究極の闇、『ン・クウガ・ゼバ』   作:ルシエド

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魔人

 8/2、土曜日。

 この日、小松川橋周りは地獄と化した。

 

 『ナインライブス』。

 英雄ヘラクレスが手に持つ万能攻撃宝具であり、ヘラクレスが修めた全ての武技の集大成……すなわち、流派・ナインライブスとも言うべき攻撃手段である。

 変形するこの武器と、変形した全ての武器形態から繰り出される必殺こそが、サーヴァントとしてのヘラクレスの『攻撃宝具』となるだろう。

 名前を直訳すれば9つの命、となるが、ここを理解するには少し頭を捻る必要がある。

 

 偉大なる王オジマンディアスなどが並ぶ長き古代エジプトの時代、『A cat has nine lives.』という慣用句が生まれた。

 人間は高い所から落ちると死ぬ。

 けれども猫は死なない。

 不思議に思った古代エジプト人は、「猫は魔のものであり何度落ちても死なないのだ」と考え、猫を神と同様に崇拝したという。

 聖なる数字3にあやかり、猫は3の3倍である9の命を持つ、と彼らは考えた。

 9の命を持つがゆえに何度死んでも死なないのだ、と。

 これが"9つの命(nine lives)"の由来である。

 

 英語圏ではゆえに、「猫は九つの命を持つ」「九つの命」と言えば、中々死なない生物、簡単には死なない化物、を指す慣用句である。

 ヘラクレスは大英雄だ。

 その身に取り込んだガドルが、ごく自然に敬意を表するほどに。

 彼を大英雄足らしめたものは怪物達との数々の戦い。

 ヘラクレスが戦ってきた怪物は、そのことごとくが不死に近い生命力を持っていた。

 

 九つの命を持つ死ににくい怪物だろうと、絶対に殺す。怪物狩りの英雄技巧。

 

 それこそが『ナインライブス』なのだ。

 

 逆に、クウガはその"九つの命を持つに等しいしぶとさ"を求めたと言える。

 怪物がごく自然に備える、膨大な生命力による不死性を、クウガは後天的に・意識的に求めたと言えるだろう。

 結果だけ言えば、ドゥサはクウガを殺し切れなかった。

 その不死性さえなければ最初の戦いでドゥサが勝っていただろう。

 七人のグロンギと戦い抜くために不死性を獲得したクウガの判断は、間違っていなかったと言えるだろう。

 

 その不死性を、ガドルは殺し尽くすことができる。

 

 ヘラクレスは、英雄であるがゆえに。

 

 

 

 

 

 ガドルの目が、緑に染まる。

 ガルメの姿が透明化し消え、ジャーザがその手の中の槍を構えた。

 どちらも人間の心配などしない。

 ゆえに、クウガが叫ぶしかない。

 

「…………射撃が来ます!」

 

 ガドルの『色の力』は、瞳を見ればいい。

 人間の視力では動き回っているガドルの細い目の色を見分けることは多少難しいが、ガドルの目のことをよく知るグロンギであれば、視力の高さもあって見分けるのは難しくないだろう。

 赤は拳の格闘体。

 青は槍の俊敏体。

 緑は弓の射撃体。

 紫は剣の剛力体。

 ガドルの眼球はその色に染まる。

 クウガが叫んだその直後、ガドルが身につけたアクセサリーを握り締めると、それが大きなボウガンへと変化した。

 

 ガドルは視界の中で最も厄介であると考えたジャーザを見据え、引き金を引いた。

 

鏖殺の百頭(ナインライブス)

 

 放たれるは、龍の形をした閃光―――ドラゴンレーザー。

 莫大な魔力と絶大な威力が、光になって放たれる。

 数は九。

 

「セァッ!」

 

 その全てを、ジャーザは光り輝く槍にて斬り弾いた。

 全てを貫くレーザーを弾く、豪快にして精緻な槍撃。

 されど弾かれたレーザーは、必殺の威力を持ったまま急速旋回、空中で軌道を折り曲げジャーザを再び狙う。

 クウガは"レーザーの通り道に居たから"という理由だけで蒸発させられそうになっていた警察官を庇い、ドラゴンレーザーの一本を斬り弾きつつ、叫ぶ。

 

「上だ!」

 

 全力の斬撃でも、ドラゴンレーザーを一本弾くだけで手が痺れる。

 その威力に、クウガは思わず舌打ちした。

 この威力なら、二つ飛んで来ただけで、ズ・クウガ・バは粉砕される。

 

 ジャーザは九本のドラゴンレーザーを同時に見据え、槍を路面に突き立てる。

 奔る魔力がその身を覆う。

 "周囲の世界を無理矢理力で従わせるような"感覚を、クウガは肌で感じていた。

 

「―――『星の息吹よ』」

 

 グロンギの言葉ではなく、人間の言葉を紡ぐジャーザ。

 

 すると、切れ味鋭い水の刃が空中に九つ発生し、ドラゴンレーザーと衝突する。

 

 威力を削がれたドラゴンレーザーは槍の九連撃にて砕かれ、その残骸エネルギーが宙を舞い、周囲に散った。

 

「うおおおおおっ!?」

 

 慎二の近くにエネルギーの残骸がぶつかり、爆発し、彼を大いに驚かせる。

 周囲の人間に当たりそうなものを、肌の感覚頼りにクウガが切って弾いていく。

 

「空我、こっちのカバーはいい! 戦闘に集中しろ!

 お前はこっちに気を払ってられるほど余裕はないだろ!」

 

 だが、そこに士郎の声が飛んで来て、士郎がドラゴンレーザーの残骸を防御する音が聞こえて来て、クウガは思い直し、人間のカバーを止める。

 "きっとあの双剣で守りきるはずだ"と思い、ガドルへの接近を開始する。

 ガルメは隠れたまま出てこない。

 ジャーザの援護をする人間が必要だった。

 

 ガドルはジャーザの水の刃を見て、それをセンスと知識で理解する。

 理解してしまう。

 

「マーブル・ファンタズム・バ*1

 

 一度見られただけで理解され、以後はあまり通用しないであろうことを察したジャーザは、余裕の表情と声色を保ったまま、心中で舌打ちした。

 

「ゴボヂバ・サギズセ・バボヂゼ・ゼヅザギ・バギンボグ・ゾゲダロボバ*2

 

「ボグゲビ・ギババ・ギゼゴ・ボラ・ゼジョリド・サバギ・ゼゾギギ・パベ*3

 

「ベダヂガ・ギボグデデ・ダグガムム*4

 ゴゴサブ・ザボボ……リズデゾ・ジュサギド・グスロボ*5

 

「……」

 

「リズンバ・リグリビ・ヅサバ・スロボバ*6

 

「ダダバデデ・ダレギデリ・ダサゾグ・バギサ*7

 

「ゴグギジョグ*8

 

 ガドルの瞳が紫に染まり、ジャーザの両肩に大きな角が生え、両者の筋肉が質を変える。

 ガドルのボウガンが斧剣に変わり、ジャーザの槍が大剣に変わった。

 両者共に紫の力。

 そこに、紫のクウガが殴り込む。

 

『マスター、裏取りを!

 今見る限り、あのジャーザというレディの腕はかなりのもの!

 ガドルの正面は任せて構いません!

 我々はガドルの正面に捉えられないよう、背後を取る意識で立ち回ってください!』

 

(はい!)

 

 ガドルの正面から迫るジャーザの大剣、背後から迫るクウガの大剣。

 

「ブダダセ!*9

 

 そして突然、空中から現れたガルメの『治らない傷を付ける』不死殺しの毒爪が振るわれる。

 ガドルは腰を回し首を振ってガルメの爪をかわし、ジャーザの斬撃を右手の斧剣で弾き、クウガの大剣を左拳で殴って弾いた。

 

 そして、戦力の中心たるジャーザ、立ち回りが極めて上手いクウガ、姿を現したり消したりを繰り返すガルメによる、拙い連携攻撃が始まる。

 

 ガドルが一瞬で正面に放てる斬撃の数を15とするなら、全方位からの攻撃を見切りながら迎撃に放てる斬撃の数は10。

 ジャーザが同時間で放てる斬撃は7。

 クウガが2、ガルメが1だ。

 攻防は、拮抗する。

 

 空中を斧剣含む三つの大剣が目まぐるしく走り回る。

 

 それは戦車を木の葉のように吹き飛ばす一撃であるのに、絶え間なく放たれる連続攻撃であり、疾風を追い越す神速の攻勢であった。

 大半の警察官は剣閃を目で追うこともできていない。

 目で追えているのは衛宮士郎ただ一人。

 

 それはもはや、嵐と嵐の戦いであった。

 クウガではとても敵わないようなガドルとジャーザ、二つの嵐がぶつかり合い、その狭間でクウガとガルメという木の葉が揺られている。

 嵐の中の矮小な木の葉。

 されど、木の葉は木の葉のままでは終わらない。

 

「空我!」

 

 クウガが頷き、士郎が頷く。

 

 クウガは"この地球上で最も多くヘラクレスを殺した男"と、日付が変わる前にした話を、思い出した。

 

 

 

 

 

 衛宮士郎の固有能力は『無限の剣製』。

 『固有結界』という、魔法に最も近い大魔術である。

 それは、自らの心の風景にて周囲の世界全てを塗り潰す、最上の奇跡と言えるだろう。

 

 士郎が剣を見れば、体内に存在する固有結界に記録される。

 それを取り出すことも、真に迫る模造品として一から造り上げることもできる。

 剣に特化しているものの、剣以外を造ることも可能であり、ランクは一つ落ちるがサーヴァントが持つ宝具ですら模造する。

 反則中の反則。

 規格外の中の規格外だ。

 特に特定状況下での攻撃力は桁違いであり、最強に数えられるサーヴァントと対等に渡り合うことや殺し尽くすことも可能である。

 

 士郎はクウガに改めて自分の能力を教え、光明をもたらす。

 

「で、だ。ちょっと聞いておきたいんだが、ガルメは"余計なことを言うやつ"なんだよな」

 

「そう…………です、ね。ワタシが知る限りでは」

 

「さっきカーマに聞いたんだが、ガルメはこういうこと言ってたんだって?」

 

―――こいつは傷が治らない、不死殺しの呪詛だかを持ってるんだとさ

 

「つまりだ。言い草からしてガルメ本来の武器じゃなかったわけだ」

 

「はい…………おそらく、拾ったリントの武器か、何かかと」

 

()()()()()()()()()()()()()()んだよな、それは」

 

「? そう、ですね」

 

「多分、全部が全部そうじゃないが……"グロンギが使いこなせば通じる"んだよな」

 

 士郎はここに、突破口を見た。

 

 ガルメが余計なことを言って知らしめた内容に、希望を見た。

 

「ヘラクレスには、十二の試練(ゴッドハンド)って能力が有る。

 11回分の蘇生魔術の重ねがけ宝具、12の命だ。

 ヘラクレスは12回殺すまで死なない。

 一度使った殺し方は耐性が付くから通用しない。

 Bランク以下の攻撃は全て無効化。

 真っ当に殺し切るなら、ベルレフォーンと同格の威力の攻撃が12種類必要だ」

 

「…………えっ」

 

「7人しか参加できない聖杯戦争だと、状況次第で召喚された時点で優勝確定ってことだな」

 

 ヘラクレスは、ゆえにかつて士郎が参加した聖杯戦争でも猛威を奮った。

 倒せない者には絶対に倒せない。

 選ばれた強者の中でも一部の者しか倒せない。

 倒せる者でも、ヘラクレスを倒せるかは分からない。

 究極の耐性の上に、大英雄ヘラクレスが狂化したステータスの暴力が飛んで来る。

 ステータスで上回って丁寧に十二の試練(ゴッドハンド)を処理することすら不可能。

 ゲームバランスもクソもない反則だ。

 

 知らずに挑めば、クウガもまず確実にひき肉にされる。

 

「それは…………困り、ます。ワタシは…………宝具を使えるわけでも、ないので…………」

 

「いや、倒す方法はある」

 

「え」

 

()()()使()()()()()。俺が剣製で、お前が剣士だ。

 空我の超自然発火……あれを上乗せすれば、ギリギリAランク以上になる。多分な」

 

 衛宮士郎は、感覚と仕組みの両方で、ヘラクレスの十二の試練を知る男である。

 

 たとえばBランク以下の魔術でも、宝石などのブーストをかけてAランク以上となれば、ヘラクレスの防御を抜けることを知っている。

 ヘラクレスの耐性は、元々のランクではなく最終的な威力で抜けるかが決まる。

 

 また、当時のランサーがB+ランク相当の槍に多彩なルーンを付与し、ヘラクレスを何回か殺したのを見たことも有る。

 同質の攻撃であるように見えても、ある程度の差異が加われば別種の攻撃と認識され、その攻撃に対し耐性は適用されない。

 

 そこに、突破口がある。

 

「信じてるぞ。俺は"窮地に間に合う騎士"って奴が、心底頼れることを知ってるんだ」

 

 士郎は変身後の空我の姿を少し思い出しながら、僅かな懐かしさと信頼を表情ににじませる。

 

 ランスロットと一体化した空我の鎧表面に刻まれた紫の文様は、どこかアーサー王の時代のブリテンの騎士特有の造形文化を感じさせるものだった。

 

 

 

 

 

 かくして、人とグロンギの連携は始まる。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

 一つ、一つ、丁寧にこの現実に産み落とすように、士郎は刀剣を生み出した。

 その全てが宝具。

 1ランク落ちたことでそのほぼ全てがBランクからB+ランク相当……しかし、十分だった。

 

「―――全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)

 

 射出された剣が、クウガの周囲に突き刺さっていく。

 無数の刀剣、投影された宝具の一つをクウガが握る。

 ガドルは未だ、三者のグロンギから猛攻を受けても揺らぎすらしない。

 

切り札(ジョーカー)は最も強き者であるとは限らない。それを教えてやりましょう』

 

 クウガはランスロットの言葉に、力強く頷いた。

 

『あえて、霊基のバランスを崩します。

 この一息で決めねば負ける、そんな気概で踏み込むのです。

 奴の暴虐に付き合ってやりましょう。……30秒間だけ、ですがね』

 

(頼む!)

 

『発現せよ―――騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)!』

 

 そうして、ランスロットは()()()()()()()()()()()()()()()()()を発動させた。

 魔力がゴリゴリと吸われていく。

 バランスを崩した体組織が崩壊を始める。

 クウガが投げ捨てた大剣の代わりに、握られた投影剣がほのかに輝き、プラズマを宿す。

 

 瞬間、クウガの姿がかき消える。

 

 "持ち主の最初の斬撃を必ず当てる"刀剣の宝具効果により、ガドルの心臓が貫かれ、その命が一つ消し飛んだ。

 

「!」

 

 クウガは剣を投げ捨て、新たに鉛のようなもので出来た長剣を握る。

 ガドルは防御するが、"防御をすり抜け首を刎ねる"という神話に沿った宝具効果によって、剣は防御をすり抜ける。

 ガドルの首が飛び、しかれど十二の試練の効果ですぐさま首が蘇った。

 蘇生してすぐ、ガドルは"凄まじい武器が大量に送られてきたのか?"と思い士郎の投影剣を一つ拾い上げてみるが、クウガが見せたような力は発されない。

 クウガが持ったその時だけ、剣は力を発している。

 

「……流石は、ダグバの弟といったところか。どういう種だ?」

 

「応える義理はない」

 

 クウガが足で路面に突き刺さった短剣を蹴り上げ、拳で殴る。

 雷神インドラの神格を象徴する射出剣宝具が飛び、ガドルの首を消し飛ばす。

 首はすぐさま下に戻ったが、ガドルの首が戻った頃にはまた先ほどまでのように、ガドルの正面にはジャーザ、その背後をクウガが取る形になってしまっていた。

 

「むっ」

 

「お前の罪は…………ここで、終わりだッ!!」

 

 ガドルの正面に立つ気などさらさらない。

 ガドルを殺す立ち位置に居られればいい。

 ゆえに、クウガはガドルの攻撃を受けるのはジャーザに任せ、士郎の射出した剣宝具を受け取りつつ位置取りに細心の注意を払う。

 

「良い戦士に育ったわね、クウガ。素直に褒めてあげましょう」

 

 ジャーザはその戦いを見て、満足げに怪物の微笑みを浮かべた。

 振るわれるジャーザの大剣が、ガドルの斧剣を自由に振るわせない。

 三方向から攻撃されている今のガドルが、"空想具現化"なる攻撃手段まで使ってきた、自分に次ぐ実力者であるジャーザを無視できるわけがない。

 未だにジャーザはクウガの数倍の脅威であることに変わりはないのだ。

 

 だが、だからこそ、ガドルの命はまた削られる。

 

 "刺さると爆発する"赤い剣が腹に突き刺さり、またガドルの命が一つ削られた。

 

「ッ」

 

 騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)

 バーサーカーのランスロットは宝具として、セイバーとしてのランスロットはスキルとして持っている、手にしたものを自分の宝具として扱うスキルである。

 現在のクウガの技量では全く扱いきれない宝具級のスキルであり、クウガがこれを使うのであればランスロットが補助に集中しても30秒という時間制限が発生してしまう。

 だが、その分効力は高い。

 

 士郎のように、剣の宝具を投影し、その真名を解放して真の力を使うことまではできない。

 だが士郎の投影した武器を、自分のものとして扱うことは可能だ。

 使いこなした上でプラズマを上乗せすれば、それはデミ・グロンギに通じるデミ・グロンギの攻撃となり、ギリギリAランクに到達させることも可能。

 自分の宝具と化している以上、真名解放ほどではないが剣の力も発動している。

 

 士郎が気付いたのは、()()()()()()だったのだ。

 これこそが、衛宮士郎とクウガのコンビネーションによる対ヘラクレスの突破口。

 剣が飛び、クウガが振るえば、ガドルの命がまた消し飛ぶ。

 クウガ一人で戦っていれば、これらの剣が揃っていても瞬殺だった、かもしれないが……今は、ジャーザとガルメという壁が居る。

 ゆえに、宝具の連発が決まる。

 

(シローさんがマスターで、ランスロットがサーヴァントなら、最強のコンビだったかな)

 

 盲目のままクウガが駆け、ガドルの死角に潜り込む。

 クウガとガドルの動きを計算し、隙間に剣を撃ち込む士郎。掴み取るクウガ。

 "使用者の剣技を一時的に強化する"宝具剣によって、クウガはするりと死角に潜り込む。

 ガドルの剣が防御に振るわれ、攻撃が絶大な破壊の衝撃波を引き起こし、その衝撃波の隙間を抜けた剣の先が心臓を貫く。

 また一つ、命が削り取られる。

 

『ならば、今のあなたにもその強さはあるということです。マスター!』

 

 はてさて。

 士郎とランスロットが組めば最強、なのか。

 ランスロットが士郎の敵に回っていたらどんな世界でも詰んでいた、なのか。

 なんにせよ、衛宮士郎とランスロットの能力の噛み合わせは最高だった。

 組めば最強、敵対すれば天敵、とクウガが確信できるほどに。

 

「空我!」

 

 士郎の呼びかけに、一拍、間を置く。

 そして飛んで来た士郎の『螺旋の如き形状の剣』を、クウガは受け止めず、その柄をガドルに向けて蹴り込んだ。

 士郎が放ち、"クウガの一撃"となった螺旋の剣が、ドリルのように空間を削りながらガドルの命を奪い取る。

 

 ガドルが呻く。

 事ここに至り、ガドルは認めなければならなくなった。

 甘く見ていたつもりはなかった。

 油断していたつもりもなかった。

 だが……クウガと人間のコンビネーションを、過小評価していたことを。ガドルは認めた。

 

 それはガドルにとって、自分の中に存在する戦士として未熟な部分を見直す行為であった。

 

『マスター! 残り10秒です! 急いで!』

 

(大丈夫! もう9回殺した! あと3回で終わる!)

 

 20秒で9回殺した。なら、あと7秒で仕留められる。単純な計算だ。

 

 ガドルは強いグロンギに負けるのではない。

 ガドルは弱いグロンギに負けるのではない。

 

 人と、クウガと、その絆に負けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王子様の戦いを、熱っぽい瞳で見つめながら、沙条愛歌は力を謳う。

 

「凄まじき戦士 雷の如く出で 太陽は闇に葬られん」

 

 いつだって彼女は、この世界で唯一自分と対等になってくれる可能性のある王子様を、心の底から信じている。

 

 だって、初恋だから。

 

 揺らがずずっと、この世の誰よりも信じている。

 

 

 

 

 

 ガドルの瞳が、金色に染まった。

 

 その全身に、雷が奔る。

 

「え―――?」

 

 クウガが振るった黄金の投影剣が、刺さらない。

 プラズマを上乗せしたこの一撃は、きっかりAランク相当の威力になっているはずなのに。

 ガドルの皮膚に、1mmも食い込んでくれない。

 

A()()()()()()()()()()()()

 

 思わず、クウガ、ジャーザ、ガルメの手が止まる。

 

 押し潰されそうな威圧感。

 

 絶望と一体化した圧迫感。

 

 全身に雷が奔り、瞳が金色に染まったガドルを見た瞬間、皆の心が竦む音がした。

 

 『神の祝福(ゼウス・ファンダー)』。それは、ゼウスの子が持つ宝具及びスキル。

 本当にゼウスの子でなくとも、ゼウスの子を名乗っていただけの者でも持てる。

 人の認識と信仰で成立するサーヴァントとは、そういうものだからだ。

 サーヴァントの中では、アレキサンダーなどがこれを所持している。

 ゼウスとアルクメーネの子であるヘラクレスは、当然のようにこのスキルを持っていた。

 

 このスキルを使用すると、全身をゼウスの雷が奔り、神性と肉体的なステータス全てが強化されるという。

 そう。

 『雷が全身を流れる』のである。

 

 全てのグロンギは腹に石を入れている。

 異能と異形を身に着けさせる、ゲブロンという魔石だ。

 この魔石には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()特性がある。

 

 かつて未確認生命体第4号が、第一次未確認生命体災害の時、この特性に気付き雷の力を手に入れたガドルと戦い、手も足も出ず一方的な敗北を喫したと言われている。

 

 雷はガドルの体を強化すると同時に、魔石を刺激し、グロンギの究極の闇(アルテミット・ワン)へと近付ける。

 

 

 

「ダグバはこれを―――『金の力』と、呼んでいたな」

 

 

 

 グランドオーダー、という言葉がある。

 魔術師の家系においては、"その家系の始まりに刻まれた一族の果たすべき使命"。

 魔術世界全体で言うなら、"人理を守護するという最も重要な皆の使命"。

 魔術と関わりのない世界においては、店舗やホテルなどにおける、他の客とは比べ物にならないほどに地位の高い人間からの注文、最優先に解決すべき要求などを指す。

 グランドという言葉が、上位を意味するものであるからだ。

 

 ただし。

 物理学の世界でのみ、オーダーという言葉は『命令』『注文』などの一般的な意味以外の特殊な意味を持つ。

 物理学の世界において、オーダーは『桁』の意を持つ。

 桁違い、などの用法で使われる桁だ。

 物理学の世界では、桁違いを『オーダーが違う』などとも表現する。

 しからば、上位のオーダーという概念もまた、ここにある。

 

 おそらく、"グロンギ世界におけるグランドオーダー"はそれが最も近いだろう。

 強き者。

 桁違いの強者。

 一つ上の領域に生きる、一つ上の段階としか言いようがない、桁違いの化物。

 桁違いの高みに在る化物(グランド・オーダー)

 

 デミ・グロンギの第一段階、第二段階に続く第三段階―――冠位(グランド)

 

 グランドの領域に突入した、グロンギ一族。

 

 世界を滅ぼす獣を滅ぼし、人理を守るのがグランド・サーヴァントであるのなら、このグロンギはいかなる強力な守護者をも滅ぼし、人理を終わらせる終局の魔人。

 

 『グランド・バーサーカー』である。

 

 

 

 

 

 金の力は一時的? 否。

 ゼウスの子たるヘラクレスとして、ゼウスの雷を常時身に纏うガドルに、金の力の時間制限は一切存在しない。

 『Aランク以下の攻撃を無効化する』十二の試練(ゴッドハンド)の表面に、雷が奔った。

 ガドルはあえて、人間にも通じる言葉で語り続ける。

 

「今、十二の試練のストックも全て回復した」

 

「……!?」

 

 十二の試練の恐ろしいところは、あまりにも多い。

 だがその中でも軽視されやすいのが、『魔力を注げば命のストックが回復する』という、あまりにも恐ろしい特性である。

 魔力さえあれば、無限に蘇生。

 皆で必死に命を削っても、それを無為にされてしまう。

 これほどまでに恐ろしいことはない。

 

 例えば、数万人単位の生贄を捧げるなどして、無尽蔵にヘラクレスに魔力を注げるという前提があった場合、どうするのが最強のヘラクレスになるだろうか?

 

 バーサーカーにする? アーチャーにする? アヴェンジャーにする?

 十二の試練を捨てさせ、膨大に魔力を食う十二の宝具を持たせる?

 何が正解となる?

 その答えの一つが、これだ。

 

 魔力を無尽蔵に注がれるがゆえに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ゼウスの雷で出力値を大幅に引き上げられたゲブロンであれば、それができる。

 それは万の人間を一瞬で灰にした、ダグバの究極の闇一歩手前の力だから。

 万の人間を燃料として得る魔力と、遜色ない量の魔力を捻出できる。

 この力を極めた先に―――根源から無限の魔力を引き出せるようになった、ダグバの見つけた能力と経路があるのだ。

 

「俺は破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バ。

 多くのグロンギを、リントを、戦士を見てきた。

 多くのサーヴァントを見てきた。

 だがヘラクレスほどの男はかつて一度も見たことがない。叶うなら、敵として会いたかった」

 

 ガドルが見据える先はたった一つ。

 

 ただの一度も敵わなかった、ン・ダグバ・ゼバとの尋常な決闘、そして勝利。

 

 全知全能だからと勝てないことを認めてしまえば、グロンギに生まれた意味がない。

 

 ガドルは、そう考える

 

「断じよう。この男こそが、人類史で最も高き極みへと至った、偉大なる戦士である」

 

 人と出会い強くなったのが、ズ・クウガ・バであるのなら。

 

 ゴ・ガドル・バもまた、人の戦士との出会いによって強くなっていく戦士。

 

 その身に纏うは強者としての、勝利すべき黄金の輝きであった。

 

 

 

*1
空想具現化(マーブル・ファンタズム)

*2
その力。いずれかの地で絶大な信仰を得たものか

*3
攻撃一回でそこまで読み取らないでほしいわね

*4
桁違いのステータスアップ

*5
おそらくはここ……水辺を由来とするもの

*6
水の神々に連なるものか

*7
戦って確かめてみたらどうかしら

*8
そうしよう

*9
くたばれ!




【クウガ、ジャーザ、ガドルのステータスが更新されました】
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