妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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炎竜王の崩拳!とかやってみたい年頃です。もうフェアリーテイル終わったのにね。まぁ終わったからこそ二次創作しやすいって言う点もあるけど。

ともかく今回は多分エロゴールさん出ます。


鉄の森(アイゼンヴァルト)妖精女王(ティターニア)音竜(うたひめ)

「じゃ、行こうか、ルーシィ」

 

「うん!」

 

「待って、なの」

 

アミクとルーシィ、マーチは必要な荷物を持ち、家から出た。今から集合場所である駅に向かうのだ。

 

「それにしてもルーシィも一緒に行くことになるとはね・・・」

 

「ミラさんに頼まれたのよ。『あの二人の世話するのアミク一人じゃ大変だろうから手伝ってあげて』って」

 

「確かにナツとグレイの喧嘩を止めるのは骨が折れる、の・・・」

 

同居人だからというのも理由の一つだろう。

 

「なんにせよルーシィがいてくれたら心強いよ」

 

「え?でもあたし戦闘になったらあまり役に立たないと思うわよ?」

 

「居てくれるだけでも結構違うんだよね。それに戦闘じゃなくてもルーシィの魔法に頼るときもあると思うし」

 

「そうかな・・・?」

 

なんて会話をしながら駅に着く。するとそこには――――

 

「たくよぉ・・・なんでエルザみてぇなヤツが俺たちの力を借りてぇんだよ?」

 

「知るかよ・・・つか、助けなら俺だけで充分なんだよ」

 

「じゃあお前だけで行けよ!!俺は行きたくねぇ!!!」

 

「なら来んなよ!!後でエルザに殺されちまえ!!」

 

「お前達!ケンカはするなと言っただろう!」

 

案の定、ナツとグレイがケンカしていたのでアミクはエルザの声を真似て止めることにした。

 

「「げぇっ!?エルザァ!!?」

 

「わ、そっくり!」

 

二人は抱き合ってビビり、ルーシィは感心する。

 

「アミクは音を操れるから、記憶した声を真似ることができる、の」

 

「隠し芸みたいね・・・」

 

「ってアミクかよ!驚かすなよ!」

 

「二人共、ケンカはめっ、でしょ?」

 

今度はミラの声を真似て言ってみた。

 

「・・・なんか調子狂うなぁ」

 

「全く・・・」

 

二人共毒気を抜かれたのかとりあえず喧嘩はしなくなった。

 

「あたしの部屋――――!!」

 

「もういいわ!」

 

調子に乗ってルーシィの声を真似たら怒られた。

 

「でも、グレイも言ってたけどエルザぐらいの人が私達の力を借りなければいけないほどの事態なんて・・・」

 

アミクは一体どんな話がもたらされるのだろう、と少し不安になった。

 

「そういえばなんでルーシィがいるのー?」

 

ハッピーが聞いてきたのでルーシィがさっきと同じことを説明した。

 

「・・・ってか仲介役ならあんたとマーチもいるじゃない!」

 

「オイラ達は猫なので」

 

「忘れられてるだけでしょ」

 

アミクがかわいそうなやつを見る目でハッピーを見ていると

 

「すまない、遅くなったな」

 

そう言ってエルザが現れた。

 

「あ、エルザ!」

 

「エルザ・・・さん!?」

 

エルザの方を向いた時アミクとマーチを除きみんな驚いた。

 

『荷物多っ!!?』

 

エルザの後ろには荷台に積まれている大量の荷物があった。

 

「エルザー、毎回言ってるけどそんなにいらないと思うよ?」

 

「む、そうか?何があっても大丈夫なように万全の準備をしてきたのだが・・・」

 

「絶対関係ないのある、の」

 

「それに石橋を叩いて渡る、とは言うけど叩きすぎて石橋の方が壊れると思う・・・」

 

アミク達が呆れている傍らではグレイとナツが肩を組んで震えていた。

 

「お、俺達・・・今日も仲いいぜ・・・」

 

「あいー・・・」

 

「出た、ハッピー2号・・・」

 

そこでエルザがルーシィの方を向いた・

 

「ん?君は確かギルドにいた・・・」

 

「あ、はい!新人のルーシィといいます!今日はミラさんから頼まれて同行することになりました・・・よろしくお願いします!」

 

「ルーシィは星霊魔導士なんだよ。私達が気付かなかったことに気付いたり、マイナーな知識を持っていたりすごいんだよ?」

 

アミクがルーシィを持ち上げるとエルザが感心したように言った。

 

「ギルドで聞いていた通りだな。皆が騒いでいたぞ。期待の新人だって」

 

「も、もう!お世辞ですよ~」

 

「雪山にある屋敷に住み着いていた傭兵ゴリラを倒したそうだな。頼もしい限りだ」

 

「色々混ざってる!?」

 

「それにあたしじゃないし・・・」

 

バルカンも傭兵もメイドゴリラも倒したのは全部アミク達だ。

 

「あぁ紹介が遅れたな。私はエルザ。よろしく頼む」

 

エルザとルーシィが握手をしていると、ナツがエルザの前に立つ。

 

「おい、エルザ!付いて行ってやる代わりに条件を呑め!」

 

「条件?なんだ、言ってみろ」

 

ナツは短く息を吸うと、言い放った。

 

「帰ったら俺と勝負しろ!」

 

「な!?」

 

「え!?」

 

「そうきたか・・・」

 

ルーシィとグレイは驚き、アミクは苦笑した。ハッピーとマーチは空中鬼ごッごをしていた。何やってんだ。

 

「お、おい!何言ってんだ!」

 

グレイは慌ててナツを止めようとする。

 

「前やり合った時は負けたが・・・あの時とは違う!今度こそ勝ってやる!」

 

ナツは獰猛に笑ってエルザを見た。

 

「ふむ・・・私はいささか自信がないが・・・まぁいいだろう、受けて立つ」

 

「よっしゃああああ!!」

 

「相変わらずのバトルジャンキーだなぁ」

 

アミクが呆れて肩をすくめる。するとエルザが聞いてきた。

 

「ちょうどいい。グレイとアミクもどうだ?」

 

「じょ、冗談!やってらんねーよ!」

 

「私もパス」

 

二人は即答する。

 

「そうか・・・個人的にはアミクとはやり合いたかったのだが、仕方ない」

 

「前やった時はアミクが勝ったからね・・・なの」

 

「はぁぁああああ!!?」

 

ルーシィがめっちゃびっくりして声を上げる。

 

「エルザさんに勝ったぁぁああ!!?」

 

「いや、でも辛勝だったし。私は色々小細工混みでやってたし」

 

「それでも勝ちは勝ちだ。あの決め手は見事だったぞ」

 

ルーシィが驚いたままいるとハッピーがやって来て説明する。

 

「アミクはエルザに勝つことができる稀有な存在なんだよ。ナツは愚直に突っ込んでは帰り討ちにあう場合がほとんどだけどアミクは色々工夫を凝らしながら攻撃を当てていくんだ。それでエルザに喰らいついてるんだよ」

 

「でも私が勝ったことなんて数えるくらいしかないよ?大体はエルザが勝つし、なんとか勝ってもまぐれもあるし、次やるときには通用しなくなってるし、ほんとエルザ強い・・・」

 

アミクがため息を吐くがエルザに勝ったことがある時点ですごいと思うルーシィであった。

 

「じゃあ、ナツよりもアミクが強いの?」

 

「それは何とも言えない、の」

 

「実際は同じくらいなんだよね~。何回か勝負したことあるけど勝率は五分五分だし」

 

マーチも加わって話しているとエルザが口を開いた。

 

「とはいえ、負け越しては私も寝覚めが悪い。いつか勝負してもらうぞ」

 

「はぁ、わかったよぉ、いつかね。また強くなってるんだろうなぁ・・・」

 

アミクはげんなりしてため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、列車内。

 

「はぁ~こうしてると気持ちいいもんだなぁ列車はぁ~」

 

平衡感覚養歌(バルカローラ)』を掛けてもらったナツが言う。

 

「ああ~ずっとこうだったらいいのにな~」

 

「連続して掛けると効きづらくなるからその願いは叶いそうにないよ・・・」

 

「でも歌で酔わなくするだなんてその魔法便利ね~」

 

乗り物内でも余裕ができたアミク達は楽しそうに話している。

 

「ったく、ケンカ売った直後なのに弛みすぎだろナツ」

 

「あ”~」

 

ナツに至っては温泉に浸かったおっさんのような声を出していた。グレイの言葉にも反応しないほどリラックスしているらしい。

 

「い”~な”~」

 

「うむ、それなら私の隣に来い。乗り心地がいいぞ」

 

「それってあたしにどけってことかしら・・・」

 

エルザの言葉にナツは素直にエルザの隣に座る。ルーシィは元々ナツが座ってた場所、つまりアミクの隣に座る。

 

「う”~」

 

「うるさいからちょっと静かにしてろ」

 

「う”っ」

 

そう言うとエルザはナツのお腹に拳をめり込ませて気絶させた。

 

「よし、これで静かになったな」

 

(やっぱりこの人も変だー!)

 

ルーシィは内心絶叫した。

 

 

 

「そ、そういえばエルザさんはどういう魔法を使うんですか?ギルドメンバーの魔法はナツとアミク以外知らなくて・・・」

 

ルーシィが聞いた。

 

「エルザの魔法は綺麗、なの。血がいっぱい出る、の・・・・相手の」

 

「それって綺麗なのかしら!?」

 

「エルザでいい・・・。私よりもグレイの魔法の方が綺麗だと思うぞ」

 

エルザがグレイを見る。

 

「あー確かに。綺麗だしかっこいいよね」

 

「そ、そうか?」

 

「どんな魔法なの?」

 

照れるグレイにルーシィが聞くと、手のひらの上に握りこぶしを置いた。すると、氷で造られたギルドマークが現れる。

 

「氷の魔法さ」

 

「おおー!」

 

そこでルーシィははっと気付くとナツとグレイを交互に見た。

 

「火と氷・・・そっかだからあんた達仲が悪いんだ!」

 

「それ、私も最初思った」

 

「ほっとけ!」

 

グレイがそっぽを向いた。

 

「方向性は違うが、私はアミクの魔法も綺麗だと思うぞ」

 

「ええ!?」

 

「確かに!歌ってるとき、声綺麗だもんね!」

 

「その歌で人を癒すとかどこの童話だよ、って思うけどな」

 

皆に立て続けに言われて赤くなる。

 

「わ、私はともかくハッピーやマーチだって翼が綺麗じゃん!?」

 

「いつの間に綺麗って言い合う合戦になった、の?・・・」

 

 

 

 

 

「で、そろそろ話してくれる?私達が必要になるほどの事態ってなんなの?」

 

まずはアミクが切り出す。

 

「うむ、そうだな・・・実は・・・」

 

エルザの話をまとめるとこうだった。

 

 

 

 

仕事帰りに偶然立ち寄ったオニバスにある魔導士が集まる酒場で4人組の男達が集まり、封印されていると言われる『ララバイ』という魔法について話していた。

その『ララバイ』には封印が施されているらしく四人組の一人である、『カゲちゃん』と呼ばれる人物が封印を解き、『エリゴール』という人物に届けると言っていたらしい。

 

「ララバイ・・・子守唄(ララバイ)か・・・私、同じ名前の魔法使えるんだけどそれなの?」

 

「相手を眠らせるんだったな・・・それと似たものかどうかは分からないが、封印されていたということは強力な魔法なのは間違いないだろう」

 

だが、とエルザは続けた。

 

「その話を聞いても最初はあまり気に留めなかった。だが、奴らが言っていた『エリゴール』という名が引っかかった」

 

「エロゴール?」

 

「マーチ、人を勝手に変態にしない」

 

アミクがマーチに注意する。

 

「そして、思い出したのだ!奴は、『死神』エリゴール」

 

「し・・・!」

 

「『死神』・・・?」

 

物騒な二つ名に息を呑む一同。

 

「闇ギルド『鉄の森(アイゼンヴァルト)』のエース、それがエリゴール。元々、『鉄の森(アイゼンヴァルト)』は暗殺系の依頼をこなして六年前に魔導士ギルド連盟から追放されたギルドだ」

 

「本来、暗殺などの依頼は評議員の意向で禁止されているんだよ」

 

アミクが注釈を加える。エルザも頷いて続ける。

 

「その通りだ。だが、奴らは金を選んだ。エリゴールの『死神』とはその際、暗殺系の依頼ばかりを遂行していた為につけられた通り名だ」

 

『エリゴールは危険』とアミクの脳裏に刻まれた。

 

「そして連盟を追放され、ギルドマスターが捕まったにも関わらず連中は活動を続けている」

 

「だから、闇ギルドなんだね」

 

アミクは自分の予感が当たってしまったことにため息をつく。まさか、本当に闇ギルドと関わることになるとは。

一方、エルザの説明を聞いていたルーシィは冷や汗を流す。

 

「なんか帰りたくなってきた・・・」

 

「ルーシィ、汁が出てるよ~」

 

「汗よ!」

 

エルザは拳を握った。

 

「不覚だった!・・・あの時、エリゴールの名に気付いていれば、全員血祭りにあげることができたものを!」

 

「怖っ!?」

 

「ぐふっ!?」

 

「あのーエルザー?ナツに被害が・・・」

 

エルザが悔しそうに拳を叩きつけたがそれはナツの頭だった。

 

「そこでだ、『鉄の森(アイゼンヴァルト)』のギルドに乗り込もうと思うのだが、私一人でギルド一つ相手取るのは少々心もとない。よってお前達に助力を頼んだわけだが・・・」

 

「まあ、なにか企んでるのは間違いないだろうしな。きっとそのララバイってやつもそのときに使うんだろうよ」

 

「ああ、だからこの事態を重く見て早急に解決する必要があると判断したわけだ。特にマスターがいない今は、な」

 

「面白そうじゃねぇか・・・!」

 

グレイは乗り気のようだ。

 

「ま、そういうことならやらないわけにはいかないよね」

 

アミクも目に闘志を燃やす。

 

「うう・・・来るんじゃなかった・・・」

 

ルーシィだけは尻ごみしているようだ。

 

「ルーシィ、肉汁が出てる、の」

 

「言い方、やらしいわね!?あと汗よこれは!」

 

「マーチ、お魚食べるー?」

 

「ありがとう、なの」

 

二匹も通常運転だ。

 

「・・・」

 

ナツからは返事がない。ただの屍のようだ。

 

(ララバイ・・・ねぇ。うーん、なんか引っかかるなぁ)

 

アミクは首を捻る。自分が同じ名前で使ってるということ以外で聞き覚えがある気がする。

 

(なんだっけ・・・おじいちゃんに聞けば分かるかな・・・)

 

今はいない小さな老人のことを思い浮かべる。

 

(今頃真面目な話してるんだろうなぁ)

 

 

 

 

一方ギルドマスター達の定例会場では。

 

「いや~最近入った新人の子がアミクと同じくらいボインちゃんでのぉ」

 

「あら~ん、欲しいわねその子」

 

「なぁ、マカロフ。おまえんとこ綺麗どころ多いんだからさ。一人くらいくれよ~。ほら、『歌姫』とか」

 

「ならんならん!貴様らに何ぞにうちの子はくれてやらんわーい!」

 

 

下世話な話をしていた。

 

 

 

 

 

 

「そういえばルーシィに話したいことがあった気がするんだけど」

 

「話したいこと?」

 

ハッピーが言うのでルーシィもハッピーを見る。

 

「うーんなんだったかなぁ、ルーシィといえば変。ルーシィは変・・・」

 

「変で悪かったわね・・・」

 

ルーシィがもはやツッコむ気力もない、とばかりに言った。

 

「あれ、なの。ほらバルゴの・・・」

 

「ああー!そうだ思い出したー!」

 

マーチが言うとハッピーも思いだしたようだ。荷物から金色の鍵を取り出す。

 

「これって?」

 

「ほら、前にエバルーの所にいたでしょ?バルゴって星霊が。それが家に来てルーシィに鍵を渡してほしいって」

 

「ちなみにあーしはその現場に居合わせた、の」

 

「え――!?あのゴリラメイドが!?」

 

ルーシィは恐る恐る鍵を受け取った。

 

「そっか、エバルーって悪事がバレて逮捕されたんだっけ」

 

バニッシュブラザーズから送られてきた手紙にはそう書いてあった。あいつらフェアリーテイル宛てに手紙送ってきやがったんだよ。

 

「よかったじゃん!黄道十二門が一つ増えたね!」

 

アミクが心底嬉しそうに言う。いや、嬉しいことは嬉しいが元があのゴリラなので微妙な心境だ。まぁ牛もいるし大丈夫だろう。

 

「あとで契約しとこ」

 

ルーシィはホルダーに鍵をしまった。ここでバルゴを出して契約するには巨体すぎると思ったためだ。

 

 

 

 

 

 

目的地に着いた一同。

 

「で、『鉄の森(アイゼンヴァルト)』のアジトはここにあるのか?」

 

「それは分からん。今からここで調べるつもりだが」

 

「そう簡単に見つかるとは思えないけど・・・」

 

そう言うルーシィは何かが足りない気がしていた。

 

「・・・そういえばナツは?」

 

『あ』

 

すっかり忘れていたらしい。

 

「ってかアミクもいねえじゃねえか!」

 

「アミクならナツ連れてくるって列車に戻っていったよー」

 

「それを早く言いなさいよ!」

 

列車の方を振り返るとエルザ達が座っていた座席の方で、アミクがナツを起こしていたところだった。

 

「ほら、ナツ着いたよ」

 

「うう・・・なんだ?腹と頭が痛ぇぞ・・・?」

 

その直後。

 

「あ!列車出発しちゃった!」

 

列車が動き出したのだ。

 

「おい!もう窓から飛び降りろ・・・」

 

エルザが列車の中にいる二人に向かって命令しようとするが・・・。

 

二人揃ってうずくまった。

 

 

「・・・もしかして『平衡感覚養歌(バルカローラ)』切れちゃった?」

 

何と言うタイミングの悪さ。ルーシィの言葉に青ざめる皆。そうしている間にも列車は進んで行く。

 

「くそっ!!なんという事だ!!

 

話に夢中になるあまり、ナツを列車に、置いてきてしまった!!

 

それに私がやるべきだったことをアミクにやらせてしまった!私の失態だ!誰か殴ってくれ!」

 

「落ち着いて、なの」

 

マーチはエルザを宥めた。

 

「今はあいつらを追いかける方が先だ!」

 

「あーもう!なんでこんなことに――!!」

 

とりあえず一行は列車を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

「うう・・たすけ・・・うっぷ」

 

「き、きもちわるい・・・うぇ」

 

列車の中では二人がぐったりしていた。とりあえず、椅子に座ってるがなんにも改善されない。

そして、そこに近づく一人の影。

 

「お兄さん、お姉さん。ここ、空いてる?」

 

黒髪のどこか軽薄そうな男だった。男は返事を聞かずに苦しんでいるアミクの背中を摩る。

 

「大丈夫お姉さん?キツそうだね」

 

「う・・・お兄さんここに座んない方がいいよ・・・私達、こんなんだから、ううぅぅ」

 

アミクがそう忠告しても離れずに、むしろ馴れ馴れしくアミクの肩を触ってくる。

 

「まぁまぁ、そう言わずに・・・ん?」

 

その男がアミクの手首にある『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』のギルドマークを見た。

 

「へぇ、お姉さん達、正規ギルドの『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』なんだ・・・」

 

男の目が暗く笑う。

 

「『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』って言えばさぁ、ミラジェーンっているよね?とっても綺麗だよねぇ・・・実際に一目見てみたいなぁ・・・あと名前は知らないけど新しく入った娘も可愛いんだって?気になるねェ・・・」

 

ナツもアミクも答えない。余裕がないというのもあるが、アミクはなんだかこの男に嫌なものを感じ始めていた。

 

「ほかにもほら、『歌姫』だっけ?結構知ってる人は知ってるんだけど、姿はまだ見たことないんだよねぇ・・・。ぜひ会ってみたいよ・・・」

 

ピクリ、とナツとアミクが反応した。

 

「それでさぁ、話は変わるんだけどうちのギルドって女っ気が全然なくてねぇ・・・一人くらい欲しいんだよね・・・」

 

そう言って厭らしくアミクを見る。

 

「お姉さんなかなか可愛いじゃん。お兄さん、この子うちにくれない?まぁ、返事なんていらないけど、ねっ!」

 

急に人が変わった様に男はナツの顔面を蹴飛ばした。

 

「ナ、ナツ!」

 

アミクは慌てて立ち上がるが気持ち悪くなりすぐに膝を突いた。

 

「おっと、お姉さんは一緒に来てもらおうか。こんなハエとは釣り合わないよ」

 

男がアミクの腕を掴んだ瞬間。

 

「てめ・・!アミクに、さわんじゃ、ねぇえ!!」

 

ナツが男を睨みつけ、手に火を灯す。だが、力が入らずそのまま倒れた。

 

「ハハハ!!だっせぇ!!ハエらしく惨めじゃないか!」

 

ガシッとナツの頭を踏みつける。

 

「ハエのくせに調子乗ってんじゃねぇよ!!女一人守れないくせして!!」

 

「ハエ、じゃない・・・!」

 

「あ?」

 

アミクは男をキッと睨みつけた。

 

「ナツはハエじゃない!『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』だ!」

 

「・・・」

 

男は無表情になると

 

「うるせえよハエが!!」

 

アミクを思い切り蹴飛ばした。そのまま壁に叩きつけられる。

 

「あ、ぐっ!」

 

「アミ、ク・・・!」

 

「俺ら闇ギルドは正規ギルドのことそう呼んでんだ!!一丁前に格好付けてるんじゃねえよハエ共!!」

 

直後、列車が止まった。

 

「ん、なんだ・・・?」

 

 

 

 

少し前。

 

「だから!降り損ねた仲間が二人いるんだ!」

 

「ですがそのためだけに列車を止めるわけには・・・」

 

エルザが駅員と押し問答をしている。

 

「どうしよう・・・!こうしてる間にもどんどん離れて行っちゃう・・・!」

 

「・・・」

 

ルーシィが焦ってる中、マーチは駅員の後ろにあるボタンに注目していた。

 

(あれは、もしかして・・・)

 

そして、ふわりと飛ぶと駅員に気付かれないように近づく。

 

「マーチ?」

 

ハッピーが疑問の声を上げるがそれを無視してボタンを押した。

 

直後に列車が止まった。

 

「おお!でかしたマーチ!!」

 

「今のうちに追いつく!」

 

「ああ、もう!まともな人はいないのー!?」

 

「俺はまともだぞ!!」

 

「露出魔に言われても説得力無いわ!!」

 

一行はそれを見るや否や走りだす。後ろで駅員が慌てていたがそんなことはどうでもいい。

 

 

 

 

「「止まった―――!!」」

 

瞬間、アミクとナツは復活した。

 

「さっきはよくもハエハエ言いやがったな!!」

 

「私、今、怒ってます!」

 

「くっ・・・」

 

それぞれ火と音を纏う二人。先手はアミクが切った。

 

「えぇい!」

 

「がっ!」

 

パンチで軽く吹っ飛ばす。その先にはナツが足を構えている。

 

「おらぁ!」

 

さっきのお返しとばかりに男の顔面を蹴りぬいた。

 

「うぐ・・・!」

 

床をころがる男。その男から何かが転がり落ちた。

 

「な、なに?」

 

アミクの近くに転がって来たので拾って見てみる。

 

それは三つ目の髑髏の笛だった。見ただけで禍々しさが伝わる気がする。

 

「・・・これって・・・」

 

既視感がある。それが何か思い出す直前。

 

「・・・あ!」

 

「見たな・・・!」

 

男が影を使って奪い返していた。

 

「くそ!『鉄の森(アイゼンヴァルト)』に手を出したんだ!タダで済むと思うな!」

 

「『鉄の森(アイゼンヴァルト)』!?」

 

災い転じて福と成す。まさかそっちからノコノコとやってくるとは。ということはさっき持ってた笛が恐らく・・・。

 

「ナツ!その人捕まえるよ!」

 

「ん?よくわかんねぇけど分かった!」

 

と身構えたところで。

 

『たいへんお待たせいたしました

 

先ほどの警報は誤作動によるものと判明いたしました

 

まもなく、運転を再開いたします』

 

運転再開のお知らせだ。

 

「嘘!?こんなときに・・・!」

 

「やべぇ!一旦逃げるぞアミク!」

 

ナツはアミクを抱えると窓に向かって駆けだす。

 

「ちょ、ちょっと待ってナツ!外にエルザ達が・・・」

 

「あ、おい!待ちやがれ!」

 

アミクと男が叫ぶがナツは無視して窓から飛び出した。

 

 

ちょうどそこに。

 

 

「うおおわあああ、あぶねえええええ!!!」

 

魔導四輪に乗ってちょうど追いついたエルザ達がいた。だが、屋根の上にいたグレイとナツの頭がゴチンとぶつかった。

 

ナツの手から離れたアミクはエルザがお姫様抱っこで受け止める。

 

「あ、ありがとエルザ」

 

「うむ。見た目に反して軽いな」

 

「アミク、無事でよかった、の!」

 

マーチがアミクの胸に飛び込んでくる。

 

屋根の上では、

 

「いってええええな、この野郎!!」

 

「今のショックで記憶喪失になっちまった!お前誰だ変態!」

 

「なぁにぃ!?」

 

いつも通りケンカしていた。

 

「おい、エルザ、ハッピー、マーチにルーシィ!置いて行くなんてひでぇじゃねえか!アミクしか迎えに来なかったぞ!」

 

「ごっめーん」

 

「悪かった」

 

「都合のいい記憶喪失だなおい!」

 

呑気に会話しているがそれどころではない。

 

「ともかく、二人共無事でよかった」

 

「硬ぇ――――!?」

 

「痛――――い!?」

 

エルザは胸元に抱きしめようとしたのだろうが、生憎鎧を着ているためアミクとナツの頭が鎧にぶつかる。だからそれどころではない。

 

「エルザ!早くあの列車追いかけて!『鉄の森(アイゼンヴァルト)』がいた!」

 

「なに!?」

 

「あいぜん・・・なんだって?」

 

「馬鹿ものぉっ!!」

 

ドゴン、とエルザがナツを殴りとばす。

 

「貴様!!『鉄の森(アイゼンヴァルト)』は私達の追っている闇ギルドだと話しただろう!?」

 

「はぁ!?俺んなこと聞いてねぇよ!?」

 

「何っ!?なぜ聞いていない!!さっき列車の中で話しただろう!!!」

 

「エルザが気絶させたんだよ・・・」

 

アミクが呆れた声で言うが、今はそれよりも早く追いかける方が重要だ。

 

「そうだ、あとララバイの正体が分かったよ!」

 

「本当か!?」

 

「あ、あたしも思い出した!」

 

ルーシィも叫ぶ。

 

「ララバイは呪いの歌!死の魔法!」

 

「つまり呪歌ってことなんだけど・・・禁止魔法に呪殺ってあったでしょ?」

 

ルーシィとアミクが交互に説明する。

 

呪歌(ララバイ)はその呪殺をさらに恐ろしくした物なんだ。見た目は笛でその音色を聴いた者すべてを呪殺する魔笛・・・それが集団呪殺魔法、ララバイ」

 

「マジかよ!?」

 

「さっき出くわした『鉄の森(アイゼンヴァルト)』のメンバーが持ってたんだ。ちなみに、その持ってた奴がエルザの話に出てきた『カゲちゃん』だと思う。多分もう封印を解いてあるかも・・・」

 

「・・・なんということだ」

 

「呪歌なんて・・・邪道だよ!!音楽や歌は人々の癒しや救いになるべきなんだ・・・無暗に人を傷つけるものじゃない!それを、こんな汚いやり方で、それも虐殺に利用しようとするなんて・・・!!」

 

アミクが珍しく義憤の表情を浮かべて感情的に言う。音楽に携わる者として呪歌による殺害などといった邪法なものは許しがたいのだろう。

そんなアミクの気持ちが分かるのか皆何も言わない。

そこでエルザが復帰する。

エルザはすぐさま魔導四輪車に飛び乗った。

 

「お前達、早く乗れ!急いで追いかけるぞ!!」

 

 

 

 

 

魔導四輪車が猛スピードで走る。

 

「エ、エルザ―――!おえ、飛ばしすぎじゃなーい!?うぷ、魔力が持たないよ―――!?」

 

「心配するな!魔力が空にになっても棒きれを持ってでも戦う!」

 

さっきから魔導四輪車につながっているSEプラグが膨張している。ほんとに大丈夫だろうか。

 

「お、おろしてくれぇ・・・」

 

アミクとナツは思いっきり酔っていた。

 

「ほ、ほんとに無理しないでね―――!!うぅえ」

 

「あんたもね!?」

 

ルーシィがアミクの背中を優しく摩った。さっきの『カゲちゃん』らしき人物とは大違いだ。

 

 

 

 

 

 

 

数分後。なんとか目的のオシバナ駅に到着。

 

駅では入場を規制する線が張られており、聞いてみると駅を闇ギルドに占拠されたとの事だった。

 

 

 

外で入場規制をしていた駅員の1人をつかまえるエルザ。

 

「君!!中の様子は!?」

 

 

「な、なんだね!?君は!」

 

突然の事で駅員は戸惑う。すると

 

ゴスッ

 

「ぐほっ!」

 

駅員の一人を頭突きで気絶させてすぐに別の駅員を捕まえる。

 

 

「中の様子は?」

 

 

「え? ぐはっ!?」

 

なぜか次々と聞いてすぐに頭突きで沈める。

 

「即答できる人しかいらないってことかしら・・・」

 

「エルザが、どんな、人か、わかったでしょ・・・?」

 

「大丈夫?息絶え絶えだけど・・・」

 

まだ酔いから覚めていないナツとアミクはナツがグレイに、アミクがルーシィに背負われていた。グレイはめっちゃ嫌そうだったが。

 

「そろそろ大丈夫・・・」

 

「おい、このまま突撃するぞ!」

 

結局全員倒してしまったエルザは皆に声を掛けると規制線を乗り越え、駅構内に向かう。

 

「俺達もいくぞ!」

 

「うん!ってかほんとに軽いわね・・・」

 

ルーシィ達も後を追った。

 

 

 

 

『なっ・・・!?』

 

アミクとナツも復活し、皆で走っていると驚くべき光景が広がっていた。

 

「軍が、全滅してる・・・!」

 

先に入っていた軍の小隊が傷だらけで倒れていたのだ。

 

「大変!治さないと!」

 

「待て!」

 

慌てて治癒しようとしたアミクをエルザが止める。

 

「見た感じ命に別状はない。今回復させて魔力を無駄に使うよりはこれからの戦いで使った方がいい」

 

「・・・でも」

 

「頼む。言うことを聞いてくれ」

 

エルザが真摯に頼むとアミクは渋々頷いた。

 

「わかったよ・・・じゃあ早く済ませて皆治しちゃおう」

 

「・・・この先にいるってことよね・・・」

 

ルーシィは駅のホームの方を見た。

 

「・・・行こう」

 

エルザは短く言うと、皆を率いて進んだ。そして―――

 

 

 

 

ホームには何十人ものの『鉄の森(アイゼンヴァルト)』のメンバーがいた。その中には先ほどの男、『カゲちゃん』らしき人もいる。

 

そして、なにより目を引いたのはそんなメンバーの上に浮かんでいる、長い銀髪の男。

 

 

それを見たアミクは一歩前に出て叫んだ。

 

 

「あなたが――――エロゴール!!」

 

 

 

「クククッ、やはり来たな・・・待ってたぜぇ・・・『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』のハエ共!!・・・ってちょっと待て、なんかすごく不名誉な名前で呼ばれた気がするが!?」

 

「貴様がエリゴールか!呪歌(ララバイ)を使ってなにを企んでいる!!」

 

「仕切り直すのかよ・・・まぁいい。質問に答えるが、この駅には何があると思う?」

 

エルザの問いに男――――エリゴールはニタニタと笑いながら浮かび上がる。

 

「さっきから浮いてるけどあれって魔法?」

 

「多分、風の魔法、なの」

 

エリゴールは駅に設置されたスピーカーを叩いた。

 

それを見てエルザが気付く。

 

 

「貴様まさかっ!?ララバイを放送するつもりか!?」

 

「なんですって・・・!」

 

アミクが驚愕の表情をする。

 

 

 

「フハハハハハッ!!これは粛清なのさ!権利を奪われた者の存在を知らずに…権利を掲げ、生活を保全している愚か者共への…な

 

この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ………よって死神が罰を与えに来た

 

"死"というなの罰をな!!」

 

「なによそれ・・・!元はと言えば自分たちが決まりを破ったからでしょーが・・・!!」

 

ルーシィが怒りの声をあげる。

 

「そんなことしたって権利が戻ってくるわけじゃない、の」

 

「ここまで来たら権利なんていらねぇ・・・欲しいのは権力だ!権力さえあれば全ての過去を流し、未来さえ支配することができる!!」

 

「アンタ、バッカじゃないの!?」

 

ルーシィが声を荒らげるもカゲちゃんーーーーーカゲヤマが高笑いをあげた。

 

「残念だったな、ハエ共!闇の時代を見ることなく死んじまうとは!!」

 

そう言うとカゲヤマはルーシィに向かって影の魔法を繰り出した。

 

「きゃっ!」

 

「ルーシィ!」

 

影の魔の手がルーシィに迫るーーーーーー直前。

 

バァアン!

 

アミクが腕を振るって衝撃波で影を弾き飛ばしていた。

 

「そんな・・・」

 

アミクの表情は見えない。

 

「そんなことのために・・・」

 

だが、隠しきれない怒気は感じる。

 

「そんなことのために!音楽を穢そうとしているのか!!」

 

その怒気はエルザでさえ怯むほどの迫力を持っていた。『鉄の森(アイゼンヴァルト)』のメンバー達もエリゴールも思わずたじろぐ。

 

「お前達は!音楽を侮辱した!!」

 

魔力が全身から迸る。

 

「楽器もロクに触ったことの無い素人共が!!」

 

そして、エリゴールの持つ笛ーーーーー呪歌(ララバイ)を睨む。

 

「演奏すること自体、烏滸がましい!!」

 

アミクのツインテールがユラユラ揺れている。

 

「音楽をそんな気持ちで嗜もうとするなああああああああ!!!」

 

そして、そのまま飛び出そうとーーーーー

 

「おい」

 

「あうっ」

 

したところでナツにチョップされた。

 

「暑くなるのは悪いとは言わねぇけど、自分を見失うなよ」

 

「あれ、私、なんかトリップしてた?」

 

アミクはさっきまでの出来事を覚えてないかのように言う。

 

(今のは、一体?)

 

エルザは背中に冷や汗が流れる。なぜか得体の知れない気配がした。この少女のどこにあれ程の覇気があるのか分からない。少し恐怖を感じたーーーー 一瞬だけ。ポカンとした顔を見ていると色々考えているのがばからしくなってくる。アミクはアミク。そう結論づけて、目の前のことに集中することにした。

 

「こ、小娘が!誰に口利いてやがる!」

 

エリゴールが先ほど怯えた自分を恥じるように大声を出した。

 

「へへっ、今度は地上戦だな!」

 

「乗り物じゃなきゃ、どうとでもなる!」

 

ナツとアミクが構えた。

 

「フフン!こっちは最強チームよ!覚悟しなさい!」

 

ルーシィが得意げに言った。

 

「・・・チッ、お前ら、あとは任せたぞ・・・俺は笛を吹きに行く」

 

エリゴールは窓ガラスを割って隣のブロックに移動した。

 

「あ!待ててめぇ!!逃げんのかこらぁ!!」

 

「クソッ!!向こうのブロックか!!」

 

「くっ・・・ナツ!!グレイ!!アミク!!3人で奴を追うんだ!!」

 

エルザの指示にナツとグレイはお互いに顔を見合わせ「む・・・」と睨み合う。

 

「お前達3人が力を合わせればエリゴールにだって負けるはずが無い・・・」

 

「悪いけど私はここに残るよ」

 

「なっ・・・!」

 

アミクが言うとエルザは驚いたように目を見開く。

 

「何を言ってるんだ!早くエリゴールを止めないと・・・それに、アミクがああいうのが許せないのだろう?」

 

「確かに許せないけど・・・でも、私がいなくたってあの二人がいれば大丈夫だと思うし、いまのエルザを放っておくわけにはいかないよ」

 

「どういうことだ・・・?」

 

「キツいんでしょ。魔力」

 

「・・・」

 

さっきの魔導四輪車で魔力を大量に消費してしまったのだ。

 

「私も加勢するよ。エリゴールの方も心配だけどエルザはそれ以上に心配だからね」

 

「・・・全く、お人好しめ」

 

エルザは薄く笑った。アミクは今だに睨み合ってるナツ達をみる。

 

「というわけでほら、早く行って!ケンカなんて後にしなさい!」

 

「「むむむ……」」

 

未だに返答のない2人に痺れを切らしたアミクはエルザの声を真似た。

 

「聞いているのか!?」

 

と、怒鳴ると2人は反射的に瞬時に姿勢を正し、敬礼をする。

 

「「あいー!!!」」

 

「エリゴールは呪歌(ララバイ)をこの駅で放送するつもりだ・・・それだけは何としても阻止しなければならない・・・・・ここは私達が引き受ける、行け!!!」

 

続けて言ったエルザの気迫に負けた2人は即座に返事をし、エリゴールの後を追った。

 

「「あいさーーー!!!」」

 

「最強チーム解散ーーー!?」

 

ルーシィがガーンとなる。

 

「くそ!あの桜髪のハエは俺がやる!」

 

そう言ってカゲヤマは影の中に入った。

 

というわけで鉄の森からはカゲヤマともう1人、レイユールという男が追いかけ飛び出していった。

 

だが、それでもたくさん人が残っている『鉄の森(アイゼンヴァルト)』の面々。

 

「こいつらを片付けたら私達もすぐに後を追うぞ!」

 

「了解!」

 

「え!?戦うの!?」

 

「頑張れー」

 

「頑張れーなのー」

 

構えるアミク達を見て男達が下品に笑う。

 

「女3人で何ができるやら・・・」

 

「オイラ達、完全に眼中にないね」

 

「なの」

 

「オイオイ、三人共別嬪じゃねぇか」

 

「殺すには惜しい。捕まえて売っ払っちまおうぜ!」

 

「いや、その前に妖精脱衣ショーだろ!」

 

その言葉にエルザ達は顔を歪ませる。

 

「下劣な・・・」

 

「私そんなに高くないと思うけど・・・」

 

「目つけるとこそこじゃないわよ」

 

ルーシィがアミクに対して冷静にツッコんだ。

 

「それ以上『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』を侮辱してみろ!貴様らの明日は約束できんぞ・・・」

 

そう言い、『鉄の森(アイゼンヴァルト)』を睨みつけるエルザは片手に魔法剣を出現させ、握る。

 

 

「剣が出てきた!?魔法剣か!」

 

1人の魔導士が驚きの声を上げるが他の魔導士が活を入れる。

 

「怯むな!!珍しくもねぇ!」

 

「そうだ!こっちにだって魔法剣士はいるんだぜぇ!!」

 

「へへっ!その鎧、ひんむいてやらぁ!!」

 

そう叫び、一斉にエルザへと突っ込む『鉄の森(アイゼンヴァルト)』の魔導士達。

だがエルザは臆することなく、逆に魔導士達の懐へと走り込もうとする。

 

「い、いくらエルザでもあの人数じゃ・・・」

 

「まぁ見てなって」

 

アミクがルーシィに言った。

 

「エルザは『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』最強の女なんだよ?これくらいなんでもないよ」

 

とはいえ、とアミクはエルザを見た。

 

「念の為にやっとこう」

 

そう言うと、アミクは急に歌い出した。

 

 

「ーーーー♪」

 

すると光がエルザに纏わりつく。そして

 

「『防御力強歌(アンサンブル)』」

 

エルザの防御力を上げた。

 

「助かる!」

 

「い、今何やったの?」

 

「音楽魔法で歌って付加(エンチャント)しただけ、なの」

 

「そんなことまでできるの!?」

 

万能すぎやしないだろうか。

 

「なんでもできるじゃん!!」

 

「何でもはできないよ。できることだけ」

 

そう話している間にもエルザは相手の懐に入り込んでいた。

 

そしてーーーー

 

「はぁっ!!」

 

緋色の髪を靡かせ、敵を次々と薙ぎ払うエルザの姿。

 

エルザは敵を薙ぎ払う度に武器を変え、剣から槍、槍から斧…斧から双剣と言った様子で、その速さは異常だった。

 

「こ、この女……なんて速さで『換装』するんだァ!?」

「・・・換装?」

 

「魔法剣は別空間にストックされている武器を呼び出すって原理なんだ。その武器を持ち替えることを『換装』って言うんだよ」

 

「ルーシィの星霊と似たものだよ」

 

ルーシィの疑問にハッピーとアミクが答える。

 

「でも、本当にすごいのはここから、なの。通常は武器を換装しながら戦うんだけどエルザは自分の能力を高める魔法の鎧も換装しながら戦うことができる、の」

 

「それが、エルザの魔法、『騎士(ザ・ナイト)』」

 

「すごい・・・」

 

 

余談だが、最初この魔法を聞いた時アミクは「乾燥」の魔法だと勘違いして洗濯物を乾かしに頼みに行ったことは苦い思い出である。互いに引き攣った笑みを浮かべていたのは印象的だった。

 

 

 

「そうだ!思い出した!」

 

そこで、一人の男が唐突に叫んだ。

 

「あの換装の速さ、鎧ごと換装する魔法、そして、あの緋色の髪・・・」

 

そこまで言うと、男は泣きそうな顔になりながら絶叫するように言った。

 

「『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』最強の女魔導士!『妖精女王(ティターニア)』だぁ!!」

 

エルザは周りに剣がたくさん出てくる、『天輪の鎧』へと換装させる。そして

 

「舞え、剣たちよ・・・」

 

と言うと、剣が舞うように回りはじめる。

 

「天輪!『循環の剣(サークル・ソード)』!!」

 

『ぎゃあああああああ!!』

 

メンバーの半数程度がぶった斬りにされた。血が舞い散る。

 

「ふぅ・・・後は、頼む・・・」

 

「頼まれました!」

 

エルザは疲れたように座り込んだ。

 

今度はアミクが前に出る。

 

「・・・ってことはコイツはまさか!!」

 

さっきの男が続ける。

 

「さっきの歌による付加術(エンチャント)!」

 

アミクは大きく息を吸った。

 

「『双竜』の片割れ!『歌姫』、いや『音竜』のアミクだあぁぁぁぁ!!!」

 

「『音竜の咆哮』!」

 

『ぐああああああ!!!』

 

ブレスがさらに半数を削り

 

「からの、『音竜の輪舞曲(ロンド)』!」

 

両腕に音を纏い、振り下ろす。すると衝撃波が撒き散らされた。

 

『ぺぎゃああああああ!!!』

 

そして殆どぶっ飛ばした。

 

「ひ、ヒイイイイイィィィ!!!」

 

ただ一人残ったさっきからエルザ達について説明していた男が逃げ出す。

 

「あ、逃げた」

 

「もしや、エリゴールの下へ逃げるかもしれん・・・ルーシィ、追うんだ!」

 

「え!?なんであたしが・・・」

 

「頼む!」

 

「分かりました〜!」

 

エルザが脅すように睨むとルーシィが急いで駆け出して行った。

 

「ハッピーとマーチもついて行って!」

 

「あいさー!」

 

「なのー!」

 

2匹もルーシィを追いかける。

 

「・・・お前は行かないのか?」

 

「ちょっと野暮用がね・・・」

 

エルザが怪訝そうに聞くと、アミクは男達の方に向かった。

 

「・・・まさか」

 

「エルザはいい顔しないかもしれないけど」

 

アミクは歌い出す。

 

「やっぱりほっとけないよ」

 

ーーーーー♪

 

「『治癒歌(コラール)』」

 

明らかに酷そうな怪我をしている者を優先的に治す。もちろん、ダメージは残す。癒すのは傷だけだ。

 

「音楽を侮辱したのは許せないけど、この人達だって元はちゃんとしたギルドだったんだよ。最初っから闇ギルドだったわけじゃない。だからやり直せるかな、って」

 

「・・・甘すぎると言わざるを得ないが」

 

エルザはふっ、と笑って続けた。

 

「そこがアミクらしいし、お前の美徳だ。私もその精神を買っている」

 

「ふふ、ありがとう」

 

アミクは嬉しそうに笑った。

 

 

 




バルカローラは舟歌。アンサンブルは重奏。ロンドは技名そのままです。

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