妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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この小説がランキング入りしてました!

日間のだけど。


これもこの小説を読んでくださる皆様のおかげです。

これからも、頑張って完結までかければ、と思います。


飛べ!友のもとに!

城の中で兵士たちに追いかけられるマーチたち。

 

これでもか、というほど多くの兵士たちに追いかけられ、マーチたちは大量の汗を流していた。

 

「こ、こんなところで『逃○中』をやるなんて思わなかった、の!」

 

「マーチもたまにアミクみたいなこと言うよね!」

 

とにかく、まずは城の外にでなくては。出口はすぐ目の前。

 

「ここは通さんぞ、堕天め!!」

 

しかし、その出口の前に屈強な兵士が立ち塞がった。

 

「マーチ!爪攻撃でなんとかならない!?」

 

「あれは魔法で伸ばしてただけ!なの!」

 

つまり魔法を使えない今は爪も伸ばせないわけだ。

 

 

「でも、やりようはある、の!」

 

「どうやって!?」

 

マーチは屈強なエクシードに向かって走ると―――――目の前でしゃがみこんだ。

 

「むっ!?」

 

予想外の動きだったのかエクシードの動きが一瞬止まる。

 

マーチはその隙を狙った。尻尾を床に叩きつけて思いっきり飛び跳ねる。

 

「マーチ垂直頭突き!!なの!!」

 

「ごぉっ!!?」

 

エクシードの顔面にマーチに頭突きが決まった。顔を押さえて痛がる兵士の脇を通り抜ける。ハッピーたちもそれに続いた。

 

マーチたちは城の外に脱出することに成功した。

 

「マーチ、すごぉい!!」

 

「練習しておいてよかった、の」

 

マーチは自分が魔導士としては実力が低い方だと自覚している。

 

なので、それを補うため、様々な工夫をしているのだ。爪を伸ばす魔法しかり、先ほどの体術もしかり。

 

自分の体を上手く利用して攻撃する方法を思い付いては練習したりしているのである。少しでも、アミクたちの役に立つ為に。

 

「多分、この三匹の中じゃ、あーしが一番強い、の」

 

「オ、オイラも特訓して見ようかな…」

 

シャルルは二人に連れられながらも浮かない顔をしている。まだ、心は晴れない。

 

 

 

 

三人は街を駆けながらニチヤたちから逃げていた。

 

エクシードたちが何事か、とこちらを見る。

 

 

「どいてどいてー!!」

 

「誰かー!後ろから怖いおじさんたちが追いかけてくる、のー!」

 

マーチたちが叫びながら走ると、エクシードたちは「たしか、あいつら…」「任務を達成した…」と口にする。

 

そして、後ろからニチヤたちが追いかけているのを見るとギョッとなった。

 

「どういうことだ!?」「なぜ、ニチヤさんたちが…」

 

困惑するエクシードたちの間を抜け、兵士たちから逃げていく。

 

 

「待て待てぇぇい!!メェェン!!!」

 

しかし、少しずつ彼らとの距離は縮まっていっている。このままでは捕まってしまう。

 

そこでマーチは藁が積まれた荷車が視界に入った。

 

「…!ハッピー、シャルル!あそこに隠れる、なの!」

 

「わ、わかった!」

 

マーチたちは咄嗟に藁の中に飛び込んだ。小さな体躯が幸いしてすっぽり藁の中に収まる。

 

「こ、これなら大丈夫…ん?」

 

その時、ハッピーは藁の中に張り紙が埋まっている事に気が付いた。何となくそれを手に取る。

 

丁度、兵士たちは荷車の脇を走り抜け、疲れた様子のニチヤが荷車の目の前で盛大に転んだ。

 

「メェェン…ハァ…ヒィ…疲れてなどいない…私はまだ若い…女王様の期待に応えねば…!」

 

ニチヤは起き上がって再び走り始めた。

 

「…ふぅ、もう行ったみたい、なの」

 

「よかったー…え?」

 

ガタン、と音がして荷車を止めていたストッパーが倒れた。さっきニチヤが転んだ拍子にストッパーがずれてしまったらしい。

 

「あ、コレはこの後の展開が予想でき――――きゃああああ!!!」

 

「うわああ――――!!!」

 

「キャ―――!!!」

 

 

マーチたちを乗せた荷車が猛スピードで坂を下り始めた。

 

「あ…」

 

「シャルルー!」

 

激しく揺れた拍子にシャルルが荷車の外に飛び出してしまう。それをマーチが咄嗟に飛び出して手を掴んだ。

 

「あんた…」

 

「マーチ!」

 

「ナイスハッピー!」

 

ハッピーは片手でマーチの足を掴んで二人が荷車の外に飛び出るのを阻止した。

 

しかし、荷車は止まらない。

 

荷車はそのまま崖から飛び出す。

 

 

「これ逆に降りた方がよかったんじゃない、の!?」

 

「今更遅いよー!」

 

必死に荷車にしがみつきながら叫び合うマーチとハッピー。

 

とうとう荷車は地面に落下して壊れてしまった。奇跡的にマーチたちは無事だ。

 

「ふ、二人とも、大丈夫…?」

 

「意外と無事、なの」

 

「なんとか…あ!二人ともあれ見て!!」

 

ハッピーが上を指差したのでそちらを見ると、空に巨大な魔水晶(ラクリマ)が浮いていた。

 

もしかして…。

 

 

「王都で見たやつより大きい、の…きっとあれが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみんな、なの!」

 

「あんな所に…」

 

マーチはハッと気付いて周りを見回す。

 

「っていうかここ自体が空に浮いてる島、なの!」

 

「王都があんな所にある…」

 

ずっと下の方に王都が見えた。エクスタリアは空に浮いている島だったわけか。

 

「どうやって王都に行こう…」

 

「今の私たちは(エーラ)を使えないわ」

 

「どうしよう、なの…ハッピー、何持ってる、の?」

 

マーチはハッピーの手に紙が握り締められていることに気付いた。

 

「うん…?あ、これさっきからずっと…」

 

ハッピーはその紙を広げて見る。どうやら誰かの手配書のようだ。1人の男性のエクシードが載っている。

 

「えっと…『堕天使』パルティータ?…堕天使って…」

 

鋭い目付きをしたエクシード。このエクシードが『堕天使』と呼ばれている…。

 

確かニチヤもマーチたちが堕天したと言っていたはずだ。

 

 

「この人もオイラたちみたいにこの国に反抗したりしたのかな…」

 

「そんなこと考えてもしょうがない、の」

 

マーチはそう言うと周りを見回した。

 

「ここから降りる方法を考えないと…」

 

「コラァ!!オイラの畑でなにしてやんでぃ!!」

 

突如、怒声が響いた。ビクッとして振り返ると麦わら帽子を被り、鍬を構えた泥棒髭と白い体色が特徴的なエクシードが立っていた。

 

「はは~ん…兵隊共が探し回っとる堕天ってのはおめぇらの事だな?」

 

険しい表情でマーチたちを睨むエクシード。

 

マーチとハッピーはそれぞれ構えた。

 

「見られたからにはしょうがない、の。消えてもらう、の」

 

「マーチ、考え方まで犯人側になってるよ!?」

 

だが、エクシードはじっとマーチたちを見ると突然叫んで鍬を振り回した。

 

「カー!出てけ出てけー!」

 

「な、なんて乱暴なオヤジ、なの!」

 

「オヤジとはなんだ!礼儀のなってないガキだな!」

 

そうしていると、崖上が騒がしくなってきた。

 

「この辺りか!」「探せ!」

 

「う…!」

 

もうこんな近くまで…。こうなれば見つかるのも時間の問題だ。

 

「も、もう追ってきた、の…!」

 

マーチたちが慌て出すと、白いエクシードは「カー!畑から出ていけ!」と叫ぶ。

 

「あい!すぐに出ていきます!」

 

「でもって家に来い!」

 

『え?』

 

マーチたちは呆然となった。出ていけ、と言ったり来い、と言ったり。無茶苦茶なエクシードだ。

 

それに、自分たちが『堕天』だと知っているのに、なぜ。

 

そのエクシードは有無も言わさずハッピーの手を掴んで自分の家に向かっていった。

 

 

 

ナツとウェンディは謎の石みたいなものに磔にされていた。

 

「クッソー!くっ付いて離れねー!なんなんだこれはよぉ!」

 

「ぐしゅしゅ」

 

その場にいたのはナツとウェンディだけではない。

 

小柄な老人、バイロもいた。

 

「貴方方にはここで魔力を頂かせてもらいます。いよいよ、アレの使いどきですな…」

 

バイロは自分の後ろにある装置を見て不気味に笑う。

 

「ア、アミクさんはどこですか!?」

 

「そーだ!アミクを返せこのヤロー!」

 

ウェンディたちが問うと、バイロは口角を更に釣り上げた。

 

 

「今頃実験室じゃないでしょうかねぇ。あんなハイエナの巣窟みたいな場所に送り込むとは、陛下も人が悪い」

 

ガッ、とナツが石から飛び出そうと踏ん張る。その顔は悪鬼よりも恐ろしい表情になっていた。

 

「テメェら!!アミクに指一本触れてみろ!!骨すら残さずに燃やし尽くしてやる!!!」

 

流石にバイロも怖気付いて一歩退いたが、すぐに飄々とした態度になった。

 

「ぐしゅしゅ、恐ろしいですなぁ。しかし、今は自分がどうなるのかを心配した方が良さそうですぞ?」

 

「…うぅ、アミクさん…」

 

ウェンディは暗い顔で俯いてしまった。

 

 

 

「…なんか…思ってたのと違う…」

 

アミクは実験室の中を見回した。

 

アミクの想像は映画とかでよくある水槽があって、機械がたくさんあるような、そんなものを思い浮かべていたが…。

 

現実は真ん中にベッドがポツンとあるだけだった。これでは手術室の方が近いかもしれない。

 

「こいつは預ける。好きに扱え…魔力も奪いたいからできるだけ生かしておけ」

 

「ヘッヘッヘ、できるだけ(・・・・・)善処しますよ、エルザさん」

 

「…貴様は…ボル、だったかボリ、だったか…」

 

「ボラですよ!前にも言いましたよね!?」

 

どうやらエドエルザは人の名前を覚えるのが苦手なようだ。なんだか親近感が湧く。

 

「でも、機材も何にもないのにどうやって実験なんてやるの?」

 

エドエルザが去ると、アミクはボラと名乗った研究員を睨んだ。

 

「それはすぐにわかることさ…クックックッ、本人じゃねえけど久しぶりにアミク王女を好き勝手できるなんてな…」

 

「…王女?」

 

王女といったか。やはりこの世界の自分は結構大物のようだ。ところで。

 

「その人もここでなんかされてたの?」

 

「ひひひ、そうだよ。王女サマもここで実験されてたんだよ…お前みたいにな!」

 

「…」

 

この世界の自分はロクでもない扱いを受けていたのだろう。あの国王の反応といい、こいつの話といい。

 

研究者たちがアミクをベッドに寝かせ、大の字にして両手両足を拘束する。

 

あれ?これエッチな目にあったりする!?ヤバいんじゃね!?R 18ダグ付けなきゃいけないのでは!?

 

「さあて、そろそろ始めようか…お前は機材も何もない、って言ってたな?」

 

ボラがパチン、と指を鳴らすとーーーーーー。

 

 

部屋の壁、床、天井、あらゆる場所から機械の腕のようなものが出てくる。先端には様々な器具がついており、また、天井からは妙に壮大な装置が下がってきた。

 

 

「うわっ…」

 

「邪魔になるから普段は全部仕舞い込んでんだ!エドラスの魔法技術舐めんじゃねえぞ!!」

 

全ての器具が一斉にこちらを向いた。注射器の針がキラリ、と光る。

 

 

アミクはゴクリ、と唾を飲み込んだ。

 

 

(ナツ…マーチ!)

 

 

 

 

白いエクシードに連れられたマーチたちはある家に入っていった。

 

「兵隊たちは? まさかもう通報されてて――!?」

 

「カー!」

 

エクシードがハッピーを怒鳴りつけているが、見た感じ通報されているような様子はない。

 

そこで、頭巾を被ったハッピーと同じ青色の女性エクシードが籠を持って近づいてきた。

 

「ラッキー、今日は早かったのね…あら?」

 

そのエクシードはマーチたちを見て首を傾けた。この白いエクシードはラッキー、というらしい。

 

そのラッキーは青いエクシードが来るとどこかに行ってしまった。

 

「こんにちは、私はマール。あなたたちのお名前は?」

 

包容力のある笑顔で訊いてくるマール。

 

「オイラ、ハッピー」

 

「マーチ、なの」

 

「シャルル…」

 

「そう、素敵な名前。とにかく中へどうぞ」

 

マールに促され、家の中に上がった。いかにも、平凡な家で、なんだか安心するような気分になる。

 

 

「追われていたみたいだけど、何があったの?」

 

マールがゆったりとした口調で訊いてくれた。無理に聞き出すつもりはないみたいだ。でも、マーチたちはマールに事情を話すことにした。

 

「実は…」

 

 

〜〜〜〜

 

 

「あらあら、それは大変だったわね」

 

マールが魚を差し出してくれた。ハッピーが嬉しそうにする。

 

「おじさん!おばさん!匿ってくれてありがとう!」

 

「助かった、の」

 

「カー!飯食え、飯!」

 

戻ってきたラッキーに怒鳴られ、ハッピーは魚を頬張る。マーチも一つ手に取って齧ってみた。

 

「…なの!美味しい!の!」

 

「あら、ありがとう。ラッキーが獲ってきたのよ」

 

鍬を持っていたので農業でもしているのかと思ったが、釣りもするらしい。

 

「趣味でやってるだけでぃ!小骨は取り除け!!」

 

「な、なの」

 

なんだかんだ世話好きなのでは?このエクシード。

 

「家の人ってば、王国の考え方と反りが合わなくてね。昔追い出されちゃって、こんな所で暮らしてるのよ」

 

「カー!要らんこと言わんでええ!」

 

「はいはい」

 

穏やかな性格のマールと怒りっぽいが世話焼きのラッキー。意外と相性のいい夫婦かもしれない。

 

 

「そっか、それでオイラたちを」

 

ハッピーが納得したように頷くと、ラッキーは「そんなんじゃねえやい!」と目を逸らした。見た目通り、素直じゃない。

 

「えヘヘヘ」

 

ハッピーがそれを見て笑っていると、ラッキーが目を釣り上げ怒鳴った。

 

「飯食ったら仕事手伝え!カー!」

 

「あ、あい!」

 

「カー!これ着ろ!そして早く食え!」

 

騒ぐ2人の様子を、マールは優しげに見つめていた。

 

マーチも頬を緩ませる。

 

「楽しい旦那さん、なの」

 

「ええ、自慢の夫よ」

 

 

 

 

「カー!これくらい出来て当たり前だろうが!」

 

「おじさん凄いね!」

 

「見てんじゃねぇ!」

 

「自分で見てろって言ったくせにもう忘れちゃってるよ…でも聞こえると怒られるから黙っとこっと…」

 

「だから全部聞こえてんぞ!カー!」

 

「あい!?ごめんなさい!」

 

ハッピーとラッキーは言い合いながら畑を耕していた。

 

 

一方、マーチは果物の皮を剥いていた。

 

「あら、上手」

 

「よく、アミクーーーー友達の料理の手伝いをしていたから、なの」

 

シャルルも隣で黙々と皮を剥いていく。

 

「あらまあ…貴方も上手ね」

 

「こんなの簡単よ」

 

浮かない顔つきで言うシャルル。

 

マーチとマールはじっとシャルルを見つめていた。

 

 

「冷たい飲み物が出来たわよ!少し休みましょう?」

 

マールが外にいるハッピーとラッキーの声をかけると、2人は元気に返事をした。

 

〜〜〜〜

 

「うわぁ!?」

 

「カー!仕事中は余計な事考えるんじゃねぇ!それが終わったら次は薪割りだぞ!」

 

「あい!!」

 

ちょっと休憩した後、ハッピーとラッキーは外で屋根の掃除を始めた。

 

 

「この家に来てからまだ一度も笑ってないわね。せっかく可愛い顔だから、この子みたいに笑えばいいのに」

 

「え、あーしそんなに笑ってた、の?」

 

マールは2人に紅茶を差し出した。シャルルは紅茶をじっと眺め、ポツリと呟く。

 

 

「とても笑える気分じゃないのよ…」

 

まあ、あんなことがあっては気分が落ち込むのも仕方がないだろうが…。

 

「苦しい事があるのね?でも、そういう時こそ笑うといいのよ?」

 

「そう、なの。いつまでもメソメソしててどうする、の?」

 

マーチもマールの言葉に同意すると、シャルルが再び口を開いた。

 

「あんたは、いいわよね…強くて…」

 

「…」

 

マーチは憮然として腕を組んだ。

 

「そうね、そう簡単にはいかないわね…」

 

 

マールも悲しげに言った。

 

 

 

ふと、ハッピーたちを見てみると、何故だか薪割りを競うように行っており、2人揃って手を痛めていた。

 

「「いったー!!」」

 

「…こうしてみると、親子みたい、なの」

 

「あらあら、本当ねぇ」

 

そう言うマールの横顔はどこか寂しげだった。

 

 

 

「…あら?これは…」

 

その時、マールがさっきからハッピーが持っていた手配書を拾う。

 

「…ああ、この人ね…」

 

マールがパルティータの似顔絵を見て懐かしそうに目を細めた。

 

「知り合い、なの?」

 

「ええ…ご近所さんだったわ。今じゃ、あちこちで演説をしたりしてるみたいだけど」

 

演説?

 

「この人は昔から特殊な考えの人で…」

 

その時、ハッピーたちが帰ってきた。マールはハッピーとラッキーに微笑む。

 

 

「お帰りなさい。2人とも、お風呂に入ったら?」

 

「お風呂!入る!」

 

「カー!体の汚れはきちんと落とせぇ!」

 

「あい!」

 

 

 

「ふぃ…お風呂気持ちよかったぁ…」

 

「今のハッピー見てると、「マーチって猫だからお風呂嫌いなんじゃないの?」って言ってたアミクを思い出す、の」

 

「別に嫌いじゃないのにね〜」

 

ベランダでマーチとハッピーが会話していると、マールがやってきた。

 

「お疲れ様。ここ、お風呂上がりは気持ちいいでしょ?」

 

「あい、とっても!」

 

「ハッピーとマーチ、そしてシャルルだったわね。アースランドで生まれたんでしょ?誰が名前をつけてくれたの?」

 

「ナツ、友達だよ!」

 

「さっき言ってたアミク、なの」

 

「私も…友達に…」

 

マーチは昔、アミクに自分の名前の由来を聞いたことがあった。

 

『あーしってなんで「マーチ」って名前、なの?』

 

『え?いつも元気に、前に進んで行け!って意味で行進曲(マーチ)がいいなーって思ったんだけど…。ま、まさか改名したいとか…!?ドラ○ちゃんがよかった…!?』

 

『気に入ってるからこれでいい、の。あと、その名前は色々とヤバイ、の』

 

いつも変なあだ名で人を呼ぶ癖があるアミクにしてはセンスがある。当時、音楽関連の単語を多く覚えていたおかげなのかもしれない。

 

変な名前をつけられていたかもしれない、と考えるとゾッとするが。

 

 

マーチが過去を思い返していると、ハッピーが真剣な表情で口を開いた。

 

「その友達が王都に捕まってるんだ。オイラたち、助けに行かないと!」

 

ハッピーの言葉にマールは「人間を助けるのね?」と返す。

 

「エクスタリアでは、その考え方は間違ってるのよね…?」

 

シャルルが恐る恐る訊くと、マールは笑みを浮かべたまま首を振る。

 

「そんな事ないわ、素敵な事よ。友達にエクシードも人間も関係ない。だって、見た目が違くても大好きって心の形は同じなの」

 

シャルルが「心の、形…?」と反芻すると、マールは頷いた。

 

「そう。大好きの心の形はみんな一緒」

 

マーチは隣でうんうん、と首を振っている。

 

それでも、シャルルは暗い面持ちだ。

 

「私の心は…私じゃない、誰かによって操られている…。

 今、こうして話してる言葉さえ、私のものなのか…」

 

「シャルルの言葉だよ!シャルルの心だよ!」

 

ハッピーがすかさずシャルルの言葉に被せる。

 

マーチも立ち上がってシャルルを見下ろす。

 

「あーしたちがどんな存在であろうと、アミクたちとの絆は偽物じゃない、の。だから、アミクたちを想う心も植えつけられたものじゃない、の」

 

「そうだよ!オイラたちのみんなを助けたいって心は、オイラたちの物だ! 」

 

シャルルは揺れる瞳でマーチたちを見つめた。

 

「…シャルルはあーしを強い、って言ったけど」

 

マーチはさらに続けた。

 

「あーし自身が強いわけじゃない、の。ただ、あーしはアミクを信じているあーし(・・・・・・・・・・・・)を信じているだけ、だから、なの」

 

「…自分を、信じる…」

 

「シャルルだって、その強さを持ってるはず、なの。貴方がまだ、気付いていないだけ、なの」

 

マーチが自信を漲らせて言い放つと、マールはにっこりと笑った。

 

 

「そうね、今はちょっと迷ってるみたいだけどきっと大丈夫よ。こんな素敵な騎士(ナイト)様と友達が近くにいるじゃない」

 

「え…!?ナイト様って…」

 

「友達…なの?」

 

マールの言葉にハッピーは顔を赤くし、マーチは首を傾げた。

 

 

「あなたたちは自分の心を見つけられる。ううん、本当はもう持ってるの。後はマーチの言うように気づけばいいだけなのよ。大好きの気持ちを信じて」

 

その言葉を聞いてシャルルはやっと笑顔を浮かべた。

 

「ようやく笑ってくれたわね。とっても可愛いわ」

 

マールは嬉しそうにシャルルの頭を撫でた。そんなシャルルもマールに「おばさん変わってるのね」と笑う。

 

「あら、そうかしら?」

 

「エクシードはみんな自分を天使か何かのように思ってる。人間は劣等種だと言ってた」

 

「何様のつもり、なの!全く!」

 

「ちょ、ちょっとマーチ…」

 

一応、ここにはマールとラッキーもいるのだ。そうあからさまに言ったら気を悪くしないだろうか。

 

 

「いいのよ。私たちだって同じ思いだもの。…昔はね、私たちもああいう考えだった。でも子供を女王様に取られてね…滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)抹殺計画とかで、100人もの子供の卵が集められた。そして、自分の子供の顔も見れないままアースランドに送られてしまったの」

 

考えてみれば、マーチたちだって元々の両親がいたはずだ。それが、国に自分の子供を奪われる形で離れ離れになってしまったのだ。そんな背景があったとは。

 

「その計画に反対したせいで、私達は王国を追い出された。その頃からね…私達は神でも天使でもない、私達は…ただの親なんだって気づいたの。そしたら、人間だとかエクシードだとか、どうでもよくなってきたわ。

 家の人も口は悪いけど、私と同じ考えなのよ?」

 

そこでマールは「でも」と続けた。

 

「さっきパルティータに関しての話が途中だったわね?彼と彼の奥さんは私たちが考えを改める前から別の考えを持っていたの。自分たちが神だとか、天使だとかくだらない、ってね。

 人間のことが好きだったし、いつかは分け隔てなく共存したいって言ってたものよ。彼らは近所でも1番の変人夫婦で有名だったわ」

 

マーチはパルティータの似顔絵を改めて見てみる。よく見てみると、片目に傷が付いていた。

 

「でも、あの人たちも卵を奪われて…最後まで抵抗していたわ。でも、城の中で何を話してきたのか大人しくなってたけど…。

 それから、あの人たちは人間と交流しようと地上に行ったり、そして、たまにエクスタリアでみんなに「自分たちは上位の存在ではない。人間もエクシードも同じだ」って演説したり…」

 

「すごいね…」

 

「大胆なことする、の」

 

自分たちが偉いと思っている者がほとんどのエクスタリアでそんなことをすれば多くの反感を買うだろうに。

 

「そうね。最初こそ、私たちみたいに追い出されただけで済んでいたけど、その内こうして手配書も出回るようになっちゃって…。

 風の噂で奥さんが病気で死んでしまったことを聞いたのはその頃かしら」

 

マーチはなぜだか、それを聞いて泣きそうになった。無性に胸が苦しくなる。

 

「奥さんが死んだ後もパルティータは1人で活動していたわ。私たちは滅多に会うこともなくなったけど…。でも、彼はみんなの意識を変えようとし続けた。例えみんなに異端だと言われようと、彼は自分の考えを曲げなかった」

 

「だから」とマールは続ける。

 

「貴方たちみたいに人間を友達だと言ってくれる子たちがいて嬉しいのよ。パルティータの想いは、きっと実現できる。彼の…彼らのやってきたことは無駄なんかじゃなかったって」

 

マールはあった時からずっと変わらない笑みをマーチたちに向けた。

 

「貴方たちも信じ続けて。きっと報われるときがくるから…」

 

その時、ラッキーが「カー!」と声を上げた。

 

「あんな奴のことなんかどうでもいい!おめぇらもいつまで居やがる!辛気くせぇ顔しやがって、生きてるだけで幸せだろうが!甘えてんじゃねぇぞ!」

 

一通り怒鳴ると、ラッキーは3人に「早く出てけ!!」と告げる。

 

「あなた、そんな急に…」

 

流石にマールも困惑するが、マーチは力強く頷く。

 

 

「その通り、なの。いつまでもここで立ち止まっていられない、の」

 

ハッピーも立ち上がって言う。

 

「オイラたち、早くみんなを助けないと」

 

「そうね」

 

シャルルとマーチも立ち上がった。

 

「怯えたままじゃ、出来ることも出来ねんだ。最近の若いのはんなことも分かんねぇのか!」

 

マーチたちはハッと気付かされた。

 

そうだ。その通りだ。怖がってるままじゃ、何も始まらない。

 

マーチたちは外に飛び出した。

 

 

「ありがとう!おじさん!おばさん!」

 

「カー! 二度と来んな!!」

 

「気をつけてお行き!」

 

 

本当に世話になった。この人たちに会えてよかった。心からそう思える。

 

ハッピーが走りながらこちらに視線を向ける。

 

「二人とも、さっきおじさんの言ってた言葉の意味わかる?」

 

「ええ、わかったわ!」

 

「もちのろん、なの!」

 

3人は崖に向かって駆けていく。

 

 

「私、エドラスに来た時…物凄く、不安だった」

 

「実は、あーしも」

 

「あい!」

 

任務。自分たちの正体。待ち受ける困難。いろんなものが頭を駆け巡って知らず知らず不安を募らせていた。

 

マーチたちは崖から飛び出して、空中で3人一緒に手を掴む。3人は輪っか状になって落下していく。

 

「でも今は違う!」

 

「進まなきゃいけないから…飛ばなきゃいけないから!!!」

 

「そのためにも…あーしたちは、翼を生やす、の!!」

 

一斉に手を離した。

 

シャルルはそっと目を閉じる。

 

ーーーー私達はエクシード、このエドラスにおいて唯一体内に魔力を持つもの。魔法が使えなかったのは心が不安定だったから!ーーーーーーー

 

3人の背中に、幻想的に輝く翼が生えてくる。彼らの心の形を具現化したかのように。

 

 

ーーーー自分の心の形が見えたとき、翼が私たちを前へ進ませる!ーーーーーー

 

 

 

「行こう!みんなを助けなきゃ!」

 

 

「もう、怖いものはない!の!」

 

 

「あい!!」

 

 

3人はすぐ下に見える王都に向けて、飛び立っていった。

 

その姿はまるで、本物天使のようで。

 

 

何よりも、輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カー!ちゃんと飛べるじゃねーか…!」

 

「飛び方がアナタそっくりね」

 

ラッキーとマールはハッピーの姿を見つめ、そう言った。

 

「バカ言うんじゃない!! 飛び方なんかじゃねぇ、一目見りゃァ気がつくだろ!!」

 

 

「そうね…あの白い娘と黄色い娘、どっちが彼女かしら?」

 

マールは目に涙を浮かべた。

 

「カーーー!!女連れてくるなんて100年早ェんだョ!!」

 

そう言うラッキーの瞳にも大きい雫が溜まる。

 

「友達想いの優しい子に育ったね…」

 

「カーーーッ!!グスッ…あいー!」

 

2人は飛び立っていく自分の子を見つめていた。

 

 

「それに、あの黄色い娘ーーーーマーチはミーナにそっくりだわ…」

 

「カーーーッ!!あの喋り方もあいつから受け継いじまったみてぇだな!!」

 

「ハッピーと一緒にいるのも、運命かしらね…」

 

「そんなしょっぺえ表現すんじゃねえよ!!グスッ!!」

 

ハッピーに寄り添って飛ぶマーチも視界に入れて。

 

 

 




ラッキーとマールが涙を浮かべるシーンを思い出して泣きそうになった。

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