妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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今回こそ出るぞー!奴が出る!

ちなみに両手でふくろうの影絵作れます。(くそどうでもいい)


エクスタリアともう1人の「彼女」

「へー!スゲェじゃん!マジでそっくりじゃねえかヨ!おもしれーじゃん!!」

 

捕まったアミクたちは、白いメッシュの入った髪に、矢印のような眉毛が特徴の、軽薄な口調の青年に引き渡された。

 

彼はアミクを見るなり興奮し、無遠慮に触ってきたりしたのだ。「カハッ」と面白そうに笑う男。言動のせいか、まだ幼い印象を受ける。

 

エドエルザもそうだったが、この男もアミクを知ってる感じだった。やはりこれは…。

 

「テメェ!アミクに触れんじゃねえ!」

 

ナツが男に噛み付くと、彼は「おぉ!スゲェ怖ぇ!」とニヤけながらアミクから離れる。

 

そして、アミクたちを牢屋の中に放り込んだ。

 

「痛っ!」

 

「この野郎!! みんなはどこだ!?」

 

牢の鍵はすぐに閉められだが、ナツは鉄格子にしがみついて吠えた。

 

「みんな…?」

 

「ルーシィさんとシャルルとマーチとハッピーです!」

 

そう、マーチたちはともかく、一緒に捕まったはずのルーシィもいない。途中から彼女だけ別れてしまったのだ。

 

「ルーシィ…あぁ! あの女か! 悪ぃけど、あの女に用はねぇんだ。処刑されんじゃね?」

 

その男―――――ヒューズは見下した笑みを浮かべた。

 

「そんな…!止めてよ!!ルーシィを殺さないで!!」

 

アミクも鉄格子にしがみ付き、涙を浮かべる。

 

それを見たヒューズは「チッ」と舌打ちして顔を逸らした。

 

「クソ、意外とやりづれーもんじゃん?同じ顔ってヨ」

 

「…?」

 

アミクは首を傾けるが、ヒューズは「カハッ」と笑ってアミクの体を見る。

 

「全部が同じってわけでもねーみてーっつーか?」

 

その時、ナツがガン!と額を鉄格子に打ち付けた。

 

「ルーシィに少しでも傷をつけてみろ…てめぇら全員灰にしてやるからな!!!」

 

親の仇でも見るが如く、ヒューズを睨むナツ。その姿からは本気の怒りを感じられた。

 

 

「アースランドの魔導士ってこんなに凶暴なのかよ!」

 

しかし、それを見てもヒューズはニヤニヤと笑っている。檻の中の猛獣をみる表情みたいだ、と言うべきか。

 

「なんでルーシィさんだけ…。シャルルたちは!?」

 

ウェンディが声をあげると、ヒューズが答える。

 

 

「エクシードの事か?任務を完遂したエクシードは母国へお連れしたよ。今頃褒美でも貰って、いいもん食ってんじゃね?」

 

「任務を、完遂…?」

 

任務。シャルルは任務を遂行するつもりはない、と言っていたのに、なんで…。

 

「そんな事あり得ない!その任務の内容は知らないけど、シャルルたちは放棄したはず!!」

 

ウェンディが再び声を上げると、彼の笑みが深くなった。

 

「いや、見事に完遂したよ」

 

「なんなの…その任務って…まさか、ここに連れてくる事自体が『任務』だったとかいうつもり?」

 

アミクが呟くと、ヒューズは大げさに「おぉ!鋭いじゃん!」と驚いた。

 

その反応にアミクたちは息を飲んだ。

 

「ま、本当は色々と経緯があったのヨ」

 

そう言うと、ヒューズは勝手に説明を始めた。

 

 

 

 

一方。

 

「マーチ!起きて!」

 

マーチはハッと目を覚ます。ぼやけた視界が戻ると、ハッピーがこちらを覗き込んでいるのが見えた。

 

マーチはフカフカな感触を感じながら起き上がった。

 

「…ここは?なの」

 

「分かんない…」

 

「私たち、どうなったの?」

 

シャルルも目を覚ましていたようで、周りを見回している。

 

マーチたちは豪華な部屋のベッドに寝かされていたようだ。それにこのベッドはかなり大きく、マーチたち3匹がいてもスペースが余るほどだった。

 

「オイラたち…眠らされちゃって…それで…どこだろ、ここ?」

 

あの後、エドエルザたちによって眠らされてしまったマーチたち。エドエルザたちがここまで運んで来たのだろうか。

 

 

「もう!意味わかんない、の!」

 

自分たちが偉い立場みたいだとか、アミクたちはどこだとか。色々あり過ぎて頭の中がこんがらがっている。

 

シャルルは顔を俯かせて震えていた。それに気づいたマーチが声を掛ける。

 

「シャルル…?」

 

「…あんたの、言う通りだった。私の情報が、罠だった。私は、情報に誘導されていた…」

 

「違うよ! オイラたちは偶々見つかったんだ! シャルルのせいじゃないよ!」

 

ハッピーが必死に慰める。マーチもぎこちなく言った。

 

「…まだ、罠だった確証はない、の。ハッピーの言う通り、普通に見つかって待ち伏せされた可能性もある、の」

 

しかし、それでもシャルルは声を震わせる。

 

「私、誓ったのに…ウェンディを、絶対に、守るって…」

 

それを聞いてマーチたちは言葉を詰まらせる。今のマーチたちにはシャルルを励ます言葉を持ち合わせていなかった。

 

 

その時、ドアが開いて誰かが入ってくる。見ると、エクシードのようだった。

 

しかも、見覚えのある顔だった。

 

「一夜!?」

 

そう、前に共に戦った連合軍の1人、青い天馬(ブルーペガサス)の一夜とよく似た顔をしていたのだ。

 

「にゃん、香り(パルファム)だ」

 

しかも仕草やセリフまでほぼ一緒である。

 

「て言うか猫!?」

 

「何を驚く!同じエクシードではないか」

 

そのエクシードが変なポーズを取りながら言う。すると、彼の後ろから細長い、黒い体毛のエクシードが右腕を断続的に振りながら現れる。

 

「ニチヤさん。彼らは初めてエドラスに来たんですよ?きっと、エクシードを見るのも初めてなんでしょう」

 

「おぉ、そうであったか…私はエクスタリアの近衛師団長を務めるニチヤ!にゃん、にゃん」

 

名前は微妙に違った。推測は付くが、彼はエドラスでの一夜なのだろう。種族が違うのはちょっと予想外だったが。

 

隣の黒エクシードも自己紹介をする。

 

「ぼきゅはナディ、エクスタリアの国務大臣ですよ。任務お疲れ様」

 

「…あの振動している手は疲れない、の?」

 

「シー!聞こえちゃうよ!」

 

マーチはナディの口にした「任務」に疑問を持つ。

 

(シャルルは任務を放棄した、って言ってたはず、なの。なのにこれは…)

 

「早速であるが、女王様がお待ちである。ついて参れ」

 

ニチヤの言葉にハッピーがピクリ、と反応した。

 

「女王様だって!?…二人とも、オイラに任せて! ここはひとまず様子を見るんだ。二人はオイラが絶対守るからね!」

 

「んー…頼りない、の」

 

「そんなぁ…」

 

とりあえず様子見することには賛成である。シャルルもゆっくりと頷いていた。

 

 

ニチヤとナディの後に続いて外に出ると、扉の脇に屈強なエクシードが立っていた。

 

「またエクシード…」

 

もしかしてここは…。

 

「それではこちらへ」

 

ナディに促され、通路を歩いて外に出る。

 

そこで見た光景にマーチたちは言葉を失った。

 

 

見渡す限りの沢山のエクシード。楽しそうに走り回る子供のエクシードや、商売をしているエクシード。エクシードしか存在せず、人間は1人もいない。

 

その中を歩いていると、エクシードたちがマーチたちを見て騒ぎ始めた。

 

 

「お?あれが噂の?」

 

「アースランドでの任務を完遂した!」

 

「見てよ、あの娘たち美人!」

 

様々な声が聞こえる。自分たちを讃える声、容姿を褒める声。軽く見回して見たが、やはりエクシードしかいない。

 

「エクシードばっかりだ…」

 

「そう、ぼきゅたちはエクシード。人間の上に立ち、人間を導くんだ!そしてここはエクシードの王国!『エクスタリア』!!」

 

エクスタリア。人間の国ではなく、エクシードという人間よりも上位の種族が集まる国。

 

(ここが、あーしの、故郷…?)

 

 

マーチたちはニチヤたちに案内され、王宮と呼ばれる建物の中に入っていった。確かに、王宮の言われても遜色ない造りをしている。

 

「人間は酷く愚かで劣等種だからね。ぼきゅ達がきちんと管理してあげないと」

 

「その上、酷い香り(パルファム)だ」

 

あんまりな言い草にマーチの眉が歪む。その『人間』にはアミクたちも含んでいるのだ。

 

「女王様はここで人間の管理をしているんだ」

 

「女王さまは素敵な香り(パルファム)さ」

 

「管理って…」

 

「勝手に増えすぎると厄介だからね、いらない人間も女王様が決めて殺しちゃんうだ」

 

 

マーチは不快な気持ちしか感じなかった。この世界も人間もエクシードも、勝手すぎる。

 

「なんでそんなことを…?」

 

ハッピーが聞くと、2人が答えてくれた。

 

「失われつつある魔力を正常化するためだと、女王様は仰った。女王様はこの世界だけでなく、アースランドの人間も管理しておられる」

 

「女王様には人間の死を決める権限がある。なぜなら、あの方は神なのだからにゃん!」

 

「神、なんて大きく出た、の…」

 

そこまで言わしめる人物とは…。

 

そこで、シャルルが足を止めた。

 

「私たちの任務ってなに? 私には生まれた時から任務がすりこまれていた」

 

ニチヤとナディは顔を見合わせる。

 

マーチたちは黙って聞いていた。

 

「その任務は…女王の人間管理に選ばれた滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、ウェンディたちの抹殺」

 

マーチは心臓を鷲掴みにされたような思いだった。

 

「ど、どういう事!?ウェンディたちの抹殺ってどういう事だよ!?」

 

そこまで叫んだハッピーはハッと気付いて後ずさった。

 

「あれ…?それじゃあ…オイラのやマーチの任務って…あれ? まさか…」

 

「そういうこと、なの…?」

 

マーチも呆然と呟く。

 

つまり、それは…。

 

「アミクを、あーしが、殺す…?」

 

あの緑髪のツインテールの少女を、この手で殺すところを想像してしまった。

 

真っ赤に染まった自分の両腕。そして、目の前にある、アミクの、死体…。

 

「…知らなかった方が、幸せだったわね…」

 

シャルルが悲しそうにマーチたちを見つめてきた。

 

そして、険しい顔でニチヤたちを問い詰める。

 

「私たちは任務を遂行していないし、遂行するつもりもなかった!なのにどうして完遂したことになってるわけ!?」

 

その言葉に、彼らは首を傾けた。

 

「記憶障害か?」

 

「仕方ありませんよ…『上書き』による副作用は未知数なのですから」

 

なんの話だ。

 

「ちゃんと、説明、しろ!なの!」

 

マーチが叫ぶと、ナディがため息をついて説明し始める。

 

「女王様の人間管理に従い、6年前、100人のエクシードをアースランドに送ったんだ。卵から孵ると滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を捜索し、抹殺するように情報を持たせてね。

しかし、状況が変わったんだ。人間の作り出したアニマが別の可能性を導き出したからね。アースランドの人間を殺すのではなく、魔力として利用するものなんだ。中でも滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は別格の魔力になるみたいだよ?」

 

ということは。

 

「だから、任務を『滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の抹殺』から『滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の連行』に変更したのさ!!」

 

マーチの瞳から涙が一筋流れた。

 

 

 

一方、アミクたちもマーチたちと同じ説明を受けていた。

 

「オレ達が本当に欲しかったのはお前らさ。ドラゴンの魔力…カハッ!楽しみじゃん!」

 

ヒューズはそう言い残し、笑いながら去っていった。

 

「ちくしょう…ハッピーが裏切るなんて…あるわけねぇ!あるわけねぇだろ!!コラァ!!」

 

ナツが誰もいない空間に向かって吠える。

 

「マーチ…」

 

アミクは今はいない相棒のことを思い浮かべる。はっきり言って信じ難い。そんなことする素振りも見えなかったし。

 

「『火竜の咆哮!』」

 

ナツがなんとかして鉄格子を壊そうとしているが、魔法は相変わらず使えないし、ビクともしない。

 

「シャルル…」

 

ウェンディも暗い顔で呟いていた。

 

そこで、アミクは疑問を口にする。

 

「でも…マーチたちに私たちを殺させようとしたって…どうやって?」

 

彼らには失礼だが、魔導士としては彼らは弱い。そんな彼らが滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を抹殺などできるだろうか。

 

しかし、そこで爪を伸ばすマーチを思い浮かべて「うわあ…」となる。

 

「なんか、マーチならできそう…」

 

「ありゃ、マーチがおかしいだけだ!!」

 

マーチもナツには言われたくないと思う。

 

「それに、殺すだけなら寝込みを襲うとかもできますよね…」

 

「う…」

 

暗い調子で言うウェンディに言葉が詰まる。確かに、寝ているところを包丁でグサリ、とされればジ・エンドだ。

 

「…実際は抹殺じゃなくて連行だったみたいだけど」

 

とにかく、とアミクは自分の気持ちを伝えた。

 

「私はマーチを信じる。マーチの正体がなんだろうと、ずっと一緒に過ごしてきたのは変わらないんだから。昔も今も、そして未来でもマーチは私の相棒なんだ!」

 

アミクの言葉を聞いて、ウェンディの瞳に光が灯ってきた。

 

「そう、ですよね…。シャルルだって、私の、大切な友達なんです。だから、シャルルを信じます!マーチやハッピーだって!」

 

アミクはウェンディの頭を撫でた。誰かを信じる強さを持つウェンディはもう立派に妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だ。

 

 

「オレだってハッピーを信じてるぞ!つーか、ハッピーがオレを裏切るとか器用なことできるわけねえだろうが!」

 

「いや、それ器用とかの話じゃないから」

 

自分の相棒に酷い言い草である。

 

 

大体、シャルルはともかく、ハッピーやマーチは何も知らないみたいだったので裏切るも何もないだろう。

 

シャルルだって、あの様子からは杞憂だと思うし。

 

 

しばらく、ナツが鉄格子を壊そうと努力する様を見続けた。

 

「ナツー、痛くないの?私、今は治癒魔法使えないんだから怪我しないでよ」

 

「わかってらぁ!!」

 

「わかってない…」

 

ナツはしばらく鉄格子を殴ったりしていたが、疲れたのか座り込んでしまった。

 

「…これから、私たちはどうなるんでしょう…」

 

「私たちの魔力が欲しいみたいだったし、どうにかして魔水晶(ラクリマ)にするつもり、とか?」

 

「それは、嫌です。なんとかしてここから脱出しないと…」

 

「うん…でも、たった一個しか残ってなかった音爆弾も没収されちゃったし、正直お手上げ状態かも…」

 

やることもないので、ウェンディと喋っていると、1人の男が牢の前に立った。ヒューズではない。白いマントと桃色の鎧に身を包んだ、リーゼントと割れ顎が特徴の男だった。

 

「誰だテメェ!!」

 

ナツが叫ぶとその男はアミクを見て口を開く。

 

「んー、本当に『彼女』と瓜二つなんだねぇ。こうして見ると見分ける手段がほとんどないな」

 

その男―――――シュガーボーイは顎を撫でながら珍しそうに言った。

 

「何の用だよ!オレたちをここから出せぇー!!」

 

「んー、それは叶わない願いだねぇ。君たちには魔力を提供してもらわなきゃいけないからさ」

 

提供、と言ってはいるが、実際はただの搾取だ。

 

「それより、ちゃんと用件があって来たんだよ。ひーーー君を連れてこいってね」

 

シュガーボーイは何かを言いかけ、言い直すと真っ直ぐアミクを指差した。

 

「わ、私…!?」

 

「なんでアミクさんだけ!?」

 

ウェンディたちが目を見開くと、シュガーボーイが気障ったらしく説明する。

 

 

「陛下の命令でね。君を一目見たいってさ。あと、3人も滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)がいるなら一人ぐらいは実験に使ってもいいんじゃないかって提案されてねぇ」

 

口調は温和だが、酷薄そうな眼光がアミクを射抜いた。

 

「というわけで君は実験体になってもらうよ。命の保証はしないけどね。生き残ったとしても、魔力を頂戴してもらうよ」

 

「ふざけんなあぁぁ!!!」

 

ナツがガツン!と鉄格子を殴る。

 

「そんなことさせてたまるか!!アミクは連れて行かせねえぞ!!」

 

「君は自分の心配をした方がいいと思うけどねぇ」

 

ウェンディがギュッとアミクの袖を掴む。

 

「あ、あの!連れていくなら私にしてください!」

 

「ウェンディ!?」

 

このままみすみすアミクを行かせてたまるか、という思いから咄嗟に提案するウェンディ。しかし、シュガーボーイはそれを一蹴する。

 

「陛下のご指名だ。さぁ、来なさい。グリーンガール」

 

中に兵士たちが入ってきてナツやウェンディを取り押さえる。その間にアミクは手首をあのとりもちみたいなもので縛られてシュガーボーイに連れ出される。

 

「放せこの野郎!!放せ―――――!!!」

 

「アミクさん!!いやぁ!!」

 

ナツもウェンディも必死に兵士たちの拘束を振り解こうとするが叶わない。

 

ウェンディの目から雫が床に落ちた。

 

アミクは振り返って優しく微笑んだ。

 

「大丈夫!絶対に耐えきって見せるから!だからナツたちも負けないで!!必ず生きて会お…うわっ!?」

 

「無駄口はよしなよ」

 

シュガーボーイはさっさとアミクを引っ張って行ってしまった。アミクは転ばないように慌てて駆け足になる。

 

「アミクゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 

ナツの絶叫とウェンディの泣き声がその場に残った。

 

 

 

 

 

アミクが連れて行かれたところは玉座の間のようだった。目の前には少し高い位置にある玉座にあの国王が座っており、その横には「ぐしゅしゅ」と笑う、変わった形の髭が特徴の小柄な老人が立っている。

 

バイロ、というらしい。彼はアミクが視界に入ると大げさに驚いて引きつった笑みを浮かべていた。

 

さらにそのバイロの後ろから覗きこむように小柄な少女の姿も見える。年はウェンディと同じかそれよりも幼いくらいか。犬みたいな顔立ちで愛嬌があるが、その顔を驚愕と不安の色で染めている。

 

横を見ると、エドエルザ、ヒューズ、シュガーボーイ、そして左目に傷のある大柄な黒豹――――人間にはみえないが、二足歩行をしている上に人間の言葉を喋る。もしかして、エクシードだったり?それにしては体躯が大きいが――――が並んで立っていた。

 

黒豹もアミクを見るなり驚愕していたが、一体この世界の自分はどういった立ち位置なんだろうか。

 

 

とにかく、この場には重鎮が勢揃いしているみたいだった。(犬っぽい顔の少女は例外)

 

 

国王――――ファウストがじっくりアミクの顔を見てようやく口を開いた。

 

「なるほど。確かに同じ顔だな」

 

あの時はアミクは下から見上げていただけで、ファウストもアミクを見ていたわけではなかった。だから、あまり多くの印象は受けなかったが、こうして対面して実感する。

威厳のある声に立ち振るまい、そしてなにより王としての風格。それらがアミクに圧し掛かってくる。

 

伊達に国王をやってはいない、というわけか。

 

「不思議なものだな。何度も見た顔であるはずなのに、まるで別人のような印象を受ける」

 

「…この世界の私は、一体何者なんですか?」

 

敬語である必要はないだろうが、最低限の礼儀として使う。ファウストはアミクの質問を鼻で笑うと再び喋り出す。

 

「貴様に教える義理はない。だが、一つだけ言わせてもらうと…」

 

ファウストは玉座から立ちあがり、降りてくる。

 

エドエルザが「危険です、陛下」と注意するが、それを片手を上げるだけで窘めた。

 

そして、アミクに近付く。

 

(…やっぱり、この匂い…)

 

ファウストから漂ってくる匂い。これは間違いなく…。

 

 

 

「忌々しい!!」

 

「…あ、ぐぁ!!?」

 

急に杖でぶん殴られた。問答無用過ぎませんかね、このご老体!?

 

ぶっ飛ばされたアミクは倒れ込んで床を滑る。視界の端に、黒豹が飛び出しそうになっており、少女が泣きそうな顔になっているのが見える。

 

「あやつと同じ顔なのが忌々しい!!見るだけで反吐が出るわ!!」

 

じゃ、なんで一目みたいって言ったんだよ!とツッコミたくなるのを我慢して起き上がる。

ファウストの顔を見ると、彼の目には嫉妬と憎悪が渦巻いているように見えた。

 

そんなファウストの目を睨む。もう敬語を使う必要もないだろう。

 

「私、完全なとばっちりだけど…」

 

「黙れ!!」

 

ファウストは激情のままアミクの頭に向かって何度も杖を振り下ろした。大きなダメージにはなっていないが、たまに嫌な音が響く。瞼が切れたのか、大量の血がアミクの片目を濡らす。

 

ちょっと、私、実験体じゃなかったんですか!?実験する前からこんな乱暴に扱っていいんですか!?

ほら、そこの人たち見てないで王のご乱心を止めなさい。

 

黒豹――――パンサー・リリーは手から血が出るほど強く握りしめて、犬顔の少女――――ココは見てられない、とばかりに顔を背ける。

絶対これあの子の教育に悪いでしょ。

 

他の人たちは眉一つ動かさずにそれを見ていた。

 

気が済んだのかファウストはハァ、ハァ、と荒い息を吐いている。年取ってるのに興奮して激しい動きなんかするから…。

 

杖にはべっとりとアミクの血が付き、床に垂れていた。ファウストの服にも返り血が少々付いている。

 

 

「…ぅ、く…」

 

まだアミクの意識は残っている。未だ諦めない眼差しをファウストに向けていた。

 

「マ、マグノリア、のみんな、を元に戻して…」

 

息も絶え絶えに訴えた言葉がそれだった。

 

「貴様もあやつのような言葉を…!!」

 

再びファウストの目に憎悪が宿って杖を振り上げるが、それはバイロの言葉によって止められた。

 

「陛下。その辺りでお止めになってくだされ。ぐしゅしゅ、彼女は大事な実験体ですからな」

 

「…分かっておる」

 

ファウストは服を叩いて埃を落とすとエドエルザを見据えた。

 

 

「地下の実験室に連れていけ。実験後に生きているならば魔力を絞りとれ。処分は儂がこの手でする」

 

「はっ」

 

エドエルザは倒れているアミクを引きずって玉座の間から出て行ってしまった。床に血の擦れた跡が付く。

 

 

「…儂はあやつのもとに行く。各々、持ち場に戻れ」

 

『はっ!』

 

ファウストの言葉に返事をすると、それぞれ行くべき場所に行く。

 

リリーはアミクが去った方向を見て頭を振り、ココはメソメソと泣きながら玉座の間から出て行った。

 

「…」

 

ファウストはゆっくりと目的地に向かう。

 

 

このエドラス城にある、塔の一つへと。

 

 

 

ゆっくりと階段を登りきる。老体には厳しいはずだが、意外にも汗一つ浮いていない。ファウストは目の前にある頑丈な扉を見据えた。

 

これは侵入を阻むためではない。逆に、中のものを出さない為だ。

 

ファウストは扉の出っ張りの部分に杖を置く。この扉は魔力に反応して開閉するシステムになっており、ファウスト自身とファウストに認められたものしかこの扉のキーを所持できない。

 

ファウストの場合、そのキーが杖なのだ。さっきそれでめっちゃ人殴ってたが、それぐらいでは壊れない程の耐久力もある。

 

 

耳障りな音を立てて、扉が開く。

 

中からはカビ臭い匂いが漂ってきた。ネズミの死骸が転がっており、部屋の角には蜘蛛の巣が張っている。

 

高い場所にある窓には鉄格子が付けてあり、そこから差し込む光は暗い。

 

 

 

そして、部屋の中心。あちこちの壁に繋がれた鎖に四方八方から厳重に拘束され、項垂れる少女。

 

 

本来は明るいであろう緑髪のツインテールはやや、くすんでいる。所々破けた服を着ており、何日も洗濯していない事が匂いから分かった。

 

なのに、細い体には傷はなく、白い肌を曝け出している。しかし、その体にある胸部は絶壁の如く寂しい。

 

ファウストが来た事に気付いたのか彼女は顔を上げた。

 

 

こんな状態でも不変を保つ、綺麗な顔立ち。そこから滲み出る気品。そして、未だ衰えることのない意志の強いマリンブルーの瞳。

 

 

ファウストは昔からずっとこの瞳が苦手だった。だから、先ほどのアミクの瞳を見て我慢できなくなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「数日ぶりだな―――――娘よ」

 

 

 

 

 

エドラス王国の国王ファウストの一人娘。この国の王女。

 

 

 

「――――――お父様」

 

 

彼女は鈴のような声を響かせた。

 

 

 

この塔に囚われている彼女の名をアミク、と言った。

 

 

 

 

 




やべえ、めっちゃノリノリで書いたけどこの作品の大半が主人公いじめられてるシーンばっかな気がする。

これ大問題では?


とりあえず、やっとエドアミク登場しました。このキャラも上手く活かしていきたいと思います。
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