妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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フェアリテールの7番目のOPで最初の部分かっこいいよね。

音楽としては当然サビが好きだけど。

今回もそこら辺イメージして書いてます。


アースランドからエドラスへ

「そんな…街が、ギルドが、みんなが…アミクさんも…!!」

 

全てが消えた土地で。

 

 

ウェンディは独り嘆いていた。

 

 

「誰か…!誰かいないの…!?」

 

ウェンディが必死に声を上げて呼びかけると。

 

「ぷはっ!? な、なんだ?」

 

突如、近くの地面が盛り上がり、ある人物が出てきた。その人物は。

 

 

「ナツ…さん?」

 

「あ?…ウェンディ?ここはどこだ?」

 

ナツが身を起こしてキョロキョロする。

 

「よかった。無事だったんですね…」

 

「なんだよ。オレ寝てたから何が起こったかわかんねー…」

 

そうなのか。でもなんで自分とナツだけ無事なんだろうか。

 

「そんで、ここはどこだよ?」

 

「ここ、ギルドですよ?」

 

「はぁっ!?」

 

「空に穴が空いて、ギルドも街も、みんなも吸い込まれちゃったんです…」

 

流石のナツも空いた口が塞がらないようだ。ナツはウェンディの頭を撫でる。

 

「頭打ったんだな、ウェンディ」

 

「本当です!信じてください!」

 

ナツは半信半疑のようで、未だウェンディの頭を撫でていた。

 

「んなこと言われてもよ…。ん?これなんだ?」

 

ナツは地面から野菜の葉っぱのようなものが出ていることに気付いた。

 

「新手の野菜か?よっ」

 

「ナ、ナツさん!どんなものかもわからないのに…!」

 

ウェンディが慌てて止めようとするも、ナツはその葉っぱのようなものを掴んで引っこ抜いたーーーーー途端。

 

 

 

 

「イダダダダ!!!痛い痛い!!!な、何ー!?」

 

 

野菜でもなんでもなく、少女ーーーーアミクが地面から引っこ抜かれたのだ。

 

 

「アミクさん!?」

 

「おめえかよ!!」

 

アミクを見たウェンディは一目散に駆け寄って抱きついた。

 

 

「よかった!消えちゃったかと…うえ〜ん」

 

「あいたた、最近髪引っ張られてばっかな気がする…風がすごい強くて吹っ飛ばされたと思ったら地面に埋まってたみたいなんだよ」

 

結局アミクは無事だった。ちょっと地面の中で気絶してたみたいだが、こうして覚醒した。

 

 

「なーアミクー、ウェンディがみんな空に吸い込まれたとか言ってるんだぜー?」

 

「…残念だけど、本当だよ」

 

アミクが俯いて答えると、ナツは目を大きく見開いた。

 

「嘘だろ!?」

 

アミクもこの目で確かに見た。

 

 

「でも、なんで私たちだけは無事なんだろう?」

 

この3人の共通点といえば。

 

「…滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だから?」

 

「そうよ」

 

アミクの言葉に同意するように後ろからシャルルの声が聞こえた。

 

彼女は飛んできて地面に降り立つ。

 

「シャルル!無事だったんだ」

 

「まあね」

 

シャルルはアミクたちを見回した。

 

「どうやら滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の持つ特殊な魔力が幸いしたようね…よかったわ、あなたたちだけでも無事で」

 

「そりゃ聞き捨てならねぇな…他のみんなはどうでもいいってのかよ!」

 

「そうは言ってないでしょ!シャルル、やっぱりみんなは…」

 

アミクの言葉にシャルルは頷く。

 

「消えたわ。いや、正確に言えばアニマに吸い込まれて消滅した、ね」

 

アニマ…。先程、ミストガンも言っていたが。

 

「アニマって?」

 

「さっきの空の穴よ。あれは向こう側の世界、『エドラス』への門」

 

エドラス。また新ワード。

 

「お前ら、さっきから何言ってんだよ! みんなはどこだよ!?」

 

「ごめんナツ、ちょっと黙って…。シャルルはさっき、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の魔力のお陰で無事だったって言ってたけど…じゃあシャルルは?」

 

アミクが聞くと、シャルルは答えづらそうな顔になった。

 

「それは…」

 

「ナーツー!!」

 

「アミクッ!」

 

そこに、ハッピーとマーチもやってくる。

 

 

「二人とも無事だったんだ!」

 

「みんな居なくなっちゃったよー!」

 

「ま、街が!大変なことになってる、の!」

 

いきなりこんなことになって二人とも混乱しているのだろう。

 

 

「ちょうどいいわ。みんな聞いて。私は…私たちは」

 

シャルルは上をチラリと見上げた。

 

「エドラスから来たのよ」

 

『へ?』

 

みんなして首を傾けた。

 

「私たち、って…」

 

「オスネコとメスネコもよ」

 

「あーしたちが!?」

 

シャルルは言葉を続けた。

 

「つまり、この街が消えたのはーーーー私たちエクシードのせいってことよ」

 

正直、もうたくさんだ。街もギルドも消えたと思ったら、それがマーチたちのせいだって?それにエクシード?もう新ワード出すのやめてくれ。

 

 

「エクシードって…マーチたちのこと?」

 

「そう、私たちはエクシードっていう種族なのよ」

 

まあ、それはわかった。

 

 

「そしてエドラスはこことは別の世界。そこでは今、魔法が失われ始めてる」

 

「魔法が失われる…?」

 

「なんだそりゃ?」

 

「なんか、とんでもない話…」

 

別世界とか魔法が失われるとか。壮大な話だ。

 

「こちら側の世界と違って、エドラスでは魔法は有限なのよ。使い続ければいずれ世界からなくなる…」

 

「確かに…それは大変だね」

 

こっちの世界に置き換えてみると死活問題である。

 

「その枯渇してきた魔力を救うために、エドラスの王は別世界…つまりはこの世界から魔力を吸収する魔法を開発した。…それが超亜空間魔法、『アニマ』」

 

「あの穴が…」

 

アレは魔法だったのか。エーテリオンにも匹敵する、いや、それ以上にもなるかもしれないほどの大魔法だ。

 

シャルルによると、そのアニマを利用してこちらの世界の魔力を吸い取る計画を6年前もから行っていたらしい。

 

それで、至る所にアニマを展開してきた、が。

 

「でもその度に何者かがアニマを閉じて回っていたのよ。そのせいで、エドラス側は思うように魔力を集められなかった」

 

(そして、閉じていたのは…ウェンディから話を聞いた時まさかと思ったけど…あの男(ミストガン)ね)

 

シャルルの脳裏にミストガンの姿が浮かぶ。

 

「だけど、今回のアニマは巨大すぎた。誰にも防ぐ術などなく、ギルドは吸収された」

 

「でも、なんでマグノリアを狙ったの?」

 

アミクが聞くとシャルルが地面を見つめて答える。

 

 

「エドラスの魔力にするためよ」

 

「え…」

 

「マグノリアには強力な魔導士が集まる妖精の尻尾(フェアリーテイル)がある…」

 

「そ、その魔力が目的で狙われたってこと!?」

 

それを聞いてナツは青筋を立てた。

 

「随分勝手な奴らだなぁ…オイ! みんなを返せよこのやろぉぉぉ!!!」

 

アミクはそんなナツを宥めた。

 

「空に怒ったってしょうがないよ。でも、ホントに勝手な人たちだね…」

 

そう言うアミクの声にはやや怒気が含まれていた。

 

 

「でも、それがあーしたちとなんの関係がある、の?」

 

「間接的にね」

 

マーチはじっと聞き入った。

 

「私たちはエドラスの王国から、ある別の使命を与えられてこの世界に送り込まれたのよ」

 

「待ってよ!マーチはこの世界で、私が食べたいのを必死に我慢して卵から孵したんだよ!」

 

「ものすごく不穏なワードがあった、の」

 

マーチがこの世界で生まれたのは間違いないのだ。なのに、エドラスから送られてきた?

 

「シャルルだってそうよ!」

 

「ハッピーもだ! オレが見つけたんだ!」

 

「そうね…」

 

次々に叫ぶウェンディたちにシャルルは小さく頷いた。

 

「最初に言っておくけど、私はエドラスに行ったことがないわ」

 

それはおかしな話だ。そうならなんでそんなにもエドラスについて詳しいのだろうか。

 

「あんたたちの言うとおり、この世界で生まれ、この世界で育った。でも私たちにはエドラスの知識や自分の使命が刷り込まれてる。生まれた時から、全部知ってるはずなのよ…なのに――!!」

 

シャルルはマーチとハッピーを睨み声を荒げた。

 

「あんたたちはなんで何も知らないの!?」

 

「…っ」

 

ハッピーはまたしても言葉に詰まり、アミクたちは黙って成り行きを見守った。

 

「またそれ?なの」

 

ただ一人。マーチが呆れたように息をつく。

 

「そんなのどうでもいい、の。大事なのは使命とかじゃない、の」

 

マーチの考えていることが読みづらい顔に強い意志が宿った。

 

 

「さっきも言ったけど、あーしはみんなといれれば、使命があろうがなかろうが関係ない、の」

 

 

そう、はっきりと口にした。それを聞いてハッピーも俯いていた顔を上げる。

 

 

「あーしたちが使命とやらを知らないことが、そんなに大事、なの?」

 

「…!」

 

今度はシャルルが言葉に詰まる番だった。

 

「…エクシードとしておかしいって言ってるのよ」

 

「おかしくて結構、なの」

 

マーチは傲然と言い放った。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)とやっていくならおかしいくらいじゃないとやっていけない、の」

 

何も言えなくなったシャルルはため息をつくと再び話し始めた。

 

「…まあ、いいわ。とにかくそういう事。私たちがエドラスの者である以上、今回の件は私たちのせい」

 

「別に私たちは君たちのせいだとは思ってないよ?」

 

アミクはそう言うがシャルルは頑なに「私たちのせいなのよ」と言い張った。

 

「…さっき、別の使命って言わなかった? シャルル」

 

ウェンディが疑問を口にするとシャルルは「それは言えない…」と口にした。

 

「教えてシャルル。オイラ、自分が何者か知りたいんだ」 

 

「関係ない、とは言ったけど、知りたくないか、と言われれば別、なの」

 

「言えないって言ってんでしょ! 自分で思い出しなさいよ…」

 

ハッピーとマーチが頼んでも言ってくれなかった。よっぽど言えない事情があるのだろうか。

 

「話もまとまった事だし、いっちょ行くか…エドラスってとこ」

 

「あれ?まとまったっけ?」

 

まあ、ナツの言うことには賛成だ。

 

「…はぁ…あんた全く理解してないでしょ」

 

シャルルが呆れたように言った。

 

その時。

 

ぐ~

 

 

ハッピーのお腹から音が鳴る。

 

 

「ナツ…オイラ、不安でお腹空いてきた」

 

「こんなときに呑気、なの」

 

しかし、お陰で雰囲気が緩んだ。

 

 

「そりゃ、元気の証だろ?」

 

「確かに、ナツはよくお腹鳴らしてるしね」

 

「うるせー」

 

 

ナツはアニマを凝視した。

 

「エドラスにみんなが居るんだろ?…だったら助けに行かなきゃな」

 

アミクも頷く。

 

「こうして私たちが残ってる。なら、みんなを助けるのは私たちの役目だよ」

 

そこでウェンディが再びシャルルに聞いた。

 

「でも、本当にエドラスにみんながいるの?」

 

「恐らく、いるとは思う。だけど助けられるかは分からない…そもそも、私たちがエドラスから帰ってこられるかさえ…」

 

だが、ナツはスパッと言い切った。

 

「仲間がいねんじゃこっちの世界に未練はねぇ…イグニール以外はな」

 

「右に同じく」

 

「私も…」

 

みんなの決意は固い。

 

 

シャルルはブツブツ言いだした。

 

「私も曲がりなりにも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員な訳だし…母国の責任でこうなった疚しさもある訳だし…連れてってあげないこともないけど…幾つか約束して」

 

「ぐちぐち理屈付けてないでさっさと連れていけばいい、の」

 

「うるさいわね!大事な事言うんだから!」

 

まあ、この二人は平常運転、と。

 

シャルルは真面目な顔をして続けた。

 

「私たちがエドラスに帰るということは、使命を放棄するということ。向こうで王国の者に見つかるわけにはいかない。全員変装すること」

 

「変装ねえ…」

 

変装といえば前にエルザの格好になった事があったが…。

 

 

「変装かぁ…!」

 

「嬉しそう…」

 

ナツは変装と聞いて心を躍らせているようだ。

 

「使命を放棄しちゃって大丈夫なの?」

 

ウェンディの問いかけにシャルルは鼻で笑った。

 

「いいの、昔から使命を全うする気なんて無かったから。そしてオスネコとメスネコ、私たちの使命については詮索しないこと」

 

「あい…」

 

「はーい、なの」

 

素直に返事する二人。特にマーチは「使命を全うする気はなかった」と聞いて嬉しそうだった。

 

 

ハッピーはまたお腹を鳴らした。

 

 

「3つ目、私も情報以外エドラスについて何も知らない。ナビゲートはできないわよ」

 

「大丈夫だって!私の魔法とか使えばなんとかなるよ!」

 

自信満々に胸を張るアミクを見てシャルルは「そう上手くいくかしら…」と不安そうに呟いた。

 

 

「最後に、私たちがあなたたちを裏切るようなことがあったら―――躊躇わず殺しなさい」

 

「無理」

 

 

アミクが即答した。

 

「いや、常識的にそんなことできるわけないでしょ」

 

「こ、これは必要な事なのよ!あんたたちの為にも…」

 

「自分の為に家族を殺すのが、必要な事だとは思いたくないよ」

 

アミクの澄んだ瞳がシャルルを射抜く。

 

「私はずっとマーチたちを信じてるから」

 

「もちろん、オレもだ!」

 

「う、うん!」

 

 

ナツとウェンディも同意する。

 

 

「そ、そうだよ…オイラ、そんなことしないよ…?」

 

ハッピーが腹を鳴らしながら言うとシャルルが「腹うるさい!」と怒鳴った。

 

「あーしだって、アミクを裏切るつもりはない、の」

 

マーチも胸を張る。

 

「…はぁ、あんたはそういうやつだったわね…。じゃあ、せめて無力化くらいはしておきなさい」

 

「まあ、それくらいなら妥協するよ」

 

 

アミクたちが頷くとナツがハッピーの方を向く。

 

「行こうぜハッピー! お前の故郷だ!」

 

「…あい!」

 

マーチはアミクを見上げる。

 

「あーしの故郷、興味ある、の」

 

「そっか。じゃあ、初めての里帰りといきましょうか!」

 

三匹のネコ――――いや、エクシードは背中から翼を広げた。

 

そして、それぞれの相棒を掴む。そして、飛び上がった。

 

 

まだ空に残っているアニマへと向かっていく。

 

 

「あんたたち! 魔力を解放しなさい!!」

 

「あいさー!!」

 

「なのー!!」

 

ぐん、と速度が上昇した。

 

「アニマの残痕からエドラスに入れるわ! 私達の翼、(エーラ)で突き抜けるのよ!」

 

アニマに近付くと、光が溢れてくる。雷のように閃光が飛び出し、光が波紋のように何回も広がった。光弾が周りを飛び回り、アニマの中心から虹色が広がってきた。

 

「うわあ…」

 

アミクは風圧に耐えながらも目を開ける。

 

 

この先がエドラス。自分たちの住む世界とは別の世界。

 

 

こんな状況なのに。

 

 

アミクの冒険心が疼いてるような気がした。

 

 

 

 

 

 

光を抜け、眩しさが取れてきたので目を開けてみると。

 

「すごい…!」

 

 

完全なる別世界が広がっていた。さっきの殺風景な景色に変わり、自然豊かな風景。

 

「ここが…エドラス!」

 

「あーしの、原点…?」

 

 

上空からエドラスの風景を見渡す。

 

 

「あれ!島が浮いてる!空島だ!天空城もあるかな!?」

 

「見たことない植物ばっかり…!」

 

「すっげぇ! 見ろよハッピー! あれ、川が空を流れてんぞ! どうなってんだ?」

 

アミクたちは大興奮だ。

 

島も川も浮き、アミクたちの世界では見かけたことのな木が生え茂っている。

 

 

「ちょっとあんたたち。気持ちは分かるけど、観光に来た訳じゃないんだからそんなにはしゃがないの」

 

シャルルに注意され、アミクたちは大人しくなった。

 

「ごめん…」

 

「悪い悪い」

 

「こんな状況じゃなかったらね…」

 

そうやって苦笑いしていると。

 

急にマーチたちの翼が消えた。

 

 

『へ?』

 

ナツたちはそのまま重力に従い、落下していく。

 

 

「きゃああああああ!?」

 

ボヨンボヨンボヨンボスン!

 

 

地面に向けて真っ逆さま。かと思ったが。妙に柔らかい植物に落下。それを貫通しながらも勢いが弱まり、最後に巨大なキノコみたいなのに着地。

 

 

「異世界来て即行で人生終わるかと思った…」

 

アミクはお尻を擦って胸をなでおろす。

 

「急に翼が…」

 

「なんで?」

 

「言ったはずよ。こっちでは魔法は自由に使えないと」

 

「魔力が有限だから、魔法も制限されるって事?不便だなぁ」

 

確かに、妙な感覚がする。

 

「しょうがない。歩いて探すしかないみたいだね」

 

「そうだな。みんな待ってろよぉ!」

 

ナツが叫ぶとシャルルに「うるさい!」と注意された。

 

 

 

「で、どうやって探すの?」

 

「そんなん匂いを嗅ぎゃあ…」

 

とナツが匂いを嗅ぎ始めたがすぐに顔をしかめる。

 

「ダメだ…嗅いだこと無い匂いばっかりして、さっぱり分かんねぇ…」

 

試しにアミクも嗅いでみる。

 

「本当だ。なんか不思議な臭い…」

 

「空気の味も違いますね」

 

これも異世界だから、ということか。

 

「音の味はたいして変わんないけど…まあ、こういうときは私にお任せあれ!」

 

アミクが手を上げる。

 

「私の『反響マップ』を使えば、この森?の地図なんてすぐに作れるよ!」

 

「おお!」

 

「すごいです!」

 

ウェンディたちがアミクを称賛した。

 

「はい、いくよ――――あれ?」

 

超音波を発しようと思ったのだが、何も起こらない。

 

「あれー!?なんで!?」

 

「忘れたの?魔法は使えないって」

 

シャルルが呆れたように言った。

 

 

 

 

アミクが肩を落としながら歩く。

 

 

「恥ずかしい恥ずかしい…自信満々に言っておいてスカッた…」

 

「き、気にしないでください。私たちだってなんにもできないんですから」

 

「ていうか、アミクは元々変な所あるからな。誰も気にしねえよ」

 

「はい、そこ!一ミリもフォローになってない!」

 

また、ハッピーのお腹の音が鳴った。

 

「オイラもお腹空いたよ」

 

「お弁当持ってくればよかったね」

 

ウェンディが言うとシャルルが眦を釣り上げた。

 

「緊張感無さすぎ!!」

 

「アミクたちはこれくらいゆるい方がちょうどいい、の」

 

 

マーチはそう言って「それで、どこに向かってる、の?」と聞いた。

 

「さぁ? とりあえず歩いてりゃ、そのうち何とかなんだろ?」

 

「無計画の極み…と言いたいところだけど計画を立てようがないしね」

 

ナツとアミクが言うとシャルルが「それもそうね…」とため息をついた。

 

 

「そういえば、ここに来るまで人に会っていませんね」

 

ウェンディの言葉に確かに、と思う。

 

「森にいるからかもね」

 

アミクがそう推測すると、シャルルが「まず思ったのよ」と言いだした。

 

「わたしたちの今の格好、怪しまれるんじゃないかしら?」

 

確かに。この世界とアミクたちの世界では文化が違う可能性もある。当然、服装も。

 

「人に見つかっても大丈夫なように変装しておいた方がいいわ」

 

「でも、変装って…どうやって?」

 

アミクが聞くと、ナツが何を思いついたのかニヤリ、とした。

 

 

 

「ナツ…これはないんじゃない?」

 

アミクたちはその辺にあった植物の葉っぱや木の実などを身につけて歩いていた。

 

「こういうの変装じゃなくて擬態って言うんだよ!」

 

ハッピーが声を上げると、ナツが口を尖らす。

 

「いいじゃねぇか、要は誰にも見つからなきゃいいんだろ?気にすんなっつーの」

 

「気にするよ!」

 

ちなみに、アミクは体にオレンジ色の葉っぱを巻いて、頭にへたみたいな帽子を被っている。

 

遠くから見るとパッと見ニンジンみたいだ。案の定、ナツがこちらを見て笑いだす。

 

「なっはっはっは!!アミク、ニンジンみてーだぞ!!」

 

「やかましい!!私が一番自覚してるよ!」

 

不幸な事に緑色のツインテールが葉っぱのようになっているのでいい味出してる。

 

「てか、森の中にニンジンって不自然でしょ…」

 

「なんか…恥ずかしい…」

 

ウェンディがそう言うが、アミクよりはマシだろう。

 

 

「センスは悪いけど、アイデアとしてはいいわね」

 

シャルルが満足そうに言ってるのに「いいの…?」とマーチが首を傾けた。

 

 

 

 

しばらく進むとあの浮いている川が見えてくる。

 

「わあ、川が空に向かって流れてるなんて…。ファンタジーだからおかしくはないけどやっぱ圧巻だなぁ…。写真とってツイッ○ーにあげてみたい…」

 

「たまにアミクが何言ってるか分かんないときあるよ…」

 

ハッピーが疑問符を浮かべている傍でウェンディが「あ!見て、あそこ…」と何かに気がつく。

 

そこには、川で釣りをしている男の姿があった。

 

「エドラスの人間みたいね…」

 

「よかったぁ…私たちと同じみたいで…」

 

この世界の人が自分たちと同じか、確証がなかったウェンディが安心する。

 

「あれ?ナツは?」

 

急にナツが消えたのでみんなが周りを見まわしていると、「あ、いた」とアミクが指を差した。

 

 

みんながそっちを見ると、ナツが男の後ろの茂みから「よっ!ちょっといいか?」と出てきたところだった。

 

ナツを見た男は悲鳴を上げた。まあ、あの姿のナツが急に現れたらね…。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)ってギルドの奴ら探してんだ。どっかで見なかったか?」

 

「うわあああああ!!?」

 

尋ねながら近付くナツ。とうとう男は悲鳴を上げて逃げてしまった。

 

「んだよ……ちょっと話し聞こうとしただけじゃねぇか」

 

「ちょっとちょっと。今の私たちの格好忘れてる?驚くに決まってるでしょ」

 

「それに、妖精の尻尾(フェアリーテイル)ってギルドなんて聞いちゃ何の意味もないでしょ!?」

 

 

アミクたちの苦言にむっとしてナツが言い返した。

 

「そんじゃあどうやってみんなの居場所調べんだよ!」

 

その言葉にみんな言葉に詰まる。

 

 

「…もし、今の男性が王国に通報したら…」

 

「この擬態も意味無いよね」

 

「…とにかく、ここから離れよう」

 

 

 

もう擬態しても無駄な気がしてきたので全部取って元通りになる。

 

「はぁ…ハッピーじゃないけどなんかお腹すいてきた気がする、の」

 

マーチがお腹を押さえた。

 

「ねー。さっきの人も釣り竿ぐらい置いて行ってくれればよかったのに…」

 

「ご丁寧に全部持って逃げてった、の…」

 

マーチたちの会話を聞いていると、アミクは川の方からポチャンという音を聞き取った。

 

「何か聞こえた!」

 

 

魔法が使えなくても体質は変わらないらしい。周りを見回すと、川から魚が頭を出しているのが見えた。

 

「あ! ナツ、魚だよ!」

 

「おぉし! あれを捕まえて飯にでも――」

 

とナツが意気込んだ時、魚が全身を現す。その姿は―――――。

 

 

『でか―――っ!!?』

 

 

巨大だった。

 

「そしてキモイ!!あんなの食べたくないよ!」

 

「強そうな奴じゃねぇか! 燃えてきたぞ!」

 

ナツは戦う気満々のようだ。

 

「ダメー!さっきの私の痴態を思い出して!魔法は使えないんだよ!」

 

「おおっ!?そうだった!!てか、そんなに気にしてたのか…」

 

 

試しにナツが手に力を込めても、火が出ない。

 

 

「クソー!逃げるしかねえのかー!!」

 

「こっちがエサにされちゃう――!!」

 

アミクたちは大急ぎで川から離れた。ところが、魚も陸に上がって木をなぎ倒しながら追いかけてくる。

 

「魚なのに!?」

 

「魔法が使えねぇとなるとこの先厄介だぞ!?」

 

「今頃気づくなんて遅いよナツ!!」

 

必死に逃げていると、目の前に崖が見えてきた。

 

 

「わーっ!!追い詰められたー!!」

 

アミクたちはできる限り端に身を寄せた。間一髪、巨大魚は傍を通り過ぎて勢い余って崖から落ちてしまった。

 

「皆さん大丈夫ですか?」

 

「お腹は空いてるけど、命はあるよ」

 

「どんだけお腹鳴ってる、の…」

 

崖から見下ろしながら一息つくアミクたち。

 

「全く…変装もしていないのにこれ以上騒ぎを起こさないで!!」

 

「いや、これは不可抗力だと思う…」

 

アミクの言葉も聞き入れず、シャルルはプンプン怒る。

 

「王国の連中が私たちの存在に気づいたら何をするか分からないのよ!? そうなったらみんなを救出するどころか、私たちだってどうなるか分からないんだから!!」

 

「そっか…なんかよく分かんねぇけどやべえってことは分かった…」

 

納得したように頷くナツにシャルルは「なんでそこでよく分かんないのよ…!」と青筋を立てた。

 

「そんなに怒ってばっかだと、禿げるよ?なの」

 

マーチがありがた~い忠告をしてあげると「誰のせいだと思ってんのよ!!」と叫んだ。

 

とりあえず、今はシャルルが一番うるさかった。このエクシード、ストレスで禿げるぞ。

 

 

 

その後、とある二人組の男性に出会ったのだが…。その二人の行動が不可解だった。

 

「どうか御許し下さいませ!!」

 

「エクシード様、どうか命だけはご勘弁を!!」

 

マーチたちを見て急に土下座したのだ。

 

「エクシードって…」

 

アミクはマーチたちを見る。

 

「命だけはって…ハッピーじゃ人は殺せねぇだろ…戦闘力的な意味で」

 

「むしろ、やられる側だよね」

 

「ぐはっ! 酷いよ二人とも!!」

 

とりあえず、アミクは二人に近付く。こういうのはアミクの方が適任だろう。

 

 

「あのー、ちょっと聞きたい事があるんですけど…」

 

すると、二人は顔を上げアミクの顔を見て「おお…!」と見惚れた。が、アミクの後ろにハッピーたちがいるのを見ると慌てて逃げ去ってしまった。

 

 

「えー…」

 

アミクはポツンと呟いた。

 

 

「さっきの人たち…なんでエクシードに怯えてたのかな?」

 

ウェンディが呟くとアミクが「わ、私のせいじゃないよ!」と主張する。

 

「オイラ…そんなに怖い顔してたのかな…」

 

「食われると思ったとか?」

 

「それはない、の」

 

マーチたちが色々推測している中、シャルルは難しい顔をして考え込んでいる。

 

「エクシード『様』って様付けしてたから、偉い立場にあるみたいだけど…ハッピーが偉いなんて考えられ――――」

 

ボス、とアミクの足元から音がした。見ると、キノコを踏んでしまったようだ。でも、そのキノコの様子がおかしい。

 

「い、嫌な予感が…」

 

アミクが冷や汗を垂らした途端。

 

キノコが急激に膨らんで、アミクたちを弾き飛ばした。

 

 

「なにやってるのよー!!」

 

「ひーん!!ごめんなさーい!!」

 

アミクたちはピンボールのようにキノコからキノコへと跳ねられ、最後にはとある家の屋根をぶち破って止まった。

 

「いたた…どこかの誰かさん、家の屋根に穴開けちゃってごめんなさい…」

 

心の中で合掌して周りを見回すと、どうやら倉庫の中のようだ。

 

 

「あ!服もある!」

 

「ちょうどいいわ。ここで変装用の服を拝借しちゃいましょ」

 

災い転じて福と化す。アミクとウェンディは自分のサイズに合いそうな服を手に取る。

 

「ナツさんは見ないでくださいね」

 

「見たら眼つぶししちゃうんだから!」

 

「恐ろしいなお前―――!?」

 

アミクは元々着ていた緑のネクタイと白いシャツ、青のスカートを脱ぎ、ショートパンツと半そでのシャツに着替えた。

 

ウェンディはアミクリスペクトで髪型をツインテールにする。

 

「あ、ウェンディかわいい!」

 

「そ、その…アミクさんも似合っています…」

 

「ありがと。あ、でも胸がキツイ」

 

「…」

 

ウェンディが落ち込んだ。

 

「ま、こんなところかしら」

 

「意外と悪くない、の」

 

「かわいい~!シャルルもマーチもなに着ても似合うね!」

 

「当然、なの」

 

ハッピーたちも着替え終わったようだ。

 

 

「お?」

 

 

その時、ナツが何かに気付いたようだ。

 

 

窓の外を見て震えている。

 

 

「どうしたの?」

 

「見ろよ!妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ!!」

 

「え!?」

 

ナツに言われて外を見てみると。

 

 

そこには確かに―――――外観は大きい植物のようになっているが――――妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドマークがある建物(?)があった。

 

 

 




できた…。

話は変わるけど。

前の閑話のオリジナルの話で、アミクたちが奴隷になるバッドエンドを思いついたけど…やっぱやめた。


次回も頑張ります。

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