究極の闇、『ン・クウガ・ゼバ』   作:ルシエド

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 最初の地球で、まだ未確認生命体と呼ばれていなかったグロンギは、地球人類の一種……残酷で攻撃的なだけの、ただの狩猟民族だった。

 

 彼らはリントという、心優しい人類の一族を狩ることを好んでいた。

 優しくも誇り高いリントの心を踏み躙ることは最高に楽しかったらしく、やがて彼らはリントを狩るハンティングゲームを生活と人生の軸に据えていくこととなる。

 普通の人類文明の住人から見れば『異常』としか思えないだろう。

 人間狩りが生態の基本?

 人間狩りが行動の基本である一族?

 人殺しをここまで自然に肯定し楽しむ人間一族など、普通は発生しない。

 そんな風に成り果ててしまったという時点で、グロンギ……未確認生命体は、どこか何かが壊れていて、どこか何かが狂った人類だったのだろう。

 

 いかなる平行世界においても、このリントなる民族が現在の日本人の先祖となる。

 ゆえに、グロンギは日本人を狩ることを好む。

 これが基本だ。

 しかしグロンギは日本人の先祖以外の民族も狩らんとしていたため、人類である以上安全圏に立っている者はいないと言える。

 

 現に『最初の地球』の人類は、一人残らず狩りつくされ、滅ぼされているのだから。

 

 

 

 

 

 始まりの地球にて、ズ・クウガ・バは、ン・ダグバ・ゼバの弟として生まれた。

 天才の弟。

 最強の弟。

 されど、弟の方は『ズ』の底辺から這い上がることすらできていなかった。

 

 戦闘能力を持つグロンギ達の中では、間違いなく最弱。

 一族の中で最強であるダグバの弟であるがゆえに常に比べられ、クウガは最弱最愚のグロンギのレッテルを貼られ続け、常に多くのグロンギに見下され続けてきた。

 クウガは最弱。

 ダグバは最強。

 だが、クウガが抱える最大の問題は『弱さ』ではなかった。

 

 何よりも致命的だったのは、クウガにはグロンギが当たり前に持つ()()()()()()()()()()()()()()()()()という性質が、全く無いというところにあった。

 

 人間狩りに快楽を感じることができないグロンギなど、優しさや思いやりを持つことができない人間と同じくらいに価値がない。

 周囲のグロンギと価値観が共有できない以上、同じ考えを持つこともできず、話を合わせることすらもできない。

 "何があれば人生は楽しいのか?"という概念が、致命的に噛み合わない。

 

 ゆえに同族に仲間として認められることがない。

 ゆえに同族を仲間として認識することができない。

 一つ目の地球の人類が滅亡したタイミングでも何も解決はせず、二つ目の地球に移転してもなお何も好転はせず、クウガも何も変わらないまま、グロンギも何も変わらないまま。

 

 二つ目の地球における最後に生き残った人間とダグバが戦闘し、『相打ち』。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 クウガが常に比べられてきた、最高最強の目標は、唐突にこの世を去ってしまった。

 

 その際、ダグバのベルトは砕け、十個の破片に分かれ、そして―――

 

 

 

 

 

 一つ目の地球の人類を狩り尽くし。

 二つ目の地球の人類を狩り尽くし、けれど最後にダグバが死に。

 今、グロンギ達はこの星に―――三つ目の地球に、襲来した。

 

「そうして、この星に、三つ目の地球に来て…………

 バラバラになった、ダグバのベルトの破片には…………特別な力がありました。

 一つは、体に入れることで、力を飛躍的に増す、増強器。

 そして、もう一つが…………

 以前から行われていた…………グセギス・ゲゲルの、聖なる器としての、用途。

 つまり…………ダグバのベルトの欠片があれば、英霊を、完璧に、利用できるのです」

 

「英霊と、グロンギの、融合体……」

 

「呼び分けないといけない時は、便宜的に『デミ・グロンギ』って呼んでますね、私達は」

 

 カーマが、クウガの服の前をめくる。

 クウガの腰回りには肉体と一体化したベルトがあり、ベルトのバックル部分に深い色合いの金色の破片が三つ、刺さるように埋め込まれているのが見て取れた。

 

「ここに三つ入ってます。

 これがダグバのベルトの欠片です。

 クウガさんが隙を見てかっぱらって来たらしいです。

 クソ真面目寄りなクウガさんにしては奇跡みたいなファインプレーですよ」

 

「へえ、これが」

 

「クウガさんの体にはまだ完全には馴染んでませんが、これでブーストしてるんです」

 

 ヤケクソ気味にね、とカーマは吐き捨てるように言う。

 

「ベルトの欠片は合計10。

 クウガさんが体に入れているのが3。

 グセギス・ゲゲルの参加者が7人で、欠片の所有数が一人一つで、合計7。

 参加者はこの欠片を全部集めたらこのゲームの勝者になれます。それが勝利条件です」

 

「グセギス・ゲゲル……グロンギの聖杯戦争か」

 

「クウガさんはこの欠片でサーヴァントを降霊できるほど強くないんですが……」

 

「ごめん。カーマ」

 

「謝らなくていいですってば。

 それで、クウガさん以外のグロンギは一人一つサーヴァントを取り込んでるわけです」

 

「サーヴァント……か」

 

 士郎、慎二、桜が深刻な表情を浮かべる。

 

 サーヴァント。

 人類史に名を残した英雄や勇者達の一側面が、この世に顕現した存在。

 セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、バーサーカー、アサシンの七クラスを基本として、召喚されたクラスに適した側面がこの世に現れるという。

 

 メカニズムとしては、二つ目の地球で死んだというダグバのベルトの欠片を埋め込み、その欠片の中にサーヴァントを降霊し、融合する形である。

 優れた剣士と融合すれば優れた剣士に。

 怪物の英雄と融合すれば怪物らしい戦士に。

 自分に近い存在と融合すれば、能力は相乗効果を生み出すことだろう。

 メ・ドゥサ・レと、メドゥーサのように。

 

 衛宮桜に紙とメモ帳を借り、よく分かってないなりに懸命にメモを取っている立香を尻目に、慎二が口を開いた。

 

「特に危険そうなのはいる? 僕はその辺ハッキリさせときたいタイプなんだけど」

 

「私もクウガさんも参加者のことはほぼ知らないんですよ。今回のドゥサくらい?」

「…………申し訳ありません」

 

「あー、そういう? こりゃ僕達も大変そうだ」

 

「でも、ワタシは…………三騎士が、特に強いと、思います」

 

「三騎士?」

 

「グロンギは…………ある程度、タイプが分けられます。

 特に強い人は、タイプを…………使い分けることもあります。

 格闘の赤が、バランス型、です。

 特化型は…………剣士の紫、槍兵の青、弓兵の緑、の三つ。これが、三騎士、です」

 

「あ。セイバー、ランサー、アーチャー?」

 

「はい」

 

 グロンギの世界において、戦闘バランスに優れた『格闘の赤』を除いた三つの傾向は、『三騎士』という名で呼ばれる。

 グロンギ語では『ガンビギ』だ。

 ほとんど全てのグロンギが、最終的には剣の紫、槍の青、弓の緑の延長線上で力を極めていく……らしい。

 

「慎二、脅威になる奴が気になるのは分かるが、早くゲゲル(ゲーム)のルールを確かめたい」

 

「あー。衛宮ならそっちの方が気になるよね」

 

「教えてくれ、クウガ、カーマ。

 未確認生命体の被害を防ぐには、ゲームルールを解明する以外にないからさ」

 

「では引き続きクウガさんに代わり私が。とは言ってもそんな複雑じゃありませんけどね」

 

 カーマが小さな手で、指を七本立てる。

 

「参加者は七人。

 倒すべきグロンギは最低七人。

 対策すべきサーヴァントは七。

 それぞれが、一週間の内一つの曜日を与えられています」

 

「曜日?」

 

「はい、そうです。

 プレイヤーは与えられた曜日にしか行動できません。

 行動できるのもその日ごとに一度だけ。

 行動権によって縛られているんですよ。

 狙った敵の襲撃、民衆を殺して魂喰い、武器の補充……

 とりあえずゲーム上の行動を取ったらその日の行動権は使ってしまう、ってことです」

 

「一曜一敵、だな」

 

「はぁい、その通りです」

 

 仮定の話だが、セイバーのグロンギが月曜日に割り当てられた場合、セイバーのグロンギは月曜日以外の曜日に人間を襲うことができないということだ。

 また、月曜日に人を襲う行動を取れるのも一度だけ。

 時間が切れれば二度目はない。

 

 ドゥサが撤退した理由も分かってきた。

 あれは、今日という日に与えられた行動権を使い切り、時間を使い切ってしまったのだ。

 だから追撃することができなかった。

 このゲームルールは、上手く逆利用できるかもしれない。何人かはそう考える。

 

「最大、週に七回の襲撃があると考えてください。

 一日に襲撃される可能性があるのも最大一回です。

 これはゲームです。

 とても分かりやすいゲームです。

 グロンギはゲームを楽しむことが目的なので、ルールは破りません。

 ルールの穴は探すかもしれませんが。とにかく、このシステムには反しないかと」

 

「ルールの穴を、探して『例外』をする…………そんな、グロンギも、何人かいます」

 

「一人一日一回でも、七人いれば毎日が戦いか。数は力だな」

 

 七人の参加者による、ターン制のダグバの欠片争奪戦。

 各々が持ち、英霊の魂魄を保持する器であるダグバのベルトの欠片は、さしずめ小聖杯といったところだろうか。

 七つ集めれば、さぞかし大きな力を容れられる大聖杯となるだろう。

 

「カーマ、カーマ…………このお茶菓子、とても美味しい。これは、凄いことだよ」

 

「ちょっと静かにしててくださいクウガさん」

 

 カーマがクウガの頭をはたいた。

 

「あの、ちょっといいかな」

 

 立香が、恐る恐る手を挙げる。

 

「聞きたいことは分かりますよ。

 このゲームにおける、あなたの立ち位置でしょう?」

 

「うん。なんだか、私あんまり関係ないなって……」

 

「あなたはゲームを面白くする要素ですよ。楽しいゲームってなんだと思います?」

 

「……? ええと、使えるキャラが多い……?」

 

「『適度な不確定要素がある』、です」

 

「分かる分かる。僕も不確定要素が完全にないゲームはあんまりやらなくなったし」

 

 うんうんと慎二が頷いていたが、カーマは無視して立香との会話を続けた。

 

「あなたを殺したプレイヤーは、その時点で無条件にグセギス・ゲゲルの勝者になるんです」

 

「え!?」

 

「それとゲームフィールドの解禁フラッグみたいなものでもあるので……

 あなたが殺されるまでは、ゲゲルは東京限定。

 でもあなたが殺された瞬間、ゲゲルは日本全国がフィールドになります。

 その次に設定されたエクストラターゲットが死ねば、次は世界全域です」

 

 藤丸立香が殺されるまでは、東京に絞って戦える。

 それは人間側の特大のアドバンテージである。

 藤丸立香が、殺されるまでは。

 

「どんな弱いグロンギでも殺せる。

 どんな弱者にも勝機が出て来る。

 それが、エクストラターゲット。

 右手の隷呪(れいじゅ)はその証です。

 理解しました? あなたを見つけたら、全員嬉々として襲ってくるってことです」

 

「嘘でしょ……?」

 

「こんな嘘ついてカーマちゃんに得あると思います?」

 

 カーマの言葉に、クウガも頷く。

 

「リツカを守る。それが…………このゲームの、リントが勝つ、絶対条件」

 

 巻き込まれた一般人である立香。

 されどその重要性は、おそらくクウガにも劣らない。

 衛宮桜はその境遇に同情し、衛宮士郎は何が何でも守る決意を固め、蒼崎橙子と間桐慎二は『どの未確認生命体も藤丸立香を見つければ狙う』という点の、大きな戦略的価値に気付いていた。

 

「リツカを守って…………ロストベルトを、集め、ましょう」

 

「え? ロストベルト?」

 

「ダグバのベルトの破片の通称ですよ。

 クウガさんはまあ大体そっちで呼んでますね。

 ン・ダグバ・ゼバの失われたベルト(ロストベルト)ってことです」

 

 こくり、とクウガが頷き、腹部のベルトの三つの欠片に触れる。

 

「ワタシが、持っている、ロストベルトは三つ。

 参加者でないワタシと違って…………他参加者のものには、ナンバリングが、あります」

 

「ナンバリングか」

 

「ナンバリングは…………1から7、まで。

 今日戦ったのは…………ロストベルトNo.1、『ライダー』のメ・ドゥサ・レ」

 

「メドゥーサか……」

「メドゥーサかぁ」

「メドゥーサなんですか……」

 

「…………?」

 

 士郎、慎二、桜が一斉に妙な表情をした。

 

「メドゥーサとお知り合いなんですか? クウガさんがちょっと興味津々みたいですよ」

 

「……ちょっと聞きたいんだが、サーヴァントの側って人格あるんだろうか?」

 

「クウガさんならともかく、他のグロンギは死徒にも並ぶ

 『人類史を否定するモノ』

 の代表格ですよ? 人類史の守護者である英霊が意識を保つのは不可能だと思います」

 

「なるほど、ありがとうカーマ。……まあ、気にしないでくれ」

 

 昔、メドゥーサというサーヴァントに助けられたことのある者達がいた。

 その者達は大人らしい判断で、"戦い辛くならないように"と話さないことを決めた。

 そんなちょっとした話。

 

「七つのロストベルトを集めて、ダグバのベルトを完成させる。それが世界を救う方法です」

 

「世界を救うか。でっかい話だよ、全く」

 

 ゲームルールと、大雑把に異世界のグロンギ達がこの世界に来た理由は判明した。

 会議室で大人達は思い思いの会話を始め、クウガはひたすらにお茶請けを貪り食らい、美味しい美味しいと連呼している。

 そんな中、カーマは何か思うところがある様子でクウガを見ている立香に気が付いた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「……ん、あのさ」

 

 立香は別に、何か確証があったわけではない。

 飛び抜けた察しの良さがあるわけでも、心を読む異能があるわけでもない。

 ただ話を聞いて、クウガを見て、そう思っただけだ。

 

「殺された家族の遺品を、必死に集めようとする子供に見えるのは、私だけなのかな」

 

 そう思った、だけだけれど。

 

 カーマは立香の感想を、否定もせず、間違いだとも言わず、ただ静かに微笑んだ。

 

「あなた、良い人ですね。カーマちゃんちょっと安心しました」

 

「安心? 何に?」

 

「色々です、色々」

 

 カーマをじっと見つめていると、カーマがどこを見ているのか、よく分からなくなってくる。

 

「そういう普通の発想、怪物に対してもしてくれる人あんまりいませんから」

 

 そもそもこの人はなんなんだろう、と立香はふと思った。

 一つ目の地球の説明でも、二つ目の地球の説明でも、三つ目のこの地球に来た説明でも、カーマの名前は出てこなかった。

 あれこれ考えていると、クウガが二人の横でお茶請けの感想を述べ始めた。

 

「食べ物にこだわる…………リントは、とても凄いものになった。ワタシは、そう、思う」

 

「ま、そうですね」

 

「グロンギは、美味しい食べ物の探求、とか…………誰も興味持たなかったから」

 

 人を殺す文化こそが至上の民族の中で、ただ一人リント殺しの文化に馴染めず、食文化にも理解を示せてしまうグロンギは、今日までどんな気持ちで過ごしてきたのだろうか。

 うん、うん、と頷きながら、クウガは美味しい茶菓子を食べている。

 

「殺すこと以外の、文化を育てるのは…………どんな人類にも、できることじゃ、ない」

 

「本当に美味しそうに食べますねえ。でも太らない程度にしましょうね」

 

「私の分も食べる?」

 

「ありがとう。リツカ」

 

 もしかして目が見えない分味覚とかが鋭くなったりしてるのかな?

 

 なんて思いながら、立香は茶菓子を差し出した。

 

 

 

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