妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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次で終わる…といいなあ…。


バイバイ、エドラス

「んなっははははは!!!」

 

頭に角を着け、黒いマントをはためかせて哄笑上げる一人の男。建物の屋根から住人を見下ろしている。

 

その正体はなんと。

 

 

 

大魔王ドラグニルだったのだ!!

 

 

 

 

…ではなく、ナツである。

 

 

何やってんだ、と思うかもしれないが。

 

「我が名は大魔王ドラグニル!この世界の魔力はオレ様が頂いた!」

 

住人たちはそんなナツを見て驚いている。

 

「なんだ、あいつは!?」

 

「お、おい!魔力を奪ったとか言ってなかったか!?」

 

「じゃあ、あいつがこんな事をしでかしたのか!?」

 

住人たちがこの状況を起こしたのがナツだと思い始めたようだ。

 

「貴様等の王は、オレ様が仕留めた!特別に命だけは助けてやったがなァ?フハハハハ!」

 

そして、ナツの隣に縛られたファウストがいるのを見ると住人たちのヘイトが集まってくる。これも、ナツたちの思惑通りだ。

 

ここで、ナツは腕を広げる。

 

「ミュージオン!レッドフォックス!マーベル!我が下僕たちよ!街を破壊せよ!」

 

ナツがそう叫んだ直後、腕を剣に変えた、フードを被ったガジルが家を壊した。

 

「な、なんだー!?腕が剣になったぞ!!

 

「化け物だー!!」

 

「ギヒッ!逃げまどえ!!」

 

ガジルがその凶悪な外見で凄惨に笑ってみせると、住人たちはますます怯えた。

 

「あれはこの街を滅ぼそうとする大悪人!それはそれは、悪魔のような連中です!」

 

そう言って煽動しているのはフリーの記者だという男ーーーーーーーー実は、エドラスのガジルである。最初見たときはびっくりしたものだ。というかガジルとエドガジルが互いに似たもの同士(性格を含む)だと思っているところが可笑しかった。

 

「オーホッホッホッホ!!ワタクシから逃げられると思っているのかしら?さぁ、恐怖の悲鳴を聞かせなさい!!」

 

口に手を当て、高笑いをしているのは、これまたフードを被っているアミクだ。とりあえず、声色を変えて怪獣みたいな声を出してみたり、騒音を撒き散らしたり、と地味に悪役を演じている。

 

「う、うるせえ!!?」

 

「なんだあの女!?」

 

「オーホッホッホッホ!!」

 

アミクは高笑いを繰り返した。ていうか悪役っぽい笑いがこれくらいしか思い付かないのだ。

 

「オーホッホッホッホ!!」

 

「アイツうるせえだけで特に害はねえぞ!!」

 

「オ、オーホッホッホッホ!!」

 

「はぁ、はぁ、その綺麗な素足に踏まれたい…!」

 

「いやぁああ!!変態がいるー!!」

 

 

鼻息荒くアミクの脚を見てくる男からスタコラサッサと逃げ出した!!

 

「何やってんだアイツ…」

 

ガジルはそんなアミクを見て呆れていた。

 

 

とにかく、逃げて走っていると目の前で女の子が転んでしまった。

 

 

「う、うぅ、お母さぁん!!うわああああん!!!」

 

怪我をしてしまったのか、膝を擦りむいていて、大声で泣き出してしまう。

 

「あぁ、もう!〜♬『治癒歌(コラール)』!!」

 

放って置けなかったアミクは女の子に駆け寄り、すぐに治した。女の子は目を丸くする。

 

「わ、治った…!」

 

「お礼はいらない!じゃーね!!」

 

アミクはすぐさまそこから離れた。

 

 

それからも、騒音を撒き散らしながら、怪我をしている人を見つけては治療する、といった本末転倒な行為を繰り返す。

 

そうしていると、「大魔王ドラグニルに脅されて仕方なく街を襲っているが、優しいから逆に怪我した人を治し回っている女の子」という話が出回り始めた。

 

「何やってんだよこのバカが!」

 

「痛っ!?」

 

とうとう合流したガジルに叩かれてしまった。

 

 

「いい子ぶってどうすんだ!オレらの目的は暴れまわる事だろ!!」

 

「で、でも…私たちのせいで怪我しちゃったら目も当てられないし…」

 

そもそも、アミクたちがこんな事をしているのも訳がある。

 

 

 

 

 

エドナツとエドアミクが話している時。

 

 

ナディがやってきてミストガンの思惑を話してくれたのだ。彼はミストガンがアニマの逆展開を起こしている場に遭遇し、会話を盗み聞きしたらしい。

 

「えー!?ミストガンがそんな事を!?」

 

リリーに自分を処刑しろと頼むとは。この世界のことを考えて言ったのは分かるが、当然アミクたちは反対だ。

 

「だから、君たちに『この世界から魔力を奪った悪役』をやって欲しいんだ」

 

「…そして、英雄役をミストガンにやってもらう、と」

 

「うん。この世界には『魔力が無くても生きていけるということを証明する英雄』が必要なんだよ」

 

ナディはそう言って申し訳なさそうな顔になる。

 

「君たちには悪いけど…多分、この世界で悪役を貫ける人はいないと思うんだ。だから―――」

 

「うん、わかった!任せてよ!」

 

アミクはあっさりと快諾した。

 

「え…」

 

「暴れてもいいってことだよな?」

 

「建物とか壊しときゃ、丁度いいかもな…オレたちには打って付けじゃねえか」

 

ナツもガジルも乗り気のようだ。ウェンディもそんな2人に呆れながらもやることには賛成のようだ。

 

「そういうことなら、拙者も協力する、だな」

 

「え?誰?」

 

パルティータもそう言ってくれる。

 

「それと、もう一つ言っておくことが―――――」

 

 

 

そういうわけで、アミクたちは悪役を演じ、ミストガンに英雄になってもらおうとしているのである。ここまでパルティータとナディによって超特急で運んでもらったのだ。

 

 

さらに、ナディが言うには、このアニマの逆展開はすべての魔力をアースランドに送り返すものなので、魔力を体内に持っている自分たちもアースランドに送られる、とのこと。

 

だから、ミストガンに倒された後、アースランドに帰れば、悪役が苦しんで消えていく構図になるわけだ。

 

 

なのだが…。

 

 

「がおー!」

 

ウェンディが可愛らしく男の子を威嚇するが、全く怖がっている様子はない。

 

まぁ、ウェンディじゃどう頑張っても怖くは見えないだろう。ここは自分がお手本を見せてあげねば。

 

「ぎゃおぎゃおー!君美味しそうだねー!食べちゃうぞー!」

 

アミクがウェンディの後ろから威嚇する。

 

 

だが。

 

 

「ほへー、キレーな姉ちゃんだ…」

 

と、効いている様子がない。

 

「あ、あれ?」

 

アミクが首を傾げていると、ガジルが後ろから強面を前に出し、男の子をギロッと睨む。

 

 

「ひぃぃぃ!!?」

 

今度こそ、男の子は一目散に逃げていった。

 

 

「テメェら、悪役絶望的に似合わねえな」

 

「ごめんなさい…」

 

「う、うーん、褒め言葉として受け取っておくよ…」

 

アミクたちが落ち込んでいると。

 

「ご覧なさい!!全てはあいつらのせいです!!」

 

エドガジルが住人たちを煽ってくれるおかげで、アミクたち(主にガジル)にもヘイトが集まってきていた。

ところが、アミクに至っては「あの子、悪い奴じゃねえんじゃね?」「あの子は脅されてるんだ!!」とか好意的な話が聞こえてくる。

 

「どうしよう…私、悪役になれるかな…」

 

「随分舐めた悩みだな、オイ」

 

 

まぁ、これはこれで「女の子を脅すなんて、大魔王ドラグニル、許し難し!」なんて空気も出ているのである意味結果オーライかもしれない。

 

 

そのナツがアミクたちに命令する。

 

「もっと街を破壊するんだ、下僕共!」

 

「下僕下僕うるせぇぞ! この野郎!」

 

「いいからやるのじゃ!」

 

「口調、口調」

 

ナツなんかノリノリで悪役してるが、結構天職なのでは?破壊魔神だし。

 

 

「これは…なぜ、彼らがここに…」

 

リリーは空から街を見下ろす。そこに、ナディとパルティータがやってきた。

 

「ぼきゅが彼らに知らせたんだ」

 

「そして、拙者達で連れてきた」

 

「なぜそんなことを…まさか!」

 

リリーは感づいた。アミクたちが悪役になるつもりだと。

 

 

 

「アイツが!アイツがすべての元凶か!!」

 

「そうです!我々の幸せを奪った張本人です!!」

 

エドガジルに乗せられた民衆はナツに罵声を浴びせた。

 

「ふざけるなこのヤロー!!」

 

「魔力を返せー!!」

 

「あの女の子を解放しろー!!」

 

「やだね」

 

なぜか、アミクを解放するよう訴えてくるものもあったが、ナツはそれらを一蹴した。

 

「オレ様に逆らうものは全員――!!」

 

ナツは空に向かって炎を吐く。道具も使わないで魔法を使ったナツを見て、民衆たちは恐れを抱いた。

 

 

 

 

「ーーーよせ!!ナツ!!」

 

「あぁん?」

 

突然、誰かの大声が聞こえた。声がした方を見ると、そこにはミストガンがいる。

 

 

「オレ様は大魔王ドラグニルだ!!」

 

ナツが大声で名乗り上げた。そんなナツをミストガンはもどかしげに見る。

 

「バカな真似はよせ!!王は倒れた。これ以上王都に攻撃など――」

 

「ファイアァーーー!!!」

 

ミストガンの言葉にも耳を貸さずに、ナツは火を噴く。住人たちは逃げ惑った。

 

「よせ!!」

 

もう一度、ミストガンが呼びかけるも、ナツはニヤリ、と笑った。

 

「お前にオレ様が止められるかな? エドラスの王子さんよぉ!」

 

ナツは挑発するように言うと、住人たちがどよめいた。

 

 

「王子!? 王子だって!?」

 

「7年前に行方不明になった…ジェラール王子…!?」

 

 

今まで行方不明だったミストガンが現れたことで驚いているようだ。

 

 

「来いよ。来ねぇとこの街を跡形もなく消してやる」

 

「ナツ!そこを動くな!!」

 

「ナツではない。大魔王ドラグニルだ」

 

あくまで大魔王だと言い張るナツ。

 

 

 

「あれが王子か!?あの魔王とか言うやつと戦うつもりなのか!?相手は火を吹くような怪物だぞ!?」

 

さすがは記者。エドガジルがうまいこと民衆にミストガンが王子だと信じ込ませている。

 

 

「バカ者め、お前のやろうとしている事はわかってる。だが、この状況を収拾できる訳がない」

 

ミストガンが得意の魔法を放とうとする。

 

「眠れ!!…!?」

 

だが、魔力が吸われて魔法が使えない。

 

「どうした!!魔力がねぇと怖ぇか?そうだよな…魔法は――力だ!!」

 

ナツが炎の拳で建物を崩壊させた。

 

 

「ちょっと!!やりすぎ!!」

 

アミクが住人たちが瓦礫の下敷きにならないように『音竜壁』を張る。住人たちはそれに気付かずに逃げ惑った。

 

「加減ってもんを知らないなぁ、もう…!」

 

「いいんだよ。これで強大な魔力を持つ悪に、魔力を持たない英雄が立ち向かう構図になるんだ」

 

これも全てエドラスの今後のために必要な茶番だ。魔力のないミストガンがナツに立ち向かうことで、これから魔力のないエドラスで生きる人々に希望を示してあげるのだ。

 

「もうよせ、ナツ。私は英雄にはなれないし、お前も倒れたふりなど、この群衆には通じんぞ」

 

「ヒヒッ!!勝負だ!!」

 

ナツの前に立ちはだかったミストガンにナツが殴りかかった。咄嗟のことに、パンチを喰らってしまう。

 

「王子!!」

 

「何て凶暴な奴なんだ!!」

 

民衆たちが非難をナツに浴びせると、ミストガンが立ち上がる。

 

「茶番だ…こんなことで民を一つになど、出来るものかっ!!」

 

ミストガンが殴り返そうとすると、ナツは片手でそれを受け止めた。

 

 

「本気で来いよ」

 

ナツの言葉にミストガンは一瞬目を見開いたが…。

 

「ふがっ!!?」

 

すぐに回し蹴りをナツに叩きこんだ。それを見た民衆は盛り上がる。

 

「いいぞ!!王子!!」

 

「頑張って!!」

 

そこで、やっと追いついたエドアミクとエドナツ。

 

「…そういうこと…」

 

「わ、わあああ!!?何がどうなってるんですか!!?」

 

エドアミクはこの状況を見て瞬時に把握する。

 

エドナツは、なぜかナツとミストガンがケンカしてるし、民衆は盛り上がるし、で混乱の極みに達していた。

 

 

 

住人たちの応援を聞いてナツは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ギャラリーもノってきたぞ!!」

 

「バカモノ!!やらせなんだから今ので倒れておけ!」

 

「やなこった!!」

 

もうこうなったら止められない。

 

 

二人とも、殴っては殴り返されの殴り合いになった。そんな中、ナツが口を開く。

 

「これはオレ流の、妖精の尻尾(フェアリーテイル)式壮行会だ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)を抜ける者には、3つの掟を伝えなきゃならねぇ」

 

「荒っぽい壮行会だなぁ…」

 

彼らの会話が聞こえちゃってるアミクは苦笑を浮かべる。

 

「――1つ!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)の不利益になる情報は、生涯他言してはならない!!」

 

ナツの言葉にミストガンは笑みを浮かべた。

 

「――2つ!!」

 

と、言った直後、ナツの顔面がぶん殴られた。

 

「い”づっ!?何だっけ…!!?」

 

「過去の依頼者に濫に接触し、個人的な利益を生んではならない!!」

 

「へへ、そうそう…」

 

代わりにミストガンが言ってくれた。

 

ナツもミストガンも素手でのガチンコ勝負。

 

「――3つ!!たとえ道は違えど、強く力の限り生きていかなければならない。決して自らの命を小さなものとして見てはならない。愛した友の事を――」

 

「――生涯忘れてはならない」

 

二人はニヤリと笑いあった。これは、別れの言葉でもあり、誓いの言葉でもある。たとえ離れていようと、心は繋がっている、と宣言する言葉なのだ。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)から抜けた後でも、自分たちの絆は変わらない。そういう気持ちが籠っている。

 

でも、よくナツがこれを憶えていたな、と感心する。

 

二人の拳が、互いの顔面を捉えた。

 

「届いたか?ギルドの精神があれば、出来ねぇ事なんかねぇ。また会えるといいな、ミストガン!」

 

ナツが笑顔で言い放ち――――仰向けに倒れた。ミストガンは踏み止まる。

 

これで、ミストガンが勝利した、という図を見せる事ができた。

 

「王子が勝ったぞー!!」

 

「やったー!!」

 

「すげー!!」

 

「王子バンザーイ!!」

 

民衆も大喜びなので、上手くいったみたいだ。

 

 

 

さて…ここからは自分の出番だ。

 

 

アミクが屋根の上に乗り込む。

 

「アミク…?」

 

「あ?」

 

ミストガンとナツが怪訝そうな表情で見てくる。民衆からも「お、あの女の子だ!!」「大魔王はやっつけたから安心していいぞー!!」と、謎の励ましが投げかけられた。

 

アミクはそれらを一蹴し、魔法で声色を変えた。そして――――。

 

 

『フーハッハッハッハッハ!!!』

 

 

おぞましい声で高笑いをした。

 

 

 

 

『ふふふ、まさかこれで終わりだと思ったか…?』

 

「な…!?」

 

急なアミクの豹変に全員が目を剥いた。

 

「な、なんだ!?」「急にどうした!?」「頭打ったか!?」

 

民衆がざわざわしていると、ミストガンが慌てて小声で言った。

 

「アミク!もういい!十分だ!これ以上は…」

 

『ククク…この小娘の体は乗っ取った!!大魔王ドラグニルは利用されていただけに過ぎん…我こそが、真の支配者!!我は―――――邪神ミュージオンなり!!』

 

ミストガンの言葉を遮り、腕を組んで偉そうに踏ん反り返る。ちなみに、ボイスは以前出会ったゼレフ書の悪魔の「ララバイ」のものを使っている。

 

あの声が丁度よかったので。

 

 

『な、なんだって―――!!!?』

 

民衆は大いに驚いた。ナツを倒して終わりかと思ったら、何かもっとヤバそうな邪神とか出てきやがったのだ。

 

倒れているナツは「何やってんだコイツ」的な顔で見てくるし、ガジルなんか顔に手を当てて呆れている。

 

エドアミクも「?」って顔で首を傾け、エドナツはあわわわわ、と慌てていた。

 

と、そこでこの場を上手く収拾したのは、エドガジルだ。

 

「な、なんということだ!!大魔王ドラグニルは、魔力を集め、あの少女を依り代にして邪神を復活させたのか!!」

 

流石記者。咄嗟のストーリー構築も完璧だ。ボーナスをやらねば。

 

『フハハハ!!!この世界は我が頂く!!だが、そうするには貴様が邪魔だ!!始末してやる!!』

 

「アミク!一体何を…!?」

 

アミクは急いでミストガンの襟を掴み、引っ張って屋根の上から飛び降りた。住人たちからは見えない位置に。

 

「王子―――!!」「クソー!!王子を離せー!!」「負けないで――!!」

 

民衆の声を聞きながら飛びおりた先には――――。

 

 

「ウェンディ…?」

 

「ジェラール…」

 

ウェンディが待ち構えていた。

 

 

「いきなりごめんね?でも、ウェンディだってせっかく恩人と会えたのに話もあんまりできてなかったじゃん。

 それはちょっと納得いかないなーって思って、こうして無理矢理時間を作ったんだ」

 

マグノリアでも再会を喜ぶ間もなくアニマ襲来。さっきもエドアミクの事とか色々あって話をできずにいた。

 

だから、これが最後の機会だと思って、アミクが一芝居打ったわけだ。ウェンディには『声送(レチタティーヴォ)』で声を飛ばして説明して指定場所にスタンバイしてもらっていた。

 

「ありがとうございます、アミクさん…」

 

「いーのいーの!じゃ、私は演出もしなきゃいけないからこれで!!」

 

アミクはそう言ってその場から離れ、音を放出して騒音を撒き散らし始めた。

 

 

 

「…時間があまりないから、簡単に言うけど…私、ジェラールには本当にお世話になった。ジェラールと過ごした時間は私にとって、大切な宝物だよ…!

ありがとう、ジェラール!!」

 

涙ぐみながらお礼を言うウェンディ。本当はもっと言いたい事があった。しかし、アミクがせっかく作ってくれた時間も、短いものだ。

だから、この短い言葉に思いを詰め込む。

 

 

「ジェラールと会えてよかった…!!」

 

彼と出会えたから、今こうして妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいるのだ、とウェンディは確信する。

 

ジェラールと出会えたから、孤独にならなかったし、化猫の宿(ケット・シェルター)にも出会えた。

 

全て、ジェラールに出会ってから始まったことだとウェンディは思っているのだ。

 

 

「…それは、私も同じだ。あの時はこの世界に来たばかりで、正直に言えば心細かった」

 

 

アニマを止める、と意気込んでアースランドに乗り込んだはいいものの、右も左も分からない状況だった。

アースランドについてある程度の知識は積んでいたが、実際に生きていくとなると、まだ少年だったジェラールには厳しい世界だった。

 

そんな時に、幼い少女の泣き声が聞こえたのだ。

 

「君がいてくれたおかげで、私も寂しい思いや、不安な気持ちにならずに済んだ。私も君の存在に助けられていたんだ」

 

だから、ジェラールも思う。彼女に出会えてよかった。

 

「ありがとう、ウェンディ。グランディーネが見つかると良いな」

 

「…うん!うん!」

 

ウェンディが涙を流しながら頷く。

 

 

「ミ、ミストガン!そろそろ…!」

 

丁度いいタイミングで、アミクがやってくる。

 

「そうか…ウェンディ、またな」

 

「…さようなら」

 

別れの挨拶は短かった。

 

 

 

 

「…アミク、君にも言わなければならない事がある」

 

後はアミクが倒されるところを演出する、といった段階でミストガンがそう言った。

 

「え?」

 

「私が、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に初めて来た時、最初に目についたのは君だった」

 

「あ、妹と似てたから?」

 

「ああ…アースランドでのアミクがあの妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属しているなんて、思わず笑ってしまったよ」

 

それから、何となくアミクの事を気に掛けるようになってしまった。実は仕事中とかで彼女が危ない目に遭いそうになった時にこっそり助けたりもしたのだ。

 

「しかし…私は君を通してアミクの―――妹の面影を重ねていたのだ。それは、私の甘えでもあったのだと思う。君には申し訳―――」

 

「あ”ー!!そんなの知らないよ!そもそも、ミストガンが私の事そんな風に見てたとか、時々助けてくれたとか、初めて知ったよ!

 だからそんな細かい事気にしなくていいの!!」

 

アミクはばっさりと切り捨てて一気に言い切った。

 

「でも、ありがとね。あ、もしかしてあの時、闇ギルドに襲われてた時に助けてくれたのって…」

 

「そんなこともあったな」

 

知らないうちに色々と助けられていたのだろう。ミストガンとは特に接点がなかったと思っていたが、そんなことがあったとは…。

 

「これからは、妹を大切にしてよね。幸せにしてあげて?」

 

「当然だ…?」

 

違う。これ、新郎さんに言う言葉だ。

 

「じゃ、じゃあフィナーレといきますか!!」『音竜の咆哮』!!」

 

アミクは地面に向かってブレスを放ち、飛び上がる。自分の姿を民衆に見えるように高く飛ばした。

 

『ぐ、ぐああああああ!!!バカな!!?この我が…魔力もない人間にやられるなど…おのれええええええ!!!』

 

それっぽいやられ文句を叫びながらアミクは屋根の上に仰向けに落下した。そして、起き上がり元の声で「あれ?私…どうなって…?」と、自分の中から邪神がいなくなった事をアピールする。ここまでの流れ、ノリノリでした。

 

そこに、ジェラールが屋根をよじ登ってきた。それを見た民衆たちが歓声を上げる。

 

 

「やったあああ!!!」

 

「邪神も王子が倒してくれたぞー!!」

 

「万歳!!ジェラール王子万歳!!」

 

この人たち、純粋すぎやしませんかね。チョロい。

 

 

その途端、アミクとナツの身体が光り始めた。その二人だけでなく、ガジルとウェンディもだ。

 

「始まった…」

 

「さーて、ハデに苦しんでやるか」

 

ここで、苦しんでいるふりをしてアースランドに帰れば、アミクたちの任務は終了だ。

 

「おお、これが…」

 

「な…!」

 

そして、体が光っているのはアミクたちだけではなかった。パルティータやリリーといったエクシードの体も光っているのだ。

 

エクシードたちも魔力を持っているので、こうなることは当然の帰結だった。

 

 

 

 

それはマーチたちの身体にも起こっていた。彼女たちの体が光り、空中に浮かびあがったのだ。

空に吸い込まれるかのように。

 

 

本当に全て魔力がなくなることを悟って暗い表情をしている妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々に、グレイが声を掛ける。

 

 

「そんな顔するなよ。ギルドってのは魔力がねーとやっていけねーのか?」

 

そう言うと、グレイは自身の胸に刻まれたギルドマークをドンッと叩き、言い放った。

 

「仲間が居れば、それがギルドだ」

 

『魔力とか、関係ないってことだ』

 

ウルもぼそっと付け加える。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)はその言葉を聞いて表情に明るさを取り戻した。

 

 

 

「ばいばいエドルーシィ!!もう一つの妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!!」

 

アースランドに行く者と、エドラスに残る者が互いに手を振る。

 

周りを見ると、魔水晶(ラクリマ)にされていたエクシードも元に戻り、宙に浮いている。

 

「みんなぁ、またね~!!」

 

ハッピーがそう言って手を振るが、マーチが現実を突きつける。

 

「多分、みんなとはもう会えない、の…」

 

「うわぁーん、みんなばいばーい!!」

 

魔力がなくなれば、多分アニマも展開されないだろうし、ここに来る手段がなくなる。

 

だから、これが今生の別れ、というわけだ。

 

 

「だらしないわね、泣くんじゃないわよ」

 

「そう言うシャルルも泣いてる、の」

 

「うるさいわね!!あんたもじゃないのよ!!」

 

マーチは眼下に広がる広大なエドラスの地を見下ろす。

 

 

(さようなら…あーしの、故郷…)

 

 

短い間だったが、自分の故郷でまた一つ、成長できた気がした。

 

 

 

 

 

 

「きゃ――――、くるし――――、たすけて――――」

 

「もうちょっと臨場感だせよ!!ほら、群衆こっち見てるぞ!!」

 

アミクたちは苦しむ演技をしながら空に浮かんでいく。

 

(ま…まさか人間までも吸い込むとは…想定外だ)

 

ジェラールもこれは予想していなかったらしい。呆然と彼らを見上げていると、彼の目にリリーやパルティータたちの姿が目に映る。

 

(王子…変化に素早く順応する必要なんてありません。もっとゆっくりでいいのです)

 

(どんなに遅くても、人はその一歩で未来へと向かっていける…この世界の未来は、これから、だな)

 

(さようなら、王子)

 

(また、会えたらその時は語り合おう、だな)

 

彼らの思っていることが伝わってきている気がする。ミストガンは涙を浮かべた。

 

(さよならリリー、さよならパルティータ…)

 

そして、アミクたちの方を見る。

 

――――アミク…ナツ…ガジル…ウェンディ…そして、我が家族(フェアリーテイル)――――――

 

そして、エドアミクとエドナツもアミクたちを見上げていた。

 

 

「…みんな…」

 

「そっか…行っちゃうんですね…」

 

 

寂しそうな表情になる二人。

 

アミクとナツはそんな二人に気付き――――同時に、人差し指を立ててそれを掲げた。

 

「「!!」」

 

―――伝わるかは、分かんないけど…世界が違っても私たちは傍にいるから!!―――――――

 

――――オレたちは、こっちからもお前らを見ていてやる!!――――――

 

なぜか、そんな言葉(メッセージ)が聞こえた気がした。

 

「…ありがとう…アミク…」

 

「ボク、がんばります!!ナツ!!」

 

エドアミクとエドナツもそれに答えるように大きく頷いた。

 

 

そして――――彼らは空に吸い込まれて消えていった。

 

 

この世界とあちらの世界。二つの境目が消えるかのように…。別世界同士が交錯した一時の奇跡は、ここで終わりを告げた。

 

 

「…お兄様…」

 

「アミク…」

 

アミクはよちよちと屋根をよじ登り、ジェラールの方に向かう。

 

「うわ…と」

 

「おっと、気を付けて。もうお前は魔法が使えないんだから…」

 

転びそうになったアミクを抱きとめるジェラール。そのアミクを見て、群衆がざわめく。

 

「誰だ?」「あれ、王女様じゃない!?」「懐かしいなー!!」「さっきの娘と似てね?」「アミク王女も昔から見なくなってたけど…なんで忘れてたんだろ?」

 

その中にはアミクが王女だと気付く者たちもいた。アミクは群衆に紛れて見上げてくるナツを見て微笑んだ。

彼は真っ赤になった。初心な奴め。

 

「…お兄様…」

 

「…あぁ、わかった」

 

ジェラールはアミクに支えられながら、片腕を上げた。

 

「魔王ドラグニルと邪神ミュージオンはこの私が倒したぞ!!!魔力など無くても、我々人間は生きていける!!!」

 

 

 

そして、世界中の全ての人に伝えるかのように大声を上げた。

 

 

彼らが残してくれたこと、伝えたかった言葉。それらを全部、自分の声に乗せて。

 

 

 

 

 

 

きっと、エドラスは強く生きていける。彼らが残してくれてものを心に刻んで、伝えていける。

 

 

 

 

自分たちは、本当に大切なものを知っているから。

 

 

 

 

 

 

 

(元気でね…エクシード…アースランド…!!)

 

 

 

 

 

 

 

アミクは強く心の中で念じた。

 

 

 

 




エドラス編終わったら、いつものごとく閑話挟んで天狼島編です。
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