妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

89 / 202
設定って大事。


DRAGON SENSE

巨大魔水晶(ラクリマ)をエクスタリアにぶつけまいと、必死に抑えるアミクたち。

 

 

「キツイ!!これ脱臼しそう!!」

 

「駄目だ!!ぶつかるぞ!!」

 

 

しかし、アミクたちの努力も空しく、浮遊島はだんだんエクスタリアに接近する。

 

 

マーチはハッピーの近くで一生懸命に押し留めていた。

 

「んぎぎぎぎ!!…ハッピー!こんな時になんだけどナツとはお話しできた、の!?」

 

「あい!大丈夫!!」

 

「そっか、なの!!じゃあ、みんな助けてナツとアミクともっとお話しなきゃ、なの!!」

 

「あいさー!!」

 

ハッピーは嬉しそうに返事して更に力を込めた。

 

 

「ガジル!!何故私達のようにみんなを元に戻さん!!」

 

「黒猫が邪魔するんだよ!!」

 

「どちらにせよ、今からじゃあ時間がかかりすぎる!!」

 

エルザたちが言い合っていると、リリーが愕然としたようにエドアミクとココを見る。

 

「ココ!!それに…王女!?なぜここに…」

 

ココはリリーに笑顔を向けて答える。

 

「気付いちゃった!私…永遠の魔力なんていらない、永遠の笑顔がいいんだ」

 

エドアミクも意志の強い瞳でリリーを見た。

 

 

「私は…王女としての…責務が…ある…これ以上…誰も…傷つかないように…私も…全力を…尽くす…!」

 

「王女…」

 

「リリー…。貴方だって…本当は…こんなこと…したくないはず…」

 

エドアミクの見透かすような目にリリーは息を飲む。

 

「憶えてる…リリーが…楽しそうに…エクスタリアについて…話していた事…」

 

 

 

実は、エドアミクはずっと城の中に幽閉されていたわけではない。

 

リリーがたまにエドアミクを外に連れ出してくれていたのだ。もちろんこっそりと。

彼は「自分ではこれくらいしかできない」と嘆いていたが、十分助けられていた。閉鎖空間に長時間いるのは案外ストレスも溜まるし、心も弱る。

だから、彼が外に出してくれる時は開放的な気分になり、いい気晴らしになっていた。その時、リリーから彼の故郷の話も聞いたのだ

そんなリリーがエドアミクは好きだった。

 

この一年くらいは警備が厳しくなって外に連れ出すのは難しなってしまったが…。

 

 

「…貴方…ツライ顔…してる…」

 

「…!」

 

リリーは泣きそうな、怒っているような表情になった。

 

「…本当は…責務…もそうだけど…貴方の…故郷を…守りたい…全部…守りたい!!」

 

エドアミクが腕に力を込めると、内出血したのか関節部分が青くなっていった。

 

「なんて馬鹿な事を!!早くココを連れて逃げてください王女!!この島は何があっても止まりません!!」

 

「止めてやる!!身体が砕けようが、魂だけで止めてやるアァァァ!!」

 

ナツが魂から声を出すように叫んだ。

 

止まらない。止まれない。自分たちも止まらない。

 

 

浮遊島はますます島の縁に近づき、アミクたちを潰そうとしてくる。

 

「つ、潰される…!」

 

もう足でエクスタリアを押し、手で浮遊島を押し留めている現状だ。このままでは――――

 

 

「うおおおおおお、チクショオオオオオオオ!!!」

 

 

ナツが叫んだ直後、衝撃がエクスタリアを包んで、浮遊島とエクスタリアがくっ付いた。

 

ナツたちは潰れてしまった――――――と思いきや。

 

 

「まぁだぁ、まぁだぁぁぁぁ!!!」

 

少しずつ。少しずつだが、浮遊島が押し返されていく。

 

「イケるイケる絶対イケる!!」

 

 

アミクも自分たちを鼓舞する。

 

「うギギ……!」

 

「ふんばれぇ!!」 

 

「なんとしても止めるんだ!!」

 

「ここで、ぶつかったら…!全部水の泡だ…!」

 

「ここで…諦めたら…終わり…!」

 

「無駄な事を!!人間の力でどうにか出来るものではないというのに!!」

 

リリーが悲痛な表情でエドアミクを揺する。

 

「無駄かどうかは…まだ…わからない…!!」

 

エドアミクの服はすでにボロボロだ。怪我はすぐに治ったのか、目立った外傷はない。しかし、次から次へと新しい生傷ができていた。

 

「そう、だよ!!私たちは、諦められないんだ!!」

 

アミクが叫ぶと――――1つの影がマーチの横で浮遊島にぶつかった。黒い翼をもつエクシード。

 

「…誰、なの!?」

 

「安心しろ、だな。拙者も助太刀いたす、だな」

 

隣で優しげに笑ってマーチを見つめるパルティータ。マーチも釣られて笑った。

 

「よくぞ、持ちこたえてくれた、小さきエクシードよ、だな」

 

「…どういたしまして、なの!」

 

直後、小さい影もぶつかってくる。

 

「シャルル!?」

 

「私は諦めない!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)もエクスタリアも両方守ってみせる!!」

 

それに続くようにさらにエクシードが浮遊島を押さえる。

 

「あんた…」

 

「ぼきゅも守りたいんだよ…きっと、みんなも」

 

「ナディ…」

 

そう、ナディの言う通り…。次々とエクシードが翼を羽ばたかせ、飛んできて浮遊島にぶつかっていった。

 

「自分達の国は自分達で守るんだ!!」

 

「危険を冒してこの国と民を守り続けてきた、女王様の為にも!!」

 

「ウェンディさん!シャルルさん!!さっきはごめんなさい!!」 

 

「みんな!今はこれを何とかしよう!!」

 

ウェンディも別のエクシードに連れられてやってきた。そのままみんなで浮遊島を抑え始める。

 

「すごい…エクシードも…人間も…みんな一つなってる…!」

 

エドアミクは感動したように目を潤ませた。直後、エドアミクの手首が折れた。

 

 

 

「王女!!もうお止めください!!それでは貴方が…!!」

 

「私は…弱い…!でも…私には…この魔法が…ある!…無茶できる魔法…!!今まで…何も…できなかった…私が…やっと…力に…なれる…!こんなときに…無茶しないで…いつ、するの…!」

 

リリーは呆然とエドアミクを見つめた。

 

丁度その時、シャゴットが片翼だけで必死に飛びながらやってきた。

 

「シャゴット、そんな翼では無理じゃ!」

 

「いえ、私も…!」

 

片翼だけでは、上手く飛べないうえ、魔力そのものが少ない。もう、消えてしまいそうだ。

 

「きゃあっ!!」

 

「シャゴット!!」

 

案の定、魔力が尽きたのか翼が消え、落ちてしまうシャゴット。それをリリーが咄嗟に抱きかかえる。

 

「女王様。嘘をつくのに、疲れたのかい」

 

「…ごめんなさい。私…」

 

「…俺もさ。どんなに憎もうとしても、エクスタリアは俺の国なんだ!」

 

今まで溜めこんでいたのをぶちまけるかのようにリリーは慟哭する。

 

「皆すまねぇ…!俺なら止められた!人間たちを、止められたんだ!!」

 

自分を拾ってくれた王国に報いようと黙々と従っていた。何より、あの王女を助けたかった。

今回の計画も自分を追いだした国だから、どうなってもいい。そう思った。思い込もうとした。

 

それでも、アミクには見抜かれていた。自分はそれでも故郷(エクスタリア)を愛しているのだと――――。

 

「思いは…」

 

「っ!女王様…?」

 

「思いは必ず届くわ!」

 

シャゴットは微笑んでエドアミクを見た。エドアミクも微笑み返す。そして――――。

 

 

「命令…!リリー!…貴方の…故郷を…守りなさい…!!」

 

リリーの目が見開かれた。そして、涙を流しながら頷く。

 

 

「かしこまり、ました…!!」

 

そのまま、リリーも浮遊島を抑える。

 

「止まれぇぇぇぇーーーーーっ!!」 

 

「みんな頑張れー!!」

 

「押せー!!」

 

「俺達なら出来るぞー!!」

 

種族も、年も、性別も関係なく、みんな一つになって浮遊島を止めようとする。

 

 

「―――――♪『攻撃力強歌(アリア)』ァァ!!!」

 

 

そこで、アミクは魔力欠乏症にならないギリギリまで魔力を使う。

 

自分を含めた周りの人たちに筋力を上げる付与術(エンチャント)を掛ける。

 

 

「ナイスだ、アミク―――!!!」

 

 

「みんな、押しこんでえええええ!!!」

 

 

アミクの付与術(エンチャント)のおかげで更に浮遊島が押しこまれた。そのまま、どんどん押していく。

 

 

「いいぞ―――!!!」

 

「力が漲る――――!!!」

 

エクシードたちは付与術(エンチャント)もあって元気よく押しこんでいった。

 

突如、パルティータは自分の横に来た人物たちに驚愕する。

 

「…ラッキー!マール!だな!」

 

「あらあら、ひさしぶりねぇパルティータ」

 

「カーッ!!今までどこほっつき歩いてたんでぇ!!」

 

ラッキーとマール夫妻だ。

 

「お前たちまで…だな」

 

「勘違いすんでねぇ!!こんなガキンチョ共が体張ってるのに、オラたちだけ休んでるわけにゃいかねぇ!!」

 

「あら、素直じゃないわねぇ」

 

パルティータはニヤッと笑みを浮かべると、マールはニコニコ、ラッキーはふん、と鼻を鳴らした。

 

 

「私たちも押すわよ――――!!!」

 

「あいあいさ――――!!!」

 

『あいあいさ―――――――!!!』

 

 

ハッピーの掛け声にみんなも叫ぶ。

 

 

みんなの力が合わさって、とうとう―――――。

 

 

 

 

「や――――った―――――!!!」

 

 

浮遊島を遠くまで押し返すことができた。

 

 

直後。

 

 

 

巨大魔水晶(ラクリマ)が光に包まれ、消えてしまった。

 

 

「はわわっ!!?消えちゃった!!」

 

「な、なに!?」

 

アミクたちは慌ててレギオンにしがみつき、エクシードたちも翼を広げて浮遊した。

 

 

「一体…何が…どうなって…」

 

エドアミクが呆然と呟くと――――。

 

 

「アースランドに帰ったのだ」

 

 

どこからか、青年の声。聞き覚えのある声。上空を見ると白いレギオンの上に誰かが乗っていた。

 

 

青髪、謎の模様がある顔、その人物は―――――。

 

 

「ミストガン!!」

 

アミクは喜色を含ませた声で彼の名を呼ぶ。

 

 

 

「あ―――――」

 

 

エドアミクはミストガンを見て放心したように膝をついた。

 

「全てを元に戻すだけの巨大なアニマの残痕を探し、遅くなったことを詫びよう。そして皆の力がなければ間に合わなかった。感謝する」

 

「元に戻したって…」

 

ハッピーの疑問にミストガンは頷いた。

 

 

「そうだ。魔水晶ラクリマはもう一度アニマを通り、アースランドで元の姿に戻る。…全て終わったのだ」

 

 

ということは―――。みんな助かったのだ。マグノリアも、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみんなも、エクスタリアも。

 

「やったのか!?」

 

「俺たち…エクスタリアを守れたのか…!?」

 

「やったぁ―――!!!」

 

アミクが両手を上げて喜んだ。

 

「やった!やった!ナツ、ルーシィ!!イェーイ!!」

 

「「イェーイ!!」」

 

「ははっ、喜びすぎだろ」

 

『見ているだけでハラハラしたな…』

 

アミクがナツとルーシィとハイタッチしているのをグレイが呆れながら見ていた。

 

エクシードたちも互いに喜びを分かち合っている。意外にもシャルルとマーチが抱き合って喜んでいた。

 

「よかった!の!」

 

「私たち、故郷を守れた!!」

 

「オイラもがんばったよ!!」

 

ハッピーたちが喜んでいるのを、パルティータたちが優しげに見つめる。

 

「これが、貴方の望んでいた光景じゃない?」

 

マールが聞くと、パルティータは軽く目を瞑る。

 

「そう、だな。人間もエクシードも分け隔てなく接している、だな。共に危機に立ち向かって、心を一つにした――――ああ」

 

パルティータは空を見上げた。

 

「お前にも、見せてやりたかった、だな―――――ミーナ」

 

すると、ラッキーが怒鳴る。

 

「カーッ!!今でも見ているに決まってる――!!ずっとお前を支え続けたあいつなら、こんなの見逃すはずがねえ!!」

 

「…その通り、だな」

 

パルティータは涙を滲ませ、亡き妻を思い出す―――――自分の黒い翼を「美しい」と言ってくれた一人のエクシードを。

 

そして、そっとリリーに近づいた。

 

 

「久しぶり、だな。リリー」

 

「…パルティータ」

 

どうやら、リリーとパルティータは面識があるようだ。

 

「後悔しているか?だな。あの時、人間の子供を助けたことを―――」

 

「まさか。俺の信念に従ったまで。お前と同じだ」

 

「そうか、だな。今回も、お前の信念に基づいた行動か、だな」

 

リリーは苦笑する。

 

「…今までは、ただ、流されてきただけだった。自分の気持ちに蓋をしたまま、考える事を放棄し、言いなりになっていた…。久しぶりに、自分を出せた気がする」

 

「それは、よかった、だな」

 

「そして―――見ろ。あの方があの時の子供だ」

 

リリーはミストガンを指差す。そのミストガンが近寄ってきた。

 

「リリー、君のおかげで、妹の命は救われた。君の故郷を守れてよかった」

 

「えぇ…ありがとうございます。王子」

 

ミストガンはパルティータの方を向く。

 

「そして―――貴方も、私たちを助けてくれた。貴方が匿ってくれたおかげで、こうして私たちがいる」

 

「息災そうでなにより、だな」

 

 

 

 

そのミストガンの姿を見て、ココが歓声を上げる。

 

 

「王子が帰って来たよう…!」

 

「王子!?」

 

ココの言葉にアミクたちはビックリする。ミストガンがエドラス王国の王子だとは。と、いうことは――――。

 

 

「…お兄様…」

 

 

エドアミクが涙をポロポロ流しながら、ミストガンに声を掛けた。ミストガンはやっとエドアミクの方を見る。

 

 

「…アミク…」

 

「はい?」

 

「おめえじゃねえよ」

 

アミクがうっかり返事してガジルに小突かれてた。ミストガンがエドアミクに近づく。

 

 

「お兄様…今まで、どこにいたの…?」

 

「…すまない。私にはやるべき事があった…」

 

「寂しかった…辛かった…」

 

「ああ…一人にしてすまなかった」

 

「一人じゃ…なかった…けど…お兄様に…ずっと…ずっと…会いたかった…」

 

「会いに行けなくてごめん…」

 

「ぐすっ…謝ったって…許さない…ぐずっ」

 

「それでいい。こんな妹も救えないような兄なんか、許さなくたっていい」

 

「でも…やっぱり…大好き…」

 

「うん。俺もだよ…大きくなったな、アミク」

 

「そっちこそ…男前に…なった…」

 

ミストガンは先ほどとは少し態度を変え、エドアミクを優しく抱きしめた。そして、頭を撫でる。エドアミクも抱き返した。

 

「ぐすっ…うえええ…おかえりなさい…お兄様…」

 

「ただいま、アミク。今まで、よく頑張った」

 

 

二人で抱き続ける光景を見て、アミクはピン、ときた。

 

 

ミストガン、シスコンだな!と。

 

 

 

 

その時、アミクは不吉な音が聞こえてくるのを感じた。

 

 

 

「…みんな!気を付けて!!何か来る!!」

 

 

 

兄妹の感動の再会に水を差すように、それはきた。

 

「…リリー…!!」

 

エドアミクはリリーを突き飛ばした。瞬間。

 

 

エドアミクの胸を光線が貫いた。

 

 

「…あぅっ…!!」

 

「王女!!?」

 

「アミクゥゥ―――――!!!」

 

エドアミクは口と胸から鮮血を噴き出しながら、ゆっくりと落下する。ココが悲鳴を上げた。

 

「誰か!王女様を助けて!!」

 

「くっ―――――!!!」

 

「王女―――!!!」

 

リリーとミストガンが同時に飛び出す。

 

 

落ちていく彼女を抱きとめようと手を伸ばし――――――。

 

 

「!!」

 

 

空を掴んだ。

 

 

どこからともなく伸びてきた銀色の機械のような腕がエドアミクを掻っ攫っていったのだ。

 

あっという間にどこかに連れ去られるエドアミク。

 

 

「どこに連れていく!!?」

 

慌ててアミクがいなくなった方向を見ると――――何体ものレギオンがこちらに向かっているのが見えた。

 

 

 

 

「まだだ…まだ終わらんぞ――――ッ!!」

 

 

その先頭。レギオンの頭部から墳怒の表情でこちらを睨んでくる、髪が短くなったエドエルザ。

 

「裏切り者め。所詮は堕天、元エクシードが王に救われた恩を忘れ、刃を向けるとはな」

 

エドエルザがリリーを嘲笑する。

 

「あげく、王女に庇われるなど、愚の骨頂だ」

 

「向こうのエルザか!?」

 

「エドラスのアミクが…!!」

 

「あの野郎…!!」

 

アミクは心配そうにエドアミクが連れされらた方向を見た。

 

「早く…助けないと…!」

 

なんで、エドラスの自分を連れ去ったのかは分からないが、とても嫌な予感がする。

 

「スカーレットォォォ!!!」

 

「ナイトウォーカー…!」

 

エドエルザがこっちのエルザを見つけると、大声を上げて突っ込んできた。

 

 

 

そのエドエルザの前に、ミストガンが立ち塞がる。

 

「エドラス王国王子であるこの私に刃を向けるつもりか?エルザ・ナイトウォーカー」

 

「くっ…」

 

「それに、王女を攻撃するとはどういう了見だ?そこまで腐ったか、エルザ」

 

「そ、それは…」

 

王族に弱いのか、エドエルザがたじたじになった。っていうかミストガン怒ってる。目が笑ってないもん。

 

キレてね?あれキレてね?

 

隠しきれない怒気がミストガンから溢れていた。

 

「王子!?」

 

なぜかエルザがびっくりしていた。まぁ、アースランドでのジェラールは犯罪者なのに、エドラスでは王子という立場なので、驚きもするだろう。

 

 

その時。

 

『王子だと?笑わせるでないわ!儂は貴様を息子などとは思っておらん!』

 

どこからか地の底から響く様な声がした。ファウストだ。

 

「王様の声!あそこから聞こえる!!」

 

アミクが下の方を指差す。

 

『7年も行方を眩ませておいて、よくおめおめと戻ってこれたものだ…貴様がアースランドでアニマを塞いで回っていたのは知っておる。売国奴め!お前は自分の国を売ったのだ!』

 

そんなの、八つ当たりである。ナツが下の方を見ながら叫ぶ。

 

「おい!姿を見せろ!」

 

「貴方のアニマ計画は失敗したんだ。もう戦う意味などないだろう!」

 

ミストガンが大声でファウストに言うと、急に地面が揺れ出した。

 

『意味?戦う意味だと?』

 

同時に地響きも聞こえてくる。

 

「この音…魔力で、大気が震えてる…?」

 

アミクが音を食べて、そう分析する。

 

 

『これは戦いではない。王に仇なす者への報復。一方的な殲滅―――――儂の前に立ちはだかるつもりなら、たとえ貴様であろうとも消してくれる!跡形もなくなァ!』

 

声と共に森の方から現れた。巨大なフォルム。

 

「あれは…魔導兵器…!?」

 

「父上…」

 

『父ではない。儂はエドラスの王である!』

 

全身は銀色の冷たい金属で、傷を付けることも困難そうな強度があるように見える。

 

『そう、ここで貴様を始末すればアースランドでアニマを塞げる者は居なくなる! また巨大な魔水晶(ラクリマ)を作り上げ、エクシードの魔力と融合させることなど何度でも出来るではないか!』

 

「あ、あれは…!!」

 

鋭利そうな爪が光り、固そうな足で地を踏みしめる。その姿はまるで―――――竜。

 

 

『フハハハハハ!王の力に不可能はない!王の力は絶対なのだ!』

 

「おぉ…あの姿、あの魔力、間違いない…!」

 

「な、なんと言うことじゃ…あれは――!」

 

「ドロマ・アニム!だな!」

 

エクシードの老人たちと、パルティータが叫ぶ。

 

「ドロマ・アニム?こっちの言葉で竜騎士の意味――――ドラゴンの強化装甲だと!?」

 

「ドラゴン…」

 

ミストガンの言葉にドロマ・アニムとやらを注視してみれば、確かにドラゴンにそっくりだ。

 

「強化装甲って何!?」

 

対魔戦用魔水晶(ウィザードキャンセラー)が、外部からの魔法を全部無効化させちゃう搭乗型の甲冑!王様があの中でドロマ・アニムを操縦してるんだよう!!」

 

ココの説明にアミクたちは戦慄する。魔法を無効化する兵器など、凶悪すぎる。

 

「でも…それだけじゃないんだよう!!!」

 

ココが泣きながら嘆くように叫んだ。

 

どういうことか、と首を傾けていると、ハッピーがあることに気付く。

 

「見て!あそこ!」

 

 

ハッピーが指差した方向を見ると。

 

 

ドロマ・アニムの腹に当たる部分から伸びた機械腕―――――先程、エドアミクを攫ったものだ――――があった。

当然、それに掴まれたエドアミクも見える。ミストガンが思わず叫ぶ。

 

「アミク!!」

 

「あんなところに!!」

 

「エドアミクをどうするつもりよ!!」

 

「人質、か!?」

 

 

ルーシィたちも次々言うと、ココが否定した。

 

「違うよう!!王様は、王様は…実験の過程で王女様を、ドロマ・アニムに利用することを思い付いちゃったんだよう!!」

 

「どういうことだ!!」

 

ミストガンも知らなかったのか余裕のない表情で聞いた。

 

 

しかし、その疑問に答える前にファウストが高笑いを上げた。

 

 

『フハハハハハ!!!娘よ!!貴様は誰かの役に立ちたい、と言っていたなぁ?ならば望み通り、儂のため、国のため、せいぜい役に立って見せろ!!』

 

「あ…やめ…て…お…父様…」

 

胸の傷は既に治っている。しかし、乱暴な扱いですぐに新たな傷ができていた。その時、機械腕がドロマ・アニムの腹部に戻っていき、それと共にエドアミクも腹部に運ばれていく。

 

「たすけ…て…おにいさ、ま…なつ」

 

ぐちゃ、という音と共にアミクが腹部に開いた穴に吸い込まれた。直後、その穴がシャッターが下りるように閉じていく。

 

 

「アミクゥゥゥ―――――――――――!!!」

 

ミストガンは絶叫した。

 

 

『ククク、今まで何一つ使えん娘だったのだ。儂のために身を捧げられることを光栄に思え!』

 

「貴様、一体なにをしたぁ―――――――!!!」

 

歯を食いしばったミストガンがなりふり構わず突っ込む。

 

 

『…よし、成功だ。アミクの魔力とドロマ・アニムの魔力を同化させた。これの意味が分かるな、ジェラールよ』

 

「…!!貴方という人は、どこまで…!!」

 

ミストガンが怒りと悲嘆を混ぜたような表情で言う。

 

『アミクの魔法を、このドロマ・アニムも使えるようになった、ということだ!!つまり、ドロマ・アニムは『自己治癒』いや『自己再生』の力を得た!!

 これぞ完全なる無敵の魔導兵器なのだあぁぁ!!!』

 

ファウストの哄笑が王国中に響いたような気がした。

 

「…イカれてるぜ」

 

「酷い…」

 

「アイツ…許さねえぞ!」

 

『なんてことを…』

 

ナツやウルたちも唖然として怒りをあらわにする。

 

 

『安心せい。アミクは死んでおらん。実験の時のような責め苦は受けているだろうがな!!』

 

 

現在、彼女はドロマ・アニムの内部で、体にチューブなどや針などを突きたてられ、激痛を常に感じているだろう。

 

 

『最強と化した我が兵器の力を見よ!』

 

ファウストはドロマ・アニムの口を突っ込んでくるミストガンに向けた。その口から、魔力光線が放たれる。

 

「…!!」

 

ミストガンは咄嗟に魔法陣を展開してそれを防御した。それを見たエルザが叫ぶ。

 

「ミストガン!!」

 

『ミストガン?それがアースランドでの貴様の名前か、ジェラール?』

 

ファウストがバカにするように笑った。しかし、ミストガンはそれを無視して魔法を放つ。

 

「三重魔法陣『鏡水(きょうすい)』!!」

 

三重になった魔法陣が展開され、魔力光線を撥ね返した。

 

 

『ぬう…!』

 

それはドロマ・アニムに当たって爆発を起こす。

 

「やったか!?」

 

「グレイのバカ!!それ言っちゃったらダメなヤツだから!!」

 

「はぁ!?」

 

『何言ってんだか…』

 

急に怒り出すアミクに唖然となるグレイと呆れるウル。

 

 

煙が晴れると、案の定傷一つないドロマ・アニムが。

 

『フフフフ…チクチクするわい!』

 

再生の力か、対魔専用魔水晶(ウィザードキャンセラー)の力なのか、それとも両方か。

 

 

「ほらぁ!!ピンピンしてるじゃん!!」

 

「俺のせいなのか!?」

 

『そう、これが対魔専用魔水晶(ウィザードキャンセラー)の力。魔導士如きがどう足掻こうと、ドロマ・アニムには如何なる魔法も効かん!たとえ傷を付けられたとしても、瞬時に修復する!!』

 

絶望しか感じない、凶悪な兵器だ。再びドロマ・アニムの口から魔力光線が射出された。

 

「ぐっ!!」

 

脇腹を掠め、バランスを崩してレギオンから落下していくミストガン。アミクが悲鳴を上げる。

 

「ミストガン!!?」

 

 

「王子!!」

 

 

リリーが即座にミストガンを追いかけていった。

 

 

『ヒャハハハハ!貴様には地を這う姿が似合っておるぞ、そのまま地上で野垂れ死ぬがよいわ!』

 

下品な笑い声を上げ、ミストガンを嘲るファウスト。

 

 

そして、邪魔ものはいない、とばかりに命令した。

 

 

『我が兵たちよ、エクシードを捕らえよ!』

 

すると、エルザを始めとした兵士たちが動き出す。レギオンに乗った兵士たちがエクシードたちを追いかけ、彼らに武器の照準を合わせた。

 

「マズイ!!逃げるんだ!!」

 

「みんな!散れ!だな!!生き延びる事を考えろ!だな!!」

 

『わ――――!!!』

 

「逃がすなー!!」

 

パルティータたちが叫び、エドエルザが声を上げると同時に武器から光線が放たれる。不幸にもその光線に命中したエクシードは――――。

 

「ラ、魔水晶(ラクリマ)になっちゃった!!」

 

なんとネコ型の魔水晶(ラクリマ)に変換されてしまったのだ。

 

 

あっという間に阿鼻叫喚となるエクシードたち。

 

 

「王国軍からエクシードを守るんだ!!ナイトウォーカーたちを追撃する!!」

 

「でも、あの光線、当たったら私たちも魔水晶(ラクリマ)になるんじゃ?」

 

「エクシードにしか効果はないみたいだ」

 

アミクとエルザが話していると、グレイがドロマ・アニムを見据えて聞く。

 

「あのデカブツはどうする?」

 

「あの中に王女様がいるんだよう!!何とかして助けないと!!」

 

「なんとかして、って…」

 

魔法も効かない、傷も再生する、といった能力を持つドロマ・アニムからどうやって救出するというのか。無理ゲーでは?

 

 

「クソ!とにかく、今は躱しながらいくしかない!今のエクシードは無防備だ。俺たちが守らないと!向こうのアミクの方はどうしようもねえぞ!!?」

 

「そんな!!」

 

ココが悲壮な声を上げ、グレイたちも仕方なくエクシードたちを助けに行こうとすると、ファウストがおかしくてたまらない、とばかりに笑いだす。

 

『躱しながら…守る…?プッハハハハ!人間は誰一人として逃がさん!全員この場で塵にしてくれる!――消えろォォォ!!!』

 

ドロマ・アニムの口から光線が放たれ、レギオンの羽を掠めていった。

 

「のわっ!?あれを躱しながら戦うのは無理だ!」

 

「でも、どうすればいいの!?」

 

 

ルーシィたちが焦りの表情を浮かべた時だ。

 

 

ドロマ・アニムの首元で爆発が起きた。

 

『なに!?』

 

続けて、胴体に鉄の棒が直撃し、のけ反る。ファウストの驚いたような声が聞こえる。

 

『誰だ!?魔法が効かぬ筈のドロマ・アニムに攻撃を加えてる者は!?』

 

「『天竜の…咆哮』!!」

 

上からブレスが吹き荒れ、ドロマ・アニムがすこし後退した。

 

さらに。

 

「『音竜の交声曲(カンタータ)』!!」

 

『ぐおおおお!!?』

 

強烈な衝撃波が右腕に発生し、腕が勝手に弾き飛ばされた。腕が外れるようなことはなかったが、僅かに傷ができる。

 

『傷が…!?』

 

しかし、すぐに跡形もなく消えた。

 

『貴様等はァ…!?』

 

それを見届けて、ファウストは前を見る。そこには、4人の人影があった。

 

「やるじゃねぇかウェンディ」

 

「いいえ、ナツさんたちの攻撃の方がダメージとしては有効です」

 

「オイオイ、音竜(うたひめ)。本当に傷が直んじゃねえか。あれ、テメエの力なんだろ?」

 

「私じゃなくて、エドラスの私!!もう、信じられないよ!自分の娘を兵器に組み込むなんて!!」

 

ナツ、アミク、ガジル、ウェンディ。

 

『アミク…。そうか、貴様らは…』

 

ファウストは何か納得したような声を出した。アミクは空を飛んでいるレギオンを見上げ、呼びかけた。

 

「エクシードたちを守って!!このドローンとエドアミクは任せて!!」

 

「分かった!!」

 

『ドローンではない!!ドロマ・アニムだ!!』

 

ファウストが文句を言うが、当然無視。ルーシィが不安そうにアミクたちを見下ろす。

 

 

「でも、あんなの相手に4人で大丈夫なの?」

 

「問題ねぇさ。相手はドラゴン、倒せるのはあいつらだけだ。

 ドラゴン狩りの魔導士―――――滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!!」

 

 

ここに、ドラゴン型の兵器とドラゴンを狩る者たちが対峙する。最終決戦が始まろうとしていた。

 

 

 




ドロマ・アニム、強化。

エドラスのアミク、散々な目に遭いすぎだな。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。