ポケモントレーナー ハチマン 〜ぼーなすとらっく集〜   作:八橋夏目

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有識者会議のラストです。


ぼーなすとらっく27『有識者会議 その9』

 ……………。

 空気が重い。

 

「先輩、これどうなるんですか………?」

 

 こしょこしょと俺に耳打ちしてくるイロハ。この空気に耐えられなくなったのだろう。

 まあ、それもそのはず、クチバジム内ではバトルフィールドに机と椅子を用意されて四方にグループ分けして座っている状況だ。北にサカキとその後ろにマチスとナツメ、対面する南に俺とイロハ、東にダイゴさんと図鑑所有者たち、そして西にリラと名乗る女性とハンダさん。博士たちが蚊帳の外になるという何とも異様な光景だ。

 つか、いつの間にいたんだよ、あのエスパー姉さん。いやもう姉さんって歳でもないか。

 

「………このままでは埒が明きませんね」

 

 おおう、すげぇなあの人。メンタル強すぎだろ。

 

「改めて、わたしは国際警察のリラ。ウルトラビーストの対応を管轄しています。アローラ地方でウルトラビーストを巡る騒動があった後、世界各地でもウルトラホールの発生を確認しており、その調査中にクチバシティでウルトラホールの顕出を確認されたため、わたしも駆けつけた次第です」

 

 やはり彼女の名もリラか。

 だが、あのリラとは口調もまるで違うし背丈も違う。時が経って成長したとも考えられるが、それにしても変わりすぎだ。面影があるのはその容姿と髪色だけである。

 

「ここにいるハンサムと現場検証を行った結果、ジムの外れにウルトラホール発生装置と思われる機械を発見しました。恐らく、それが今回ウルトラビーストを呼び寄せるきっかけになったと考えられます」

 

 ハンダさんは何か知っているのだろうか。

 世界を飛び回っていた人だ。情報はたくさんあるはず。その中で何も引っかかるものはなかったのだろうか。

 

「次にその犯人についてですが、まだ意識が回復しないようですので、取り調べは後ほど致します」

「おい、貴様はいつから国際警察に鞍替えした。バトルフロンティアのブレーンだったと記憶してるんだが?」

 

 あ、ついにサカキが口を開いた。相変わらず圧がすごい。だがナイスだ。この強引さなら逆に答えてくれるはず。

 

「………仰る意味がよく分かりませんが?」

 

 惚けているのか?

 いや、そうは見えないな。

 なら同姓同名の人違いか?

 いや、それも考えにくい。だって、彼女はライコウを連れていたのだ。伝説のポケモンに認められる程の実力が彼女にはあるという証である。

 

「ホウエン地方バトルフロンティア。そこにあるバトルタワーという施設のトップ、タワータイクーンが君だったんだよ」

 

 なら、何だ。何が足りない。

 あのダイゴさんも戸惑っているのが伺える。それ程までに彼女は違和感の塊である。

 

「………申し訳ありませんが、わたしには記憶がありませんので」

「リラ殿は十年前、わたしともう一人の同僚が保護した重要参考人なのだ。ウルトラホールを介して突如と現れた彼女はそれ以前の記憶が全くと言っていいほどない」

 

 ッ?!

 ウルトラホールを介して突如現れた………?

 どういう意味だ?

 まさかウルトラホールの先にも人間が住んでいるというのか?

 いや、待てよ。俺みたいにウルトラホールを行き来できれば話は変わってくる。もしそっちの仮説が正しければ、ライコウを連れているというのも辻褄は合う。

 ならば、確認してみるしかないな。可能性は低いが覚えていれば決定的だ。

 

「リラさん、ライコウを連れてましたよね? あいつはいつからあなたの元に?」

「ライコウですか? 最初からいました」

 

 これはいけそうだな。

 

「なら、ちょっと出してもらえませんか?」

「え?」

「ライコウと話がしたい」

「え、ええ、分かりました」

 

 そう言って、リラさんはボールからライコウを出した。

 

「…………」

「…………」

 

 じっとライコウを見つめるとライコウも俺のことをじっと見つめ返してきた。目は鋭く、当時の威厳をそのままという感じだ。

 

「コゥ………」

 

 そっと手を伸ばすとあちらも一歩前へと足を進めた。それが引き金となり、俺とライコウの距離は撫でられるまでに縮まっていった。

 

「どうやら覚えていてくれたみたいだな」

「コゥ」

 

 頰を撫でると小さく頭を下げてきたので、頭も撫でろということだろう。俺は頭も撫で、フサフサの毛並みを味わってみた。

 

「えっと、どういうことか説明してもらえるかしら? そもそもライコウはそう易々と誰かに気を許すようなポケモンではないわ」

「それが一度バトルした相手だとしてもですか? それもエンテイとスイクンをこの手でボールに収めたという経歴持ちの」

「ッ?!」

 

 リラさんもそれだけ言えばライコウが気を許すのも理解できたのだろう。逆に俺が何者かってところに訝しんでいる目をしている。

 

「あなたは、一体…………」

「カロスポケモン協会理事ヒキガヤハチマン。この会議の最高責任者とでも思ってくれて結構です」

 

 俺もここに来て初めて知ったけどね。それだけポケモン協会の理事というのは大きな存在らしい。俺もあの人もそういう雰囲気がないため全く思わなかったが、周りからしてみればやはり最高の権力者という認識に違いない。

 

「ククイ博士、それは本当なのでしょうか?」

 

 だからこそ、俺の歳で最高権力者になっていることに疑念を抱くのは当然だ。リラさんが顔見知りであるというククイ博士に問いかけるのも妥当だろう。

 

「ええ、間違いなく彼がこの場の最高責任者ですよ。意外ですか?」

「いえ、しかしそれならば何故そのような人物がウツロイドに呑まれていたのですか? シーンは少ないですが、あなたのバトルセンスは一級品です。まずそう易々とウツロイドに呑まれるとは考えにくい」

「………あいつ、俺のポケモンなんで。一応、多分、恐らく………ボールには入ってますし」

 

 言うことも一応聞いてくれてはいたみたいだし、俺のポケモンってことでいいんだよね? 脳内に直接使える技を送り込んできたくらいだから、俺のポケモンと認めていいんだよね?

 というか本当に何故ボールに入ってしまったんだろうか。

 

「ちなみに捕まえたボールは?」

「普通のハイパーボールですよ?」

「………あり得ない! ウツロイド含めウルトラビーストは普通のボールでは上手く捕獲ができないがために、ウルトラボールが開発されたというのに!」

 

 うわ、めっちゃ食い気味でくるな。

 というか俺的にはそのウルトラボールとやらの方が気になるんですが?

 いつの間にそんなの開発にされてたんだよ。いや、そもそもウルトラビーストについてあまり公表されていないのだから、俺が知る由もなかったのかもしれないが。

 

「いや、ウツロイドが勝手に入っただけなんで。俺だって未知の生物が勝手にボールに入ってしまって、今日まで一度もボールから出さなかったくらいですよ?」

「は? ウツロイドの方から? あなた一体…………本当に何者?」

「フン、聞いていればくだらない。そいつは貴様らの常識から外れた存在だ。貴様らの感覚で語れるはずがなかろう」

 

 あーあ、とうとう魔王様がお怒りになっちゃったよ。よく今まで傍観する側に回れていたものだ。

 

「くだらないとは、あなたこそ非常識です!」

「悪党に非常識もクソもあるか」

「なら、ハチマン。お前の口から聞こうか。オレは今のやり取りで確信した。お前、元ロケット団かあるいはそれに近いところにいるな?」

 

 グリーン、アンタのその洞察力と推理力はさすがだわ。

 

「…………はあ、まあ間違ってはいないな」

「ッ!?」

「俺のリザードンは改造ポケモン、俺は改造人間、そして今の俺たちを生み出したのがそこのおっさんたちだ」

 

 グリーンの言葉を肯定したら見事に驚愕の表情を露わにしやがった。ほぼ全員が。逆に動じなかったのがダイゴさんやシロナさんというね。肝っ玉ありすぎ。

 

「おいおい、一言でまとめすぎだろ」

「ハッ、別に詳細を語るメリットもねぇだろ。無駄に話が長くなるだけだ」

 

 マチスはもっと言葉を選べと暗に言ってくるが知ったこっちゃない。

 

「俺もリザードンも被害者で、お前らが加害者。それだけだろ」

 

 俺がそう言い切ると今度はマチスたちに視線が集まっていった。

 

「………随分と口が達者になったな」

「そりゃ、これだけ問題事に巻き込まれていれば嫌でも身につくっつの」

「ほう、ならそろそろ計画を最終段階へと移しても問題ないようだな」

「今度は何を企んでんだよ」

 

 この鋭い視線。

 会えば何かしら企んでいるこの男は本当に危険だ。毎度俺の平穏を掻き乱しやがる。

 

「お前に限った話で言えば、今度という話ではない。あの日から継続していることだ」

 

 あの日………、つまりはサカキに外堀を埋められ選択肢を一つに縛られた最悪の日。あの日を境に俺はあっち側に足を踏み入れてしまったのだ。

 

「………『レッドプラン』か」

「頓挫した『プロジェクトM's』もだ」

「はあ…………俺はあの時のことを今でも許したつもりもないし、復讐してやろうとすら思っている。だが、死にたくないし話だけは聞いてやる」

「では簡潔に言おう。まず『プロジェクトM's』の前身『レジェンドポケモンシフト計画』の部分であるが、不完全とはいえ成功とみなしていいだろう。それを踏まえた上での『プロジェクトM's』であるが、この計画自体の方向性を修正する。最終目標を現段階のミュウツーとし、そこに至れるまでの道筋を『レッドプラン』で補うことにする」

「現段階のミュウツー? つまりあれか? 戦闘中のメガストーンの交換か?」

「ふむ、なるほど。今の奴はそこまでできるようになっているのか。となるとお前でも可能だな」

 

 チッ、情報を引き出すための誘導かよ。当然知っているものだとばかり思っていたが。すんません、カツラさん。ミュウツーのことをサカキに知られてしまいました。

 

「はっ? 何をだよ。まさか戦闘中のメガストーンの交換とか言わないだろうな」

「そのまさかだ。お前たちは謂わば第二のカツラとミュウツーだ。忘れたわけではあるまい。お前たちの体内にはそれぞれの血液と体細胞があることを」

「ああ、そういうこと。暴君様と同様のことを可能とした上でその上をいけと」

 

 第二のということは暴君様たちと同じではやる意味がないということでもある。それを超えてこそ実験の成功と言えるのだろう。バカバカしい。

 

「悪いがあれはもうこりごりだ。俺にもリザードンにも負担が大きすぎる。ゲッコウガが半分肩代わりしたところでまだ足りない。今回はウツロイドの毒で麻痺させられたことで何とかなっているが、それも今回だけだ。次は本当に死の危険性だってある」

 

 俺はあくまでもこの無慈悲な力をコントロールして二度と暴走しないようにしたいだけだっつのに。リザードンが苦しまずにすむのなら今すぐ力を棄てたっていいくらいだ。

 

「それをアンタは無理を承知でやれと?」

「だが、前回も今回も色々な要素を取り込んで成功している。次は完全な進化を遂げる可能性だって否定はできない」

 

 言葉は言い様だ。そんなもの被験者じゃないやつの言葉の受け取りようでしかない。

 

「前回と今回を比較すれば、ウツロイドがいたかいないかの違いだけだ。奴の毒を予め注入し取り込めば成功の可能性は飛躍するだろう。しかし、それにはお前の身体が保たないのも確かだ。そこをクリアすればこの計画は終了する。故に最終段階と評した」

 

 言いたいことは分かっている。だが、そんな力を覚醒させてしまえば、俺もリザードンも普通ではいられない。今でもギリギリだというのに、これ以上の力を手に入れてしまえば今の生活とはおさらばだ。それはイロハやユキノたちともおさらばしなければならないということでもあり、やっと掴めた俺の大事なもんを捨て去る必要がある。

 そんなのはごめんだ。俺は普通でいたいんだ。普通に生活して、普通に仕事して、普通に生きる。リザードンと出会ってからというもの、お互いに普通とはかけ離れた生活を強いられてきたのだ。もうそろそろ引退したっていいくらいだろうが。

 

「………それじゃ、ユキノ先輩はどうなるんですか?!」

 

 っ?!

 イロハ!?

 

「あの人は先輩と同じような存在になったってはるさん先輩が言ってましたよ!?」

 

 ああ、お前はきっちり話を聞いていたんだな。ちゃんと理解して情報を整理している。だからこそ、計画の首謀者間の話でもついてこれていた。そして気づいてしまったのだ。このまま計画の方向性を修正し目標を再設定してしまえば、ハルノが施したユキノの対ヒキガヤハチマンの力の意味がなくなると。それでは何のためにユキノが犠牲になっているのかと。

 

「はっ? おい、ハチマン。それはどういうことだ!」

「言葉通りの意味だ。ユキノはある意味俺の対極に位置する存在になってしまっている。実際にあいつに触れられたら暴走が緩和した」

「…………何故あの娘である必要がある。他にも対極に位置するような何かがあると見るのが妥当か? ならば、こいつの対極となれるものは一体…………!? あるな、ダークライ。ハチマンにダークライがついた以上、そこには何か意味がある。それがこれと関係があるとすれば…………いや、無理矢理関連づければあり得ない話でもないか」

 

 ダークライやクレセリアの話は俺からはしていない。にもかかわらずこの男はどこからか情報を得ている。しかも少ない情報で的確に推理するその頭脳と眼はストーカー以上に厄介で恐ろしい存在だ。まさに超人。

 ダークサイドの超人とか誰得なんだっつの。マジでただの魔王じゃねぇか。

 

「レ、レッドさん、ぼくもう無理です………話が難しすぎてついていけません…………ねむいです」

「イ、イエロー!? だ、大丈夫か?! オレもさっぱり分かんねぇけど、気をしっかり持つんだ!」

「ふぁぁぁ………」

 

 うわ、なんかコントが始まったんだけど。まさかもう集中力が切れたのか?

 まあ、あり得なくもない。知りもしない者からすれば、こんなふざけた話つまらないだろう。しかも情報がなければ整理のしようもないという何とも無駄な話だ。眠くなるのも当然と言えよう。

 

「お前ら、いてもいなくても変わらんのだから外で待機してろ」

「お、おう、なんかごめん…………。イエロー、いくぞ」

「ふぁ、ふぁい、レッドしゃん………」

「ふぁぁぁ、んじゃクリス、オレも抜けるわ」

「あ、ちょ、ゴールド! ………もう!」

「放っておけ。あいつはバカだ。バカがこの状況に耐えられるわけがないだろう」

 

 残った図鑑所有者は頭のキレるやつらだけか。

 

「中々いいタイミングだね、彼らは。サカキ殿、あなた方の思惑が彼に起因しているのは重々分かりました。しかし、今はそのこと以上に整理しなければならないことがある。ここは口を閉ざしていただきたい」

 

 いいタイミング。まあ、確かにいいタイミングかもな。やらなければいけないのは俺たちの計画の話じゃない。今回襲撃してきた者たちの情報交換の方だ。それと対策。

 

「ホウエン地方の元チャンピオンか。いいだろう。こちらも整理が終わったところだ」

「ありがとうございます。では、まずは今回襲撃してきた者たちについて。ハチマン君、何か知っていることがあれば教えてくれないかな?」

 

 デボン社の御曹司ということもあって、こういう状況にも慣れてしまってるのかね。あの人、あのままサカキから主導権を奪っちまったよ。さすがダイゴさんだわ。

 

「正直タマナワとかいう奴らのことは何も知らないに近いが、一つ微かな記憶にあるのは、ロケット団の残党狩りの時にチームタマナワとかいうのがいたような気がします。確か途中でやられて病院送りになったとか」

「なるほど………。それじゃ君たちが彼らに対する反応よりも過敏に反応していたカラマネロについては?」

「多分、あっちの育て屋を襲撃してきたカラマネロのどれかだと」

「襲撃?」

「ええ、カラマネロ三体が野生のポケモンや育て屋のポケモンを操って、それこそ今回みたく大勢を率いてましたね」

「………つまり、狙いはあくまでも君だったというわけか」

「どうでしょうね。俺が狙われているのはカモフラージュかもしれないし、もっとヤバいことを企んでいそうな予感もします。なんせリザードンでもゲッコウガでもジュカインでも歯が立たない相手ですからね。相当ヤバい奴らかと」

 

 まあ狙われているのは事実ではあるな。だがやはり、相手の意図が読めない現状、俺が狙われているのですら何かの伏線なのかもと思えてならない。なんせ相手はうちのポケモンたちが歯が立たない奴らだ。そんな奴らが単調に攻めてきているだけとも限らないだろう。

 

「目的もまだはっきりしてないんだね。そうなるととても厄介だ。相手の意図が読めなければ対処が後手に回ってしまう」

 

 一体首謀者は誰なのだろうか。まさか対面に陣取るこの男とか?

 いや、それはないな。サカキならもっと俺に対するアプローチが大きい。これを乗り越えられないようなら価値もないというかのように、やる事なす事全てが大規模だからな。

 となるとやはり気になるのはあの二人組か。

 

「あるいは、ですけど………裏でシャムとカーツが絡んでいるやもしれません」

「シャムとカーツだと?!」

「カロスに初めてウツロイドが現れた時、その場に居合わせた二人組がそんな名前で呼び合っていた。しかも俺の顔を見るなり青ざめた辺り、裏の奴らという可能性が高い」

 

 ロケット団はかつて仮面の男事件で残党をいいように使われたからな。その時にシャムとカーツが率いている部隊もあったのだ。そりゃ周知しているわけか。

 

「…………は?」

 

 と、いきなり俺の中で何かが弾けるような感じがした。とても嫌な感じの、まるで今にも呑み込まれていきそうな。

 そして、徐々に痛みという感覚が回復してきたような気がす、る………?

 

「ぐっ!」

「せ、先輩?!」

 

 な、んだ…………くっ!?

 息が、くる……しい…………。

 まさか、これが……………くそが!

 横にいたイロハが驚いて俺の身体を触っているような気もするが、そっちに反応すらしてやれねぇ………。

 

「くそ、もう毒が切れてきた、のかよ…………」

「毒? 毒ってどういうことですか!? 先輩!?」

「フッ、そういうことか。この場で話せていたのも毒により感覚が麻痺していたがために出来ていた所行というわけだ。それが毒が切れたせいで今まで感じていなかった痛みが一気に押し寄せているのだろう」

「てことは………マチスさん、急いでベットの用意を!」

「ああ、それなら空きがあるぜ。そんないいもんではないがな」

 

 ぐあっ?!

 頭痛がヤバい。胸も苦しい。やはり一時凌ぎでしかなかったんだな。

 くそ、ったれ…………。

 

「これ程までに強力な毒とは。ウルトラビーストか………調べる価値はありそうだな。何としてでも………!」

 

 もう、ダメだ……………目の前は真っ暗で、何も見えない。意識もあるのかないのか………………。これで計画が段階的に成功とか、絶対に認めない………から、な……………。

 

「絶対にお前たちを死なせはしない………」

 

 サカキ………ーーー。

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ………、ここは………?

 

「あ、おはようございます、先輩。と言っても夜中ですけどね」

「………イロハか」

「なんですかー、その反応はー。甲斐甲斐しくお世話をしてあげたのは私だっていうのにー」

 

 いや、そう言われても………。

 目は覚めても頭が覚醒してないからね?

 何ならここどこよ。

 

「………ずっと目覚めないかと思ったんですから」

 

 そう言うと、突然イロハが左手をぎゅっと握ってきた。

 

「ーーーすまん」

 

 なんか思い出してきたわ。

 有識者会議だってことでクチバに帰ってきて、図鑑所有者たちとバトルした後にカラマネロの襲撃にあったんだっけ?

 

「ーーーっ!?」

「ど、どうしました、先輩っ?!」

 

 そうだ………!

 俺、あいつを守れなかったんだ………!

 あいつがブルーさんを助けるために飛び込んでいくのを振り返り様に見届けることしか出来なかったんだ!

 

「俺、ジュカインを守れなかった………」

「ーーっ!? そんなの私だって! ………私だって悔しいし、泣きたいくらいですよ」

 

 そうか、そうだよな。

 イロハだってジュカインのものまねの練習に付き合ってくれてたり、そうでなくとも俺のポケモンたちとは普通に交流があったんだ。見知ったポケモンがいなくなるのはトレーナーじゃないイロハだって辛いよな。

 

「………なあ、あの後どうなったんだ?」

「先輩が倒れた後、すぐにここへ運び込みました。会議の方はダイゴさんたちが襲撃者たちを取り調べるという形で終わっています。サカキはあの後すぐに出て行きましたけど」

 

 そう、か………。

 

「ククイ博士とバーネット博士によると帰ったウルトラビーストたちが再び来ることもないみたいですし、先輩が倒した野生のポケモンたちは図鑑所有者の方たちが監視しています」

 

 あれからウルトラビーストの再来の予兆はないのか。そりゃよかった。あんなのが何度も来たんじゃ街も俺たちも疲弊するだけだ。今回限りで終わってほしいものだな。

 

「色々言いたいことはありますが、ひとまず目を覚ましてくれてよかったです。ちゃんと帰ってきてくれてありがとうございます、先輩」

「………すまん」

 

 多分、ユキノたちには報告してるんだろうな。帰ったら女性陣からのお小言が待っているのだろう。

 

「それで先輩、あのリラって人は本当に何者なんですか?」

「………ダイゴさんが言ってただろうけど、リラさんはホウエン地方にあるバトルフロンティアのバトルタワーのブレーン、タワータイクーンだったんだ。俺はあの人にも挑んで勝利した。そしてその勝利を以って全てのフロンティアブレーンを倒したことになったんだ」

「それってつまり………」

「バトルフロンティアを全制覇したんだよ。ただその時にオーナーのエニシダさんから新たなフロンティアブレーンとして誘われたんだ」

「っ!? じゃ、じゃあ先輩は!」

「断ったよ。すぐにな」

「なっ………先輩、やっぱりそこでも先輩でしたか」

「人はそんな変わらねぇよ。何ならその時期が一番ヤバいからね?」

「えー………」

 

 俺の黒歴史ど真ん中と言ってもいいような時期だぞ?

 あまり思い出したくもない時期だわ。

 

「それでな、断られてはこちらとしても義理が立たないみたいな反応されて、リラさんが俺に呪いをかけたんだよ。それなら貸し一つだってな」

「それって呪いなんですか?」

「ああ、それは言葉を裏返せば四天王やチャンピオン並みのトレーナーをいつでも召喚できるってことだったんだ。窮地に直面した際にこれ程嫌な選択肢はない。だってそうだろ? ブレーンたちに連絡すればいつでも飛んでくるんだぞ? 縋りたくなってしまった時点で俺の負け決定だ。その程度のことを自力で切り抜けられないなら、その時は助かったとしても次はない。次がなくなれば行き先のない俺をフロンティアブレーンとして迎え入れる。それがあの人たちの筋書きだったんだよ」

「………今の方が大変じゃないですか?」

「言うなよ………。まあでも、今ならその選択肢を行使するのも悪くないかなっては思ってる。俺がいく先々で事件に事件が重なって来るんだ。カロスにだってずっとはいられないんじゃないかと最近は思うんだよ」

 

 今日のことで確信した。

 やはり俺は表に立つべき人間ではない。かと言って裏で生きれるような悪党にもなりきれない。半端なグレーゾーンが俺のいい立ち位置なんじゃないかと思えてきている。

 だったら、表にも出ない、しかし表ともつながっている。そんな俺たちの空間を作った方が面倒事もいくらかは回避できるんじゃないだろうか。

 

「………私たちとはいられないってことですか?」

「ちげぇよ。お前らを連れて行くんだよ。エニシダさんの話じゃ、俺に新たな施設を用意してくれるみたいだし、俺がやりたい施設の構想もあるんだ」

「それって………!」

「ああ、いつか近いうちに俺たちだけの空間を作るのもいいかなって思っている」

「それには私たちも必要だと?」

「ああ、カロスは俺にとって第二の故郷みたいな存在になっちまったからな。捨て去るのも惜しい」

「先輩はいつも先を見据えていますね。そういうとこ、ほんとすごいと思います」

 

 先を見据えている、か。

 確かに昔から厄介事に巻き込まれることが多かったからな。そうせざるを得ないってのもあるし、単に習慣付いているのかもしれない。あるいは、この手の温もりとか。

 

「………なあ、ジュカインは生きてると思うか?」

「正直分かりません。でも私は生きてるって信じてます」

「そうか…………お前の手、あったかいな」

「っ?!」

 

 話題が終わってしまうとやはり後悔だけが取り残されていく。あの時、ジュカインを助けられなかったのは俺の力不足だ。トレーナーとして自分のポケモンを守れないんじゃトレーナー失格と言えよう。

 そう考えてしまったら、イロハに握られている手だけが熱を残していた。

 一人だった頃は感じられなかった熱だろう。昔はそれでいいと思っていたし、逆にいない方が楽だった。だけど、今はもう各々に絆されてしまっている。誰かに何かが起きれば心は騒つくし、足は動いてしまう。それが増えれば増えるほど、俺の弱点そのものが立って歩いているようなものになっていく。ただ、今の俺はそれに嫌悪感を募ることはない。

 なんてことはない。ただ俺が弱くなってしまっただけだ。人が増え、ポケモンが増え。守るために強くなろうとして、守るものが多くなって逆に弱くなっていく。元来、人という生き物はそういうものなのかもしれない。

 だが、それが俺自身本当に一緒にいたいと思える相手ならば、苦にも思わないし心も満たされていくのだろう。そしてそれは今だということでもある。

 

「………先輩はずっとずっとがんばってました。スクールの時だって卒業してからだってカロスに来てからだって。捻くれてるけど、ポケモンやみんなにも慕われて。ピンチの時は頼もしいし、やりたくないはずの仕事をしてる時もかっこいいです。ボロボロになったカロスをここまで回復させたのも先輩がいたからこそです。なのに、なんで………なんで先輩ばかりこんなひどい目に遭わなきゃいけないんですかっ…………!」

「イ、ロハ………」

 

 イロハの感情爆発は止まらない。

 一度栓が抜けてしまえば、封をすることが難しい……まるで缶詰のようだ。開けるのは難しいがその分、開いた時には溜まっていたものが一気に飛び出していく。

 

「我慢して、感情を押し殺して、記憶まで失くして、終いにはジュカインまで失って………。先輩が何したっていうんですかっ!」

 

 俺が何をしたか、か………。

 何もしてない、こともないのかもしれない。リザードンーーヒトカゲを拾ったところが最初の分岐点となり、サカキに目をつけられ奴らの計画に加担したところで第二の分岐点が発生。そこからは下へ下へと落ちぶれていき、シャドーとも関わってしまった。結局俺は悪党に近い小悪党擬きといったところだ。だから狙われるのも仕方ないのかもしれない。それが運命と言われたらそれまでだろうし、だからこそ俺はその運命とやらを断ち切ろうと抗ってきている。

 

「もう、嫌です………先輩ばかりつらい思いをしなきゃならないのはもううんざりです」

 

 だが、抗えなかった。

 これまでもギリギリのところでどうにか凌げていただけに過ぎず、俺の力だけではどうにもならなかった。

 俺は、こんなにも弱い。イロハたちという守るべきものが増えたからというわけじゃない。いくらポケモンバトルが強くなろうとも大きな力には抗う術を持っていないのだ。故に呑み込まれてしまう。その結果がジュカインの死亡だ。

 あいつはようやくものまねを物にしてきて攻撃の幅が格段に上がり、ゲッコウガたちにも並ぼうとしていた。その矢先にこれだ。トレーナーである俺の責任は非常に高いだろう。

 ………あんな最期を迎えてあいつは果たして生きているのだろうか。生きていてほしいと願っているが、絶対に無理だという俺もいる。そんなんではダメなのは分かっちゃいるが、そう簡単に気持ちを切り替えることができない。それだけ激しくショックを受けている証だろう。

 

「今だけは全部吐き出してください。私が全部受け止めますから。先輩は一人でいたって感情を剥き出しにはしないんですから、今くらいは全部私に吐き出してください。………私にできることなんてこんなことしか、ありませんし」

 

 っ………!

 

「………ほんっと、お前ずるいんだよ」

「先輩にだけは言われたくないですよ」

 

 ああ、まずい。

 これは非常にまずい。

 イロハの感情爆発は誘発もしてくる恐ろしいものだった。あんなのを聞かされたらこっちだって出るもん出てくるっての。もう、止まらないぞ。

 

「俺だってな、好きでこんな狙われるような生活してるわけじゃないんだよ。最初から歯車が狂っていたとしても何でここまでやられなきゃいけないんだよ。好きなやつと好きなことして、時には苦しくて大変だろうけど、それでも壁を乗り越えて。そういう生活を送りたいってのに、なんでいつもいつも俺ばかり、俺の周りばかりが傷つかなきゃならねぇんだよ。おかしいだろっ! 限度ってもんがあるだろうがっ! そりゃ大事なもん守るためなら俺にできることは何でもやるさ! でもそれは頭と心と身体が全部あってこそだろ! ………もう無理なんだよ。何かある度に心がざわついて吐き気がする。息も苦しいし、頭も痛い。でも周りは期待ばかりが膨らんでいく。今日だってそうだ。カラマネロたちが現れた瞬間に全員が俺の方を向いた。どうするんだと。どうにかしてくれと。お前ならできるだろと」

「………先輩にはそう見えたんですね。私もあの視線はなんか怖かったですよ。全身がビクってなりました」

 

 ほんともううんざりだ。俺はただただ平穏に暮らしたいだけだと言うのに。

 それならいっそーーー。

 

「………もう、何もないところでお前らと暮らしたい」

「ーーーっ!!」

 

 心の叫びを一度出してしまった俺は、疲れて眠ってしまうまでイロハに抱き寄せられていた………。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 翌日。

 一日安静にしていろという全博士による命令を受け、部屋に一人ぼっちと化している。

 ただすることもないので、思いついたなら即行動というわけでもないが、話を進めてみるのもいいかもしれないと思いある人へと電話をかけてみた。

 

「あー、もしもし? エニシダさんですか?」

「お? おお? その、声はハチマン君かい?」

「ええ、お久しぶりです」

 

 よかった。

 取り敢えず繋がったか。

 

「いやー、ほんと久しぶりだねー。何年ぶりかな」

「三年四年ぶりですかね。その節はどうも」

「いやいや、ボクの方こそ。それで今日は急にどうしたんだい?」

「実は今カントー地方にいまして。各地方の博士たちを集めた会議に参加したんですけど」

「………リラのことかい?」

「あ、知ってたんですね」

「昨日、ダイゴ君から連絡があったからね」

「さすが元チャンピオン。仕事が早いな」

 

 なら、俺からリラさんについて話すようなことはないか。それならさっさと本題に入るとしよう。

 

「それで? 君もリラがいたという報告かい?」

「いや、それもあったんですけど。以前、俺がフロンティア制覇した時に褒美として新しいブレーンにしたいとか言ってたじゃないですか」

「ああ、言ったね。覚えてるよ」

「ちなみにそれって、今も有効なんですか?」

「ん? もしかしてもしかしなくてもブレーンになってくれるのかい?」

「ええまあ。今すぐにとはいきませんがね」

「ほー。まあそうだよね。今じゃ君は有名人。今のポストを急に離れるなんてことはできないもんね」

「………俺も今離れるわけにはいかないと思ってるんですけど、いずれ離れざるを得ないかなとも思ってるんですよ。目立ちすぎたが故に新たな火種になりかねない」

「そうだね。君は目立ちすぎた。善とも悪とも取れないグレーな位置にいた君がこれだけ注目を浴びてしまえば、君を狙った事件が起こる可能性は高いだろうね」

 

 いや、ほんと知りすぎてて怖いわ。この人は一体どこまで知っているのだろうか。ある意味この人もグレーゾーンじゃないかと思えてくる。でもこの人は上手い生き方をしてるんだよな………。

 

「だから、俺の世界というか空間というか………フィールドが欲しいんですよ」

「何のためにだい?」

「護るため、ですかね」

「ん? ついに君にも護るべき存在ができたのかい?」

 

 何その超意外みたいな声。人を何だと思ってるんだよ。あ、ぼっちか。違いないけど、それでもユキノとか、あまりカウントしたくはないがザイモクザなんてのもいたからね?

 

「ついにって………。まあ、昔の俺からしたらそうなりますけども。そうですね。カロスに来てから色々なことがあって色々なやつに再会して、いつの間にか失いたくないな思ってしまったんです」

「そっか、そっかそっか。分かったよ。その感じだとフロンティアの構想もあるんじゃないかい?」

「………どこまでお見通しなんですか。場所はカロス北西沖に浮かぶ人工島。船以外では侵入不可。そこに存在するのは最大十六人のブレーン。その全てにポケモンバトルで勝利すればフロンティア制覇となる。こんな感じです」

 

 これくらいのシステムにすれば、イロハやユキノたちともずっといられる。あいつらを必要とする場所があり、俺がトップのフィールドが出来上がることで、問題が起きても少ない被害で対処もできるだろう。

 

「十六人のブレーンか。それは各ブレーンによってルールを変えたりするのかい? 例えばバトルタワーのように四十八人のトレーナーを倒した後にブレーンが登場し、そこで勝利すればバトルタワー制覇みたいな」

「いえ、トレーナーはブレーンだけです。ただし、全員が四天王、チャンピオン級、あるいはそれ以上。ただそれだけです」

「なるほど。要はブレーンだけを集めたバトルタワーみたいな感じだね」

「そう、ですね。確かにそんな感じになりそうですね。一応ブレーンにも階級みたいなのをつけようと思ってて。ただその階級に騙されると痛い目に遭う、とか」

「くくく、そのいやらしさは正しく君だね。いいよ、細かいことは後日詰めていこう。まだまだ時間はある。資金繰りもこれからなんだし、もっとよくなるようお互い情報交換していこうじゃないか」

「すみません、突然ながら。よろしくお願いします」

 

 まさかの快諾か。

 あの人、ほんとすごいわ。俺はひっそりとやろうとしてるのに、それでももうけの見込みでも立ててしまったのだろう。逆にあちらがどういう提案してきてくれるのか。それはそれで楽しみな部分があるな。

 

「失礼しまーす。先輩、誰と話してたんですか?」

 

 と、電話を切り終えたところでイロハが部屋に入ってきた。まるでタイミングを図っていたかのようだ。

 

「ん? ああ、仕事の話だ。ちょっと思いついたことがあったから、構想だけ聞いてもらってたんだ」

「へぇ、今度は何をやる気ですか」

「そりゃまだ秘密だな。ただ、イロハたちにも協力してもらうことにはなるがな」

「私たちもですか。四天王になっちゃったら手伝えないかもしれないですよ?」

「んー、まあそこは大丈夫なんじゃないかと思ってる。四天王は基本暇だし。副業でレストランを経営してる人もいるくらいだしな」

「あー、それもそうですね」

 

 今さらっと言っちゃってるけど、こいつもう四天王なるの確定みたいに言っちゃってないか?

 いやまあ、それくらいの意気の方がこちらとしても有り難いが。

 

「分かりました。先輩がどうしてもというのなら、このイッシキイロハ。お手伝いしますよ」

「ありがとよ。それまでもっと強いトレーナーになっててくれ」

「……?」

「俺のフロンティアにイロハたちが必要だからな」

 

 そうだ、俺にはイロハたちの力が必要なんだ。一人でできることはできても、世の中それだけでは回っていない。一人ではどうしようもないことだってある。だから俺はみんなといたい。普通にいられないのなら普通にいられる場所を作ればいい。俺はそこを守れるようにするし、そのためにもみんなには強くなってほしい。

 守れなかったのはジュカインだけでいい。もう懲りた。

 そもそも俺には荷が重すぎたのだ。カロスポケモン協会理事なんて権力のトップに立ったのが間違いだったんだ。ユキノたちとのこれからの人生のためにも周りから認められないといけないと思い込んでしまったのが、破滅への一歩だったのだろう。

 やはり俺は大々的に表に立つような人間ではない。鍛えられはしたが今でも緊張するし、無関係のところからも狙われ続ける。そこまでしての見返りはジュカインの損失とかマジで割りに合わない。それに俺がいなくなったと仮定して協会がどうなるかと言えば、恐らく他の代替者を擁立することになるだろう。一度復活させた組織をそう簡単に失わせまいとするはずだ。なら、俺たちは結局使い捨ての駒でしかない。

 それならば、いずれ近いうちに俺たちはあの組織の中枢から離れるべきだ。使い倒される前に抜け出さなければ、俺たちが保たない。

 かと言ってカロスを離れるわけにもいかないだろう。俺たちが退いた後の権力者が権力にものを言わせて独裁的になられては困る。そうならないためにもチャンピオンや四天王、ジムリーダーなんかが監視することも視野に入れるべきか。そして俺も本土にはいなくても監視していられる場所ーー海の上で情報を仕入れている必要があるだろうな。俺が唯一カロスに残せたであろう最強の称号を以って。

 ああでも。俺のフロンティアは大々的な宣伝をするべきではないな。ひっそりと実力者が集まり口コミ程度で広まっていく。差し詰め幻のフロンティアと言ったところか。いっそのこと船のように移動できるようにするのもいいかもしれない。さすがに空は飛べないだろうが、エニシダさんならやり兼ねないのが怖いところか。

 まあでも、楽しそうではあるな。そういう表に立たないやり方も。何なら俺が好みとするところだ。

 だからまあ、さっさと帰ってこいよジュカイン。俺はお前が生きていると信じている。帰ってこられないなら俺の方から迎えに行ってやる。こっちにはウツロイドなんていうウルトラビーストがいるんだ。いや、絶対に迎えに行ってやる。それが俺がお前にしてやれるせめてもの償いだからな。

 待ってろよ、ジュカイン。


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