究極の闇、『ン・クウガ・ゼバ』   作:ルシエド

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覚醒

 ドゥサの頭に昇った血は、下がりきってはいなかった。

 時間さえあれば全てを皆殺しにせんとする、その気迫。殺気。

 見た者が目を逸らしたくなるレベルに到達している。

 

 100をゆうに超えるキュベレイは周囲全てを視界に捉える。

 やがては、遠方も視界に捉えるようになるだろう。

 カーマが思わぬ攻撃を食らってしまった原因は、ゲゲル初日という『まだ力に慣れていない者もいる』というタイミングで、成長途中のドゥサを見誤ってしまったのもある。

 最大の要因は、カーマが生来うっかりしやすく、先のことを大して真剣に考えておらず、やらかしてから「あっ」と言いやすいタイプだからであるが。

 

「ゾボザ*1

 

 ドゥサは、探していた。

 狙った獲物を探していた。

 

「ゾボザッ!」

 

 頭に血が昇っているということは、冷静になれないということ。

 最初に狙ったものを中々諦めきれず、視点を広げられないということだ。

 おかげで街の被害は能力の割に広がっていないが、それも時間の問題だ。

 ドゥサの頭は冷えつつある。

 

 ゆえにタイミングは最適であった。

 ドゥサの頭が冷え切り、一般市民が狙われるようになる、そのギリギリ直前。

 

「こっちだよ」

 

「!」

 

 藤丸立香の声が聞こえて、その方向にドゥサは飛び出した。

 少女の姿は見えないが、耳でその存在は察知している。

 耳を頼りに、エクストラターゲットを追うドゥサ。

 

「こっちこっち」

 

「ビガグバ!*2

 

 少女の声が『録音』であることにドゥサは気付けない。

 音声録音技術と再生技術の進歩は、機械技術もクソもない人狩文明からの来訪者を、完全に手玉に取っていた。

 

 視界に入れば即死、なんと恐ろしい能力だろうか。

 ゆえに人間側は偽物をチラチラと見せて引き込む、という手段が取れない。

 立香の声を録音し、計算したポイントで再生することでドゥサを追い込みポイントの森へと誘導していた。

 

 警官Aが音声を再生してドゥサを引っ張る。

 警官Aが見つかる前に、先行していた警官Bが音声を再生してドゥサを引っ張る。

 警官Bが見つかる前に警官Cが音声を鳴らし、車で少し遠回りして警官Cより先に行っていた警官Aが音声を鳴らし、ドゥサを引っ張る。

 これを大人数でやれば、運も絡むがドゥサを比較的安全に森まで引き込める。

 

 そして、未確認生命体対策班に集められた『桁外れに優秀なただの人間』である警察官達は、この危険な作戦を見事にそつなく成功させていた。

 初めてやる作戦であったというのに、ドゥサに僅かに怪しませすらしないレベルで。

 

「おっそいおっそい!」

 

「ゾボザ! ゾボザ!*3

 

 そうして、ドゥサを森に引き込んで。

 

 警察はドゥサの足元に、対未確認生命体用スモーク弾・改を撃ち込んだ。

 

「!?」

 

 困惑するドゥサ。

 その困惑はどんどん加速していく。

 

 前が見えない。

 今の時間帯が夜という影響というのもあるが、それにしたってあまりにも見えない。

 夜の東京の光と月明かりさえあれば、昼の人間と同程度には夜でも視界が利くのが『眼』に特化したドゥサの強みだ。

 なのに、見えない。

 

 このスモーク弾は、一年前の『クウガからの警告』を聞いていた警察の榎田という女性が、「いつかまたクウガと、共に戦う警察のために」というコメントと共に制作・保存したものの一つ。

 未確認生命体の眼に届く光、光に近い性質の電磁波の一切を遮断し、無敵の眼を持つ未確認生命体の視界も間接的に奪う、というものである。

 すなわち、人間相手に使いみちがないレベルの、現代最強の煙幕弾だ。

 そこに、魔術による『強化』等が加えられている。

 

 グロンギの体に直接干渉することはできずとも、その眼球が外部からの光を捉えることで視界を確保する形式になっている以上、光の類を遮断すれば視界は奪えてしまうのだ。

 これが、警察の立てた対策。

 蓄積された技術と知識と経験の発現。

 

 "手も足も出ないほど強い未確認生命体"に、日本警察が臆したことは一度もない。

 "警察装備が全く効かない未確認生命体"に、日本警察が諦めたことは一度もない。

 それが、かつてこの国で未確認生命体が完膚なきまでに敗北した、理由の一つであった。

 

「バンザ*4

 

 森の中。

 スモーク。

 視界を完全に奪われたドゥサは、何も見えなくなってしまう。

 

 何も見えなくなってしまったということは、"何も石化できない"ということだ。

 

「バンザ・ボゼバ!?*5

 

 困惑し混乱するドゥサの耳に、森の落ち葉を踏む音が聞こえ。

 

「ありがとう、ございま、す、皆さん」

 

 ズ・クウガ・バの声が聞こえ、ドゥサの頭は茹だったまま、背筋が一瞬で冷えた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「ガッ!?」

 

 頭に浮かんだ疑問に対し、肩を深く切られた痛みが、答えとなった。

 

 痛みに耐え、短剣を構えるドゥサ。

 身体スペックならドゥサが勝っているが、それだけだ。

 ここで必要なのは敵を知覚する能力であり、筋力や耐久ではないのだ。

 

 このスモークは魔術的加工がされたことで、音さえ僅かに吸うようになっている。

 暗視スコープの類で見通せないのはもちろんのこと、常識外れに視覚以外の感覚が優れている者でもなければ、敵がどこにいるのかも分からない。

 例えば、盲目で他の感覚が鋭敏になっている未確認生命体、とか。

 

「ビガラ……!*6

 

「ボボゼゴ・パシザ。ドゥサ*7

 

 ドゥサの内側で、殺意が爆発する。

 

「ギベ*8

 

 クウガの剣の外側で、光が爆発する。

 

「「 ギベッ!! 」」

 

 今日を逃せば、これ以上の好機はない。

 

 ズ・クウガ・バは、メ・ガルメ・レが伝えたという急所を、一心に狙った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は、少し遡る。

 

「クウガ。後に回すつもりだったが、もう時間がない。僕らにお前の能力を全部話せ」

 

「はい」

 

 人間と未確認生命体による作戦会議が行われていた。

 クウガの能力を詳しく聞き、それを軸に立てる。

 敵に通じる攻撃がそれしか無い以上、他の道はあるまい。

 

「ワタシの能力は…………超自然発火、です」

 

「超自然発火?」

 

「エネルギーを注ぎ、物質を…………ええと、プラズマ化します」

 

「! 未確認生命体第0号の能力か! 何だお前僕らに黙ってただけで最強じゃないか!」

 

 『超自然発火能力』。

 この世界における未確認生命体第0号の代表的な能力である。

 物質にエネルギーを放射、強制プラズマ化、そして発火させる。

 これに対抗できる生物はほとんど存在せず、受ければほぼ確実に全身全焼し、死に至る。

 クウガ達が車窓から見ていた再開発後の街も、この能力によって焼き払われたものだ。

 確かにこれがあれば、どんな敵にも負けないように思える。

 が。

 

「ワタシの場合…………自分の体の一部しか、プラズマ化、できません」

 

「はあ!?」

 

 近距離から遠距離まで問わず使え、前後左右上下全ての敵を無制限に選び燃やせる、という超自然発火能力の強みが、この少年に備わっているわけもなく。

 

「え? それじゃ敵も燃やせないじゃん……ってか何に使ってんの?」

 

「この剣、ですね」

 

 生身のクウガの手の中に、いつも使っている両手剣が、突如出現した。

 

「うわっ」

 

「この剣は、ワタシの血を吸う仕組みになっていて…………

 吸った血を…………プラズマに、しています。

 爆発させて、剣を加速。

 高熱の光を纏わせて、攻撃力強化。

 プラズマは高熱なので、血や大気に反応させると…………そういう風に使えます」

 

「ってか私いつも思ってるけど、どっから出してるのその剣?」

 

「あたりにあるものを、変換して。

 力を込めれば…………剣になります。

 "刃あるもの"なら、なんでも、この剣に、変換可能」

 

「へぇー……」

 

 『プラズマ』はその気になれば千度、万度、億度、兆度と温度を上げられる。

 だが流石に一兆度、ないし一億度でも出せていれば、ドゥサは倒せていたはずだ。

 そうでないということは、それほどの高温は出せていないということ。

 まだ、未確認生命体を一撃で倒せる高熱は出せないということだ。

 これはそのまま、ズ・クウガ・バが『ン・ダグバ・ゼバの最低レベル劣化版』であることを証明する能力でもあった。

 

「あ、そうだ。あの空中で曲がる剣もそれなの?」

 

「『魔剣』は…………手品、なので。

 種がバレたら、もう、多分誰にも通用しない。

 術理や原理の撮影は…………勘弁して、ください」

 

「術理が肝なやつか」

 

「申し訳…………ないです」

 

「いや、大丈夫だ。

 俺に限っては矢を撃っても剣を撃ってもそれに合わせられる。知ってる動きだからな」

 

「え」

 

「いや、どうやってるのか分からないぞ?

 ただ何をやってるのかは、話聞いて、多少見て分かった。

 奇特な軌道とそれを高速で切り替える攻撃法。

 昔うちの高校の先生やってた男が使ってたのを思い出したからさ」

 

「…………リントの進歩は…………本当に、予想が、できや、しませんね」

 

 クウガは魔剣の術理を語る気はないようだ。

 だがその状態でも、衛宮士郎は術理を半ばほど見抜いているようである。

 どうやら、かつて戦った敵を思い出すものであるから、らしい。

 

 その理解はスマホの機能への理解に近い。

 どういう仕組みでそうなっているのかは分からないが、どうなっているのかは分かる、という表面を俯瞰的に理解するもの。

 一度見られれば見極められてしまうかもしれない、とクウガは思った。

 この手のタイプは防戦が強い。

 

「あ、そうだ。うちの室長代理が持って行けって言ってたカバンがあるけど、要る?」

 

「ありがとう、ございます、シンジ」

 

「あ、片腕だと開けにくいだろ? 俺が開けるよ、ちょっと待ってろ」

 

「ありがとうございます、シローさん」

 

「ねえ待って? なんで衛宮はさん付けで僕は呼び捨てなの? なんで?」

 

 士郎が開けたカバンの中には、"部品"が入っていた。

 機材の部品ではない。

 武器の部品ではない。

 『人体』の部品……つまり。むき出しの骨や、血液入り瓶、むき出しの腕が一本だけなど、常識的に考えておかしいものが詰め込まれていた。

 

 ぎょっとする皆。

 無造作に腕を取り出すクウガ。

 またぎょっとする皆。

 クウガの腕の切断面に腕を突っ込むと、無傷の時と同じように動き始める腕。

 三連でぎょっとする皆に、もうこれ以上驚く余地は残っていなかった。

 

「!?」

「!?」

「!?」

 

「再生完了、です」

 

「橙子さんの人形か!? いや、それにしても、これは……」

 

「……生命力の強さの一言で片付くのか? 一瞬で元に戻った、これは……」

 

 クウガは少し、説明に困った様子を見せた。

 説明が難しいというより、説明することで不都合が起こるといった風に見える。

 

「腕が切り落とされたら、再生…………は、無理です。

 でも。神経が繋がってれば、多分…………治せます。

 出血、肉の欠損、そういうの…………なら、致命傷にはなりま、せん」

 

「まるで死徒だな。いや、俺が見たことあるのと比べても、死徒以上……?」

 

「そういうのだと、概念武装の類で魂魄砕くくらいしか効かない気がするけど」

 

「いえ、それでもおそらくは、死にません。グロンギの攻撃でも、です」

 

 え、と、誰かが思わず声を漏らした。

 

「ワタシは、死にません。

 …………いえ、本当は、簡単に殺せ、ます。

 種が割れたら、瞬殺です。

 七人のどの参加者でも、瞬殺です。

 なので、まだ…………ワタシとトーコさんだけの、秘密ということに」

 

 立香はその言葉を素直に受け取った。

 

 慎二はある程度ブラフだと受け取った。

 種が割れたら瞬殺ということは、複雑な殺害手順が必要ないことも分かる。

 生命力が高いサーヴァント同様、頭か心臓のどちらかの粉砕で死ぬ、と推察する。

 

 士郎はこれが生む優位性を理解した。

 普通の攻撃で死なないと気付いた敵は安易に頭や心臓を狙うだろうが、そこが弱点だったとしても、頭と心臓を集中して守りやすくなる。

 また、気付かれない場合、相手が失血死などの"起こるはずのない死"を狙って時間を無駄にするという優位性を生む、そう考えられた。

 

「分かった。皆無理に聞くなよ? 聞いたとしても、他言無用だからな」

 

 慎二が周りに言い含めると、周囲が肯定の意で頷く。

 クウガもまた、感謝の意を示し頭を下げた。

 

「とにかく…………ワタシの武器は、この三つ、です。

 超自然発火。

 魔剣。

 死なない。

 これ以外には…………他のグロンギに押し付けられる強みは無い……と思います」

 

 衛宮士郎は少し呆れた。

 どんな存在でも、装備や保有技能の構成を見ればその者の戦闘スタイルや、ある程度の性格は読めてくる。

 ズ・クウガ・バは、本当に露骨だった。

 

 これは明らかに『絶対に勝てない相手にしぶとさで食い下がって、何が何でもプラズマ斬撃を当てて殺す』というやつだ。

 言い換えれば、『根性で耐えて最強の一撃で奇跡的な一発逆転狙い』である。

 何も考えていないパチンコ中毒者並みに頭の悪い戦術だと言えるだろう。

 衛宮士郎が呆れるのも無理はない。

 

「いや、あるだろ。お前のその眼だ」

 

 なので、士郎は道を示した。

 立香のような人らしさの道ではなく、戦闘者としての正解の道を。

 

「お前、どうやって周りを見てる?」

 

「振動、です」

 

 ピンと来ない立香と慎二が首をかしげた。

 

「ワタシの場合は…………目が見えなくなったのは、最近、です。

 なので、五感を伸ばさないと、いけなかった、のです。

 最初に触覚。

 次に聴覚。

 空気の振動を感じて、変身後はそれを強化して……空気の振動で、周りを見ています」

 

「そうか。だから音にも敏感なのか」

 

「はい。音も…………空気の振動、です。

 空気の振動と、地面の振動、が…………変身後のワタシの、目、です」

 

「なるほど」

「なーるほどね」

 

「熱も、肌で感じた方が、分かりやすいので」

 

 解説され、立香と慎二も理解した。

 彼は文字通りに"肌で感じている"というわけだ。

 空気の振動、空気の流れ、果ては殺気の類に僅かな敵の息遣い。

 それらを触覚で処理し、耳で聞こえる音をそれの補助に使用している。

 

 プラズマを扱うため、音と熱の両方を感じられる皮膚感覚に特化することを選んだのだと推測できる。

 現代の高熱を扱う機械に高感度の熱センサーがあるのと同じように、熱の流動を肌で感じ、超自然発火能力の制御力を上げてもいるのだろう。

 できることが少ないなりに、色々と工夫していることが感じられた。

 

「ははーん、読めたよ衛宮」

 

「言ったろ慎二? あれ使えるって」

 

「さっきの戦いでクウガとドゥサを一回見ただけで、ここまで読んでたってことか」

 

 そうして、慎二が部下に指示して、対未確認生命体仕様のスモーク弾を持ってこさせた。

 

「これは?」

 

「簡単に言えば煙幕弾。

 これでドゥサの視界を封じる。

 そして突然何も見えなくなったあいつを、お前が瞬殺するんだ。分かる?」

 

「!」

 

「いや実際、これかなりいけると思うよ。うん」

 

 提案された作戦は、警察の知を結集したもの。

 そして、クウガが一人であれこれ考えても絶対に思いつかないものであった。

 

 知恵。

 リントが何千年も蓄積してきたもの。

 そして……人狩り以外の文化に対して興味を持たないグロンギが、意識して生み出そうとも、蓄積し後世に伝えようと考えすらしないもの。

 言うなれば、人間の武器だ。

 

「前回の戦いが19時前開始、今回の戦いが日付変更直後だったからね。

 警察の対未確認生命体用特殊スモークに人員フル稼働で加工しても、こんだけだ」

 

「多いように…………見えますが」

 

「ここにあるのをフルに使えばおそらく10分。

 10分間は敵を暗闇の中に閉じ込められる……けど。

 逆に言えばな、維持できるのは10分だけだ。終わったらお前はズタズタだぞ」

 

「十分です」

 

 10分間のラストチャンス。

 クウガと警察が初めて『共闘のための話し合い』をしたことで生まれた、時間稼ぎ以外に道はないと思っていたところでの、予想外の勝機。

 ダメそうなら時間稼ぎにシフトすればいい。

 ここに賭ける価値は、十分にある。

 

 クウガは静かに、剣を携えた。

 

「皆さんのせいで負けた…………などと言うことは、ない、です」

 

 携えた剣を掲げ、誓った。

 

 絵物語の中で創作の騎士が、人々に勝利を誓う時のように。

 

「皆さんのおかげで勝った、と、言って…………見せます」

 

 それがまた、皆の士気を上げる。

 

「リツカ。今のはかなり、リントっぽかった、気がする」

 

「そういうの言わなければ完璧にかっこよかったんだけどなー! もー!」

 

 ……笑い声が漏れ、張り詰めた士気は消え失せたが、熱意を孕んだやる気が増した。

 

 皆がそれぞれ配置に付き始める。

 クウガも警察用のインカムを貰い、耳に付け、最適な位置への移動を始めた。

 通信を担当しているのはあの衛宮桜という女性で、柔らかな声が耳に優しい。

 

『私がナビします。

 要所でインカムから情報を流しますので、聞こえなかったら聞き直してくださいね』

 

「ありがとう…………ございます」

 

 クウガの担当は森での待ち伏せ。

 真南、南南東、南南西、どのルートからメ・ドゥサ・レが入って来るかを把握し、最適なタイミングの指示を待って一気に攻撃。

 闇の中で仕留めるという作戦になる。

 

「そういえばさ、クウガ君。戦いが終わったら何かしたいことある?」

 

 作戦直前。立香は何気なく問い。

 

「君を連れていきたい。悲しみのない、未来まで」

 

 戦いの方に集中していたクウガは、深く考えず、何気なく返答した。

 

「……も、もう。普通に喋れんじゃん」

 

 予想していなかった返答に、立香は大いに照れて、少し恥ずかしがっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、仲間達が作ってくれた最高の流れに乗る形で、クウガは切り込んだ。

 

 剣を振り下ろせば当たる。

 剣を突き出せば当たる。

 闇雲にドゥサが振るった手足と尾は狙いがめちゃくちゃで当たらない。

 ドゥサに一方的に傷が増え、クウガは一貫して無傷なまま攻撃一辺倒に攻め続けていた。

 

 圧倒に次ぐ圧倒。

 最弱者のクウガがドゥサ相手にここまで圧倒できている時点で奇跡だ。

 偶然の奇跡ではなく、必然の奇跡である。

 

「グッ」

 

 ここまで『眼が強いドゥサ』は強みを一方的に押し付け、『目が無いクウガ』は盲目のハンディキャップを背負いながら戦い続けていた。

 

 その構図を、人間がたった一手でひっくり返した形となる。

 

 『眼に頼り切っていた』ドゥサは一気に弱体化してしてしまい、『眼に頼っていなかった』クウガが相対的に強化された形になった。

 

「!」

 

 『最強の目』を持つ者ならば、『目を使えない戦場』で戦わせればいい。

 『目を使えない戦場』で、『目を使わなくていい戦士』と戦わせればいい。

 そんな合理に追い詰められたドゥサが、上に飛ぶ。

 一瞬でいい。

 このスモークの外にさえ出られれば。

 どちらに逃げればいいのかも分かり、戦いやすい場所に移動することも、黒い煙の外の人間を皆殺しにすることもできる。

 

 ―――そんな甘い考えを、メ・ドゥサ・レは持っていた。

 

「ッ!?」

 

 甘い考えなど砂糖で出来た城に等しい。突けば崩れる脆いものだ。

 

 ドゥサが煙の外に出ることは、0.0001秒すら叶わなかった。

 先行して飛んでいた何かが、そこで炸裂。

 同じ煙を撒き散らし、そこをも煙で包み込んでしまった。

 決死の思いで飛び上がったのに、何も見えない暗闇のまま。

 

「……!?」

 

 音を追って追いついてきたクウガの一撃を、ドゥサは必死に回避する。

 何故か今回の戦闘になってから、やたらと自分の最大の弱点であるみぞおちを狙ってくるクウガに、ドゥサは僅かながらに恐怖を感じ始めていた。

 何故自分の弱点を知っているのか。

 何故クウガや人間にまで知られているのか。

 分からないが、恐ろしい。

 

 とにもかくにも何も見えない状態ではどうにもならないと、今度は横に跳ぶ。

 ……いや、跳ぼうとした。

 だが、警察官がここに誘導した目論見通り、並び立つ木々が安易な横跳躍の邪魔をする。

 木々に引っかかったドゥサが転がり、クウガの剣がその背中を深く切りつけた。

 

「ガァッ!?」

 

 追い詰められたドゥサが怒り狂うが、クウガも心中で舌打ちする。

 グロンギの生命力と再生力は極めて高い。

 超自然発火による高熱斬撃ですら、再生が速い者相手ではダメージの蓄積にならず、攻撃の無駄打ちになってしまう。

 "必殺"以外は、意味がない。

 

 元々、この斬撃は切った場所を焼き付かせるために磨かれた技だ。

 切った傷跡をぐちゃぐちゃに溶接し、腕が生えてきそうなら傷断面を焼き付かせ、体内を再生する前に熱で変に固めてしまう。そのための高熱。

 "グロンギ殺しになれなかったグロンギ殺し"である。

 焼け残った肉がその箇所に残れば、どうしても再生過程はもたつくものだ。

 

 再び距離を詰め、切るが、急所を守るドゥサに致命傷を与えられない。

 戦いは瞬殺というわけにはいかなかったようだ。

 ドゥサは木々にぶつかりながらも必死に走り、なんとか煙の範囲の東端を突破した。

 

 ―――はずだった。

 

「ラダバ!*9

 

 またしても、何かが飛んで来て、煙が広がる。

 ドゥサは煙の外のものを見ることすらできない。

 当然、煙の中から脱出もできない。

 しかも付かず離れず接近して切りつけ続けてくるクウガがいるせいで、選べる手段も取れる手も嫌になるほど制限されてしまっている。

 

 だが。

 今の一瞬に、ドゥサは見た。

 本当は見たと言えるほどのものではない。

 ちゃんと見ていたなら、見たものは確実に石になっている。

 石にできていなかったということは、ほとんど見ることもできなかったということだ。

 

 クウガの攻撃が全く見えない状態で、なんとか急所を腕と尾で守るドゥサ。

 頭の蛇が、草刈りの草のように落ちていく。

 肉が削げ落ち、血が落ちる。

 されど死への恐怖はなく。

 先程かすかに見えた――見えなかった――ものを、頭の中で分析し始めた。

 

「ギランザ……*10

 

 一瞬見えたものは、一つではなかった。

 二つだった、ような気がした。

 その時聞こえていた飛来音も、二つであった気がする。

 銃弾ではない。

 もう少し大きなもの。

 

 大雑把な大きさを分析し、何か近いものがないかと思ったドゥサは、ふと、最初の夜に自分に向かって飛んで来たものを思い出した。

 あのサイズのもの。

 大きなものを打ち出す『弓』。

 弓を持っていたリントの大男。

 そこに、二つの飛来音、とくれば。

 

「ラガバ*11

 

 ドゥサの思考は、極めて正しかったと言える。

 グロンギの知能は高い。

 妥当な思考法を積み上げた"人間の推理法"とは違い、グロンギは極めて高い学習能力と思考力にて、人間のような知恵の積み重ねが存在しない状態でも、最悪に賢い。

 ゆえに、正解に辿り着いた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと。

 

 煙幕弾は急ごしらえで数が少ない。

 当然、弓矢用なんてあるわけがない。

 衛宮士郎は煙幕弾をくくりつけた矢を、ドゥサの動きを把握しながら先読みでゆっくりと撃ち、後から極めて速い矢を撃ち当てたのだ。

 そして煙幕弾を炸裂させ、スモークにてドゥサの視界を奪い続けた。

 

 ドゥサの動きは極めて速い。

 その体に最速の矢を当てるのではなく、先読みして遅い矢を置きにいき、そこに速い矢を当てて煙で大雑把に包み込み、完封する。

 "衛宮士郎がやった"のは、そういうことだった。

 

「バンザゴセパ・ダベロボバ……!?*12

 

 グロンギですら戦慄する絶技。

 狩るために磨いた技でないことはひと目で分かる。

 このための技術などという無駄なものを磨き極めたのか、それともこんなことを余技程度のノリで扱えるだけの熟練の腕を持っているのか。

 なんにせよ、恐ろしい。

 

 あの弓の化物が居る限り、闇の中から出られない。その事実が彼の背筋を寒くさせる。

 

 ドゥサの知らない、リントの戦士の絶技。

 それによって、また次々と煙が追加され、周りが見えるようになる気配がない。

 逃げ道がない。

 勝ち筋がない。

 閉塞感と敗北の予感に固唾を飲んだドゥサに、またクウガが斬りかかった。

 

 はっ、として身を捩るドゥサだが、その髪が数十本まとめて切り落とされる。

 地面に落ちた蛇の頭を踏み潰しながら、クウガは全力で『魔剣』を発動、間髪入れず袈裟懸けに斬りつける。

 ドゥサの左肩から右腰にかけて、深い切り傷が刻まれた。

 

「グ……!」

 

「ギデデギスバ*13

 

 もう少し。

 あと少し。

 傷の一つ一つはあっという間に治ってしまうとしても、少しばかり押し込めれば、そのままドゥサの首を落とせるかもしれない。

 逸る気持ちを抑え、静かにクウガは語る。

 

「グロンギ・ロ・リント・ロ・バシゾギダ*14

 グロンギ・ザジヅンザ・ベグダ・ボギベセダ・ギギボジン・ゼンバシゾ*15

 リント・パリンバ・ゼギビデ・ギブダレビ・リンバゼ・バシゾギ・デギダダ*16

 

「ゴセグ・ゾグギダ!*17

 

 ドゥサはやぶれかぶれに、周囲全てを叩き壊さんとするかのように、巨大化した尾を振り回して大回転する。

 円形に破壊の嵐を巻き起こすそれを、クウガは跳んで軽やかにかわした。

 

「パダギパ・ゴラゲゾ・リンバド・バスドギ・グボドザ*18

 

 そして、超自然発火能力でプラズマ化させた血液を剣に纏わせ、ドゥサの胸を切り抉った。

 

 本当はみぞおちを狙っていたが、ドゥサの回避で狙ったところに当たらなかった様子。

 

「ッ」

 

 先の袈裟懸けはもう傷が塞がり始めているが、流石に随分な量の血液消費とプラズマ化によって叩き込んだ渾身の一撃は、すぐには治らない焼け付き状態になっているようだ。

 

 しかし、この超自然発火式の攻撃力上昇は血液の消費を伴う。

 プラズマに変換した血の量の分だけ、クウガは息切れを起こす。

 ここでトドメの一撃まで展開したかったところではあるが、クウガは足を止めて深呼吸した。

 血が、トドメを刺すために必要なプラズマの元が、足りない。

 

 一方ドゥサは、また更に頭に血が昇っていた。

 許せないものがあった。

 クウガの戦い方は、先の戦いでドゥサが見下した戦い方を、更に洗練させたものだったから。

 

「ボンバロ・ボンバビグ・ダボギギ!*19

 グロンギ・ガボンバ・グゾグ・ルゾグンジ・ドシゼギ・ババギ・ジョグバ―――*20

 

 ドゥサからすれば、楽しめる殺戮以外に価値はない。

 誇り高きグロンギが、単独での狩りからどんどん離れていくなどありえない。

 弱者が群として群がる中の一人になるなど、グロンギがすることとしては許せない。

 情けない。

 だらしがない。

 おぞましい。

 グロンギが種族として好ましく思わないことを、クウガは片っ端からやっている。

 リントがそれをするならいい。だが、ズ・クウガ・バはグロンギなのだ。

 

 闇の中、ドゥサは叫ぶ。

 

「ゲゲルゾ・ベガグバ!*21

 

「お前にとっては、ゲームでも」

 

 たん、とクウガは踏み込む。

 

「リント達、にとっては…………生きるための、懸命な、足掻きだ!」

 

 ドゥサはここまでの攻防で、クウガの攻撃のリズムを把握した。

 ゆえに、合わせる。合わせられる。

 クウガの攻撃のタイミングで、なんととんでもないことに、ドゥサは『宝具』を開帳せんとしていた。

 闇を生む煙もまとめて、何もかもを力ずくで吹き飛ばすために。

 

「ベルレ―――」

 

「!」

 

 間に合ったのは、必然だった。偶然ではない。

 本来なら"相手から距離を取って発動時間を確保する宝具"だが、スモークで視界の全てを奪われたドゥサは、クウガが予想以上に至近距離にいることに気が付いていなかった。

 咄嗟に、クウガは剣を敵の口の中に突っ込み、宝具名が宣誓される前に口を塞ぎ、口の中に思いっきりプラズマを叩き込んだ。

 

「ギガァアアアアア!?」

 

「グングババ・ダダバ。ゴセドロ・バギボ・パセギ・ゲギガバ*22

 

 そしてすかさず、顔に付いていた両目を切り裂いて焼き潰した。

 

「グ……ガ……アッ……!!」

 

 ここまでやってようやく、フィニッシュを決めるチャンスがやってくる。

 

 何故か、ドゥサの再生速度が上がっている。

 体に付けたはずの無数の傷も治りが早まり、おそらく5分後には一つも残っていない。

 何故かは分からない。だがその体の"怪物性"が加速度的に上昇している。

 それがグロンギ:メ・ドゥサ・レと相乗効果を起こし、力を飛躍的に高めている。

 再生速度からそれを感覚的に察したクウガは、一気に決めに行く。

 もう、スモークを展開可能な時間も残り5分を切ってしまっていた。

 

「ドゾレザ!*23

 

 再生で補給された血液を剣に通し、プラズマ変換。

 両断する勢いで剣を振り下ろし、そして。

 

 

 

「―――ズザベスバ*24

 

 

 

 『霊基』が、『再臨』した。

 

「!?」

 

 振り下ろした剣が、ドゥサの片手に掴まれていた。

 何故?

 おかしい。

 

 見えていないはずだ。

 ここは煙の闇の中なのだから。

 掴むのは威力的に難しいはずだ。

 ここまでの戦いで、十分にプラズマを込めれば掴み止められることはないことは判明済み。

 傷がもうない。

 完治まではあと5分はかかるはず。

 

 混乱するクウガが、肌で敵の変化を感じ取った。

 

 それまで紫と銅色の二色だった体の、紫の割合が増している。

 怪人の皮膚は、蛇の鱗に。

 爪も牙も伸び、眼球も蛇のそれに変わった。

 ドゥサのベルトに組み込まれた黄金の欠片――ダグバのロストベルト――が、ギラリと、獰猛に光った。

 

(硬い……!?)

 

 歯が立たない。

 否、刃が立たない。

 プラズマを込めたはずなのに、ドゥサの手の皮膚に食い込んでくれない。

 身体強度が、耐久数値が、一瞬で分かるほどに跳ね上がっている。

 

 やがて息をするように、クウガを蹴った。

 

「―――!?」

 

 蹴り飛ばされたクウガが近くの大木に衝突し、地球最大規模の台風でも引っこ抜けそうにない大木が一瞬で引っこ抜け、周囲の地面や木々も巻き込んで空中に吹っ飛ぶ。

 数百トン規模のものが宙を舞い、カカトと後頭部がくっついていたクウガが、地面を這う。

 騎士が見上げる蛇の怪人は、異様な様子でそこに立っていた。

 筋力も耐久も、これまでのドゥサとは明らかに一線を画していた。

 

 『霊基再臨』。

 これはデミ・グロンギの概念においては、サーヴァントと融合したグロンギが、次のステージへ移行することを意味する。

 サーヴァントの魂。

 グロンギの肉体。

 人類史の守護者。

 人類史の殺戮者。

 陽。

 陰。

 すなわちこれは、擬似的な『両儀』である。

 

 融合が進めば進むほど、デミ・グロンギはより進化していく。

 

 すなわちこの姿が、デミ・グロンギの次のステージ。

 ゲゲル初日のドゥサだから到達していなかっただけの、デミ・グロンギの当然の領域。

 『欠片の力を一つ分も引き出せていないズ・クウガ・バが絶対に勝てない』、絶対の強さの境界線の上の層。

 

 サーヴァント・メドゥーサは、常に目を隠したサーヴァントであるという。

 強力な魔眼を魔眼封じの宝具で覆い、目を隠したまま、されど目が見えているが如く戦い、目が見えている者以上の知覚を得ているのだという。

 使用する感覚は、聴覚、触覚、嗅覚、そして魔力探査。

 "視覚で見るよりも正確な情報を得ている"と評されるほどの、人外の感覚である。

 

 そして新たに備わったのは『怪力』のスキル。

 使用者の魔性がスキル効果に反映されるこのサーヴァントスキルは、魔性が薄いサーヴァント・メドゥーサのスキルでありながら、人類史を否定する魔・グロンギの特性によって、その効果が凄まじく強化されていた。

 ステータス上の身体スペックも高いのだが、それをメドゥーサの怪力スキルにて、一気に上昇させることが可能となった。

 

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを意味する。

 

「ジョグザンジャ・バギ……!*25

 

 なんとか再生を終え、騎士は"ゴルゴンの怪物"と成り果てつつあるドゥサを盲目で見据え、回り込んで背後から切り捨てんとする。

 そのクウガを、ドゥサの五感と魔力探査がしっかりと捉えていた。

 ドゥサの平手が地面を叩く。

 ただそれだけで、木々が根ざした地面が爆裂、粉砕され、若い木々とクウガの体が地面と共に宙を舞う。

 

「ッ!?」

 

 空中で身動きが取れないクウガの腹を、ドゥサが投げた鎖付き短剣が貫いた。

 体を貫通した短剣が体を捕まえ、ドゥサが鎖を振り回し、地面にクウガを叩きつける。

 土地が、揺れた。

 地面に、クレーターが出来た。

 全身複雑骨折と、全身を覆う銀の鎧状の皮膚の粉砕だけで済んだのは、奇跡だったと言える。

 

「ゲバッ」

 

 ズ・クウガ・バは血を吐き、立ち上がろうとするが、再生が間に合わない。

 

 ドゥサは今、いかな精神状態なのか。

 先程のような頭に血が昇りきった状態ではなく。

 けれど冷静になったようにも見えず。

 ただただ何を考えているのか分からない様子で――心腐った怪物のような様子で――ズ・クウガ・バを見つめている。

 感じられるものはただ一つ。

 クウガに対する殺意のみ。

 

「ギ」

 

 ドゥサは呟く。

 

「ベ」

 

 エコーがかかったような声は、彼がもはや尋常な生物でないことを示していた。

 

 髪の蛇は全て切り落とされていた。

 顔に付いた目はクウガの斬撃で焼け付き、塞がったまま。

 キュベレイはもうない。

 にもかかわらず、クウガの勝機も同様にない。

 

 知略、知恵、知慧の全てを力任せにねじ伏せる暴虐。

 クウガの工夫も人間の工夫も全て無に帰す傍若無人。

 チームワークも、仲間との連携も、全て『力』のみで踏み躙る。

 

 そう、それは。

 

 かつてあった第一次未確認生命体災害の最後において、4号と警察の無敵のチームワークをただ一人無慈悲に蹂躙し、絆を力で完封した悪夢―――ン・ダグバ・ゼバのそれに、僅かに似る。

 

「衛宮! 倒しきれてるか!?」

 

「いや……倒しきれてない!」

 

「クソっ、やっぱ三時間や四時間で用意できた特殊煙幕弾じゃこんなもんか!」

 

 そして、煙の効果時間が切れた。

 クウガはぼろぼろな状態で、折れた足で不格好に走って下がり、慎二達に警告する。

 

「ここからは。見える、盲目同士の。戦いになります…………どうか、離れて」

 

「勝てるか?」

 

「時間切れ狙い以外は、無いです」

 

「―――っ」

 

「ワタシより、速く、強く…………欠片の出力も、魔力も多い」

 

 石化の悪夢はなくなった。

 

 怪物の悪夢はまだ、そこに在り。

 

「ワタシが、完全に、死なないよう…………祈っていてください」

 

 クウガの言葉が空元気で空手形のようなものであることは、その場の誰もに分かっていた。

 誰もが、クウガの勝利を信じていなかった。

 誰もが、クウガの敗北と死を確信していた。

 だから。

 だからこそ。

 立香は、心にも無いことを言った。

 

「だいじょーぶ、信じてる」

 

 嘘をついてまで、誰かを信じていると口にする。

 

 それはグロンギになくて人間にはある、醜さであり美しさ。

 

「良くも悪くも、約束破らない人なんだって分かったから。クウガ君」

 

「…………ん」

 

 それが最後の、勇気に変わった。

 

「約束は、守ろう。―――君を、守る」

 

 クウガのベルトに収められていた三つのロストベルトの一つが、黄金に輝く。

 

 夜を切り裂くまばゆい光が放たれる。

 

 光が、全てを飲み込んだ。

 

 心に、誰かがささやく声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レディを守ろうとするその気概。騎士の鑑とお見受けする」

 

「心こそが力を引き出す。

 それがこの、宇宙(そら)の果てより来た石を扱う方法。

 死した外なる宇宙の神話生物の心臓が一部を支配する(すべ)

 貴方がたの一族を更に邪悪へと導いた、魔石ゲブロンが持つ特性の使用法です」

 

「あなたには、心こそが足りなかった。心の色の多様性こそが、より力を引き出すというのに」

 

「けれど、それも今、満ち足りた」

 

「貴方の心には、今までに無かった新しい心の色がある」

 

「貴方が得たのは『向き合う心』。人の気持ちを受け止める心」

 

「輝ける想い」

 

 

 

「裏切りを選んだ上で、全てに蔑まれてもなお、その剣で守りたいものがあるのなら」

 

「私はその心の味方となりましょう。宿主(マスター)よ」

 

 

 

「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある」

 

「―――ここに契約は完了した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦いを最初から今まで、ずっと見下ろしていた二人がいた。

 大柄な男と、小柄な少女が、一人ずつ。

 

「いつまで見ている。愛歌」

 

「黙っていて、ガドル。今、一番最高なところなの」

 

「……奇特な女だ。俺はこれ以上見る意義を感じん」

 

 男が消え、女は高層ビルのてっぺんで、綺麗な笑みを浮かべて笑う。

 綺麗すぎておぞましい、可愛すぎて恐怖を覚える、そんな笑みで。

 沙条愛歌は一心に、一途に、ズ・クウガ・バを見つめていた。

 

「太古に滅びた幻想種。

 それがまだ地球にあった頃、地球に跋扈していた人狩りの一族の力。

 青の竜種(ドラゴン)。緑の天馬(ペガサス)。紫の巨人種(タイタン)。ああ、だから……」

 

 そして、歌う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

邪悪なる者あらば

 

鋼の鎧を身に付け

 

地割れの如く

 

邪悪を切り裂く戦士あり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛び出した怪物(ドゥサ)を、クウガの斬撃が斬りつける。

 そして、吹っ飛ばした。

 

 力でも、速さでも、魔力量でもドゥサが勝っていた。

 なのに、クウガが押し勝った。

 『技』だ。

 力の入り具合と当てるタイミングを最適に選び、最高の場所に当てて押し勝った。

 それは、かつて巨大なドラゴンとも戦い勝利したと言われる『最強の騎士達の一人』であるからこそ持つ、英雄の剣技。

 

 ()()()―――()()()()()()宿()()()()()

 

 サーヴァントをその身に宿すと同時に、クウガの体色も変化していた。

 黒い皮膚の上に銀の鎧を重ねているようだ、と思われていた体色は、銀の色の上に『紫』のラインと文様がたくさん入るようになっていた。

 白銀と濃紫の二色のコントラストが美しい。

 

 クウガの額のクワガタムシを思わせる角は大きくなり、角らしく見えるようになった。

 角は四本角になり、黄金に染まる。

 抉られた眼はそのままだったが、黒一色の複眼は見るからに細く、鋭くなっていた。

 

 そして、手に持つ剣が白と黄金の二色に変じていた。

 剣より迸る膨大な魔力と存在感が、それを見た者にクウガの勝利を確信させる。

 まるで、勝利を約束するかのような、白亜を添えた黄金の剣。

 

 ドゥサは叫んだ。

 

「ルサガビ・ボヂバ・サザド!?*26

 ラガバ……*27

 ギララゼギ・ソボヂ・バサゾギガ・ガギリビヅ・ベデギババ・ダダドギグボバ!?*28

 

 驚愕するドゥサと相対するクウガの内側で、霊体が動く。

 クウガに全身の操作権は渡したまま、その霊体はクウガの口のみを動かし、語り出した。

 

「従う主の口を無理に借り、勝手に喋るなど騎士として言語道断。

 されど今のみ、ただ一度だけ、この身の無礼を許してほしい。

 私はここに宣誓しよう。

 彼と共にあることを。

 彼をここより導くことを。

 いかなる敵を前にしようとも、主にこの力を貸し、彼の戦う力となることを」

 

 其はブリテンの最強が一人に数えられる騎士。

 不貞に裏切りという最悪の不忠を働きながらもなお、王に理想の騎士と讃えられた男。

 心に従い、裏切った者。

 

 

 

「我が名は―――裏切りの騎士、『ランスロット』!」

 

 

 

 裏切りの騎士は知っている。

 裏切りの汚名を受けてなお、守りたいものがあることを。

 裏切りにより、失われてしまう大切なものがあることを。

 

「人を守りし裏切りの騎士、その心の叫びに応え、彼に剣を預けし者だ!」

 

 なればこそ、彼はやって来た。

 裏切りのグロンギの騎士を助けるために。

 その裏切りを、絶望で終わらせぬために。

 少女を守らんとする騎士の誓いを守るために。

 

 彼の名はサー・ランスロット。闇夜切り裂く聖剣使い。

 

 

 

*1
どこだ

*2
逃がすか!

*3
どこだ! どこだ!

*4
なんだ

*5
なんだ、これは!?

*6
貴様……!

*7
ここで終わりだ。ドゥサ

*8
死ね

*9
またか

*10
今のは……

*11
まさか

*12
なんだそれは、化物か……!?

*13
知っているか

*14
グロンギも、リントも、狩りをした

*15
グロンギは自分だけが楽しければいい個人での狩りを

*16
リントは皆で生きていくために、皆で狩りをしていった

*17
それがどうした!

*18
私はお前を、『皆』と狩るということだ!

*19
こんなものの何が楽しい!

*20
グロンギが、こんな有象無象の一人でしかないような―――

*21
ゲゲルを汚すな!

*22
運がなかったな。それとも、ないのは冷静さか

*23
トドメだ!

*24
―――ふざけるな

*25
冗談じゃない……!

*26
紫の力だと!?

*27
まさか……

*28
今まで、色の力を一切身に付けていなかったというのか!?




 セイバーランスロットの鎧の……色!

■デミ・グロンギ
 グロンギのデミ・サーヴァント。
 肉体的にはグロンギ、魂魄的にはサーヴァントの性質が強く表れる。
 人類史を否定する者であるグロンギは一種の死徒に近い性質を持ち、人類史を肯定する者である英霊と融合することで太極……『根源により近い存在』へと擬似昇華されている。
 グロンギがサーヴァントと融合し、英霊達の能力の一部を行使できる様になった存在。
 人類史を否定する人類の敵が融合し、グロンギの側がその力を行使するという関係性が成立している以上、サーヴァント側の人格が残ることはない。 
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