『大人達の懸念/雄英体育祭に向けて』
「死柄木弔という名前、個性は恐らく、触れたものの対象を粉々にしてしまう個性と推測。20〜30代の個性登録を洗ってみましたが、該当せず。また黒霧というワープゲートも同じです。それと日本刀を所持していたという青年、こちらは敵名〝羚羊〟であると情報を得ました」
雄英襲撃後の翌朝、雄英高校では会議室で教師達はもちろんの事、警察からオールマイトの友人である塚内刑事が敵連合について調べた情報、資料を読み取っている。
塚内は警察の中でもトップクラスの実力者と言われている。特に情報収集などはとても得意とするらしい。
「まぁ……名前の割れた彼も含めて無戸籍かつ偽名ですね。個性届けを出していない裏の人間です」
彼はまず死柄木と黒霧の名前が偽名である上、裏の人間と断言した。
塚内は情報から策を考えているみたいだが、今のところ情報が少ない。相手が無戸籍ゆえに偽名。さらに相手が何処にいるのかも分からない故に、攻め立てる理由すらもわからないままでは策などは最早皆無に等しい。
「何もわからねえってことだろ?だったら早く見つけないと主犯の死柄木とやらは厄介になるぞ…」
帽子に手を当てるスナイプに、オールマイトは遠いおぼつかないような目を細めてため息をつく。
「主犯…か」
「オールマイト?」
オールマイトのすぐ隣にいたため、その呟きが聞こえた根津は振り向く。
「思いついてもふつう行動に移そうとは思わぬ大胆な奇襲、用意は周到にされていたにも拘らず!」
それこらオールマイトは、政治家が話すような体制をとり、自身の体験を踏まえて見解の話を続ける。
「それと何が関係があるというんだ?!」
オールマイトに抗議する雄英の一年B組ヒーロー科の担任ブラドキング。ブラドキングの発言からかオールマイトに視線が集まる。
そんな中オールマイトはこう言った。
「子ども大人だ」
雄英教師陣、塚内はオールマイトが言ってることの意味を直ぐに察知した。
オールマイトは死柄木の言動の説明からして、『子ども大人』というのは幼稚的万能感の抜け切らない人間、大人の力を持った子どもということだと閉める。
「ショック吸収の方はともかく、超回復なんて個性仮に見せたとしても話さない方が油断を誘える」
「なるほどね…オールマイトの言葉に一理あるね。確かに、個性不明というアドバンテージを放棄するのは愚かだね」
冷静な様子で話し出す根津校長。
「小学生時の一斉個性カウンセリング、アレ受けてないのかしら?」
疑問に浮かぶミッドナイトの意見はご尤もで、個性が発現して、それが当たり前になってしまったこのご時世、個性という危険な力を過った方法で使わないために、本来なら小学時に保険調査によるカウンセリングを受けるよう義務付けられてる。
「個性登録を洗っても出てこないんだ、完全に裏の人間なんだろ。受けてないことには確かだな。何しろこんなにややこしい事件なんざ初めてだぜ……」
帽子を深く被るスナイプ先生。
「先日のUSJで検挙した敵の数68名」
抗議が続いてる中、声を出したのが塚内刑事。資料を見ながら説明をしている。
「どれも路地裏に潜んでいるような小物ばかり、そして大物が脳無と呼ばれる男でした。問題はそういった『子ども大人』に賛同して付いてきたということです。」
先生たちも固唾と唾を飲む様子で静かになり、塚内に視線が集まる。
「ヒーローが飽和した現代に抑圧されてきた悪意たちは、そういう無邪気な邪悪に魅かれてるのかもしれない」
オールマイトの存在そのものが悪への抑止力となり、今まで悪事を働く事が出来なかった敵たちの悪意は、死柄木弔という青年の無邪気な悪意に引き寄せられ、協力、仲間などと言ったものが集まってくる。死柄木弔の存在はそんな敵達を取り込み拡大していく可能性を孕んでいる。
「……ヒーローたちのお陰で、こうして我々警察は地道な調査に専念出来る。引き続き調査網を拡大し、犯人たちの逮捕に尽力を尽くします!」
内は一礼する。
その後根津は深刻そうな顔で呟いた。
「子ども大人…か」
根津の様子に首をかしげるオールマイトや他の教師陣。そんな彼らに対して根津はこういった。
「逆に考えれば生徒らと同じだ。成長する余地がある。もし優秀なバックでもついていたら……」
「……考えたくもないですね」
根津に答えるようにしてオールマイトが言った言葉は雄英教師陣を代表するような言葉だった。
――――――――――――――――――――――
敵ヴィラン連合と名乗る組織に雄英高校への侵入を許すという学校の失態。
これにより侵入された翌日は臨時休校を余儀なくされたがそれからまた一日が経過して、出久は気が休まる事なく学校へと登校した。
そして
「皆ー!!朝のHRが始まる席につけー!!」
「ついてるよ。ついてねーのお前だけだ」
朝のHRの時間。いつもの通りに飯田がみんなに席に座るように促すが全員座っていて付いていないのは彼だけだった。核心を瀬呂に言われ飯田は一瞬硬直した後席に座る。
飯田が座ったくらいのタイミングで予鈴が鳴り、教室に相澤が入っ来るが頭部が包帯でグルグル巻になっていた。
「先生無事だったんですね!!」
「無事言うんかなぁアレ……」
脳にダメージが残っているのか教壇に立ってふらっとする相澤。
「俺の安否はどうでもいい……何より戦いはまだ終わってねぇぞ?」
(え?まさかやるの?一昨日の今日で開催決めたの?流石は雄英??)
相澤のその一言で一気に教室内の緊張が高まり、峰田なんかは頭を抱えて震えている。が相澤から出た言葉は
「雄英体育祭が迫っている!」
『クソ学校っぽいの来たぁぁぁぁぁぁ!!』
体育祭。
その開催に盛り上がりを見せる生徒達。上がるテンションとは裏腹に懸念もある。そんな気配を感じ取ったのか相澤は逆に開催する事で雄英の危機管理体制を盤石だと示すという考えらしいと伝え警備を五倍に強化すると伝える。
「何より雄英の体育祭は……最大のチャンスだ」
それから体育祭の規模を含め将来への道を示すメリットを説明し、それが年に一回しかないチャンスであり、ヒーロー志望なら絶対外せないイベントだと断言しHRが終了した。
四限目 現代文 終了
「あんな事があったけど」
通常授業が終了し、昼休み。切島を初めとし案の定生徒達のテンションは上がっていた。その様子に呆然とする出久。そんな出久に独特な燃え方で当然だと言う飯田。
「確かに燃えるよ………特に僕みたいな」
「デク君、飯田君………頑張ろうね体育祭」
「顔があれだよ麗日さん!?」
出久の言葉を遮るように麗日が今まで見たことない様な顔で頑張ろうと言ってくる。その様子に芦戸が麗日じゃないと呟き、変なこと言おうとした峰田の頬を蛙吹が思いっきりぶっ叩いた。そこからはキャラのふわふわした麗日の頑張るコールがしばしの間続いたのだった。
(そういや……麗日さんに聞いてなかったな…)
教室でのコールが終わり仲良く階段を降りる出久、麗日、飯田の三人。A組では入学間もないのに見慣れたこの組み合わせである。
「お金!?」
「究極的に言えば……」
会話の流れで出久が麗日にヒーローになりたい理由を聞いて、麗日はお金と答えてから恥ずかしそうにするも、自身の事を話し始める。
麗日の家が建設業をしているのだが最近仕事がなくて財政難を抱えている事。その後麗日は
「私は絶対ヒーローになってお金稼いで、父ちゃんと母ちゃんに楽させたげるんだ」
力強く真っ直ぐな瞳でそういった。決意の篭った瞳、飯田はブラボーと拍手を送る。出久もまた頑張ろうと麗日に拍手を送る。
「そういえばデク君はなんでヒーローに?」
「それは」
恥ずかしさで頭を隠す麗日だったがふと気になったので出久へと聞くが出久が話そうとした瞬間廊下のカドからオールマイトが現れ出久を食事へと誘う。
「乙女や!!!」
オールマイトの誘い方、持っていた弁当の包が可愛かった事もあり吹き出す麗日。
「………え、えっと」
「折角のお誘いだ。行ってきてはどうだい?」
「そうだよ!」
「……是非」
少し考える出久の背中を押した二人。出久は何だろうと思いながらもその誘いに乗ったのだった。
――――――――――――――――――――――
「おせぇ!!」
「かっちゃん!?」
オールマイトに誘われ仮眠室に着くと爆豪がいた。彼は二人がつくなり机をバンっと叩く。
「すまないね、それで話というのだけど」
オールマイトは素直に謝罪し、出久もごめんと呟いた後席に座る。二人が腰掛けオールマイトが話を始める。
「「一時間前後!?」」
オールマイトから言われたのは自身がもう全力を出せる時間が無いこと、マッスルフォームの維持ですら二時間が限界という話。そしてワンフォーオールを出久に継いでもらいたいという提案だった。
「……どうするよデク」
出久は熟考した後答えを出す。
「……ごめんなさい無理です。引き継ぎたくない訳じゃないんです。他でもない貴方に見出して貰えて嬉しいんです。無個性な僕に話をくれて本当に嬉しいんです。……ですが僕には無理です。少なくともミラーワールドがある以上は……ライダーバトルも始まってしまった可能性が出てきました。ミラーワールド抜きにしても僕にはやらなきゃ行けないことがありますから」
「………ま、個性ありゃこっちで出来ることも増えるが………デクと同じ意見だな」
その言葉に自分達が死ぬ可能性が高い。という意味を含めて乗せる出久。爆豪もまたそれに頷く。
オールマイトはその事を察して拳を強く握りしめる。
「すまない…………私も戦えていれば………」
「別にあんたのせいじゃねぇよ。俺達が自分の意思で決めた事だ」
「僕達は僕達の意思で契約して戦ってます。仮にライダーバトルが始まっていたとしてもそれは変わりません」
「まだ敵と決まった訳じゃねぇしな」
二人の覚悟を決めた瞳。
瞳に映るものをオールマイトは知っている。
自分がなろうとして、実際になったもの。
止まれないし止まらない。
(この二人は)
「話はそんだけか?なら戻るぞ」
「緑谷少年、爆豪少年」
だからこそオールマイトは立ち去ろうとする二人に
「こんな時に不甲斐ない限りだが………雄英体育祭。その時君達がいる事を知らしめてほしい。君達ならいずれ私を超えるヒーローになるだろうから」
「ッ……出来る限りで」「……覚えといてやるよ」
声をかけ、二人は頷きこそしなかったが了解の意思を示し仮眠室を後にする。残されたオールマイトは一人
「難しいな……教育というものは……」
誰もいない仮眠室で一人呟いたのだった。
――――――――――――――――
「やっぱ断んのなお前は」
「うん………ごめん」
オールマイトと別れたあと教室での帰路で呆れたようにいう爆豪に出久は謝る。
「謝んな。お前が決めた事に俺は何も言わねぇよ。それにあっちの危険度は俺が一番よく分かってる」
「うん………ありがと」
それから二人に会話はない。
未だ申し訳なさそうにする出久を見て爆豪はミラーワールドを知った日に出久から聞いた話を思い出す。
あの日爆豪は世界を知り、いつ死ぬかも分からない戦いに自分から飛び込んだ。それが目指してるものの形だと思ったから。出久と交わることの無い同じ道だと感じたから。でもだからこそ
(こっちを無下にして無いからこそ………無個性への差別の緩和、果たしたい願い……か)
ミラーワールドを抜きにして出久があの日漏らした言葉。オールマイトにも話していないだろう継承しない理由。それを知っているからこそ何も言わないし何も言えない。
(俺は………いや、考えるのもめんどくせぇ。こいつが決めた事ならそれでいい)
爆豪勝己の緑谷出久への信頼だった。
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その日の放課後。
A組の教室の前には大勢の人が集まっていた。大声で先陣切って驚く麗日に何事かと慌てる峰田。
「敵情視察だろ」
「雄英体育祭は僕ら以外にとってもチャンスだからね。見ときたいんだと思うよ。それに僕らは敵襲撃で有名になっちゃったからさ」
そんな二人を素通りして帰ろうとする爆豪。その後ろで考察を述べる出久。
「ンな暇あったら少しでも強くなる努力しろって俺は思うがな」
吐き捨てるような爆豪の台詞。その言葉があってからかそれとも元々そのつもりだったのか一人の生徒が前に出て
「敵情視察?違うね少なくともおれは宣戦布告しに来たつもり」
気だるけに、堂々と宣言する。
「おもしれぇ」
「体育祭のリザルトによってはヒーロー科に来る可能性も有り得るだろうからね」
その宣言に意味を理解して、笑みを浮かべる出久と爆豪。爆豪はそのまま人混みをかき分けて帰っていく。入れ替わるようにして切島のような熱血感ただよう男がA組の前まできて宣戦布告。
この日放課後はA組が宣戦布告を受けるという形で幕を閉じた。
それから二週間、個々ででる競技を決めてからの練習。時間はあっという間に過ぎていくのだった