ポケモントレーナー ハチマン 〜ぼーなすとらっく集〜 作:八橋夏目
書き上げる期間が長かった分、中身まで長くなってしまいました。
ということで、今回はチャンピオン・四天王戦の3戦目になります。
「うーわ、人多いな………」
『これうめー』
「お前今から戦うってのに何食ってんだよ」
『ミアレガレット。ラルトス食うか?』
「ラル!」
チャンピオン・四天王への挑戦劇二日目。
会場入りした後、控え室で姉さんが来るのを待っているのだけれど、これから対戦する相手であるはずのハチマンも何故か一緒にいる。
別に嫌というわけではない。好きな人と一緒にいられるのは、それだけで幸せなことなのだから。
ただ一つだけ物申したい。あなたたち、緊張感無さすぎないかしら?
「ねぇ、あなたたち緊張感なさすぎないかしら………」
「ばっかばか、こんな人前に出るのなんて超緊張するに決まってるだろうが」
私たちは控え室に設置されているテレビから各旅客船にいくつか設置されたカメラの映像を観ている。十秒ごとに映し出される船が変わるため、各船の様子を伺える。オーダイルの人形を持った少年やユキメノコのシールを頰に貼り付けた少女など、今か今かと待ちわびている姿が何度も何度も流れており、一日目の販促は概ね上々だったようね。
「それにしては自由すぎよ」
「それはゲッコウガに言え。俺は悪くない」
「あなたのポケモンでしょうに」
「こいつがバトル以外で俺の言うこと聞くと思うか?」
「さあ、どうかしら。案外言えば伝わるのではないかしら?」
「ないだろうな。出会いからしてこいつ自由だし」
自由、ね。
ハチマンのゲッコウガは元々難のあるポケモンだった。出会った当初はケロマツで見た目はそれなりに可愛げがあったのに、その実ハチマンの頭を寝床にしたり、技を三つしか使う気がなかったりとやりたい放題。けれど、そこはハチマン。特に拘束することもなく自由にさせている一方で、ケロマツが限界を感じた時には進化を促したり、メガシンカを手に入れようした際には、特性を変える薬を用意して来たりとしっかりと見ている。というかトレーナーとしてこれ以上ないくらい手を差し伸べるタイミングが良すぎるくらいだわ。
私もこれくらい出来ていればオーダイルを暴走させることもなかったのでしょうね。あれは今でも悔やまれる過去。だけど、あの事があったから私たちは強くなれた。同時にこの背中に追いつきたいという目標も出来た。後悔はしているけれど、過去をなかったことにはしたくないわね。
「ヒキガヤくーん、そろそろいくよー」
「うす」
彼の自由なポケモンたちを眺めていると姉さんたちが入って来た。そろそろ準備が整ったようね。
「ハチマン、緊張してる?」
「そりゃ、こんな大衆の面前に放り出されるわけだし」
「カロスの英雄が何言っちゃってんのよ! 今更じゃない!」
「元々そういうのが苦手なんだよ。何度も言わせんな」
「そろそろ慣れた方がいいと思うのだけれど」
「すぐに慣れるならこんな苦労はしねぇよ」
難儀なものね。
カロスポケモン協会の理事なんて人によってはチャンピオンよりも興味を持つというのに。そうでなくとも今は四天王。注目の的、的中の的だわ。
「それじゃあ、ヒキガヤ君。行こっか」
「へーい。お前ら、いくぞー」
「ラール!」
『へーい』
ふふっ、やっぱり似た者同士ね。一挙手一投足がまるで同じだわ。
「まるでハチマンが二人いるみたいだねー」
そう思ったのは姉さんも同じみたいね。
『さあ、いよいよ二日目! 昨日は見事勝利を修めた三冠王! この勢いでチャンピオンに辿り着くことができるのでしょうか!!』
どうやら全ての船の準備が終わったようで、昨日の実況者の声が響いて来た。
『では、皆さんお待ちかね! 本日最初の壁に登場して頂きましょう! 四天王ハチマーン!!』
「ラールラール!」
『おや? ラルトスでしょうか? 今四天王側からラルトスが…………帰って行きましたね』
ラルトスったら………。
好奇心旺盛だからハチマンより先に出ちゃったのかしら。
「ユキノちゃん」
姉さんに呼ばれて振り返ると何かを握らされた。
「これは………」
開いてみると………キーストーン…………。
「やるなら全力でやらなきゃだよ」
「………そうね。ハチマンをギャフンと言わせなければいけないものね」
『それでは当大会の主人公をお呼びしましょう! 三冠王ユキノ!!』
「ユキノちゃん、いってらっしゃい!」
「ええ、いってきます!」
今日この時のために、私はポケモンたちとともに特訓して来た。ハチマンと戦うために、ハチマンを、ハチマンのポケモンたちを研究して来た。
確かにデオキシスやギラティナにより予定は狂わされたし、リザードンはメガシンカを失ってしまったけれど、それくらいは想定の内。ずっと彼の背中を追い続けていれば、嫌でも思い知らされる彼の巻き込まれ体質と自己犠牲に走る性格。それらの小さな積み重なりが今回一つの事件に繋がってしまっただけのこと。
でも、そのおかげで私たちも強くなれた。心身ともに強くなったわ。
だから今日は、これまでの私を、私たちをハチマンにぶつけるだけよ!
「………随分と目つきが変わったな。この十数分の間に何かあったのか?」
「いいえ、特に何もないわ。ただ、覚悟を決めただけよ」
「覚悟、ねぇ」
「ええ、伊達にオーダイルの暴走からあなたのことを追いかけてるわけではないわ。あなたの側にいてあなたの実力を間近で見てきてるのよ。他の人が漠然とした強さしか思い浮かべられなくとも、私はあなたの強さを嫌という程知っているわ」
「そうだな、確かにお前とは色々あった。オーダイルを暴走させるわ、シャドーに乗り込んで素人丸出しで動くわ、挙句ロケット団の人質になるわ。毎度助けるこっちの身にもなれって思ったくらいだぞ」
昔の私は無知だったものね。そのせいでハチマンには迷惑をかけっぱなしだったわ。
「ーーでも、その経験がなければユキノが三冠王だなんて呼ばれることもなかったと思ってるがな」
「ええ、そうね。私もそう思うわ。あなたと出会ってなければずっと姉さんの背中を追うだけのユキノシタハルノの劣化版にしかなれなかったでしょうね」
「劣化だろうが他の奴からしたら充分だろうがな」
「でも『ユキノシタユキノ』としてはそれで満足できないのよ」
「だったら見せてもらおうじゃないか。『ユキノシタユキノ』としての最高のバトルを」
「ええ、そのつもりよ。その覚悟を持ってあなたに挑むわ!」
でも、あなたはそんな私から距離を取りながらも決して見放そうとはしなかった。だから私はあなたとこうしていられるの。
今日はあなたから学んだことを全部出し切ってみせるわ!
『彼女、気合い入ってますね』
『そりゃ彼女からすれば、最愛にして最高のライバルであり師匠みたいなもんなんよ、彼奴は。カルネと戦うよりも意気込みは高くもなるわい』
『四天王ハチマン、これまでのバトルでは見せなかったラルトスやゲッコウガを連れての登場!! 果たして彼のユニークなバトルに三冠王はどこまで対応できるのかっ!! そして勝利をもぎ取ることができるのかっ!!』
「それではバトル始め!!」
ゲッコウガが初手で出てくる気配はなさそうね。となるとリザードンも然り。ならばーー。
「行きなさい、ギャロップ!」
様子見、というわけではないけれど。
ハチマンが誰を出して来るか分からない以上、満遍なく対処可能なポケモンの方がいい。最悪交代という手もあるのだから。
「ギャロップか。なら、まずはこの壁だな」
「ヘッガ!」
ヘルガー………。
同じほのおタイプにどう戦うかってことかしら。
本当に厭らしい性格だわ。ギャロップもヘルガーも特性はもらいび。ほのおタイプ同士の対決なのにほのおタイプの技は効果がないなんて、これ以上ないやりにくいバトルだわ。
「…………………」
「…………………」
先に動けばすぐにハチマンが隙を突いて来る。
でも攻撃しなければ、何をして来るか分からない。
ああ………、ほんとやりにくい相手ね。
「なんだ? 動かないのか?」
「そっちこそ、攻撃して来ないのかしら?」
こちらが先に動くのは論外ね。
「なら、こっちからいくか。ハイパーボイス」
っ?!
「ギャロップ、でんこうせっかで離れて!」
轟音による攻撃。
ギャロップもポケモンである前に音を感知する生き物。ダメージも入る上に耳をやられてしまうわ。
「ドリルライナー!」
丁度加速しているのだから、このまま攻撃に転じるのが先決ね。
ギャロップは轟音の波から一旦離れるとそのままの勢いでヘルガーへと突っ込んで行く。
「受け止めろ、あくのはどう」
「なっ?! 届かない!?」
あと一歩。
あと一歩というところで黒いオーラによって受け止められてしまった。
「ヘドロばくだん」
っ?!
ヘルガーはギャロップを跳ね返すとヘドロを打ち出し、次々とギャロップへと飛ばして来た。
「ギャロロロ………」
「ギャロップ!?」
唐突に受け止められた上に、無防備な状態で毒技を受けてしまえば……………。
「………ロロ」
毒状態………。
まさかハチマンはこれを狙って…………?
いえ、過程がどうであれ結果はギャロップがダメージと毒を浴びてしまった。それだけのこと。
ここから先、短期決戦に持ち込むしかないわね。
「でんこうせっか!」
「ロロ!」
加速はまだ出来る。
「ギャロップ、撹乱しなさい!」
今のは単調に一直線に攻撃を仕掛けてしまったことが敗因でしょう。ならば、撹乱してヘルガーの集中力を奪ってからだわ。
「纏え」
ハチマンがそう指示するとヘルガーは黒いオーラを取り込んだ。するとヘルガーの目の色が赤く染め上がっていった。
『い、一体あれはどういうことでしょうか!! ヘルガーがあくのはどうを取り込み、目が赤く染め上がってしまいました!!』
ハチマンのヘルガーだからこそ出来る技術、その名も擬似ダーク化。元々シャドーのポケモンだったヘルガーはリライブをしてダークオーラを除去しているけれど、一度ダーク化しているのを活かし、あくのはどうで再現しているというもの。
知らない人が見れば何が起きているのか分からないのでしょうけど、私は何度も見て来ている。だからダーク化したヘルガーの強さも知っているけれど、果たしてギャロップに対処出来るかどうかはやってみなければ分からない。見たことはあっても一度もバトルはしたことがないもの。
「ダーク化………、何気に初めてなのよね」
「そういやそうだったな。そもそもお前とバトルするってのも中々ないしな」
「ええ、フレア団事件以降は尚更、ね」
さて、どうしましょうか。
まず正攻法では勝てないでしょう。けれど、毒に侵されている今、時間は掛けられない。
「なら正攻法から外れるしかないわね」
相手は私を幾度となく助けてくれた私のヒーロー。
私の予想外の方法をいくつも編み出し、あの姉さんでさえも圧倒された想像力の持ち主。制限された中で技の特徴や組み合わせで様々な攻撃手段を増やす化け物よ。
ならば、私もそんな化け物にならなければ勝利への道はないもの同然。今ギャロップが使える技はでんこうせっかとドリルライナーと後二つ。この二つを何にするかによって勝敗は決する。
「………ギャロップ、突っ込みなさい!」
加えて専売特許のほのおタイプの技が使えないと来た。
ほんと、敵に回すと戦う前から戦法を絞られるのだから困ったものだわ。
「同じ攻撃なら意味ないぞ?」
「同じじゃないわ。ギャロップ、まもる!」
でんこうせっかにより加速した状態からの防壁を張っての突撃。でもこれは近づくためのもの。真の攻撃はここからよ!
「そのままドリルライナー!」
よし、決まった!
これで効果抜群な上にゼロ距離から攻撃で急所にも当たったはずよ。
「………なるほど。ちっとは考えたな」
「………ええ、伊達にあなたの背中は追ってないわよ」
「んじゃ、こっちもやりますかね」
…………やはりオーラを纏ったことで防御力も上がっているのね。一枚あるのとないのとでは違うということかしら。
「ヘルガー、ちょうはつ」
「ヘヘルッ」
「ッ!?」
なんてこと!?
「ダメよ、ギャロップ! 挑発に乗ってはダメよ!」
「ギャロロロロッ!」
ああ、挑発に乗ってしまった。
ギャロップは今攻撃することしか考えられなくなっている。人間と同じで頭に血が上ってしまった状態だわ。
「ギャッロ!」
「ッ、ギャロップ、でんこうせっか!」
勝手に走り出してしまったギャロップに何とか技を発動させることには成功した。けれど、これでは動きが単調になってしまっている。
…………オーダイルが暴走した時を思い出すわね。あの時は自分の力に呑まれて起きたものだけれど、私の声が届かない点では同じこと。
暴走しなくとも声が届かなくなる状態に陥ることなんて今までなかったものだから失念していたわ。それと経験不足ね。
「ドリルライナー!」
「ハイパーボイス」
「ルゥゥゥウウウウウガァァァアアアアアッッッ!!!」
そんなっ?!
まさか音の波だけで受け止めているというの!?
「だったら、ギャロップ! 回転速度を上げなさい!」
怒りに任せた攻撃になっているのなら、そのボルテージを上げるくらいしかやり様はない。
「ギャロロロロロロロッ!!」
少しずつ、少しずつだけれどヘルガーへと近づいている。
「やめて躱せ」
突如、音が止み急加速したギャロップはヘルガーを捉えることなく地面に激突した。
「ヘドロばくだん」
このままではやられてしまう。けれど躱すことは出来ない。
「ただでやられて堪るもんですか! ギャロップ、スピードスター!」
ギャロップが使える技の中で唯一といっていい追尾機能を持つ必中技。威力は高くはないけれど、無数の星の光線があらゆる方向から攻撃を仕掛けるため、ヘドロと相殺されながらヘルガーへと向かっていった。
ギャロップはこれで戦闘不能になるのは間違いなし。そうでなくとも毒によるダメージが積み重なっているわ。耐えたとしても毒で倒れるのが落ちね。
「…………ギャロップ、戦闘不能!」
さあ、ヘルガーは…………!?
「残念だが、ヘルガーはこの通りだ」
ちょっと期待増しの眼差しでヘルガーを見やると、大きく息を切らしながらも立ち上がるところだった。
ダメ、だったのね。でも、ヘルガーはこれでダメージは相当溜まっているはずよ。
『一体目を制したのは四天王ハチマン!! ギャロップの意表を突いた攻撃にも冷静に対応して見せました! 強い、強いぞ四天王!!』
「ギャロップ、お疲れ様。ゆっくり休みなさい」
「ヘルガー、お疲れさん。お前も戻って休んでていいぞ」
ギャロップをボールに戻していると、ハチマンもヘルガーをボールに戻していた。
まさか私のポケモンごとにハチマンもポケモンを替えて来る気なのかしら。
「あら、ヘルガーは退場なのね」
「そりゃダメージ負ってるからな。ギャロップの壁としては充分働いてくれたし普通に休ませるだろ」
これがリザードン一体でダメージを負って特性のもうかを発動させて、数瞬だけ姿を変えてまで姉さんに勝った男の言葉とは思えないわね。あの時のハチマンにはそもそもリザードンしかいないため、休むという概念がなかったもの。
それが仲間を増やしたことでこういうゆとりのある戦い方に変化するなんて、これも一つの成長なのでしょうね。
………全く私も重症ね。ギャロップを倒されたというのにハチマンの変化に喜んでいるなんて。
「ええ、そうね。役割を果たしたのにまだ戦わせるのは酷というものよね。では、次いきましょうか」
さて、次よ。
次は誰で来るのかしら………。
「行きなさい、ユキノオー」
「ボスゴドラ、よろしく」
ヘルガーといい、この男の頭の中では何が描かれているかしらね。
「丁度いいや、ガンピさんのボスゴドラとはちょっとだけ違った戦法を見せてやるよ」
「へぇ、それは楽しみだわ。でもその前に動けないでしょうけどね! ユキノオー、ふぶきで氷漬けにしなさい!」
ガンピさんとは違った戦法。
つまり、同じポケモンでもこちらも戦い方を変えなければいけないということ。それは簡単そうでとても難しいことだわ。しかも昨日の今日でとなると身体が勝手に反応してしまうかもしれない。
動かれない内に動きを封じてしまうべきね。幸い、ユキノオーの特性で雪が降り始めたことだし。
「ロックカット」
素早さを上げるいわタイプの技。
身体の表面を滑らかにして空気抵抗を少なくするとか、そんな原理だったかしら。
ボスゴドラは動きが遅い分、パワーがあるポケモン。それが素早くなるということは重たい一撃が反応出来ない方向から繰り出されることも視野にいれなければならないわね。
「動かれる前にくさむすびで捉えるのよ!」
動きが遅いのはユキノオーも同じ。でもユキノオーには素早さを上げる技がない。幸い氷漬けになってくれたのが救いかしら。
ただ油断は禁物。相手は群れの元リーダーでハチマンの指示もそつなくこなせる実力者。氷漬けだけでなく草で雁字搦めにしてもまだ分からないわ。
「ロックカット」
なっ?!
まだ動かないというの!?
一体何をやろうと…………。
いえ、動かないなら先に攻めるまでよ。
「動かないなら一気に攻めるわよ! ユキノオー、きあいだま!」
ボスゴドラははがね・いわタイプ。かくとうとじめんタイプがよく通る。ただボスゴドラは物理耐性が高い。あの鋼の鎧は非常に硬い。昨日のバトルで改めて痛感した。だからユキノオーが覚えている遠隔攻撃技で対処することにしないと。
「ロックカット」
うそっ?!
これでも動かないというの!?
今のでボスゴドラの素早さは最高速度にまで上昇している。いくら動きが遅いポケモンだからと言って最高速度になってしまえば、私だけでなくユキノオーでさえも目で追えなくなるのは必然。そして、ボスゴドラは高い攻撃力を活かした奇襲をかけて来るのでしょう。
ならば、私たちに出来ることはただ一つ。素早さを捨て攻撃に集中するのみ。
「もう一度、きあいだま!」
恐らくこれは、躱される。
「ボスゴドラ」
っ?!
来たッ!!
「ほのおのパンチ」
「ユキノオー、メガシンカ!」
最高速度を手に入れたボスゴドラはもはや全方位が攻撃範囲と言ってもいい。
「全方位にくさむすび!」
「なるほど、メガシンカのエネルギーを防壁に使って来たか。ボスゴドラ、草を燃やせ」
ほのおのパンチを使えるのは非常に痛いけれど。
こうして動きを封じてしまえば、先に動けるというもの!
「ギガドレイン!」
草を拳の炎で燃やしにかかったところを、絡めた草を通じて体力を奪っていく。
「メタルバースト」
やはり対応が早いわね。
空中にいる間に即反撃してくるなんて。
「昨日の今日だからミスを仕出かすかと思ったが、その様子じゃそれもなさそうだな」
「ええ、あなたがそれを狙って来ていることは明白だもの。だからそれを意識していれば対処出来るわ」
「でもいいのか? 早々にメガシンカしちまって」
「ええ、問題ないわ。想定内よ」
「ほう、なら最後にこれの復習だな」
復習………?
ということはガンピさんが使って来た技……ということかしら?
………ッ!?
「ユキノオー、くさむすび! 幾重にも張るのよ!」
「もろはのずつき」
やっぱり………!
ハチマンはこのバトルで私がどれだけ対応力があるのかを見極めようとしている。ならば、あの時相討ちに持っていかれてしまったボスゴドラのもろはのずつきを今度はどう対応するのか、それがユキノオーに対してのハチマンからの課題。
ロックカットで最高速度にしたのもあの時のように急な攻撃を演出するため。
全く………、いつものことながら捻くれた愛情だわ。
「ユキノオー、気張りなさい! これはハチマンから与えられた試練よ!」
そんな捻デレにはちゃんと応えなくてはね。こんな手の込んだ演出をするくらいなのだから。
「ついでに草も燃やしちまえ」
ボスゴドラは頭突きに加えて拳で草の壁を強引に破って来た。つまり、ボスゴドラの勢いは殺しきれなかった。
………………ッ!!
「今よ! 掴んでギガドレイン!」
減速はしても止まらないボスゴドラの二本のツノを掴み、体力を奪いにかかる。
「ノォッ!?」
…………やはり勢いを完全に殺せていないため、ユキノオーにもダメージが入っているわね。でも、何とかギガドレインでの回復量で持ち堪えて………。
「ほのおのパンチ」
「ッ、ユキノオー!! きあいだま!!」
これが最後の攻防になるわね。
炎を纏った拳を受けながらもユキノオーはきあいだまを練り上げ、直接撃ち込んだ。
両者突き飛ばされ、フィールドを転々と転がっていく。
「ユキノオー………」
昨日の二の舞………かしら…………。
それだけは何としても避けたい。ユキノオーのためにもハチマンの課題に応えるためにも。
「ノォ……」
「………ボスゴドラ、戦闘不能」
『ボスゴドラ、戦闘不能ぉぉぉおおおおおおおおっ!!三冠王が振り出しに戻したぁぁぁあああああああああっ!!』
っ………!
よくやったわ、ユキノオー!
「お見事よ、ユキノオー」
「ノォ!」
ユキノオーが体力も回復してまだまだいけそうって目でこっちを見て来た。
そう、ならばこの後も続けて戦ってもらいましょう。一旦引いてやる気が削がれるくらいなら、やれるところまでやってもらった方が断然いいわ。
「ボスゴドラ、お疲れさん」
なんか、ハチマンのポケモンに勝てたってだけでも清々しい気分ね。でもバトルまだまだこれから。気を引き締めないと。
「雪が、止んだわね」
忘れていたけれど、ユキノオーの特性で雪が降っていたのよね。そのダメージの蓄積がユキノオーを勝利へ導いたのかもしれないわ。
「やっぱギガドレインが痛かったな。回復しながらの攻撃だし、加えてもろはのずつきの反動だ。耐えられるわけがない」
「雪も降っていたもの。あまり気にしていないようだったけれど、その小さなダメージの蓄積に救われたと言ってもいいわ。でもそれを分かった上でのことなのでしょう?」
「まあな。ちゃんと復習出来てるようで何よりだったわ」
「あなたの言葉がなければ対応が遅れていたわ。そして相討ちがいいところだったでしょうね」
「ポケモンバトルってのはそういうもんだからな。ポケモンの技の応酬だけがポケモンバトルじゃない。トレーナーのやり取りすらポケモンバトルだ」
「そうね。あなたを見ていると本当にそうだと思うわ」
ハチマンは昔からポケモンだけでなく相手のトレーナーの動きすら観察していたものね。自分のポケモンにかける言葉で裏を読んだり、視線から先の展開を読み取ったり。特にサカキを相手にしている時は言葉一つ一つに注意していたわ。それだけトレーナーという存在はポケモンバトルを大きく左右するということ。今更だけど、奥が深すぎよね。
「さて、次にいくとしますか。ま、そっちがメガシンカで来てるんだからこっちもそれっぽくいくか」
つまりゲッコウガね。
「んじゃゲッコウガ。あとはよろしく」
『丸投げかよ』
「いやいや、ちゃんと見てるから」
『……まあいい。取り敢えず、こいつら預かっといてくれ』
「了解」
今度は素で素早いゲッコウガか。
タイプ相性で言えばこちらが有利だけれど、あのゲッコウガは規格外。伝説のポケモンを相手にするようなものだわ。
『ここでゲッコウガの投入です!』
『ゲッコウガが出て来ましたね』
『リザードンも恐ろしいがゲッコウガは違った意味で恐ろしいからのう』
『まあそれは彼女も承知の上ですよ』
…………恐ろしいなんてものじゃない。
リザードンは単純にハチマンが育て上げた最強のポケモンにしてロケット団により条件付き特殊能力を有しているのに対して、ゲッコウガは言わばハチマンの生き写し。ハチマンがポケモンだったらこんな感じという仕上がりだ。しかもテレパシーを介した会話を取得してからは、さらにポケモントレーナーとしても技術をつけている。故に対応力は桁違い。こちらから無作為に動くのは却って命取りだわ。
「…………」
じわりじわり。
ゲッコウガは音もなく真っ直ぐとこちらに歩み寄ってくる。その足元から徐々に水が纏い始めた。
最初からあの姿で来るというのね。
「ユキノオー、くさむすび!」
きずなへんげ。
メガシンカのごとく姿を変えパワーアップする特殊な特性。他に近しいもので言えばロトムのフォルムチェンジかしら。あれも確か姿を変えた上でパワーアップもする。
けれど、近しいものであって同じではない。ゲッコウガの変化は、化け物よ。
「っ?!」
巻きつく草を纏う水が切り裂いたっ!?
「ユキノオー、攻撃を絶やさないでっ!」
全方位からの攻撃。それも幾重にも重ねて。
『ヌルい』
ゴゴゴゴゴッ! と水柱が立つと一気に弾け、全ての草を弾き返してしまった。厚みを付けたところで意味がない。ましてや…………変化したこの姿になられては躱されるだけ!
『こ、これはどういうことでしょうかっ!? 水柱が上がったかと思えばゲッコウガの姿が変化しています!! プ、プラターヌ博士、せ、説明願えますかっ!?』
『ゲッコウガの特性はげきりゅうと稀にへんげんじざいというものがあります。しかし、彼のゲッコウガはそのどちらでもない新たな特性を有しているのです。まあ新たなとは言ってもかつて厄災からカロス地方を救った英雄のポケモンとして文献に記述されていましたので、古からあるとても珍しい特性だと言えますがね。選ばれしポケモンの象徴とでも言いましょうか。その力はメガシンカポケモンをも凌駕する程ですよ』
『わしはカロス地方の伝説のポケモンたちに並ぶ存在と思ってるんよ』
『ははははは、確かにある意味伝説のポケモンですね』
ッ来る!?
「ユキノオー、自分の周りにくさむすび!」
どこからくるのか分からない!
早すぎるのか身を隠しているのか。どちらにせよ目視は無理だし、頭で考えてから動いているのでは間に合わない!
「それから自分を投げ飛ばして!」
命令と同時にゲッコウガが現れ、背中の手裏剣で草を刈りにかかって来た。
読み通り!
その間にユキノオーは空へと逃げるのよ!
「回転しながらふぶきよ!」
ユキノオーの動きに気づいていたのか、ノールックで水を操りユキノオーを追いかけて来た。みずのはどうね。
まさかノールックでとは思わなかったけれど、水を使って来るのならありがたいわ。このまま凍らせてしまいましょう。
『くっ!?』
近づけないようね。
なら次いくわよ!
「ユキノオー、くさむすーーー」
『悪いがそいつは囮だ』
着地した瞬間、ユキノオーは膝から崩れ落ちた。
え………なに? 何が起こったの………?
「ユキノオー!?」
呼び掛けても反応がない。
メガシンカ状態も解除されてしまい、戦闘不能に至ったことを物語っていた。
「………ユキノオー、戦闘不能!」
どこからともなく現れたゲッコウガによってユキノオーは戦闘不能に追い込まれてしまった。
「えげつねー………」
傍観していたハチマンですらこの反応。
やっぱりゲッコウガに私もユキノオーも嵌められていたというわけね。
「ユキノオー、お疲れ様」
ユキノオーをボールに戻し、次のボールに手をかける。
あまり使いたくはなかったのだけれど、この手段を取るしかないのね………。
『ユキノオー、ここで戦闘不能!! つ、強いぞゲッコウガ!! 姿を変えたゲッコウガの力は本当にメガユキノオーを凌駕しました!! 三冠王、果たして攻略なるか!!』
『いやー、相変わらず強いですね。コンコンブルさん』
『強いというか何というか………。あれで使ってたのがみずのはどうとみずしゅりけんとかげぶんしんだけっていうんだから、もはや手に負えるレベルではないんよ』
今の私たちではゲッコウガ相手に真っ向から挑んでも軽くいなされる。力負けということもあるが、彼はトレーナーとしての視点からもバトルを行なっている。しかもそれはハチマンと同種の発想力がおまけ付きの。だからこそハチマンの指示なしでもあれだけのことをやってのけてしまった。
ならば、私が打てる手はこの子よ!
「ユキメノコ」
「メノ!」
これは言わば捨て身の攻撃。キーとなるユキメノコの負担は絶大。
「ユキメノコ、先に謝っておくわ。あなたをこんな使い方してごめんなさいね」
「メノメノ」
「ありがとう」
そんなユキメノコには事前にこの手段を取るかもしれないことを伝えてある。昨日もこのためだけにユキメノコは敢えて使わなかった技がある。ユキメノコからも了承を得ているけれど、いざ使うとなると心が痛むわ。
『ユキメノコか』
ゲッコウガが背中に手を伸ばした!
みずしゅりけんね!
ならば!
「ユキメノコ、消えるのよ!」
外したと分かるとすぐさま自分を水のベールで包み始めた。
「そのままかげぶんしん!」
纏う水に伝わる「何か」でユキメノコを探るつもりなのでしょうけれど、見つかっても特に問題はないわ。
「ユキメノコ、10まんボルト!」
全方位からの電撃。
しかもゲッコウガは水を纏っているため純水でもなければよく通る。
『くっ?!』
ゲッコウガに届く前に抜けられてしまったわね。でもその行先は見えているわ。だって、狙いはユキメノコだもの。本物を見極められるゲッコウガだからこそ、先を読むことも出来るのよ。
そして右手には黒い手刀、つじぎりね。
「ユキメノコ、みちづれ!」
『しまっーー?!』
ゲッコウガがジャンプして黒い手刀がユキメノコに届く直前、私はそう命令した。
みちづれ。
自分が相手の技で戦闘不能になる時、相手も道連れにして戦闘不能に追い込む技。
あまり使いたくないのはユキメノコ自身が戦闘不能になってしまうのを防げないから。私の代わりに戦っているポケモンをみすみす戦闘不能にしてしまうのはトレーナーとしてあるまじき行為だと思うけれど、ハチマンのゲッコウガはそこまでしなければ倒せない絶対的な存在。
「ゲッコウガ、ユキメノコ、ともに戦闘不能!」
『ま、まさかのユキメノコのみちづれにより、ゲッコウガも戦闘不能になってしまったぁぁぁあああああああああっ!! メガユキノオーを凌駕したゲッコウガをユキメノコと相討ちという形で攻略してしまいましたっ!!』
「そう来たか。さすがに俺もそれは読んでなかったわ」
「ええ、そうでしょうね。私もあまり使いたくはない手段だもの。でもゲッコウガはこうでもしなければ今の私たちには為す術がなかったわ」
「ま、これも歴としたポケモンバトルだ。技の使い方とタイミングでどれだけ強い相手であっても倒せないことはない」
ありがどう、ユキメノコ。
あなたのおかげでまだまだハチマンとバトル出来るわ。
今はゆっくり休むのよ。
「ラル?」
「ん? ラルトスが回収してくれるのか?」
「ラルラル!」
「んじゃお願いな」
「ラール!」
そういえば、出会った当初からゲッコウガはボールに入る気がなかったわよね。ゲッコウガになってからは入っていることもあったけれど、トレーナーとしても技術を身につけ仲間を増やした今では一切ボールに入らない。
だからハチマンもボールに戻す気はないようで、ラルトスがゲッコウガを回収しに出て来たけれど………。
「ルルルルー………! ルルルルー………!」
うん、こうなるだろうとは思っていたわ。
ラルトスの力ではゲッコウガであっても運ぶのは無理よ。体格が違うし、何よりまだまだラルトスは幼い女の子。
「あー、ラルトス。多分お前の力じゃゲッコウガを引っ張るのはキツいと思うぞ。リフレクター出してみ」
「ラール?」
「そうそう。んで、それを横に倒すんだ」
「ラルルルル」
こうやって知らない内にラルトスは奇想天外な技の使い方を習得していくのね。ラルトスも大好きなハチマンの言うことをやってのけようと頑張っちゃうから多少難しくても何てことなさそうだわ。
「上手い上手い。んじゃ、ジュカイン。ゲッコウガを乗せてくれ」
「カイ」
ここでしれっと次のカードを見せて来る辺り、ハチマンらしいというか何というか。
「これで担架の出来上がりだ」
「ルラララー!」
「あとはスイーっとこっちに持って来てくれ」
「ラルラ!」
言ってることは難しくないけれど、あんな幼い子が容易く出来るようなことでもないのよ?
この男はちゃんと分かっているのかしら。
「ありがとな、ラルトス。よく出来てたぞ」
「ラール!」
まるで父親と幼い娘ね。子供が出来たらいいパパになりそう………って私は何を考えて…………!
『何とも微笑ましい光景でしたが、皆さんお気づきでしょうか! ラルトスは割と高度な技術を使っていたことに!』
そう、これが普通の反応なのよ。見慣れたせいか、私までおかしくなっていたわ。
『まあ、彼のポケモンだからね。出来てもおかしくはないかな』
『ありゃ、もうトレーナーの特殊能力じゃよ』
博士たちももう諦めているのね。
さて、気持ちを切り替えていきましょう。
どうやら次の相手はくさタイプのジュカイン。こちらが切るカードはこの子ね。
「マニューラ、ユキメノコの分までしっかり頼むわよ!」
ジュカインは素早いポケモン。あのスピードについていけるのはマニューラが一番だわ。弱点でもあるこおりタイプでもあるのだし。あとは私たちトレーナーの力量の見せ所よ。
「こおりのつぶて!」
ジュカインはゲッコウガに近い戦い方をする。ただ一つ、スピードに乗せてしまっては危険ということがゲッコウガとの違い。ゲッコウガはスピードに乗る前から危険であり、その差がまだ私たちに付け入る隙があるということを示している。
「リーフブレードで落とせ」
先制で全方位に氷の礫を撒き散らす。次々と襲いかかる礫にジュカインも対処に回った。
「つじぎりよ!」
その間にこちらもジュカインとの距離を詰めていく。
「くさむすび」
「マニャッ!」
マニューラ自身、四天王とのバトル通して随分と成長して来ているわね。私が指示する前に地面から急に伸びて来た草を鮮やかに切り裂いて躱してしまったわ。
「リーフブレード」
その間にジュカインには受け止める態勢を取るだけの時間を与えてしまったけれど、これは大きな進歩。
「マニューラ、こおりのつぶてよ!」
刃と刃が交錯し、押し返されるタイミングで無数の氷を作り出し、ジュカイン目掛けて一直線に飛ばした。
これでジュカインからの追随はないわ。
「………ジュカイン、どうかしたか?」
マニューラが距離を取ったのを確認してジュカインの方を見やると、じっと自分の腕を見ていた。それに気づいたハチマンもジュカインに確認している。
「………カイカイッ!」
「え、なに?」
「カイカイッ! カイカイカッ!」
「えーと? 試したいことがあるからしばらく好きにさせてくれ?」
「カイッ!」
「………分かった。しんりょくが発動するまでだ。その間にモノに出来ないと判断したら、バトルが終わってから改めて試すとするぞ」
「カイカイ!」
『おおっと、四天王ハチマン! どうやらここから先はジュカインの好きに動かすようです! 先程のゲッコウガ同様、トレーナーの指示なしでもバトルが出来るというのでしょうか!!』
どうやらジュカインが何か仕掛けて来るようね。でもそれはハチマンの指示によるものではなく、ジュカイン自らが考え出したこと。
いいわ、それなら私が見届けて上げる。
「マニューラ、こおりのつぶて!」
出だしは先程と同じ。
この時点で違う動きをして来るならば、次の技を変えるだけのこと。
「リーフブレードで落とした………」
ここまで同じのようね。
「へぇ、なるほど。お前がやりたいことは分かったぞ。ジュカイン、マニューラをよく見るんだ。どうやって技を練り上げているか、技に込める力の入れどころはどこか、それを見抜けばお前の勝ちだ」
ハチマンは今ので分かったというの………?
私のところからは見えない何かがあっちで起きていた…………?
可能性としては無きにしも非ずだけれど、考えてばかりでは咄嗟の対応が間に合わないわ。
「マニューラ、距離を詰めなさい!」
恐らくこの動きをすればくさむすびで時間を稼いで来るはず。最初のやり取りでジュカインの中にもイメージを植え付けられているはずだから、自ら考えてバトルしている今、身体が勝手に反応するでしょう。
「カイッ!」
来た!
「つじぎり!」
進路を塞ぐように現れた草を黒い手刀で刈ると、マニューラはジュカインの懐へと飛び込んだ。
「ジュカッ!」
ここで変化が現れた。
ジュカインが草の刃ではなく黒い手刀で受け止めたのだ。
この変化が何を意味するのかまだハッキリとは分からないけれど、何かをやろうとしている証。
ならば、先手を打つとしましょう。
「つららおとし!」
先程とは変えてジュカインの頭上から氷柱を作り出し、真っ直ぐに落とした。
「カイッ!?」
効果は抜群。
まずは一発入れられたわね。
このままどんどん行きましょう。生き物は追い込まれた時にこそ、真価を発揮する。それを耐えられないならそれまでのこと。ハチマンもそれを見越して条件を出したのだろうし。
「マニューラ、こおりのつぶて!」
立ち直すジュカインを無数の氷が囲み上げる。
「ジュ………カッ!」
次々と礫が襲いかかって行き………弾き返された。
「今、何かしたようね」
氷が砕け光が乱反射していたため、何をしたのかまでは見えなかったけれど。
つららおとしにやられた時とは明らかに反応が違うわ。
「マニューラ、つじぎりで受け止めなさい!」
今度はジュカインから仕掛けて来たため、草の刃を黒い手刀で受け止めた。
「カイ」
「ッ?! しまった!?」
ニヤリとジュカインが不敵な笑みを浮かべると、マニューラの足元から草の伸びていき、その身体を巻き上げていく。
「マニューラ、こおりのつぶてよ! ジュカインを牽制しながら、草を断ち切りなさい!」
マニューラが氷を作り出すとすぐさま距離を取られた。これ幸いとそのままジュカイン目掛けて飛ばし、マニューラの背後にあった氷が次々と草を断ち切っていった。
これでマニューラは解放…………ッ?!
「ジュカインが氷を作り出した…………?」
『こ、これは一体どういうことでしょう!! くさタイプのジュカインがこおりタイプの技を使うなど、聞いたことがありません!!』
『もしやジュカインはあの技を…………?』
『おや? 何か分かったんかの?』
『いえ、まだハッキリとは』
いえ、そんなことはあり得ないわ。
だってジュカインはこおりタイプの技を覚えないもの。めざめるパワーならあり得なくもないけど、あれは氷を作り出すわけではない。めざめるパワーがこおりタイプの力を発揮するのは、内なるエネルギーの種類がこおりタイプに属するだけというもの。
「これがジュカインのやりたいことだと言うのならば、とても危険ね。常識を覆すことになるかもしれないわ」
これは無闇に突っ込んでしまったらこちらが不利になる可能性だってあり得るわね。
「マニューラ、距離を取りなさい!」
氷と氷が相殺している間に、マニューラを引かせた。
「カイ!」
「相変わらず呑み込み早いのな」
呑み込みが早い………?
先程のハチマンの発言といい、何かここにヒントが隠されているのかしら…………?
「マニューラ、つじぎりで断ち切るのよ!」
またしてもくさむすび。
対処している間に詰め寄ろうって魂胆ね。
でもお生憎様。それは読めてるわ。
「…………後ろよ!」
マニューラが背後の草を対処しに振り向いた瞬間、ジュカインが地面を蹴り上げた。
「こおりのつぶて!」
草を対処しながら、自分の背中に無数の氷を作り出していく。
そして同じようにジュカインも空中で無数の氷を作り出した。
「ジュカインがこおりのつぶてですって…………!?」
今度はただの氷ではなかった。マニューラが作り出したもの同じ礫。
「カイカイカイカイーッ!!」
氷が砕け散る中、ジュカインがいつの間にか自分の足元から伸ばしていた草を蹴り、一気に詰め寄って来た。これはマニューラの速さを以ってしても躱すことは出来ない。
だけど、今のマニューラにはこの技があるわ。
「マニューラ、カウンターよ!」
「マニャッ!」
ジュカインの勢いに呑まれながらも何とか踏み止まり、逆にバネの役割を持たせてジュカインを押し返した。
「ッ、カ、イ!」
「マニャ!?」
ッ!?
転々と転がるジュカインは腕を地面に突き刺して減速を図ると、何故かマニューラが呻き声を上げた。
「マニューラ!?」
マニューラの方を見やると足元から伸びた草に絡め取られている。
くさむすび。
あの一手でまさか攻撃を入れていたなんて考えもしなかったわ。
「こおりのつぶて!」
「カイカイカイッ!!」
これはッ?!
ギガドレイン…………。
相手の体力を奪って自分は回復する技。
「見事だ、ジュカイン」
「カイカイ!」
体力を奪われたマニューラは草に絡め取られたまま、ぐったりと頭を垂れた。
「マニューラ、戦闘不能!」
『マニューラ、健闘するもここで戦闘不能ぉぉぉおおおおおおっ!! これで三冠王の手持ちは残り二体!! ここから巻き返しなるのでしょうかっ!!』
ジュカインにしてやられたわ。
まさかこおりのつぶてを使えるようになるだなんて。
あれで私の方が動揺させられてしまった。その一瞬を突かれて、判断を……………カウンターではなく守っていればあるいは……………いえ、こんな予想はただの言い訳だわ。
悔しいけれど、ハチマンの指示なしに動いたジュカインに負けた。それだけが事実よ。
「お疲れ様、マニューラ。あのカウンター自体は見事だったわ。ただ私の指示そのものが間違っていたのかもしれないわね」
マニューラはよくやってくれたわ。
ハチマンのポケモンにこれだけついて来れるようになっているということだけでも大きな進歩よ。
まだまだこれから。一緒に強くなりましょう、マニューラ。
「まさかジュカインがこおりのつぶてを使って来るだなんて思いもしなかったわ」
「ん? なんだ、まだタネを理解してないのか?」
「タネ? やっぱりカラクリがあるのね」
「そりゃそうだろ。ジュカインがこおりのつぶてを使えるなんて俺も聞いたことないっつの」
ということはあれはこおりのつぶてであってこおりのつぶてではない?
一体どういうカラクリなのかしら………。
「………分からないけれど、ジュカインは倒させてもらうわ。行きなさい、ボーマンダ!」
私のポケモンは残り二体。
ここでジュカインを倒さなくては絶望的。
取り敢えず、ボーマンダのいかくは発動したようだし、まずは攻撃力と素早さを上げましょうか。
「ボーマンダ、りゅうのまい!」
「ボォォォマァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」
炎と水と電気の三点張りからの竜の気の生成。
それを纏い竜気を活性化させていく。
「カイカッ!」
ッ?!
りゅうのまい!?
ちょっと待って………。
ジュカインはこれまでにリーフブレード、くさむすび、こおりのつぶて、ギガドレインを使って来ているわ。その上でりゅうのまい?
いえ、そもそもジュカインがりゅうのまいというのもおかしいわ。何か、絶対何かあるのね。
「審判、今ので技五つ目に相当するのではないかしら?」
「た、確かにそうですが………バトル中に新たに覚えた技であれば例外となります。また他にもいくつか技によっては特別ルールが設けられておりますので、その確認をしているところです」
「そう………」
特別ルールの技。
そういえば、あったわね。
私も使った身だと言うのに忘れていたわ。
「まあ、あなたがそんなミスをするはずがないものね」
「酷いな、おい。ポケモントレーナーを何年やってると思ってるんだよ。いくら俺でもルールは無視しねぇよ」
そう、これで大体予想は出来たわ。
後は最終確認をするだけね。
「ボーマンダ、ドラゴンダイブよ!」
私の予想が正しければ、ジュカインは同じくドラゴンダイブを使用してくるはず。
ボーマンダが一気に加速し、ジュカインへと突っ込んでいく。
「カイカイカイカイッー!!」
やっぱりドラゴンダイブも使って来たわ。
そう、そういうことなのね。
「っと、その様子だと気づいたみたいだな」
「ええ、ようやくね。ジュカインが試していた技はものまね。相手が使った技を真似る技。だからこおりのつぶてやりゅうのまいなんて覚えるはずのない技を使えたのよ」
「正解だ。もっと言えば、こいつはくさタイプの技以外は全てものまねを使って出している。お前が気づくのに時間がかかったのは途中でつじぎりを使ったからだろうな」
「………なるほど、そういうこと。あの時からジュカインは既に試していたのね」
「ああ、でもまあどうやらここまでのようだな。回復したとはいえ、マニューラからもらったダメージは少なくなかったようだ。今のでタイムリミットが来たようだぞ」
どうやら今の交錯でジュカインの方にダメージが入ったらしい。いかくによってジュカインの攻撃力が下がっていたのが、ここに現れたのでしょう。いくらりゅうのまいで上げたとしても元の得意能力もあってボーマンダの方が上よ。
おかけでしんりょくを発動させるまでに至らしめたわ。
だけど、ここから。しんりょくとハチマンの的確な指示が飛んで来る中、どのようにしてジュカインを倒すのか私の腕の見せ所だわ。
「さて、ジュカイン。ここからは俺も混ぜてもらうぞ」
「カイッ!」
あれは…………。
やっぱりそうなるのね。
「ボーマンダ」
「ジュカイン」
「「メガシンカ!」」
二体の姿がそれぞれ私たちが持つキーストーンと結びつき、変化し始めた。
「………ハルノの入れ知恵だな?」
「あなたと対峙するなら本気を出さないといけないというからよ」
「本気ねぇ………。まあ確かに二体もメガシンカさせられるのはそれだけでステータスだからな。それも扱えるユキノなら尚更か」
「それにあなたにはゲッコウガもいたじゃない。おあいこよ」
「ま、薄々そうなんだろうとは思っていたがな。あんな早くからメガシンカを使ってくるくらいだ。いくら俺相手でも切り札とも呼べるメガシンカを躊躇なく使うのには裏があるはずだ」
「さすがの洞察力ね。それでこそ私のハチマンだわ。ボーマンダ、ハイパーボイス!」
だからこそ倒し甲斐があるというもの。
これだけ誰かに固執出来るなんて、昔の私からは想像出来ないことだけれど、それだけハチマンが魅力的な証。それはユイやイロハにも言えることだけれど。今はそれが心地よく、幸せだ。
「また耳が痛くなる技を。ジュカイン、ものまねで音波を掻き消せ!」
鼓膜が破れそうな程の大音量がフィールドに蔓延した。その衝撃は周りの海水まで届き、軽い波を起こしている。当然、船も揺れているわ。みんな大丈夫かしら。
「くさむすび」
「ドラゴンダイブ!」
やはり先に動き出したのはジュカインの方。
音が鳴り止む前にボーマンダの足元から草を生やして来た。
だけど、それを竜気を活性化させて燃やし、そのままジュカインへと突っ込んでいく。
「躱してものまねだ。ドラゴンダイブを打ち返せ」
ドゴンッ! と二体の交錯音がけたたましく鳴り響いた。技と技のぶつかり合いでどうやら爆発が起き、煙が上がっている。
「もう一度ものまねだ」
ッ来る!?
「ボーマンダ! ハイパーボイス!」
先に動いたジュカインを牽制するためにも耳に刺激を与える。同時に音の波は煙を吹き飛ばし………いないっ?!
「ボーマッ?!」
はっ……!?
後ろ?!
「ボーマンダ、ドラゴンダイブ!」
「マンダァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
あれは………氷?
「ジュカイン、今のをもう一度だ」
「カイ!」
ハチマンがそう指示するとジュカインは空中で氷を作り始めた。
こおりのつぶて?!
え、でもボーマンダは使って…………まさかさっきの今でそんなことを!?
「ボーマンダ、長居は禁物よ。ジュカインは恐らくものまねで一度見た技を再現している。あなたが使った技をそのまま使って来るとも限らないわ」
私の予想が正しければ、ジュカインのものまねは相手が使った技を同じように使うだけには留まらない。きっと一度見た技、いえ本質を理解した技ならばどんな技でも再現出来てしまうのでしょう。ジュカインはだからこそハチマンに訴えかけた。まだまだ試し打ちの段階だけれどいずれ化けるわ。そうなったらゲッコウガとは似て非なる戦術の幅を持つことになるでしょう。
全く………、自分が覚えられるくさタイプの技をコンプリートするだけには飽き足らず、全てのくさタイプの技をコンプリートしようとしているのかしらね。それはそれで面白そうだけれど、相手になれば脅威以外の何物でもないわ。
「りゅうのまい!」
「ジュカイン、くさむすびで動きを封じろ」
最後の技のために竜気を再度生成して攻撃力を高めていく。
その間にボーマンダの足元からは草が伸び、その身体を絡め取っていくがこの技を以ってすれば意味のないことよ。
「それでは意味がないって顔だな。なら、ジュカイン。常時ギガドレインを発動しておけ」
ッ!?
まさか技の並行発動!?
この後に及んでまだそんなことが…………。
「ギガインパクト!」
最高威力にしてメガボーマンダの特性スカイスキンのおかげでひこうタイプとなり、技の威力がさらに高まっている今。
ボーマンダが対ジュカインに出せる最大火力となるーーー。
「ジュカイン、くさむすびで壁を何重にも作り上げろ」
ボーマンダのスピードを落として技の威力も落とそうという算段ね。
「それからものまねを駆使しろ。お前が掴んだもん、全部俺に見せてくれ!」
「カイカイカイカイッッ!!」
これは…………っ!!
「こおりのつぶて…………」
やっぱりあなたはそこまで行こうとしているのね。
だったらーーー。
「ボーマンダ、竜気を前方に集めて層にするのよ!」
こおりタイプの技はボーマンダにとっては一番よく通るタイプ。だから少しでも氷から身を守らなければ、保たない可能性だって……………えっ?!
「ーーー返された………っ!」
これは、カウンター………!
本当に再現してしまったのね。
「………よくもまあこの短時間にそこまで足を踏み入れられたもんだ。上出来過ぎるだろ」
「ボーマンダ、ジュカイン、ともに戦闘不能!!」
ジュカインは全てを返すことは出来ず、ボーマンダにダメージを与えながら自らもダメージを負ってしまい、メガシンカが解けてしまっていた。
かく言うボーマンダもメガシンカが解けてしまっているのだけれど。最悪の事態は避けることが出来たわ。
『ボーマンダ、ジュカイン、同時に戦闘不能ぉぉぉおおおおおおおおおっっ!! メガシンカ対決は引き分けだぁぁぁあああああああああっ!!』
『やはりものまねでしたね』
『よく分かったのう』
『ジュカインが覚えられない技をも使えるとすれば、相手が出した技の模倣と考えたまでですよ。彼はそのことにいち早く気付き、ジュカインに技を見極めるポイントを授けていた。瞬時にこんな判断が下せるトレーナーなんて世界中を探してもそういないでしょうね』
ハチマンのポケモンは残り三体。だけど、ラルトスは参加させないでしょうから実質二体ね。そして残っているのはヘルガーとリザードン。共にほのおタイプを持つ相性ではオーダイルが有利なポケモンたち。
「ボーマンダ、お疲れ様。あなたのおかけで最悪の事態は避けられたわ。ジュカインを倒せたのはとても大きい。ありがとう」
このバトルで私もポケモンたちもみんな何かしら得るものがあったことでしょう。それだけ高度な駆け引きを要求されていたわ。
「とうとうオーダイル一体になっちまったな」
「ええ、でもここまで来れただけでも高評価よ。ゲッコウガとジュカインに全員持っていかれる可能性だってあったのだから」
「まあ、ないとは言い切れないな。ユキメノコのみちづれは相当デカかったと思うぞ」
「それならユキメノコの顔も立つわね。さて、次いきましょうか。さっきからボールの中で荒ぶっている子がいるのよ」
「どんだけやる気に満ちてんだよ。ったく、仕方ない。リザードン、オーダイルに今のお前の全力を見せてやれ」
「オーダイル、お待ちかねのリザードンよ。全てを出し尽くしなさい」
『三冠王、最後のポケモンはやはりオーダイル! ここまで彼女を支えて来た相棒とも呼べる存在です! さあ、四天王のリザードンを倒すことができるのかっ!! そして、チャンピオンとのバトルの切符手に入れることはできるのでしょうかっ!!』
オーダイルの調子は良好ね。
ここまで闘志を燃やし続けて温めていていたのだから当然と言えば当然ね。
ならば、一発目は挨拶も兼ねて派手にいきましょうか。
「オーダイル、ハイドロカノン!」
水の究極技。
轟音とともに撃ち出された水砲撃は真っ直ぐとリザードンへと向かっていく。
それをリザードンはーーー右腕で弾き方向を変えてしまった。
「………まさかそこまで強くなっているなんてね」
「今のリザードンは素でメガシンカ以上と思っていた方がいいぞ」
「ええ、そのようね」
でもリザードンの腕は今のでダメージが入ったわ。もちろんハチマンもそれには気づいているはず。
「んじゃ、こっちも挨拶といきますか。リザードン、ブラストバーン」
挨拶返しと言わんばかりに地面を叩き、炎を巻き上げて来た。
まるで炎の勢いが違う。桁外れもいいところだわ。リザードンのように弾き返せるのか怪しいところ。ならばここはーーー。
「オーダイル、アクアブレイク」
水で作り出した刃を上から地面に突き刺し、炎を真っ二つに分断した。
『さ、最初から強力な技の応酬ぅぅぅっっ!! このバトルどうなるのかっ!?』
「オーダイル、もう一度アクアブレイク!」
「リザードン、かみなりパンチだ」
一気に距離を詰めて振り被ると電気を纏った拳で受け止められた。
「もう片方あるぞ」
「こっちももう一本あるのよ」
リザードンがもう片方の拳を振り被って来たので、こちらももう片方の腕で水の刃を作り出し受け止める。
だけど、このままではジリ貧が続くわね。
「ハイドロカノン!」
「ブラストバーン」
ハチマンも同じことを思ったのか、二度目の究極技の応酬。
両者、技の衝撃により結果的に距離を取ることになってしまった。
「一気に詰めて! アクアジェット!」
「リザードン、リフレクター。それとそのままチャージだ」
リフレクターで受け止める気ね。
それなら!
「オーダイル、アクアブレイクで11連撃よ!」
技の名前はなんだったかしら。
ユイに聞かれた時にこういうのもあるのかと興味が惹かれた技。
「おいおい、マザーズロザリオとか聞いてねぇぞ」
そうそう。確かそんな名前だったはず。
これでリフレクターは砕けたわ。あと3撃、しっかり決めるのよ。
「ソーラービーム」
「オーダイル!?」
こうなることを予想されてたかのように一撃入れたところでオーダイルが吹き飛ばされてしまった。
「オ、オダ………」
よかった………、まだ戦えるようね。
一撃で戦闘不能ものなら目の前が真っ暗になるところだったわ。
「オーダイル、大丈夫?」
「オーダ!」
何とか立ち上がったけれど、相当ダメージを受けているわね。
「オォォォダァァァァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」
来たわね、げきりゅう。
究極技の応酬で多少ダメージがあったとしても、ソーラービームの一撃でげきりゅうが発動するなんて、そんなのもう一度受ければ終わりを意味しているじゃない。
「オーダイル、暴走なんか気にしないで全てを出し尽くしなさい! げきりん!!」
ここまで来たらもう全てを掛けてリザードンに挑むしかない。
オーダイルは竜気を一気に纏うと地面を蹴り出し、リザードンに突っ込んでいった。
「リザードン、リフレクター」
それをリザードンはリフレクターで受け止めるもーーー。
「なっ?! マジかっ!?」
ーーー当たった瞬間割れてしまった。かわらわりも涙する威力ね。
オーダイルはそのままリザードンを弾き飛ばした。
「今よ! ハイドロカノン!!」
「っ、ブラストバーン!」
ここでこのバトル始めてハチマンが声を荒げたかもしれないわね。
それ程意外性があったということね。
あとはオーダイルがどこまで押し返せるか。
「………………」
…………………結果はオーダイルが吹き飛ばされた。でもリザードンにもダメージは入っているようで片膝をついて息を荒げている。
「………オーダイル、戦闘不能!! よって勝者、四天王ハチマン!!」
オーダイルは本当に全てを出し尽くしたようで、ビクともしない。ここまで無反応だとまるで死んでいるかのようでちょっと焦ってしまったわ。
『オーダイル、戦闘不能ぉぉぉおおおおおおおおおおおおっっ!! 究極技から始まったこのバトル、勝利を手にしたのはリザードンだぁぁぁああああああああああああっっ!!』
私たちの負けね。完敗だわ。
「リザードン、お疲れさん」
オーダイルの方に駆け寄り様子を伺っていると、ハチマンたちもやって来た。
「ユキノ、オーダイルは随分強くなったな」
「ええ、正直何もかも無視すればあそこまでの威力を出せるなんて思いもしなかったわ」
「今のリザードンをあそこまで追い込んだのは後にも先にもオーダイルだけになるんじゃねぇの。知らんけど」
「それはどうかしら。あなた、サカキみたいな人に好かれやすいのだし」
「嬉しくねぇよ、そんなの」
「………あなたはいつだって強いわね」
「いつも言ってるが俺が強いっていうよりこいつらが強いんだよ。俺は見えたものを伝えてるだけだ」
「なら、それがあなたのトレーナーとしてのセンスなのでしょうね」
私にないものを彼は持っている。それは昔から変わらないし、それによって私自身幾度となく助けられて来たわ。
「さて、姉さんに報告しないといけないわね。オーダイルたちも回復させたいし」
「ああ、そうだな。つか、これ本当に終われるのか?」
「そうね、私が負けてしまったばかりに………」
本来ならあと一戦行う予定だったというのに。
午後からのバトルは取り消し、大会も終わってしまうのね。
「あー、ユキノ? お前らのバトル面白かったぞ」
「ありがとう………」
ハチマンと話していても辛うじて会話が成り立っていたに過ぎず、既に周りからの声は聞こえなくなってしまっていた。
無力感というのはこういうことを言うのかもしれないわね。
「私、負けた、のね…………」
控え室に戻り、ようやく負けたという悔しさが込み上げて来た。周りの視線がなくなったからかしら。
まあ、どうでもいいわね。
「………お疲れ、ユキノちゃん」
「姉、さん…………」
な、んで、いるのよ…………。
姉さんはこれから大会の閉会という仕事が残っているじゃない。
「………やっぱり、勝てなかったわ」
「ハチマンは強いもの」
何を今更と言いたげにため息を吐き、私を抱きしめてきた。
「………ぁ」
じんわりと感じられる熱に私の中の何かが反応を示した。
「泣きたい時は泣きなさい。今は、お姉ちゃんしかいないから」
それは涙腺の崩壊なのか、感情の解放なのか。
今の私にはそれを判断するだけの余力も何も残ってはいない。
あるのはただただ、悔しいという思いだけ…………。
「ぅ、ぁ、ぁぁぁっ…………!!」
ワニノコをもらったあの日。
あの日を境に家族ぐるみで交流のあった、言わば幼馴染のハヤマ君とのバトルの日々は始まった。両親二人共がそれを良しとしていたけれど、二年も同じことをやらされていては何の刺激もなくなってくる。けれど、既に周りとは頭一つ以上突き離れておりバトル相手はハヤマ君以外にいなかった。加えて姉さんがスクール卒業時に条件を突きつけて来たため、それに従うしかなく何の面白みもない毎日だった。そこに突然のオーダイルの暴走とそれを止めた男子生徒の登場は、冷めていた私に再び熱を入れることになったのだ。その熱は彼が先に卒業してしまって冷めるかと思いきや、余計に昂り、新たな目標にまでなっていた。ストーカーだって言われてもいい。それくらいの想いで彼を探したが、見つけたのは姉さんと最高峰の舞台でバトルしている姿。一年の差がこんなにも開けてしまうのかと挫折を味わった。けれど、姉さんが彼に興味を持ったことで再び彼に直接会えそうな手がかりを手に入れることが出来たのだから、人生何が起こるか分からないわ。そして今ではこうして側にいることが出来る。…………出来るけれど、当時から役に立っているかと言えば、ほぼほぼ足を引っ張っている。その度にハチマンは私を助けてくれるけれど、私はハチマンを助けられていない。それが悔しいし情けなく思えてしまう。だから、強くなりたかった。ハチマンに勝って私はこんなにも成長したんだというところを見せたかった。
でも、負けた。できることをし尽くしても尚、彼は強かった。
「私はずっとハチマンを追いかけて、ずっと認められたくて頑張って来たの! でもハチマンは私の一歩先ばかり行って! それでもハチマンに認めてもらえるように努力して来たのに! ………オーダイルの暴走の時もそう。シャドーに潜入した時もそうっ。ロケット団残党狩りの時もそう! 彼はずっと私を守ってくれてた! だからフレア団の時には背中を任されたかった! ネオ・フレア団の時にはようやく隣に立てたと思った! なのに、なのに……………悔しい………悔しいよ…………!」
「ユキノちゃんは羨ましいよ。なんだかんだでハチマンと旅出来て。間近でハチマンの技術を盗めて、ハチマンに鍛えられて。私たちの中じゃ一番ハチマンと過ごしてるんだよ? そんな女の子をハチマンが認めてないわけないでしょ? 現にユキノちゃんを見捨てたことなんて一度もないし、ポケモン協会の理事になってからは自分の側近にして、提案したのは私だけど終いにはユキノちゃんを主人公とした大会に変更までしちゃってるし」
それは………ーーー。
「………そろそろ『憧れのハチマン』から卒業しなきゃだね。憧れからちゃんと卒業して、大好きなハチマンにしなきゃ」
ッ?!
「………………ん」
憧れていたからこそ認められたかった。
でもハチマンはとっくに私のことを認めてくれていたのね…………。
「………姉さん、どうしよう。私が、負けたからこれで大会が終わって、しまうわ。折角みんなが、楽しみにして来てくれてたって、いうのに」
「大丈夫大丈夫。奥の手を用意してあるから。お姉ちゃんに任せなさいな」
そう言って胸を張る姉さんはどこかへと消えてしまった。
ぼーっと、まだまだ流れてくる涙を拭いながら呆然としているとマイク音が聞こえてくる。
「えー、皆さん。残念ながら三冠王が負けてしまいましたので、これにて大会は閉会となります。が、しかし! 皆さん、三冠王を破った四天王の力がどれほどなのか、見てみたいと思いませんか?!」
姉さん………?
え、ちょ、まさか………!
「ふふっ、それでは午後のカードはこれで行きましょう! 四天王ハチマンVSチャピオンカルネ!」
………全く、姉さんは。初めからこれが狙いだったんじゃないかしら。
突拍子もない姉さんの案内で会場は騒めき、私もすっかり涙が止まっていた。
行間
ユキノシタユキノ 持ち物:キーストーン etc………
・オーダイル(ワニノコ→アリゲイツ→オーダイル) ♂
特性:げきりゅう
覚えてる技:アクアテール、アクアジェット、ドラゴンクロー、れいとうパンチ、ハイドロポンプ、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、げきりん、カウンター、ハイドロカノン、ドラゴンテール、めざめるパワー(電)、ゆきなだれ、れいとうビーム、アクアブレイク
・ギャロップ ♀
特性:もらいび
覚えてる技:かえんぐるま、ほのおのうず、だいもんじ、フレアドライブ、でんこうせっか、にほんばれ、ドリルライナー、スピードスター、まもる
・マニューラ ♂
覚えてる技:つじぎり、こごえるかぜ、こおりのつぶて、ふぶき、れいとうパンチ、はかいこうせん、カウンター、シャドークロー、みやぶる、かわらわり、まもる、つららおとし
・ユキメノコ ♀
覚えてる技:こごえるかぜ、れいとうビーム、みずのはどう、10まんボルト、シャドーボール、めざましビンタ、ふぶき、かげぶんしん、あやしいひかり、かみなり、でんげきは
・ボーマンダ(タツベイ→コモルー→ボーマンダ) ♂
持ち物:ボーマンダナイト
特性:いかく←→スカイスキン
覚えてる技:りゅうのいかり、かえんほうしゃ、そらをとぶ、ドラゴンダイブ、ハイドロポンプ、つばめがえし、だいもんじ、かみなりのキバ、いわなだれ、ドラゴンテール、ハイパーボイス、げきりん、ギガインパクト、りゅうせいぐん、ねむる、ねごと、はがねのつばさ、かげぶんしん、すてみタックル
・ユキノオー ♂
持ち物:ユキノオナイト
特性:ゆきふらし←→ゆきふらし
覚えてる技:ふぶき、ぜったいれいど、くさむすび、じしん、ウッドハンマー、きあいだま、ギガドレイン
控え
・ペルシアン ♂
覚えてる技:きりさく、だましうち、10まんボルト
・フォレトス
特性:がんじょう
覚えてる技:こうそくスピン、ジャイロボール、パワートリック、ボディパージ、リフレクター、だいばくはつ
・エネコロロ ♀
覚えてる技:こごえるかぜ、メロメロ、ソーラービーム、でんげきは、ハイパーボイス、れいとうビーム
ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂
特性:もうか
覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター
飛行術
・ハイヨーヨー:上昇から下降
・ローヨーヨー:下降から上昇
・トルネード:高速回転
・エアキックターン:空中でターン
・スイシーダ:地面に叩きつける
・シザーズ:左右に移動して撹乱
・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
・コブラ:急停止・急加速
・ブラスターロール:翻って背後を取る
・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび
・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
持ち物:ジュカインナイト
特性:しんりょく←→ひらいしん
覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね
・ヘルガー ♂
持ち物:ヘルガナイト
特性:もらいび←→サンパワー
覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ
・ボスゴドラ ♂
持ち物:ボスゴドラナイト
特性:がんじょう
覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき
・ラルトス ♀
覚えてる技:リフレクター
ゲッコウガ
・ヒトツキ
特性:ノーガード
覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー
・キリキザン
特性:まけんき
覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット
・アギルダー
特性:うるおいボディ
覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ