妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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やっべ、論文やべえ。

(アホ)


終焉の竜鎖砲

「ってか、鎧まで砕いちゃったけど大丈夫かな…。ま、いっか」

 

アミクは気絶しているシュガーボーイをチラッと見て、踵を返した。

 

 

丁度その時、グレイがやってくる。

 

「おい、アミク…ってもう倒したのか!」

 

「グレイ!!よかった――!!」

 

アミクはグレイに駆け寄って抱きつく。

 

「ホントに元に戻ったんだね!」

 

「お、おう…まぁお前も無事みたいだな」

 

グレイはちょっと照れながら言う。ついでにアミクは『声送(レチタティーヴォ)』を使ってウルに呼びかけた。

 

『ウルも元気?』

 

『この状態で元気もなにもあるか』

 

『元気みたいだね』

 

憎まれ口を叩く余裕はあるって事だろう。

 

 

「ほら、鍵も取り返してきたよ」

 

「鍵?」

 

「あ、この鍵は――――」

 

簡単に鍵について説明する。

 

「つまり、それがなかったらコードETDとやらもできねえってわけか」

 

「そうなんだけど…ちょっと私、思い付いちゃったんだ」

 

グレイがどういうことか、と質問しようとした時。

 

 

「よぉーし!オレが相手だ――――!って終わってる―――!?」

 

 

なんとかバイロから抜けだしてきたナツが滑り込みながらやってくる。

 

 

「あー、ちょうどいいや。ナツも聞いて。これで皆を助けられるかもしれないよ?」

 

「本当か!?」

 

アミクはナツたちにその方法を説明した。

 

「『竜鎖砲』って滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の魔力が凝縮されてるんだよね?そこで思い出したんだけど」

 

アミクはグレイの方を見た。

 

「グレイはガジルの滅竜魔法で魔水晶(ラクリマ)を壊してもらって、元に戻ったんでしょ?」

 

「…ああ、そうだが…そういうことか!」

 

『なるほどね』

 

グレイとウルも気付いたようだ。

 

「あ?なんだ?何が分かったんだ?」

 

ナツだけは首を捻っている。

 

 

「つまり、滅竜魔法の力が詰まった『竜鎖砲』を皆の魔水晶(ラクリマ)に放てば――――」

 

「みんな元に戻せるってことだな」

 

「そーゆーこと」

 

「おまえ頭いいな――!!」

 

ナツたちがアミクを称賛した。

 

「でも、敵がそれをさせてくれるか、ってのが問題なんだよね…」

 

アミクは悩ましげに手を顎に当てた。

 

 

「…そうだ、ルーシィたちは?」

 

「なんとか抜け出そうとしてるぜ」

 

「…なにがあったの?」

 

アミクが首を傾けて聞いた。

 

「あと、ウェンディたちは?」

 

E-LANDでも見当たらなかったので、少し心配になる。

 

「ハッピーはガジルをみんなの魔水晶(ラクリマ)のとこまで運ばせてると思うぜ。ウェンディは…なんかシャルルとどっか行っちまった」

 

まぁ、無事ならばいい。何か考えがあるのだろう。

 

 

「ともかく、反響マップでここの構図を作っておくよ」

 

城の地図があったほうがやりやすいだろう。

 

超音波で反射させて内部構図を脳裏に浮かべた。

 

 

「…ん?なんだろ」

 

しかし、なぜか一点だけぽっかり穴があいたような場所があった。というより、その場所だけ超音波が反射しなかったみたいな…。

 

「…怪しい」

 

「いや、お前一人しか分かんねーよ…」

 

アミクが何も説明せず難しい顔をしているので、グレイが呆れたように言った。その時。

 

「あ、誰かきたよ」

 

「お?」

 

足音が聞こえてきてそちらを見る。しばらく待っていると見知った人物が現れた。緋色の髪を揺らす女性。

 

 

「あ!エルザだ―――!!」

 

アミクは嬉しそうにエルザに飛びこもうとする。

 

しかし、それをグレイが止めた。

 

「待て!その服装は…」

 

「あ…!」

 

よく見てみると、エルザが着ているのは――――あのエドラスのエルザが着ていたものだ。ということは…

 

「エ…エルザ…?」

 

「嘘だろ…?」

 

アミクたちが呆然としていると、エルザが目が光らせた。

 

 

 

 

 

一方、エドアミクたちはルーシィを救出しようとしていた。

 

エドアミクはなんとか脱出できたが、ルーシィは下半身がバイロに挟まってしまい、抜けだせない状況だ。

 

今はココが引っ張ってなんとか頑張っている。

 

「抜けな~い!」

 

「…」

 

しかし…。しかし…。

 

 

これは…なんというか…。

 

 

引っ張る度に反動で巨乳が揺れるのだが。ブルン、って。

 

 

喧嘩売ってんのか。

 

エドアミクはめっちゃ凝視した。

 

 

「…ゲホッ!!」

 

急に胸が苦しくなって咳をする。いや、咳というより何か吐きだしたような…。

 

そっと手の平を見てみると、血がべっとりと付いていた。床にも広がっている。

 

(また…)

 

最近起きている謎の体調不良。だんだん悪化している。自分の体に何が起こっているのだろうか。魔力が関係しているのか。

 

エドアミクは少しその場から離れ、手の平を服で拭いた。みんなに心配を掛けるわけにはいかない。

 

 

同時にルーシィがバイロの下からスポーン!と抜けた。

 

やっぱりあの凄い振動してる胸、喧嘩売ってるだろ。

 

 

 

 

 

アミクたちはエルザによって竜鎖砲の制御室に連れていかれてしまった。先ほどの反響マップには表示されなかった場所だ。

後で知った事だが、この部屋は対魔戦用魔水晶(ウィザードキャンセラー)という魔法を無効化する魔水晶(ラクリマ)で覆われていたらしい。

だから、魔法である超音波が無効化されたのだ。

 

「ご無事ですか、ナイトウォーカー隊長!」

 

「バカ、どこが無事なもんか!そのお怪我は、どうされたのですか?」

 

「大したことはない」

 

「その者たちは?…王女様!?」

 

その部屋の前で、アミクを知っていた兵士も何人かいたようで、アミクを見て驚いている者もいる。

 

「鍵を奪った者どもだ。陛下は中か?」

 

「は、はい!」

 

エルザはそれを聞くと部屋の中に入っていった。

 

「…エルザか」

 

中では幾人もの兵士とファウストがいた。部屋の前方には大仰な装置もあり、そこに鍵穴が付いている。ここにあの鍵を差し込むらしい。

 

「アースランドの魔導士どもを捕らえました」

 

エルザがアミクたちを床に投げ捨てる。

 

「…貴様、あそこから逃げ出したのか」

 

ファウストがアミクを睨む。アミクはそっぽを向いた。

 

「…まぁ、いい。鍵はどこにある?」

 

「その娘が持っています」

 

ファウストが鍵を強く握りしめているアミクに近づく。そして奪い取ろうとアミクを蹴飛ばした。

 

「がっ!!」

 

「!てめぇ!!」

 

ナツが飛び出そうとするが、エルザに睨まれ大人しくなった。

 

もう一度、アミクを蹴り飛ばそうとしたファウストは、悪魔のような事を思いついた。もっとアミクを苦しめるための方法を。

 

 

「…アースランドのアミクよ。その鍵をあの穴に差し込め」

 

「…え?」

 

アミクは首を傾けた。ファウストがおぞましい笑顔になる。

 

「自分の手で、仲間を殺す手助けをするのだ」

 

「…!」

 

もはや狂気じみた思考に背中に冷たい汗が流れる。この男はアミクを苦しめるためならばどんな事だろうとしてしまうのだろう。

 

(イカれてる…!)

 

 

ついガジルみたいな思考になってしまったのも致しかないだろう。

 

 

「マジで胸糞悪ぃじいちゃんだな…」

 

ナツも苦々しい表情でファウストを見る。

 

「…やれ。陛下の命令だ」

 

エルザがナツの首元に剣を突き付けてアミクを脅す。

 

 

「…わ、わかったよ…」

 

アミクはおずおずと鍵穴に近づく。そして、彼女は鍵を手に持って躊躇する様子を見せた。

 

「早くやらんか!!」

 

ファウストが怒鳴ると、アミクは渋々、といった感じに鍵を鍵穴に挿入。そして、鍵を回そうとする。

 

「…動かないんだけど」

 

「逆だ、逆!!」

 

逆回りだったらしい。

 

 

アミクが鍵を回すと、装置から大きい音が鳴り始めた。

 

「フハハハハ!!竜鎖砲が起動したぞ!」

 

ファウストが高笑いした。これで長年温め続けた計画を実行することができる。これで、積年抱き続けていた野望を叶えることが――――。

 

 

感傷に浸っていたファウストの首元に剣が付きつけられた。

 

 

「発射中止だー!!」

 

「エルザ…貴様!何の真似だエルザ!」

 

 

そう、アミクを脅していたはずのエルザだった。

 

彼女はエドラスのエルザではない。アースランドのエルザだったのだ。

 

彼女は咄嗟に換装する。

 

「私はエルザ・スカーレット、アースランドのエルザだ」

 

「ねぇねぇ!どうだった!?私の演技?」

 

「かっかっかっ!これぞ作戦D!騙し討ちのDだ!!」

 

『頭文字取っただけじゃないか…』

 

全部、アミクたちの演技であった。あの時、エルザがやってきたので、(勘違いのせいでエルザが怒っちゃったりしたが)アミクの作戦を説明。それで、エルザはエドエルザのフリをして、アミクたちは捕まったフリ、と一芝居打ったのだ。

 

さすがに、ファウストがアミクに鍵をいれさせたのは予想外ではあったが、上手くいった。

 

 

エルザは鋭く目を光らせながら命令する。

 

「照準を魔水晶(ラクリマ)に合わせろ」

 

「言うことを聞くな!今すぐ撃て!!」

 

ただ、ファウストの方も傲然と言い放った。

 

「うぅ……ど、どうする?」

 

「卑怯だぞテメェら!!人質を取るなんてー!!」

 

兵士たちが叫ぶが、ナツたちはどこ吹く風。

 

「それがどうした」

 

「オレたちは仲間のためなら何だってするからよォ…」

 

「お、王様の爪を全部剥がされたくなければ、言う事、聞いてね?」

 

「地味にエグイし、それで済まなさそうなんだが!?」

 

一人の兵士が剣を首に当てているエルザを見てツッコミを入れた。

 

 

「早くしないか」

 

エルザが催促すると兵士たちは歯噛みする。彼らは、自分たちの王を選んだ。

 

「くそぉ…!やれ!陛下が危ない!!」

 

「ワシなどよい!!撃て!!エクシードを滅ぼすために!!」

 

自分の命などお構いなしといったその精神は見上げたものだ。

 

しかし、兵士たちは竜鎖砲の照準を巨大魔水晶(ラクリマ)に合わせようとした。

 

「照準変更!巨大ラクリマに変更だ!!」

 

「ばかものが!永遠の魔力を不意にする気かぁー!!」

 

そして、竜鎖砲が発射される―――――となったその時。

 

 

 

 

「スカーレットォォォ!!!」

 

「うわ!出たあ!!」

 

もう一人のエルザ、エドラスの方のエルザが武器を構えて飛び込んできた。

どうやら、エルザのあの装備はエドエルザから奪った物のようで、エドエルザは薄着になっている。

 

そんな彼女が、槍をエルザに振り下ろした。

 

「ナイトウォーカー!!」

 

たまらず、エドエルザの相手をするエルザ。その拍子にファウストの拘束が解ける。

 

「くっ…!」

 

「まだ終わってないぞォォ!スカーレットォォォ!!!」

 

「ナイトウォーカー…!こんな時に!!」

 

エルザは突き出される槍を剣で防ぐ。

 

「陛下の拘束が解けた!!今だ、照準を戻せ!!」

 

「や、やばい!」

 

アミクたちはそれを止めようと駆けだすが――――。

 

 

「―――――撃てぇぇぇぇぇぇいい!!」

 

 

無慈悲にも浮遊島の方に『竜鎖砲』―――――魔力を凝縮した鎖が放たれた。それは浮遊島に突き刺さる。

 

 

「接続が完了しました!!」

 

「エクスタリアにぶつけろぉ!!」

 

「やめてえええええええ!!!」

 

 

アミクの悲鳴も空しく、鎖に繋がれた浮遊島はすごい勢いで移動し始めた。さらに向こうにある、『エクスタリア』へと。

 

 

「そんな…」

 

アミクは膝をついた。作戦は失敗してしまった。むしろ、彼らの計画を手助けしてしまった。

 

自分の作戦のせいで――――。

 

 

「みんなー!!」

 

その時、ルーシィの声と共に壁をぶち壊してレギオン――――エドラスに生息する、翼を持つ大型のモンスター―――――――が頭を出す。

 

「皆、乗って!」

 

「ルーシィ!?お前、こんな姿になっちまったのか!?」

 

「…変な事…言ってないで…早く…乗って…!」

 

レギオンの背からエドアミクとルーシィが顔を出した。

 

 

それを見て、ファウストが驚いた声を上げる。

 

「アミク!?貴様、なぜここに…!?」

 

「…お父様…私…絶対…止めてみせる…!!」

 

 

エドアミクは決意を固めた瞳でファウストを見た。忌々しそうに舌打ちするファウスト。

 

「貴様がレギオンを…」

 

「私のレギオンです」

 

「ココ!!貴様まで…」

 

さらに、ココがエドアミクの後ろから顔を出した。ついでに、マーチもレギオンの背から飛び立ってレギオンの足元で浮遊する。

 

ナツは呆然とするアミクに近付いた。そして、腕を掴んで立ちあがらせようとする。

 

「アミク!!まだ終わってねえ!!諦めんな!!絶対に助けるぞ!!」

 

ナツの力強い言葉にアミクも頷いた。

 

「…うん!」

 

 

ナツとアミクはレギオンに駆け寄り、飛び乗った。グレイやエルザも同様だ。

 

 

そこで、エドアミクとファウストの視線がかち合う。

 

 

「…」

 

ファウストは親の仇を見るような目でエドアミクを見ていた。対してエドアミクは、ファウストの事を悲しげに見やる。

 

「こいつで止められんのか!?」

 

「分かんない!でも行かなきゃ!!」

 

そうしている内にレギオンは空へ飛び立った。皆を救うために。

 

 

(…王女として…お父様を…止める…!)

 

 

決意を胸に抱いて。

 

 

そして。

 

 

エクスタリアと、浮遊島がぶつかりそうになっているのを見る。

 

 

 

「急げー!!ぶつけるわけには、いかねぇんだーっ!!」

 

ギュン、とスピードを上げて浮遊島とエクスタリアの間に向かうレギオン。

 

猛スピードで突っ込んだレギオンは頭を浮遊島にぶつけた。その浮遊島にいたガジルとハッピー、そしてリリーが驚く。

 

「てめえら!!」

 

「みんな―――!!」

 

ココがレギオンに声援を送る。

 

「頑張って!レギピョン!!」

 

しかし、一向に止まる気配がない。

 

「駄目だ!!全然止まる気配がねぇ!!」

 

「私たちも魔力を解放するんだ!!」

 

「お願い!!止まってぇ!!」

 

アミクたちも島に手を当て、押し出すように力を込める。エドアミクも非力な腕で島の進行を止めようとした。

 

 

「止まってええええええ!!!」

 

 

「…い…あ…!!」

 

 

ここに、島を止めるための激しいせめぎ合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前。

 

 

ウェンディとシャルルはエクシードたちに王国の計画を伝え、避難させるためにエクスタリアに来ていた。

 

 

エクスタリアの国民たちはシャルルたちを見ると、非難の声を浴びせかけた。ナディもやってきて、この国に入ってはいけないと告げる。

 

 

シャルルたちは計画の事を伝え、逃げるよう忠告するが、誰も聞き入れようとしない。

 

 

そうしていると。

 

 

轟音と震動が島の外の方から響く。そちらを見ると、浮遊島がエクスタリアに衝突しそうになっている光景が見えた。

空が赤く染まる。

 

 

「王国軍が攻めてきた!」

 

「女王様の力を知らない人間共め…!」

 

 

エクシードたちが怒りをあらわにしている中、ナディは青ざめている。

 

 

ウェンディも絶望の表情を浮かべた。

 

 

魔水晶(ラクリマ)がぶつかった?」

 

「いいえ、まだよ。島の縁で止まってるみたい」

 

確かに、浮遊島は島の縁でギリギリ止まっていた。誰かが止めてくれているようだが、ぶつかるのも時間の問題だろう。

 

 

「ど、どうしよう…!」

 

「諦めないで!」

 

シャルルはさらに住人たちに呼びかける。

 

 

「皆、聞いて!」

 

「堕天め…まだ居たのか!」

 

一人のエクシードが気が立って石をシャルルに投げつけた。

 

 

「きゃっ…」

 

「シャルル!」

 

シャルルが思わず目を瞑った時。

 

 

パシッと何者かが石を掴んだ。

 

 

「…?」

 

「貴方は…?」

 

 

それは一人のエクシード。ダークグリーンの毛並みを持つ、目に傷のある人物。少し汚れたマントを背中にかけており、シャルルたちを庇うように立った。

 

 

「やめてくれ、だな」

 

「…!」

 

ナディと住人たちはそのエクシードを見て驚愕する。

 

「石は、投げたら危ない、だな」

 

「パ…」

 

ナディが息を飲む。

 

「パルティータ!!」

 

あの手配書に載っていたエクシードだった。

 

「この人が…あのパルティータ…?」

 

「知ってる人なの、シャルル?」

 

マールが話していた、人間と共存を望むエクシード。彼が振り返り、ウェンディたちを見つめてくる。鋭い目つきだが、そこには優しい光を灯していた。

 

「この娘たちは、我々に危険を知らせに来てくれた、だな。あそこに、危機が迫っているのが見えないのか、だな」

 

パルティータは島の縁の方を指差した。

 

「な、何言ってるんだ!!『堕天使』如きが!!いつも変な演説ばかりしているお前の言葉なんて、誰が聞くか!!」

 

「それに、こんなの、女王様の魔法があればへっちゃらだ!」

 

住人たちが反論すると、周りのエクシードたちも「女王様!」と女王様コールを始めた。

 

ナディがあわあわとして、パルティータがため息をついた時。

 

 

「もういいのです。パルティータ」

 

透き通るような声がして、その方を見ると、4人の老人を引き連れた白いエクシードの女性がゆっくりとやってきていた。豪華な羽をふんだんに付けたマントを掛けている。

 

なんだろう。シャルルと似ているような…。

 

 

「…女王様」

 

「お久しぶりですね、パルティータ」

 

パルティータはゆっくり片膝をついた。周りのエクシードたちも慌てて膝をつき、頭を垂れた。

 

 

「あの人が…女王様」

 

ウェンディたちはその女王――――シャゴットと目が合う。

 

シャゴットはしばらく目を瞑っていたかと思うと―――意を決したかのように見開いた。

 

 

「皆さん、どうかお顔を上げて下さい。そして落ち着いて私の話を聞いてください」

 

エクシードたちが困惑したように顔を上げる。パルティータはジッとシャゴットを見つめていた。

 

 

「今、エクスタリアは滅亡の危機に瀕しています。これは最早抗えぬ運命。なので私は一つの決断をすることにしました」

 

「女王…」

 

パルティータがいいのか、と問いたげに見つめると、シャゴットは「決めたことです」と頷く。

 

 

「人間を全滅させるんですね!」

 

 

エクシードたちから嬉しそうな声が上がった。自分たちの優位を疑わない、傲慢な態度。

 

シャゴットだけでなく、後ろの老人たちも表情を曇らせる。

 

シャゴットはマントを脱ぎ捨てペンダント等のアクセサリーを取り外した。

 

 

「真実を話しておかなければならないと言う決断です。私はただのエクシード。女王でも、ましてや神でもありません」

 

そう言って(エーラ)を発動させた。すると――――。

 

 

「え…?」

 

「嘘…」

 

 

生えてきたのは片方のみ。エクシードたちはあまりの衝撃に固まり、ナディは涙を浮かべた。

 

 

「私には、人間と戦う力などないのです。見ての通り、私は片翼です。エクシードにとって翼――(エーラ)は魔力の象徴。二つ揃ってこそ真の魔力を発揮できる……私の魔力は、とても弱いのです」

 

 

言葉が出ない皆を見回して、続ける。

 

 

「隠していて本当に申し訳ありません。ウェンディさんにシャルルさんと言いましたね? あなたたちにも…ごめんなさい。全部私のせいです。どうか、ここにいる皆さんを恨まないで下さい」

 

 

「ど、どういうこと…?」

 

ウェンディが疑問を口に出すと、老人たちが次々と説明してくれた。

 

 

「女王と言うものを作り出した、我ら長老にこそ責任がありますじゃ。私達はとても弱い種族ですじゃ。大昔、人間達に酷いことも沢山されてきました。だから自分達を守るために、私たちには力があると人間に思い込ませたのですじゃ」

 

「そして、エクシード全体が自信を取り戻せるようエクスタリアの民達にも神の力を信じさせました」

 

「神の力と言っても、その全部が、儂等事情を知っとる一部エクシードのハッタリじゃ」

 

 

「しかし、始めは信じなかった人間達も、やがて神の力に恐れを抱くようになってきた。例えば、殺す人間を決める人間管理。本当は全部後付けです。私達が殺す人間を決めている訳ではないし、そんな力も当然ありません」

 

 

そして、ずっと黙っていたパルティータが口を開いた。

 

「…女王には、昔からある力がある、だな。彼女は少しだけ未来を見れる、だな。それは、人の死も然り、だな。それを使って女王の決定で人を殺していると思わせていた、だな」

 

「そんなの嘘だぁ!」

 

住人たちが信じられないかのように喚き始めた。子供たちが泣き、大人たちが懇願し、老人たちが嘆く。

 

 

「詭弁だわ!」

 

シャルルが声を荒げた。パルティータがゆっくりと退いて、シャルルとシャゴットを向き合わせる。

 

「あんたに力が有ろうが無かろうが、私の仲間を殺すように命令した。それだけは事実!」

 

シャルルの言葉に一人の老人が慌てて弁解した。 

 

「シャゴットはそんな命令はしておらん! きっと女王の存在を利用した人間の仕業――」

 

「違う!!」

 

咄嗟に否定する。

 

「変な記憶を植え付け、私の心を操り、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)抹殺を命じたでしょ!? 生まれる前から!」

 

「それは…」

 

シャゴットは否定できずに俯く。そこで、パルティータがシャルルの肩を押さえた。

 

「…娘よ、気持ちは分かるが聞いてくれ、だな。そもそも、記憶を植えつけたり、心を操ったりなど、彼女たちはしていない、だな」

 

「どういうことよ!今更そんなこと!!」

 

自分はそれのせいで、苦しみ、翻弄され、悲しみ続けてきたのだ。それを今更否定するなんて納得がいかない。

 

その時、シャゴットが前に進み出た。突然、剣を引き抜き、前に投げる。それはシャルルの前まで転がった。

 

「シャルルさんの怒りはごもっともです。あなた達には何の罪もない。なのに一番辛い思いをさせてしまった。私の罪は、あなたの手で裁いて下さい!」

 

老人たちが制止するが、構わずシャゴットは頭を前に突き出した。

 

「…シャゴット…」

 

パルティータは不安げにシャルルとシャゴットを交互に見た。

 

「シャルル…」

 

ウェンディも同様だ。シャルルは黙って目の前の剣を拾った。

 

周りはまさか女王を殺すつもりか――――と身を震わせる。

 

「さぁ、皆さんはここを離れて! 私は滅び行くエクスタリアと運命を共にします!」

 

シャゴットが呼びかけ、シャルルはシャゴットに近づく。そして、彼女の前まで来た時、剣を振り上げた。パルティータがゴクッと喉を鳴らす。

 

「シャルル!」

 

ウェンディが叫ぶと同時に、剣が振り下ろされた。悲痛な悲鳴が上がる。そして――――――

 

 

 

 

 

 

剣はシャゴットの目の前に深々と突き刺さった。

 

 

「勝手に…勝手に諦めてんじゃないわよ!!自分たちの国でしょ 神や女王が居なきゃ、何も出来ないの!?今まで嘘をついてでも、必死に生きてきたんじゃない!なんで簡単に諦めちゃうの!」

 

全員の視線がシャルルに集中する。

 

 

「弱くたっていいわよ!みんなで力を合わせれば、何だって出来る!この国は…滅びない…私の故郷だもん!無くなったりしないんだから!!私は諦めない! 絶対止めてやる!」

 

涙を流しながら、心から叫んだシャルル。その頭をパルティータが撫でた。

 

 

「よく言った、シャルルよ…だな」

 

そう声を掛けて、パルティータは皆に呼びかけた。

 

「考える事をやめるな。もっと向きあえ。狭い視野に囚われずに様々なものを見ろ。拙者は、ずっとそういったことを言い続けてきたと思うが…だな。人の上で胡坐をかいでばかりじゃ、拙者たちはなにもできない。一人一人が自分にできる事を精一杯やるのが、生き物としてやるべきことなんじゃないのか、だな」

 

シャルルはその言葉を聞きながらも翼を広げた。

 

 

「この娘は強い、だな。強い心を持っているから、何かを守れる力を得ることができる、だな。何かに依存した偽りの力ではなく、自分の信念に準じた強さを持て、だな」

 

言葉を終えると同時に、パルティータも翼を広げる。

 

シャルルとウェンディは息を飲んだ。

 

その翼は―――――真っ黒。この翼の色も『堕天使』と呼ばれる所以。

 

「エクスタリアを愛しているなら、その信念を見せつけてみろ、だな」

 

そして、パルティータは空に飛び立ち、島の縁に向かう。その直前、シャゴットにチラッと視線を向けた。

 

「…!」

 

それを見てシャゴットは覚悟が決まったような表情になる。

 

 

「私も!」

 

 

シャルルもパルティータの後を追い、飛び立っていった。

 

 

「ぼきゅも行ってくるよ。だって、この国が大好きだから!!」

 

ナディも翼を広げ、二人に続く。それから、シャルルやパルティータの言葉で目が覚めたエクシードたちが次々と飛び立つ。

 

 

「私も…行かなきゃ!!」

 

ウェンディは拳を握って浮遊島を見据えた。

 

 

 

 

アミクたちは、魔水晶(ラクリマ)の衝突を止めることができるのだろうか。

 

 

 




エドラス編も佳境に入ってきました。

さて、現在取っているアンケート。多くの人が答えて下さってありがとうございます!

ナツとウェンディが接戦のようです。
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