妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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今回で決着つきまーす。


私たちはここに立っている

エクシードたちを追いかけていった王国軍に追いついたルーシィたち。

 

「み、みんなが…!」

 

マーチが周りを見まわして唖然とする。

 

 

エクシードたちが次々と魔水晶(ラクリマ)に変えられていく。残っているエクシードも残り少ない。

 

 

「しっかしなんて数だ…」

 

王国は総力を挙げてエクシードたちを殲滅しているのだろう。数えるのも嫌になるくらい兵士たちがいる。

 

 

 

「どうするんだ!」

 

「行くしかなかろう…私たちがやらねば、エクシードがやられる!」

 

「オイラたちも戦うよ!」

 

「えぇ…私たちの故郷を守るのよ!」

 

「あーしの爪捌き、見せてやる、の!!」

 

マーチが爪を伸ばす。

 

そうして、レギオンをエクシードたちに向かわせようとすると。

 

「待っていたぞ、スカーレット」

 

「待っていた、だと?」

 

エドエルザが不気味な笑みを浮かべて待ち構えていたのだ。エドエルザだけではない。

 

兵士たちも武器をこちらに向けて構えている。

 

 

マーチはハッと叫んだ。

 

 

「罠!なの!!」

 

「伏兵!?」

 

「レギピョン!避けて!!」

 

ココが慌てて指示するが、兵士たちが放った魔力光線がレギオンに命中してしまった。

 

レギオンはそのまま落下してしまう。

 

 

「ハッピー、マーチ!!」

 

「あいさー!」「なのー!」

 

マーチたちは急いで翼を広げ、ルーシィたちを掴んで飛ぶ。

 

 

 

「あ、エルザは!?」

 

 

エルザの姿が見当たらず、慌てて周りを見回すと。

 

 

エドエルザの乗っているレギオンにしがみついているエルザが見えた。

 

「スカーレット…!!!」

 

 

「そろそろ決着をつけようか、ナイトウォーカー」

 

レギオンの上によじ登ったエルザがエドエルザと相対する。

 

エドエルザは兵士たちに「全員地上へ降りろ!!こいつは私1人でやる!!」と命令すると、武器を構えた。

 

「お前はエルザでありながら、妖精の尻尾(フェアリーテイル)をキズつけ過ぎた」

 

「お前もエルザでありながら、我が王に牙を剥いた」

 

「「エルザは2人もいらない」」

 

そして――――――

 

「「この勝負!!どちらかが消えるまでだ!!!」」

 

二人のエルザは激突した。

 

 

地面に降りたマーチたちはその様子を見ていた。

 

「うわぁ…すごく気になる戦いだけど…そうも言ってられない、の」

 

 

マーチが言うと、近くの地面に魔力光線が着弾。

 

 

「そうだな!!こっちも敵だらけだ!!」

 

 

 

グレイたちは背中合わせになって取り囲んでくる兵士たちを見据える。

 

「みんなぁ、もう止めてよぉ…」

 

ココが涙目で訴えるが、兵士たちは聞く耳持たず。武器をマーチたちエクシードの方に向ける。

 

「くっ…『(シールド)』!!」

 

グレイが咄嗟に防いでくれたが、攻撃が止む気配はない。

 

「何でハッピーたちばっかり!?」

 

「逃げたエクシード共はほとんど魔水晶に変えた! 後はそこの三匹のみ…大人しく我が国の魔力になれ!」

 

「自分達の魔力の為に、エクシードはどうなっても構わねぇってのか!」

 

王国の勝手な話に憤るグレイ。

 

「それがこの国の人間なのか!!仲間はやらせねぇぞ!くそ野郎共!」

 

「開け、獅子宮の扉!ロキ!」

 

ルーシィもロキを召喚して、兵士たちを相手した。

 

 

「い、今のうちに安全な所に!」

 

「ええ…!」

 

ハッピーたちは自分たちが狙われていると分かると、急いで避難しようとした。

 

 

そこで、マーチはシャルルに向かって放たれる魔力弾を見る。

 

「シャルル!!」

 

マーチは咄嗟にシャルルを突き飛ばした。その直後、光線がマーチを掠めて地面を抉り、その衝撃でマーチは吹き飛ばされる。

 

「マーチ!!」

 

「あんた…!!」

 

シャルルとハッピーが急いでマーチを抱きかかえると、彼女はぐったりとして額から血を流していた。

 

「しっかりしてよ…!!」

 

ハッピーが泣きそうな顔になっていると、ハッピーたちに更なる光線が向かってくる。

 

 

それをロキが防いだ。

 

 

「ハッピー!シャルル!マーチを安全な場所へ!」

 

「ありがとうロキ!」

 

「行くわよ!」

 

ハッピーたちはマーチを連れてその場から離れた。だが――――

 

 

「駄目だ…兵士に囲まれちゃってる!」

 

 

周りを兵士が固めているせいで抜けだすことができない。空を飛んで逃げようものならいい的だろう。

 

更に悪いことに、

 

「きゃあっ!!」

 

「ルーシィ!!…ぐあっ!!」

 

『グレイ!くそ、『絶対氷結(アイスドシェル)』でも全員は無理だ!!』

 

 

ルーシィもグレイも兵士たちにやられて武器を突きつけられてしまっていた。

 

 

絶対絶命。そうとしか言えない状況だった。

 

 

「そんな…」

 

シャルルがマーチをぎゅっと抱きしめて呟く。

 

 

「みんな、死んじゃうよ…!!誰か…助けて…!」

 

とうとう、ハッピーたちにも砲身を突きつけられ、魔力光線を撃たれてしまった。あれに当たれば、自分たちも魔水晶(ラクリマ)に変えられてしまう。

 

 

それが、ハッピーたちに当たる――――――――直前。

 

 

 

「ふっ!」

 

 

マーチたちを掻っ攫って救出した人物が一人。

 

 

「大丈夫、だな?」

 

「あ…」

 

パルティータだ。

 

 

「おじさん、誰?」

 

「あんた、たしか…パルティータって…」

 

「あ…あの指名手配犯の!!」

 

ハッピーが思い出して叫ぶ。パルティータは苦笑いした。

 

「まぁ…そうなん、だな。…その娘は、大丈夫か、だな」

 

彼はマーチに目を向けると、シャルルが答える。

 

「ちょっと怪我してるけど、無事よ」

 

「…ん…平気、なの…」

 

マーチも掠れ声で告げた。シャルルが「嘘おっしゃい!!」と怒鳴る。

 

「おじさん、ありがとう!」

 

ハッピーの感謝にパルティータは軽く頷くと、兵士たちの方に目をやった。

 

「どうってことない、だな。…だが、もう大丈夫だ」

 

「どういうことよ?あんなにも敵はいるのに!」

 

「…頼もしい援軍が来たみたい、だな」

 

パルティータに言われて彼が向いている方向を見ると、急に地面から大木が生えてくる。

 

とあるギルドマークが書かれた、大木だった。それが、枝を伸ばしてレギオンの首に巻き付き、動きを封じる。

 

「あ、あれって…!」

 

ハッピーたちにとっては見覚えのある物。

 

「まさか…逃げてばかりの奴等が!?」

 

それは―――――――。

 

 

「オォォォォ!!!」

 

「行くぞォォ!」

 

エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)だった。転送で現れたギルドの扉が開くと、そこから武器を構えたメンバーたちが飛び出してくる。

 

「エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

 

「すまねぇ、遅くなったな!アースルーシィ!」

 

「エドルーシィ…!」

 

エドルーシィが頼もしい笑顔で親指を立ててきた。

 

エドナツも、エドミラもエドグレイも、リサーナもみんな戦いに参加してくれた。

 

ただ、エドグレイとご対面したグレイが…。

 

 

「「オレ!? て言うか服!」」 

 

「脱げよ!」「着ろよ!」

 

『なんだ、この軟弱なグレイは…』

 

互いにびっくりしていたが、変人なのはどちらも変わりないようだ。

 

ちにみに、エドジュビアが兵士の首を絞め上げながら、「グレイが二人とかあり得ない!」なんて言って嫌そうに見ていた。

 

「な、なんて羨ましい…!」

 

「は?」

 

エドグレイが、絞めあげられてエドジュビアの胸が当たっている兵士を見てうっとりとしながら言う。

 

「お前はオレなのに何も感じないのかよ! 愛しのジュビアちゃんのあの姿を見て!」

 

「愛しのジュビアちゃんだァ!?」

 

『あ、この感覚憶えがあるわ。リオンがアミクにデレデレになってたときと同じ感覚だわ』

 

ウルが現実逃避ぎみに言った。だが、持ち前の豪胆さですぐに受け入れる。

 

『でも、このグレイもおもしろいなぁ!!厚着しすぎだし、ジュビアちゃんって…ぶふっ!!』

 

ウルの声が聞こえないはずのグレイだが、なぜかイラッとした。

 

「グレイがジュビアにデレデレ…それにジェットとドロイが最強候補!?なんか色々違いすぎ!」

 

エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)を初めて見たルーシィは愕然とこっちの世界の妖精の尻尾(フェアリーテイル)との違いを認識していた。

 

 

「見て、シャルル、マーチ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)が助けに来てくれたよ」

 

ハッピーが涙混じりに言うと、シャルルは呆れたように言葉を放つ。

 

「何処に行っても、騒がしいギルドなんだから…」

 

マーチも同意する。

 

 

「まったく、なの。でも、世界が違くても妖精の尻尾(フェアリーテイル)妖精の尻尾(フェアリーテイル)、なの」

 

そうしていると、再び魔力弾がこっちに向かってきた。

 

「ハッピー…シャルル…」

 

「大丈夫よ!」

 

「そ、そうだよ!オイラたちが守ってあげるから!!」

 

「むっ!安心しろ、だな!」

 

パルティータが盾になるように前に立ちはだかる。

 

「おじさん!」

 

魔力弾がパルティータに当たる――――――直前。

 

 

エドウェンディがトンファーで魔力弾を弾いてくれた。

 

 

「今のうちに逃げな」

 

「かたじけない、だな」

 

パルティータはマーチを抱え、ハッピーとシャルルを連れてその場を離れていく。

 

「私も近くに居るから、何かあったら守ってあげる。安心してね」

 

エドウェンディが心強い事を言ってくれた。

 

「…相変わらず、あのウェンディは違和感しかない、の…」

 

 

「うん…でもやっぱり優しいね」

 

 

それを聞いたシャルルは微笑んで無言で頷いた。

 

 

 

 

「…セーフ…だったけど…」

 

アミクは倒れこんで、全身を苛む痛みに耐えながら黒いドロマ・アニムを見る。

 

槍が振り下ろされた瞬間、衝撃波を放って後ろに吹っ飛びながら、『防御力強歌(アンサンブル)』を自分に掛け、なんとか耐えたが…。

 

至近距離で喰らったため、ダメージもそこそこ通ってしまったようだ。

 

そして、アミクだけでなくナツたちも地面に倒れ伏している。彼らも痛みでなかなか起き上がれないようだった。

 

 

『生きておったか。だが、ドロマ・アニム黒天は魔法の出力を数倍にも引き上げる特殊装甲!貴様等に勝ち目は無いぞ!』

 

勝ち誇ったかのように叫ぶファウスト。

 

「ぐ…う…みんな魔力が無ぇって苦しんでるのに、王様ってのは随分大量に持ってるんだな」

 

やっとの事で、ふらふらと立ち上がったナツ。アミクたちも体に鞭打って立つ。

 

『フフフフフ…王が民から国税を取るのは当然であろう。このドロマ・アニムは常に世界中の魔力を吸収し続ける究極の魔導兵器。故に、禁断の兵器でもある。起動させたからには、世界の為に勝つ義務がある!』

 

「うわー、超自己中」

 

「何が世界よ…!」

 

「勝手に魔力を奪っておいて、よくそんな事が言えたもんだな…!」

 

まだ、闘志は消えていない。ナツが手に魔力を込める。

 

「オレたちは生きるためにギルドに入ってるからな…世界の事なんか知ったこっちゃねぇけど、この世界で生きる者の為にお前を倒すんだ!」

 

『何度立ち上がろうと、貴様等はこのドロマ・アニムには勝てん!!魔力を持つ者が世界を制する。それがこの世界の必然だ!!』

 

「そんな必然、私たちに当てはめないで欲しいね!!」

 

アミクはドロマ・アニムに向かって飛び出すと、拳に音の振動を乗せる。

 

「修復したって何度も壊してあげる!!『音竜の奇想曲(カプリース)』!!」

 

その拳を突き出すが。

 

「は、速い!!?」

 

俊敏な動きで躱されてしまった。しかし、その躱したドロマ・アニムに向かって突っ込むナツとガジル。その後方から、ウェンディがブレスで攻撃してくれた。

 

「『天竜の咆哮』!!」

 

しかし、それを盾で防ぐドロマ・アニム。

 

『フハハハハ!!魔力の無駄遣いは止めて欲しいな!!貴様等の魔力は全て儂の物なのだから』

 

「冗談抜かせ!! オレの魔力はオレの物だ!!他の誰の物でもねぇ!!『鉄竜棍』!!」

 

ガジルも腕を伸ばして攻撃してくれるが、ドロマ・アニムは全身から魔力を放出してガジルを吹き飛ばした。

 

「ぐおっ!!?」

 

『貴様等の魔力も、命も、全ては儂の所有物だ!!』

 

「ふざけんな!!」

 

「誰もあなたの物になんかならないっ!!」

 

アミクとナツは2人で拳を構えて、同時に解き放った。

 

 

ーーーー合体魔法(ユニゾンレイド)ーーーーーーーー

 

 

「「『火炎音響滅竜拳!!!』」」

 

それはドロマ・アニムに直撃して、大爆発を起こした。

 

「やった!?」

 

見ると、ドロマ・アニムの装甲が割れて、少し剥がれ落ちている。やっとまとものダメージが与えられた。しかしーーーーーーーー。

 

 

 

『フン、無駄だと言ったろう』

 

先ほどよりも速く修復してしまった。

 

 

「あーもう!!また!?」

 

「さっきからうざってえなぁ…」

 

そうぼやいていると、ドロマ・アニムが回し蹴りを放って2人を蹴り飛ばした。

 

「うがっ!!」

 

「うぅ!!?」

 

『アースランドの魔導士、尽きる事の無い魔力を体に宿す者達。その中でも貴様らの――ドラゴンの魔導士のこの出鱈目な魔力。寄越せ、その魔力を。世界は貴様等を欲しておる』

 

「…!」

 

アミクたちは倒れ伏しながらもドロマ・アニムを睨む。

 

『ふははははは!!地に堕ちよドラゴン!!絶対的な魔導兵器!!ドロマ・アニムがある限り!!我が軍は不滅なり!!』

 

アミクたちは必死に起き上がろうとしていた。傷だらけの体に鞭打って、何度でも戦おうとする。

 

『まだ起きるか!!大したものだ!!その魔力、素晴らしい!!我が物となれ、ドラゴンの魔導士!!』

 

「嫌…!きゃああああああ!!!」

 

ドロマ・アニムの口から魔力光線が放たれた。地面に当たり、爆発して吹っ飛ばされるアミクたち。

 

『もっと魔力を集めよ!!空よ!大地よ!!ドロマ・アニムに魔力を集めよ!!』

 

そして、ドロマ・アニムが槍を掲げると、そこに禍々しい魔力が集まり始めた。

 

付与術(エンチャント)のお陰でじわじわと回復し、ダメージも軽減されていたアミクがいち早く起き上がる。

 

「ま、まずい…!!」

 

ガジルたちもノロノロと起き上がった。彼らにも付与術(エンチャント)を掛けてあげたいが、一度に魔力を消費しすぎると魔力欠乏症になる危険性もあるので、そうもいかない。

 

せめて回復だけでも…。

 

『感じるぞ…この世界の魔力が尽きようとしているのを!!だからこそ、こやつ等を我が手に!!』

 

狂気すら感じるファウストに戦慄していると、ガジルが話しかけてきた。

 

火竜(サラマンダー)音竜(うたひめ)咆哮(ブレス)だ!!ガキ、お前もだ!!」

 

「え!?4人同時に!?」

 

以前、3人同時にブレスした事がある。その時もものすごい威力だったのだが…。それが4人で、となると…。

 

「何が起こるか分からねぇから控えておきたかったが…やるしかねぇ!!」

 

「…オッケー!」

 

「わかりました!」

 

「おし!」

 

そして全員、大きく息を吸い込んだ。

 

「『火竜のーーー』」「『音竜のーーー』」「『鉄竜のーーー』」「『天竜のーーー』」

 

 

 

高まる魔力にファウストが感心したような笑みを浮かべる。

 

『おお、まだ魔力が高まるのか!』

 

 

4人共、頰に何かを溜め込んでいるかのように膨らませる。そして。

 

 

 

 

『ーーー咆哮!!!!』

 

 

放出した。

 

 

 

炎が、音が、鉄が、風が、一つに合わさり、ドロマ・アニムに直行していった。

 

 

そして、その場が大爆発を起こす。

 

 

 

「やったか…?」

 

「だーかーらー!!それ、言っちゃダメだって!!」

 

アミクがガジルの口を押さえるも、もう遅い。

 

「上です!」

 

ウェンディの言葉に上を見上げると、なんと高く跳躍しているドロマ・アニムの姿が。

 

 

『フハハハハ!!!流石の威力よ!!』

 

ただ、躱しきれなかったのか両足が消失している。しかし、見る見るうちに再生してしまった。

 

 

「あんなに跳躍力があったのか…」

 

「オリンピック出れるじゃん」

 

「4人の咆哮でも、足にしか当たらなかった…」

 

それでは意味がない。一度に全身を消すぐらいの勢いでやらないと…。

 

「もう一度だ!」

 

「待って!!やっちゃった後でなんだけど、当たったらあの中にいるエドアミクもやばいんじゃない!!?」

 

必死すぎて気を回す余裕がなかったが、よく考えれば中にいるエドアミクにも甚大な被害が行くはずだ。

 

「じゃあ、どうしろってんだ!!このままじゃこっちがやられちまうぞ!!アイツのバケモノ級の回復力を信じてやるしかねえだろ!!」

 

「それは…」

 

『無駄口を叩いている暇があるか!!竜騎拡散砲!!』

 

ドロマ・アニムの口から無数の魔力弾が射出された。それらはアミクたちを蹂躙し、苛め抜く。彼らの体はボロ雑巾のように吹っ飛ばされ、地面を跳ねる。

 

「きゃああああああああっ!!!」

 

『世界の為、このエドラスの為、儂と貴様等の違いはそこよ。世界の事など知らぬと貴様は言ったな。この世界で生きる者に必要なのは、ギルドなどではない!!

 永遠の魔力だ。民が必要としているのだ。貴様と儂では、背負う物の大きさが違いすぎるわ!!』

 

ボロボロになって倒れ伏したアミクたちを見下しながら、ファウストはそう言い放つ。

 

 

アミクたちの意識は朦朧としていた。もう、魔力も尽きてしまい、立ち上がる気力もない。

 

『尽きたようだな。いくら無限の魔導士と言えど一度尽きた魔力は回復せんだろう…大人しく我が世界の魔力となれ。

態度次第ではそれなりの待遇を考えてやっても良いぞ?アミク以外はな』

 

 

(もう、駄目…立ち上がる力も出ない…)

 

(魔力も尽きた…ここまで、か…)

 

ウェンディもガジルは諦観を抱いてしまった。

 

もう十分頑張ったではないか。みんなを助けるために、一生懸命。誰も自分を責めないだろう。全力を尽くした結果が、これなのだから。

 

彼らの弱気な思考が心を蝕む。

 

もう、楽になりたい。もう、眠りたい。もう、戦うことは疲れた。

 

もう、終わりにしよう。

 

自分の中の囁きに従い、意識を闇に堕とそうとした、その時。

 

 

「諦めんな…!」

 

ガン!と地面に額を打ち付け、叱咤する少年。

 

「そうだよ…!!まだ、終わってない…んだから!!」

 

細い腕で体を支え、必死に起き上がろうとする少女。

 

「かかって来いやこの野郎――!!」

 

ナツが、立ち上がって吠えた。続いてアミクもヨロヨロと立ち上がり前を見据える。

 

 

「私はーーーー私たちはここに立っているよ!!!」

 

 

『往生際の悪い奴らめ…!!』

 

顔を歪めたファウストがドロマ・アニムをアミクたちに向かわせた。

 

のしのし歩いてきて、ナツを蹴飛ばす。

 

「ナツ!!」

 

そして、今度は足を振り上げアミクを潰そうとしてきた。だが、アミクはその足を両手で掴んで耐えた。

 

「お、重たい…んぐぐぐぐ…!!」

 

『ええい、どこまでも強情な小娘じゃ!!』

 

やはり、彼女の華奢な身体では押さえるのにも限界のようで、身体中からビキビキ、と嫌な音が響いた。両足も膝をついてしまっており、潰れるのも時間の問題だ。

 

「い!!?」

 

「アミクさん…」

 

「馬鹿野郎…!魔力がねぇんじゃどうしようもねぇ…!」

 

ウェンディとガジルが悔しそうにその光景を見ていると、後ろに蹴飛ばされたナツが叫んだ。

 

「捻り出す!!」

 

すると、ナツの言葉に応えるかのように、

 

「んんんーーーーーーーー!!!」

 

『うおおおお!!!?』

 

アミクの押し返す力が強まり、ドロマ・アニムの足が持ち上がる。

 

 

「明日の分を、捻り出すんだァァァァ!!!」

 

「ーーーーそぉれ!!!」

 

とうとう、アミクがドロマ・アニムの足を押し上げてひっくり返した。

 

 

 

『ぐおあ!!?』

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、舐めないでよ、ね!!!」

 

それだけに留まらず、アミクは尻尾をガシッと掴んだ。

 

 

「ーーーー某任○堂の64名物!!」

 

『な、なんじゃーーーー!!?』

 

 

そして、そのまま大回転。つまるところ、ジャイアントスイング!!

 

「あ、ヤバイ腕ちぎれるーーーー!!?バイバイ!!!」

 

ただ、ドロマ・アニム程のデカイ図体を振り回すのは無理があったようですぐに、手を離してしまった。

 

離れた地面まで吹っ飛んで落下し、地面を滑る。

 

『お、おのれぇ…この儂をコケにするとは…』

 

怒りたっぷりの声を響かせながら、ドロマ・アニムは立ち上がる。

 

『身のほどをわきまえよ!儂を誰だと思っておるかァァ!!!』

 

「クソジジイだよ!!文句ある!!?」

 

『なぬっ!!?』

 

アミクはファウストに叫び返すと、ガジルたちの方を向いた。

 

「まずはあの厄介な自己修復を使えなくしよう!!」

 

「どうやってだ!!できねえから全部一気にぶっ壊すって話になったんじゃねえか!!」

 

「単純な話だよ!!あれはエドラスの私がいるからこそ成り立ってるんだ!!だったらーーーー」

 

「ーーーーそいつを、取り出しちまえばいい、ってことか!」

 

ガジルも理解したようで「ギヒッ」と笑みを浮かべた。

 

「なら、オレに任せな。すぐに終わらせてやるよーーーー」

 

ガジルが「『鉄竜の咆哮』!!」と鉄の刃を噴いた。

 

 

『ぬっ』

 

それを盾を構えて防ぐーーーーが、それがガジルの狙いだった。

 

「力を合わせる必要なんかねぇ!!力は、願いは!繋げればいい!!!」

 

ガジルが自分のブレスを囮にして、ドロマ・アニムに近づいたのだ。そして、自分の腕を思いっきりドロマ・アニムの足に突き刺した。それは地面にまで深く貫く。

 

『なん、だと!?足を!?』

 

そのまま、腕を変形。十字形の杭にする。

 

「ロックした!!これで空中へは逃げられねぇ!!」

 

『お、おのれ!!小癪な!!離れんか!!』

 

「離すかよ!クズ野郎!!」

 

ドロマ・アニムが足を引き抜こうとするが、固くロックされているため、抜け出せない。

 

さらに、ここで再生能力が仇になる。そのまま修復してしまい、がっちりと鉄の杭を咥えこんでしまったのだ。余計に外れなくなってしまった。

 

「行け、火竜(サラマンダー)!!お前がやれ!!!」

 

ガジルがナツの方を見て叫ぶと、ナツがウェンディに目を向ける。

 

「ウェンディ!!オレに向かって咆哮だ!!」

 

「は、はい!!」

 

ナツがドロマ・アニムに向かって走りだすと、ウェンディは魔力を絞り集めてその背中に向かってブレスを放った。

 

 

「ううぅ…!!『天竜のぉ…咆哮』!!」

 

ブレスがナツに追いつきそうになった途端、ナツは飛び上がってブレスの流れに身を委ねた。

 

(そっか!!ウェンディのブレスの特性、回転を利用して…!!)

 

ナツがブレスの勢いも乗せて、回転しながら突っ込んでくる。

 

「『火竜のぉーーー』」

 

『どこを狙っているーーーま、まさか!?」

 

「『劍角ゥゥ』!!!」

 

ナツが炎を纏って突っ込んでいったのはーーーードロマ・アニムの腹部だった。

 

 

直撃。そのまま突き破っていく。

 

 

「うおおおおおお!!!」

 

「…ぁ!!」

 

中にいたエドアミクを、刺さっていたケーブルとか針とかを引きちぎり、タイミングよく抱きかかえ。

 

「おおおりゃあああ!!!」

 

『なにぃ!!?』

 

反対側に、貫通した。腕には、グッタリとしたエドアミクを抱えている。血だらけではあるが、傷が見る見るうちに治っていくので大丈夫だろう。

 

「救出、成功だ!!」

 

 

ナツがニカッと笑った。

 

 

「これでもう修復はできねぇだろ、チート野郎!!」

 

ガジルも勝ち誇るように鼻で笑った。実際、腹に空いた穴が未だに塞がっていない。もう再生機能を失くした証拠だ。

 

 

だが。

 

 

『…たとえ、再生の力がなくとも、このドロマ・アニムが最強の兵器であることは変わらん!!図に乗るなよ、小童どもがぁ!!!』

 

ファウストは恐怖に耐えながら、虚勢を張る。ドロマ・アニムが赤い眼を光らせながら吠えた。口に魔力が溜まっていく。

 

『全員纏めてーーーーーーーー』

 

「ーーーーアミクさん!!やっちゃってください!!」

 

ファウストの言葉を、ウェンディが遮る。

 

音竜(うたひめ)!!お前しかいねえ!!」

 

ガジルも足に腕を突き刺したまま叫んだ。

 

「決めろ!!アミクゥ!!!」

 

『何をーーーー』

 

ナツの大声に首を傾けるファウストは、あることに気付く。

 

 

 

ーーーー空気が震えている…?

 

 

石がカタカタと揺れ、砂煙が舞い上がり、脳が震える。

 

 

(なんだーーーー?)

 

ファウストは、緑色のツインテールの少女に気付く。いや、正確にはその、憎たらしい少女の上空。

 

 

そこの空気が揺らいでいた。球状の何かが、空中で揺らぎに揺らぎまくっていた。アレは彼女が出したもので間違いないだろう。

 

 

 

「…音を塊にして内部で反響を繰り返すと、どうなると思う?」

 

アミクが問いかけるように言うが、特に返答は求めていないようだった。

 

最初はただの揺らぎだったのが、だんだんと内部でいくつもの光球が跳ね回るのが見えてきた。

 

その光球の色も千差万別。赤、黄色、青、紫、緑…。それがどんどん激しく跳ね回る。どこか、幻想的な光景だった。

 

「増幅して、膨張する。さぁ、その膨張した音はどうしよっか?」

 

『音の塊』はその揺らぎを激しくし、球状を保てなくなってきた。

 

「私は…下に落としちゃおう、と思うんだ。落雷みたいに、ね」

 

そして、急に一回り小さくなるように圧縮して、眩く光り始めた。

 

「『滅竜奥義』」

 

(ラクサス…力を貸して!!)

 

脳裏に素直じゃない青年の顔が思い浮かんだ。

 

 

「『雷轟幻想曲(らいごうファンタジア)!!!』

 

 

 

圧縮された『音』が、落ちた。

 

雷のように音が降り注ぐ。

 

 

それはドロマ・アニムに集中して直撃する。

 

 

 

ドロマ・アニムが感電したように激しく痙攣した。手に持っていた槍や盾を取り落とす。

 

 

『ぎゃああああああああああ!!!!』

 

ファウストの断末魔。ドロマ・アニムの体に罅が入る。

 

それはどんどん広がっていった。

 

 

腕が折れ、足が割れ、胴体の装甲が粉々になる。

 

そうなると今度は体全体であちこちが爆発し、腕が吹き飛び、足は砕け散り、胴体も弾ける。機械部品がいくつも弾け飛んでしまった。魔力漏れも激しい。

 

首元で起こった爆発が、首から上を吹っ飛ばしてしまった。ご丁寧に首元も捥いでいってしまった。

 

 

 

そして、そこに現れたのが。

 

 

「あ、あわわわわ…」

 

 

鼻水を垂らして顔を青ざめたファウスト王だった。操縦席の上半分が吹っ飛んでしまったことで彼の姿が丸見えになってしまったらしい。

 

というか爆発しまくるドロマ・アニムの中にいるのは危険ではなかろうか。

 

「えい」

 

「のわあああああ!!?」

 

アミクはファウストの所まで飛び上がってファウストを掻っ攫って救出。

 

そのままナツの横にまで跳んでいった。直後、ドロマ・アニムが大爆発を起こして木っ端微塵になった。

 

 

それを無視して、ファウストを丁寧に降ろしてあげる。

 

 

(これは…幻想(ファンタジー)か…?)

 

 

ファウストは尻餅をついてアミクたちを見る。その目にはなぜか別なものが映っていた。

 

 

ーーーーそこにいたのは、4頭のドラゴン。

 

 

 

1人の姫君を抱えた、灼熱の炎のように赤いドラゴン。

 

 

薄緑色を基調とした青混じりの美しいドラゴン。

 

 

カチカチと固そうなドラゴン。

 

 

白い翼が美しい、スラリとしたドラゴン。

 

 

今だけでなく、先ほどもそうだ。さっき攻撃されていた時も、そう見えた。ドラゴンたちが自分を、狩ろう(・・・)としてくる様は、恐怖しか覚えなかった。

 

冷静になろうとしても、できない。ドラゴンなんているはずがない、と思い込もうとしても、目に見えているものが、それを否定してくる。

 

 

これは、幻ではないのか。本物のドラゴンなのか。

 

 

何故だ。

 

 

何故、こんなものが、人間の形をしている!!

 

 

 

 

そのドラゴンたちが、一斉に咆哮した、ように見えた。

 

 

(儂は…儂はこんなものを欲しがっていたのか…!!!?)

 

 

今更ながら、自分が欲しがっていたものがなんだったのかを実感する。これは自分の手には余るものだ。

 

 

むしろ、こちらが喰われかねない。

 

 

恐怖。恐怖。手を出すべきではないものに、手を出してしまった。

 

 

 

ああ、そうだ。それこそ自分は。

 

 

 

ドラゴンの逆鱗に触れてしまったのだ。

 

 

 

「た…助けてくれぇ…!!」

 

 

情けなく命乞いするファウスト。その姿は、もう威厳も風格もカケラもない、ただの哀れな老いぼれだった。

 

 

「い、や、で、す!お父様」

 

 

せっかく助けてあげたのに、めっちゃ怯えられたのでイラッとしたアミクがにっこり笑って答えるとーーーーーーーーファウストは気絶してしまった。

 

「だはははは!!王様やっつけたぞぉ!!こう言うの何て言うんだっけ?チェクメイトか!」

 

「それは、王様をやっつける前の宣言ですよ」

 

「そういう時は王手!だよ!」

 

「同じだわ!バカが」

 

強敵を倒せた思いから、みんな笑顔になる。

 

なかなか強敵だった。ただでさえ強そうな兵器に自己修復能力つけるとか、ほんとバカじゃねえの、って思いたくなったーーーーーーーー

 

 

「そうだ!!エドミクー!!」

 

「大して略せてねえじゃねえか」

 

アミクはぐったりしているエドアミクを覗き込んだ。彼女は目をぱっちり開けていてじっとアミクたちを見つめてきた。

 

「…酔うかと…思った…」

 

「…まぁ…あんなに動き回ってたらねぇ…」

 

跳んだりひっくり返ったりしていたし、中にいたエドアミクはめっちゃ揺らされていただろう。

 

 

お気の毒に…。ナツとアミクは、もし自分がその立場だったら…と想像して吐きそうになった。

 

考えただけで酔うな。

 

 

「とにかく、無事でよかったです!!」

 

「ギヒッ、改めて見てみたらホントにそっくりだな」

 

「本当ですね!…あの…?」

 

ウェンディはエドアミクが自分を凝視してい事に気付いた。いや、自分というか自分の胸をーーーー。

 

 

「ーーーー仲間っ!!」

 

「ふえええええ!!?」

 

急に両手を握られた。嬉しそうにブンブン手を振っている。

 

 

なんか、すぐ仲良くなれそうで何よりだ。

 

「元気だなぁ…。本当に大丈夫なの?」

 

「…あんなの…どれだけ…経験した…と思ってる…?」

 

「う、なんかごめん…」

 

「ナツ…また…助けてくれて…ありがとう…」

 

エドアミクはナツの手を取ると感謝を述べた。

 

 

「別に俺だけじゃねえよ。みんな頑張ってお前を助けたんだ」

 

 

ナツが照れ臭そうに言うと、「ガジル以外はな!」と加える。

 

「あぁ!?テメェの目はオレの活躍を見れねえほどの節穴みてえだなぁ?」

 

「オレの目に入んないのが悪いんだし〜」

 

「あ、あの…ガジルさんも、頑張ってましたよ?」

 

「ナツはグレイ以外にもケンカ友達増やす気なの?」

 

騒がしく言い合うアミクたちを微笑ましげに見るエドアミク。

 

 

彼女は突然、深々と頭を下げた。不意の行動にみんなビクッとなる。

 

「皆さん…感謝します…お父様を…止めてくださった事…私を助けてくださった事…この国の王女として…感謝の言葉を…送らせていただきます…」

 

急に王女らしさ全開になって話し出すエドアミク。

 

ナツたちは「お、おう…」といった反応でエドアミクを見ていた。

 

こうして見ると、確かに王女なのだな、と思い知らされる。

 

 

「誠に…ありがとーーーーがぼっ!!!」

 

 

突如、感謝の言葉は、血反吐に変わってしまった。

 

 

 

「え…?」

 

 

 

アミクたちは、急に吐血して倒れるエドアミクを呆然と見ていた。

 

 




次と次で終わりかな?

閑話ではアンケートで一番多かったキャラと簡単な仕事に行きたいと思います。

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