ポケモントレーナー ハチマン 〜ぼーなすとらっく集〜   作:八橋夏目

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令和一発目の新シリーズ

今回は続編のデオキシス襲来から四ヶ月後くらいの話です。

pixivの方でイブキがハチマンにされたことが気になる、という声があったので、それに関連したものも構成中です。
反映できるかは分かりませんが皆さんも何かあればお気軽に。


ぼーなすとらっく1『イロハ四天王計画』

「というわけで先輩。よろしくですっ!」

 

 何がというわけなんだよ。

 カロスに来てから約一年。ポケモン協会の事務所で仕事をしていたらいきなりやって来てこれだ。

 話を聞くにどうやら四天王三人のところでの修行を終え、今度は俺のところで修行したいというものらしい。しかもそれを促したのが何を隠そう件の三人。そもそもこいつに色々と教えて来たのって俺なんですけど…………。

 

「へいへい。つか、何で俺のところにも来るんだよ。四天王辞めた身だぞ?」

「一応ほのおタイプの四天王ってことでしたし、皆さんが行って来いって聞かないんですよ」

「ほーん。ユキノ、どう思う?」

「いいんじゃないかしら? イロハは元々ほのおタイプを連れているのだし、改めてあなたが教えられることを教えてあげたら?」

 

 俺と同じように事務作業をしていたユキノに話を振ると肯定の言葉が返って来た。

 ねぇ、俺現在進行形で忙しいんだけど、まだ働かなきゃいけないのん?

 しかも教えてあげられることって言ってもなー………。新入りたちにくらいじゃね?

 

「あー、それならユキノも教えてやったらいいんじゃね? ほら、最近こおりタイプについて調べてるだろ?」

 

 ここは一つユキノも巻き込んでみることにしよう。

 最近はこおりタイプにお熱なようだし、イロハのポケモンはみずタイプが三体いるからな。こおりタイプの技を覚えれば、攻撃の幅を広げてくれるはずだ。

 

「おおー、いいですね。ユキノ先輩、よろしくお願いします」

「はあ、まあいいわ。ユイの時より厳しくいくわよ」

「うぇ、それはちょっと勘弁………」

「ふふっ、冗談よ。今のあなたたちなら難なく熟せると思うわ」

 

 実際そうだろうな。

 あの四天王三人から鍛えに鍛えぬかれて帰って来たんだし。

 仕方ない、一応弟子一号だしな。面倒みてやろうじゃないか。

 

「なら、これだけやったら見てやるから外で待ってろ」

「はーい!」

 

 さて、さっさと終わらせますかね。

 てか、誰だよ。ジムリーダー試験なんか受けた奴。三人もいるのか? これは明日にしよう。どうせただの報告書だし。中身読むのに時間かかるんだよ。

 

「リア?」

「おうキルリア。今からバトルするぞ。お前もやるか?」

「リアーッ!」

 

 おーおー、やる気だねぇ。

 バトルって聞いて拳を突き出す真似なんかしちゃってるよ。可愛い奴め。

 さてさて、あいつはどれくらい強くなって帰って来たのやら。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「そんじゃ、まずは新入りたちを見せてくれ」

 

 切りのいいところで仕事を終わらせて、ユキノとともにポケモン協会敷地内にあるバトルフィールドへと向かった。

 そこには既にイロハがおり、準備を始めていた。

 

「はーい、ココドラいくよ!」

「審判は私がやるわ」

 

 最初はココドラか。

 なら、やっぱこいつだよな。

 

「ボスゴドラ、後輩を見極めてやってくれ」

「ゴラァ」

 

 審判はユキノに任せ、俺はボスゴドラとともにココドラを見極めることに集中するか。

 イロハのココドラは至って普通サイズだ。ボスゴドラに対しては小さいポケモンだから迫力に欠けるが、まず目は合格だな。四天王のところで鍛えられてきたこともあって、自分の最終進化形であるボスゴドラを見ても怯えていない。

 

「先輩、ココドラはガンピさんのところのボスゴドラに鍛えてもらいましたから。そう簡単には倒れませんよ!」

「あ、やっぱり大会で出してないポケモンもいるんだな。そりゃ楽しみだ」

「では。ココドラ、まずはロックカット!」

 

 ふむ、ロックカットか。

 身体を磨き空気抵抗を減らすことで素早さを上げる技だ。身体が小さい分小回りも利くし良い判断と言えよう。

 

「素早さを上げたか。まあ、まずは動きについて来れないと話にならないからな」

「それだけじゃないですよ。ココドラ、じならし!」

 

 ココドラは勢いよく地面を踏みつけ、衝撃波を送ってきた。

 

「おっと、早速弱点技か」

「それと同時にボスゴドラの素早さも下げさせてもらいます!」

 

 自分の素早さを上げるだけでなく、攻撃の際にこっちの素早さも下げてきたか。そうやってお互いの動きに差を無くそうということなのだろう。

 

「だそうだ、ボスゴドラ」

「ゴラァ」

「特に効いてはなさそうだぞ。まあそもそもこいつは一撃では絶対に倒れない奴だし」

 

 ま、ダメージの方は問題なさそうだけどな。うちのボスゴドラさんは元々群れのリーダーであり、そんじょそこらのボスゴドラよりは強い。あと特性によりさらに硬い。いやー、相手にしたくないタイプだな。

 

「特性のがんじょうですか」

「ああ」

「うちの子はいしあたまですよ。反動ダメージは効きません」

「へぇ、ならもろはのずつきでも覚えさせたのか?」

 

 ココドラはいしあたまの方か。なら反動のある技でも関係なく使える。ココドラ系が覚える反動のある技はもろはのずつき、すてみタックル、とっしんの三つ。その中でももろはのずつきはタイプ一致の高威力の技である。ボスゴドラまで進化すれば場合によっては無双することもあるだろう。今から想像しただけでも恐ろしいわ。

 

「それは今練習中です。大技はまだこの子にはありませんから」

 

 となるとココドラの課題はもろはのずつきの習得が一つだな。

 

「………いいのか? そこまで手の内晒して」

「どうせ相手は先輩ですから。隠したところで何も変わりませんよ」

「まあもう少し情報を取れれば気づいてたかもな」

「だから別にいいんです。それよりいいんですか? ココドラを見失ってて」

「見えてるよ。ボスゴドラ、後ろだ。捕まえろ」

「ドラゴンダイブ!」

 

 イロハが言うように俺たちが話している間もココドラは移動してボスゴドラの背後に回っていた。つまり俺から丸見えなんですよ………。

 

「へぇ、小さい身体でも力技かよ」

 

 あのボスゴドラが抑え込むのに後退させられたぞ。

 あの小さい身体でよくやるものだ。

 

「そのままメタルクロー!」

「ならこっちもメタルクローだ。弾け」

 

 下から「V」を描くように鉄の爪でボスゴドラの腕を弾き脱出されてしまった。そしてそのまま鉄の爪で切りかかってきたので、こっちも同じように鉄の爪で攻撃を弾いていく。最初は単調な動きをしていたが、それも効かないと判断すれば上から下から横からと様々な方向から爪を出してくるようになった。

 ここまでできるのならこっちも動いていいだろう。

 

「そろそろこっちも攻撃していいよな。ボスゴドラ、アイアンテール」

 

 ボスゴドラが両爪でココドラを爪ごと弾き、軽くジャンプして反転すると鉄の尻尾で地面に叩きつけた。

 

「ココドラ!?」

 

 やっぱり体格差はなくせないな。

 けど………。

 

「一発で戦闘不能にはならないか」

 

 やるな。

 よく耐えたじゃないか。

 

「…………どうやらココドラはここまでのようですね」

「は? なに言ってんの?」

 

 ちょっとー、言ってる意味が分かんないんですけどー。

 なんだよ、まだまだココドラはいけそうだぞ?

 

「ここからはコドラが相手しますよ! ね、ココドラ!」

 

 ……………あー。

 

「そういやお前はポケモンの進化のタイミングが分かるんだったな」

 

 勿体ぶった言い方しやがって。

 俺たちとのバトルに合わせて進化のタイミングを持ってくるなよ。いや、むしろ進化のタイミングに合わせて俺たちのところに来たと言った方が正しいのか。

 ココドラは白い光に包まれるとみるみるうちに身体が大きくなっていく。

 

「ゴドォ!」

 

 コドラか。

 ココドラより身体が大きくなり、小回りは効きづらくなっているが、その分一発のダメージが飛躍しているだろう。

 

「んで、進化したからにはそれなりの動きを見せてくれるんだよな」

「焦らなくてもそのつもりですよ。進化後のことも考えていますから」

 

 ま、イロハならそれが当たり前だもんな。バトルにおいて進化ですら戦略の一つに入れてくる。これは同期トレーナーのユイやコマチはおろか、俺やユキノですら出来ない芸当だ。そもそも俺の場合は最終進化ばかりだし、唯一キルリアが二段階目を残しているのみ。それもいつ進化するのかは俺には分からん。ユキノは………どうなんだろうな。可能性としてあるのはハルノくらいか。

 

「コドラ、じならし!」

 

 目が合うと抱きついてきたキルリアを受け止めていると、コドラが仕掛けてきた。また同じ技か。

 

「同じ手には乗らんぞ。ボスゴドラ、でんじふゆう」

「ふぁ?! マジですか先輩」

 

 ボスゴドラが俺のところに戻ってきてからはいくつか技を教えている。最初から群れのリーダーになるくらい戦闘力はあったが、もっと幅を利かせた方がボスゴドラの長所を活かせそうだったからだ。その一つがでんじふゆう。電磁気を操り自身を浮かせる技である。重量級のボスゴドラにとっては覚えておいて損はない技で、身軽に動く相手でも動きに対処しやすくなる。今回は浮くことによりじめんタイプの技を無効化するのが狙いであるが、空中移動という用法で使うこともある。この巨体が空中戦もできるようになったのは大きな進歩と言えるだろう。

 

「なら、みずのはどう!」

 

 おっと、みずのはどうまで覚えていたのか。こりゃズミさんの入れ知恵だな。

 

「躱せ」

 

 浮いているため躱すのも余裕。何ならくるくる回ってるまである。なんかそういうところ、ゲッコウガに似てきたよな。

 

「ちょこまかと逃げやがりますね。なら、コドラ! 動きを止めるよ! がんせきふうじ!」

 

 あ、それは受ける気なのね。

 どんな攻撃を仕掛けて来るか楽しんでないかい。

 ひょいひょい回っていたボスゴドラだが、頭上に岩々が作り出されると動きを止めて仰いでいる。岩の大きさや数でも見ているのだろう。

 そしてそのままボスゴドラは岩々に取り囲まれてしまった。

 

「アイアンヘッド!」

 

 コドラはすかさず鉄の頭で頭突きを繰り出し、岩を破壊しながら突っ込んで来る。

 王道と言ってもいい戦法だ。イロハもこれで終わるつもりはないだろうし、次の一手もいくつか用意しているだろう。だが、そもそもの話コドラにはまだ同族の格上を相手にするのは難しかったのかもしれないな。

 ならばこういう技もあるということをコドラ自身に教え込んでやろう。

 

「メタルバースト」

 

 銀色の一閃が岩ごとコドラを跳ね返した。

 ボスゴドラは強い。それは攻撃面だけに言えたことではない。鋼の鎧を纏うその身体はとても硬い。ちょっとやそっとの技ではダメージにもならないだろう。しかもそんな硬さを利用して反撃することも可能。故にボスゴドラは強いのである。

 

「コドラ?!」

「………コドラ、戦闘不能ね」

 

 今の一撃でコドラは戦闘不能になったか。

 イロハもやはりという顔をしている。

 ま、トレーナーがちゃんと分かった上で突っ込ませたっていうのなら、俺はそこに何も言うことはない。

 

「イロハ、コドラには今後三つの技を習得してもらう」

 

 だから今のバトルで俺が考えるココドラ改めコドラ育成計画の課題を出してやろう。

 

「というと?」

「一つ目はお前が始めたもろはのずつき。二つ目は今のメタルバースト。三つ目はじならしを昇華させてじしんにするんだ」

「………何故その三つなんですか?」

 

 イロハはコドラをボールに戻してそう問いかけてきた。

 

「切り札となる技と反撃用の技、それと使い分け用の技だ。まあボスゴドラになったらなったでまだまだ覚えた方がいい技があるけど」

 

 もろはのずつきは既に修行中、メタルバーストは今のバトルのように攻撃され続けた時に反撃に出るための一撃として、じしんはじならしと使い分けをするためである。他にも色々と覚えさせた方がいい技はあるが、恐らくそれらを覚える過程で習得することもあるだろう。

 なんせボスゴドラが直々に鍛え上げるだろうしな。

 

「ボスゴドラになったらげきりんを覚えさせるつもりです」

「げきりんか。そういや他の新入りは覚えたんだよな」

 

 ココドラではげきりんを覚えられない。だから代わりとは言ってはなんだが、ドラゴンダイブを覚えさせたのだろう。別にそこまでしてドラゴンタイプの技を覚えさせなくてもいいだろうにと思わなくもないが、あの三人も徹底してるな。

 

「はい、次はそれをお見せしますよ。いくよ、シードラ!」

 

 次はシードラか。

 ドラゴンポケモンのタッツーの進化形。みずの単タイプだが、特性によっては毒状態になることもある。

 イロハのシードラは………分かんねぇな。ただ何か右目につけているようだけど。

 

『みずタイプか。ならオレがやる』

「んじゃ任せた」

 

 誰に相手させようかボールに手をかけた時、ゲッコウガがフィールドに出てきた。

 どうやらシードラの相手をしてくれるらしい。

 なら俺は基本見ているだけでよさそうだな。

 

「ゲッコウガ、瞬殺はダメだからね」

『そうならないように足掻くことだな』

「ぶー」

 

 そんな砕けたやり取りを聞きながらキルリアを抱っこした。

 いやほんとこいつ可愛すぎるわ。なんか父親になった気分。

 

「シードラ、こうそくいどう!」

 

 こうそくいどうか。

 ゲッコウガに瞬殺されないために躱すためのスピードを上げたようだな。伊達にゲッコウガと過ごしてるわけじゃない。ちゃんとこいつの戦い方を見てきているようだ。

 ゲッコウガはそれが分かっているためか、冷静に状況を読んでいる。

 

「えんまく!」

 

 今度は黒煙により視界を遮ってきた。

 キルリアが俺の胸に顔を埋めてくる。煙たいのは苦手なようだ。ちなみにゲッコウガは小さく咽せているぞ。

 

「シグナルビーム!」

 

 そんな中、一閃の深緑が伸びてきた。

 それは正確にゲッコウガの脳天を狙ってきている。

 

『スナイパーか。面倒な………』

 

 ゲッコウガは首を捻り躱したが、余計に項垂れている。

 なるほど、シードラの特性はスナイパーか。だから黒煙の中でも正確に急所を狙ってきたわけだ。しかも速い。

 

「次いくよ。シードラ、ハイドロポンプ!」

 

 次は水砲撃か。

 こっちも軌跡が速い。

 ゲッコウガもみずのはどうで軌道を上に逸らす程だ。

 

「もう一度、えんまく!」

『チッ、面倒な戦法を覚えやがって。ちょっと借りるぞ』

 

 シードラの黒煙に悪態を吐きながらも一度距離を取るため後退した。その際、久しぶりにゲッコウガが俺にアクセスしてきやがった。どうやら視界が欲しいらしい。

 こいつ、相変わらずのチートだな。

 

「きあいだめ!」

『なるほど、そこか!』

 

 見えたみたいだな。

 俺のところからはシードラの大体の位置は見えている。あそこから移動しようにもそう動ける時間があったわけでもない。

 

「シグナルビーム!」

 

 見つかったと分かると早々に攻撃に転じてきた。

 本来ならもう少し仕掛けを作るつもりだったんだろうが…………いや、きあいだめを使ったのだから後は撃ち出すタイミングを計るだけだったのかもしれない。

 

『うぉっ?!』

 

 当のゲッコウガはシードラの攻撃に驚きを見せている。

 

「一気に三連発かよ。どうやったらできるんだよ」

 

 一閃だけならばゲッコウガもただ対処していただけだろう。

 だが、シードラが放ってきたのは三閃の深緑。

 不意を突かれた形となった。

 

「なんだよ、めっちゃ苦戦してんじゃん」

『特性スナイパーにピントレンズ持たせて、終いにはきあいだめだ。近づけん』

「なら、もっと本気出していいんじゃねぇの?」

『………どうなっても知らんぞ』

「大丈夫だって。イロハが育てた奴だぞ。お前に負けたくらいで使い物にならなくなるような柔な奴じゃないって」

 

 スナイパーにピントレンズ持たせてきあいだめか。

 ガチの構成してんじゃねぇか。

 それとゲッコウガ。あんなこと言っておきながら手加減するなよ。逆にアレか? 手の抜き方が分からんとかそういう奴か?

 

「シードラ。ラスターカノンで貫いて!」

 

 ゲッコウガががんせきふうじでシードラの意識をそっちへと持っていく。

 シードラはそれを鋼の光線で撃ち落としていくが、その間にゲッコウガはシードラの背後へと回っていた。

 

「シードラ後ろ! ハイドロポンプ!」

 

 高速で反転し、すぐさま水砲撃で牽制しにかかる。

 ここで素早さを上げていた効果が発揮されたようだ。そこに特性とピントレンズも合わさり、的確にゲッコウガを捉えていた。

 だが………。

 

「え、うそっ?! あのタイミングで消えたの?!」

 

 既にゲッコウガはそこにはいなかった。

 恐らく今のは影の分身体だろう。

 

『目に見えているものばかりに気を取られるなと言わなかったか?』

 

 地面から草が伸び、シードラに絡みついていく。

 くさむすび。

 本来の使い方は足元を狙って転けさせる技だが、使い方によってはこんなこともできる。というか俺たちはよくこっちの使い方をしているまである。

 

「ッ、シードラ、げきりん!」

 

 囚われたシードラは一気に竜の気を纏い暴走させ、絡みつく草を焼き切った。

 

『これで終わりだ』

 

 そしてゲッコウガの水の究極技へと突っ込んでいった。

 効果はいまひとつでも実力差が大きすぎる。

 

『ったく、無茶しやがる』

 

 あ、でも届いていたらしい。

 あの究極技の中を突き進みゲッコウガまでたどり着いた奴なんて初めてだ。これは今後鍛え甲斐がありそうだな。

 

「シードラ、戦闘不能」

 

 ゲッコウガに受け止められながら気を失っているシードラにユキノが判定を下した。

 …………近くで見るとシードラって結構デカイな。となるとキングドラはそれ以上か……………。

 

「イロハ、ほれ」

「あ、ちょとと………何ですか、このキレイなウロコ? は」

「りゅうのウロコだ」

「それって………!」

 

 俺はイロハにりゅうのウロコを投げ渡した。

 

「シードラが強くなりたいって意思表示したら、進化という手もあることを示してやれ。判断はお前らに任せる」

「あ、ありがとうございます!」

 

 多分、シードラはこれから強くなろうと足掻くだろう。ゲッコウガもなんだかんだで付き合いそうだし、そうなると今のままでは限界を感じてしまうかもしれない。だから予め選択できる環境だけは作っておいてやるべきだ。

 

「あなたいつの間に用意していたの?」

「偶々だ。西側の視察に行った時にザクロさんからもらったんだよ」

 

 砂浜でこんなの見つけたんですけど、お一ついかがですか? なんて言われたらもらっちゃうじゃん?

 まあ、りゅうのウロコでタッツーをタマゴから孵したばかりのイロハの顔が思い浮かんでしまった辺り、俺も随分とこいつらに毒されてきてると思うがな。でも悪くない。

 

「中々ないタイミングね」

「マジで偶然だからな?」

 

 イロハがシードラをボールに戻しているのを横目に、ユキノが訝しむ目を刺してくる。

 疑ってらっしゃるようだが、ほんとだよ?

 ハチマンウソツカナイ。

 

「ゲッコウガ、お前からはあるか?」

『そうだな、既にみず、はがね、ドラゴン、むしタイプの技を覚えている。しかもスナイパーを活かすとなると、れいとうビームが妥当なんじゃないか? あとはみずのはどう、りゅうのはどうは覚えておいて損はない』

 

 悪くない。

 というか、考えることがまるで一緒だな。

 

「だってよ。正直俺もそこら辺が妥当だと思った。が、欲を言えば威力の高い技以外にも小技を挟むようにすればより厄介な相手と認識されると思っている」

「小技、ですか………」

「ああ、威力の高い技も不可欠だが、それを撃つタイミングを作り出す小技も重要になってくるんだ。例えばバブルこうせんとか。吐き出すバブルの大きさによっては足止めなどにも使えるし、光の屈折を利用した攻撃ミスの誘発も可能になる」

「確かに、言われてみれば先輩はそういう戦い方が好きでしたね」

『目に見えているものだけに囚われてはいけない、それがお前のトレーナーとしての課題だな』

「あー、うん、なんかようやくゲッコウガが言いたいことが分かったような気がするよ」

 

 目に見えているものだけに囚われてはいけない。

 それはつまり見えていないところにも意識を向けろということだ。見えているものなんかポケモン自身でも対処できる。だが、見えていないものに対してまでは経験を積んでいなければ対処のしようがない。

 トレーナーはそこを埋める目になってこそ、センスのあるトレーナーと言えよう。

 イロハには経験が浅いが故の視野の甘さが残っている。今までは彼女の発想力によってカバーできるバトル内容だった。だがこれから向かおうとするところはそんな甘さが命取りとなるような世界だ。トレーナーとして上を目指すのであれば、絶対に克服してもらいたいポイントだな。俺ですら、たまに見えてなかったりするんだから。

 

「んで、三体目はチゴラスか?」

「ふっふっふっ、惜しいですね。いくよ、ガチゴラス!」

 

 あ、進化してたのね。

 

「どうする? お前まだやる?」

「リア!」

『どうやらキルリアがやる気みたいだぞ』

 

 抱っこしていたキルリアがシュタッと飛び降りた。

 どうやらやる気なようだ。

 

「お、キルリアやるか?」

「リア!」

 

 よしよし、それならキルリアに任せるとしますか。

 

「ならキルリアに頼もうかな」

「リアリア!」

 

 なにこのクソかわいい生き物。

 敬礼なんかしちゃって、写真に撮りたかったな…………。

 

「……………」

「……………」

 

 じっと見つめ合う両者。

 体格差がすごい。

 ………ヤドキングみたいにならないよな?

 

「ガチゴラス、かみくだく!」

 

 先に動いたのはガチゴラス。

 デカイ牙で噛み付きに来た。

 

「ねんりきで止めろ」

 

 それを念力で受け止めた。

 

「リア!?」

 

 だが、強引に突破され、デカイ牙はそのまま降りかかってくる。

 

「落ち着け、リフレクターだ」

「ガチゴッ?!」

 

 ガチゴラスは突然現れた壁に顔面をぶつけた。

 結構すごい音がしたぞ。

 

「マジカルリーフ」

 

 怯んだ隙に無数の葉で襲いかかった。

 

「ガチゴラス、ドラゴンテールで撃ち返して!」

 

 ガチゴラスは顔を押さえながら身体を回し、竜の気を纏った尻尾で葉を次々と落としていく。

 

「足元に滑り込め」

「リア!」

 

 その間に足元へと滑り込ませた。

 

「ふみつけ!」

 

 足元に来たキルリアに対し、脚で踏みつけようとじたばたし出すガチゴラス。

 

「シャドーボール」

「リーア!」

 

 キルリアは冷静に躱し、影弾でガチゴラスを打ち上げた。

 あ、また顎にいってしまった。

 

「ガチゴラスを打ち上げるとかどんなパワーしてるんですか」

「たまたまだ、たまたま」

 

 顎の下に急所に当たったんだろう。

 キルリアにはまだそんな力はないし。

 

「それよりガチゴラスの特性はがんじょうあごか?」

「トレースできないんですか?」

「生憎シンクロの方なんでな」

「じゃあ、がんじょうあごだと思う根拠は?」

「ただの勘だ」

「まあそうですよね。というかもう一つの特性であるいしあたまを持ったガチゴラスなんて、ドラセナさんも見たことないって言ってました」

「化石研究所でも数体復元できた過去があるってだけだったしな。そんなもんだろ」

 

 化石から復元されたポケモンにも希少な特性があったりする。だが、希少というだけあって、今現在においても確認されたのは数体のみという結果が出ているのだ。そんな希少種を研究者たちが一トレーナーに渡るようなことをするはずもなく、所持している四天王ですら見たことがある人が何人いるか分からないというのが現状である。

 世知辛い世の中だよな。

 

「ガチゴラス、いわなだれ!」

 

 そんなこんなしているガチゴラスがバトルを再開してきた。キルリアの頭上には無数の岩が作り出されていく。

 

「キルリア、マジカルリーフで岩を砕け」

 

 その岩々を無数の葉でキルリアが当たらない程度に砕いた。

 

「それからねんりきで相手に投げつけるんだ」

「リーアッ!」

 

 そしてキルリアはいけーっというようなポーズでその岩どもをガチゴラス目掛けて放った。

 

「甘いですよ! ガチゴラス、りゅうのまい!」

 

 だが、イロハはガチゴラスに炎と水と電気の三点張りで竜気を練り上げさせ、それを纏うと同時放たれた岩々を粉々にしてしまった。もはやただの砂となり風に流されている。

 

「気をつけろキルリア。ガチゴラスはパワーとスピードが上がった。さっきまでとは違うからな」

「リア!」

 

 全身に漂う竜気はおどろおどろしく蠢いている。

 一度に濃い竜気を生成できるようだ。

 

「アイアンテール!」

 

 さらにパワーアップしたガチゴラスは地面を蹴り上げ、身体を反転させながら竜気を尻尾へと集め、鉄の尻尾を振り上げてきた。

 

「リフレクター」

 

 先程のねんりきで既に受け止められないことは分かっている。

 しかしリフレクターももはや怪しいレベル。だからといって他に抑え込む手段を持ち合わせてはいない。

 仕方ない、ある程度は覚悟しておこう。

 

「大丈夫か、キルリア」

 

 防壁ごと鉄の尻尾で吹き飛ばされたキルリアに呼びかけてみる。よたよたと立ち上がろうとしているため、ダメージを抑えることはできたみたいだ。

 

「リア………」

 

 だが、一発でこれほどのダメージになるとは思いもしなかったな。

 

「りゅうのまい!」

 

 げっ、さらに積んでくるのかよ。

 これは結構ピンチだぞ。

 

「げきりんからのアイアンテール!」

 

 再度練り上げた竜の気をげきりんにより暴走させ、それを鉄の尻尾に集め始めた。

 これはトドメを刺しに来てるな………。となると、まだ完全な状態になってないがアレを試してみるか。

 

「トリックルーム」

「なっ?!」

 

 キルリアは尻尾を振りかざしてくるガチゴラスを素早さがあべこべになる部屋へと閉じ込めた。

 ここからは俺にもどうなるか分からない。まずは技を上手く発動できただけでも上出来なのだ。

 あとは効果がいつまで保つのか。そこで完璧にマスターしているのかを見極めるしかない。

 

「キルリア、ねんりき」

 

 竜の気が仇となり、部屋の中で動けなくなっているガチゴラスをサイコパワーで四方の壁にぶつけていく。

 あー、これならいっそ効果が切れる前にこっちから部屋を壊した方が楽だな。

 

「キルリア、引き寄せろ」

 

 壁から天井に、天井から床に打ち付け、最後にキルリアの前へとガチゴラスを引き寄せた。この距離からならさすがに効くだろ。

 

「マジカルシャイン」

 

 効果抜群のフェアリータイプの技。

 自身から発する光を打ち付け、部屋の壁を砕きながらガチゴラスを吹き飛ばした。

 

「ガチゴラス!?」

「チゴ………!」

 

 結構効いたみたいだが、まだ戦闘不能には至ってないか。

 

「まだいけるんだね。それならいわなだれ!」

 

 むぐぐと険しい顔で起き上がったガチゴラスは再度キルリアの頭上に岩々を作り始めた。

 

「マジカルリーフで落とせ」

 

 こちらも先程同様、無数の葉で岩々を砕いていく。

 

「そっちは囮ですよ。ストーンエッジ!」

 

 囮なのは分かっている。

 さっきも同じようなことをしていたんだからな。

 それに今ので終わらせるなんて考えているのであれば、一から叩き直す必要がある程だ。

 

「テレポート」

 

 テレポート。

 指定した座標に瞬時に移動する技。

 だが、まだキルリアはこれも綿密な座標設定をすることができないでいる。

 この子、所謂バトルが不得手なタイプなのよ。だから威力の高い技とか複雑な技はまだ完成しきっていないのだ。

 

「その可能性も読んでますよ。ガチゴラス、後ろ!」

 

 お、今回は狙ったところに飛べたようだな。

 まあ、だからこそイロハには見つかってるんだが。

 

「リフレクターを飛ばせっ」

 

 コマチはよくカマクラに壁を飛ばすように命じていた。ダメージなんて微々たるものだが、その意外性は大きい。やられた相手の不意を突くには充分である。

 

「ッ、そう来ますかっ! ガチゴラス、リフレクターを蹴ってバク宙!」

 

 迫り来る壁をガチゴラスは右足で蹴り、大きく後ろに弧を描いた。

 

「かわらわり!」

 

 一回転した身体は一度地面に降り立ち、すぐさま蹴り上げて壁を叩き割った。

 ちゃっかり覚えさせてるし………。

 

「もう一度リフレクター」

「そのままアイアンテール!」

 

 そして勢いをそのままに鉄の尻尾で再度作り上げた壁を強引にずらした。これにはキルリアも驚いている。

 

「マジカルシャイン」

 

 だからと言ってトレーナーまでもが驚いていてはいけない。しっかり指示を出してやらなければ無防備のまま、急所を突かれてしまう。

 俺が指示を出すとキルリアは光輝き、鉄の尻尾ごとガチゴラスを呑み込んだ。

 結果はどちらからともなくバタリと倒れ、地面に伏している。引き分けだな。

 

「……………キルリア、ガチゴラス、共に戦闘不能ね」

 

 ユキノの采配も下り、俺はキルリアを回収に向かった。

 

「キルリア、お疲れさん」

「リアー………」

「ほれ、オボンの実だ」

 

 疲れたーと言わんばかりぐてーとしているキルリアにオボンの実を食べさせた。

 むしゃむしゃと嚙る嚙る。

 育ち盛りなのかね。

 

「リア!」

「よしよし、頑張ったな」

 

 食べた! とアピールしてくるので頭を撫でてやった。

 

「リーア」

 

 すると両腕を開いて抱っこしてーのポーズ。

 

「よっと」

 

 仕方ないのでそのまま抱き上げて抱っこしてやると、嬉しそうに抱きついてきた。

 娘ができるとはこういうことなんだろうか。

 

「イロハ、ガチゴラスなんだが他に噛み付く系の技は覚えてるのか?」

 

 ガチゴラスの他の技について聞いてみたら、イロハもガチゴラスをボールに戻していた。

 

「………いえ、チゴラスの時からかみつくを覚えているくらいです」

 

 ガチゴラスが覚えているのはかみつく、かみくだくだけってことか。なら、折角の特性なのだから覚えて有効利用した方が断然いいな。

 

「そうか、ならかみなりのキバ、こおりのキバ、ほのおのキバ、どくどくのキバは習得するとしよう。あとはもろはのずつきとりゅうせいぐんを最終的な目標にするか」

「がんじょうあごを活かせってことですね」

 

 四色の噛み付き技を挙げるとイロハも俺が何を言いたいのか理解してくれたようだ。

 

「ああ、まずは持ち味を活かさない理由がないからな。それでまだバトルに詰まるようなところがあれば、小技を覚えさせるのも手だ」

「分かりました。見てくれてありがとうございます」

 

 取り敢えず、新入りたちについてはこんなもんか。

 と、どうせなら傍から見ていたユキノにも意見を聞いてみるか。

 

「ユキノはどうだ?」

「そうね、基本的に私が言うようなことはないのだけれど、強いて言えばあなたの持ち味を活かしきれてなかったように思えるわ」

「私の持ち味、ですか………?」

 

 イロハの持ち味となると二つある。一つはココドラで見せてくれたポケモンの進化のタイミングをバトルに利用すること。そしてもう一つーーー。

 

「フィールドの支配、か?」

「ええ、四天王のお三方から指導いただいて攻撃面はタマゴから孵ったポケモンとは思えないくらい充実していたわ。けれど、それを活かすフィールドを作り上げられていなかった。まあ、他のポケモンで補うのが常ではあるのだけれど、あなたの場合はポケモン自身で好みのフィールドを作らせてきたのだからそこをもっと強調した方がいいと思うの」

 

 確かにちょっと薄い感じはあったな。

 どちらかと言えば、今はマフォクシーたちにフォローしてもらうことで力を最大限発揮できそう、というのが俺の印象だ。攻撃技は申し分ない。あとはこれからを見据えて先に挙げた通りの技を習得するとしても、その技自体を確実なものにするための土台作りが仲間頼りである。

 

「だそうだ」

「そうですね。言われてみれば攻撃技ばかりに気を取られていたと思います」

「最初はそれでいいと思うわ。野生とは違ってバトルに慣れさせることも大事だもの。まずは攻撃のやり方を覚えてもらわないと。だからバトルの内容をもっと豊かになるように考えていくのは今からでも充分よ」

「だな」

 

 うん、となるとやっぱり小技もちょいちょい覚えさせていくか。どれが本人にとって合うのかは修行の中で判断するしかあるまい。

 

「………あの、先輩」

「ん? なんだよ、改まって」

 

 急に声のトーンが下がった。

 恐らく何か重要なことでも言おうとしているのだろう。

 

「私ジムリーダー試験を受けようと思ってます」

 

 はい? ジムリーダー試験?

 

「また急だな。何かあったのか?」

「いえ、特には。ただ先輩やユキノ先輩、四天王の皆さんたちを見ていたら私ももっと上を目指してみようかなって思ったんです」

 

 上を目指すねぇ。

 目標が高いのはいいことだが、大丈夫か?

 こう言ってはアレだけど、まだトレーナーになって一年だぞ?

 そんな奴がジムリーダー、つまり挑戦しにくるポケモントレーナーの力量、素質、改善点その他諸々を判断できるとは思えんのだが。経験がまず足らんだろ。

 

「あらあら、イロハちゃんたら。嬉しいわぁ」

「うぉっ?! いたんすか」

 

 ぽわんぽわんした声の方を見ると四天王三人がいた。

 え、いつからいたの?

 

「イロハ殿がこちらで貴殿とバトルをすると聞いたのでな」

「君のところに行くように進めた手前、見届けないのも無礼かと思ったのだ。それに話もある」

「話?」

 

 見届けるって、まだそんな大層なことしてねぇし。そもそも修行方針を決めるにあたっての今の実力を見ただけなんだけど。

 それと話って何?

 俺が聞かなきゃいけない話なのか?

 

「そのことについては私から説明するわ」

「ハルノ………ちょっと待て。まさかとは思うがこの件、ハルノが絡んでたりするのか?」

 

 何事かと思案しているとハルノが現れた。

 うん、もうそれだけで何となく察した。

 それよりヒャッコクの方での仕事は大丈夫なのか?

 

「絡んでるも何も………」

「この話を企てたのは…………」

「ハルノ殿である」

「…………はあ、うん、もう何かやっぱりかって感じだわ」

 

 何か誰か裏で動いてそうだとは思ってたしな。おばさんかなとも思ったがハルノと聞いて納得である。

 

「それで話というのは…………?」

「イロハちゃん、あなたは既にジムリーダー試験に合格しているわ。それも3タイプのね」

 

 3タイプ………。

 そのワードで思い当たる三人に目を向けるとおばさんは微笑み、男性二人は苦笑いを浮かべていた。

 そういうことなのね。

 

「はい?」

「………ドラゴン、みず、はがねタイプ専門のジムリーダーとして合格してるってことなんだろ?」

「あら、理解が早いわね」

「えっと、つまり………?」

 

 イロハは未だ何を言われているのか掴めていないようで、俺に説明を求めてきた。

 

「お前はハルノの計画により四天王三人に鍛えられ、結果としてジムリーダー試験を突破してたらしい」

 

 四天王三人が手塩にかけて育てていたのには理由があったわけだ。

 まあ、それだけで動いてくれていたわけじゃないだろうけど。

 

「うぇっ?! マジですか!?」

「ええ、本当よ。知識、実力ともに合格ラインを突破しているわ」

「い、いつの間に…………」

「ほら、三人からそれぞれ最後の試練なんてのを受けさせられたでしょ? 筆記もだし、バトルも」

「………え、あれ………? た、確かに知らない人たちが見に来てるなーとは思ってましたけど………」

「はあ………、何で俺たちには言わなかったんだよ」

「だって言ったら絶対止めたじゃん」

「………そうね。イロハにはまだ早いって止めたと思うわ」

 

 ハルノの疑念にユキノが代弁してくれた。

 

「でもイロハちゃんの成長は著しいわ。吸収力、応用力ともにまだまだ成長期よ。ここで歯止めをかけるなんて勿体ないじゃない」

 

 それは俺も認めている。

 イロハの成長は著しい。俺の妹のコマチよりも遅咲きで実力を発揮したユイよりも著しい。ユイなんか差をずっと埋められていないまである。それくらい止まらないのだ。

 逆にユイは一点突破という感じに育っているような気はするがな………。結局、ダイゴさんに負けてからまた連勝し続けてたみたいだし。あの子、一体どうなりたいんだろうね。

 ユイの話はいいとして、イロハの成長速度にハルノは歯止めをかけたくなかったようだ。俺だって止める気はないが、だからっていきなりジムリーダー試験はない………ちょっと待て。イロハの成長はジムリーダーごときで終わるようなもんじゃないぞ。それはハルノも…………。

 

「………ほーん。つまりまだ何か隠してるわけか」

「………」

 

 あ、ビンゴか。

 

「ハルノ?」

「……………」

 

 素朴な疑問を問いかけるように声をかける。そして距離をじわりじわりと詰めていく。キルリアまでもがジト目でハルノを見ている。きっと俺の真似をしているのだろう。

 その間全く以って目を合わせようとしない。いじらしいというかなんというか。

 

「ハルノ」

「うわっひゃいっ!」

 

 耳元で囁いたらすごい反応してくるな。およそ乙女が出す声じゃないぞ。

 

「正直に言うんだ。怒らないから」

 

 って言う奴に限って既に怒ってるよね。まあ別に俺は怒ってないんだけど。ただ反応が面白くてついイタズラしちゃうだけ。子供かよ。

 

「………イロハちゃんとユキノちゃんを次の四天王候補にしようかなーって」

「ほーん」

 

 ほーん、イロハはまあそこに行き着くんだろうなとは思ったが、ユキノもねぇ。

 

「え? 私も?」

 

 ユキノも聞いてない話のようだ。

 

「………ダメ?」

 

 あ、反撃してきやがった。顔が近いことをいいことに目をうるっとさせて上目遣いとか効果抜群だぞ。

 

「………最終的な決断は本人の意思だからな」

「うん………」

 

 お仕置きとして髪をわしゃわしゃしてやった。キルリアも真似してわしゃわしゃしている。

 そんな目をされては俺に出来ることなんてこれくらいしかないし。

 

「先輩、甘いです。甘すぎます」

「ばっかばか、うるっとした上目遣いとかハチマンには効果抜群だからな!」

「誇るようなことじゃないと思うのだけれど」

 

 そりゃ知らん奴にやられたら裏を勘ぐるけどな。

 ハルノの場合は計算してたとしても、それを見せてくるってだけで本気なのは伝わってくるし。

 

「ちなみに他に候補はいるのか?」

「エイセツジムのウルップさんくらいかな」

「まあ。繰り上げで考えたら妥当だな」

 

 結局のところジムリーダーにしろ四天王にしろ、なり手不足なのが今の現状だ。俺の周りにいくらでもいるだろうと思う奴も少なくないだろうが、いかんせん癖が強すぎる。

 まず俺は四天王としては強すぎて既に降ろされた。というか自ら降りたので却下。

 暇そうなザイモクザはロックオンからのでんじほうしか基本撃たないレールガン厨。多分、チャレンジャーが泣くので却下。何なら本気を出したザイモクザはチャンピオン級と言ってもいいような鬼畜なので選択肢にすらならない。

 ハルノはチャレンジャーの心を折るだろうから却下。

 シズカさんは適任ではあるが、今はトレーナーズスクールの方に勤しんでいるので却下。あと専門タイプがコルニと被る。

 育て屋の三人はサガミはポケモン側に問題があるし、オリモトはそもそも興味ないし。ナカマチさんも同意見のため却下。何だかんだで今の生活を気に入ってくれているらしい。給料上げられるよう頑張るからな。

 となると残りはユキノとメグリ先輩なのだが、後者はスポンサーのおじ様たちに大人気なため、その役目を降ろすことが出来ず却下。

 で、ユキノが残るわけだ。

 いやー足りない。後継者不足ってほんと大問題だわ。

 ハルノはそれを危惧して今回の計画に至ったんだろう。一番可能性があり、一番経歴がないイロハの育成計画に。

 

「エックス君ってことも考えられるのだけれど」

「ありゃ無理だろうな。基本そういうのに興味ないタイプだ」

「でしょうね」

 

 ユキノも提案こそしてみたものの、最初から無理だろうということは分かっているようだ。まあ、疲れたから棄権するような奴だしな。

 

「あのー。そもそも私が四天王になれたりするんですか?」

「まず四天王になるためにはポケモン協会で指名されなければならない。そのためにも実力と経歴が必要だ。俺の場合、リーグ戦で優勝。しかもチャンピオンに勝ったっていう経歴がある。ユキノの場合は三冠王って称号。だけど、今のお前には何もない。経歴として残せるものが何もないんだ。だからハルノはジムリーダー試験、それも複数タイプの試験を突破という前代未聞の箔を付けようとしてんだよ」

 

 四天王の選ばれ方は色々ある。一般トレーナーの中から実力者を絞り、ポケモン協会側で指名したり。

 あるいはジムリーダーの中から指名したり。

 あるいは現四天王の四人に勝ち抜きチャンピオンに勝てば、新たなチャンピオンが生まれ、繰り下げで旧チャンピオンが四天王になったり。そこは様々である。

 だが、どれも共通するのは実力と経歴だ。それがなければ篩にもかけられることはない。

 

「あ、なるほど。そういうことでしたか」

「ただなー、被るんだよな。今のままだと」

「被る? 何がですか?」

「専門タイプが」

「あー…………」

 

 まあ現四天王にポケモンもらったりしてるしな。タイプが被るのも仕方ないことではある。

 

「うふふふ、なら私は引退しようかしら」

「それじゃ本末転倒でしょうが。まあ、そこは後からどうにでもなるだろ。まずは箔をつけていくことだな」

「ユキノちゃんもいるしねー」

 

 あんまりユキノの負担を増やしたくないんだけどなー。

 現時点で一番適任なのは間違いなくユキノだ。四天王内でのタイプも被らず、四天王最後の砦には相応しい。いっそチャンピオンを交代してって手もあるが、カロスの顔を変えるというのもそれはそれで頭を悩ませる問題である。あまりにも有名すぎるんだよ。世界規模の大女優って超交代させにくいんですけど。

 そこが一番のネックかもしれないな。

 ただ仮に交代させたとしても、いよいよ以って俺がチャンピオンにさせられそうだからなー…………。三日で辞めた奴が再びってのもどうかと思うわ。

 

「ま、ハルノの思惑通りではあるがイロハ自身がその気になったんだ。………目指すんだろ?」

「はい! 私も先輩たちが見ている世界を見てみたいです!」

 

 何はともあれイロハがやる気を出したんだ。一番弟子のために一肌脱ぐとしますかね。

 

「なら、取り敢えずは俺とユキノの知識を改めてお前に叩き込んでやるよ。考えるのはそれからだ」

「そうね。まずはほのおとこおりのジムリーダー試験を突破しましょうか」

「はい、よろしくですっ!」

 

 今日も今日とて平和な一日である。

 

「リア!」

「おーよしよし、キルリア今日もかわいいぞー」

 

 話が切り上がればキルリアを高い高いしてしまうくらいには平和である。

 

『フッ、親バカだな』

「おいゲッコウガ。聞こえてるからな」

「さ、先輩。他の子たちも見てもらいますよ!」

 

 この後、リザードンでデンリュウ、フライゴン、ガブリアスを三タテしてやった。

 やっぱり御三方から詰められるだけ技を詰め込まれていたのは言うまでもない。なのに、レシラム化という負荷を抱えながら強くなって来たためか負荷がなくなった分、通常モードでメガシンカ並みという力を手にしてしまっており、当然といえば当然の結果である。しかもまだまだ余裕そうだったんだよなー。

 俺のポケモンはどうしてこんなにバカげた力を持ってる奴しかいないのだろうか。キルリア、お前はそのまま大きくなってくれればいいからな。

 あ、ちなみにイロハの今回の編成は暫定的なドラゴンチームらしいぞ。




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタルetc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ、ぼうふう、ねっぷう、あなをほる、れんごく、かげぶんしん
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび、ふぶき、たたみがえし

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり、じならし、アイアンテール、けたぐり、つじぎり、グロウパンチ、まもる

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ、ほのおのうず、まもる

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう、だいちのちから、カウンター、ばかぢから

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・ダンバル(色違い)


イッシキイロハ 持ち物:キーストーン、りゅうのウロコ
・デンリュウ(モココ→デンリュウ) ♀
 持ち物:デンリュウナイト
 覚えてる技:ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、パワージェム、でんじほう、アイアンテール、りゅうのはどう、こうそくいどう、じゅうでん、げきりん

・フライゴン(ナックラー→ビブラーバ→フライゴン) ♂
 特性:ふゆう(ちからずく→ふゆう)
 覚えている技:ギガドレイン、かみくだく、むしくい、じならし、すなじごく、がんせきふうじ、りゅうのいぶき、ばくおんぱ、だいちのちから、りゅうせいぐん、ドラゴンダイブ、ストーンエッジ、じわれ、げきりん

・ガブリアス(フカマル→ガバイド→ガブリアス) ♂
 特性:さめはだ
 覚えてる技:あなをほる、りゅうのいかり、ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、ステルスロック、ドラゴンダイブ、げきりん

・ガチゴラス(チゴラス→ガチゴラス) ♂
 特性:がんじょうあご
 覚えてる技:げきりん、かみくだく、ドラゴンテール、ふみつけ、いわなだれ、アイアンテール、ストーンエッジ、りゅうのまい

・シードラ(タッツー→シードラ) ♀
 持ち物:ピントレンズ
 特性:スナイパー
 覚えてる技:げきりん、シグナルビーム、ハイドロポンプ、ラスターカノン、こうそくいどう、えんまく、きあいだめ

・コドラ(ココドラ→コドラ) ♂
 特性:いしあたま
 覚えてる技:ドラゴンダイブ、じならし、メタルクロー、みずのはどう、がんせきふうじ、アイアンヘッド、ロックカット

控え
・マフォクシー(フォッコ→テールナー→マフォクシー) ♀
 特性:もうか
 覚えている技:かえんほうしゃ、ほのおのうず、ソーラービーム、にほんばれ、ワンダールーム、スキルスワップ、メロメロ、ニトロチャージ、マジカルフレイム、シャドーボール、ブラストバーン、だいもんじ、サイコキネシス、トリックルーム

・ヤドキング ♂(校長からの贈り物)
 覚えてる技:サイコキネシス、みずでっぽう、パワージェム、まもる、うずしお、ずつき、トリックルーム、シャドーボール、でんじほう、かえんほうしゃ、きあいだま、いやしのはどう、ふぶき

・ラプラス ♀
 覚えてる技:れいとうビーム、フリーズドライ、あられ、ぜったいれいど、でんじほう、げきりん

・ボルケニオン
 覚えてる技:スチームバースト、ハイドロポンプ、オーバーヒート

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