ポケモントレーナー ハチマン 〜ぼーなすとらっく集〜   作:八橋夏目

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今回はデオキシス、ギラティナ襲撃から三ヶ月後の話になります。
そういえば今日は折本さんの誕生日だったんですね。おめでとうございます。

〜お知らせ〜
PixivBOOTHにて『ポケモントレーナー ハチマン』シリーズのDL版を販売しております。1巻目は『トレーナーズスクール編』です。
詳しくは活動報告にてまとめておりますので、ご確認下さいませ。
皆さん、よろしくお願いいたします。


ぼーなすとらっく17『忍び寄る影のカオリ』

 ミアレシティとヒャッコクシティが壊滅してから三ヶ月。

 育て屋の仕事もじっちゃんが来てから随分と楽になり、やり甲斐を感じてきた今日この頃。

 どこからか視線を感じる時がある。それはポケモンの世話をしてる時だったり、買い物しにミアレに行っている時だったり、酷い時には寝ている時にまで感じてしまい目が覚めてしまうのだ。これはさすがに誰かに聞いてみないとまずいかもね。もしかしたら何かの病気になってるのかもしれないし。

 

「ねぇ、チカー」

「んー?」

 

 丁度一緒に作業をしているチカに聞いてみることにした。

 

「最近、どこからか視線を感じたりとかってない?」

「視線? ないけど。疲れてるんじゃない?」

「かなー」

「ポケモンたちもトレーナーの元へ少しずつだけど戻ってるんだし、それで気が抜けちゃってるんでしょ。肩の荷が落ちたー、みたいな感覚だと思うよ」

「あー、なるほどね」

 

 チカはないのか。

 これでもチカは元シャドーの戦闘員なんだよね。あたしに比べれば末端になるんだけど、あたしとこうして仲良くしてるんだから、それなりに上の存在を目の当たりにしてきているはず。そんなチカが感じないというのだから、やっぱり気のせいなのかもしれないね。

 

「なら、今日は早めに寝るとしますか」

「それがいいと思うよ」

 

 今日は感じないことを祈りたいけど、こう連日続くとねぇ。

 ドクロッグやじっちゃんにも聞いてみよ。

 

「あ、チカのも持ってくよ」

「ならお願ーい」

「はーい。いくよ、ソーナンス」

「ナンスー」

 

 チカからチェック用紙を受け取り、本舎に戻ることにした。

 

「ッ?!」

 

 っ、まただ!

 また視線を感じた!

 しかも日に日に強さが増している気がする。

 一体誰があたしらを見てるっていうの…………!

 

「ケケッ」

「ッ、………ドクロッグ?!」

 

 び、びっくりしたー!

 急に現れないでよ。って、あたしが視線に気を取られてたらから気づかなかったんだね。

 

「ねぇ、アンタは今、どこからか視線を感じたりしなかった?」

 

 せっかくなので、今の視線を感じなかったか聞いてみた。

 だけど、返事は首を横に振るだけ。特性きけんよちを以ってしても今のを感じなかったってことか。

 ああー、気になるー!

 なんかゾワゾワするし、ヒヤヒヤする。素直に気持ち悪いよ!

 

「………ヒキガヤなら……」

 

 って、ダメダメ!

 あいつは忙しいんだから。もし思い過ごしだったら仕事の邪魔になるだけ。

 ………ああー、こんなことでヒキガヤを充てにしちゃうなんて、結構参ってるんだね。こりゃ、早くなんとかしないと。

 

「ほっほ、顔色が優れんの」

「じっちゃん………」

 

 本舎に戻るとじっちゃんがポケモンフーズを製作していた。

 じっちゃんが来てからポケモンフーズの製作は任せっきりだ。あたしらが作るよりもポケモンたちに合うようで、時折作り方を習ってるくらい。

 

「ねえ、じっちゃんは最近誰かから見られてるって感じることあったりする?」

「視線というやつかの。………儂もそこそこ狙われる存在ではある故、そういうこともしばしばあるんじゃが、最近は何もないのう」

「じっちゃんでもないんだ………」

「何かあったのかの?」

「んーん、ないならいいんだ。あたしの気のせいだろうし」

「ふむ………、もしかするとカラマネロたちの襲撃と何か関連があるのやもしれん。儂もこの通り老いぼれじゃ。昔よりも感覚は鈍っておる。お主のその感覚を切って捨てるのは浅はかというものじゃよ」

「そっか………」

 

 ならやっぱり探ってみるのもありなのかもしれないんだね。

 

「よし、それじゃ山の方に行ってくるよ」

「うむ、ポケモンたちを頼むぞ」

「ナンスー!」

 

 じっちゃんの作ったポケモンフーズを持ってソーナンスと山の方へと向かった。道中は特に気になる感覚はなかったけど、こうなると気が抜けなくなってくる。

 アレは一体誰の視線だったのか。そもそも誰かの視線なのか。分からないことだらけで、あたしも気味が悪くてしょうがない。

 

「バグッ」

「あ、おつかれー、バクフーン。ポケモンたちの様子はどう?」

 

 山エリアに着くとバクフーンがあたしたちに気がついて降りてきてくれた。今日は目がいくところでサイドンたちがやり合ってはなさそうだね。あれを毎日止めるこっちの身にもなってほしいってもんだよ。

 バクフーンも首を横に振って問題無いと伝えてきたし、今日は平和だなー。

 

「ッ?!」

 

 な、に………?!

 この、重圧………!

 感じる方を見ると禍々しい黒いオーラが一瞬だけ見えた。んーん、見えてしまったっていった方が当ってるかも。

 

「ーーーこの感じ、まさか………っ!!」

 

 あたしは知っている。一年前まであたしも連れていたもの。今はスッキリなくなっているけど、それもヒキガヤのおかげ。そのヒキガヤもよく知っている危険なもの。

 

「ソーナンス、戻って! バクフーン、いくよ!」

 

 あれはこんなところにあっていいようなものじゃない。ましてやこんなところでばら撒かれたら、他のポケモンたちが住処をなくし命の危険さえある。

 

「なんでよ………! どうしてアレがっ!」

 

 わからない、なんでアレが………ダークオーラが!

 どうしよう、どうしたらいいの………。

 向かう先は森の中。禍々しいオーラが立ち昇った所まではそう遠くはない。

 

「まだダークポケモンが出回ってるなんて聞いてないよ!」

 

 木々を潜り抜けてたどり着いた先には一体のポケモンがいた。

 

「フーディン………」

 

 じっちゃんのポケモンと同じフーディン。

 シャドーポケモンの実験歴にはいなかったはず。でもこのフーディンからは禍々しい気を感じる………。

 まさか新たにダークオーラを付与したポケモンがいるっていうの?

 

「バクフーン!」

 

 あたしは迷わずバクフーンから降りてフーディンの元へと走らせた。

 これはあたしたちシャドーの問題。決して他人に任せてはいけない問題。ここであたしが片づけないと!

 

「ニトロチャージ!」

 

 速攻を仕掛けるために炎を纏わせて突っ込ませた。

 でも相手はエスパータイプ。ポケモンのタイプの中でも一、二を争うトリッキーさが売り。

 

「やっぱりそうくるよね」

 

 サイコキネシス。

 超念力によりバクフーンは一瞬で動きを止められてしまった。

 

「バクフーン、かえんほうしゃ!」

 

 こういう時は技を使用しているポケモンに攻撃すればいい。

 

「ディン!?」

 

 バクフーンが口からはいた炎を受け、フーディンは技を解除してくれた。

 手足は動かせなくとも口は使えるからね。突っ込んだことで距離も縮まってるし、抜け出せる確率は相当高いよ。

 

「よし、そのままシャドークロー!」

 

 エスパータイプにゴーストタイプの技は効果抜群。

 しかも影を使った不意を衝く攻撃だ。躱すことは早々できはしない。

 

「ッ!?」

 

 うそっ?!

 フーディンが地面を蹴って飛び出してきたっ!?

 それに怒りが爆発しそうなあの顔………まさかっ?!

 

「バクフーン、かげぶんしん!」

 

 地面に突き刺して影を伝ってフーディンの背後から切り付けるはずが、飛び出しの一つで急転するなんて………。

 普段ならこういうバトルも面白いとか言っているのに、今はそんな言葉を微塵も出したくはない。

 

「バグッ?!」

「バクフーン!?」

 

 分身が間に合わなかった!

 しかもやつあたりで一気にこんなに吹き飛ばされるなんて…………。

 あたしがいた頃とは比べ物にならないくらい強化されているじゃん。

 

「バ、グ………」

 

 よかった、まだやれるみたい。

 でも長居は禁物だね。所詮今のバクフーンはどこにでもいる普通のポケモンでしかない。ダークオーラを付与されて強化されたダークポケモンに対してどこまでできるのかなんて、今のあたしたちには分からないもの。

 

「バクフーン、もう一度かげぶんしん!」

 

 単に突っ込んだのでは、あのフーディンに止められてしまう。かといってあんな動きができるフーディンに遠距離からの攻撃も意味をなさない。

 

「ニトロチャージでスピードを上げて!」

 

 まずは影も使っての撹乱。

 

「ディン」

 

 よし、バクフーンの動きを目で追い始めた。

 でもそれは長くは続かないでしょ。これだけの数を見切るのは相当バトルの経験が必要になる。

 

「フレアドライブ!」

 

 そして死角からならば攻撃は入るはず!

 

「ディン!」

 

 なっ………!

 リフレクター?!

 それならっ!!

 

「バクフーン、かわらわりで突破だよ!」

 

 そういうとバクフーンはフーディンを包み込むように円形に並べられたリフレクターを破壊していく。

 

「ディン!」

 

 ッ?!

 これ、はっ…………!

 トリック、ルームーーー!!

 

「バ、ク?」

「ディン!」

 

 くっ、サイコキネシス!

 炎を纏ったバクフーンが壁を突破してフーディンに当たる寸前に素早さが逆転する部屋を作り出した。その部屋にフーディンとともに閉じ込められてしまったバクフーンは、超念力で木々を倒しながら飛ばされてしまった。

 なんなのこのフーディン! 強すぎない?!

 あれ………?

 そういえばなんでフーディンはいろんな技が使えてるの?

 ダークポケモンはダークオーラによって技の使用に制限かかるはずなのに…………。その対価として与えられたのがダーク技で………あれ? ならフーディンのダーク技は………?

 おかしい、何かがおかしいよ、このフーディンは。あたしの知ってるダークポケモンじゃない!

 

「ディン!」

 

 くるッ!!

 

「ソーナンス、カウンター!」

 

 フーディンが地面を蹴り出したと同時に、バクフーンの方へソーナンスのボールを投げ放った。

 

「ナンスー!!」

 

 どうやら間に合ったようだね。

 地面を蹴り出したところからやつあたりがまたくると思ってカウンターを選んだけど、正解だったみたいだ。

 ソーナンスに弾き飛ばされたフーディンは、バクフーン同様いくつもの木々を倒しながら飛ばされていった。

 

「はあ………はあ………!」

 

 なんとか、倒せた………。

 

「え………?」

 

 この赤い光は………モンスターボールの………。

 ってことはやっぱりトレーナーがいたんだ。

 

「ふっ、やはりお前がロッソのようだな」

 

 ッッ?!

 

「誰っ!?」

 

 訝しんでいたらドスの効いた男の声が聞こえてきた。

 しかもあたしがシャドーにいた時の名前まで知ってるなんて………。

 

「ッ!?」

 

 誰何すると男が姿を現した。

 それだけで背筋が凍りつくような寒気が走り、両足がふるふると震え始めている。

 ーー恐怖。

 そう表すのが適切なんだとは思うけど、どこかそれだけでは言い表せないものも感じている。

 

「オレ様もいるぜ」

「ッ?!」

 

 背後からも声がし、首以外が動かなくなってしまった。

 ヤバいヤバいヤバい!

 これはほんとにヤバいって!

 あたしここで死ぬかもしれないっ!!

 物理的にぺしゃんこにされたっておかしくない!!

 だってコイツは筋肉バカのーーーっ!!

 

「ロッソ、いや本名はオリモトカオリか」

「まさかあなたが女性だったなんてね」

 

 落ち着け、落ち着けあたし………。今は慌ててる場合じゃない。身体は動かなくとも頭は動くんだ。考えろ、考えるんだーー!

 後ろには三人。正面には一人。

 ここから抜け出そうと思うのなら正面突破を狙うのが妥当だろうけど、それはできない。だって、この男は………シャドーの実質的なボス、ジャキラだから。極悪非道。その言葉がびったりな凶雄。トレーナーからポケモンを奪い、ダークオーラを付与させてオーレ地方にばら撒いていた組織のナンバー2だ。はっきり言って、後ろの幹部三人の方がかわいいと思えるレベル。

 これはまともに相手する方が危険だ。

 

「……え、と……アンタたちは一体………?」

 

 どうやらあたしのことを調べ上げているみたいだけど、一応は白を切ってみる。

 

「ふん、白を切るつもりか。だが、こちらにはすでにお前がロッソだという確信は取れているのだ。無駄な抵抗はやめておくんだな」

 

 この声は確かボルグだったはず。

 この四人の中で一番会話ができそうな男ではあるけど、その言葉の裏には何があるか分からない。筋肉バカのダキムやプライドが高いヴィーナスもだけど、下手に口を開けば何をされるか分かったもんじゃない。

 

「………………」

 

 ダメだ……。

 まともにジャキラの顔が見られない。

 視線を交わせば射殺されそうな、そんな目力を感じる。そうでなくとも、この四人に囲まれているというプレッシャーが身体の隅々まで行き渡り、全神経が痙攣を起こしているような感覚があるのだ。立っているのかも座っているのかも浮いているのかも判断がつかない。

 

「ロッソ、もう一度わたしたちのところに来い。これは命令だ」

 

 っ?!

 それってヒキガヤたちを裏切れってことじゃん。それにこんな提案してくるということは、あたしがヒキガヤと繋がってることも承知済みってことでしょ。

 ふざけるな!

 あたしはもうそっちの世界から足を洗ったのよ!

 

「………いや、だと言ったら?」

 

 ああ、声が震えてる。やっぱりコイツは怖い。目の前にするだけで震えが止まらない。

 

「力づくでも連れていく」

「丁度新しい仲間に強力な催眠術を使えるポケモンがいる。そいつに全てを忘れさせてしまえば、こちらとしても好都合なのだよ」

 

 催眠術………。

 それであたしはあたしでなくなるってことね。

 そんなの聞いたら俄然嫌に決まってるじゃない!

 それよりもなんでコイツらがここに、カロスにいるのよ。何を企んでるのっ?

 

「………そもそも、アンタたちは何を企んでるの? シャドーは壊滅したでしょ」

「ああ、シャドーは壊滅した。だが、技術は残っている。それをわたしたちが使わない理由がなかろう?」

「つまり、組織だけが変わってやることは同じってことね」

 

 根は変わらない組織。

 そんなところに絶対戻る気はないから。

 

「まあ、進歩はしているがな。お前も気づいただろう? わたしのフーディン」

「………あ、あたしの知ってるダークポケモンじゃなかった。アアアンタたち、一体何したっていうの?!」

「ダークオーラを進化させた。それだけは伝えておこう」

 

 やっぱり、ダークオーラが関係しているんだね。

 

「さて、これだけわたしたちの情報を話したのだ。さすがのお前でも帰れるとは思ってないのだろう?」

 

 ッ?!

 

「………そうだね。でもアンタたちと一緒にいくくらいなら死んだ方がマシよ」

「おい、ジャキラ。聞いたか? 本人のお望みだぜ。オレがやってもいいよな?」

「口を慎め、ダキム。ジャキラ様だ」

「へっ、細けぇやつだな、ボルグ」

 

 ああは言ったけど、これほんとに死ぬパターンじゃん。

 

「ダキム、やれ」

「あいよ」

 

 やばっ?!

 今気づいたけど、全員ポケモン出してるじゃん!

 ジャキラはバシャーモ、ヴィーナスはミロカロス、ボルグはライボルト。そしてダキムはラグラージ。はっきり言って逃げ場もないし相性も最悪。

 

「一対二だろうが関係ねぇ。ラグラージ、じしん!」

「バクフーン、かえんほうしゃで飛んで! ソーナンスはカウンター!」

 

 ラグラージが地面を叩くと、咄嗟にバクフーンに回避を、ソーナンスに打ち返すよう指示した。

 

「まずはソーナンスにだ、やつあたり!」

 

 っ?!

 

「ソーナンス!?」

 

 なに、今の威力………っ!

 まさかラグラージも?!

 

「まずは一体」

 

 ソーナンスでも返せないなんて、それしか考えられないよ。

 

「………やっぱり、ラグラージもなんだ」

「ああん? 今ごろ気づいたのか? 勘が鈍ってんじゃねぇか、ロッソちゃん!」

「変な呼び方しないで! バクフーン、ソーラービーム!」

 

 天高く避難していたバクフーンのチャージはすでに終わっている。

 太陽の光を凝縮させた光線を一気に降り注いだ。

 

「ハッ、甘ぇんだよ! ラグラージ、ミラーコート!」

 

 う、そ………っ!?

 

「バ、バクフーン?!」

「トドメだ! やつあたり!」

 

 攻撃を返されて大ダメージを受けたバクフーンが落ちてくるところに、ラグラージがその身体を打ち付けた。

 

「これで終わりか、ロッソ」

「くっ………!」

 

 もう他に戦えるポケモンはいない。逃げるにしても山を出るまでに捕まるのがオチだ。

 絶望感に苛まれて急に身体から力が抜けていってしまった。そしてそのまま地面座り込んでしまう。余計に逃げられなくなるというのに………。

 

「んじゃ、着てるもんひん剥いて甚振ってからお望み通り殺してやるよ」

 

 ッ?!

 だ、だめ………震えが止まらない!

 あ、あああたしここで辱められて殺されるんだ………!

 

「こ、こないで………」

「急にしおらしくなっても、誰も助けてくれねぇよ」

 

 こんなことならヒキガヤにでもあたしの全てを捧げとくんだった。あいつならなんだかんだいいながら、あたしのこと受け入れてくれるだろうし……………。

 

「さあ、来いッ!」

 

 いやっ!?

 あたしまだ死にたくない!

 

「オロロロロロロッ!」

 

 あたしは咄嗟に身体を抱きしめるようにして目をギュッと瞑った。

 

「………やはり来たか」

「ああん? なんだコイツ」

 

 ……え、何かいるの?

 目を開くとそこには四足歩行のポケモン? がいた。色は黒を基調とし所々緑色があり、鼻が前に突き出ていてルカリオが四足歩行になったような感じ。

 

「ここは分が悪い。引くぞ」

「あ、ちょ、待てよジャキラ! どういうことだよ!」

「覚えておけ、ダキム。カロス地方には守護者がいる。そいつが現れた時、わたしたちの計画も波状するだろう」

「計画がぶっ飛ぶってか。シャドウポケモンにしちまえば関係ねぇだろ」

「やれるものならな」

「チッ! ロッソ、オレ様たちの計画を口外すれば、テメェのお仲間の首が全部飛ぶと思え」

 

 ……………。

 

「わたしたちはいつだってあなたを見ているわ、ロッソ」

 

 ……………………。

 

「一度闇に足を踏み入れた者が表の世界にいられると思わないことだな」

 

 …………………………。

 

「あたし、助かった、の………?」

 

 は、ははは………。

 

「あはははははは……………ッッ?!」

 

 怖い、怖かった!

 死ぬかと思った!

 緊張が解けてより一層震えてきた!

 なんでさ。なんであいつらがカロスにいるのさ。わかんない、わかんないよ! もうわけがわからないよ!

 

「バ、グ………」

「バクフーン………」

 

 意識を取り戻したバクフーンが起き上がってへたり込むあたしのところまでやってきた。その身体はボロボロですごく痛ましい。

 

「ナンス〜………」

「ソーナンス………」

 

 ソーナンスもボロボロだ。技を返すはずのカウンターが及ばなかったなんてあたしもソーナンスも想像してなかったもの。ダークオーラならまだできてたはず。だからあの力は本当に進化しているんだ。

 

「………こんなの、あたしどうしたらーーー」

 

 悔しい。

 すごく悔しい。

 倒さなきゃいけないのに、ボロクソに負けて。

 誰かに話すこともできなくて………。

 だって話したら絶対に殺される。あたしじゃなくてみんなが。そしてあたしに絶望を味わわせるんだ。それがあいつらのやり方だもん。間近で見てきてる分、簡単に想像できてしまう。

 動くならあたしだけ。でもあたしができることなんて何もない。戦闘とスナッチしかしてこなかったあたしには何もできないんだよ…………。ルギアを追っている時だってほとんどチカに任せっきりだった。あたしはバトル専門。バトルバカだから………。

 あ、やばっ………涙出てきた。

 

「悔しい、悔しいよ………バクフーン、ソーナンス……」

 

 涙が流れ始めたら急に口も止まらなくなった。

 

「あたしだって強くなった。アンタたちと強くなってきたんだ! なのに! 何もできなかった! あいつらを目の前にしてただ震えてるだけだった! 怖かった! 死ぬかと思った!」

 

 二人に抱きついたあたしは全てを吐き出すように口が閉じない。

 

「戻りたくない! あんなところに、もう戻りたくないよ…………」

 

 まだ震えが止まらない。ある意味、あたしのトラウマになっているのかもしれない。いや、絶対になってる。あれだけ足がすくんでればまちがいないよ………。

 

「バクフーン、ソーナンス………あたし、どうしたらいいの………。これからどうすればいいの……………」

 

 ポケモンたちに聞いたって答えが返ってくるわけじゃない。むしろ困惑させるだけだ。自分たちのトレーナーはこんなにも弱いって言ってるようなもんなんだから。なのに、誰かに答えを用意してほしい。道を示してほしい。そんな感情で今は溢れかえっている。

 でも嫌なの。あんなところに戻りたくはないの。みんなを手放したくもないの。せっかく手に入れた平穏を失いたくないんだよ。

 どうしよう………どうしたらいいの…………………。

 だれか、助けてよーーー。

 

「ーーーたすけてよ、ヒキガヤ………」

 

 あたしは縋るような思いでヒキガヤの名を口にしていた。

 震えが止まったのはそれから一時間くらい経った頃だと思う。正確な時間はわからないけど、その時にようやく四足歩行のポケモンがいなくなっていることに気づいた。

 なんだったんだろう、あのポケモンは。




行間

オリモトカオリ
・バクフーン(マグマラシ→バクフーン) ♂
 覚えてる技:ふんか、でんこうせっか、かわらわり、かえんほうしゃ、かえんぐるま、おにび、ニトロチャージ、シャドークロー、フレアドライブ、ソーラービーム、かげぶんしん

・オンバーン ♂
 覚えてる技:りゅうのはどう、ばくおんぱ

・バクオング ♂
 覚えてる技:みずのはどう

・ニョロトノ ♂
 特性:しめりけ
 覚えてる技:ハイドロポンプ、アイスボール

・コロトック ♀
 覚えてる技:シザークロス

・ソーナンス ♂
 覚えてる技:カウンター、ミラーコート


ジャキラ
・フーディン ♂
 覚えてる技:サイコキネシス、やつあたり、リフレクター、トリックルーム

・バシャーモ ♂


ダキム
・ラグラージ ♂
 覚えてる技:じしん、やつあたり、ミラーコート


ヴィーナス
・ミロカロス ♀


ボルグ
・ライボルト ♂

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