妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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後編です。一話にまとめ切れなかった。




ウェンディの初仕事! 後

「…乱暴な人たち」

 

アミクは玄関に向かい、不作法な人たちに対応しようとする。

 

 

「まま、待て姉貴!」

 

「うちらが対応するから出ていかないで…!」

 

しかし、アミクはそれを無視して玄関のドアを開ける。そこには――――

 

 

 

「おおん!?見ねえ顔がいるなァ…別嬪さんじゃねえか」

 

…典型的な893がいた。

 

 

「えーと、何の用ですか…?」

 

営業スマイルで相手の要件を聞きだす。なるべく、刺激しないように…。

 

 

「何の用かってすっとぼけたこと言っとんじゃねえ!!こちらは滞納している借金を頂きに来ているだけだぁ!!」

 

「…借金?」

 

 

不穏なワード。

 

 

「…とにかく、今は子供たちが寝ているので後でお話伺います」

 

「関係ねーんだよ!!借金は待ってくんねーんだぞ!!」

 

さっきから声大きすぎ。配慮ってものはないのか。

 

 

「踏み倒そうったってそうはいかねえぞ!!ここにちゃあんと契約書もあるんだからなぁ…」

 

事情を全く知らないアミクに契約書を見せつけるヤクザ。

 

「…1000万Jの借金!?」

 

なんだこのバカみたいな数値は。その契約書には孤児院『マザーシープ』が『グレブリン商会』に1000万Jの借金をしている旨が書かれていた。

 

 

「そうだよ、おまえらんとこの院長がボスに金貸してくれって泣きついてきたんだろうが!!」

 

「違う!!」

 

ボーズが外に飛び出してきて叫ぶ。

 

 

「それに、10日に一割利子が増える…って」

 

バリバリの闇金ではないか。トイチなんて初めて見た。

 

 

「グレブリン商会に嵌められたんだ!!院長はおまえらの商品を買うための商談をしにいってただけなのに…!」

 

「知らねーよ!ボスの言うことは絶対だ!テメエらは間違いなく借金したんだよ!!」

 

きな臭い。こんな礼儀のなっていない人を遣わすところを見るとグレブリン商会ってのはロクな所ではなさそうである。

 

そこで男はニヤア、と笑みを深めた。

 

「だからぁ、言ってるだろ?金返せねえんだったらこの土地売れって!」

 

「そ、そんなことできるか!!」

 

土地…?

 

「ここには孤児院もあるんだぞ!子供たちの居場所がなくなっちまう!」

 

「その孤児院も含めて買収するっつってるんだよ。ガキ共の世話も俺らが見てやるからよぉ…」

 

男のニヤニヤ笑いに自然と不快な気持ちになる。悪意しか感じない笑み。

 

「まあ、俺らのボスは寛大だからな…。そこのねーちゃんを借金のカタとしてもいいんだぜ?」

 

舐めるような視線を向けてくるヤクザ。その視線を遮るようにボーズが前に立った。

 

「この人はなんも関係ねえ!だから手を出すなよ!!」

 

「そうかよ。まあいい。早めに決断しといた方がいいぞ?うちのボスは寛大ではあるが気が短けえところもあるからな…ぶっひゃひゃひゃ!!!」

 

男は下品な笑い声を上げながら帰っていった。

 

 

ちなみに、彼の声はできる限り食べたので孤児院の中にまでは届いてないはずだ。

 

 

「…すまん、見苦しいとこ見せて…」

 

「それはいいけど、かなり深刻な問題なんじゃない?」

 

借金1000万Jを持ち込んでしまった上に、孤児院まで奪われそうになっている。

 

「…そんな、酷い…」

 

ウェンディが玄関に立って口を塞いでいた。シャルルとマーチもいる。みんな聞いていたらしい。

 

 

「まさに外道、なの」

 

「胸糞悪いわね」

 

厳しい状況だ。どうやってかは知らないがグレブリン商会は契約書を作成している。

 

アレがあるのでは評議員などに訴えても逆にこちらがやり込められる可能性がある。

 

 

「それに、この村の権力者たちもグレブリン商会の手の者と成り変わっちまって…」

 

「それは…訴え自体が握りつぶされる可能性がある、と」

 

元々の権力者を蹴落とし、その座に就かせるとは。そこそこやり手のようだ。

 

「周到だなぁ…」

 

「…私のせいさ」

 

アミクたちが難しい顔をしていると、院長が杖をついてやってくる。

 

 

「院長!」

 

「私はあの商会が安全で高性能の子どものオモチャを扱ってるっていうから大量購入しようと話をつけに行ったんだけどね…。そこで購入の契約書を書かされはずだったんだ。…多分、幻惑の魔法なんかを使われたんだろうね。いつの間にか、別なものとすり替わっていた」

 

「汚い手を使うなぁ…」

 

「なんの警戒もせず、対策も何もしなかった私がバカだったのさ」

 

自重するように言う院長。今回腰を痛めたのも、心労が祟った所為なのかもしれない。

 

「だから…あんたらは帰んなよ。巻き込まれる前に」

 

院長は鋭くこちらを見る。

 

「今日は来ないだろう、とタカをくくって仕事を依頼したが、こうなってはここも危ないかもしれない」

 

「そんな!放っておけないですよ!」

 

しかし、ウェンディの言葉を無視してボーズとスーに向く。

 

「ボーズくんとスーちゃんももうクビだよ。別の仕事にありつきなさい」

 

「ここまで来て突き放すなんてそんなのねえぜ!」

 

「ああ、ここはウチらを受け入れてくれた大切な所なんだ!あんな奴らに好き勝手されてたまるか!!」

 

だが、2人も頑固だ。意思は固い。そこでアミクは疑問に思って口を開いた。

 

「でも、なんでこの土地を狙ってるんだろ?」

 

「それはわかんないや。自然豊かで眺めのいい土地ではあるけどねー」

 

あの商会の狙いが土地だということは分かった。土地を買うには公式な手続きなども必要だから借金の時のように魔法を使うわけにもいかなかったのだろう。だから、こんな追い詰めるような方法をとっているのだ。

 

 

「…こうなったら直判断しに行くしかないね」

 

アミクは外に向かおうとすると、院長が咎めるように言った。

 

「そこまでお世話になるつもりはないよ。あんたたちの仕事はあくまで子どもたちの相手。これはあんたの領分じゃない」

 

しかし、アミクは気にせず言い返した。

 

「そうかもしれませんね。でも、あくまでこれは私が個人的(・・・)に訪ねるだけなので、心配は御無用ですよ」

 

そう言ってアミクは外に出ていった。

 

「はぁ、ああなると人の話聞かないんだから…」

 

院長は呆れたようにため息をついた。

 

 

「ま、待ってください!私も行きます!」

 

「ちょっとウェンディ!」

 

ウェンディもアミクを追いかけて出てくる。マーチやシャルル、ボーズたちもだ。

 

「俺たちもいくぜえ!!」

 

「ウチらが孤児院を守るんだ!」

 

だが、アミクはボーズたちには首を振る。

 

「ううん、ボーズたちはここを守っててよ。今すぐ、襲われないとも限らないし」

 

「それは…そうだけど…」

 

二人は渋々ながらも納得したようだ。

 

「ウェンディも待ってて良いんだよ?」

 

「いいえ、私もアミクさんの力になりたいです!私だってもう妖精の尻尾(フェアリーテイル)魔導士なんです!」

 

ウェンディが勇ましく言う。引っ込み思案なウェンディがこんなにもやる気を出すだなんて、かなりご立腹らしい。

 

「…まあ、そうだね。ウェンディがいると心強いよ」

 

アミクはニコリ、と笑って言った。

 

 

「アミク!あーしも――――」

 

「待ちなさい、メスネコ」

 

 

マーチも付いて行こうとしたが、シャルルに止められどこかに連れて行かれた。

 

 

 

「よし、『お話』しにいこうか!」

 

 

 

 

 

「おやおやぁ、これはこれは可愛らしいお嬢さん方ですねぇ」

 

グレ…なんとか商会は村長宅の近くにあった。村長の家よりも大きい建物である商会は、失礼だがこんな村で燻っているにはもったいない大きさだ。

 

街、都会でもうまくやっていけるだろうに、なんでここで…。

 

そして、そこのトップである、この商会を立ちあげた本人、グレ…なんとかはアミクたちの目の前で余裕そうに煙草をふかしていた。

 

いかにも小太りの悪そうなヒゲオヤジを思い浮かべていたが、意外にもスリムで、細い目にメガネを掛けていた。

 

 

「私は、孤児院『マザーシープ』に対する不当な契約について抗議しに来たんです」

 

「はて、我々は真っ当な商談をしていただけですが?借金についてはお宅の院長が『うちの孤児院の維持費が辛いから貸してくれ』と言われたまででして」

 

「本当なんですか?いくらなんでもあんなに高額なものを借りるとは思いませんけど。それにあの利子はおかしいでしょ」

 

「すべて相互同意の下です」

 

アミクの言及をのらりくらりと躱していくグレブリン。やっぱり簡単にはいかない。

 

 

「あ、あの!こんなひどいこと、止めてほしいんです!」

 

そこで、ウェンディが勇気を出して声を上げた。

 

「あの孤児院には小さい子供もいっぱいいるんです!それを、こんな追い出すような…」

 

「追い出す?人聞き悪いですねぇ」

 

グレブリンは煙草を灰皿に乗せた。

 

「部下が言ってませんでしたか?子供の世話もしてあげるって」

 

確かに言っていた。だが、その言葉には不穏な響きがある。

 

「子供たちはみぃんな私が預かりますよ。…まあ、お世話になってもらう分、ちゃあんと働いてもらいますけどねぇ」

 

「…!そういうこと」

 

このクソメガネは孤児院の子供たちを労働力として扱き使うつもりなのだ。

 

あまりの酷さにウェンディは涙を浮かべてしまっていた。

 

「そ、れ、に。契約書が残っている以上逆らうことなどできませんよ。評議院に泣きついても無駄です」

 

そう言って契約書――――控えだろうが――――を取り出した。

 

 

よーく見てみても普通の契約書だ。

 

 

「魔法なんて使えばどうとでもなると思いますけど」

 

「おや、そうですねえ…見れば貴方がたは彼の有名な妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士のようですし、魔法には詳しそうですねえ…」

 

アミクたちが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の者だと知っても余裕を崩さない。

 

「しかし、我々商売人にとって信頼関係は大事です。そんな信用を失くすようなこと、できるわけないじゃないですか…まあ、魔法を使った証拠なんてないですしねぇ」

 

「…」

 

いちいち言動が意味深な上にウザい。

 

「というか、貴方がたの方こそ不誠実ですよ」

 

「それはどういう…」

 

「マザーシープは貴方方にどんな仕事を頼んだんです?借金返したくないから借りた先を潰せ、と?」

 

「ち、違います!」

 

ウェンディが咄嗟に否定した。

 

 

 

「口ではどうとでも言えますがね。無責任ですねぇ、自分が犯したツケを他人を利用して無くそうとするなんて」

 

そっちこそ893を送ってきて恐喝紛いな事をさせているくせによく言う。

 

(それに…いつの間にかこっちが責められている)

 

自分たちが抗議しにきたはずなのに、こっちが悪者にされそうな流れだ。

 

話の流れを作るのも上手いのは、流石商売人だと言ったところか。

 

「あるいはハニートラップですか?綺麗なお嬢さんたちを寄こして陥落させようという…」

 

「ないない」

 

「ありえません!」

 

二人とも真顔になって否定した。さすがのグレブリンも顔を引きつらせる。

 

「と、とにかく。我々は貴方方に屈するつもりはありませんよ」

 

「…それはこっちのセリフですが」

 

 

尻尾を掴ませない。これは手ごわそうだ。

 

というか、別にアミクは交渉事が得意と言うわけでもない。ただ、無策に話しあいにきたわけでもないのだ。

 

その時。グレブリンの目がキラリと光った。

 

「さて、そろそろですかね」

 

「…?」

 

「えっと、何が、ですか?」

 

グレブリンはニヤァと口の端を釣り上げた。

 

「どうも、ノコノコとお譲さんがた二人だけで来て下さってありがとうございました。また、大儲けできそうです」

 

「何の話――――」

 

そこまで言いかけた瞬間。

 

アミクたちの瞳が虚ろになった。

 

 

「…ふふふ、ふはははははは、はーはっはっはっはっはあだあっ!!顎外れた!!」

 

笑いすぎて顎外れたグレブリン。慌てて顎を無理矢理元に戻す。

 

「しかし、ホント棚から牡丹餅ですねえ。こんな綺麗どころが二人もくるとは、高く付きそうです…フフフ」

 

グレブリンはただの商会主ではない。

 

闇の側でも有名な悪徳商人なのだ。いくつかの闇ギルドとも通じており、取引している。

 

表側で仕入れた商品を裏側で高額に売りさばく、なんてのは序の口。詐欺、恐喝上等。果てはアミクたちのように人を陥れ、奴隷にして売るなんてあくどいこともやっている。

 

「人身売買がいい商売になるんですよねぇやっぱり。いやぁ、上手くいってよかったですよ」

 

そして、グレブリンの魔法は『催眠魔法』。幻惑魔法ではない。

 

これは自分が喋り続けている間、声を通して魔力を相手の脳に染み込ませ、催眠状態にさせる魔法であり、公には使用禁止とされている魔法である。かなり強力で、微量の魔力を送り続けるため、魔導士でさえ気付かないのだ。強力な魔導士となると別だろうが。

 

「あの院長もチョろいもんでしたねえ。この私の『催眠魔法』で契約書を書かせてやりましたよ」

 

そして、目の前で魂が抜けたようになっているアミクとウェンディを見る。

 

 

緑髪の少女は必ず多くの人に求められる事だろう。文句なしに需要が高めだと確信する。魔導士ということもあるから、魔法によっては今までで最高の額がつくかもしれない。

 

この幼さが残る少女は…まあ、その手の趣味の者には大人気だろう。それにこの少女も同じく魔導士だ。

 

(これは…とんだ宝石ですねぇ…)

 

グレブリンが二人の値段を考え、ほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――なんてね!」

 

突然アミクが頭突きしてきた。メガネが割れる。

 

「ほごぉ!!?」

 

鼻血を垂らしながらのけ反るグレブリン。

 

 

「よ、よかったです~!バレちゃわないか心配でした!」

 

ウェンディもホッと息をついている。

 

 

「白目剥こうか迷ったけど、ボケーってしてるだけでよかったんだね!」

 

「な、なぜ…おまえらに魔法がかかっていない!!?」

 

先程までの余裕をかなぐり捨て、怒鳴り声を上げるグレブリン。

 

それを前にアミクは胸を張る。

 

「貴方の魔法が催眠系っていうのは予想してたんだよ!」

 

「な!?」

 

何も対策せずに突っ込むのは愚の骨頂。その前に聞きこみをしたのだ。

 

村の住人から話を聞き、会話を盗み聞き、情報を集める。孤児院にも戻って院長から詳しく話を聞いてきた。

 

 

商会付近で部下の会話も聞きとった。これもアミクの優秀な耳があってこそだ。

 

「そういうのから貴方の魔法を推測したんだよ。特に、貴方の部下からは有力な情報を手に入れることができたよ。

 貴方と同じく、おしゃべりな部下から、ね」

 

彼の部下ならば、グレブリンの魔法について知ってる者もいるだろう、という考えで注意深く聞いていたが、これがビンゴ。

 

「この村の権力者たちを蹴落としたのもその魔法だね。貴方らしい、姑息な魔法だよ」

 

アミクはキッとグレブリンを睨んだ。ウェンディも精一杯睨みつけている。

 

「だから、ちゃんと対策の魔法も掛けてきたし、反撃の為の準備もしてきたんだよ!」

 

もちろん『状態異常無効歌(キャロル)』だ。それを掛けておいて、あえて魔法にかかっているふりをしていたのである。

 

「まあ、私には必要なかったみたいだけどね。『声』なら私には効かないし」

 

『声』による催眠だとも見抜いての発言。グレブリンは冷や汗を流した。

 

「…待て、反撃、と言ったか…?」

 

「そうだよ。これ」

 

アミクは胸の谷間に手を突っ込んで何かを取り出した。

 

「キャッ!破廉恥です、アミクさん!」

 

「しょ、しょうがないじゃん!ここぐらいしか良い隠し場所が見つからなかったんだよ!」

 

それは録音用魔水晶(ラクリマ)だった。グレブリンの顔が青ざめる。

 

「ま、まさか…!」

 

「そう!先程貴方が言ってた独り言もばっちり録音されてまーす!」

 

実はここに来る前に軽く身体検査もされたが、胸の谷間までは調べなかった。まさか、ここに隠すとは思わなかったのだろう。

 

「ルーシィが言ってた『古典的な方法も役立つ』、って意味が分かった気がする!」

 

「それは古典的なんですか…?」

 

ウェンディが懐疑的だが、ともかく会話の中や魔法にかかった演技をしている中でちょっとした失言や匂わせるようなものが録音できればいいな、と思っていたが。あんな自白まがいのものが録れちゃったのだ。

 

これぞ、嬉しい誤算だろう。

 

 

「…クソ!!勝った気になるのは早いですよ!」

 

グレブリンはそう言って近くにあったボタンを押す。その途端、ビービービー!!と音が鳴った。

 

とりあえず食った。

 

部屋に武装した男たちが流れ込んでくる。ちなみにこの部屋は応接室なのだが意外と広く、男たちがいっぱい入りきるほどだった。

 

「おまえたち!この小娘どもを捕らえなさい!最悪殺しても構いません!」

 

「ぐへへ、いい女じゃねえか」

 

「オ、オデ、あの小さい子貰っていいか…?」

 

「ひっ…」

 

なんかロリコンいたんだけど。

 

アミクたちはあっという間に囲まれてしまった。二人は背中合わせになる。

 

背中越しからウェンディが震えているのが分かる。

 

「…今更だけど巻き込んでごめん」

 

アミクが謝罪するが、ウェンディは首を振る。

 

「ま、巻き込まれてこそ、仲間です!」

 

「言うようになったじゃん」

 

ウェンディはどんどん強くなっている。精神的にも。

 

「ぎゃーはっはっはっは!!!」

 

「小娘二人だけで俺らに勝てると思ってんのか!!」

 

男たちは下品な笑い声を上げた。確かに、二人だけで相手するには人数が多いが…。

 

「…燃えてきた!」

 

「ナツさんがよく言うセリフですよね」

 

負ける気は、ない!

 

 

 

アミクたちは突撃した。

 

 

 

「『音竜波(おんりゅうは)』!!」

 

手の平から衝撃波を発生させて敵を吹き飛ばす。目の前が少し空いた。

 

 

「『音竜弾(おんりゅうだん)』!!」

 

そこに、少し離れた敵に向かって手から音の弾をいくつも射出する。

 

「ぎゃああああああっ!!!」

 

敵に命中した弾は衝撃波となってふっ飛ばし、命中しなくても勝手に衝撃波となる。

 

大分削っただろう。

 

「うわ、それでも多いな…『音竜の響威(フォルツァンド)』!!」

 

広範囲の殲滅に向いている魔法で周りの敵を完封する。

 

「『音竜の翼撃』!!」

 

隙を見せずにすかさず両腕を振るった。

 

固まっている敵をまとめてぶっとばす。

 

「見よう見まね!『天竜の翼撃』!!」

 

「おわああああああ!!?」

 

ウェンディもアミクの魔法を模倣してか、両腕に風を纏って振り下ろし、風の渦を発生させていた。

 

攻撃の魔法も憶えていっているみたいだ。

 

 

「つ、強すぎるぞこいつら!!」

 

「ま、待て…妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だと!?」

 

「あの無茶苦茶なギルド!?」

 

「無茶苦茶って…間違っちゃいないけどさ…」

 

敵を蹴り飛ばしながらアミクはぼやく。

 

 

そうしていると、いつの間にか立っている者はアミクとウェンディ、そしてグレブリンだけになっていた。

 

「あれ、もう終わり?…ウェンディ大丈夫?」

 

「はぁ、だ、大丈夫、です!」

 

口ではそう言うが、大分息が荒いウェンディ。よく見ると、肩や足に怪我をしている。戦闘経験の少なさが災いして敵の攻撃を喰らってしまったらしい。

 

「~♪はい『治癒歌(コラール)』」

 

「わぁ…ありがとうございます…!」

 

ウェンディは自分の事は治せないので、アミクが代わりに治療してあげた。

 

「さて…覚悟はいいかな?」

 

アミクが笑みを浮かべながら、腰を抜かしているグレブリンに近付く。彼は信じられないような面持ちでアミクを見ていた。

 

「ば、バカな…!!全滅、だと…!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)を舐めすぎ。見誤ったね」

 

しかし、グレブリンは汗を垂らしながらもニヤリ、と笑った。

 

「こ、こうして私の相手をしている時間はあるのですかな?」

 

負け惜しみのように言うがそうではない。グレブリンは机の上にある通信用魔水晶(ラクリマ)に視線を移す。

 

「貴方方が戦っている間に別動隊を孤児院に向かわせました。もう、孤児院も子供たちもいりません。だからあそこを更地にして没収することにしたのです!」

 

あの魔水晶(ラクリマ)で連絡したようだ。もはやなりふり構わず土地を取り上げようとしているらしい。

 

だが、グレブリンはアミクの顔をみてゾッとした。そこには、彼女には似合わない冷たい表情をしたアミクがいたのだ。

 

「聞こえてたよ。だから、こうしている時間も惜しいけどどーしても一発喰らわせなくちゃ気が済まないんだ…だから、手っ取り早く!」

 

アミクは一瞬で近付いた。

 

「ひぃっ――――!?」

 

「『音竜騙し』!!」

 

パァアン!!

 

と衝撃波が発生してグレブリンは吹っ飛ぶ。そのまま頭を床に打ち付け気絶してしまった。

 

 

「…ウェンディ、急ぐよ!」

 

「は、はい!」

 

そして、アミクたちは窓から外に飛び出す。目的地は孤児院『マザーシープ』だ。

 

 

 

 

「な、なんなんだよアレはぁ…」

 

ボーズが目の前に見える光景に震える声で言った。スーはもはや声が出ないらしい。

 

孤児院の中でアミクたちを待っていたら急に外が騒々しくなってきた。

 

起きている子供たちに中で待っているよう言って、外に出てみると―――――。

 

「はっはー!!ひさしぶりにコレが使えるとは腕が鳴るぜー!」

 

目の前にずらりと並ぶ、武装した男たち。その中で、一際目につくのは戦車のような兵器。

 

それに乗っている男がでかい声を上げているのだ。

 

「魔導兵器『イオ』!コイツの破壊力は孤児院一つぐらい塵にしちまうぐらいだ!!」

 

その兵器はとある闇ギルドが開発したものをグレブリン商会が買い取ったものである。『ジュピター』程ではないが、かなりの威力を持つ魔導兵器なのだ。

 

「…この孤児院はやらせない!」

 

「おい、院長!危ねえぞ!」

 

院長が無理をして外に出て、孤児院の前で両手を広げた。

 

「私や、子どもたちの想いが詰まっているんだ!やらせるものか!」

 

院長の言葉を男どもは嘲笑う。

 

 

「なんだそりゃ、お涙ちょうだいってやつか?まあいいや。もう我慢できねえ!」

 

そう叫ぶと男は戦車の砲台に魔力を溜め始めた。

 

「発射しちまうぜ――――!!!」

 

テンション爆上がりの男が叫ぶと、周りの野郎どもも雄叫びを上げた。

 

 

「くそ!ウチの鏡でも吸収できねえ!」

 

「でも、やるしかないだろ!」

 

ボーズとスーは魔法を構えた。院長はジッとイオを見ている。

 

 

「死に曝せやああああ―――――!!!」

 

 

ドオオオオオン、と音を立てながら溜まった魔力が放出された。

 

 

それはぐんぐん院長たちに向かっていく。

 

 

そして――――――。

 

 

 

 

 

「『音竜の―――』」

 

「『天竜の―――』」

 

「「『咆哮』!!」」

 

 

それと真っ向に対抗するかのように強大な魔法がかちあった。

 

 

その魔法を放った人物は。

 

 

「姉貴!?」

 

「ウェンディー!!」

 

ボーズとスーが叫ぶ。

 

 

アミクとウェンディはギリギリ間に合ったのだ。二人は同時にブレスを放出してイオの砲撃を押し留めていた。

 

「な、なんだぁ!?」

 

男は驚いて目を見張る。そうしていると。

 

「…!イオが、押し負けてる!!?」

 

どんどんアミクたちのブレスの方が押し始めた。そして。

 

 

ゴオオオオオ!!!

 

イオの砲撃を巻き込みながら、二人のブレスが打ち勝つ。それはイオに向かっていった。

 

「は、はりゃりゃ?」

 

イオに乗っていた男は鼻水を垂らして呆然と見ていた。

 

 

直撃。イオは粉砕して男が投げだされる。

 

 

「ぎょええええええ!!!?」

 

 

 

ズシャアア、と音を立てながら落下する。

 

 

「う、嘘だろ!?イオが破壊されたアアアアア!!!」

 

それを見ていた男たちが悲鳴を上げ始めた。しかし、一人の冷静な男が皆を宥める。

 

「れ、冷静になれ!イオはアレ一つだけじゃねえ…」

 

その言葉を証明するかのように地響きが鳴る。そして向こう側から新たなイオが二台、やってきた。

 

「そ、そうだ!さすがにあいつらも魔力をいっぱい使っちまっただろ!二台もあるならぶっ潰せる!!」

 

敵側はだんだんと士気を取り戻してきた。

 

「…アレがまだ二台もあるのか…ちょっと厄介かな」

 

流石商会。金なら大量にあるらしい。あんなのを三台も購入していたとは。

 

 

「―――よしっ、ボーズ!『音』ちょうだい!」

 

「え?お、おう!」

 

急に呼ばれたボーズはアミクに自分の魔法を放った。

 

「『ハウリング』!!」

 

不協和音がアミクを包む。そして。

 

 

しゅるるるる

 

 

それをアミクが吸い込んだ。

 

 

「…いい味してる!食べたら力が湧いてきた、っと!ウェンディ、いける!?」

 

「もちろんです!」

 

ウェンディも空気を吸い込んで回復していた。アミクとウェンディは同時に飛びあがる。

 

 

そして、それぞれ魔力を込めた。

 

「やっちまえ―――――!!!」

 

イオの砲台にも魔力が溜まり始めた。一気にケリを付けるつもりらしい。

 

そうはさせない。

 

「一緒に!」

 

「はい!」

 

 

アミクとウェンディは同時に手を突き出し、音と風を解き放つ。

 

 

 

音と風は混ざり合って、一つの強大な魔法と化した。

 

 

 

 

―――――合体魔法(ユニゾンレイド)――――――

 

 

「「『緑天空二重奏(りょくてんくうにじゅうそう)』!!!」」

 

 

 

風に乗った音が回転しながら敵に向かう。

 

 

「発射――――!!!…うおおおおおお!!?」

 

 

イオを発射させた直後、砲撃がアミクたちの魔法にあっさり霧散させられた。それだけでなく、イオを二台とも吹き飛ばし、周りの敵も一掃した。

 

 

 

数瞬後。イオは全部無残な姿になり、死屍累々に倒れる人々が残った。まさかの全滅。

 

 

 

直後、後ろから大歓声が聞こえる。

 

「す、すげええええええ!!!」「ねーちゃんたちが悪モノをぶっとばした!!」

 

「あの魔法かっけええええ!!!」「なにこれ、演出?」「リアルみたいな演劇だなー!」

 

こっそり見ていたのだろう。子供たちが飛び出してきて群がってきたのだ。

 

 

「姉貴もウェンディちゃんもすごいな!!あの土壇場で合体魔法(ユニゾンレイド)だなんて――――」

 

「いつの間にあんなの使えてたんだ!?」

 

ボーズやスーも近付き、賞賛するが…。

 

 

 

「えっと。私たちもびっくりしてるんだけど」

 

合体魔法(ユニゾンレイド)になるなんて思ってませんでした…」

 

ノリでただ同時に魔法を撃っただけなのに大技になってしまった。

 

「ノリで合体魔法(ユニゾンレイド)ってできるもんなんだねー」

 

「できませんよ、普通は…」

 

普通は信頼している者同士で長い時間をかけて習得するものだ。なのに、アミクとウェンディはこの短時間で習得したのだ。

 

「それくらい、私たちの信頼関係は強いってことじゃない?」

 

「え、な、なんか照れますね…」

 

ウェンディが赤くなった。かわいい。

 

(まあ、私たちよりもあっさり合体魔法(ユニゾンレイド)した人たち知ってるけどね)

 

アミクの脳裏に金髪と青髪の少女が思い浮かんだ。

 

 

 

「なんにせよ!これで一件落着だ!」

 

「アミクねーちゃん!」「歌うたってよー!」「約束破る気ー?」

 

「ねーねー」

 

ボーズや子供たちはもう終わった気でいるようだが…。

 

 

 

「…何が、一件落着ですか…?」

 

喜んでいる空気を割くように聞き覚えのある声が聞こえた。そちらを見ると。

 

 

「あ、グレゴリー」

 

「グレブリンですっ!貴方たち!!まさか、これで終わったと思ってるんですか!?」

 

頭に包帯を巻いたグレゴリンが怒鳴った。割れた眼鏡をそのまま掛けている。予備はないのだろうか。

それにしても意外と早いお目覚めだ。その後ろには部下が何人かいる。

 

 

「…みんな、あそこに怖いおじさんがいるから中に入ってようか」

 

「はーい!」「こわいおじさんだー」「逃げろー!」「くるなへんたいー」

 

アミクの言うことに従い、孤児院の中に入っていく子供たち。それを憎々しげに見ながらグレブリンは続ける。

 

「貴方!私の独り言を録音したぐらいで、どうにかできると思ってるんじゃないでしょうね!?

 その程度では私の地位は揺るがない!証拠不十分だからね!!貴方たちを襲ったのも保険の為!金と権力を持っている私には大した痛手にはならないんですよ!!

 そもそも、評議員は来ない!私が評議院への連絡手段を絶っていますからね!!」

 

彼は大きく高笑いした。最後に勝つのは自分だとばかりに。

 

ウェンディが不安そうにこっちを見上げる。アミクは安心させるように笑いかけた。

 

 

「評議院に関しては心配ないよ。ほら」

 

「へ――――?」

 

アミクが向こうを指差すと、みんな釣られてそちらを向く。そこには――――。

 

「ひょ、評議院!!?」

 

評議員が並んでこちらに向かってきている光景が。

 

「バカな!?なぜ…!?連絡用の魔水晶(ラクリマ)は全て買収したはず…」

 

グレブリンが驚いていると、アミクの横にマーチとシャルルが飛んできた。

 

「あんたの言う通り、近くの村から通報したわよ」

 

「お疲れ、二人とも」

 

「お安いご用、なの」

 

「なっ…!!」

 

このグレブリンは評議員へ通報させないために、そのための魔水晶(ラクリマ)を全部買収していた。

 

 

(この村でだけ)

 

 

「だったら、他の村からやればいいって話じゃん?」

 

マーチはうんうんと頷いている。

 

「それに、証拠も大丈夫。シャルル、どうだった?」

 

「当然手に入れてきたわ」

 

シャルルとマーチは手に持っていたものを地面にバサバサと落とした。

 

それを見るグレブリンの顔がどんどん青ざめる。脂汗がだらだらと出てきた。

 

 

「ま、まさかそれは…」

 

 

「お察しの通り、貴方の悪事の証拠」

 

明らかに違法な契約書に闇ギルドとの繋がりを示すもの、違法な薬物を買収した領収書、奴隷商売の顧客リスト…出るわ出るわ証拠の数々。

 

「これだけあれば、アイツの事訴えれるし、あの契約も破棄できるでしょ」

 

「ありがとう、シャルル、マーチ」

 

「どうやって…!!?全部金庫に入っていたはずだ!!!どうやって地下に近づいた!!それにあの金庫は魔法を通さないし、20桁の暗証番号を入力しないと開かないはずだぞ!!」

 

「69845315868970424590でしょ?」

 

「ほげえええええ!!?」

 

シャルルがこともなげに答えたらグレブリンは目をひん剥いた。正解だったらしい。

 

「すごいよシャルル!」

 

「どうやってわかったの?」

 

「まぁ…勘みたいなものよ」

 

「勘で当たってたまるかあああああ!!!」

 

グレブリンは血走った眼で頭を掻き毟った。狂気すら感じる目つきでアミクたちを睨む。

 

「まだだ!まだ終わらんぞ…」

 

「ううん、もう終わり」

 

アミクが静かに言った。

 

「子供たちの未来を奪おうとした貴方は、もう終わりだよ。負けたんだよ。私たちに」

 

「こ、こ、こ、ここここの…クソがああああああああああ!!!!」

 

 

それは彼なりの敗北を認める絶叫だった。

 

 

 

 

「それで、シャルルたちは証拠を集めに行っていたんですか?」

 

「うん。シャルルの方から提案してきたんだよ」

 

 

情報収集する前。アミクはシャルルに呼び止められ、こんな話をされたのだ。

 

『もしかしたら、あのグレブリン商会には重大な悪事の証拠があるかもしれないわ』

 

『なんでそんなこと分かるの?』

 

『…勘、みたいなものよ』

 

そのとき、ちょっと言いづらそうな顔をしていたが、とにかく続きを聞く。

 

『私とメスネコはその証拠を取りに行くわ。だから、あんたの魔法で証拠がありそうな場所を探し当ててほしいのよ』

 

『…あ、そういうこと!』

 

反響マップで建物の地図を作れ、という事なのだろう。

 

『あと、グレブリンってヤツの気も逸らしてくれる?注意深い奴なら私たちが証拠に近付いているのに気付くかもしれない』

 

『そういうことなら任せてよ!』

 

というやりとりがあって、その後アミクの方も「証拠を取ったら別の村から評議院に通報してほしい」と頼んだのだ。

 

 

それで、アミクはグレゴリン商会の中で(ギルドみたいなものなのでメインホールには誰でも自由に入れた)反響マップを使い、地下がある事を発見。

 

それをシャルルに伝え、アミクたちはグレブリンと面会しにいった、というわけだ。

 

「魔導士対策の罠や仕掛けもいっぱいあったけど、人間しか想定していなかったみたいね」

 

「あーしたちなら楽勝だった、の」

 

小さい身体を活かして狭い通路に入ったり、通気口を通ったりしたらしい。

 

「シャルル、ほんと有能!」

 

「まあね、どこかのメスネコと違ってね」

 

「ぐぬぬぬぬぬ!!なの!」

 

マーチは今回大して役に立ててない、と思ってるのか言い返す言葉がないようだった。

 

「じゃあ、抗議しにいくっていうのは気を逸らす目的もあったんですね!」

 

「そうそう、最初は普通にカチコ――――話し合いにいくだけだったけど」

 

「カチコミって言いかけた、の」

 

 

なんにせよ。今度こそ一件落着。

 

グレブリンたちも評議員に捕縛されている最中だ。もうグレブリン商会は解体だろう。

 

「…結局、あんたたちには最後まで助けられちゃった」

 

院長が優しげな笑みでこちらを見てきた。

 

「うおおおお、またしても助けられちまった!!」

 

「ありがとう、ありがとう女神さま!!」

 

ボーズとスーはギャン泣きだ。

 

「私も孤児院を守れてよかったです。…でも、なんでグレ――――なんとかはこの土地に執着してたんだろ」

 

それが唯一残った疑問だ。

 

「私も謎なのよねー。もういっそ本人に聞いてみたら?」

 

「よくそんな度胸あるわね」

 

まあ確かにそれが手っ取り早いだろう。アミクはグレブリンに向かって歩き出した―――が。

 

「何だろコレ」

 

足元に落ちていた紙を拾い上げた。

 

 

「あ、お前!!返しなさい!!」

 

捕縛されながらもグレブリンが叫んでくる。これは彼の物のようだ。

 

「どれどれ…わっ」

 

「これは…」

 

横からウェンディたちも覗き込んできた。

 

 

 

それは地図だった。バツ印が書かれた地点に宝があるという、言わば宝地図。かなり本格的なもので、詳しい座標に方角を示す記号も載ってあった。

 

 

そして、その宝とは―――――。

 

 

魔水晶(ラクリマ)に宝石、金貨、古代の壺などなど…高価物の詰め合わせ?宝の山じゃん!」

 

「先祖代々守ってきたこの宝の山がこの地点にある!?」

 

そんな旨が地図には書かれていた。

 

これがグレブリンが執着していた理由か。

 

 

「えーいやいやそんなわけないってー。そもそもこれは――――」

 

「とぼけるな!!!」

 

院長が何か言いかけたがグレブリンが怒鳴って遮った。

 

 

「その地図は私が孤児院のガキから取りあげたものだ!!そのガキはおまえがくれたものだって言ってたぞ!!だから、おまえは宝のことを知ってるはずだろう!!」

 

アミクたちはどうなのか、という意味合いで院長を見る。院長はため息をついた。

 

「確かに、その宝の地図をあげたのは私だよ」

 

「え…?」

 

アミクたちが驚いていると、院長は続ける。

 

 

 

 

 

 

「だってその地図、私が子供の遊び用に描いた地図だもん」

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

 

『はああっ!!!?』

 

 

凍っていた空気が動き出した。

 

 

「ど、どういうことだ!!?」

 

「どういうこともなにも、子どもって宝探しごっことかするでしょ?だから、そういうのやらせてあげようと私が地図を描いたんだけど…。意外と熱中しちゃってね。割と本気で描いちゃった、てへぺろ☆」

 

かわいくねえ。

 

「たかが子供の遊びに設定盛りすぎちゃって…。まあいいやって渡したのがそれ」

 

グレブリンは白目を剥いた。

 

「ちなみにその宝の場所、うちの庭」

 

グレブリンが真っ白になった。

 

「宝っていうのも、ビー玉とか、ドングリとかそんなもんだよ」

 

グレブリンからポキン、と心が折れる音がした。

 

「怖いおじさんに盗られたー、とか言ってたけどそれってあんたのことだったのねー」という言葉が遠くに聞こえる気がした。

 

 

 

 

彼はズルズルと引きずられながら連行されていった。

 

彼の人生はもうお先が真っ黒クロスケだろう。それに、あの様では立ち直れまい。

 

「…哀れ、なの」

 

「欲張っちゃったのが、運の尽きってことかな」

 

もし、彼がこの土地に固執していなかったのなら、ああなってはいなかったのではないか、と思う。

 

 

全て、結果論である。結局、悪党は相応の報いを受ける、ということなのだろう。

 

アミクが感慨にふけっていると、子どもたちが出てきて催促してきた。

 

 

「アミクねーちゃん、もう待ちきれないよー!」

 

「早く来てー!歌ってー!」

 

 

何も知らない、純粋な笑顔にアミクも自然と笑顔になる。

 

「今いくよー!」

 

とりあえず、この笑顔を守れてよかったと思うアミクであった。

 

 

 

 

帰り道。

 

 

汽車に揺られながら(もちろん、酔い止めしてます)話すアミクたち。

 

「まさかこんな大事になるとは思わなかったわ」

 

「ねー。今回はほのぼのとした仕事だと思ってたのに」

 

「行く先でトラブルに遭うのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)らしくはある、の」

 

「でも、私皆さんに喜んでもらえてよかったです!」

 

ウェンディは嬉しそうにたくさんの色紙を抱えている。全部、子どもたちが書いてくれた絵や文章だ。

 

アミクの手にも大量にある。今回の報酬も。実はちょっと色付けてあって、「マジで感謝してる、ほんとは養子にしたいけどそうはいかないからお金もっとあげるねー!」とかって倍以上の金額を渡そうとしてきたから、慌てて妥協した結果だ。お陰で本来の報酬金額より3万J増えた。

 

「仕事…以上のことをしちゃったけど。でも、仕事をするって楽しいでしょ?」

 

「…はい!」

 

誰かの為になることが嬉しい、という気持ちは魔導士としてとても大事なものだ。これからもその気持ちを大切にしてほしい。

 

アミクも、歌をうたってすごく喜んでくれた子供たちや、院長と一緒に感謝していたボーズとスーを思い出す。

 

(ああ、ほんとに誰かに感謝されるって嬉しいもんだなあ…)

 

しみじみと、そう思った。

 

 

 

ただ一人、シャルルは悩んでいた。

 

 

(なんで?なんであんな情報を流したの?私たちを助けるため?使命とは直接関係ないのに…一体…)

 

シャルルの悩み。それが解消される時が、もうすぐ来る。

 

 

 

 

 

こうして、波乱に満ちたウェンディの初仕事は終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 




長くなってしまった…。

次こそギルダーツ出ます。


ちなみに、シャルルが暗証番号分かったりしたのも、シャルルのあの力のお陰です。
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