だ」

 

本に火がつくーーその時、日の出から眩しい光が溢れてきた。その光と共に本が開かれ、中から無数の文字が飛び出す。

 

「え!?」

 

「なに!?」

 

「文字が浮かんだ・・・!?」

 

ルーシィを除いた全員がその光景を呆然と見る。ルーシィが再び口を開いた。

 

「ケム・ザレオン・・・いえ、本名はゼクア・メロン。彼はこの本に魔法をかけたんです」

 

「ゼクア・メロン・・・そっか、ペンネームであるケム・ザレオンは本名のアナグラムだったんだ!」

 

すぐにアミクが気付いた。

 

「魔法・・・?」

 

カービィが呆然と呟く。

 

するとタイトルである『日の出(デイ・ブレイク)』の文字が浮かび、並び替えられる。そして本当のタイトルとしてカービィの前に現れた。

 

DEAR(ディア)・・・KABY(カービィ)!?」

 

「彼のかけた魔法は文字が入れ替わる文字魔法の一種。もちろん、タイトルだけでなく中身も、です」

 

ルーシィがそう言うと飛び出していた文字達が次々と並び替えられる。並び替えられた文字で語られる文はカービィに向けられた文だった。

 

「アナグラムだったのは自分の名前だけじゃないってわけ、なの」

 

マーチも納得したように頷いた。

 

「すげぇ!」

 

「あい!」

 

ナツ達も興奮する。

 

「彼が作家を辞めた理由・・・それは最低な本を書いてしまった他に最高の本を書いてしまったことかもしれません」

 

ルーシィは続けた。

 

『日の出』から溢れた文字は次々と本に戻っていく。

 

「それがケム・ザレオンが本当に残したかった本です」

 

「父さん・・・私は貴方を・・・理解できてなかったようだ」

 

カービィはポロポロと涙を流す。それはやっと父親に対して流すことができた涙だった。

 

「当たり前だよ。作家の頭の中が理解できたら、本を読む楽しみがなくなっちゃうでしょ?」

 

アミクが嬉しそうに言う。そして、カービィを見て言った。

 

「いいお父さんですね」

 

「はい、父は・・・最高の父親でした」

 

父を抱きしめるかのようにカービィは『日の出』改めて、『DEAR KABY』を抱き締める。カービィは涙を拭き、アミク達に身体を向ける。

 

「皆さん、ありがとう。やはりこの本は燃やせませんね」

 

「そっか・・・じゃあ、俺達は帰るわ」

 

「そうだね」

 

「あいさー!」

 

「なの」

 

「えっ!?」

 

ナツはそう言うとカービィに背を向け、出口に向かう。アミクとハッピー、マーチもそれに続く。カービィとルーシィは戸惑うことしか出来なかった。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい・・・報酬をーー」

 

「だって、依頼は『本の廃棄』ですよね?」

 

アミクがそこまで言うとカービィははっと気づいた。

 

「し、しかし・・・」

 

「いいんだよ!目的を達成してないのに報酬なんて貰ったらじっちゃんに怒られちまう」

 

ナツ達の慈愛にまたも涙が溢れそうになるカービィ。

 

「ありがとう・・・ありがとう、妖精の尻尾」

 

「どういたしまして」

 

アミク達はカービィに手を振りながら屋敷を後にした。ルーシィも慌てて後を追いかける。

 

 

 

 

 

帰り道の途中、ルーシィが少し機嫌が悪かった。

 

「もう、どうすんのよ!200万が全部チャラになっちゃうなんて!」

 

「だって、嘘ついてもらうのは嫌だしなぁ」

 

「あい!」

 

「うぅ・・・はぁ、分かったわよ」

 

ルーシィは降参と言わんばかりに両手を上にあげる。

 

「それに、お金よりもあのおじいさんとお父さんが分かり合えたの見れただけでも良かったじゃん」

 

「まあ・・・そうね」

 

アミクの言葉にやっとルーシィの顔に笑顔が戻る。

 

「今頃、自分の本当の家で読んでるだろうな」

 

「そうだね。本は家でゆっくり読んだ方がいいよ」

 

「え? 本当の家って?」

 

ナツとアミクの会話に疑問が生じたルーシィは2人に聞く。

 

「あいつらの匂いと家の匂いが違ったんだ」

 

「ちょっと遠くの方から同じ匂いがしたから多分そっちにあるね」

 

「な、なにそれー!?」

 

じゃあ大金持ちじゃなかったって事!? ルーシィは心の中で落胆していた。

 

「ナツとアミクは鼻が利くんだよ」

 

「それじゃあアミクは聴覚だけじゃなくて嗅覚まで優れてるってこと?とんでもないわね・・・」

 

ルーシィが戦慄した。

 

「あの小説家、すげぇ魔道士だな」

 

「あい、30年間も魔法が消えてないなんて相当な魔力だよ」

 

「昔は魔導士ギルドに所属していたんだって。そこで体験した冒険を小説にしてるの。はぁ、憧れちゃうな〜」

 

ルーシィはうっとりとした表情で空を見上げる。

 

「ああ、やっぱりね」

 

「え?やっぱりって?」

 

アミクの声にルーシィが首を傾ける。

 

「あのルーシィの部屋にあった紙の束、ルーシィが書いた小説じゃない?」

 

「えぇ!?」

 

図星だったのか顔が真っ赤になる。

 

「同じ本好きとしてのセンサーがピン、と来たんだよ!」

 

「やたら詳しかったしな」

 

「なの」

 

どうやらナツ達も気付いていたようだ。

 

「うぅ〜他の人には言わないでよ!」

 

「なんで?小説書くのは凄いことだと思うけど」

 

アミクの言葉に再び赤くなる。

 

「まだ、下手くそだし・・・読まれたら恥ずかしいでしょ!」

 

「あぁ〜、それはあるね・・・」

 

アミクは身に覚えがあるのか遠い目をする。

 

「アミクも小説書いたことあるの?」

 

「ちょっとね・・・」

 

「よーし!じゃあ早速ルーシィの部屋に行くぞ〜!」

 

「ちょっとおおおお!!?」

 

必死にナツ達を止めるルーシィ。

 

「ちょっと!ナツ、ダメでしょ!」

 

救いの主が現れたか!とルーシィは期待の目でアミクを見た。

 

「一番最初に読むのは私なんだから!」

 

「そうだ、この人私と同類(本好き)だったぁぁぁぁああ!!!」

 

ルーシィは絶叫した。

 

「そ、そうだ!さっき、あのなんとかブラザーズの人達、敵だったでしょ?なんであんなにアミクに心酔してたの?」

 

話を変えるためさっきの疑問を言うルーシィ。すると今度はアミクが真っ赤になった。

 

ハッピー達はいつものことだとばかりに肩を竦める。

 

「またやっちゃった、の?」

 

「またって・・・」

 

「アミクはね、ギルドの皆とは別方向にやらかすことがあるんだ〜」

 

「いい意味で、なの」

 

猫達は説明を続ける。

 

「味方も敵も回復させたり、ボロボロになっちゃった神殿を修復しちゃったり、鶏小屋の卵を全部食べちゃったり」

 

「待って最後のは普通に問題行為よね?」

 

「そんなことばっかりするから、信者みたいな人があちこちでできちゃった、の」

 

特に天然とお人好しを同時に発揮してしまうと恐ろしいことになる。

 

「それで二つ名がつけられることもある、の」

 

「聖女とか人魚とか、今一番有名なのは『妖精の尻尾(フェアリーテイル)の歌姫』だったよね?」

 

「あの歌凄かったからな〜」

 

もうそろそろそこまでにしておいた方がいいだろう。アミクの頭から湯気が出ている。

 

ルーシィはにこやかに笑って言った。

 

「やっぱりアミクは天使ね!」

 

「もうやめてぇぇぇぇ!!!」

 

アミクの絶叫が響いた。ナツ達は笑い声をあげる。

 

こうしてアミク達のチームとしての初仕事は幕を閉じた。

 

 




あれ・・・おかしいな・・・なんでこんなに文字数増えてるんだ・・・?夜中のテンションやべぇ。だが後悔はしていない!
実際に音によっては花瓶が壊れることもあるらしいです。

ルーシィがエバルーを持ち上げれたのは怒りによる馬鹿力であります。

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