『みんな病んでるIS学園』   作:赤空 朱海

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主人公のセリフは全て【】です
重要な個所は『』で囲みます


オープニング 

 深い海の中に沈んでいるようで、空の上の白い雲の中にいるような、そんな気分だった。

 誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。

 生きる?俺は死んでいるのか?

 嫌だ。死にたくない。だから必死でもがく。この何もない空間から。

 

 目を覚ますと真っ白い天井と自分のことを見つめる女性がいた。

 

「目を覚ましたか!良かった……本当に、良かった……」

 

 その女性は涙を流しながら僕の手を取る。

 暖かい手だった。だがそれとは別に僕の思考は鉄のように硬く冷え切っていた。

 そうだ。この違和感の正体は……。

 

【あの……あなたは誰ですか?】

 

「なっ!……そんな……」

 

 違和感の正体は何も覚えていないということだった。なぜ自分がこの病室にいるのか、この女性は誰なのか、いや、根本的話しでは自分の名前すら分からないのである。

 女性は僕の言葉に戸惑いを見せるが、すぐに何かを思案しているように考えを話す。

 

「記憶が混濁しているのか……?。私の名前は織斑千冬。キミの一応の家族だ。詳しいことは医師の診察が済んでからにしよう。今呼んでくるから安静にして待っているんだ」

 

【わかりました】

 

 そういって織斑さんは病室を出ていく。

 僕の家族と言っていたがイマイチピンとこない。家族としての思い出が一つもないからであろう。だが、僕が目を覚ました時に涙を見せてくれたということは間違いなく心配してくれていたのだ。自分にも心配してくれる存在がいてくれたことが少し嬉しい

 

 次に自分の体を見回す。腕や足、頭にさえ外傷どころか治療の後は見られない。

 

 『一体、何故自分は記憶喪失になったのだろうか?』

 

 分からないことだらけだがそれも仕方ないのかもしれない。何も覚えていないのだから。

 そんなことを考えているときに医師らしき人が病室に入り自分に対していくつかの質問と体調などを測っていった。正直な所、記憶がないこと以外は体に不調は感じられない。検査が終わった後に再び織斑さんが僕の元へ来る。

 

「検査ご苦労だった。一応、記憶喪失以外には体に異常はないらしい。だから明日にでも退院できるそうだ。それで……お前の戻る場所何だがIS学園に戻らねばならないんだ」

 

【IS?それって女性にしか扱えない筈ですよね?どうして僕がその学園に……】

 

「実はお前はISの二人目の男性操縦者なんだ」

 

【えっ?】

 

 その後の織斑さんの話によるとISの二人目の男性操縦者であること、そして記憶喪失の原因はISの事故によるものであることが分かった。

 知識はあるが記憶がない僕にとっては全く実感がわかない。

 次に気になっていたことを織斑さんに聞く。

 

【あの、織斑さんは僕の家族って言ってましたけど……両親とかは……】

 

「キミの両親は数年前に既に他界している。両祖父母もだ。そこで身寄りのなくなったキミを家族ぐるみで付き合いのあった私が引き取ったという訳だ」

 

【そうだったんですか……】

 

「それと」

 

【?】

 

「私のことは千冬で構わない。前のキミは私をそう呼んでいた」

 

【分かりました。それじゃあ千冬さんで】

 

 千冬さんと言われたとき少し悲しそうな顔をした。前の僕は呼び捨てだったのだろうか。わからない。

 

「……いや、いいんだ。ゆっくりと思いだして行こう。私はキミの家族だからな」

 

【はい】

 

「家族と言えば私には弟がいてな、キミの同級生でもあるんだ。名前は『織斑一夏』。何か思い出すことはないか?」

 

 織斑一夏?……聞いたことあるな。たしか

 

【一人目の男性操縦者ですよね?……すいません、それくらいしか分かりません】

 

「やはり知識はあるのだな。そうだ、一人目の男性操縦者にしてキミの義理の兄だ。キミのことをえらく心配しているようだったからIS学園に戻ったら会わせてやろう。もっとも、今の変わりようを見たら驚くだろうがな」

 

 前の僕がどんな人間だったのか気になる。

 千冬さんに聞いてみるか。

 

【あの、前の僕ってどんな感じの人間だったんですか?】

 

「そうだなぁ、まずは話し方から違う。自分のことも僕とは言わず俺と呼んでいた。それに性格も今よりやんちゃな感じだったな」

 

 意外だ。

 

「ほら写真も持っている」

 

 そう言うと千冬さんは手荷物の中から一枚の写真を取り出し、僕に見せてきた。

 そこには千冬さんと僕らしき少年、それともう一人の少年が写っていた。

 たぶん彼が織斑一夏なのであろう。

 確かに写真の中の僕はすこし活発そうな顔つきをしている。

 

 千冬さんは大事そうに写真をしまうと話を続けていく。

 

「さて、これからの動きについてだが、まずは明日にでもIS学園に戻ってもらってそこから記憶のリハビリをしていこうと思う。どうだろうか?」

 

【この病院ではダメなんですか?】

 

「実はキミの記憶喪失にはISが絡んでいて検査にもIS学園の機材を使った方が良いという判断が出てな。一応、キミが目を覚ますまでは安全を考えて、この病院から動かさないようにしていたんだ」

 

【そうなんですか……少しだけ不安です】

 

「そうか……」

 

 正直、IS学園に行くのは不安だ。前の僕も不安だったのだろうか。

 千冬さんは少し暗くなっているであろう僕の顔を見ると励ますように抱きしめる。

 

「私も担任教師としてついてるから大丈夫だ。……今度は必ず守ってやる」

 

【……はい】

 

 その言葉が嬉しかった。

 千冬さんは体を離すと僕をベッドに横にならせ、布団を掛ける。

 

「今日はもう時間だから帰るよ。本当は泊っていきたいのだが生憎、仕事があってな。明日、迎えに来るから今日はもう休め」

 

【分かりました】

 

 千冬さんは名残惜しそうに病室を出ていく。

 明日から忙しくなりそうだな。

 正直、記憶を取り戻すというのがどんな感じか分からないけど出来ることはやってみよう。そう覚悟を決めたのだった。

 

◆~一日目~

 

【……IS学園って大きいですね】

 

 初めてこの学園に来た第一印象がそれだった。

 明日になり、僕は織斑先生に連れられてこのIS学園に来ていた。

 設備も綺麗だし、さすが最先端の学校なだけはある。

 

「ふふっ、初めてここに来た時と同じことを言っているな」

 

 まあ、記憶がないのだから初めてのような物であろう。

 

「他の生徒は現在授業中だ。とりあえずは寮の自室まで案内しよう」

 

 そう言って織斑先生の後を付いていく。

 そして結構歩いたところで寮につく。

 

「これがお前の部屋のカードキーだ。失くさないようにな。それと自室の中のものは全部、お前の私物だ。好きに使うと良い」

 

【ありがとうございます】

 

「とりあえずこんなところか。本当はずっとついていてやりたいんだが私も授業がある、今日の所は自室で休んでいろ。夕食になったら呼びに来る」

 

【分かりました】

 

 千冬さんと別れる。

 僕はカードキーを使い、自室に入る。

 自室には思っていたよりも『物が散乱していた』前の僕は大雑把な性格をしていたのだろうか。取りあえずは少し片づけよう。

 

 自室を掃除していると最新機種の『スマートフォン』を発見した。

 僕が使っていたものだろうか?電源を付けるとパスワードを要求される。

 ……覚えていない。仕方ない。後でどうにかするとしよう。

 

 机の近くを掃除していると『財布』と『捨てられた手紙』を発見した。

 派手な財布には一万円札がギッシリと詰まっている。普通に考えて高校生が持っていい金額ではない。一体何のお金なのだろうか。記憶のない今ではわからない。

 ゴミ箱に捨てられた手紙にはギッシリと『愛してる』と書かれていた。いたずらか何かだろうか?かなり気味が悪い。

 

 次にベッドの周りを探索する。

 するとベッドの下から『未使用コンドーム』『大人の玩具』『ハメ撮り写真』が出てくる。

 …………まずいよな。

 未使用コンドームは箱に入って見つかった。使った形跡がある。

 大人の玩具は女性が使う男性器を模したものだった。こちらも使った形跡がある。

 問題はこの写真だ。いや、まあ残り二つのものも問題なんだが。顔が隠れるように写っていて誰と誰が行為をしているのか分からない。ただ、どことなく女性の方は肌が白いようだ。

 

 何の意図があってこれらの物が自分の部屋にあるのかは分からない。

 だが、怖い。

 とりあえずベッドの下に押し込んで隠しておこう。

 

 掃除していて気づいたことだが少し『下着やシャツが少ない』

 あとで千冬さんに頼んでみよう。

 

 ふう、こんなところかとりあえずは片づけを粗方を終えた。

 途中見つかったものに関してはかなり気になるが現時点では調べようがない。

 

 掃除を終えたことだし暇だ。

 千冬さんには休むよう言われたが学園のことも気になる。

 少し散歩してみるか。

 

 




キーワード
『一体、何故自分は記憶喪失になったのだろうか?』
『織斑一夏』
『物が散乱していた』
『スマートフォン』
『財布』
『捨てられた手紙』
『未使用コンドーム』
『大人の玩具』
『ハメ撮り写真』
『下着やシャツが少ない』

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