『提案と力/鏡の世界』
ヘドロ事件に巻き込まれた帰り道。
「ったく、〝声帯砲〟まだ完成しきってねェんだろ?無理すんなクソデク」
「ごめん……かっちゃん」
「謝んなや」
喉の調子が戻り、ちゃんと話が出来るようになった出久は爆豪と共に帰路についていた。その姿はまるで兄弟のようで、そんな二人の前に。
「私が来たァ!!」
オールマイトが路地裏から現れた。
「「オールマイトォ!?」」
突然現れたオールマイトに驚く二人。
いつもの姿のオールマイトだったが直ぐに時間が来てしまい、先程の骸骨のような姿となる。
「だ、誰だ」
「……オールマイトだよ、かっちゃん」
「マ、マジカ………いや、そうだよな、柱とはいえオールマイトも人だもんな………」
爆豪は最初は驚いたものの、直ぐに目の前の真実を受け入れる爆豪。
「そ、それで何をしに来てくださったのでしょうか」
「一つは君の使った音についてかな。君は無個性と言っていた、にも関わらずあれだけの音を発した。他のヒーロー達に似てて悪いが、私も少し懐疑的にならざる終えない」
他のヒーローが気になっていた出久の技。それにはオールマイトもまた気になっていたという事で聞きに来たということらしい。
「えっと……あれはですね。〝声帯砲〟って名付けた技です。無個性の僕が鍛え上げた肺活量を使って大声を出す事で攻撃する技です」
「鍛え上げた肺活量………?」
どういう事かと、首を傾げるオールマイト。そんな様子を見てか爆豪がフォローを入れる。
「まァこいつ、その気になれば一ヶ月息止めてられるからな」
「ナッ!?」
「それとこいつが無個性なのはとあるヒーローに見てもらって確認済みで、病院でも無個性と出てます」
「マジかよ………」
一ヶ月息をしなくても生きられるだけの肺活量を鍛えたと言う事実に驚愕するオールマイト。しかもそれを攻撃へと転用してしまう。………それは最早個性の領域だった。
「えっと……それで二つ目の話ってなんでしょうか?」
「え、あぁ…………礼と訂正、それと提案、かな」
「それ俺もいていーのか?」
「居てよ、かっちゃん」
オールマイトの雰囲気から何となくその場を離れようとした爆豪だったが出久にその手をガシッと掴まれる。
「まぁ………いいだろう」
爆豪は観念したと言った感じでその場に残り、オールマイトも暫し考えたあといいだろうと答えを出した。
「さて、まずは礼を言おう。君がいなければ、君の事を聞いていなければ私は口先だけの人間になる所だったありがとう」
「そんな事は」
「それにそっちの少年も悪かったね、私がミスをしたばっかりに」
「気にしてねぇ」
恐縮する出久と特に何でもないと言った感じの出久。
「次は訂正だ、君は無個性でありながら鍛え友と同じ道を行こうとしている。それだけじゃない、あの場の誰もが誰かがやってくれると思っていた所に君は飛び出した。友を助けるために。その時の君は『考えるより先に体が動いていた』んじゃないか?」
「はい」「いつもの事だろ」
「だからこそ私は君に……いや友のために怒れる君にも………君たちにこう言わねばならない」
«君達はヒーローになれる»
それはオールマイトから少年達に向けられた言葉。
「…………はい」
「………ったりめーだ。俺達はあんたを超えるヒーローになる」
出久は泣きながら笑顔を作り、爆豪は当たり前だと言わんばかりに拳を突き出す。
「そして少年、君なら私の力を受け継ぐ事に値する」
「…………へ?」
「ったく、なんて顔してるんだ少年。私の提案はこれからだよ」
そう言って、出久と爆豪に自身の力について話し始めるオールマイト。全てを聞き終えた少年達。
「少年、君さえ良ければこの力を継いでほしい」
「………どうするよ、クソデク」
神妙な空気が流れる。
それから出久は意を決したように
「…………ごめんなさい、オールマイト。それにかっちゃん。その力は受け取れません」
オールマイトのその申し出を断った。爆豪はその選択に納得はしてないが何も言わない。
「………理由を聞かせて貰おうか」
「それは………」
「それは僕から話させて貰おうかな?八代目ワンフォーオール、八木くん」
出久が言い難くしていると、出久と爆豪の見知った顔が現れる。
「………師匠」「………風さん」
「さてと、初めましてかな平和の象徴。僕は神崎 風。ヒーロー名は『フウ』で通ってる。聞いての通り出久の師匠さ」
「君が」
「さぁて、いろいろ積もる話もあると思うけどとりあえず、明日朝八時に海浜公園に集合って事にして一旦解散しない?チラッと寄ってきたけど出久君も爆豪君も親が心配してたよ?」
風に言われて二人はハッとなる。それからあれだけ騒ぎを起こしたのだから当然か、と納得する。それはオールマイトもまた同じで、親御さんの心配を察したのか
「聞きたいことが沢山ある。言いたいことも沢山ある。だから私と君は彼等より少し早く会おうじゃないか」
「まぁそうなるよね」
「ではすまないが少年達、また明日海浜公園で会おう」
音速が如く消えていった。オールマイトの姿を見届けた後、二人に帰るように促す風。
「デク、説明、してもらっかんな?」
「分かってるよ。かっちゃんには言おうって決めてた事だし」
それに流されたのか流せれていないのか、二人は帰路に付き、
「いずくぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「ご、ごめんお母さん」
「ったく、心配かけんじゃないよ」
「わりぃ」
爆豪宅にてテレビを見たのか駆けつけていた出久の母と爆豪の母から思いっきり抱きしめられていたのであった。
――――――――――――――――――――
その日の夜、今日は爆豪の部屋で泊まることになった出久は爆豪から睨まれていた。
「で、お前なンで断った?」
内容は当然オールマイトからの提案を断った事にある。当然だ、またとないチャンスを自分から棒に振ったんだ。爆豪からしてみたら同じ道を目指す者として今回断ったのは非常に遺憾だ。
そんな気持ちを表すような怒っているようで悔しんでいるような爆豪の声。そんな彼の様子に意を決して、出久は狼のマークの描かれたデッキを爆豪に見せた。
「かっちゃん、今から言うことは他言無用でお願いするよ。これはそれだけ危険なもので、世界は危険な境界にいるんだから」
普段は見せない出久の表情。それだけじゃない、普段絶対出すことの無い声色、その事に爆豪はただならぬものを感じで、真面目に出久の話を聞き始めた。
「―――――――とまぁこれが僕が断った理由」
「……………嘘………だろ。てめぇンなもん抱えてやがったのか……それにそれはてめぇがやらなきゃいけない事なのかよ………?」
出久からミラーワールドの全てを聞き終えた爆豪はただただ、放心した。
「ごめん……かっちゃん」
そんな爆豪に対して、
「………でももう決めた事だから………それに一度契約した以上僕はもう………戻れないから」
絞り出すように出久は言った。
「……………おいクソデク」
「…………?」
「……俺にもやらせろ」
「話聞いてた!?危険過ぎるんだよ!!?」
「あぁ!?てめぇ一人戦わせて知らないうちに死なれるよかましだろうが!!それとも何か?てめぇ俺が簡単にやられちまうほど弱いってか!?大きく出たなぁ……デク」
「そ、そんなこと言ってないじゃないか!?」
それから二人の口喧嘩は爆豪の母親がうるさいと怒鳴りに来るまで続いた。 それから
「師匠がいいって言ったら………」
「それでいい」
出久は妥協案を出してそれを爆豪は受け入れた。最も彼は既に出久と共に戦うことを選択したのだが。
―――――――――――――――――――
早朝、少年達とあう約束をしていたオールマイトはその時間よりも早く、海浜公園に来ていた。
「やぁ平和の象徴。いや、この場合八木君と呼んだ方がいいのかな?」
「なんでも構わん」
「さて、いろいろ話そうと思うけどまずは僕が受け継ぐ力と奪う力について知ってる理由だね」
早速本題に入る神崎。
「と言っても僕もそこまで詳しい訳じゃない。四年前ある事情があって、奪う者と戦った事があってその時に自身の力と対になる力があるって聞いただけさ」
「……戦ったのか?奴と……いやそれ以前に生きていたというのか」
「本当に偶然だったけどね。まさかあんなボロボロの人間が生きてるとか思わないじゃないか。とまぁ命からがら逃げて今に至るって事」
「……………なるほど。その様子を見るに嘘は言ってなさそうだな」
少なくとも現状オールマイトには神崎が嘘を言っていないように見えたためそれ以上は聞かず、あの状態で生きていた宿敵に対して静かに拳を握った。
「さて、次は緑谷出久君が君のその力を受け取れない理由についてだね」
それから神崎が次の話を始める。
「あぁ」
「僕が奪う者から逃げられた理由でもあるんだけど、その前にオールマイト、君はミラーワールドという世界を知っているかい?」
「ミラーワールド………?」
聞きなれない言葉に首を傾げるオールマイト。
「ミラーワールド。正確に言うと鏡の中の世界」
「鏡の……中?」
それから風はかつて十五人の人間の手によって行われたバトルファイトについて語り出す。話を聞き終えて
「………なるほど、でも何故今そんな話………まさか」
察しのいいオールマイトは神崎の言おうとしていたことに気づく。
「そう、バトルファイトが終わってもミラーワールドは残ってた。触れてみ」
そう言ってデッキを差し出す風。おずおずとオールマイトはデッキに触れて鏡を確認しようとすると、急に耳鳴りがする。
「さて、少し行こうか」
急な耳鳴りで頭を抑えているオールマイトの手を引いて鏡の中へと入っていく風。オールマイトは引きづられるがまま、鏡の中へと行く、するとどうだろうか先程の話を裏付けるように反転した世界の中にモンスターを貪るモンスターの姿があった。
「戻るよ」
そう言って再度鏡を通る風。オールマイトは突然の非現実に驚きながらも、実際に体験した事も踏まえてミラーワールドを認識した。
「先程そのデッキを触って実際鏡の中の世界入ったのだからその言葉は信じよう」
「助かるよ」
「しかし中学生に背負わせる物じゃないだろ、これは」
認識して、憤る。当たり前だろう。自身の手が届かない場所で自身よりも幼き少年が誰にも知られず戦っていると聞かされたのだ、平和の象徴である彼が憤らない訳がない。
「それは分かっていたさ。僕も初めは止めようと思った。でもね、決めたのは彼だし、僕にとって彼の『ミラーワールドで一ヶ月過ごしても消えない』体質は捨てがたい才能なんだよ。普通の人間はあっちに行くとどれだけ凄い個性を持ってても九分五十五秒しかいられないからさ」
「それでも」
「それにだよオールマイト。この戦いは途中下車出来ない。モンスターと契約してしまった以上はね。それは君にも変えられない事だ!」
「ッッ」
「とはいえミラーワールド自体は以前に比べて縮小してる。モンスターも人を襲うには歪みを通らなきゃ行けないし、滞在時間は短い」
話を聞いてなおぎり、と歯噛みするオールマイト。
「………それなら尚更、彼に力を託した方がいいのではないか?」
「そういう訳にもいかないのさ」
「…………?」
「変身してる際個性が使えないってのもあるんだけど、それ以上に…………これは彼から聞いた話なんだけどさ、彼はどうやら昔に__________」
それでも、それならせめて力があった方がいいと提案したオールマイトだったが、風はそれは無理だと言う。その理由を聞いたオールマイトは
「マジか…………」
そう言葉を漏らしたのだった。
――――――――――――――――――――
朝八時。
指定された時間に海浜公園へと足を運ぶ二人。ほとんど綺麗になった公園で二人はオールマイトと風の姿を見つける。
「おはよう、少年達」
「「おはようございます」」
オールマイトは少年達の姿を見つけたのか挨拶をする。挨拶をされた二人は当然返す。それから軽く雑談をして、いよいよ本題へと入った。
「事情は聞いたよ緑谷少年。まさかそんな事情があったなんてね 」
「………はい。すみません」
「いや、いいさ。でも忘れないでくれ、君は私の力を託す候補に入れて置くってことをな」
HAHAHAと笑顔を作るオールマイト。その内心では(すまない)と申し訳ない気持ちでいっぱいだが表に出さない。
そんな二人を横目で見ながら
「おい、デクから全部聞いた。ミラーワールドの事についても。俺にもやらせろ」
爆豪は風に提案をする。
「(話したのか)………そうか。個人的に君まで背負う必要は無いと思うんだが………それにこいつは危険すぎる」
その提案に風は少し考えるより素振りを見せつつ
「ハナから承知の上だ。それにプロはいつでも命懸けなんだろ?それが早くなっただけだ」
即答した爆豪。その瞳には覚悟が伺える。それを見て風は観念したという感じでデッキを取り出した。
「……分かった。こいつが君のデッキだ。契約モンスターは………出久と共に探すといい。それとくれぐれも忘れるな?変身中は個性使えないし、出久の体質が特殊なだけで君は………(一時間………才があるとは思っていたが体質も……マジか)変身しても一時間しかあっちに存在出来ない」
「デクから聞いてたより長いのはなんでだ?」
「あぁ、それは君の体質の問題。たまにいるんだよ出久程じゃないにしてもあっちに長く居座れる人。俺はちょっと特殊なモンスターと契約してるからそういうのがわかるのさ」
「そうかよ」
「それと、あっちの戦いはこっちとは違う本当に命懸けの戦いになる。負けは消滅、それを忘れないでくれ」
話を終え風からデッキを渡される爆豪。
「あぁ……」
爆豪はそれを渡された意味を噛み締めながら、デッキをポケットにしまった。
その日からオールマイトは風と共にの二人の特訓に付き合った。二人の指導もあってかめきめき力をつける二人。その時折に
「ラストスパートだ出久ッ。やるぞ」
「かっちゃんが右なら僕は左!!」
出久と爆豪が競走しながらせっせせっせと海浜公園に放置されていた残り二割のゴミを片付けていき、ついに
「っしゃぁ終わったァ!」
「終わったね、かっちゃん!」
海浜公園は昔の綺麗な海岸へと蘇っていた。
「お疲れさん二人共」
海浜公園を蘇らせ横になる二人。そんな少年達に風が飲み物の差し入れをいれる。それを素直に受け取る二人。
「で、どうだ?」
「どうって?」「何がだ?」
「試験まで残り七ヵ月、受かるか?」
「ったりめーだ」←全国模試一位
「まぁそこそこ」←全国模試五位
「ならいい。それと、これから僕はなかなか出てこれない、前にも話したが僕は元々あっちの住人だ。最近歪みも増えてる気がするし少し気がかりな事があるからな」
「そう………ですか」「せーせーするわ」
不安そうな顔をする出久、少しばかり心配を表に出す爆豪。風はその二人の少年の頭にそっと手を置いて
「頑張れよ、〝緑谷出久〟〝爆豪勝己〟」
「………ッはい!」「………ッケ」
エールを送ったのだった。