後『拳藤』が『拳道』となっていたので修正し………たはず。
「はぁ」
オールマイト達と別れたあと、雄英敷地内の木陰にて拳藤一佳は一人ため息をついていた。
「はぁ」
ため息が出るのも無理はなく、少なからず憧れていたオールマイトの真実に加え、ライダーバトル、前に聞かされたミラーワールドモンスターの事、その全てが拳藤の中で整理が追いつかない。
「私には何も出来ない………よね」
考えれば考えるほど無力感に苛まれ参加する予定だったオリエンテーションの参加の気力も無くなってくる。
「なーにしけたつらしてんだ。てめぇは」
「ひゃっ!?………爆豪」
拳藤が落ち込んでいるとその首筋にひんやりと冷たい物が当たり思わず飛び退いてしまう。飛び退きついでに振り向くとそこにはスポーツドリンクを差し出している爆豪の姿があった。
「で、てめぇは何を悩んでんだ?」
落ち込む拳藤に対して爆豪が訪ねる。
爆豪としても、長い間ミラーワールドで戦っていた自分達と違い、彼女は一週間前までその存在すら知らなかった一般人なのだからそれも無理はないとは思うし、ライダーの件は巻き込むべき事では無かったと今更ながらに思ってはいる。だが巻き込んだ者として最低限だけ伝えるのは何か違う気がする。一週間くらいとはいえ彼女と組手をしてるから尚更そう思っている。
「べ、別に何でもないよ」
そんな気づかいに気づいたのかそういって、スポーツドリンクを受け取ってから立ち去ろうとする拳藤の腕を爆豪が掴む。
「何でも無くはねぇだろ。……分かんだよ、近くに何でも抱え込んじまう馬鹿がいっからよ」
「………馬鹿って緑谷の事?」
「………さぁな」
言い当てられそっぽを向く爆豪。そんな爆豪を見てふと笑が零れる拳藤。そんな拳藤を見て爆豪は
「ま、安心しろ。俺は道を踏み外す気なんざさらさらねぇ。それよかこれからてめぇにも色々とやってもらうかもしんねぇから覚悟しとけよ」
拳藤の頭に手を置いてそれだけ言って去っていく。拳藤はその後ろ姿を見て
「……分かってんじゃん」
自分の心境を理解してるであろう彼に微笑を浮かべてその後を追ったのだった。
―――――――――――――――――――――
「拳藤何やってたんだい?オリエンテーション参加してなかったみたいだけど……具合悪い?」
「……ちょっとね。でも大丈夫!!」
「お、来たか爆豪。もうすぐ始まっぞ」
「……アァ」
『サンキューセメントス!』
爆豪達が会場に戻ると丁度いいタイミングでマイクのアナウンスが鳴り響き、一対一のバトルの宣言を始める。
『一回戦!!今の所トップを走り続けているがなんだその不安そうな顔。ヒーロー科緑谷出久!!
対
ごめん。まだ目立った活躍なし!普通科心操人使!ルールは簡単………』
そこから一回戦の紹介を終えルール説明に入る。その間に心操が出久に対して話し始め
「分かるかい緑谷出久。これは心の強さを問われる戦い。あの猿はプライドがどうとか言ってたけど」
『レディィィィィ』
「チャンスをドブに捨てるなんて馬鹿だとは思わないか?」
『START!!』
「なんて事言うんだ!!」
開始の合図と共に発せられた友達をバカにするような心操の言葉に出久は思わず反応してしまう。それがトリガーとなり出久は動きを完全に止める。それを見て勝ち誇ったように呟く心操。
「俺の勝ちだ」
『全っっっっっ然目立って無かったけど彼、ひょっとしてやべぇ奴なのか!?』
薄暗く、無表情な顔を浮かべる心操。会場の誰もが息を呑む。この男、得体が知れないと。
(二人の簡単なデータ、個人戦になるからまとめてもらっておいたんだが……だからあの入試は合理的じゃねえんだよ……と言いたいとこだが緑谷の前例があるが故に一概にそうとも言いきれない。が、それでも心操が個性を使って突破しようとするとそりゃポイント稼げねぇよ)
相澤は緑谷と心操の二人の簡易データの資料を見つめて心の中でそう呟いた。
心操人使〝個性〟『洗脳』
彼の問いかけに答えたものは洗脳スイッチが入り彼の言いなりになってしまう。本人にその気がなければ洗脳スイッチは入らない。
そんな心操の個性を受けた出久は身動き一つも取れず、その場に硬直したまま、心操はそんな出久に語りかける。
「お前は恵まれてていいよなぁ。振り向いてそのまま場外まで歩いて行け」
出久はその命令に対して従順に従い場外へと歩いていく。マイクのアナウンスも含め誰もが出久の敗北を予想していた。客席でその様子を見ていたただ一人を除いて。
「…………おい耳。出久の心音聞こえるか?」
「へ?いや、この距離は流石に」
「そうか」
「いきなり何で?」
「いや、見てろ。倒れるぞ」
『おっとぉ!!緑谷ここで前のめりに倒れ込んだぁぁぁぁぁ!!』
爆豪の予想通り出久は場外ギリギリでそのまま倒れ込み動かない。
「な、なんでだ!?身体の自由は聞いてないはずだろ」
突然の事に焦る心操。が心操が問いかけても出久は立ち上がらない。停滞して二分くらいたった頃、心操が倒れた出久を場外に出そうと近づくと、それを察したのか突然出久が立ち上がり
「ッハァ………ハァッ(やっぱりこれ、危ないな)」
「な、なんだよ、何したんだよ!?」
心操の問いかけに答えない出久。心操はネタが割れたと考えるも出久に口を開かせようと言葉を選ぼうとするが
「お前はいいよな!恵まれて!戦い向きの派手な…………ッ!?いない!?何処に!?」
瞬きの瞬間、視界から消えた出久に行動が遅れる。
「(ごめんね)」
その遅れが命取りとなり、背中に強い衝撃を感じ
「あ、がっ」
全身が痺れるような感覚に襲われ、その場に倒れふし今度は心操が動けなくなる。
「(なんだ?何された?体が、動かない)」
全身が痺れ、動けなくなった心操の身体を出久は掴んでそのまま場外に出し、出久の二回戦進出が決定した。
『二回戦進出!!緑谷出久ーー!!』
「え、緑谷何したの?」
「詮索しねぇ方がいい。聞きてぇならデクに直接聞け(あいつあの瞬間、止めたな)」
『IYAHA!緒戦にしてはとても地味な戦いだったがとりあえず両者の健闘を讃えてクラップシュハンズ!!』
パチパチと会場の観客たちは、二人の健闘に大きな拍手を送る。出久に敗けたことで心操の顔はとても暗い表情でいた。先ほど言いかけていた言葉に思い当たる節のあった出久は心操に
「………君ならなれるよ。個性に頼りきらない戦い方を覚えれば」
「ッ!?慰めのつもりかよ!!」
「………違うよ」
心操の目を真っ直ぐ見つめて発せられた言葉。その言葉に心操は出久が本気でそう思っていると確信してしまい、それ以上何も言えなくなる。
二人にそれ以上の言葉は無い。
「心操!お前スゲェな!」
ふと戻ろうとした心操を呼び止める声が一つ。心操が応援席に振り向くとそこには、同じ普通科の生徒達が、心操に手を振っていた。
「障害物競走一位のヤツといい勝負してよ、俺ら普通科の期待の星じゃん!周り見てみろよ!」
一人の男子生徒に促され周りを見てみると…スカウト目的でやって来たヒーロー達が、心操の個性について話をしている。
「これ対敵にしちゃかなり有用だぜ欲しいな…!」
「雄英も馬鹿だな。あれ普通科か?」
「まぁ受験人数ハンパないから仕方ない部分はあるけどな」
「敗けはしたが、もし戦闘経験の差が互角だったら………もったいねぇ」
プロヒーロー達から色んな言葉が飛び出てくる。
「なあ、分かるか?心操、お前スゲェよ」
多くのヒーローや、同じクラスの生徒達は、自分の個性を認めてくれた。それは出久の言った事を裏付けているみたいだった。
そう思い改めて言われて、褒められた事を噛み締め、今まで『敵向き』だと言われて来た言葉と、今言われた言葉がこうも違う事に、心操は表情には出してないが内心は嬉しかった。
「てめぇに乗せられた訳じゃねぇが………ここは結果によっちゃあヒーロー科編入も検討してくれるんだと…覚えとけよ?俺は今回はダメだった…けど、駄目だとしても俺は絶対諦めない……ヒーロー科入って資格取得して…絶対お前らより立派なヒーローになってやる…!!」
「…………応援してるよ!(あ、やられ)」
心操がそう言って出久は頷くものの、洗脳されてしまった。
「俺と話すヤツって、大体警戒するんだけどさ……お前は違うんだな…そんなんじゃ足元すくわれるぞ?せめて」
心操はニヤリと笑みを浮かべて、
「みっともない負け方はしないでくれ」
出久の洗脳を解く。
「…………うん!(あっ)」
「…………………(馬鹿かよ………フッ)」
うっかりまた洗脳にかかってしまった出久に対して思わず苦笑した心操だった。
――――――――――――――――――――
(爆豪……あんな言い方されたら気になるじゃん)
先程の戦闘の時爆豪が訪ねて来たことについて疑問に思っていた耳郎は出久に訪ねようと思い出久を探していた。
(あ、緑谷。と、相澤先生?)
「一回戦おめでとう………と言いたいとこだが緑谷お前あの時何した?」
曲がり角で出久の姿を捉えた耳郎は出久に訪ねようと近づこうとするも視界に相澤の姿が写り思わず隠れてしまう。盗み聞きは流石に悪いと思いつつも好奇心の方が上回り、二人の会話を聞く。
「あの時………倒れ込んだ時ですよね」
「そうだ」
「言わなきゃ………ダメですよね…………耳郎さん」
「ッ!?」
突然自分の名前を言い当てられてビクってなってしまう耳郎。耳郎は驚いた勢いで隠れていた角から飛び出す。相澤はそれを見て
「耳郎か。まさか盗み聞きしようと思ったんじゃないだろうな?」
「ちち、違います!!」
「先生、場所的に仕方ないと思うんですが」
端的に呟く相澤に否定の言葉を漏らす耳郎。そんな耳郎をフォローする出久。
「で、どうした?」
慌てる耳郎に対して切り替えの早い相澤。
「え、えーと………あの時爆豪がウチに緑谷の〝心音聞こえるか〟って聞いたのが気になってて」
「心音…………ってお前まさか」
耳郎の言葉にある予想をしてしまう相澤。
「え、あ、はい。あの瞬間心臓を止めました」
「「なっ」」
自身の予想が当たっていた事に相澤は絶句し、耳郎もまた絶句した。
「師匠から習った技術の一つです。洗脳や催眠系の個は死人を操れない事が多い。ここで言う死人が……心臓が動きを止めた者、脳に酸素が回ってない者を指しているのだとしたら、それを対策するには心臓を止めるのが一番早いって仕込まれました。心臓が動いていないと油断も誘えます」
「心臓を止めたって……普通死ぬだろ」
超人社会で多種多様な個性が存在するとはいえ、心臓を止めるなんてことをすれば死は免れない。緑谷出久は無個性だから尚のこと。
「やっぱり異常ですよね………」
なんて事はないように出久は言う。が自分がどれだけ常識外れの事を行っているのかは理解しているのでスグにバツが悪そうに目線を下げる。
「ともかく、出来たとしても本当に必要な時以外二度と使うな。死ぬためにヒーローになる訳じゃないんだろ?」
「そ、そうだよ!い、いきなり心臓の音が止まったなんて……」
「分かってます………誰よりも。耳郎さんもありがとう。心配してくれて」
有無を言わさない雰囲気に思わず相澤も耳郎も言葉を飲み込んでしまい、かろうじて耳郎が「当然じゃん!」と言葉を繋げそんな耳郎に
「ありがとう。……って時間!戻ってほかの試合見よ?」
「え、あ、緑谷待って!」
出久が再度お礼を言って他の試合を見るために応援席へと歩いていく。耳郎はそれに続いていく。会釈をして立ち去る出久の後ろ姿をみて
(………声帯砲だけじゃなく、戦闘能力の高さ、反応速度、バランス感覚、衝撃を全体に通す技術、相手の視界から消える技術、更には心臓を一旦止める技術…………緑谷が師匠と出会ったのは12の頃と言っていたから………たった3、4年で無個性の緑谷をここまで育てたのか?おそらく緑谷はまだ使える技を残しているだろうし…………一体どんな人物だよそいつ)
内心でそんなことをボヤいたのだった。
ちなみに
「やりすぎだろぉ」
次の瀬呂、轟戦では、試合の前にエンテヴァーとの会話でイラついていた轟が、先手を取ろうとする瀬呂を超巨大な氷を出して凍らせ勝利を収め
次の
上鳴、塩崎戦では、無差別放電を仕掛け速攻する上鳴の放電を塩崎は個性のツルでアーチ状の盾を作ってガード、個性の代償でアホになった上鳴をツルで拘束しそのまま場外に放り投げ勝利を収めたのだった。
一回戦
第一試合 勝者 緑谷出久
第二試合 勝者 轟焦凍
第三試合 勝者 塩崎茨
緑谷君の引き出し、後ミラーワールドで培った刀術くらい。