ポケモントレーナー ハチマン 〜ぼーなすとらっく集〜   作:八橋夏目

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日付変更での投稿には遅れましたが………。
小町の誕生日ということで今回投稿します。
以前より執筆し、準備してきた小町話です。今回はデオキシス・ギラティナ襲撃事件から三ヶ月半頃となります。
とにかく長いです。今までで一番長いです。


ぼーなすとらっく18『兄妹対決フルバトル!』

「お兄ちゃん、バトルしよ!」

 

 カロスに来てからもうすぐで一年という今日この頃。

 今日も今日とて事務処理をしているとバタンッ! と勢いよく扉が開けられた。

 入って来たのは我が愛しのエンジェル、コマチだった。

 

「コマチちゃん? 急にどしたの?」

 

 開口一番がバトルしようだなんて、目が合ったら………というものに近いものを感じるな。

 

「今のコマチがどこまでやれるか試したいの!」

 

 今のコマチの実力か。

 確かに大会以降、コマチのバトルは見る機会がほとんどなかったからな。見たのだって技の習得とかそんなのばかりだし、本気のバトルはそろそろ行った方がいいのかもしれないな。

 

「ハチマン、やってあげなさいな」

「いや、そりゃいいんだけどな。急だったから普通に驚いてた」

 

 コマチとバトルか。

 正直、大会以降俺のポケモンたちの実力が格段に上がりすぎていてバトルに出すのが億劫になるんだよな。だって、リザードンなんて相性は悪いわ暴走なんて吹っ切れて全力出して来たわのオーダイルに、メガシンカなしで一撃必殺も使わずに勝っちゃったし。ゲッコウガはカルネさんのポケモンを蹂躙してたし、ジュカインは今やべぇことやろうとしてるし、ヘルガーなんて擬似的にダーク化出来ちゃうし、ボスゴドラも元群れのリーダーで実力はあるし…………まともなのキルリアだけかな?

 でもキルリアではまだまだコマチのポケモンたちの相手は務まらないだろうしなー。

 まあいいか。キルリアが出るって決まったわけじゃないし。リザードンやゲッコウガたちがいれば事足りるだろう。

 となるとあいつを招集しないといけないのか。

 

「んじゃ、これだけ終わらせてしまうわ」

「あいあいさー!」

 

 取り敢えず、仕事たけは終わらせようとコマチに伝えると、コマチは軽快に部屋から出ていってしまった。残ったのは俺とユキノの二人だけ。

 

「………と、これで終わり………か。ユキノ、確認終わったぞ」

 

 今目を通していたのはミアレシティとヒャッコクシティの復旧についての報告書。粗方計画が実行段階に移ってきているようだ。遅れているところもあるが、それはまあ想定内のことでもある。全部が全部上手くいくわけでもないし、他の作業との兼ね合いもあるからな。

 

「そう、問題はなかったかしら?」

「特には。ただ遅れている作業については一応想定内のことではあるが、進捗を細かく残しておいてほしい。あと、他でこれを優先してくれたら作業が進むってのがあったらピックアップしてくれると助かるわ」

「分かったわ。ピックアップは今姉さんにも頼んであるから明日には整理できるはずよ」

「相変わらず仕事がお早いことで………」

 

 俺が言う前にやり出してるとは…………。

 俺、ほんとに確認とかしかしてないからね?

 実務ってほぼほぼこの姉妹に任せきりだし。いいのかね、こんなので。

 

「だってそうしないと今度はあなたの作業が進まなくなるでしょう?」

「まあ、そうなんだけども。姉妹揃ってここまで優秀だとユキノシタ家の血が羨ましくなるわ」

「あら、小さい頃から窮屈な英才教育を受けて、姉にはからかわれ、同じ歳なのに力量差を見せつけられる生活をしてみたいと?」

「謹んで遠慮させてもらいます。こちとら独学で勉強して、授業をサボったこともあるような自由気ままにやってきたんだ。絶対無理だわ」

「私ももう懲り懲りだわ。あなたがいなかったらあそこから飛び立つこともできなかったのだから、感謝はしているわ」

「『は』ってなんだよ。何か不服でも?」

「ええ、いくつか」

「よし、コマチとバトルしにいくか」

「最後まで言わせるつもりはないのかしら」

 

 お前の不服なんて毎度同じだからな。いくら俺が悪いといっても聞き飽きたわ。

 

「だって、どうせアレだろ? 『追いかけても追いかけても記憶を失くして忘れ去られる悲しみをあなたも味わいなさい』とかなんとかだろ? 嫌ってほど聞いたっての」

 

 そりゃ失うってのがどういうことか実感したけども。

 

「そうね。………コマチさんも飛び立つ時が来たのかもしれないわね」

「へ?」

「いいから行きましょうか」

「お、おう………」

 

 コマチが飛び立つ?

 どういうことだってばよ。

 

「リアー!」

「お、キルリア」

『どこかいくのか?』

 

 部屋から出るとキルリアとゲッコウガが帰って来たところだった。キルリアを抱き上げてゲッコウガの問いに普通に答えることにする。

 

「今からコマチとバトルすることになってな。お前らを探す手間が省けてよかったわ」

『ほー、だから今日は人が多いのか』

「は? 人が多い?」

『外に出れば分かる』

 

 人が多いってどういうことだよ。

 まさかコマチのやつ、何か企んでるのか?

 

「ユキノは何か聞いているのか?」

「まあ、そうね。知らなくもないわね。でも教えないわよ。あなたにはバトルが終わってからって言われているもの」

「はあ………、分かったよ」

「あ、それと本気を出してほしいらしいわよ」

「本気ねぇ」

『本気を出すのはオレたちの方だからな』

「それな」

 

 俺はただ指示出してるだけだし。

 そりゃトレーナーの判断が勝敗を分けることもあるけどさ。事俺のポケモンに関してはそこに当てはまるとも言い難いんだよな。自分たちの判断で動いた方が速いことだってあるし。

 

「うわ………マジか」

 

 外に出たら本当に人が多かった。しかも見知った顔ばかり。

 

「なんでお前らもいるわけ?」

「たはは〜、コマチちゃんに呼ばれちゃってさー」

「私もです」

 

 やっぱりコマチが呼んだのか。あ、サガミたちまでいるし。トツカやザイモクザがいるのは理解できるが、あの三人もかよ。あいつら育て屋はどうした! さてはじじいに任せてきただろ。

 

「コマチがみんなに召集かけたんだよー。みんなに見てほしくて」

「俺が断ったらどうするんだよ」

「大丈夫だよ、お兄ちゃんは絶対に断らないもん!」

「ええー………」

 

 最近思うんたが、妹の兄の扱い方がさらに長けてきている気がするのは俺だけか?

 まあ、断らないけどさ。

 

「審判は私がやるわ」

 

 そう言ってユキノがフィールドの中央外へと向かっていった。

 仕方ない。この大衆の中でやるしかないか。

 

「ポケモンの数はどうするんだ?」

「フルバトルで!」

「はいよ」

 

 フルバトルね。

 コマチとこうやってフルバトルをするなんていつぶりだろうな。力量差があり過ぎるため、俺の方からは話を振ることもなかったし、それはユイやイロハにだって言えることである。

 それでもこの一年弱でそれぞれ強くなっているのは確かだ。本気で来いという注文もあるみたいだし、スイッチ入れますかね。

 

「よっと」

 

 キルリアを下ろしバトルフィールドへと移動。

 

「カーくん、いくよ!」

 

 着くとすぐにコマチが最初のポケモンを出してきた。最初はカマクラか。相性で言えばヘルガーを出すべきだな。

 

「リアー」

「ん? キルリアもバトルしたいのか?」

「リア!」

 

 くいくいと俺のズボンを引っ張ってくるキルリア。

 どうやらバトルをしたいらしい。

 

「よし、ならやるか」

「リーア!」

 

 しょうがない。

 こんな可愛く上目遣いでおねだりされては断れるわけがない。キルリアではカマクラにすら敵わないだろうが、それでもキルリアにはやれるだけのことはやってやろうじゃないか。

 

「それじゃ、ルールは六対六のシングルス。交代は自由。技も制限なし。それでいいわね?」

「はい!」

「おう」

「なら、バトル始め!」

 

 さて、同じエスパータイプ相手にどう戦ったものかね。

 

「カーくん、ねこだまし!」

 

 うわ、また最初からえげつないの選んできたな。

 

「リア?!」

 

 カマクラが急に目の前に現れて一拍手したことに驚いたキルリアは、その場で尻餅をついてしまった。

 

「でんじは!」

 

 また搦め手か。

 確かにオスのニャオニクスは搦め手を使う方に長けているけども………。

 もしかするとトツカやザイモクザがさらに入れ知恵したのかもしれないな。

 

「キルリア、まもる」

 

 キルリアは座ったまま防壁を張ってでんじはを防いだ。

 さて、今度はこっちから仕掛けるとしますか。

 

「トリックルーム」

 

 キルリアに進化してからいつの間にか覚えていた技。結構高度な技なんだけどな。誰が教えたんだか。

 ゲッコウガと行動してることが多いし、育て屋に行くことも度々あるため何人か想像はつく。

 

「リーア!」

 

 キルリアは速さがあべこべになる部屋にカマクラごと閉じ込もった。

 カマクラとの力量差なんて一目瞭然。だからそれを逆手にとって攻撃の主導権を取ればいい。

 

「シャドーボール」

「リア!」

 

 うん、思った通りくそ速いな。

 

「カーくん?!」

「驚いてる暇はないぞ。マジカルリーフ」

「リー、ア!」

 

 どうやらコマチもキルリアがこんな戦い方をするとは思ってなかったようだ。そのせいでカマクラが全く動けないでいる。いや、あいつ自身も驚きで動揺しているのだろう。

 

「っ、サイコキネシス!」

 

 やっと動けたか。

 やはりまだまだこういう相手には弱いようだな。まあ、指摘したところで直るようなことでもない。これは経験が全てだ。トレーナーになって一年も経たないコマチには無理である。

 

「シャドーボール」

「リアリアー!」

 

 トリックルーム内では動きが遅いポケモンの方が速く動ける。したがってまだ進化して間もないキルリアはカマクラの背後を取ることが容易である。

 

「カーくん、あくのはどう!」

 

 逆にカマクラは通常に比べて技を出すまでにタイムラグを感じているはずだ。

 

「キルリア、躱せ」

 

 カマクラがシャドーボールを受けたまま黒いオーラを放って来たが、やはり遅い。攻撃が届く前にキルリアはあっさりと躱した。

 

「そうだっ! カーくん、もう一度あくのはどう!」

「遅い、シャドーボール」

 

 これで三発目。三発目とも命中させている。だが、カマクラが倒れる気配はない。それだけの差が二体の間にはあるということだ。

 

「カーくん、押し返して!」

 

 そう来たか。

 あくのはどうはあくまでも防御のため。黒いオーラでシャドーボールを弾き返すための布石だったらしい。

 なら、こっちはそれ諸共消し去るのみ。

 

「キルリア、マジカルシャイン」

 

 あくのはどうとは対照的な技。タイプ相性は何もポケモンのタイプだけに働くわけじゃない。技自体にも関係してくるのだ。

 

「ふいうち!」

 

 っ?!

 ここでそれを使うのかっ!?

 いや、思いついたのはこれだったのかもしれない。トリックルーム内でもその効果を無視できる技がいくつかあるのだ。ふいうちはその内の一つであり、カマクラがキルリアに攻撃できる唯一と言ってもいい技である。

 

「今だよ! サイコキネシス!」

 

 さらに超念力で身動きを封じてきたか。

 ………あまり使いたくはないがそうも言ってられない。キルリア、怖がらず落ち着いて移動しろよ。

 

「キルリア、テレポート」

「っ、リア!」

 

 キルリアが初めてテレポートを使った時。咄嗟に使ったため着地座標を正確に指定していなかった。そのせいで俺は頭を強く打ってしまったのだが、どうやらキルリアはそれがちょっとトラウマになっているらしく、それ以降も上手くテレポートを使いこなせていないのだ。そんなやつにバトルで使わせたくはなかったのだが、今はやむを得ない。これも克服するためと言い訳するしかないだろう。

 

「カーくん、上だよ!」

 

 キルリアは上手くテレポートを発動させることまでは成功したようだ。ただし、着地座標を咄嗟に真上にすることで、であるが。

 

「キルリア、まもる」

 

 カマクラの移動速度がいきなり速くなった………?!

 ということはトリックルームが消えたということか………!

 これはちとマズいな。その場凌ぎのまもるだったが、どちらにせよこうするしか手はなかったようだ。

 

「はかいこうせん!」

 

 おいおい、マジかよ。

 それは無理だわ。

 

「リア…………」

「キルリア、戦闘不能!」

 

 カマクラのはかいこうせんによりキルリアの防壁は破壊され、そのまま戦闘不能に追い込まれてしまった。

 いや、あれはさすがにキルリアじゃ無理だって。

 

「キルリア、お疲れさん。よく頑張ったな」

 

 フィールドに倒れているキルリアを抱き上げてそう伝えた。

 

「お兄ちゃん、トリックルームとか聞いてないよ」

「そりゃ初めて見せたし」

「キルリアのレベルでは難しい技だと思うのだけれど」

「俺だって初めて見た時は驚いたっつの」

 

 ねんりきがまだサイコキネシスのレベルに達してないんだぞ?

 そんなやつがいきなりトリックルームなんて高度なもんを見せてきたら素直に驚くっつの。ゲッコウガに聞いてもいつの間にか覚えてたって言うし。

 

「あー、それ多分フーディンかも」

「はっ? フーディン? じじいの?」

「うん………」

 

 結局あの人かよ。

 

「キルリアが興味持ったらしいから教えたって言ってた」

「こいつがねぇ」

 

 キルリアも自分が使えそうな技には興味を示すようになったんだな。ならまあ、今後はこいつが興味を示した技を中心に教えてみることにするか。

 

「ねぇ、イロハちゃん。あれ、ますますパパと娘に見えてこない?」

「あ、私も思いました。やっぱりどこからどう見てもパパと娘ですよね」

 

 聞こえてるからな、お前ら。

 パパだの娘だの関係はなんだっていいんだよ。可愛いは正義だからな!

 

「さて、次やろう。お兄ちゃん!」

「そうだな。ヘルガー、よろしく」

「ヘガ」

 

 エスパータイプ相手にはやっぱりあくタイプだよな。それにヘルガーにはあれがあるし。

 

「ヘルガー……」

「どうする? 交代させるか?」

「んーん、このままやる。苦手なタイプが相手でも引いてばっかじゃカーくんのためにもコマチのためにもならないもん」

 

 そりゃそうだ。苦手なタイプだからこそ数をこなした方がいい。そうしなければいつまで経っても絶対に勝てない相手でしかないからな。

 適材適所という考え方もあるが、そこそこ相手できるくらいにはしておいて損はない。

 

「そうだな。ならこい」

「カーくん、でんじは!」

 

 やっぱり麻痺狙いは欠かさず仕掛けてくるんだな。

 

「あくのはどう」

 

 なら、その電気の波ごと呑み込んでしまえ。

 

「ひかりのかべで抑えて!」

 

 ………さて、仕掛けるか。

 

「ヘルガー、ちょうはつ」

「ッ?!」

 

 くくく、ようやく目を見開いたな。

 

「ヘガッ」

 

 これでカマクラの得意戦法はできなくなったぞ。

 

「お兄ちゃん、性格悪すぎ」

「全力出せって注文したのはお前だろ? それに挑発に乗る方が悪い」

「そうだけどさ………。ならカーくん、あなをほる!」

 

 攻撃しかできなくなった今、ヘルガーの弱点を突いていこうって算段だな。

 だが、それくらいは対処が簡単だ。

 

「ヘルガー、地面にアイアンテール」

「ヘガッ」

 

 鋼の尻尾を地面に叩きつけ、衝撃で地中に潜り込んだカマクラを強制的に掘り出した。

 

「カーくん?!」

 

 いきなりのことでカマクラも対処できていない。

 決めるならここだろう。

 

「かみくだく」

 

 飛び出したカマクラに噛みつき、地面に叩き落とした。

 

「ニャオニクス、戦闘不能!」

 

 カマクラには悪いが、キルリアの借りを返さないといけなかったんでな。ねじ伏せさせてもらったぞ。

 

「先輩、えげつなーい」

「ヒッキー、こわーい」

 

 なんか怒られてんだけど。

 ちゃんとルールに則ったバトルでしょうに。

 

「アホ、これくらいでえげつないとか言ってたら俺とバトルなんかできないぞ」

 

 うん、マジで。

 このくらい可愛いものだからね。うちのお三方の方がよっぽどえげつないから。特に青い奴。

 

「カーくん、お疲れ様ー。………お兄ちゃん、コマチが可愛くないの?」

「何バカなことを言っている。可愛いに決まってるだろ。世界一可愛いと言ってもいい」

「あ、それはそれで気持ち悪いかも」

「うぐっ」

 

 コマチは世界一可愛い妹だろうが。

 本人に何と言われようが俺はそう思ってるからな!

 

「素直に気持ち悪いわね」

「ええー」

 

 審判にまで気持ち悪いと言われてしまった。

 

「さて、コマチさん。次のポケモンを」

「はーい」

 

 次のポケモンか。

 まあ、ヘルガーの仕事は終わったも同然だからなー。戻しますかね。

 

「ヘルガー、お疲れさん」

 

 コマチとバトルする前から相手にさせるポケモンは選んである。順当にいけば、今回のヘルガーの出番はこれでお終いだろう。

 

「あれ? ヘルガー戻しちゃうの?」

「まあな」

 

 恐らくコマチが次に出そうしていたポケモンはオノノクスだろう。クチートではヘルガーとの相性が不利だし、カメックスやプテラはリザードンやゲッコウガにぶつけるはずだ。敢えてカビゴンということも考えられるが、あいつはあいつで切り札を持っている。二体目に選ぶのなら消去法でオノノクスになってしまう。そして、それは俺がヘルガーを引っ込めたところで変わらないだろう。俺だって序盤からあの三体を出すつもりはない。あいつらが出てしまえば、一方的な展開になるだろうからな。

 ………あ、そうなるとこれって俺が本気を出していないことになるのでは?

 まあいいか。

 

「ボスゴドラ、よろしく」

「ゴラァ」

 

 ドラゴンタイプに対しても強く出られるはがねタイプ。だが、気をつけなければ返り討ちに遭う可能性もある。まあ、そこはどうにかなるだろうけどな。

 

「キーくん、いくよ!」

 

 うわー、マジで予想通りだったわ。俺って実はみらいよちが使えたり? んなわけないか。

 

「オノノノノォォォオオオオオオオオオッ!!」

 

 これは、とうそうしんか?

 いつになく興奮してるようだけど、大丈夫か?

 

「りゅうのまい!」

 

 ほう、竜気を纏えるようになったのか。

 なら、こっちもスピードを上げるまでだな。

 

「ボスゴドラ、ロックカット」

 

 根本的なスピードはオノノクスの方に分があるが、ちょっとでも追いつけるのならそれでいい。

 

「いっけぇ、キーくん!」

 

 コマチの合図とともにオノノクスが地面を蹴り上げた。

 ということは接近戦に持ち込むつもりか。

 

「きあいだま!」

 

 いや、そう見せかけての遠距離攻撃だったか。

 なるほど、緩急つけることを覚えたみたいだな。

 

「ボスゴドラ、メタルクローで弾け」

「ゴラァ」

 

 技の選択もボスゴドラの弱点を突いたもの。

 

「……と、きあいだまは陽動だったか」

「キーくん、アクアテール!」

 

 きあいだまを待ち受けて弾き返すまでに、オノノクスはボスゴドラの背後に回り込んでいた。撃ち出してから背後に回り込むまでの時間はほんの数秒程度。

 竜気はそこまでスピードを上げる働きをしているというわけだな。そうなると攻撃力の方も格段に上がっていると見た方が賢いな。

 

「真後ろに振り向いてメタルクローだ。クロスして受け止めろ」

 

 こういう立ち回りをされると、やはりスピードを上げておいてよかったと思う。感覚で反応できても身体がついてこないのでは意味がないからな。

 

「弾け」

 

 鋼の両爪を大きく開き、オノノクスの水を纏った尻尾を弾いた。

 

「キーくん、懐に入って!」

 

 するとオノノクスは身体を捻り、ボスゴドラの足元に低く着地しーーー。

 

「けたぐり!」

 

 ーーーボスゴドラの右足を引っ掛けて前に払った。

 やられたボスゴドラの身体はバランスを崩し、重心が後ろに下がり大きく仰け反っていく。

 けたぐりは身体が重たい程、倒れた時の衝撃で受けるダメージが大きくなるかくとうタイプの技。身体が重いはがね・いわタイプのボスゴドラには超効果抜群だ。

 

「ボディパージ」

「ッ! ゴラァ!」

 

 だから後ろに倒れる寸前に身体を軽くし、ダメージの軽減を図ってみた。

 技自体はボスゴドラも反応してくれたおかけで成功している。ただ、倒れた衝撃によるダメージがどこまでいくのやら………。

 

「キーくん、容赦はいらないよ! じならし!」

 

 コマチがそう言うとオノノクスは足踏みをし、地面を揺らしてきた。衝撃がじしん程大きくはないため、普段ならもう少し余裕を持てたが、今は割とピンチである。

 ほんと容赦ないな。

 まあ、それくらいの攻めの姿勢があった方がバトルの流れを掴みやすいが。

 しかし、このままだと同じ展開が繰り返されてダメージが蓄積していくのも事実。その間にこちらがオノノクスを倒せばいい話であるが、他に決定打となる技を用意している可能性だってある。ここは一つ手を打っておくか。

 

「ボスゴドラ、でんじふゆう」

「ふぇ?!」

 

 ボスゴドラは揺さぶられている身体を浮遊させ、態勢を立て直した。

 さて、これで移動範囲が広がったな。それにあの時以上の条件が出揃っている。

 

「コマチ、ボスゴドラのでんじふゆうで思い当たる節はあるか?」

「え? んと、ガンピさん?」

「ああ、そうだ。ここから先はユキノとガンピさんのバトルの時以上と思え。ボスゴドラ、ラスターカノン」

 

 そう言うとボスゴドラは素早い動きでオノノクスの背後に移動し、鋼の光線を背中に打ち付けた。

 

「キーくん?!」

 

 コマチが咄嗟に呼びかけるも無惨に地面を点々とバウンドしていく。

 

「………ノ、クス」

 

 お、まだ意識は残っているのか。

 確かにボスゴドラはああいう光線系の技とかの遠距離系は得意というわけではないからな。使えるという点では頼もしいが、そっちをエキスパートとするポケモンたちには見劣りするだろう。

 

「ノクス!」

 

 けどまあ、あの目を見ればここからが正念場ということらしいな。

 

「よし! キーくん、りゅうのまい!」

 

 仕切り直しというよりは最後の一撃のためだろう。炎と水と電気の三点張りからの竜の気の生成。それを纏うことで攻撃力と動きが俊敏になる。オノノクスは初手と合わせて二回使っている。竜気が活性化して近づくだけでも危険な存在になっているかもしれない。

 そんなオノノクスにコマチは一体どんな策を授けるというのだろうか。

 

「ノノノノクスッ!!」

「キーくん?」

 

 な、なんだ?

 なんか天を仰ぎ出したぞ。

 コマチも理解できてないところを見るにオノノクスの独断なのだろう。

 

「ノォォォックスッ!!」

 

 あれは………りゅうせいぐんか!

 オノノクスなりに出したボスゴドラ対策というわけだな。

 いいだろう。全部躱してやる。

 

「ボスゴドラ、躱せ。それが無理な時はトルネードメタルクローだ。何度も見てきたお前ならできるはずだ」

「ゴラァ!」

 

 本来は翼のあるポケモンたちが使う飛行術だが、今の浮いているボスゴドラなら再現するのも難しくはないだろう。それに何度も目にしてきてるんだ。必要になったら使えるはずだ。

 

「りゅうせいぐん?!」

 

 コマチはオノノクスが流星を打ち上げたことに驚いていた。ということは今習得したということだろう。ポケモンは追い込まれた時こそ、その真価を発揮する。だが、やられては元も子もないため、その匙加減をするのがトレーナーの役目といったところだ。

 ボスゴドラは降り注ぐ流星群をすいすいと躱し、上昇していく。

 

「ノノノノクスッ!」

 

 おいおい、まだあるのかよ。

 

「今度はいわなだれだ! ボスゴドラ、トルネードで砕け!」

 

 さらに頭上から次々と岩々が落ち始めてきた。大きいものから小さいものまで、大きさはバラバラで、隙間が埋め尽くされていた。

 

「すごいよ、キーくん! このままいっちゃえーっ!」

 

 って、あいつ外れた岩を次々と登って来てるし。

 

「きしかいせい!」

 

 なるほど、あいつらの狙いはこれか。

 

「躱してドラゴンダイブ!」

 

 下降する勢いを加えて突撃してくるオノノクスをひょいと躱し、逆に上から押しつぶすように突撃していった。背中から受けたオノノクスはさらに勢いを増して地面にその身体を叩きつけた。

 効果抜群の技を与えたんだし、今度こそ戦闘不能になっただろう。

 

「キーくん!?」

「オノノクス、戦闘不能」

 

 いやはや驚いた。

 一気に二つの技を習得してくるとは。

 

「キーくん、お疲れ様。がんばったね」

 

 コマチはそう言ってオノノクスをボールへと戻した。

 

「ボスゴドラ、お疲れさん。擬似的だが空中戦も視野に入れられそうだな」

「ゴラァ!」

 

 俺もボスゴドラを戻すために声をかけた。

 ボスゴドラは身体が重たい故にカウンター狙いの戦いからが基本だっが、技を組み合わせることでそれなりに速攻もできるようになってきた。その副産物としてできたのが空中戦である。でんじふゆうで浮遊することにより時間制限はあるものの、空中戦も可能となったのだ。俺のパーティーも空中戦ができるのはリザードンだけだったし、ゲッコウガやジュカインも空中で戦うことはできても翼がないため、滑空したり飛行術を使うことができない。だからこれは割とありがたい副産物なのである。モノにできたようで何よりだわ。

 

「お兄ちゃん、ボスゴドラが空中戦とか聞いてないよ!」

「そりゃ、初めて見せたからな。ガンピさんの戦いを見て改良してたらでんじふゆうが優秀すぎることに気づいたんだよ」

「私としてはあなたのそのひらめきの方が驚きなのだけれど。毎度毎度パフォーマンスだけは上手いのだから」

 

 ボスゴドラをボールに戻してるとコマチとユキノに目を細められてしまった。

 

「なるほどー、こういう戦い方もあるんですねー」

「ボディパージやロックカットを組み合わせてくるとは………。我もできちゃったり?」

「ダイノーズだったらできるんじゃない?」

「あははは………」

 

 観客席ではメモ取る奴らもいるし。

 え? そんなすごいことだったのん?

 速く動けねぇかなーってことで始めた策の副産物だぞ?

 

「………それに驚くのはまだ早いと思うがな」

「ふぇ?」

 

 ………我が妹ながらあざといぞ。

 でもかわいいなこんちくしょう!

 

「ジュカイン、お前の限界を超えた力を見せてやれ」

 

 さて、次は何を出してくる?

 残るはカメックス、カビゴン、プテラ、クチート。タイプ相性で見ればプテラかクチートだろうが、コマチだからな。変なこと考えてないとも言い切れない。

 

「ジュカイン………、とうとう出てきたね。お兄ちゃんの三巨頭の一角」

「三巨頭って………。あとはリザードンとゲッコウガのことか?」

「そだよ、コマチたちはそう呼んでるの」

「嬉しくない呼び方だな。広めるなよ」

「大丈夫、だと、思う………よ?」

 

 こいつ信用できねぇー………。

 

「あ、それ知ってる! 確かネットでそう呼ばれてた! ウチも見たし!」

「それある!」

「ないわー………」

 

 なんでみんなザイモクザ脳なんだよ。いちいち括り名を付けるな。

 

「サガミもオリモトも知ってるということは、そこそこネット界隈に出てきてる表現ってことなんだろうな。やだなー」

「ええー、かっこいいではないか」

「お前と一緒にするな、ザイモクザ」

 

 バトルする度に変な名前で呼ばれるとかどんな公開処刑だっつの。

 

「クーちゃん、いくよ!」

 

 お、クチートの方できたか。

 出てきて早々いかくしてきてるし。

 

「にほんばれ!」

 

 言うや否や日差しが強くなった。

 そういやクチートはサポートに徹することもあったな。天気を操ったり、能力変化をバトンタッチしたり。

 思い返せばクチートの立ち回りってそんなのが多かったような気がする。となると今回も後続で出てくるであろうプテラの支援要員ってことか?

 

「ジュカイン、思う存分やってこい。ピンチだと思ったら助け舟は出してやる」

「カイッ!」

 

 ジュカインはクチートの足元から草を伸ばして手足を縛っていく。くさむすびか。まずは身動きを封じようって魂胆だな。

 

「クーちゃん、ほのおのキバで草を焼いて!」

 

 だが、コマチの即断で頭の牙が草に噛みつき燃やしていった。

 まあ、その間にこっちも動いてるんだけどな。

 クチートの背後から引っ掻き音のような耳障りな騒音が辺りに響いた。

 耳塞いでおいて正解だったな。塞いでいてこれだ。コマチたちは相当耳が痛くなっていることだろう。

 

「ーーーク、クーちゃん………ものまね……」

 

 あ、こらバカ!

 それやっちゃったら周りがーーーっ!!

 

「うににににににーーっ!?」

「ピィギァァァアアアアアアアアアッ!?」

 

 あーあ、二次被害が酷すぎる。

 みんな頭がフラフラしてるぞ。

 

「カー、イッ!」

「な、え?! かえんほうしゃ!?」

 

 早速見せてきたか。

 ものまねによるかえんほうしゃ。本来ものまねは相手が出した技を真似て繰り出す技であるが、ジュカインは色々な技を理解していくことで、相手が使っていない技もコピーすることができるようになってきている。ただ、やはりそこは記憶を辿りに真似ているためか、本来の威力には及ばないみたいだ。

 

「クーちゃん!?」

「クチー……!」

 

 だから効果抜群であってもこの程度。普通に耐えられてしまった。

 

「………ハチマン、あなたまさか!」

 

 ああ、ユキノは直接見て体感してるんだったな。

 

「そのまさかだ。ジュカインは記憶を辿りに技を思い出して真似ている」

「やっぱりあの時のがきっかけなのね」

「お前のマニューラとバトルした時な。あの時、こいつはものまねを昇華させようと実験していたんだ。だからアプローチの方法を色々与えてやったらこの有様だ。まあ、これもジュカインだからできることなんだろうけど」

「お兄ちゃん、それってどういうこと………?」

 

 コマチには上手く理解できなかったか。となると他のやつらも理解できてないのがいるんだろうな。

 

「ほら、ジュカインって自分が使えるくさタイプの技は全て習得してるだろ? それができるのも一重にこいつが技をしっかりと理解しているからだ。だからくさむすびだって本来の用途とは違う使い方ができるし、自由自在に操ることだってできるんだ。そこにものまねが入ればどうなると思う?」

「ッ!?」

 

 ここまで言えばコマチも理解できたみたいだな。

 

「はあ………、いつものことながらあなたたちの考えは逸脱しているわね。つまり、ジュカインはこの世の全てのくさタイプの技を習得できるようになったってことでしょ? そして行き着く先はあらゆる技の習得。リザードンといい、ゲッコウガといい、あなたのポケモンはどうしてこう規格外ばかりなのかしら」

 

 ユキノの言う通り、ついにジュカインもリザードンやゲッコウガ並みの領域に達したのだ。

 もうね、どうしようか。

 伝説のポケモンよりも伝説のポケモンっぽいぞ。

 

「知らねぇよ。けど、トレーナーってのはポケモンの力を引き出すのが仕事だろ?」

「これはトレーナーの方が規格外だからなのかもしれないわね」

「ひでぇ………」

 

 だからユキノが規格外というのは分かるが、俺まで規格外ってのはどういうことなんでしょうねぇ。

 俺ってそんなに規格外か?

 

「そっか………。だったらクーちゃん! こっちも負けてられないよ!」

 

 そんな中、深く頷いたコマチは何かを取り出した。それは光輝く丸い石。

 

「メガシンカ!」

 

 キーストーン。

 ポケモンが持つメガストーンと反応し、ポケモンの姿を変える道具。白い光に包まれたクチートは新たな姿へと変化していく。

 

「………あれがクチートのメガシンカした姿なんだ」

「ツインテールみたいだよね」

 

 確かにトツカの言う通りツインテールみたいだ。頭の耳が大きくなって二つの牙になっている。ただ牙なんだよな。見た目が怖すぎる。

 

「つるぎのまい!」

 

 はてさて、メガクチートの特性はなんだったか。

 ただまあ、つるぎのまいを使うあたり、物理攻撃に長けていることは確か。

 

「少なくともクチートは物理攻撃に長けている。ジュカイン、お前ならどうする?」

「カイッ!」

 

 取り敢えずはジュカインに情報を与えてみる。

 するとジュカインは初手と同じように足元から草を伸ばした。クチートの両耳に巻きつけることで攻撃の要所ともなろうあの牙耳を塞ぎ、身動きをも封じようってことらしい。

 

「ふいうち!」

 

 だが、草の中をかき分けるように抜け出し、素早くジュカインの背後へと回ってきた。ジュカインは躱すことができずに、前に倒れていく。

 

「………一発でこの威力か。さすがメガシンカと言ったところだな」

 

 本来クチートはバンギラスやボーマンダのような怪獣ども程の攻撃力がない。なのに、ここまでの威力が出せるというのは、それだけメガシンカがクチートの攻撃力を飛躍的に上げたということだろう。

 

「ジュカイン、動きを封じるだけでは意味がない。敢えて攻撃させるという手も視野に入れてみろ」

「カイッ!」

 

 今の戦い方ではメガクチートは倒せない。逆に不意を突かれてやられるって方が濃厚だ。

 

「カーイッ!」

 

 立ち上がったジュカインは地面を踏み鳴らしてきた。

 この地響きからしてじならしだな。はがねタイプを持つクチートには効果抜群だ。加えて衝撃が縦に来るため大きくバランスを崩しやすい。

 

「カイカイッ!」

 

 膝をついたクチートにすかさず炎を吐いた。

 すでに日差しは弱まっており、威力の増幅は見込めない。

 

「クーちゃん、ふいうち!」

 

 コマチは咄嗟にふいうちを選択することで炎を躱させた。だが、この流れはすでに見ている。

 

「カイ」

 

 ジュカインは草の刃で背後から現れたクチートの右の牙耳を受け止めた。

 

「そのままだいもんじ!」

 

 っ!?

 どうやらクチートはメガシンカを使いこなせているようだ。コマチもメガクチートの特徴をよく理解している。攻撃の連鎖性が整っているとは見事なものだ。

 至近距離で左の牙耳から吐かれた大の字の炎に押し返され、俺が立つところまで飛ばされてきた。

 でもこれはこれですごいな。ジュカインはだいもんじを受けてなお、戦闘不能にはなっていない。ここからが本番というようにアレが発動している。

 

「クーちゃん、畳み掛けて! じゃれつく!」

 

 態勢を立て直すジュカインに対してクチートがあと数メートルのところまで迫ってきている。

 

「ジュカイン、焼け」

 

 この態勢、この位置ならばかえんほうしゃを再度使った方が意外性がある。

 いきなり目の前で炎を吐かれれば誰だって驚き動きが鈍くなる。しかも躱すことができない距離での効果抜群の攻撃だ。トドメを刺す前の前座としては充分だろう。

 

「ハードプラント」

 

 炎に呑まれ動きが止まったクチートを地面から太い根が唸り出し叩き飛ばした。

 

「クーちゃん?!」

 

 メガシンカはとても分かりやすい。

 戦闘不能になればメガシンカは解ける。審判をやる上でもメガシンカ程分かりやすい判定基準はないだろう。

 

「クチート、戦闘不能!」

 

 それにしてもまだバトルは中盤だぞ?

 メガシンカをここで使ってよかったのか?

 

「クーちゃん、お疲れさま。ゆっくり休んでね」

「ジュカイン、回復しとけ」

 

 コマチがクチートをボールに戻している間に、ジュカインにこうごうせいを使わせておく。

 

「コマチ、よかったのか? メガシンカを使っちまって」

「うん、大丈夫!」

 

 大丈夫って………。

 一体何を企んでいるのやら……………。

 

「お兄ちゃんこそ大丈夫なの? メガシンカ使わなくて」

「大丈夫だ。まずはものまねの出来具合をお披露目するのが目的だったし」

「ふーん、コマチのお願いなのにお兄ちゃんの出汁にされちゃったんだ。ふーん」

「なんでそこであからさまに不機嫌になるんだよ。お前が本気でこいって言うからだろ」

「そりゃそうだけどさー。なんかちょっと複雑なの!」

 

 俺にはよく分からんな。

 そういう時期が俺にもあったんだろうが、遠い昔の記憶だ。ダークライによって記憶がなくなったり戻ったりしてる俺には、もはやその時の感情なんて濃いもの以外はよく分からなくなっている。印象に残らない程度の出来事だったってだけの話だろうな。

 

「ゴンくん、いくよ! このごみいちゃんの鼻っ柱へし折っちゃえ!」

「ゴァ〜ン」

 

 四体目はカビゴンか。

 ということはこれでリザードンやゲッコウガも倒そうってつもりか? それならば何という無茶な話だよって感じだ。Z技を使うのにもメガシンカ並の制約があるんじゃねぇの?

 

「ジュカイン、今度は俺が指示を出す。いいな?」

「カイッ!」

「まずはくさむすびでカビゴンを転ばせてから地面に貼り付けろ」

 

 いつもと同じ攻撃パターンではあるが、本来の用途で使う他にも使えたりするため、そこまで読まれるということはない。

 ジュカインはいつもより太めの草をカビゴンの足元からひょっこり出して、両足にだけ絡めてバランスを崩させた。あの巨体を支える柱が一本失くなったことにより、後ろに倒れていく。

 

「サイコキネシス!」

 

 だが、悲しいかな。

 カビゴンが新しく習得したのであろう超念力によって、その巨体は宙に浮いた。

 

「カイ?!」

 

 そしてそれだけじゃなく、ジュカインにも超念力の力が加えられていた。絶賛身動きが取れない状態。宙に貼り付けられたような感じだ。

 

「どう? ゴンくんだって飛べるんだよ?」

「こりゃ驚きだな。でも今のジュカインにはそう脅威ではない。ジュカイン、はどうだん」

 

 動けないなら動かなくてもいい技を使うだけのこと。

 ジュカインは超念力で固定された右手に波導を凝縮していき、カビゴンに向けて放った。

 

「ゴンくん、引き寄せて!」

 

 コマチがそう言うと、ジュカインははどうだんを追い抜くスピードでカビゴンの元へ引き寄せられてしまった。サイコキネシスが成せる芸当なのだろうが、そこまで使いこなせるようになっていることに驚きだ。

 

「ばくれつパンチ!」

 

 うっわ、マジか………。

 誰だ、こんな戦法考えた奴!

 

「ジュカイン!」

「ゴン?!」

 

 カビゴンの重たい一撃を受け、俺の目の前まで吹っ飛ばされたジュカインに声をかけるのと同時に、カビゴンがはどうだんを腹に受けた。

 やはりまだまだ威力もスピードも本来のものとは程遠いみたいだな。だが、それでも牽制するには使うことができる。メインにしなければ使い所はいろいろありそうだ。

 

「カイ……ッ?」

 

 ばくれつパンチによる混乱か。まあ、あれだけ激しく顔を殴られれば何がなんだか分からなくなっても無理はない。

 

「潮時かな………」

 

 そろそろ使うべきだろうな。

 

「ジュカイン、起きろ。メガシンカ」

 

 キーストーンを取り出して、ジュカインが首に巻くスカーフに付けてあるメガストーンが共鳴させた。白い光に包まれたジュカインは背中に実を成し、尾を倒木のように伸ばしていく。

 

「カーイィィィッ!」

 

 メガシンカの力で混乱も解消するといいなーくらいの思いつきだったが、上手く香を来したようだ。

 

「ジュカイン、走れ」

「カイッ!」

 

 格段に上がったスピードであっという間にカビゴンとの距離を詰めた。

 

「きあいだま」

 

 超至近距離からの効果抜群の技なら相当のダメージを与えられるだろう。

 

「カィッーー!」

 

 まあ、遠くから撃つ技をカビゴンの懐に入って腹に直接当てるようなバトルは俺も見たことないけどな。

 

「ゴンくん!?」

 

 フィールド外に飛ばされた巨体を見てコマチは驚いていた。恐らくさっきのはどうだんから威力がどのくらいなのか判断していたのだろう。

 だが、技の精度がまだまだならば直接当てればいいんじゃないかと思う。ゼロ距離ならば加減も何も必要ない。思いっ切り溜め込んでぶっ放せば、本来の威力以上の力を発揮することができる。

 

「ジュカイン、逃すな。タネマシンガン」

「カィィィィィィイイイイイイイイイッ!」

 

 カビゴンが起き上がろうとするところに、ジュカインは種を打ち付けていく。

 

「ふきとばし!」

 

 起き上がったカビゴンは息を大きく吸い込み吐き出した。それだけで無数の種は吹き飛ばされ、辺りに散ってしまった。

 まあ、それならそれでいい。あの種にはいつも通りの仕掛けがある。そろそろ芽吹く頃だろう。

 

「ゴッ?!」

 

 カビゴンに当たって足元に落ちた種から蔓が伸び、くるくるとカビゴンに巻きついていく。

 

「ゴンくん、ほのおのパンチで蔦を焼いて!」

 

 おいおい、マジか。

 あれじゃ自分の腹も殴ることになってるぞ。カビゴンの腹なら大丈夫かもしれないが、あいつの特性はめんえきの方だろ? あついしぼうなら分かるがめんえきじゃなぁ………。

 

「サイコキネシス!」

 

 大丈夫みたいだな。

 それよりもこっちがヤバいか?

 サイコキネシスでまたしても動きを封じられている。

 ここは一つ俺が打開策を用意しないといけないようだ。

 

「いくよ、ゴンくん! ヒートスタンプ!」

「ジュカイン、みがわり」

 

 ジュカインは脱皮していくかのように、後ろに下がった。すると元いたところには動かないジュカインが立っており、分身を作ることに成功したようだ。

 カビゴンが高らかに地面を蹴り上げた。その巨体は炎を纏っており、燃え盛る隕石のようである。

 いくらメガシンカをしてくさ・ドラゴンタイプとなり、ほのおタイプにはある程度耐性ができたとしても元はくさタイプ。それにあの巨体が直撃すればそれだけでダメージが半端ないだろう。

 

「ハイドロポンプ」

 

 一応リザードンやゲッコウガから一通り技を教えられているためいろいろと使うことはできるんだよな。実践的かと言われればまだまだだと思うが、使わないよりはマシだ。

 そもそも炎は弱められても勢いは止められないからな。

 落ちてきた衝撃で分身は消滅したが、ちょうどいい壁役になってくれたため、衝撃の余波によるダメージもないだろう。

 

「くさむすび」

 

 だから次の攻撃を仕掛けるのも手早く済ませられた。

 カビゴンの着地と同時に足元から草を伸ばして絡め取ることができた。こう固定されては動けまい。

 

「ゴンくん! Z技だよ!」

 

 うわ、そうきたか。

 ゴリ推しじゃねぇか。

 

「ハードプラント」

 

 まあ、こっちもゴリ推しですけどね。

 守ろうにも逃げようにもZ技とやらには意味がないんだよ。全てを巻き込むような勢いで技を出してくるから、こっちもそれ相応の技で対抗しないと持っていかれる。

 

「ほんきをだすこうげき!」

 

 いつもは動きの遅いカビゴンがZ技の時だけは異様に俊敏になるからな。

 これがカビゴンの切り札ってのもどうかと思うぞ。

 

「カィィィィイイイイイイイイイッッ!!」

「ゴォォォオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!」

 

 いや、めっちゃ怖い。

 恐怖でしかないぞ。

 なんであんな巨体がリズミカルに太い根を躱してるんだよ。当たっても腹で跳ね返すとか、Z技えげつなっ!

 

「カィィィィ?!」

 

 うん、もうこうなるだろうとしか思えなかったわ。見てるだけで恐怖だっつの。みんなよくこんなのを相手にできたな。

 

「ゴンくん!」

 

 うわー、なんか超ドヤ顔なんだけど。

 ジュカインはメガシンカが解けて伸びてるし。

 Z技恐ろしい!

 

「ジュカイン、戦闘不能!」

「やったね、ゴンくん!」

 

 はあ………、驚かせるつもりが驚かされてしまったな。カビゴンもZ技を完全にモノにしたってわけだ。嬉しいような悲しいような………怖いのは確かか。

 

「ジュカイン、お疲れさん」

 

 返事のないジュカインをボールに戻してカビゴンを見やると肩で息をしていた。Z技は使った後に急激に疲れるらしい。

 

「カビゴンも随分と疲れてるみたいだな」

「大丈夫! まだできるから!」

 

 コマチは嬉々としているが、そういうコマチも少し疲れが見えている。少々心配だが、ここは様子を見るとしよう。

 

「そうか。ゲッコウガ、いけるか?」

『ああ』

「どうする? いつものようにやるか?」

『そうだな。側から見て危ないようであれば頼む』

「了解」

 

 なら、俺はコマチをじっくりと観察してようかね。バトルはゲッコウガがやってくれるみたいだし。

 

「ゴンくん、交代だよ」

「ゴン」

 

 おっと、カビゴンは交代か。

 まあ、疲れてるところを無理させるのもトレーナーとしてはどうかと思うしな。本人がやりたいならそれを尊重するけども。

 

「疲れたカビゴンは一旦交代か」

「うん、Z技はそれだけ消耗するからね」

 

 そう言ってコマチはカビゴンをボールへと戻した。

 

「いくよ、カメくん!」

 

 次はカメックスか。

 みず対みず、そしてその後はひこう対ひこう。同じフィールドで戦おうってことらしい。それならゲッコウガにはカメックスに格ってのを叩き込んでもらわないとな。

 

『フン』

 

 先に仕掛けたのはゲッコウガ。俊足でカメックスの懐へと潜った。

 

「カメくん、からにこもる!」

 

 だが、同時にカメックスは甲羅の中に潜り込み、黒い手刀を堅い甲羅で弾いた。

 

「こうそくスピン!」

 

 もはや定番とも呼べるコンボ技。ダメージは気にする程でもないが、相手を下がらせるという点では優秀だ。しかもポケモンの特長も合わせているため、よりトレーナー側もバトルを組み立てやすい。

 

『く、やはりあの技の連続性はやりにくいな』

 

 そう言ってゲッコウガは影の中へと消えていった。

 かげうち。

 背後から不意をつくつもりか。

 

「カメくん、あれいくよ! みずのはどう!」

 

 あれ、とは何だろうか。

 そう思ったのも束の間、答えはすぐに出た。

 

「………回転しながら水を吹き出して操るとああいう風に攻撃と防御の一体型になるんだな」

『………ッ!』

 

 吹き出す水は遠心力で弧を描きながら外へと広がっていく。それは背後から忍び寄ろうとしていたゲッコウガを近づけさせないだけでなく、攻撃としても機能していた。

 

「これでゲッコウガも近づけないよ! カメくん、次!」

「ガメェスッ!」

 

 今度は回転しながら移動し始めた。水の衝撃波がどんどんゲッコウガへと近づいていき、堪らずゲッコウガは影を増やして躱した。

 

『これは面倒だな』

 

 確かに面倒だ。近づけないのなら遠距離からの攻撃をと考えるが、あの水の衝撃波がある限りそれも通らないだろう。

 

『いろいろ試してみるか』

 

 そう言って、ゲッコウガはまず黒い手刀で水の衝撃波を切り裂いた。だが、一つ切り裂いたところで次から次へと来るためすぐに身を引いた。

 なるほど、これは本当にすごい発想だと思う。ゲッコウガのみずのはどうで作る水のベールに近いものがあるな。だが、あれは防御特化のもの。精々触れた相手にダメージが入る程度だろう。攻撃する際は水を操り攻撃をしていく。

 一方で、カメックスのあれは常時攻撃と防御を兼ね備えているハイスペック版とも言えるだろう。

 

『なら、こういうのはどうだ』

 

 次は草を伸ばしてカメックスの周りを覆った。まるで草の城壁だな。

 だが、水の衝撃波は幾度となく草を切りつけ、断ち切った。やはり時間稼ぎにしかならないようだ。

 となるとやはりあそこか。

 

「ゲッコウガ、あれはお前のみずのはどうと似て非なるものだ。何ならハイスペック版と言ってもいい。けど、弱点は同じだ。あいつらが対策している可能性はあるが、やるなら後はそこだと思うぞ」

『なるほど。そういうことか』

 

 俺が気づいた事を伝えるとゲッコウガは一気に飛び上がった。

 ゲッコウガが使うみずのはどうは自分の周りにサークル状に出しているため、頭上がガラ空きなのだ。本人はそれを理解しているため、頭上を狙われた時の対策もしているとのこと。

 カメックスも似たようなもので、頭上がガラ空きなのだ。だから狙うなら後はそこしかない。

 

『フン!』

 

 ゲッコウガは影を作って水の衝撃波を受け流しながら、回転するカメックスの頭上へと到達した。そこからは一気に黒い手刀を携えて下降していった。

 

「カメくん、からをやぶる!」

 

 っ!?

 からをやぶるって、まさかここから素早さを上げて躱すってことか?

 

『チィ………!』

 

 と思ったら俺の予想の斜め上をいきやがった。

 カメックスは甲羅の表面を弾き飛ばして、文字通り殻を破ったのだ。その殻は急下降するゲッコウガを弾き飛ばす程の威力。いや『威力』という表現ができてしまう時点で何かおかしい気もするが、要はカメックスが甲羅の脱皮をしたのだ。

 

「はどうだん!」

 

 そして回転を止めたカメックスは素早くゲッコウガを見据え、波導を集めて解き放った。

 

『対策どころか、これを狙ってたってか!』

 

 ここまで来ると絶対誰かの入れ知恵がありそうでならない。コマチ一人ではここまでのバトルを組み立てられるとは到底思えない。トツカかハルノか………それともユキノたちという可能性もある。後で確認する必要があるな。

 

『フン!』

 

 ゲッコウガはカメックスから離れて着地し、追い来るはどうだんを白い手刀ーーつばめがえしで真っ二つにしていた。

 

「カメくん、からにこもる!」

『そろそろ大人しくなれ!』

 

 それにしても今日のゲッコウガは声を張るな。いつもなら静かに、たまに分析する程度なのに。

 

「こうそくスピンでその草も切っちゃえ!」

 

 やはりというか。

 もはやくさむすびではあの回転は止められないようだ。こうなるとあの水の衝撃波も勝敗を喫する程の発想力なのだと認めなければならないな。

 

「てっぺき!」

 

 と、今度は違う仕掛けか?

 からにこもるで防御力は上がっているはずだ。なのに今更てっぺきを使う必要性は皆無と言えよう。ゲッコウガに対しても防御力を上げたところで遠距離からの攻撃には効果がない。それはまた別の技で遠距離系の技に対する防御力を上げなければならないのだ。

 そうなるとやはり何か本来とは違う使い方をするつもりなのだろう。

 

「いくよ、カメくん! ロケットずつき!」

 

 おい、まさかのロケットずつきかよ。

 だが、バカにはできないな。この速さで突撃されるのならば、それは一発の巨大な弾丸と化す。それをまともに受ければ致命傷になることもあるだろう。

 まあ、そんなことはゲッコウガも分かっているようで、無理に迎え撃とうとせずに影を増やして躱していった。

 そして俺のちょっと離れたところにまでやってきたカメックスの背後から、黒いオーラを放ち包み込んでいく。

 あくのはどう。黒いオーラ、もとい黒い波導で攻撃する俺も一時期使えるようになった技だ。まああれはダークライの力によるものだったから、今はもう使えないんだけどな。

 

『フン!』

 

 あ、お前そんな芸当までできるようになったのかよ。

 ゲッコウガは黒い波導を操りカメックスを持ち上げると、コマチの方にまで放り投げたのだ。

 

「わ、わぁ?! カ、カメくん!?」

「ガ、ガメェス……」

 

 カメックスは思いの外、今の一撃が効いたみたいだ。

 あれってそんなに威力あったか?

 

「カメくん、ここからは全力でいくよ!」

 

 ん?

 コマチが何か取り出し………キーストーン?

 さっきクチートをメガシンカさせてたんだから、メガシンカは無理だよな?

 でも全力って言ってるし、カメックスの全力って言ったらメガシンカだろ?

 ん……?

 考えてもよく分からんな。分からんが………マジっぽい。あいつがそんなブラフを張れるようなタイプでもないし。となると考えられるのは二つか。

 どこかで二つ目のキーストーンを手に入れてきたか、あるいは誰かから借りたか。前者ならどこで見つけたって話だし、後者ならトツカ辺りだろう。

 

「メガシンカ!」

 

 白い光に包まれたカメックスはみるみる姿を変えていく。

 

「ゲッコウガ、恐らく今回のバトルは誰かの入れ知恵だと思う。お前も全力出してやってくれ」

『……まあ、誰かはなんとなく予想がつくがな』

 

 ゲッコウガにアレを出すように言うと、足元から水のベールを作り出し、こちらもみるみる姿を変えていった。

 

『第二ラウンドといこうか』

 

 お互いにフルパワー状態になった第二ラウンド。先に仕掛けたのは意外にもゲッコウガだった。メガシンカしてもえの水の衝撃波がくる可能性を考慮してのだろう。

 

「カメくん、はどうだん! 連発!」

 

 カメックスの砲台は背中に一つと両手にそれぞれ一つずつ、計三つの砲台から流れるようにして次々と波導を集めた弾丸を撃ち出してきた。それをゲッコウガは白い手刀で綺麗に真っ二つにしながら突き進んでいく。

 

「ハイドロポンプ!」

 

 今度は切り替えて、より撃ち出し速度の速い水砲撃にしてきた。ゲッコウガもこれは斬るのではなく身を屈めたり捻ることで躱している。だが、そのせいで中々懐へは潜り込めていない。

 

「ゲッコウガ、一旦そのループを壊せ!」

 

 このままだとジリ貧になりそうだったので、一度違う動きをするよう命じた。するとゲッコウガは黒い煙を出してカメックスの視界を奪い、ハイドロポンプの連射が止まった。

 

「カメくん、地面に向けてハイドロポンプ!」

 

 コマチはこの状況を打開しようとカメックスに水の勢いで空に逃げることを提案した。あいつも見えているのだろう。俺のところからもゲッコウガが上昇していったのが。

 

「アクアジェット!」

 

 ゲッコウガよりも急上昇していったカメックスは水を纏い、急下降してくる。

 

『上を取ったからと言って有利とは限らん』

「ガメスッ!?」

 

 ゲッコウガは水のベールを伸ばし、降り注ぐカメックスに巻きつけた。それはもうぐるんぐるんに。一体何をしようとしているんだろうな。

 

『フン』

 

 そしてゲッコウガは背中の手裏剣を取り出し、カメックスとぶつかる寸前に身を翻し、通り過ぎるカメックスの足の方から水でできた手裏剣で叩きつけた。尚も急下降を続けるカメックスはさらに速度を増して落ちていく。

 

「カメくん、からにこもる!」

 

 コマチは何とか甲羅から出ている両手足と首を引っ込ませて、止められない速度による落下のダメージを軽減させるようにしたみたいだ。

 こういう細かいところも随分と成長したような気がするな。前は荒削りなところもあったし今もあるにはあるが、ただ落下させるのでなくダメージのことも考える余裕ができてきている。それが自信となり、突然のことにも落ち着いて対処できているんだろうな。

 感動しすぎてお兄ちゃん泣いちゃいそう。

 

「うっく………!」

 

 なんともまあ強い衝撃だこと。

 そこまでの落下速度になっていたんだな。

 カメックスは地面にクレーターを作って不時着すると、二度三度とバウンドしていき、ユイたち観戦者側の方へと滑っていった。

 

『ここだなッ!』

 

 ゲッコウガは今を攻め時と見て、カメックスの足元から草を伸ばした。そして身体中に巻きつけていく。

 

「カメくん、こうそくスピンで断ち切って!」

 

 本日三度目の戦法。

 コマチの方も対処に慣れてきているようで、一度に切られていく草の量が目に見て分かる程増えていた。

 

『それは囮だ』

 

 だが、慣れてきているのはゲッコウガの方もらしく、草に気を取られていたカメックスの懐に潜り込み、回転する甲羅に蹴りを入れた。下から、上に。けたぐりの応用か?

 

「カメくん?!」

『フング!』

 

 そして今度は蹴り上げたカメックスを水のベールを伸ばして掴み取り、引き寄せたかと思うとぐるんぐるんと激しく振り回した。

 あれはぶんまわすという技を使っているということでいいのだろうか。それにしては激し過ぎないか………?

 

『フウン!』

 

 最後にコマチの方へと投げ飛ばし、自らもそちらに駆け出していく。

 

「カメくん……大丈夫?」

「ガ、ガメス…………」

 

 返事はあるが目を回しているようだ。

 これは詰んだな。

 

『悪いがこれで終わりだ』

 

 そう言ってゲッコウガは再生された背中の手裏剣を再度取り出し、上に掲げた。水の手裏剣は頭上でくるくると回り出し、紅く染め上がっていく。ついには巨大化し、それをカメックス目掛けて投げ放った。

 

「カメくん、まもる!」

 

 辛うじて身を守ることには意識が向けられたカメックスは、ドーム状の防壁を張り身を丸くしている。

 そこに巨大なみずしゅりけんが突き刺さり、爆発を起こした。

 

「カメくん……?!」

「………無理、だろうな」

 

 煙の中から見えてきた黒い影はさっきと同じく丸まっている。

 だが、背中の砲台が一つから二つへと戻っており、皆が結果を想像できてしまうものだった。

 

『フン』

 

 ゲッコウガが再生されたみずしゅりけんで煙を仰ぐと、やはりという結果であった。

 

「カメックス、戦闘不能!」

 

 うん、やっぱりゲッコウガは鬼畜だわ。

 姿を変えるまでは手加減してましたよ感が半端ない。なんかコマチに申し訳なくなってくるわ。

 

「はあ……はあ………、カメくんお疲れさま………。ゆっくり休んでね」

 

 どことなくコマチが疲れている。今のバトルで肩で息をするような場面はなかったと思うんだがな。

 

「コマチさん、大丈夫?」

「だ、大丈夫です……! 思ったより集中してたみたいで息するの忘れてました。えへっ☆」

 

 うん、かわいい。

 だが、やはり心配だ。二体をメガシンカさせZ技も使ってるから、気力の消耗が激しいはず。笑ってごまかしてはいるが、ユキノも気づいているだろう。なんせフルバトル中に二体をメガシンカさせた経験者だしな。

 

「そのキーストーンは二つ目ってことでいいんだよな?」

「うん、そだよ。出どころはあとでね」

「………はあ、なんとなく周りの反応で分かった気もするがな」

 

 ユキノの含みのある言い方、コマチにいろいろと叩き込んだのであろうトツカ、事情を知っていそうなユイとイロハ、そして全てを把握もしくは提案者であろうハルノ。

 ちらほらと伺える表情が全てコマチに向いているのだ。そういや二体目のメガシンカにもほとんどが驚いていなかったな。こりゃサガミたちもグルってことか?

 

「ゴンくん、もう一度お願い!」

 

 再び登場のカビゴン。

 Z技が使い切った今、次は何を見せてくれるのやら。もう策がないってこともあり得るが、このバトルが誰かが描くシナリオ通りだと言うのであれば、まだ何か策を与えているはずだ。

 

『さっさと終わらせてやる』

 

 ゲッコウガが先に仕掛けに行き懐へと飛び込んだ。そしてカビゴンの右足を払い転ばせる。

 けたぐりであの巨体にダメージを与えたようだ。

 

「ゴンくん、眠って!」

 

 だが、コマチもゲッコウガが仕掛けてくると分かっていたのか、初手から回復に努めさせた。これでカビゴンの体力は全快。ほんとのリスタート状態になってしまった。

 

「ゲッコウガ、眠ったからと言って油断するなよ」

『分かってる』

 

 バトル中に眠って回復させるのは割と致命傷に近い。だが、ねごとという技があれば眠っていながらでも習得した様々な技をランダムに使って攻撃できる。カビゴンはすでにねごとを習得しているため、コマチも使ってくるに違いない。

 

「ゴンくん、ねごと!」

 

 そして俺の記憶が正しければ、カビゴンの技は大技に近いものばかりだったはず。ランダムでどれが来ようが当たればダメージが大きく蓄積するだろう。

 

『さすがに堅いな』

「ゴォォン!」

 

 拳を腹に打ち付けたゲッコウガが手応えがないのに嘆いている頭上で、カビゴンが大の字に身体を開いた。

 

『おっと』

 

 上から倒れてくるカビゴンを身を翻して躱し、距離を取っていく。あれはのしかかりだろう。

 

「もう一度ねごと!」

「ゴォォン!」

 

 今度は地面を叩いてゲッコウガの方に岩を突き出してきた。これはストーンエッジだな。

 

『フン!』

 

 ゲッコウガは背中きら手裏剣を取り出して突き出す岩に投げつけた。すると一列に並ぶ岩に全て砕いてしまった。あの手裏剣ってそこまでの威力なんだな。怖っ………。

 

「もう一回だよ!」

 

 目を覚ますまでねごとは続くのだろう。というか一度寝たカビゴンはすぐに起きるのか? ずっと寝てそうなんだが………。

 

『今度は電気か……』

 

 次第にバチバチと身体が鳴り、電気が走っていく。そして地面を蹴り上げたカビゴンがゲッコウガ目掛けて突進してきた。

 

「ワイルドボルトか」

 

 でんきタイプの突撃技。反動で自分もダメージを受けるのだが、みずタイプであるゲッコウガには効果抜群だ。

 

『オレに当たると思うなよ』

 

 まあ、ゲッコウガは足元から草を伸ばしてカビゴンの足に絡ませて転ばせてるんだけどな。くさむすびの本来の使い方はそれはそれで便利なものだ。

 

「ゴンくん!?」

『これで終わりだ!』

 

 ゲッコウガは倒れたカビゴンの背中からゼロ距離で水の究極技を放った。

 そして同時に爆発も起きた。

 

『ぐわっ………?!』

 

 お?

 今なんかゲッコウガの呻き声が聞こえたぞ?

 

『く、ぁ………、あの野郎自爆しやがった…………』

 

 影を増やして何とか切り抜けてきたゲッコウガはボロボロだった。姿は変わっていないため、戦闘不能に至ってはいないようだが、自爆か………。

 

「ゴンくん………!」

 

 煙が晴れたところにはカビゴンが丸焦げで倒れていた。

 

「カビゴン、戦闘不能!」

 

 カビゴンは咄嗟にじばくという技を使って自らを投げ打ったみたいだな。そのおかげでゼロ距離からハイドロカノンを撃って、一気に戦闘不能に追い込もうとしたゲッコウガに大ダメージを与えることに成功したようだ。

 

「ゴンくん、お疲れさま………いつの間にじばくなんて覚えたのさ」

 

 なんだコマチも知らなかったのか。

 まあ、自爆だからな。自分も戦闘不能になる技だから見せる場面もなかったのだろう。

 

「俺も驚いたぞ。いきなり爆発して」

「コマチもだよ。ゴンくん、いつの間に覚えたんだろうね」

『あの時、あいつは目を覚ましていた。だから咄嗟にじばくを使ったのだろう』

 

 へぇ、目を覚ましてたのか。

 

「つまり、以前から習得はしていたということか」

『ああ、使い所がなかったのだろう』

「なるほどな」

 

 コマチのポケモンも随分とバラエティ豊かになってきたな。カビゴンはZ技という最高火力があり、最終的にはじばくで相打ち狙いもできる。カメックスはメガシンカと多彩な技の使い方でいろんな戦い方を習得してきてたし、クチートはメガシンカを手に入れた。オノノクスはドラゴン技に拘らず相手の弱点を突けるようにしてきていた。カマクラはまた新たな課題も見えてきたところだ。

 最後のプテラはどんなバトルを見せてくれるのやら。

 

「コマチ、いよいよ最後なわけだが」

「うん、最後はこの子だよ。いくよ、プテくん!」

 

 さて、俺も交代させるかな。

 

「ゲッコウガ」

『ああ、分かってる。オレもさすがにキツい』

 

 ボロボロだしな。

 ほんとカビゴンの最後のじばくは不意を突かれた気分だわ。

 

「リザードン、ようやく出番だぞ。相手はプテラだ。格の違いを見せてやれ」

「シャア!」

 

 最後のバトルはひこう対ひこう。リザードンにも惜しみなく空を支配してもらおう。

 

『それにしてもこいつ寝過ぎだろ』

「お前ほど丈夫じゃねぇの。寝かせてやれ」

 

 ゲッコウガは後ろに下がって寝ているキルリアを見てそう言った。なのに、その手はキルリアの頭を撫でている。お前も結構キルリアのこと可愛がってるよな。マフォクシーに刺されるぞ。

 

「さて、やるかコマチ」

「うん、いくよお兄ちゃん!」

 

 久しぶりのコマチとのバトル。その間に培ってきたものを最後まで見届けてやろう。

 

「プテくん、いくよ! メガシンカ!」

 

 おいおい、プテラまでメガシンカさせるのかよ。三体目とかトレーナー側は結構しんどいんだぞ?

 

「リザードン、りゅうのまい」

 

 白い光に包まれて姿を変えるプテラに対抗するため、こちらも竜気を生成して纏うことにした。

 

「プテくん、ハイヨーヨー!」

 

 なっ?!

 お前までそれを使えるようにしたっていうのかよ!

 ここまでやられたら誰が仕掛け人なのかは分かってきたわ。

 

「ソニックブーストで追いかけろ」

「シャア!」

 

 急上昇していくプテラを追いかけるため急加速してリザードンを追いかけさせた。先に動かれては同じ飛行術では追いつけない。だから術を変えるしかないのだ。

 

「スイシーダ!」

 

 だが、待ち受けていたかのようにプテラは身を翻し、翼でリザードンを叩き落とした。

 

「リザードン、エアキックターン!」

 

 地面に身体を打ち付ける前に空気を踏みつけて、押し留まらせた。そして踏み切り、再度上昇していく。

 

「トルネードメタルクロー!」

 

 単に追いついただけではダメなようだ。プテラはほとんどの飛行術をマスターしていると見ていい。そうなると生半可な接近では却ってやられるだけだ。

 そして、プテラはいわタイプを併せ持つ。状況次第ではほのおタイプのリザードンには大ダメージを与えることも可能だろう。隙あらばそれを狙ってくるはず。だからこっちも最善を尽くして近づかなければならない。

 

「プテくん、シザーズで躱して!」

 

 ほんと抜かりないな。

 シザーズのジグザグに動く戦法を活かして躱すとか、絶対に奴の発案だろう。

 

「ローヨーヨー!」

 

 そのままプテラは逃げるようにして急下降していった。

 だが、ローヨーヨーなら再度上昇してくる。こちらもそれに合わせて準備をするとしよう。

 

「リザードン、ハイヨーヨー!」

 

 なんとなく誰かさんの掌の上で転がされてそうな展開ではあるが、こうするのが最善なのだから仕方ない。

 

「プテくん、溜めて!」

 

 ほら。

 これ絶対大技使ってくるやつじゃん。

 

「トルネードメタルクローだ! はがねのつばさも使って全身を固めろ!」

 

 急下降に入ったリザードンにそう命令すると、両腕を前に突き出して翼を閉じた。

 プテラの方も急上昇に入り、オレンジ色のオーラを纏っている。

 

「ゴッドバード!」

 

 やはりゴッドバードだったか。

 お互いに距離を取った展開ならば力を溜める時間も稼げるからな。そしてローヨーヨーによる加速が加わるんだ。まともに受ければ大ダメージは免れない。

 

「シャアァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「アァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 二竜の雄叫びが一帯に響いた。

 二竜は激しくぶつかり合い、ついにはリザードンが押し勝った。

 押し負けたプテラはバランスを崩して地面へと真っ逆さまである。

 

「プテくん、立て直して! リザードンを追いかけるよ!」

 

 コマチの一声で何とか目標を見定め、プテラは復帰してきた。

 プテラを押し退けたリザードンは低空飛行で次の指示を待っている。

 

「スモー!」

 

 ッ!?

 おいちょっと待て。

 まさかそれもなのか?!

 

「背面飛行?!」

 

 ほら、観戦側も驚いてるじゃねぇか。

 飛行術にはまだ他にも術がある。その一つがスモー、正式名称をスモール・パッケージ・ホールド。背面飛行で相手の下を飛ぶ高度な技術を要するものだ。リザードンでは身体が重くて実用的ではなかったため使って来なかったが、まさかそれをプテラが習得してくるなんて。こんなところまで知っているのはあいつだけだ。

 やってくれたな、ザイモクザ。

 

「ふひっ」

 

 なんて鼻で笑われたような気がしたが、今は置いておこう。

 あとで覚えてろよ、ザイモクザ。

 

「かみなりのキバ!」

 

 スモーを使う利点は相手の方を向いて飛行するため、攻撃もできるのだ。空を支配しようと思うのなら上を取った者が有利になる傾向があるが、それを覆す術と言ってもいい。そして何より初見では躱すのが難しい。

 かくいう俺たちも相手にしたことはないので、実際目にすると驚いてしまい対応が遅れてしまっていた。

 

「リザードン、取りあえずフレアドライブだ! そのままハイヨーヨーで上昇しろ!」

 

 電気を纏った牙で噛みつかれながら、リザードンは炎を纏い急上昇していく。

 ………それでも落ちないか。

 ならーーー。

 

「トルネードで振り落とせ!」

 

 ただ上昇するだけでは翼を有するプテラにはあまり効果がないようだ。回転も加えないと振り落とすのは難しいのかもしれない。

 

『………意外な伏兵がいたもんだ』

 

 ゲッコウガの言う通りだな。

 ここまでリザードンについてこれたのもオーダイル以来だ。空中戦は中々することはないし、あったとしてもついてこられないケースがほとんどだったからな。正直面白い。こんな身近にこんな逸材がいたんだからな。嬉しいったらないな。

 

「プテくん、いわなだれ!」

 

 プテラを振り落としたリザードンはプテラに追撃を入れるために反転し、急下降を始めた。その上空からは岩々が出現し落下してくる。

 

「リザードン、躱せ!」

「シャア!」

 

 俺が今言えるのはそれくらいだ。後はリザードンがこれまで培ってきた経験から躱してもらうしかない。

 

「プテくん、こうそくいどう! 力も溜めて!」

 

 プテラはリザードンに向かって急加速し出した。ソニックブーストよりも速いこうそくいどう。というかリザードンが使えないからソニックブーストで補っていると言ってもいい。

 

「トルネードメタルクロー! 翼も併せろ!」

 

 さっきと同じように二度目の衝突が起きた。

 だが、さっきよりも速く押しが強くなったプテラが全く引かない。

 

「ブラスターロール!」

「アァァァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 と、プテラがいきなり身を翻した。

 ブラスターロールは本来上を取られた時に身を翻して逆に上を取る戦法だ。それをこんなところで使ってくるとは。

 おかげでリザードンは急に押し返す力がなくなり前のめりにバランスを崩してしまった。

 

「プテくん、かみなりのキバ!」

 

 そうなるとコマチと好機と判断し、仕掛けてくるのは分かっている。

 だから俺も焦らず冷静に指示した。

 

「狙われているのは尻尾だ。叩き落せ、カウンター!」

 

 リザードンはプテラに噛みつかれた瞬間に尻尾を大きく振り、プテラを地面に叩きつけた。その力でリザードンはバランスを取り戻し、悠々と俺のところにまで戻ってきた。

 

「プテくん、大丈夫!?」

「アァ、ァァァアアアアアアッ!」

 

 カウンターでもまだ耐えるのか。

 なら、一発デカいのをこっちも叩き込むしかないな。

 

「よぉし、それならつめとぎ!」

 

 あっちも何か仕掛けてくるつもりだな。

 

「リザードン、一発デカいの叩き込んでやれ。ブラストバーン!」

「プテくん、ギガインパクト!」

 

 再高威力の技のぶつかり合い。

 リザードンは地面を叩き炎を打ち出し、プテラはその中へと突撃していく。

 俺の読みではプテラが切り抜けてくるだろう。あっちはいわタイプであり、ほのおタイプの技は半減される。さらにあっちはギガインパクトにかかる能力上昇を行っているのだ。素早さも上がっている今、押し切るだけの力を持っているはずだ。

 だが、それでいい。究極技は目眩しみたいなものだ。俺の真の目的はプテラをリザードンに引き寄せることにある。リザードンが近づくのではなく、あっちから近づいてくる方がこれは衝撃がデカいだろう。

 

「いっけぇぇえええええええええっっ!!」

 

 どうやらコマチもこのまま押し切ってリザードンを勢いで倒そうと考えているらしい。

 ならば、見せてやろう。真の飛行術というものを。

 

「グリーンスリーブス・雷」

 

 読み通り獄炎の中を切り抜けてきたプテラに電気を纏った拳で打ち上げた。

 そしてリザードンはプテラを追いかけ何度も何度も拳を叩きこんで上昇していく。

 

「ペンタグラムフォース・雷」

 

 ついには上空に達したところで五芒星を描きながらプテラをかみなりパンチの檻に封じ込めた。

 恐らくこれだけ拳を叩きこまれれば麻痺もしているだろう。動こうにも動けない。動けたとしても切り抜けられない。地獄とも呼べる五芒星の檻の中で戦闘不能になるのだが最後。

 

「スイシーダ」

 

 トドメとばかりに最後にプテラを地面に叩き落とした。

 

「プテくん!?」

 

 以前にも見せている術だ。今更驚かれることはない。

 だが、言葉を失うのとはまた違う。いつ見ても惨い戦法と言えよう。

 

「シャア………!」

 

 リザードンにはいい刺激になっただろう。

 ここまでリザードンについて来られたひこうタイプはいない。新しい伏兵に感謝するべきだな。

 

「プテラ、戦闘不能! よって勝者、ハチマン!」

 

 ユキノが判定を下して、フルバトルは俺の勝ちとなった。

 

「お疲れさん」

「シャア」

「プテくん、お疲れさま………」

 

 コマチは今の気持ちをどう言葉にしていいのやらという表情で、プテラをボールへと戻した。

 

「あ、え、お、およよ………!」

 

 と、急にコマチの力が抜けていきバランスを崩した。

 

「コマチ!?」

「コマチちゃん!」

 

 咄嗟に駆け付けたトツカによってコマチは支えられ、何とか身体を地面に打ち付けることはなかった。

 

「あっははは………、やっぱりキツいですね。メガシンカ三体に加えてZ技を使うのは…………」

「でも、最後までやれていたよ」

「そう、ですね。これも全部トツカさんたちのおかげですよ」

「何言ってるの。コマチちゃんの努力がなかったらここまでやれなかったんだよ。僕たちはより強い力のコントロールに付き合ってただけだよ」

 

 今回の件に絡んでいた一人目はトツカか。

 バトルも終わったことだし、そろそろ目的を聞くとしよう。

 

「あー………トツカ? これはお前たちの計らいなのか?」

「うん、まあそうなる………かな。コマチちゃんがハチマンとバトルしたいけど、今のままじゃダメだって言うからさ」

「そうか………、なんか悪いな。俺の妹なのに色々面倒見させちまって」

「全然気にしてないよ。むしろ僕たちの方が色んな発想をもらってるから。それに、以前決めたでしょ? 僕とザイモクザ君でコマチちゃんのバトルを見るって。コマチちゃんは僕たちの弟子だからね。いつでも見るよ」

「………ありがとな、トツカ」

 

 取りあえず、コマチが言い出したってことでいいんだな。

 さて、次は………。

 

「ザイモクザ」

「ひゃ、ひゃい!」

 

 うわ、キモい………。

 声が裏返るとか親近感枠からやめてくれ。

 

「今回のコマチのバトル。全てお前がプロデュースしたな?」

「な、ま、そ、そうとも言えなくもないのである、かな………」

「はっきりしろよ」

「怒らぬのか?」

「何を怒るって言うんだ」

 

 こいつ、ずっと俺に怒られると思ってたのか?

 そんなことはないってのに。

 

「そもそも俺はお前の本当の実力を知ってるんだぞ。だからこそ、お前にも任せたんだから怒ることはないだろ」

「しかしな………。飛行術はさすがにやりすぎかと思うのだ」

「別にいいだろ。実際モノにはできていたんだ。しかもスモーまで使ってくるとか大したもんだ」

「うむ、そこに関しては我も同意である」

 

 やりすぎとは言うが結果的に面白いものが見れたのだ。感謝こそすれ怒るようなことはない。

 

「それで、どうして俺とフルバトルしようと思ったんだ?」

 

 コマチに向き直し、今回の主役に聞いてみた。

 

「言わなきゃ、ダメ?」

「そりゃあな。一応親父と母ちゃんに任された身でもあるんでな。それに、お前がこうしてみんなを呼んで俺とバトルしてる時点でいつものコマチじゃない。…………何を悩んでるんだ?」

 

 かわいく言われてもここは譲られない。

 どうせ、聞いてほしいからこんなことをしたんだろうし。

 

「………コマチだけ先に進めてないから」

「はっ? 先?」

「イロハさんは四天王の人たちに鍛えてもらってるし、ユイさんはジムトレーナーとして活躍してるんだよ! なのに、コマチはリーグ戦から何も成長できてないの!」

 

 …………そう、か。

 お前も自分が成長できていないように思えてしまったんだな。

 

「くくくっ」

「何がおかしいのさ!」

「いや、やっぱ俺たちは兄妹だなって。形はどうあれ同じような壁にぶつかってさ」

「お兄ちゃんがコマチと同じような壁………?」

 

 なんだよ、その怪しいものを見る目は。

 俺だって悩んだ時期もあるっつの。ただ、ダークライの力の代償で記憶が曖昧になってたりするから話すこともなかったけども。何なら恥ずかしい黒歴史を誰かに話すことになるんだから、話したくもないが。

 

「あのな、俺だって壁の一つや二つぶつかってるっつの。何なら毎日が壁で時には落とし穴にまでハマってるぞ」

「あ、それは想像できるかも…………」

「あー、友達ができないとか」

「まあ、悩んだことはあるな。だが、思い返せば俺の最初の友達はユイだし、逆に俺が側にいることが迷惑になってるんじゃないかって悩んだくらいだな」

「………それも思い出してくれてるんだね」

 

 俺の言葉にじーんとしているユイに、横にいたイロハが白い目で俺を見てきた。

 

「あのー、今はコマチちゃんの話なのではー?」

「うぐ………、まあ今の俺からじゃ想像できないかもしれないが、俺もハルノを倒して成り行きでチャンピオンになったはいいが、燃え尽き症候群ってやつに陥ってな。チャンピオンなんて最高峰の肩書きを手に入れちまった手前、上を目指すって目標がなくなっちまったんだ。そんな時にグリーンに負けてサカキに上ってのを教え込まれて、チャンピオンなんていらないじゃんと思って断りに行ったら帰りにシャドーに拉致られて。シャドーにいた頃も多分やろうと思えばいつでも抜け出せたとは思うんだ。ただ何かと理由をつけてまだその時じゃないって言い聞かせてずるずると過ごしててな。抜け出そうと思ったのだってユキノがふらふら侵入してきたのがきっかけだ。それから色々踏ん切りをつけて脱走したらサカキに拾われて、ユキノを人質にされたとはいえ、奴から俺が動く理由をもらったんだ。それでようやくトレーナーとして再起動したわけだが、それまでに八ヶ月くらいはかかってるんだよ」

 

 いやほんと。

 思い返せば何やってたんだろうな、昔の俺は。

 いっそダークライに記憶を持って行ってもらうべきだったかも。

 

「…………スケールが違いすぎる」

「ちょいちょいサカキがいるもんね」

 

 それは言うな。

 何ならそれよりも前からサカキは出てくるんだから。

 あのおじさん、ちょいちょいいるから怖いのよ。

 

「………コマチもね、みんなが成長してるのに自分だけが取り残されたような感じだったの。だからトツカさんたちにお願いして鍛えてもらって、ユキノさんやハルノさんにも協力してもらってメガシンカの修行もしたよ」

「それでキーストーンを借りてってか。無茶しやがって」

「無茶でも何でもやってみたかったの。自分がどこまでやれるのか………」

 

 その気持ちは分からんでもない。

 俺がバトル山に引き籠った時と同じような感じだろう。

 

「それで、答えは出たのか?」

「うん、やっぱりね、コマチは旅に出ようと思います!」

「ん、え、は?」

 

 え、コマチが旅………?

 

「うわー、先輩めちゃくちゃ動揺してますね………」

 

 うるさいよ、そこ。

 

「旅ってどこに………」

「ガラル地方!」

 

 ガラル地方……?

 

「ガラル地方……はカロスから近いか」

 

 確かカロスの北にあったんじゃなかったっけ?

 

「………旅か。まあ、悪くない選択ではあるよな」

「なにか問題でもあるの?」

 

 問題、というかうーん………。

 

「一人で行くのか?」

「そのつもりだけど?」

 

 うーん………。

 女の子が一人で旅か………。

 それに、俺の妹だからなー………。

 

「ダメ……?」

「行くことに関しては別に問題じゃない。仕事もコマチには運搬系を手伝ってもらってただけだしな。ただ………」

「一人で行くことに問題があると」

「ああ」

 

 俺が言い淀んでいると、ユキノが助け船を出してきた。

 

「女の子が一人でってところにも引っかかるが、そこは世の一人旅の女子たちを敵に回しそうだからスルーするとしても、コマチは俺の妹だからなー」

「お兄ちゃんの妹だと何か問題あるの?」

「………コマチさん、この機会に頭に刻んでおくことね。あなたはあのサカキとさえやり合えるハチマンの妹なのよ。今はまだ世に出てこないだけで、ハチマンを狙う者は少なからずいるわ。そしてそういう輩こそ、正々堂々と戦うのではなく卑怯な手段を取ることが多いの。その一つがハチマンの大事なものに危害を及ぼすことよ」

 

 ああ、ユキノさんや。全てを言っちゃうのね。本人を前にそれを言われると気恥ずかしいからやめてほしいんだけど。だからこそ、コマチには察してほしかったんだけどなー。やっぱり無理だったなー。

 

「そしてそこで一番に狙われるのは実の妹であるコマチさんなのよ。今まではハチマンの手の届く範囲にいたからこそ、ハチマンがあらゆる伝手を使って守っていた。だけど、旅に出てしまえば話は別。ハチマンの手の届かないところに行くことになって、守れるものも守れなくなるの。だからハチマンはあなたのガラル行きを渋ってるのよ」

 

 恥ずかしい、恥ずかしいよぉ!

 穴があったら入りたい………。

 

「まったく~、ハチマンはドのつくシスコンですな~」

「……ハルノ、後で覚えてろよ」

 

 いつの間にか俺の傍に来ていたハルノが、耳元でそう呟いた。

 この女、自分のことを棚に上げて………。

 俺も知ってるんだからな。アンタが妹を守るために動いていたのを。

 

「………まあ、その………そういうわけだ。だから一人で行かすのが忍びないんだよ」

「だったらさ、僕がいくよ」

「トツカ……?」

「トツカさん?」

 

 急に手を挙げたかと思うとトツカがそう言ってきた。

 

「ほら、コマチちゃんの次に暇なのってこの中じゃ僕でしょ? それに僕はコマチちゃんの師匠でもあるんだし、今の実力も知ってる。一人で行かせられないなら、僕も一緒に行くよ。それならいいでしょ?」

「べ、別にトツカがそこまでする必要は………」

「あるよ。コマチちゃんを一人で行かせたくないって思うのは僕も一緒だもん」

「トツカ………」

 

 トツカ……、お前はそこまでしてコマチに旅をさせたいんだな。今までコマチをトレーナーとして育ててきたお前が………。

 

「分かった、トツカと一緒ってことならガラル行きを許可する」

「お兄ちゃん、トツカさん………!」

「ありがとう、ハチマン」

「いや、礼を言うのは俺の方だ。散々世話になってる妹のわがままに付き合わせてしまうんだ。トツカ、コマチのことをよろしく頼む」

「うん、任されました!」

 

 くそう、これが女の子であればどんだけよかったか。なんでトツカは男なんだよ。キラキラしすぎだろ。

 

「というわけだから、コマチちゃん。よろしくね?」

「はい、よろしくお願いします!」

 

 こうしてコマチのガラル地方行きが決まった。

 …………あ、トツカも行くってことは俺の癒しはどこに?

 




行間

ヒキガヤハチマン 持ち物:キーストーン 菱形の黒いクリスタル etc………
・リザードン(ヒトカゲ→リザード→リザードン) ♂ 
 特性:もうか
 覚えてる技:かえんほうしゃ、メタルクロー、かみつく、おにび、えんまく、はがねのつばさ、かみなりパンチ、ドラゴンクロー、シャドークロー、つばめがえし、りゅうのまい、かみくだく、カウンター、じしん、フレアドライブ、ブラストバーン、げきりん、じわれ、だいもんじ、ソーラービーム、リフレクター、はらだいこ
 飛行術
 ・ハイヨーヨー:上昇から下降
 ・ローヨーヨー:下降から上昇
 ・トルネード:高速回転
 ・エアキックターン:空中でターン
 ・スイシーダ:地面に叩きつける
 ・シザーズ:左右に移動して撹乱
 ・ソニックブースト:ゼロからトップに急加速
 ・コブラ:急停止・急加速
 ・ブラスターロール:翻って背後を取る
 ・グリーンスリーブス:連続で攻撃して空中に釣り上げる
 ・デルタフォース:空中で大きな三角形を描くように連続攻撃
 ・ペンタグラムフォース:空中で五芒星を描くように連続攻撃
 ・バードゲージ:スピードを活かして相手の動きをコントロールしていく
 ・スモール・パッケージ・ホールド:背面飛行で相手の下を飛行する

・ゲッコウガ(ケロマツ→ゲコガシラ→ゲッコウガ) ♂
 特性:きずなへんげ(へんげんじざい→きずなへんげ)
 覚えてる技:みずのはどう、あなをほる、かげぶんしん、れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる、かげうち、みずしゅりけん、どろぼう、つじぎり、ハイドロカノン、めざめるパワー(炎)、とんぼがえり、とびはねる、ほごしょく、けたぐり、ぶんまわす、あくのはどう、どろあそび

・ジュカイン(キモリ→ジュプトル→ジュカイン) ♂
 持ち物:ジュカインナイト
 特性:しんりょく←→ひらいしん
 覚えてる技:でんこうせっか、リーフストーム、リーフブレード、ドラゴンクロー、タネマシンガン、ギガドレイン、かみなりパンチ、スピードスター、くさむすび、ソーラービーム、エナジーボール、シザークロス、くさのちかい、マジカルリーフ、タネばくだん、こうそくいどう、つめとぎ、いやなおと、こうごうせい、くさぶえ、やどりぎのタネ、グラスフィールド、なやみのタネ、ハードプラント、つばめがえし、ものまね、みがわり

・ヘルガー ♂
 持ち物:ヘルガナイト
 特性:もらいび←→サンパワー
 覚えてる技:かみつく、ほのおのキバ、ふいうち、おにび、かえんほうしゃ、かみくだく、れんごく、ほえる、はかいこうせん、アイアンテール、あくのはどう、みちづれ、だいもんじ、ハイパーボイス、ヘドロばくだん、ちょうはつ

・ボスゴドラ ♂
 持ち物:ボスゴドラナイト
 特性:がんじょう
 覚えてる技:ロックブラスト、あなをほる、なげつける、メタルクロー、アイアンヘッド、アイアンテール、てっぺき、メタルバースト、ボディパージ、ヘビーボンバー、ロックカット、ほのおのパンチ、もろはのずつき、ラスターカノン、ドラゴンダイブ、でんじふゆう

・キルリア(ラルトス→キルリア) ♀
 特性:シンクロ
 覚えてる技:リフレクター、ねんりき、まもる、テレポート、マジカルリーフ、シャドーボール、マジカルシャイン、トリックルーム


ゲッコウガ
・ニダンギル(ヒトツキ→ニダンギル)
 特性:ノーガード
 覚えてる技:ラスターカノン、せいなるつるぎ、つばめがえし、かげうち、つじぎり、シャドークロー、きんぞくおん

・キリキザン
 特性:まけんき
 覚えてる技:つじぎり、くろいまなざし、ロックカット

・アギルダー
 特性:うるおいボディ
 覚えてる技:スピードスター、むしのさざめき、ギガドレイン、みずしゅりけん、こうそくいどう、かげぶんしん、こころのめ、はたきおとす、バトンタッチ

・ダンバル(色違い)


ヒキガヤコマチ 持ち物:キーストーン、カビゴンZ
・ニャオニクス ♂ カマクラ/カーくん
 特性:するどいめ
 覚えてる技:サイコキネシス、ひかりのかべ、リフレクター、でんげきは、てだすけ、なりきり、ふいうち、サイコショック、あなをほる、じゅうりょく、にほんばれ、はかいこうせん、ねこだまし、あくのはどう、でんじは

・カメックス(ゼニガメ→カメール→カメックス) ♂ カメくん
 持ち物:カメックスナイト
 特性:げきりゅう←→メガランチャー
 覚えてる技:みずのはどう、はどうだん、りゅうのはどう、こうそくスピン、からにこもる、ロケットずつき、ハイドロポンプ、ふぶき、ミラーコート、ドラゴンテール、ハイドロカノン、れいとうビーム、アクアジェット、からをやぶる、てっぺき、まもる

・カビゴン ♂ ゴンくん
 特性:めんえき
 覚えてる技:メガトンパンチ、のしかかり、じしん、いわくだき、ほのおのパンチ、しねんのずつき、ギガインパクト、かみなりパンチ、ふきとばし、いびき、ねごと、ねむる、ストーンエッジ、じわれ、サイコキネシス、ばくれつパンチ、ヒートスタンプ、ワイルドボルト、じばく

・プテラ ♂ プテくん
 持ち物:プテラナイト
 特性:プレッシャー←→かたいツメ
 覚えてる技:はかいこうせん、ストーンエッジ、はがねのつばさ、つばさでうつ、ちょうおんぱ、ものまね、ドラゴンクロー、ゴッドバード、ギガインパクト、こうそくいどう、ほのおのキバ、かみなりのキバ、いわなだれ、つめとぎ

・オノノクス(キバゴ→オノンド→オノノクス) ♂ キーくん
 特性:とうそうしん
 覚えてる技:りゅうのいかり、げきりん、けたぐり、あなをほる、ちょうはつ、まもる、きあいだま、アクアテール、じならし、りゅうせいぐん、いわなだれ、きしかいせい、りゅうのまい

・クチート ♀ クーちゃん
 持ち物:クチートナイト
 特性:いかく←→ちからづく
 覚えてる技:ものまね、メタルバースト、じゃれつく、バトンタッチ、ほのおのキバ、いちゃもん、あまごい、ふいうち、だいもんじ、にほんばれ、つるぎのまい

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