ポケモントレーナー ハチマン 〜ぼーなすとらっく集〜 作:八橋夏目
そして雪乃の誕生日ですが、相模さんです。
〜お知らせ〜
当シリーズのDL版を販売することにしました。詳しくは活動報告の「『ポケモントレーナー ハチマン』シリーズのDL版販売について」にてご確認ください。
『というわけで、育て屋をしばらく難民ポケモンたちの生活の場としようと思う』
というのが一ヶ月前に言い渡されたヒキガヤからのお言葉。
マジ、入院中のくせに働くとかどんだけ仕事が好きなのよ。おかげでうちらの仕事が増えてるし……………。
一ヶ月前、ミアレシティとヒャッコクシティがデオキシスってポケモンに襲われたことで、被害に遭ったトレーナーからポケモンを預かることになった。
で、うちは今、水辺に住むポケモンたちの様子を見に来たんだけど…………。
「ゴルダック、うちのスカートめくるのやめて!」
ぬっと現れたゴルダックに背後を取られてそのままスカートをめくられている。
このゴルダックは野生のポケモンである。ここにはユキノシタさんたちのポケモンはもちろん、事件後被害に遭ったトレーナーから預かったポケモンの他に、野生のポケモンも生活している。彼らにはたまに協力もしてもらっているんだけど、どうもこのゴルダックは手伝うついでにうちにセクハラをしてくるのだ。
「うひゃあ?!」
え、ちょ、なによ?!
お尻まさぐられた!?
「こんの変態! スケベ! エロオヤジ!」
くっそ〜!
なんであっさり躱すのよ!
一発くらい当たりなさいよ!
「ゴダッ!?」
「ゼル………ゼルゼル」
と、いきなりゴルダックが後ろから殴られた。
「フローゼル!」
叩いたのはフローゼル。うちのポケモンで、今はこの水辺の管理をしてくれている。そして、いつもゴルダックにセクハラされると助けてくれるイケメンでもある。
「ゴダゴダ?」
「ゼーゼル」
「ゴダ!」
うん、何言ってるのかわからない。わからないけど、なんかゴルダックがムカつく。
『「お前……またか」「かわいいじゃん?」「それはわかる」「だろ?」だとよ』
「うわぁ?! ヤドキング!? アンタいたんだ…………」
「イロハは今ドラゴンタイプの強化に忙しいからな。オレっちが呼ばれるのはまだ先の話だ」
突然話しかけてきたのはイッシキさんのヤドキング。
元々はおじいさんのポケモンだったらしく、イッシキさんはヤドキングの力を借りないで強くなろうとしている。うちからすれば充分強いと思うんだけど、まだまだ足りないみたい。
それもこれも全部ヒキガヤがいるからだと思う。あのあり得ない強さを目の当たりにして落ち着いてられなかったんだろうな。
「って、あの二人そんな会話してるの?」
『ああ、モテモテだな』
なんだろう。
モテモテなのかもしれないけど、全然嬉しくない。多分、ゴルダックがセクハラしてくるからだろうな。それがなければいいポケモンなのに。
「はあ………、じゃあ預かってるポケモンたちのことを聞いても?」
『バスラオとヒトデマンは調子良好。カメテテはバトルしたいとか言ってるぞ。あとブロスターは飯の量を増やしてくれって』
健康状態はみんないいみたいだね。
あ、なんかブロスターがすごい目でこっち見てる。そんなにお腹すいてるの!?
分かったよ、量を増やしてあげるよ…………。
「ありがと。ゴルダック! アンタ、カメテテとバトルしてあげて。暇でしょ」
「ゴダ?」
え、俺? みたいな顔しないでよ。ちょっと面白かったじゃん。
「うん、そう。アンタ」
「ゼール」
「………ゴダ」
お、なんか素直にいってくれた。
ほんとセクハラなければいいポケモンなのに。
「ヤドキング、これからちょっと暇?」
『オレっちに手伝わせようってか?』
「うん、そんなとこ」
だって通訳してほしいし。
いるのといないのとでは随分違うんだからね!
「ルリルリー」
「あ、おかえりルリリ。みんなと話せた?」
と、水辺のポケモンたちの様子を伺っている間、辺りにいるポケモンたちと遊ばせていたルリリが帰ってきた。未だルリリのままだけど、一度だけ進化の兆しを見せたことがある。でも、ルリリのまま。ディアンシーを通じて教えてもらったことだけど、ルリリはまだ進化したくないらしい。つまり、進化できるほどにはうちと打ち解けられたってことでもあり、それだけでうちは嬉しかった。
「ルリ!」
「そっかそっか」
『はあ………、なんでオレっちはこんなちっこいのに懐かれてんだか…………』
そしてもう一つ。
ルリリは何故かヤドキングに懐いている。ドクロッグにも懐いているところを見ると、性格がちょっとアレな方が好みなのかもしれない。それはちょっとというか激しく阻止したいところだけれど、まあうち以外には悪い奴じゃないので諦めつつはある。なんでうちに対してだけみんな扱いがぞんざいなの!
『仕方ない、ルリリ。しっかり掴まってろよ』
「ルリ!」
ルリリはヤドキングの頭までよじ登り、巻貝にしがみついている。
「なんかごめんね?」
『そう思うなら引き剥がせ』
「よーし、次は森にいくよ!」
さあ、どんどんいこう!
うちはさっさと終わらせて休むんだ!
「エッモ!」
「あ、エモンガ! って、どうしたの?!」
「エッモ〜!」
森に向けて一歩目を踏み出したところで前方からエモンガが勢いよく飛び込んできた。偵察隊としてエモンガとカオリちゃんのオンバーンには何か問題があったらうちやカオリちゃんたちを呼ぶようにしてもらっているんだけど、今日も何かあったらしい。森の方からだし大体の想像はつく。
「えと、今日も、なの?」
「エモ」
はあ…………、まったく何でそんなに縄張り争いしてんのよ。あのむしタイプどもは!
あっちにはメガニウムやカオリちゃんのコロトック、チカちゃんのトロピウスもいるっていうのに。
「報告ありがと。エモンガ、引き続き偵察よろしくね。ヤドキング、急ぐよ」
『なんだかなー』
そうヤドキングを急かして森へと向かった。
森へとやって来ると酷い有様だった。
何がというと森の問題児たちであるドラピオン、ペンドラー、ビークインの三体が伸びていたのだ。その中央にはドクロッグがいる。
「………アンタね」
「ケケ」
不敵な笑みを浮かべているこのドクロッグはうちのポケモンであり、この育て屋が誇る最強のポケモンでもある。非常に不本意だけどね!
「メガニウム、コロトック、トロピウス、そっちは大丈夫ー?」
「ガニ!」
「コーロロ!」
「トロロロロ!」
メガニウムはうちの、コロトックはカオリちゃんの、トロピウスはチカちゃんのポケモンで、ここのポケモンたちの安全確保を担ってもらっている。今回は預かっているポケモンや野生のポケモンともども守ってくれていたようだ。
「ドクロッグ、ビークインとドラピオンは仲間たちに連れていくように言っといて」
「ングー………」
いつものことながらやる気のない返事ね。
なのに、動けばこれとか本当このドクロッグも異常な強さだと思うわ。
「さて、手当てしますか」
倒れているペンドラーのところへ駆け寄り、ポーチからキズぐすりを取り出す。効能のすごいキズぐすり。お高いのにヒキガヤのやつ、こういうのはケチらないんだよね。うちらの給料はケチるくせに。
「起きなさーい」
プシャーっとボトルから中の液体を吹きかけると、しばらくしてモソリとペンドラーが動き出した。
「アンタ、バトルに飢えてるみたいだけどさ、ポケモンたちにケンカを吹っかけるのはやめなさいよ。アンタのトレーナー今、怪我してアンタの面倒を見てやれないって言ってたんだからさ、アンタがそんなんだとトレーナーさんに会った時、悪い意味で驚かれるよ?」
ま、ケンカの相手が毎回決まってるだけマシだけどね。誰彼構わずってなったらさすがのうちらもお手上げだし。そうなったら悪いけどトレーナーさんに送り返すしかない。
ドラピオンたちには悪いと思うけど、もうしばらくはペンドラーに付き合ってもらえるとありがたいんだけどなー、なんて。社交性というか、他のポケモンとの付き合い方を覚えてくれると預かった甲斐があるってもんだし。
「取り敢えず、他に痛むとこはない?」
他に痛む箇所を聞いてみると首を横に振ったので、これで手当ては終了。あとはメガニウムたちに任せるとしよう。
「んじゃこれでおしまい。アンタが不器用なのはこの一ヶ月でなんとなく分かってきたけど、どうせ発散したいのなら普通にバトルを申し込むこと。野生の群のボスであるドラピオンやビークインたちは群を守るっていう意識もあるんだから、突然襲われたらこうなることくらいいい加減学習しなさい。いい?」
無言でショボくれてはいるけれど、首を縦に振ってくれた。
まあ、明日にはどうなってるか分からないけど。これ言うのも何度目か分からないし。
「今日はゆっくり休むのよ」
トボトボと歩き出したペンドラーを見送り、本題へと移る。
「ヤドキング、メガニウムたちにポケモンたちの状態聞きにいくよ」
自分のポケモンの意志表示くらいなら読み取れるけど、詳しい内容を聞こうとすればやっぱり通訳が必要だしね。
「メガニウムー、ポケモンたちの様子聞いてもいい?」
「メニウ!」
それからヤドキングを通じてメガニウムに森に棲むポケモンたちの健康状態を聞き出した。預かっているポケモンのリーフィア、ホイーガ、ペンドラー、フシギソウの四体に問題はなく、強いて言えばペンドラーが上手く発散出来ていないことくらい。それが原因でドラピオンやビークインとケンカになっていたけど、明日もやるのなら強制送還も視野に入れるとしよう。預かる身としては残念だけどね。
野生のポケモンたちの方もケンカ相手になっていたドラピオンとビークイン以外は特に問題なさそう。
はあ………、セクハラがないとこんなにも楽だなんて。一回あのバカには制裁を下すしかないようね。
「ありがと、メガニウム。それにみんなも。あ、それとメガニウム。ユキノシタさんのフォレトスにいだッ?!」
痛ったーっ?!
な、なんなのよ、一体!?
『あ、フォレトスじゃん』
「トス? ト………トスス!?」
フォレトス!?
え、まさか今の衝撃フォレトスのせいなの?!
「ルリリ〜……」
「ルリリ………、だ、大丈夫………なんとか生きてるから」
ッ………すごく、頭が痛い。
「トスス! トスス!」
「あ、うん、大丈夫だから。そんなに謝らなくていいよ」
うちが頭を押さえて倒れ込んでいると、衝撃の原因らしいフォレトスが必死に謝ってくれた。んだけど、そんなに必死に謝られると怒るに怒れないし、うちの方が悪いように思えてくる。
『にしてもキレイにいったなー。まるでコントのようなシーンだったぞ』
「……やめ、て……。うちもフォレトスも、そういうの………求めてないから」
人が必死で痛みを堪えているってのに。
なに呑気に解説してんのよ。
「ケケッ」
「あ、ちょ、ドクロッグエ?!」
突然ドクロッグに担がれて頭がぐわんぐわんして吐き気まできて、つい喉を鳴らしてしまった。でも悪いのはドクロッグなんだから。いきなり担ぐとかありえないでしょ!
『ルリリ、掴まれ』
「え? い、いやぁぁぁあああああああああああああっっ!?!」
『メガニウム、あとはよろしく』
変な体勢のまま走り出されてうちは絶叫した。絶叫してないと何かが出てきそうな感じもあり、それはもう必死に。
「…………はぁ、はぁ………気持ち悪ぅ………酔った……………」
なんとも形容しがたい気分の悪さが限界に来た頃、ようやく目的地に着いたのかドクロッグが足を止めた。
「あれ? ミナミじゃん。って、なんかグロテスクな顔してるんだけど。ウケる!」
くそぅ、こんな時に限ってこっちに出会うとは!
今のうちは自分でいうのもなんだけど、乙女が決してしてはいけないような顔をしているのだ! 鏡を見なくてもそれくらいは分かる!
なのに、それをよりにもよってこっちに見られるとか…………。
これがチカちゃんなら普通に労ってくれたってのに…………。
「ンギラァァァアアアアアアッ!!」
「サァァァドォォォオオオオオオンッ!!」
な、こ、今度はなに?!
今揺さぶられると…………出ちゃうからぁ!
「あーもー、アンタたちも飽きないねー。ソーナンス、カウンター!」
「ナンスー!」
あ、サイドンとバンギラスか。カオリちゃんが対処してくれるのね。
はあ、これで安心………。
「ソーナンス〜!」
できないぃぃぃぃぃぃ!!
あ、こら、バカソーナンス! こっちに飛ばさないで!?
「ンギラスッ!?」
うぷっ!?
………もう、無理……………。
「ケケッ」
「あだ!?」
今度は何なのよ?!
「って、あれ? …………吐き気がなくなった……………?」
「ケケッ」
うっ、ドクロッグ、その手はまさかどくづき………?
え、ちょっと待って、どくづきの毒で治ったとかそういうやつなの?! 普通生身で毒もらったらヤバイはずじゃ…………。まさかうちの身体がドクロッグに毒されてるの?! いやいやいや、そんなまさか…………まさか………………否定できないぃぃぃ!
「バクフーン、オーバーヒート!」
受け入れ難い真実を悟り、うちが戦慄いている間にサイドンとバンギラスは黒焦げになっていた。
「ふぅ、お仕置き完了! ………って、ミナミどしたん?」
「あ、いや、何でもないよ。ただちょっと衝撃の事実に現実を受け入れられてないだけ………」
もうやだ…………うちの身体とうとうおかしくなっちゃったよ……………。お嫁にいけない…………。
「コォォォ、コォォォ!」
ん、今度はなに?
次から次へと問題起きすぎじゃない?
「あー、こっちもか。バクフーン、バクオング。問題児どもを運んどいて」
「「バグ!」」
ああ、コータスね。
ここに住んでいるコータスの中に一体だけ何故かよく泣くコータスがいる。理由は分からない。ただよく泣く。泣いて荒れるわけでもないし特に被害は出ないんだけど、まあよく泣く。
「今日はどしたん?」
「コー、コー」
「うん、わかんないわ」
『…………ドクロッグが怖いんじゃね?』
「ケケッ」
「やめい」
名前を出されたドクロッグがコータスを襲うポーズを取ったので、後頭部をスパンッ! と叩いてやった。さっきの仕返しの意味も混じっているのは内緒だけどね。
『ま、実際は自分の煙が目に沁みたんだろけどな』
「そうなの?」
『オレっちは初めて見るからよくは知らん。ただご主人に聞いた話ではそういう例があるとか言っていた』
なんだそうだったんだ。だったら最初からヤドキングにも聞いておけばよかった。
「カオリちゃん、取り敢えずドクロッグが作ったポケモンフーズあげといたら?」
「そだね。なんかよく分かんないけど回復効果もあるみたいだし」
それね。
ほんと意味が分からない。ドクロッグが作ったポケモンフーズには何故か回復効果があり、うちらが作るのよりもポケモン受けがいい。というかうちより料理が美味いって意味分かんないんだけど!
「それで、このエリアのポケモンたちの様子はどう?」
「んー、特に変わったことはないかなー。要望も特にないし。あのバカ二人が毎日取っ組み合いしてるくらいだしねー」
「はあ………、ここもセクハラがなくていいなー」
「なに? どしたん? またゴルダック?」
「そう、またあいつにやられたの」
「ウケる!」
「ウケないよ………」
人が真剣に悩んでるってのに。
「ま、それだけミナミちゃんはゴルダックに好かれてるってことだね」
「嬉しくない。そんな愛情嬉しくない」
うちの周りのオスはどうしてこう変なやつばっかりなんだろ。
「………でも毎日会ってるよね?」
「うっ………、そりゃ様子見がてら水辺には行くし」
「ちゃんとゴルダックとコミュニケーションとっときなよ。いざって時には守ってくれると思うから」
「はあ?! あいつが!? んなわけないでしょ」
「ンガー………」
『はあ〜………』
なによ、アンタたち揃いも揃って。なにため息ついてんのよ!
「今はそれでいいのかな。あたしらが言うことでもないし」
「ええー、そこまで言っといて言わないの?」
「知りたかったらゴルダックに聞いてみたらいいって」
「それは絶対にやだ!」
そんなのなんかうちが負けたみたいじゃん!
それに絶対セクハラされるし!
「ケケッ」
「あ、ちょ、ドクロッグ!? またなの!? ちょ、降ろしてよ! え、あ、ちょ、バカァァァアアアアアアアアアッ!!」
カオリちゃんとの話の途中でしょ!
いきなり担がれてまた走り出されてしまった。
うう………。
「ありゃー、ドクロッグも嫉妬深いなー」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「はあ………はあ…………」
育て屋本舎へと戻ってきてしばらく。
まだ息が整わない。
くそぅ、こんなことなら叫ばなきゃよかった。
体力を無駄に消費しちゃったじゃん。
「えっと、こんな感じ?」
「トォォォ! トォォォミ!」
「え、ちがう?! もう何が気にくわないの〜………」
で、うちをこんな状態にした原因のやつは、トリミアンのカットをしているチカちゃんを見ていた。
「ケケッ」
あ、ついに割って入っていた。
はあ………、うちも仕事しよ。
「わ、ドクロッグ。え、なに? アンタがやるの?」
「ケケッ」
「あ、じゃあ、はい………できるのかな………」
チカちゃんの意見はごもっともで。
でもドクロッグだしなー。
「えーと、水辺のポケモンは、バスラオ、ヒトデマン、バルビート、イルミーゼは問題なし。ブロスターは食事量の追加。カメテテはゴルダックが相手になることで解決っと。森のポケモンはリーフィア、ホイーガ、フシギソウが良好。ペンドラーは明日再訪問。直ってなければ強制送還も考えるっと。山辺のポケモンはイシズマイ、バネブー、ゴルバット、ココロモリ、サンドパン以上なし。サイドンもバンギラスとバカやってるくらい元気である。野生のコータスが泣く原因も煙が目に沁みた可能性が高いっと。あとは………」
パソコンを使って結果をまとめていく。項目表はヒキガヤが入院中に作ってくれたものを使用。あいつ、地味にこういうのまとめるの上手いからムカつく。しかもその速さを間近で見て見惚れてしまった自分自身にはさらにムカつく!
………こうやってまとめてみるといかにゴルダックが異質か見えてくるよね。というか水辺のポケモンだけ遠慮なくない?
「トォォォミ!」
「なんでドクロッグだとオーケーなのよー!」
どうやらドクロッグのカットが気に入ったみたいだね。
もうなんとなく分かっていたけどさ。こいつ、もはやヒキガヤのゲッコウガといい勝負してるよね。そのうちポケモンやめるんじゃない?
「ミナミ〜………」
「あー、もう諦めた方がいいよ。うちも今の今まで振り回されてたし」
「なんか悔しいー!」
「気持ちは分かる」
悔しいよねー。
腹立つよねー。
マジでなんでうちの仲間になったのか甚だ疑問だよ。
「たっだいまー!」
「あ、おかえりカオリちゃん」
「チカ、どしたん? ハンカチ咥えて」
「あれ………」
「うわ、ドクロッグがカットしてるし。超ウケるんだけど!」
今回に関しては激しく同意。
なんというか超シュール。
「あ、そうだ。チカちゃん、舎内のポケモンたちの様子聞いてもいい?」
「あ、うん、いいよ。みんな健康状態自体は特に異常はなし。ただマネネとテールナーはやっぱ女の子だからかな。おとなしいんだけど、ジグザグマがねー。あと、トリミアンのカットがあの有様………」
「ふむふむ、まあジグザグマはそういう生き物だし、トリミアンのカットだね。あれ見るとあいつに任せた方がいいんじゃって思うだけど…………どう?」
「やっぱり?」
「うん、じゃああいつに任せよっか。ただ、そうなるとあいつの負担が増えるからなー。今でも充分仕事させてるし」
トリミアンのカットはうちらよりもドクロッグの方が気に入られたみたいだし、となると他の作業…………やっぱりケンカの仲裁とかかな。これはうちらでやるしかないよね。
「ミナミってなんだかんだドクロッグのこと気に入ってるよねー」
「え? べ、別にそんなことはない、けど?」
「いやいやいや、ミナミの性格なら『やってくれるの? わあ、ラッキー!』くらいが普通じゃん」
「うちをなんだと思ってるの………?」
一回問い詰めた方がいいのかな。
『あらあら、みなさん。お戻りになられたんですね。それでは遅めの昼食にしましょうか』
そういって鍋を運んできてくれたのはディアンシー。一応今はうちのポケモンってことになっている幻のポケモン。本人曰く、メレシーの突然変異体らしい。その稀有な存在からメレシー族からは姫として扱われるんだとか。
「ディアンシー! ありがとー! さあ、食べよう! 今すぐ食べよう!」
「ミナミ、必死すぎ」
「ケケッ」
ドクロッグに振り回されたからね。
無駄に体力使ってるからお腹すいてるの!
「あ、ミナミちゃん、後ろ………」
「へっ?」
チカちゃんに言われて振り向くと、ゴルダックがスカートをめくっていた。
「き、きゃあ?! ゴ、ゴゴゴゴルダック!? アンタいつからいたのよ、この変態っ!」
「ゴダ?!」
あ、思わず蹴っちゃった…………。まあいいか。やっと当たったと思っておこう。
『白か……』
この巻貝頭。かち割ってやろうかな。
「ケケッ」
「うわ、アンタもいつの間に作ってたのよ………」
「しかも……………うん、やっぱり美味しい」
伸びてるゴルダックをよそに席に座り、ディアンシーの作ってくれた昼食を食べようとしたら、もう一皿現れた。
どうやらいつの間に作ってたみたいで………うん、美味しそう。チカちゃんなんか既に一口食べてるし。
ただ、ねぇ………。
「美味しい、んだけどさ…………これのせいでうちらの身体おかしくなってたりしない、よね?」
「そんなわけないじゃーん! ミナミ何いってんのー?」
「ケケケッ」
「さっき、ドクロッグの毒で吐き気が治ったんだけど」
「「………えっ?」」
さっき起きたことを話したら、二人の手が止まった。
あ、やっぱこの事実はおかしいことなんだね。危ない危ない。うちの頭までおかしくなるところだったよ。
『大丈夫だろ、二人は。ドクロッグが仕掛けるのはこいつだけだ』
「ケケケッ」
「ちょ、それはどういう意味だし!」
こんの巻貝頭! ディアンシー、やっちゃってよ!
「ケケッ」
「あ、ちょ、こら、うぷ?!」
巻貝頭に文句を言おうとしたらドクロッグに引っ張られてスプーンを咥えさせられてしまった。
「………いや、だから美味しいからね? 正直うちより美味いから!」
「ゴダ」
「アンタはつまみ食いしながらうちのお尻を撫で回すな!」
復活したゴルダックがうちのお尻を撫でながらドクロッグが作ったチャーハンを掬って食べ出した。
だが次の瞬間ーーー。
『ドクロッグさん? ゴルダックさん? それ以上ミナミさんにおいたをするのなら……………わかりますよね?』
ーーー二人の時間が止まった。
カチンと固まり、ギギギとディアンシーの方へと首を動かしている。かくいううちもディアンシーの静かな怒気に身震いした。
うちの為って分かってはいるけど、めっちゃ怖いんですけど!
『おい、なんだこれ………』
そんな冷え切った空気を吹き流したのは育て屋へとやってきたポケモンだった。
「ゲッコウガ?! アンタどうしたの?」
ゲッコウガ。
ヒキガヤのポケモンでうちのドクロッグよりもヤバいやつ。しばらく一緒に行動したこともあるけど、ヤバかった思い出しかない。何がヤバいって戦闘から普段の動きに至るまでもはやポケモンの域を超えているのだ。化け物と一緒にいる感じね。本人には口が裂けても言えないけれど。
『今日はお前らに助っ人を連れてきたんだが………』
助っ人?
「ほっほ、わしじゃよ」
「こ、校長先生?!」
「元、じゃがな」
なんでこの人がいるの?!
というかゲッコウガとどういう関係!?
『あ、ご主人、久しぶりだな』
ん?
ご主人?
ご主人って言った?
ヤドキングの言うご主人っていったらイッシキさんのおじいさんのことよね。
…………え?
「えっと、イッシキさんのおじいさん、なんですか?」
「うむ、そうじゃよ。知らんかったのかの?」
「いやいやいや、知らないですよ! え、マジで? イッシキさんって実はすごいお嬢様だったり?」
「それはないの。儂に金はない」
「そ、そうですか……」
マジかー………。
あの子、実はすごいとこの子だったんだ……………。ユキノシタさんも姉妹でお嬢様だし、あいつの周りそんなのばっかじゃん!
「ちょっと、ゲッコウガどういうことよ?」
『言っただろ? 助っ人だと』
そうだけど、そうじゃなくて。
『お前らが忙しいのはハチも知ってるからな。丁度こっちに来たじいさんに頼んだんだよ』
そ、そうなんだ………。ヒキガヤが………、そっか。
なら、もういいや。こっちはそういうことにしておこう。
それより………。
「ねぇ、アンタに聞いてみたかったんだけどさ。あいつらってなんでうちに対してだけあんななの?」
丁度いいので、ドクロッグとゴルダックについてゲッコウガに聞いてみた。
『知るか。んなもん、本人に聞けよ』
「うっ…………そ、そうなんだ、けどさ」
うぅ……….ちょっとくらい考えてくれてもいいじゃん。
『ま、そういうところだろうな』
「はっ?」
『お前がヘタレだからだろ。あいつらに気に入られてるのは』
「え、意味がわからないんだけど………」
ヘタレだから気に入られてる?
てか、うちがヘタレってどういうことだし!
『お前がお前だからってことだ。だからお前が悩む必要はない』
「え、ちょ、ほんとにわけわかんないだけど!」
みんなして何なのよ!
結局わかんないままじゃん!
「ほっほ、お主は見掛けによらずポケモンに好かれやすいってことじゃな。奴とはまた違うポケモンたちに、じゃがの」
「えっと、奴って………?」
すると元校長、もといイッシキさんのおじいさんが割って入ってきた。
「ヒキガヤハチマンじゃよ。奴はポケモンたちの力を引き出すことができる。だから強さを求めるポケモンたちに好かれるのじゃ。そしてお主はお主を守りたいと思わせるだけの優しさがあるのじゃろう。口では決して出してなさそうじゃが。それに気付くか気付かないかはポケモンによる。じゃが確かにお主にはポケモンたちを惹きつけるだけのものがあるのじゃよ」
あいつらはうちを守りたいと思ってる、の………?
え、でもなんでうちを?
別に優しくなんてした覚えなんてないし…………。
『あとは、本能で選んだんだろう。オレがハチを選んだようにな』
本能…………。
あ、うん、なんかそれが一番しっくりきたかも。
ゴルダックなんて本能のままにうちにセクハラしてくるし。
え、でもなんかそれはそれでやだなー。
普通に懐いてくれればいいのに………。
『あとは任せる』
「ほっほ、お主も『そやつ』を然るべきところに預けるのじゃぞ」
『……分かっている』
まあいいや。
この日を境に、うちらの作業が楽になったのは言うまでもない。
行間
サガミミナミ
・メガニウム ♀
覚えてる技:ソーラービーム、にほんばれ、つるのムチ、じならし、くさのちかい、しぼりとる、こうごうせい、ひかりのかべ
・フローゼル ♂
特性:すいすい
覚えてる技:アクアテール、かわらわり、れいとうパンチ、みずでっぽう、アクアジェット、スピードスター、あまごい
・エモンガ ♀
特性:せいでんき
覚えてる技:でんげきは、ボルトチェンジ、アクロバット、でんこうせっか、ほうでん、でんじは、かげぶんしん
・ルリリ ♀
特性:そうしょく
覚えてる技:こごえるかぜ、あわ、うそなき、はねる、まるくなる
・ドクロッグ ♂
特性:きけんよち
覚えてる技:ずつき、ダブルチョップ、ねこだまし、どくづき、バレットパンチ、ヘドロばくだん、どろばくだん、ドレインパンチ、みがわり、はたきおとす
・ディアンシー
持ち物:ディアンシナイト
覚えてる技:ダイヤストーム、マジカルシャイン、ムーンフォース
オリモトカオリ
・バクフーン(マグマラシ→バクフーン) ♂
覚えてる技:ふんか、でんこうせっか、かわらわり、かえんほうしゃ、かえんぐるま、オーバーヒート
・オンバーン ♂
覚えてる技:りゅうのはどう、ばくおんぱ
・バクオング ♂
覚えてる技:みずのはどう
・ニョロトノ ♂
特性:しめりけ
覚えてる技:ハイドロポンプ、アイスボール
・コロトック ♀
覚えてる技:シザークロス
・ソーナンス ♂
覚えてる技:カウンター
ナカマチチカ
・ブラッキー ♀
覚えてる技:あくのはどう
・トロピウス ♂
覚えてる技:ぎんいろのかぜ、エアスラッシュ
・レントラー ♂
覚えてる技:かみなりのキバ