妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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今回はエクシード回です。パルティータの過去が明らかに!?




漆黒の翼の原点

アミクとマーチ、ナツとハッピー、ウェンディとシャルル、そしてガジルとリリーはマグノリアの近くにある森の上空を飛んでいた。

 

「えーっと、なんでこんなことになったんだっけ…?」

 

アミクがいつものように首を傾けると、シャルルが呆れたように答えた。

 

「あのバカどもが「誰のエクシードが一番速いか勝負だ!」って言い出したのよ。あんたとウェンディは巻き込まれたってわけ」

 

「あーそうだったね。記憶飛んでたよ」

 

ギルドで、ナツとガジルが「ハッピーが速え!!」「いや、リリーだ!!」と言い争いを始めて、「だったら勝負だ!!」とハッピーたちを連れて外に出たのだ。しかも、マーチやシャルルも巻き込んで。

 

慌てて彼らを追いかけたアミクとウェンディ。すると、「お前らも参加しろ!」とガジルに言われ、流されるままにエクシードレース勝負に参加させられてしまったのだが…。

 

エクシードがアミクたちを持って飛行する、といったレース。そして、エクシードの方は飛ぶことに専念し、アミクたちは他の相手を妨害することができる、なんてルールを設けられた。

 

アミクが「なにそれ!?エクシード関係なくない!?」と抗議するも、「エクシードとその相棒は一蓮托生だ!」とか謎の理論に押し切られてしまった。

 

そうして不本意にも始まったレース。それからはもう滅茶苦茶だった。特にナツとガジルが。

 

火は飛んでくるわ、鉄棒が伸びてくるわ。アミクとウェンディは巻き込まれないように必死に逃げ惑っていた。

 

 

そんな修羅場の中でしばらく耐えていると…「そういや、ゴール決めてねえや」というナツの一言でみんな大人しくなった。

 

やっと一息つける、と安堵したアミクたちだったが、そこでようやく現状を把握したのだった。

 

 

「ここはどこでしょう?」

 

ウェンディがキョロキョロと辺りを見回す。眼下に広がるのは森。向こうに小さく街が見えるが、あそこがマグノリアだろうか。

 

「はぁ、一旦降りて休憩しよう。どっかのバカたちのせいですっごく疲れたからね」

 

アミクが言うと、ナツとガジルが「おい、バカって言われてんぞ」「テメェのことだよ!」と言い争いを始めてしまっていた。どっちもだバカども。

 

 

 

「オイラ、もう限界〜…」

 

「まったく、エクシード使いが荒いぞ」

 

森の中に降り立ったアミクたち。ハッピーがヘロヘロになって地面に倒れこむが、リリーは少し汗をかいているだけで余裕そうだ。

 

「ギヒッ、どうだ、オレのリリーの方が強いだろ!」

 

「何言ってんだ!オレのハッピーの方が速かったもんね!!」

 

まだ言い争いをしている二人。この人たちは何でも優劣を付けなきゃダメな性分なのか。

 

「二人ともいい加減にしなよ。もう…こんなところまで来ちゃってさ…」

 

周りには高い木々が並んでおり、遠くを見渡しづらい。

 

「このまま帰れなかったら、皆さん心配しますね…」

 

「それは大丈夫でしょ。街も目視できたし、きっと今日中には帰れるよ」

 

アミクはそう言って木に寄りかかって座り込む。ずっと飛んでいたせいか、首が痛い。

 

「ん…?」

 

その時、アミクたちは周りに気配を感じた。

 

「なんかいるな…」

 

「なんだぁ?くだらねえ奴らだったらぶっ潰すぞ」

 

なんか物騒なことを言うガジルだが、アミクはその気配の匂いに覚えがあった。

 

「もしかして…」

 

アミクが呟いた直後、気配が一斉に姿を表した。

 

「あ、みんな!!」

 

「あんたたち…」

 

「メェーン、久方ぶりだな」

 

「やあ、元気そうだね」

 

なんと、エクシードたちだったのだ。

 

「ここに住んでたんだ!」

 

「はい、ここは広くて食べ物も豊富なので」

 

シャゴットが代表して答えてくれた。そして、シャルルを見て微笑む。

 

「シャルル、会いに来てくれましたね」

 

「…たまたまよ。偶然ここに来ただけ」

 

シャルルがそっぽを向くが、その顔は少し嬉しそうだった。

 

「近くに住むって言ってたのに、結構遠くにいるんだね」

 

「マグノリアから飛んだらそう時間はかからないから、だな」

 

ハッピーの疑問にパルティータが答えた。

 

「カー!なんだ、もう来たのか!!せめてその間抜けな顔をまともにしてから来い!!」

 

「あらあら、いらっしゃい」

 

「おじさん、おばさん!」

 

ラッキーとマールが木の陰からひょっこり現れてハッピーを歓迎する。

 

「リリー、お前なんでそんなに可愛くなった、だな!?」

 

「そこには触れないでくれ…」

 

一方、パルティータを始めとしたリリーを知っているエクシードたちが、リリーの変化に驚いていた。

 

「せっかくだから、みんなとお話していこっか」

 

「ギヒッ、ちょうどいい。オレの自作の曲を披露してやる。猫どもにもオレの音楽を広めてやるぜ」

 

「ギター持って来てないでしょ」

 

「おっしゃあ!!誰か勝負すんぞ!!」

 

「ナツさん、いきなり挑むのはどうかと思いますよ…?」

 

 

アミクたちは思い思いに、エクシードたちと過ごすことにした。

 

そんな中、マーチはパルティータに近づく。

 

「どうも…なの」

 

「…達者でいるよう、だな」

 

「うん…」

 

「ギルドのみんなとは仲良くやってるか?だな」

 

「みんな、いい人たち、なの」

 

言葉少なに会話する二人。今まで過ごせなかった時間を埋めるかのように、穏やかに時間を過ごす。

 

そうしていると、何人かのエクシードたちが翼を広げて飛び始めた。よく見ると、みんな子供だ。

 

「コラァ!待て待てー!」

 

「わぁー!逃げろー!」

 

それをナツが追いかけていた。鬼ごっこでもしてるのだろうか。

 

 

「わー!…いたっ!!」

 

ただ、一人の子供が前方不注意だったのか木に顔面から衝突してしまった。

 

そして、目が回ったのかフラフラして、地面に落下しそうになる。

 

「む!」

 

パルティータは黒い翼を広げ、その子供のところに向かう。子供が落ちる直前に、パルティータが空中でキャッチした。

 

「大丈夫か、だな」 

 

「うわあ、ありがとうおじさん!」

 

パルティータは子供を抱き上げてゆっくりと地面に下ろしてあげた。

 

そこにナツがやって来て、パルティータの翼を見て興奮しだした。

 

「うおお!!お前の羽、黒くてかっこいいなー!!」

 

それを聞いて近くにいたアミクも同意する。

 

「だね。漆黒の翼ってなんか中学生の男の子が好きそうだし」

 

「…それ、褒めてる、の?」

 

はっきり言ってエクシードたちがみんな白い翼の中、一人だけ黒、というのは異質だった。

 

 

だが、アミクたちも他のエクシードたちも、パルティータ自身も気にしていなかった。

 

「そんなこと言ってくれるなんて久しぶり、だな」

 

パルティータは懐かしむように目を細めた。

 

(そうだ、な…この翼を褒めてくれたのは、ミーナとあの子供だけだった、だな…)

 

 

 

パルティータは捨て子だった。

 

 

物心ついた頃から、パルティータは本当の親ではなく、エクシードの孤児院みたいなところで住んでいた。

 

その頃から同じ孤児院の子供たちにいじめられていた。

 

「やーいやーい、『堕天』め!!」

 

「黒色なんて気持ち悪いんだよ!!」

 

もちろん、翼のことが原因だ。

きっと両親もこれが原因で自分を捨てたのではないかと思っている。そもそも、エクシードの翼が黒色だなんて、歴史上でも初めてなのだ。何が原因なのかも分からない。

魔力に異常があるわけでもなく、何か不都合があるわけでもない。本当にただ色が違っているだけなのだ。

 

しかし、大多数は彼を忌避した。

 

集団で一人だけ異質なものがいたら、どうなるか?

それは「孤立」。人間もエクシードも変わらない。「普通」と違うものがいたら、みんなそれを「悪いもの」として扱いたがるのだ。

彼の翼を見た誰もが、彼のことを気味悪がり、「不吉だ」「堕天使の子だ」と陰口を言われ続けていた。

 

孤児院の院長もパルティータのことは厄介者だと思っていたせいか、子供たちのいじめを注意すらしなかった。それどころか、自分もパルティータに面と向かって「汚らわしい」と言う始末。

 

彼の周囲には誰もおらず、常に彼は孤独だった。近寄って来る者と言えば、害をなそうとする連中や、黒い翼に興味を持った研究者紛いの輩ばかり。

 

彼は早い段階から、他人を遠ざけるようになっていった。人目のつくところではなるべく翼も出さないようにしていた。彼は翼だけでも目立つのだ。

 

何年か耐えて、青年になったパルティータはさっさと孤児院から独立し、エドラス中を放浪する日々を送った。

 

 

 

そんなある日のこと。

 

いつものように地上に来て飛んでいたパルティータ。最近彼は人間に興味を持っていた。同族嫌悪になりかけていたパルティータは、「エクシードが人間より上位の存在で人間は自分たちが導くべき」という話に疑問を持っていた。実際に人間がどんなものなのか、と地上に来ては人間たちを観察する趣味ができていたのだ。

 

そんな中、彼はうっかりして木に頭をぶつけてしまったのだ。気を失ったパルティータはそのまま地面に落下してしまった。

 

 

しばらくして目を覚ますと、誰かが心配そうに自分の顔を覗き込んでいるところだった。

 

「あ、大丈夫ですか…?」

 

それは、エクシードの少女だった。綺麗な黄色い毛並みとぱっちりした瞼をしている美しいエクシードだった。

 

「…なんだ、助けてくれたのか」

 

パルティータが憮然として言うと、そのエクシードは慌てて頭を下げた。

 

「怪しい者ではないです…。私はミーナ。ここを通りかかったところを貴方が倒れているのを目にしまして…」

 

礼儀正しい立ち振る舞い。どこかのお嬢様なのだろうか。

 

そこで、パルティータは自分の翼が広げっぱなしなことに気付いた。気絶から回復した時に無意識に(エーラ)を発動してしまったらしい。

 

「…助けてくれたことには感謝する。俺はもう行く。俺みたいなやつと一緒にいると、お前まで何か言われるぞ」

 

パルティータは翼を隠すようにその場を去ろうとした。どうせ、彼女も自分の翼を見て気持ち悪い、と思っているはずだ。互いのためにもさっさとここから離れるべきだろう。

 

そう思っていると、彼女が呼び止める声が聞こえた。

 

「パルティータさん!待ってください!頭に怪我していますよ!せめて治療だけでも…」

 

彼女が自分の名前を知っていることは、別に不思議なことではない。自分はエクスタリアの中でも「異質で異端、漆黒な翼を持つ堕天使」として有名なのだ。知ってる人は知ってるだろう。

 

「気を使わないでいい。俺みたいな嫌われ者を治療したなんて聞いたなら…」

 

「そんなの関係ないです!目の前で困っている人がいたら、助けるのはおかしなことではありません!!」

 

「…こんな黒い翼のエクシードなんて、厄災の元でしかないぞ…」

 

諦観と自嘲を込めたパルティータの言葉にキョトンとするミーナ。

 

「私は綺麗だと思いますよ。貴方の翼」

 

「…すまない。ちょっとなんて言ったか聞こえなかった」

 

「綺麗だと言ったんです。昔、貴方を遠目に見たときから思ってましたよ。真っ白なキャンバスに一点の黒があるみたいで、目を引いたんです」

 

ミーナの言葉は止まらない。

 

「真っ青な空に浮かぶ、貴方の黒い翼は、他のエクシードの翼よりも美しかった」

 

パルティータの中で感情の嵐が巻き起こっていた。そんなこと言われたのは初めてだし、どんな反応をすればいいか分からない。

 

「とにかく、治療します!」とミーナは背負っていた大きいリュックから救急箱を取り出してパルティータを治療した。

 

「…ところで、旅行か?そんなでかい荷物持って」

 

普段のパルティータなら、ここまで会話するということはしないが、ミーナに対して心を開きかけていた。

 

「え?えーと、それは…」

 

パルティータの問いにミーナは歯切れが悪そうに口籠もる。

 

「ああ、無理に聞き出すつもりはない」

 

いいトコのお嬢様だとは思うが、きっと家出とかではないだろうか。

 

「じ、実は…家出、なんです」

 

「あ、当たった」

 

予想的中。彼女の詳しい話によると、彼女は望まない結婚をさせられそうになったらしい。それで、急いで逃げて来たのだと言う。

 

 

「政略結婚、ってやつか…難儀なものだ」

 

「それで、頑張ってここまで逃げて来たんですけど…。正直、追っ手に追いつかれそうなんですよね…」

 

ミーナは途方に暮れたように溜息をついた。パルティータはその様子を見て、妙な感情が湧き上がった。気が付けば、こんなことを口に出していた。

 

 

「俺の隠れ家に来るか?」

 

「え?」

 

 

それから、パルティータとミーナの奇妙な同居生活が始まったのだ。

 

パルティータは「治療して暮れたお礼に」とミーナをエクスタリアにある隠れ家に匿ってあげた。

 

この隠れ家はパルティータが探検していた時に見つけた物で、「何かに使えるかも」と隠れ家にしていたのだ。

 

ミーナとパルティータは追っ手の目を掻い潜りながらもともに暮していた。その日々は追われているにも関わらず、以前とは比べ物にならない程充実したものだった。

 

パルティータはどんどんミーナに対して心を開いていき、ミーナもパルティータに懐いていった。

「貴方って顔がちょっと怖いから可愛い語尾を付けたらギャップ萌えで人気出るかも」とミーナが冗談で言ったことを真に受け、語尾に「〜だな」と付けるのが癖になり、そのまま定着してしまった。

一人称も「「拙者」ってなんかカッコ良くないですか?」と目を輝かせて言っていたので、そのようにしてみた。めっちゃ喜ばれた。

 

 

そんな風に暮していて当然のごとく、互いに意識し始めた頃。

 

 

ある日。秘密扉を叩く音が響く。

 

 

「…!」

 

料理を作っていたミーナがビクッとなり、パルティータが警戒する。近くにあった武器を手に取り、警戒しながら秘密の穴から外を盗み見た。

 

外では黒くてゴツいエクシードが子供を二人連れて立っていた。

 

「すまない…どうしても治療しなければならない子がいる…だが、これ以上エクスタリアに留まっていると衛兵たちに追われてしまう。ここで匿ってくれないか?」

 

もちろん、パルティータは彼の言葉を鵜呑みにせず、じっくりと観察する。そのエクシードが抱えている緑髪の子供は見るからに酷い怪我で、命に関わりそうなものだった。それをすぐそばに居た青髪の子供が心配そうに覗き込んでいる。

 

「…誰だ。名を名乗れ、だな」

 

「リリーだ。そう言えば分かるか?」

 

「…堕天、か、だな」

 

風の噂で、人間の子供を助けて堕天となったエクシードがいると聞いたことがある。その名前が「リリー」といっていた。

 

「貴方たちに迷惑をかけるつもりはない。ただ、この子の治療をお願いしたい」

 

パルティータはリリーの真摯な目を見てーーーーーーーーミーナの方を見た。彼女は優しげに微笑んで頷いた。

 

「…分かった」

 

「…!恩に着る!」

 

そうして連れてきた少女をミーナは治療してあげた。一緒にいた少年も不安そうにそれを見ていた。

 

 

「…まさか、漆黒の翼を持つ「堕天使」パルティータや、失踪扱いされていたミーナ嬢がこんなところにいたとは…」

 

リリーは自分たちを知っていたみたいで、軽く驚いていた。

 

「いろいろあったんだ、だな。まぁ、今はこうして隠れながらではあるが、暮らしは充実している、だな」

 

「そうみたいだな…人間を見ても何も言わないんだな」

 

リリーが探るような瞳でこちらを見てくる。

 

「ミーナも拙者も、自分たちが上位の存在だとか、思ってない、だな」

 

「…そうなのか」

 

「普通とは違うものを不当に差別するものに上位も何もない、だな」

 

ミーナも親の言いなりのまま過ごすのが、「天使」なのか。と自分たちのあり方に疑問を持っていたらしい。そうして、人間にも興味を持つようになったとか。地味な共通点があった。

 

「随分と表情が柔らかくなったものだ。俺が昔、遠目でお前を見たときは全てを諦めた目をしていたというのに」

 

リリーが懐かしそうに言うと、パルティータは黒い翼を広げた。そして、愛おしげにそれを撫でる。

 

「エクシードにも色々いるものだと、分かっただけ、だな」

 

ミーナは自分の翼が綺麗だと言ってくれた。だから、きっとみんなが同じわけではない、ミーナみたいなものもきっといる、と希望を持てるようになったのだ。

 

「そう言うお前も、人間の子供を助けたのは、どう言う意図があったからだ?だな」

 

「それは…子供が、死にそうだったから…」

 

「そうだ、だな。もし、お前が人間をとるに足らない存在だと思っていたなら、助けなかったはずだ、だな」

 

そして、パルティータはこれまで人間を見てきて感じた思いを語った。

 

「結局、人間もエクシードも同じ、だな」

 

リリーは黙ってその話を聞いていた。

 

その時、少女が目を覚ました。

 

「んあ…」

 

「アミク!」

 

「もう大丈夫ですよ。しばらく休んでいればすぐによくなるはずです」

 

「…ありがとう、妹を、助け、てくれて…」

 

ミーナがにっこり微笑んで少年に言うと、少年は安心して緊張の緒が切れたのかそのまま突っ伏して寝てしまった。一方、目を覚ました少女はパルティータの翼を見ると一言。

 

「キレー」

 

「…!」

 

意味がわかって言ったのかは分からない。しかし、まだ赤子と言ってもいい少女は、嬉しそうにパルティータの翼を眺めると、眠りについてしまった。

 

 

「…これからどうするつもり、だな」

 

パルティータはリリーに聞く。エクスタリアを追放されたからここに居場所はないはず。

 

「エクスタリアには居られないからな。地上に行って住む場所を探してみるさ」

 

「それがいい、だな。拙者たちもたまに様子を見に行く」

 

「そこまでしてもらわなくても…」

 

申し訳ないと思ったのか、リリーが慌てて言うが、ニコニコ顔のミーナが賛同した。

 

「それいいですね!せっかくこうして知り合ったのですし、地上に行くついでに遊びに行っちゃうのもいいかもしれませんね」

 

「いや、ご令嬢。そんな気軽にこられても困るのですが…」

 

お嬢様なだけあってか、ミーナは少々呑気なところがある(偏見)。

 

「…ところで、気になっていたのだが…お前たちは夫婦か?」

 

「なっ!?」

 

「…!?」

 

リリーの質問に二人は顔を真っ赤にしてしまった。

 

 

 

翌日。少年にはお礼を何度も言われ、完全回復した少女にも舌足らずな言葉でお礼を言われた。

 

 

リリーとも再会の約束をして、リリーたちは地上へと向かって行った。こうして、リリーとパルティータたちは知り合ったのだった。

 

 

 

それからあったことと言えば。

 

 

 

何年か隠れ家で住んでいると、とうとうミーナの実家に見つかってしまった。それで、その実家と一悶着あり、詳しいことは省略するが、パルティータの奮闘とミーナの覚悟によって、ミーナの実家とは縁を切った。

 

そして、二人はめでたく籍を入れた。

 

こじんまりと開かれた結婚式では祝福してくれたリリーに、初々しい二人が顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

ミーナの実家と一悶着を起こす、という事件はあったが、パルティータもミーナも追放はされずに済んだ。

 

彼らは街に家を買ってそこで住む事にした。パルティータの元々の評判とあの事件のこともあって、パルティータたちは白い目で見られたが、唯一隣に住んでいた夫婦はミーナたちと仲良くしてくれた。

 

それが、ラッキーとマールだ。彼らもエクシード至上主義思考ではあったが、根がいい人たちで、パルティータのことも差別せず、ミーナとも分け隔てなく過ごしてくれた。

 

きっと何かきっかけがあれば、エクシード至上主義の考え方も改めるだろう、という謎の確信があった。あるいは願望だったのかもしれないが。

 

 

 

そうして、人間観察もリリーとの付き合いも続けながら何年も過ぎ、パルティータとミーナの間に愛しい子が入っている卵が産まれた。

 

 

その卵を、シャゴットたちに取られ、シャゴットたちに抗議しに行ったときに、真実を聞く。

 

それからはエクスタリアから離れ、アースランドに行く方法を模索し始めた。その片手間にパルティータたちは人間についてや、自分たちのあり方について民衆に呼びかけることを始めた。

 

少しでも、エクスタリアの民たちの認識を変えるために。このままでは、後に手痛いしっぺ返しに遭うだろう。それに、エクシードと人間とが分かり合えないままなのは嫌だったのだ。

 

 

そしてーーーまた何年かが経ち。

 

 

「…今見ても、その翼は美しいですね…」

 

今にも消え入りそうな声で、ミーナが言う。パルティータはベッドに寝たきりになっているミーナに背を向け、小さく震えていた。翼も一緒に震える。

 

「…お前のお陰だ。この翼を嫌いにならずに済んだのは」

 

パルティータがいつもの口調を捨てて、昔のように話し出した。

 

「俺がここにいられるのも、人生が幸せだったのも、全て、お前の存在があったからだ。国民に人間について説いてこられたのも、お前が傍にいてくれたから…」

 

パルティータはやっと振り返る。

 

ミーナの顔は随分やつれていたが、その美しさは損なわれていなかった。昔から変わらない意志の強い瞳でパルティータは見据えた。

 

「…もう、限界でしょう。私の体だからこそ分かります。感覚もほとんど麻痺してしまっています」

 

ミーナが病気にかかったのが、ほんの数ヶ月前のこと。ミーナを治そうとあらゆる手を試みたが、エクシードだけに罹る治療困難な病気らしく、医者も匙を投げ出した。

 

「心残りは、もちろんありますけど…貴方と一緒にいられないこと。子供を一目、見たかったこと…」

 

ミーナは寂しそうに笑うが、それでも自分の人生に悔いは無さそうだった。

 

「俺は…お前がいなくなったら、どうやって生きていけばいいか分からない…」

 

「パルティータさん。貴方は、私が居なくたって生きていけるはずです」

 

「そんなこと…!!」

 

パルティータが悲痛な声で言うと、ミーナが愛おしげに彼の手を撫でた。

 

「貴方は一人じゃない。これまでに、友達だってできたでしょう…リリーさんやラッキーさん、マールさん…」

 

ミーナは儚げな笑みを浮かべる。

 

「何より、私たちの子供だっているんですよ。貴方は生きて、その子に会ってあげて下さい。そして、私の分まで抱きしめてあげて下さい」

 

「…俺の、子供…」

 

「ええ、私と貴方の、愛の結晶です」

 

 

「きっと会えます」

 

 

「だって、親子ですから。親子の絆は互いに引き寄せちゃうもんです」

 

 

「だから、私が居なくなっても…希望(子供)を忘れないで下さい」

 

 

 

「…あのとき、貴方に出会えてよかった」

 

 

「貴方は、私が貴方を救ったと言うけれど、それは私も同じです。あの家から、私を救い出してくれました」

 

 

「刺激的な毎日で、幸せな日々でした」

 

 

「愛してます、パルティータ」

 

 

 

 

 

 

「そして、お母さんは、ずっと見守って居ますよ…マーチ」

 

 

 

その夜。ミーナは眠るように息を引き取った。

 

 

初めて、涙が枯れる、と言うのを知った。

 

 

 

 

 

 

 

(ミーナ…お前が呟いた通りの名前とは…)

 

 

ミーナが最後の呟いた名前。当初は意味がわからなかっが…シャゴットのように未来予知でもしたのだろうか。

 

 

いや…それが親子の絆、というものかもしれない。

 

 

「…おじさん?」

 

隣からマーチの声が聞こえる。

 

「…!」

 

「…にゃ!?」

 

思わず抱きしめてしまった。

 

 

「…また、練習、なの?」

 

 

「…その通り、だな」

 

 

マーチは仕方なさそうになすがままにされている。パルティータはぎゅっと抱きしめ続けた。

 

妻の分まで、しっかりと。

 

 

(俺たちの思い…それが目の前にある…)

 

誰も自分を差別しない。娘であるマーチ。エクシードと人間が仲良く遊んでいる光景。

 

自分たちが思い描いていた世界が、全て目の前にあった。

 

 

(ああ…生まれてきてよかった…)

 

 

自分は生まれてこなければよかった、と後悔していた。でも、今は記憶にもない両親に感謝すらしている。

 

 

「…おじさんの翼、綺麗、なの」

 

唐突にマーチがパルティータの翼を撫でた。目を見開くパルティータ。

 

 

「…なんか、なんとなく、思っただけ、なの!…」

 

恥ずかしくなったのか、マーチは俯いてしまう。やっぱり、その姿はミーナにそっくりだ。

 

 

でも、こうして元気な姿を観れると安心する。

 

(ミーナ…きっと、お前が見守ってくれていたお陰だな)

 

 

マーチはアミクという大切な友人に出会い、彼女とともに過ごして、元気に生きてこられた。ミーナが巡り会わせてくれたみたいで嬉しかった。

 

 

 

「ガジルー!オレと勝負だー!」

 

「望むところだ!!おい、ネコども!!オレの勝利の瞬間を目に焼き付けておけよ!!」

 

『わーーい!!』

 

「お前たち、あまりガジルたちを調子付かせるな…」

 

 

 

「いつもシャルルがお世話になっております、ウェンディさん」

 

「なんで母親みたいなこと言ってんのよ」

 

「さ、さあ?なんででしょうね…?」

 

「あはは…」

 

 

 

「カー!!おめえ、二人の女の間で挟まれやがって!!男らしくどっちか選べ!!」

 

「えー!!?」

 

「あらあら、モテモテねえ…」

 

 

 

「マーチ、助けてー!!一夜さんっぽいエクシードが追いかけてくるー!」

 

「メェーン、いい香り(パルファム)だ」

 

「ニチヤさん、女の子を追いかけ回すなんて、ぼきゅは感心しないよ〜」

 

 

 

 

娘と共に、この景色を見るひと時は本当に幸せだった。きっと、ミーナも傍で一緒にいてくれているはずだ。

 

 

この家族が、いつまでも共にあらんことを…。

 

 




「いつでも会える…」とか言ってたくせに、原作じゃそんな会ってる描写なかったんでここでやらせました。

今回も詰め込み気味でしたが、一旦閑話は今回で終わりです。


次回からいよいよ天狼島編が始まります!

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